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魔王討伐の褒美に王座を要求した勇者の話  作者: 小鳥遊ゆう


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11/12

11 勇者、初めて戦う


王都を出て五日。


馬車の揺れに体を任せながら、勇者は旅の終わりが近づいていることを感じていた。予定では、あと二日で辺境の村だ。王都の喧騒は遠い過去の出来事のようで、今はただ、村の素朴な風景と、少女の笑顔を思い浮かべるばかりだった。


勇者は、旅の間、他の乗客たちに積極的に語りかけた。彼らが、魔族や勇者についてどう考えているのか、それを知りたかったからだ。


「魔族や勇者について、教えてください」


勇者がそう尋ねると、馬車の乗客たちは、皆、少し驚いたような顔をした。王都から辺境の村へ商いに行くという若い商人が、勇者の顔をまじまじと見て、口を開いた。


「辺境の村の村長さん……ですよね?  いつも辺境の村へ足を運んでいる商人です。まさか、こんなところでお会いするとは……」


商人は、驚きながらも、勇者の問いに答えた。


「魔族ですか……。人を襲う化け物だと、それが一般の認識でしょう。ですが、私は、実際に見たことはありません」


すると、次の村で降りる予定だという年老いた旅人が、顔を歪めて言った。


「わしは、若い頃、魔族に故郷を焼かれた。あれは、本当に恐ろしいものだった」


老人の言葉に、乗客たちは皆、息をのんだ。勇者は、静かにその話に耳を傾けた。


「魔族は、言葉が通じない化け物だ。人間を憎み、ただ破壊することしか知らない」


他の乗客たちも、口々に魔族の恐ろしさを語り始めた。


「魔王軍が攻めてくるって、本当なんですか?」


「大丈夫、勇者様が現れて何とかしてくれる……」


勇者は、彼らの言葉を聞くたびに、心の中で辺境の村を思い浮かべた。そこには、言葉を交わし、共に笑い、同じ食卓を囲んだ魔族の少女がいた。彼女は、王都の人々が語るような、邪悪な存在ではなかった。


(この人たちにとって、『魔族』とは、ただの『敵』なんだ。彼らのことを知る機会も、必要もなかった……)


そんな矢先、馬車が激しい音を立てて急停車した。御者の「襲撃だ!」という叫び声が聞こえる。何かが、馬車にぶつかったようだ。


「きゃああああ!」


女性の悲鳴が聞こえ、馬車の戸が開いた。数体の魔物が馬車を取り囲んでいた。大きな狼のような魔物たちは、鋭い牙と爪を持ち、赤い目を光らせている。


「魔物だ! 逃げろ!」


乗客たちがパニックに陥り、馬車の外へと飛び出していく。しかし、魔物は彼らの逃げ道を塞ぐように立ち塞がった。


「くっそ! 仕方ない……!」


御者は剣を抜き、魔物へと向かっていく。しかし、魔物は素早い動きで御者をかわし、御者の喉元を狙って飛びかかった。


その光景に、勇者は違和感を覚えた。


(あの魔物たち……人間を襲うのか?)


勇者の村にも、魔物は存在した。しかし、彼らは人間を襲うことはなく、ただ、森の奥で静かに暮らしていた。村の人々が魔物の存在を恐れていなかったのは、彼らが人を襲わないことを知っていたからだ。しかし、目の前の魔物は、明らかに人間を標的にしている。


(どうしてだ……?)


勇者は、思考を巡らせる。しかし、今は考えるよりも、行動する方が先だった。


「みんな、落ち着いて!」


勇者は馬車から飛び出すと、背負ったリュックからフライ返しを静かに取り出した。御者や乗客が、勇者の姿を見て驚きの声を上げる。


「何だ、その道具は! 武器じゃないじゃないか!」


御者が叫ぶ。その声に、フードの男が呆れたようにため息をついた。


「おいおい……正気か?」


フードの男の言葉にも、勇者は気づかない。彼は、フライ返しを構え、魔物へと向かっていく。


「こいっ!」


勇者はフライ返しを振りかざし、魔物の顔面を叩いた。しかし、バシッ! と大きな音がしただけだった。魔物は怒りのまなざしを勇者へ向ける。勇者の攻撃は毛一本ほどのダメージすら、魔物に与えていない。


「えっ? うそ……!」


勇者が戸惑っている間に、魔物は勇者の顔面をめがけて飛びかかり、鋭い爪を振り下ろした。


「あ、やばい!」


勇者が目をぎゅっとつぶり、覚悟を決めたその瞬間、勇者の目の前に、赤い目をしたフードの男が立ちはだかった。男は、魔物の爪を片手剣で受け止めると、静かに言った。


「あんたは、料理人なんだろう?  料理人は、フライ返しで魔物を倒すものじゃない」


男の瞳が、赤く光る。彼は、魔物を一刀両断にすると、魔物はバタリと倒れ、動かなくなった。彼は、魔物たちの中に飛び込み、まるで風のように動き、魔物の息の根を止めていった。


「ぐああああああ!」


魔物は苦悶の声を上げ、その姿を減らしていく。その光景に、勇者はただただ、呆然としていた。


全ての魔物が消え去ると、あたりには静寂が戻った。乗客たちは、フードの男の姿を信じられないような表情で見つめていた。


「おい、あんた……一体何者だ!?」


御者が震える声で、フードの男に尋ねた。


「俺は、ただの料理人です。ただ、俺の道具じゃ、魔物を料理できなかったみたいで……」


勇者が、ボソリと答えた。


「「「いや、あんたじゃない! 」」」


御者と数人の乗客が、声を揃えてツッコんだ。恐怖と緊張で強張っていた馬車の乗客たちの表情が、少し、おだやかになった。


フードの男が、静かに勇者のほうを向くと、笑った。


「面白いな、お前」


フライ返しを大切そうにリュックにしまう勇者を見て、男は呟いた。




その日の夜、勇者は焚き火を囲みながら、昼間の襲撃で怯える乗客たちに渾身の料理を振る舞っていた。温かいスープと、スパイスを効かせた肉料理の香りが、森の中に広がる。人々は、勇者の作った料理を口にすると、安堵と癒しの表情を浮かべた。


そんな中、勇者は、焚き火の反対側に座っている、フードの男に目を留めた。王都の酒場で出会った、騎士と口論をしていた、あの男だ。彼は誰とも言葉を交わさず、静かにスープを啜っていた。


勇者は自分の分を少しだけ残すと、小皿に料理をよそい、男の隣へと近づいた。


「よかったら、これもどうぞ。少し、故郷の味を加えてみました」


勇者は男に、小皿を差し出した。男は一瞬だけ警戒の視線を勇者に向けたが、やがて無言で小皿を受け取った。


男が料理を口にすると、その赤く光る瞳が、大きく見開かれた。その表情は、酒場でポテトチップスを食べた時と同じだった。


「旨いな。それに手が込んでいる。どこの名店(レストラン)で修行した?」


男が尋ねた。


勇者は、静かに笑みを浮かべた。


「ただの創作料理ですよ。どこかの名店の料理とか、そんな高尚なものではありません」


男は、その言葉に、わずかに警戒を解いた。


「……優しい料理を作る。俺の知る『勇者』は、もっと……」


男は、それ以上は何も言わず、黙々と料理を食べ続けた。その言葉に、勇者は確信を得た。この男は、魔族だ。


勇者は、男の警戒心を解くため、自分のことを語り始めた。故郷の村で、魔族の少女と出会ったこと。彼女に恋心を抱いていること。そして、彼女のために、やれることをやりたいこと。


勇者の言葉に、男は次第に心を動かされていく。


「あんたの故郷の村に、魔族の少女がいたのか……。それは、珍しい。だが、その少女を、あんたは、本当に……?」


男は、疑わしそうに勇者の言葉を遮った。勇者は、それに何も答えず、ただ静かに頷いた。




夜が更け、人々が眠りについた後も、勇者と男は、焚き火を囲んで語り合った。男は、魔族と人間の間に横たわる、深い溝について語った。


「あんたの故郷の村は、もうすぐだ。だが、気をつけろ。あんたの前に、過去の勇者たちが残した負の遺産が立ちふさがるはずだ。」


男は、そう言うと、馬車に戻っていった。勇者は、その言葉の意味を理解しようと、静かに思考を巡らせた。




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