私と婚約者のデートに、婚約者の幼馴染みがついて来ます。最初はやめて欲しいと思っていたのですが…(番外編:婚約者視点)
「私と婚約者のデートに、婚約者の幼馴染みがついて来ます。最初はやめて欲しいと思っていたのですが…」の番外編、婚約者のレオナルド視点です。
まだ本編を読んでいない方は先に読んでくださった方が分かりやすいと思います。
※本文の下にある広告の下に、本編へのリンクがあります。宜しければどうぞ!
番外編:幼馴染み視点も出来ました。
修正しました、内容に変更はありません、(2025.6/3)
僕の伯爵令息のレオナルド。昨日、僕はずっと恋焦がれていたアイネという伯爵令嬢と婚約者になった。数年前のあるパーティーで彼女に一目惚れをして以来、彼女の事だけを考えていた。中々話す機会がなかったけれど、彼女に近しいと思われる人物から彼女の情報を入手していた。断られても諦めないつもりで、彼女との婚約を申し出た結果、僕の両親もアイネの両親も反対せず、アイネも承諾してくれた。
アイネはとても美しく、そして上品な笑顔が素敵だ。けれど、その笑顔は誰に対しても浮かべる笑みであり、僕にだけ見せる特別なものではなかった…。婚約者になれたことで僕は欲深くなってしまったみたいで、段々と不満が溜まってきた。僕はこんなにもアイネの事が好きなのだから、アイネにも同じように僕を想って欲しい…。
「私が協力してあげるわ、レオ!」
幼馴染みの伯爵令嬢、ミリオーレ(僕は『ミオ』と呼んでいる)に相談すると、ミオは僕を励ますように応援すると言ってくれた。ミオは僕とアイネのデートに同行し、アイネに嫉妬して貰えば僕をもっと好きになる筈だと提案した。ミオは昔から僕の良き相談相手で頼りになる存在であった。そんなミオが言うなら間違いないし、アイネに愛されたい僕はその提案を承諾したのだった―――。
◇◆◇
「もう、レオは何時もそうなんだから!」
「はははっ、ミオには敵わないよ。」
現在、僕とアイネとミオの三人は庶民も利用する事があるレストランで食事をしている。アイネは僕の正面の向かい側居て、ミオは僕の隣に座っている。
ミオの作戦を始めてから随分時間が経過した。そして、その作戦は上手くいっていた。アイネは可愛らしく嫉妬してくれて、ミオを連れて来ないで欲しいと言ってきた。初めてアイネにそう言われた時、もう作戦は成功したと僕は思ったのだが、
「まだたったの一回言われただけでしょう? それじゃあ嫉妬したとは言えないわ。もっともっと嫉妬させた方がレオの事を好きになるわよ!」
ミオにそう言われたので作戦を続ける事にした。
「あはは、もしかして嫉妬してるのかい? ミオとは昔から仲が良いだけだから気にしないでね。」
「僕には婚約者のアイネが居るのに他の女性と二人きりなんてなる訳ないよ。それに、ミオはアイネと仲良くなりたいと思っているんだ。アイネも居てくれなきゃ意味がないよ。」
アイネが嫉妬する度に、僕はそう言って誤魔化した。その時のアイネの顔は落ち込んでいるように見えて、可哀想だと思いながらも嬉しかった。アイネ、そんなに嫉妬しなくても僕が愛しているのは君なんだよ? 何も心配しないで良いんだ。
「レオ、これ美味しいわよ! 食べさせてあげる!!」
ミオが僕に肉を挿したフォークを差し出してきた。…ミオの意図する事は理解出来たが、流石にそれはやり過ぎなのではないかと思った。向かい側にいるアイネの方を向くと、視線が交わった。
あぁ、もっと、もっとアイネに僕を見て欲しい…。
「ありがとう、頂くよ。」
そう思った僕は、差し出されたフォークに齧り付いた。こんなやり取りは今まで誰ともした事がなかったから、慣れていなくて少し緊張してしまう。
「…うん、確かに美味しいね!!」
「ね、そうでしょう!!」
口元が汚れているのではないかと心配になった僕は、ナプキンで口元を拭った。
「…ミリオーレさん。少しいいですか?」
アイネの声に、驚いてしまった。今まで三人一緒に居て、アイネから話しかけてきた事は無かった。ましてや、ミオに声をかけた所を見た事なんて無かった。
「今、私を見て笑いましたよね? どういうつもりですか。」
「へっ?」
アイネの言葉に、ミオは固まった。
「ど、どういうつもりって……ただ楽しくて笑っていただけですよ!」
「“楽しい”? どんな風に楽しければあのような笑顔になるのですか?」
「え、ちょっと、アイネ!? どうしたんだい?」
「ミリオーレさんは、このような笑顔をしていたのですよ?」
アイネは嫌な雰囲気を感じさせるような、ニヤリッとしたような笑顔を作ったのだ。アイネの上品な笑顔しか知らなかった僕は、そんな笑顔をする…いや、作るアイネに唖然とした。そして、“ミオがアイネを笑った”というのは一体どういう事なのだろうか…?
「はっ、ちょ、ちょっとやめて下さい! そ、そんな顔してません!! アイネの勘違いです。」
「そ、そうだよアイネ。ミオがそんな…嫌な笑顔をする筈がないよ。」
ミオは必死で否定していたので、僕はアイネに誤解だと伝えた。
「レオナルドには言った事がありますがミリオーレさん。もう私とレオナルドのデート中に来ないで下さい。今のやり取りは流石に度が過ぎてます。私が彼の婚約者だからといって気を遣う必要はありませんので、レオナルドとお話がしたいのでしたら私が居ない別の日に予定を立てて下さい。レオナルド、勿論貴方にも言ってますよ。」
あぁなるほど、さっきの僕とミオのやり取りを見てアイネは嫉妬の限界を感じたんだ。アイネは拗ねてミオの悪口を言ったに違いない。そう思った僕はとっても嬉しくなった。
「…ごめんね、アイネ。僕達を見て不安になってしまったんだね。でも、僕とミオにとっては特別でも何でもない行為なんだ、幼い頃はよくやっていたんだよ。だから気にしないで欲しい。僕は絶対にミオと二人きりにはならないよ、安心してね。」
「も、もう、アイネったら心狭すぎますよ! そうそう、食べさせ合う事なんて私達は今までも何回もあったんですから!!」
これ以上アイネを不安がらせてはいけないと思い、食べさせて貰ったのはよくあった事なのだと嘘をついた。そしてミオも僕の噓に合わせてくれた。やっぱりミオは頼りになるな。
「ほら、食事が冷めてしまうよ。食べようよ。」
なんて良い気分なんだろう、とても最高だ! アイネがこんなにも嫉妬してくれるだなんて…ミオが言ってくれたように、作戦をやめなくて良かった。ミオに何かお礼の品を贈らないといけないな。
「…!?、あの、どうかしたのアイネ?」
戸惑ったようなミオの声に反応して、ミオを見るとその視線はアイネに向けられていた。そのままアイネを見てみると、アイネはミオを凝視していた…。
「…別に、気にしないで下さい。」
「“気にしないで下さい”って……」
「どうしたのです? いつものように私の事など気にせずにレオナルドとお話しになって下さい。」
アイネは無表情だった。けれど、ミオから一切視線を逸らす事なく熱心に、ただただ見つめ続けている…。
「ちょ、ちょっとアイネ。どうしたんだい?」
どういう状況なのか分からなくて声を掛けてみるけれど、何故かアイネは僕を見ない。
「じ、じーっと見つめるのやめて下さい! た、食べにくいではないですか!!」
ミオは怒ったように強く言うけれど、アイネは全く動じない。
「気にしないで下さい、どうぞ、続けて下さい。」
「ちょっと、だからやめて欲しいと言ってるでしょ!」
「アイネ、ミオが嫌がっているよ。一体どうしたんだい? とにかく、やめるんだ。ほら、僕の方を見て。」
僕を見ないアイネに少し苛立ってしまう。話をする人に目線を合わせるのは貴族としてではなく、人として当たり前の事だ。なにより今話をしているのは僕なのに、僕を見ないだなんておかしいではないか。
「ですから、気にしないで下さいよ。」
「アイネ! 今話をしているのは僕だよ、ちゃんと僕を見てくれ。」
「嫉妬ですか?」
アイネの言葉に、僕は呆けてしまった。
「私がレオナルドではなく、ミリオーレさんばかりを見ているから嫉妬したのですか? 大丈夫ですよ、私とミリオーレさんとの間に何かある訳ではありませんから、気にしないで下さい。」
アイネは今、僕に話し掛けている筈だというのに、僕を見る事はなくミオだけを見続けている…。
「それに、“嫌がっているからやめろ”と言われましても困ります。だって私がデート中にミリオーレさんが来ないようにして欲しいとお願いをしても聞いてくれませんでしたよね? “気にするな”と言われただけでした。ならば私だってやめるつもりはありません。二人が私の事は気にしないでいればいいだけですよね。」
…何も反論が出来なかった。だって全て、ミオに言われて態とやってきた事だったから。
「ほら、ミリオーレさん。気にせずに食事を続けて下さい。」
「っ……、ア、アイネこそ、食べてないじゃない。」
アイネはミオにそう言われると、自分の料理に視線を移動させた。ミオから視線が逸れた事に安心した。…でも、ほんの数秒料理を見つめるとアイネは再びミオに視線を戻した。そして、ミオを見たまま器用にナイフで料理を切って、フォークに刺された料理を口に運んで咀嚼した。それはとても、異様な光景だった。
「!?っひぃぃ…。」
「アイネっ!?」
ガタンッ、と音を立てて、ミオは怯えたように後退った。その時アイネは、僕が今まで見た事がない笑顔を見せた。
ミオの真似と言って作っていた笑顔よりも、黒くて、ほの暗い何かを思わせるような魅力的な笑みだ。そしてその笑顔は僕ではなく、ミオに向けられていた――。
◇◆◇
あのレストランで食事をした翌日、僕はアイネに今までの事を謝罪した。
「アイネ、今までごめんね。もうミオは来ないから。」
昨日、レストランで食事を終えるとその日のデートは終わった。アイネと別れた後、僕はミオにもうアイネに嫉妬して貰う為の作戦はやめようと言った。もうアイネは充分嫉妬してくれたし、アイネの様子は明らかにおかしかった。流石に怒らせすぎたのだと思ったし、ミオも顔色を悪くさせていたから続けるべきではないと。ミオも頷いて帰った。明日はアイネに謝罪しなければならない、アイネはまだ怒っているかもしれないけれど、今後ミオがついて来る事はない。これからは二人で愛を育んで行けばいいと思っていた。
「何故ミリオーレさんは来ないのですか? 今まで通り来て頂きたいです! ミリオーレさんが居ないのでしたら、デートに意味なんてありませんよ。」
けれど、アイネは反対した。えっ…“ミオが居なければ、デートに意味がない”…?
「で、でもアイネ! ミオが来る事を嫌がっていただろう?! …や、やっぱりまだ怒ってるんだね。本当にすまなかった。ミオにも今度ちゃんと謝罪させるから。」
…や、やっぱりアイネはミオに対して相当怒っているんだ。当然だ。ミオにも謝らせるべきだったんだ!
「いいえ、怒っていませんよ。私はただ、ミリオーレさんに会いたいだけです。今までだって三人でデートしていたではありませんか。今日はもう仕方ありませんが、今度からまた呼んで下さい。」
「っ…いや、いやそもそもこのデートは僕達が婚約者としてのデートなのだから、それは…」
思わず口に出した言葉に僕は最後口籠ってしまう。分かっているんだ…僕が言える言葉ではない事を。
「それこそ今更ではありませんか。それならば、もうデートはやめませんか? デートなんて義務ではありませんし、会う必要もないですよね。」
アイネの言葉に僕は真っ青になってしまった。アイネとデート出来ないなんて冗談ではないっ! 正式な結婚はまだまだ先なのに、アイネと会えないなんて耐えられない。それに会えない日々の中で、アイネが別の誰かを好きになってしまったら……。
「レオナルド、貴方が理解しているか分かりませんが、貴方は婚約者とのデートに幼馴染みが介入する事を、私の意思を無視して喜んで承諾したのです。私達が三人でデートしていた所は、お忍びデートではありませんでしたし色んな方達が目撃しています。私が婚約破棄を願えば、その理由が何であるかは皆さんに態々教えなくても理解して下さると思います。…あ、もういっその事、婚約破棄しましょうか?」
「やっ、やめてくれ!! ほ、本当にごめんなさい!! 僕はアイネの事が好きなんだ、本当に好きなんだ! だから、婚約破棄しないでくれ!!」
僕はもうパニックになっていた。アイネに言われて、自分のした事がいかに非常識だったのか思い知らされた。ただアイネに嫉妬して欲しくて…いや、アイネに僕の事を好きになって欲しかっただけだ。だから、どうしたら好きになって貰えるか、ミオに相談しただけで………
「…良く分かりませんけど、私との婚約破棄を望んでいないのでしたら、ミリオーレさんを今後も呼んで下さい。それに、これはレオナルドとミリオーレさんの為にもなりますよ。私達は婚約者のデートではなく、婚約者と幼馴染みの三人で仲良く出掛けているのだと周りの方に思わせる事が出来ますから! 良い提案だと思いませんか?」
アイネの提案を断る事なんて出来なかった。提案…そうだ、ミオが、あんな提案をしてこなければこんな事にはならなかったのに………!!
◇◆◇
「い、嫌よ。もう私は行かないわ!」
その翌日、僕はミオに会いに行った。今後も僕とアイネのデートについて来るように話すとミオは嫌がった。
「…僕だって嫌だよ。でもアイネの願いなんだ。」
「ね、ねぇレオ! 今のアイネは何だかおかしいし、怖いわ。レオも見たでしょ? 私の事をずっと見てきて…。あ、あのさ、もうアイネとの婚約を破棄しちゃった方が良いと思うわ。だって…「巫山戯ないでくれっ!!」」
聞き捨てならない言葉に、僕はミオを怒鳴りつけた。僕だってミオを、ミリオーレなんか誘いたくない。それでも我慢しようとしているのに、アイネと婚約破棄しろだなんて冗談ではなかった。
「ミリオーレ、君は僕の想いを応援する筈だったよな? それなのにどうしてこんな事になったんだよっ!! アイネはもう僕の事なんか何とも思っていない、嫉妬すらしていない、アイネが今関心を持っているのはミリオーレ、お前だよ!!! あぁ、どうしてこんなっ…………お前なんかを信用した僕が馬鹿だった。」
ミリオーレは顔面蒼白になって、涙をポロポロと流し始めた。唇はわなわなと震わせていて悲しんでいるのだろう。けれど、少しも罪悪感を抱けない。こうなってしまったのはミリオーレだけのせいでは無い、けれど感情を抑えられなかった。僕はそのままミリオーレに背を向けて家から出て行った。もうアイツの顔なんて見たくない。アイツはもう、アイネの視線を僕から奪った憎い存在としか思えなかった。
家に着いた後に、アイツの説得が出来ていない事に気が付いた。でも、アイツが嫌がったとアイネに伝えたら諦めて貰えるかもしれないと少し希望を持った。その翌日、アイネに伝えてみると「そうですか」と頷いた為、これで良かったんだと安心した。
しかし、その次のデートに行くとミリオーレの姿があった。アイネが直接ミリオーレを説得したのだと知った。
今現在も、僕とアイネは婚約者である。僕達のデートには必ず邪魔な幼馴染みがついて来る。愛しい彼女の視線は常に幼馴染みに向いていて、婚約者の僕は除け者にされている。僕はただ、僕のした事を後悔する事と、幼馴染みへの憎しみと嫉妬を募らせる事しか出来なかった…。
本編の評価、感想色々とありがとうございました!! 楽しみにしてくださっている方がいてくれて、とても嬉しいです(*^^*)
今回はレオナルド視点でした。彼はとにかく馬鹿なんです 笑。 地道に努力して好きになって貰うのではなく、すぐに成果を求めてしまいました。その結果、相手の気持ちを考えずに、頼りになると信じ切ってる幼馴染みの言葉を鵜呑みにしてしまいました。最後には自分の望みとは正反対の無関心をアイネから返されてしまいました。「好きの反対は嫌い、ではなく無関心」と言いますよね。そして、自分も悪いと理解しつつも、幼馴染みのミリオーレが悪いと責め続け、憎み続ける事になります。自業自得ですけどね 笑。
次回は、ミリオーレ視点で書きたいと思います。長さ的に最早番外編ではないかもしれませんが、もしよろしければ今後もお付き合いをよろしくお願いします。
ミリオーレ編も修正予定です、何時になるか分かりませんがよろしくお願いします。