私と婚約者のデートに、婚約者の幼馴染みがついて来ます。最初はやめて欲しいと思っていたのですが…(番外編:婚約者視点)
「私と婚約者のデートに、婚約者の幼馴染みがついて来ます。最初はやめて欲しいと思っていたのですが…」の番外編、婚約者のレオナルド視点です。
まだ本編を読んでいない方は先に読んでくださった方が分かりやすいと思います。
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番外編:幼馴染み視点も出来ました。
僕の名前はレオナルド、伯爵家の人間だ。昨日、僕には婚約者が出来た。アイネという、僕と同じ伯爵家の令嬢で、僕が恋い焦がれていた女性だ。アイネの事は随分前から知っていた。数年前のあるパーティーで彼女に一目惚れをした。中々話す機会がなかったけれど、彼女に近しいと思われる人物から彼女の情報を入手して、知れば知るほど彼女への想いは強くなっていった。そして、僕は一歩踏み出し、彼女との婚約を申し出たのだ。僕の両親も、アイネの両親も反対せず、アイネも承諾してくれた為、晴れて僕は婚約者になる事が出来たのだ。
アイネはとても美しく、そして上品な笑顔が素敵だ。けれど、その笑顔は誰に対しても浮かべる笑みであり、僕にだけ見せる特別なものではなかった。その事に、段々と不満が溜まってきた。僕はこんなにもアイネの事が好きなのだから、アイネにも同じように僕を想って欲しい…。
「私が協力してあげるわ、レオ!」
僕は、僕の幼馴染みの女性であるミリオーレ(僕は『ミオ』と呼んでいる)に相談すると、ミオは僕を励ますように応援すると言ってくれた。ミオは、僕とアイネのデートについて来て、アイネに嫉妬して貰えば僕をもっと好きになる筈だと提案した。ミオは昔から僕の良き相談相手であり、頼りになった。ミオが言うからには間違いないし、アイネに愛されたい僕はその提案を承諾したのだ―――。
◇◆◇
「もう、レオは何時もそうなんだから!」
「はははっ、ミオには敵わないよ。」
現在、僕とアイネとミオの三人は、庶民も利用する事があるレストランで食事をしている。アイネは僕の正面の向かい側に、ミオは僕の隣に座っている。
ミオの作戦を始めて、随分時間が経過した。その手応えはあった。アイネは可愛らしく嫉妬してくれて、ミオを連れて来ないで欲しいと言ってきた。初めてアイネにそう言われた時、もう作戦は成功したと僕は思ったのだが、
「まだ、たったの一回だけでしょ? それじゃ嫉妬したとは言えないわ。もっともっと嫉妬させた方がレオの事を好きになるわよ!」
ミオにそう言われたので作戦を続ける事にした。
「もしかして、嫉妬してるのかい? ミオとは昔から仲が良いだけだよ。気にしないで。」
「婚約者のアイネが居るのに、他の女性と二人きりなんてなる訳ないよ。それに、ミオはアイネと仲良くなりたいと思っているだけだから、ね?」
アイネが嫉妬する度に、僕はそう言って誤魔化した。その時のアイネの顔は落ち込んでいるように思えて、可哀想と思いながらも嬉しかった。アイネ、そんなに嫉妬しなくても僕が愛しているのは君なんだよ? 心配しないで良いんだ。
「レオ、これ美味しいわよ! 食べさせてあげる!!」
アイネの事を思い出していると、ミオが僕に一口サイズの肉を挿したフォークを差し出してきた。それを見ればミオの意図する事は理解出来た。流石にそれはやり過ぎなのではないかと思った。けれどその時、向かい側にいるアイネの方を向くと、視線が交わった。
もっと、もっとアイネに僕を見て欲しい…。
そう思った僕は、差し出されたフォークに齧り付いた。ちなみに、こんなやり取りは今まで誰ともした事がなかったから、慣れていなかった。
「…うん、確かに美味しいね!!」
「ね、そうでしょう!!」
口元が汚れているのではないかと心配になった僕は、ナプキンで口元を拭った。
「…ミリオーレさん。少しいいですか?」
すると、アイネがミオの名前を呼んだ。今まで三人一緒に居て、アイネから話しかけてきた事は無かった。ましてや、ミオに声をかけた所を見た事なんて無かった。
「今、私を見て笑いましたよね? どういうつもりですか。」
「へっ?」
アイネの言葉に、ミオは固まっていた。
「ど、どういうつもりって……ただ楽しくて笑っていただけですよ!」
「“楽しい”? どんな風に楽しければあのような笑顔になるのですか?」
「え、ちょっと、アイネ!? どうしたんだい?」
「ミリオーレさんは、このような笑顔をしていたのですよ?」
アイネはそう言うと、嫌な雰囲気を感じさせるような、ニヤリッとしたような笑顔を作ったのだ。アイネの上品な笑顔しか知らなかった僕は、そんな笑顔をする…いや、作るアイネに驚く。そしてアイネが言った、“ミオがアイネを笑った”というのは一体どういう事なのか…?
「ちょ、ちょっとやめて下さい! そ、そんな顔してません!! アイネの勘違いです。」
「そ、そうだよアイネ。ミオがそんな…嫌な笑顔をする筈がないよ。」
ミオは必死で否定していたので、僕はミオを庇う為にアイネに誤解だと伝えた。
「レオナルドには言った事がありますが、ミリオーレさん。もう、私とレオナルドがデート中に来ないで下さい。今のやり取りも…流石に度が過ぎてます。レオナルドとお話がしたいのでしたら、私が居ない別の日に予定を立てて下さい。レオナルド、貴方にも言ってますよ。」
しかし、アイネの言葉に僕は理解した。さっきの僕とミオのやり取りに、嫉妬の限界を感じたのだと。アイネはとても拗ねていて、ミオの悪口を言ったのだと。その事に、僕はとっても嬉しくなったのだ。
「…ごめんね、アイネ。僕達を見て不安になってしまったんだね。でも、僕とミオにとっては特別でも何でもない行為なんだ、幼い頃はよくやっていたし。だから気にしないでね。ミオと二人きりにならないから、安心して。」
「も、もう、アイネったら心狭すぎますよ! そうそう、食べさせ合う事なんて私達は今までも何回もあったんですから!!」
これ以上アイネを怒らせては、不安がらせてはいけないと思い、食べさせて貰ったのは初めてではなく、よくあった事だと嘘をついた。そして、ミオも合わせてくれた。やっぱりミオは頼りになると思った。
「ほら、食事が冷めてしまうよ。食べようよ。」
僕はとても良い気分だった、最高だった。アイネがこんなにも嫉妬してくれるだなんて…。ミオが言ってくれたように、作戦をやめなくて良かったと思った。ミオに今度、何かお礼の品を贈らないといけないなと思った。
「…!?、あの、どうかしたのアイネ?」
目の前の魚をナイフで切って、フォークで口に運び、気分の良さに身を任せて、目を閉じて良く味わって食べていると、戸惑ったようなミオの声に目を開けた。ミオを見るとその視線はアイネに向けられていて、アイネを見るとアイネの視線はミオに向けられていた。
「…別に、どうぞお気になさらず。」
「“お気になさらず”って……」
「…ほら、いつものように私の事など気にせずにレオナルドとお話しになって下さい。」
アイネは無表情だった。ミオから一切視線を逸らす事なく、ただ見つめ続けている…。
「ちょ、ちょっとアイネ。どうしたんだい?」
どういう状況なのか分からなくて、声を掛けてみるけれどアイネは僕を見ない。
「じ、じーっと見つめるのやめて下さい! た、食べにくいではないですか!!」
ミオは怒ったように強く言うけれど、アイネは全く動じない。
「気にしないで下さい、どうぞ、続けて下さい。」
「ちょっと、だからやめて欲しいと言ってるでしょ!」
「アイネ、ミオが嫌がっているよ。一体どうしたんだい? とにかく、やめるんだ。ほら、僕の方を見て。」
ミオから視線を逸らさない、僕を見ないアイネに少し苛立ってしまう。話をする人に目線を合わせるのは貴族としてではなく、人として当たり前の事だ。今話をしているのは僕なのに、非常識ではないかと思った。
「ですから、気にしないで下さいよ。」
「アイネ! 今話をしているのは僕だよ、ちゃんと僕を見てくれ。」
「嫉妬ですか?」
けれど、アイネの最後の言葉に、僕は苛立ちも何もかも忘れて呆けてしまった。
「私がレオナルドではなく、ミリオーレさんばかりを見ているから嫉妬したのですか? 大丈夫ですよ、私とミリオーレさんとの間に何かある訳ではありませんから、気にしないで下さい。」
そう言っている間も、アイネは僕を見る事はなく、ミオを見ている。アイネは今、僕に話し掛けている筈なのに…。
「…それに、“嫌がっているからやめろ”と言われましても困ります。だって私が2人に、デート中にミリオーレさんに来ないようにして欲しいとお願いをしても聞いてくれませんでしたよね? “気にするな”と。ならば、私もやめるつもりはありませんし、私の事は気にしないで下さい。」
…何も反論が出来なかった。だって全て、ミオに言われて態とやってきた事だったから。
「ほら、ミリオーレさん。気にせずに食事を続けて下さい。」
「っ……、ア、アイネこそ、食べてないじゃない。」
アイネはミオにそう言われると、自分の料理に視線を移動させた。ミオから視線が逸れた事に安心した。でも、ほんの数秒料理を見つめると、アイネは再びミオに視線を戻した。そして、ミオを見たまま器用にナイフで料理を切って、フォークに刺された料理を口に運んで咀嚼した。
「!?っひぃぃ…。」
「アイネっ!?」
ガタンッ、と音を立てて、ミオは怯えたように後退った。僕はアイネの異様な様子に思わず声をあげる。アイネは、僕が今まで見た事がない笑顔を見せた。
ミオの真似と言って作っていた笑顔よりも、黒くて、ほの暗い何かを思わせるような魅力的な笑みを。そしてその笑顔は僕ではなく、ミオに向けられていた――。
◇◆◇
あのレストランで食事をした日から5日後、僕はアイネと二人でデートをする為に待ち合わせをし、アイネと会ってすぐに今までの事を謝罪した。
「アイネ、今までごめんね。もうミオは来ないから。」
5日前、レストランで食事を終えるとその日のデートは終わった。僕はミオに、もうアイネに嫉妬して貰う為の作戦はやめようと言った。もうアイネは充分嫉妬してくれたし、アイネの様子は明らかに可怪しくて、流石に怒らせすぎたのだと思ったからだ。ミオも頷くと、少し顔色を悪くさせながら帰ったのだった。アイネはまだ怒っているかもしれないけれど、もう今後ミオは居ない。これからは二人で愛を育んで行けばいいと思っていた。
「何故ミリオーレさんは来ないのですか? 今まで通り来て頂きたいです! ミリオーレさんが居ないのでしたら、デートに意味なんてありませんよ。」
けれど、アイネは反対した。僕はアイネの反応に驚いてしまう。“デートに意味がない”…?
「で、でもアイネ! ミオが来る事を嫌がっていただろう?! …や、やっぱりまだ怒ってるんだね。本当にすまなかった。ミオにも、今度ちゃんと謝罪させるから。」
でも、すぐに思い返した。アイネはミオに対して怒っている、当然だ。だから今日、本当はミオに直接謝って欲しかったのだと思った。
「いいえ、怒っていませんよ。私はただ、ミリオーレさんに会いたいだけです。今までだって三人でデートしていたではありませんか。今日は無理だとしても、今度からまた呼んで下さい。」
「っ…いや、いやそもそも、このデートは僕達が婚約者としてしているデートなのだから、それは…」
思わず口に出した言葉に、僕は最後口籠ってしまう。分かっているんだ…僕が言える言葉ではない事を。
「それこそ今更ではありませんか。それならば、もうデートはやめませんか? デートなんて義務ではありませんし、会う必要もないですよね。」
アイネの言葉に僕は真っ青になってしまった。冗談ではなかった。アイネとデート出来ないなんて、正式な結婚はまだまだ先なのだ。アイネと会えないなんて耐えられないし、会えない日々の中で、アイネが別の誰かを好きになってしまったら……。
「それに、レオナルドが理解しているか分かりませんが、貴方は婚約者とのデート中に幼馴染みが介入する事を、私の意思を無視して喜んで承諾したのです。私達が三人でデートしていた所は、お忍びデートではありませんでしたし、色んな方達が目撃しています。私が婚約破棄を願えば、その理由は何であるかは皆さんに態々教えなくても理解して下さると思います。…あ、もういっその事、婚約破棄しましょうか?」
「やっ、やめてくれ!! ほ、本当にごめんなさい!! 僕はアイネの事が好きなんだ、本当に好きなんだ! だから、婚約破棄しないでくれ!!」
僕はもうパニックになっていた。アイネに言われて、自分のした事がいかに非常識だったのか思い知らされた。ただアイネに嫉妬して欲しくて…いや、アイネに僕の事を好きになって欲しかっただけだ。だから、どうしたら好きになって貰えるか、ミオに相談しただけで………
「…良く分かりませんけど、私との婚約破棄を望んでいないのでしたら、ミリオーレさんを今後も呼んで下さい。それに、これはレオナルドとミリオーレさんの為にもなりますよ。私達は婚約者のデートではなく、婚約者と幼馴染みの三人で仲良く出掛けているのだと周りの方に思わせる事が出来ますから! 良い提案だと思いませんか?」
アイネは僕の知る、上品な笑顔をしながら提案してきた。提案…そうだ、ミオが、あんな提案をしてこなければっ………!!
◇◆◇
「い、嫌よ。もう私は行かないわ!」
その翌日、僕はミオに会いに行った。今後も僕とアイネのデートについて来るように話すと、ミオは嫌がった。
「…僕だって嫌だよ。でも、アイネの願いなんだ。」
「ね、ねぇレオ! 今のアイネは何だか可怪しいし、怖いわ。レオも見たでしょ、私の事をずっと見てきて…。あ、あのさ、もうアイネとの婚約を破棄しちゃった方が良いと思うわ。だって…「巫山戯ないでくれっ!!」」
僕はミオを怒鳴りつけた。僕だってミオを、ミオなんか誘いたくない。それでも我慢しようとしているのに、アイネと婚約破棄しろだなんて冗談ではなかった。
「ミオ、君は僕の想いを応援する筈だったよな? なのに何故こんな事になったんだよ、アイネはもう僕の事なんか何とも思っていない、嫉妬すらしていない、アイネが今関心を持っているのはミオ、お前だよ! どういうつもりなんだっ!!! どうしてこんなっ…………お前なんかを信用した僕が馬鹿だった。」
ミオは顔面蒼白になって、涙をポロポロと流し始めた。唇はわなわなと震わせて、怯えたように、悲しそうにしている。けれど、少しも可哀想とは思えない。こうなってしまったのはミオだけが悪い訳では無い、けれど感情を抑えられなかった。僕はそのままミオに背を向けて、ミオの家から出て行った。もうミオの顔なんて見たくない、アイネの視線を僕から奪った憎い存在としか思えなかった。
家に着いた後に、ミオへの説得が出来ていない事に気が付いた。でも、もしかしたらミオが嫌がったとアイネに伝えたら諦めて貰えるかもしれないと思った。その翌日、アイネに伝えてみると、アイネは「そうですか」と頷いた為、これで良かったんだと安心した。
しかし、その次のデートに行くとミオの姿があった。アイネが直接ミオを…ミリオーレを説得したのだと知った。
今現在も、僕とアイネは婚約者である。僕達のデートには必ず邪魔な幼馴染みがついて来る。愛しい彼女の視線は常に幼馴染みに向いていて、婚約者の僕は除け者にされている。僕はただ、僕のした事を後悔する事と、幼馴染みへの憎しみと嫉妬を募らせる事しか出来なかった…。
本編の評価、感想色々とありがとうございました!! 楽しみにしてくださっている方がいてくれて、とても嬉しいです(*^^*)
今回はレオナルド視点でした。彼はとにかく馬鹿なんです 笑。 地道に努力して好きになって貰うのではなく、すぐに成果を求めてしまいました。その結果、相手の気持ちを考えずに、頼りになると信じ切ってる幼馴染みの言葉を鵜呑みにしてしまいました。最後には自分の望みとは正反対の無関心をアイネから返されてしまいました。「好きの反対は嫌い、ではなく無関心」と言いますよね。そして、自分も悪いと理解しつつも、幼馴染みのミリオーレが悪いと責め続け、憎み続ける事になります。自業自得ですけどね 笑。
次回は、ミリオーレ視点で書きたいと思います。長さ的に最早番外編ではないかもしれませんが、もしよろしければ今後もお付き合いをよろしくお願いします。