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第1話 狐を拾いましたからの……部長!?

 

「尾花井部長、先日の報告書です」


 出来上がった報告書を、私は部長のデスクの上に置いた。


「月村さん、ありがとう。助かるよ」


 彼は人の良い笑みを浮かべながら、報告書に目を通す。その姿を私はこっそりと観察する。私の名前は月村唯。会社に勤めるしがないOLである。


「………」

「? 如何かしたかい?」

「……え、いえ……報告書は大丈夫ですか? 心配で……」

「嗚呼、大丈夫。よく出来ているよ」


 報告書から顔を上げた部長は、不思議そうに私を見上げた。艶やかな黒髪が揺れ、穏やかな黒雲母の瞳に私が映る。如何やら凝視し過ぎていたようだ。誤魔化すように、慌てて言い訳を口にした。


「それは良かったです。失礼します」


 私の後ろには部長への用事を持つ、長蛇の列が出来ている。余計な時間に浪費させてはいけない。私は軽く頭を下げると、自分のデスクへと戻る。


「はぁぁ……」


 自分のデスクでこっそりと溜息を吐く。部長とのやり取りは毎回緊張をするのだ。


 私を悩ませる彼の名前は尾花井秋斗。つい二週間ほど前に、この会社にやって来た上司だ。背が高く容姿が整っている上に、性格も良く非常に仕事が出来て優秀な人材である。それ故に男女隔てなく社員からの人気も高く、慕われているのだ。


 誰からも好かれている部長だが、正直私は少し苦手である。彼との初対面から違和感が拭えないのだ。明言出来る何かがあるわけではない。何となく、彼の存在に違和感を覚えるのだ。


「………気のせいなのかな?」


 違和感については誰にも伝えてはいないが、如何やら私だけのようである。人との相性はそれぞれだ。気のせいの可能性もある。考えても答えは出ない。


 私は目の前の仕事に集中することにした。



 〇



「うわぁ……もうこんな時間!」


 私は会社からの帰り道を急ぐ。今日は仕事が立て込み、残業をすることになってしまったのだ。加えて今日は尾花井部長の歓迎会が開かれている。もうこの時間では、歓迎会は終わってしまっているだろう。そう判断して、私は帰宅することを決めた。


「ぎゅう……」

「……え? なんだろう?」


 駅に向かって歩いていると、苦しそうな声が響いた。何かの動物だろうか、音がした路地を覗く。


「犬? えっと……狐かな?」


 薄暗い路地にはゴミ箱の陰に隠れるようにして、金色の狐が倒れていた。獣医師ではない為、如何して倒れているのかは分からない。しかし狐を観察すると、怪我はなく静かに胸が上下している。そのことにほっと息を吐く。本当なら動物病院に連れて行った方がいいのは分かるが、この時間では病院は閉まっている。


「大人しくしていてね」


 スーツのジャケットで、猫ぐらいの大きさの狐を包み抱える。幸いなことに明日は休日だ。動物病院には朝一で連れて行くことが出来る。そう決めると、家へと急いだ。



 〇



「よいしょ……」


 自宅のマンションに帰宅すると、狐をそっとソファーの前に寝かせる。狐は予想に反して帰宅中に目を覚ますことはなかった。心配になり何度か呼吸を確認した程に、熟睡をしている。


「えっと……タオルがあった方がいいかな?」


 ラグが敷いてあるとはいえ、周囲を柔らかい物で囲っていた方がいいかも知れない。私は洗面所にタオルを取りに行こうと立ち上がった。


 ぽん!


「……っ、え!?」


 突然部屋に破裂音が響いた。そして私は背後から、肩を掴まれてソファーに倒れ込んだ。私は独り暮らしであり、1LDKの部屋には私と狐しか居ない。泥棒かと相手を見上げる。


「お前ぇ……」

「……え……ぶ、部長?」


 視線の先には何故か金髪と赤い瞳に、着流し姿の尾花井部長が居た。




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