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File27.偽りのヒーロー

──前回のあらすじ──


 自らの力に向き合い、互いの関係性を再確認したセカイとコトハ。

 時を同じくして、自宅に戻った誠良と智代子は、昨夜の事件に『白龍の怪物』が関わっていたことを知るのだった。

 カタカタと、忙しなく人の動く興信所の事務所内。小山をはじめとした智代子の部下達は、各々のファイルへ目を通すと、それを智代子へと共有していく。


「姉ちゃん、流石にこれはパワハラなんじゃ…」

「うるさい誠良。もう少し、もう少しなのよ」


 ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしり、目下の隈を深め声を荒げる智代子。


 過去に無いほど大きな、事務所すべてを巻き込んだ修羅場。──曰く、「大切で忘れてはいけなかったはずのもの」と。あの日以来、例の真神類(白龍の怪物)の調査へ踏み切った彼女は、その私情で部下を働かせていた。


 はぁ、と。呆れに似た溜息を吐いて、集められた情報に目を落とす誠良。

 明らかに職権濫用、部下にとってパワハラがまいな指示ではあるのだが…その優秀な部下達により、みるみる情報が集まっていく様は、彼にとっても最早圧巻と言わざるを得ない。一応、彼等は定時で退社できる上、特別手当も出ているのだが…それ以上に、今が既存の仕事が殆んど無い時期であったことは不幸中の幸いと言えるだろう。いずれにせよ、修羅場であることには変わりないが。


 そんな彼等の端くれとして、自らの手を動かしまとめた情報を練り上げていく誠良。


 ──今までと、明らかに違う真神類。


 直感的に、脳裏に過ったその感覚を首を振り無理矢理追い出す。

 幹部クラスか、それに等しい何かか。不自然なまでに、出揃うことのない情報に、思わず頭を抱え唸る。

 画像も、目撃も、その動機すらもわからず。何か、重大な見落としをしているような気がして、自らすらも思い返す。



 ──ヴーヴーヴー



 不意に鳴り響いた、着信を知らせるスマホのバイブ音。

 思考を遮られた誠良は、『出雲さん』と表示された画面をダンッと触れると、そのスマホを自らの耳元に当てた。



ーーー



 ディナー事件から早数日。

 高く昇った太陽の下で、いつか鈴村と話をした崖上で、美味しくもないブラックコーヒーを胃袋へと流し込む。


『お前は、これ以上この件に近付くな。俺から言えることはそれだけだ』


 脳内に反芻する、鈴村(アイツ)が去り際に言った言葉。

 …近づくな、か。アイツの言う『この件』が何かにもよるが、一体何があるというのだろうか。


「まぁ、考えても仕方が無いんだけどな」


 言い聞かせるように呟いて、空になった缶を握り潰す。

 あれ以来、鈴村とは連絡もついちゃいない。もしかしたら…と思うことはあるけど、そもそも真神類(マコト)とかいう怪物になってた地点で野暮な話か。アイツの話がどうであれ、誰にいつ命を狙われるかなんて、考えるだけで別に珍しくも無い。


「…あーあー、やめやめ。偶々、運が悪かった。ただそれだけだ。うん」


 入手経緯はわからんが、そもそも逆恨みなんて何処にでも転がっているし、あれだけの全能感なら自制できない馬鹿がいるのも当たり前だ。そもそもその理由を知ったところで、俺にはどうにもできないし。


 空き缶を屑籠に投げ入れて、ふと日に照らされる町を見下ろす。

 俺の知る3年前と情勢は変わってしまっても、町に大きな変化は無い。…まぁ、その裏に、誠良やあの二人組みといったヒーロー達の頑張りがあるのだから、手放しに良いと言える状態では無いのだけども。

 いずれにせよ、俺のやることは変わらない。


「──とりあえず、バイクの免許も取り直すか」


 薄氷の上、過ぎていく何気ない日常。

 惚れた女(華奈子さん)を幸せにする、と。彼女に─俺自身に誓った言葉を胸にして、俺はその場を後にした。



ーーー



 糸羽町市、オフィス街の某所。

 逃げ惑う人々が、周囲に散らばり消えて行く。


「──丁度いいわね」


 屋上から見下ろす妖艶な真神類──ヌセイリン。その口元を歪め、呟いた彼女は、視界に映る騒ぎの元凶へ注意を向けると、不意に手首をスナップする。


『いいんですかい?ヌセイリンの姐さん』


 地上のビル陰、そこから届いた声がヌセイリンの持つタブレットから響く。

 町の被害が拡大する中、チラリと、声の主を一瞥した彼女は、口元を確かに歪めながら、屋上からその姿を消した。




 1年半ほど前、突如として糸羽町市に出現した、人々を襲い自らを「神」と名乗る怪物─真神類マコト

 それがどうして現れて、何故広がっているのか。確かにわかることは、デモルフィネと呼ばれる注射器のようなモノを用い、人が変貌した姿である、ということ。

 そして、そんな真神類から町を守るように、颯爽と現れ撃破していく存在。そんな彼らを、人々は英雄(ヒーロー)と呼んだのだ。



 唸り声を上げ、無差別に暴れる角竜のような真神類。

 悲鳴が周囲に木霊する中、不意に飛び出した一つの影が、ソレを蹴飛ばしビル壁に突き刺す。


「ハッ、さしずめヒーロー登場ってな。アンタは悪いが死んでくれ」


 パラパラと、瓦礫とともに落ちる角竜の真神類。

 突如現れた人影は、ニヤリと口角を吊り上げると、サプレスバックル(・・・・・・・・)を自らの腰に押し当てる。


『Action』

「──アクティベート、Code:ノックオフ」


 不気味な電子音声に続けて、そう告げられた言葉コマンド。刹那、人影の背後に装甲が出現すると、吸い寄せられるようにそれを包み込む。

 

『Authentication completed. Individual name: "Knockoff."』


 誠良エンバハルセカイ達(ヒロアス・カフラマン)と異なる、装甲を纏った異型の姿。

 自らをヒーロー──ノックオフと名乗ったその男は、そのバイザー越しの4つ眼(・・・)光らせると、大振りに地面を蹴り上げた。




『サプレスバックル』

「device that suppresses instincts」

・ヌセイリンが出雲から奪い取ったバックル型の機械。

・オピレイドを差し込むことにより、バックル装着部が展開、腰への装着が可能。その際、内装された細胞を分析・最適化することにより、使用者の全身へ強化アーマーを展開させる。また、必要に応じて変身解除を実行する。

・本来は出雲(=人間)の装着を前提に作られていたが、ヌセイリンの改造により、真神類専用の強化装甲へと仕様が変更された。

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