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File26.画面越しの怪物

──前回のあらすじ──


 昏睡状態に陥った出雲の元で、互いの顔を合わせることとなった庄司達3人。

 時同じくして、病院を後にした明大は、『力』を問うた誠良に自らの意思を伝えたのだった。

「ありがとな、誠良」

「別にいいさ。それよりも、姉さんをよろしく頼む」


 カチッとバイザーを下げて、蒼いバイクで走り去る誠良。

 彼に送ってもらい、アパート前まで帰ってきた俺は、短く言葉を交わした後、いつもの階段を駆け上がる。


 華奈子さんを頼む、か…

 あの言葉は俺の本心であるし、頼まれなくてもそうするつもりだよ誠良。


 心の中でそう言い聞かせて、切り替えるように頭を振る。

 力とか、真神類とか、そういう詳しいことはわからないが…兎に角、今俺は、華奈子さんが笑顔でいられるように過ごしていけば問題は無いだろうしな。


「ただいま」


 ガチャリとドアノブを捻って、室内へと踏み入れる。

 少し遅れて、ドタドタと足音が大きくなると、華奈子さんが食欲をそそる匂いと共に姿を現す。


「おかえりなさい、明大さん!」



ーーー



 明大が帰宅したのと同じ頃。

 庄司と別れ、病院を後にしたセカイとコトハは、傾きかけた夕陽の照らす中、いつものように商店街を訪れていた。


「いらっしゃいお二人さん!今日は牛肉が安いよ!」


「…世界セカイ、どうする?」

「えぇ?牛肉かぁ…いや、昨日食えなかったし、みっちゃんがよければいいんじゃねぇか?」


 まいど!という店主に対し、代金を支払い買い物袋に商品を詰めるコトハ。

 どちらともなく、店主に礼を言った2人は、その肉屋を離れると、周囲の店を転々と回っていく。


「──相変わらず、拍子抜けするほどいつも通りだな」


 ある程度買い出しが終わり、帰路につきはじめた頃。不意に呟いたセカイの声に、コトハは歩んでいた足をピタリと止める。


「…今更でしょ。どうせ、あたし達はもう遊びじゃ引き返せないところまで来てるんだし」


 ポツリ、と。街灯の陰に隠れた顔が、周囲の空気を震わせる。

 彼女より一拍遅れて、立ち止まった世界は、懐にそっと手を伸ばして、引き返せぬ元凶(レイテュール)に軽く触れる。


「…悪かったな、巻き込んで」


 少しだけ震えた、そして掠れた声。街灯の明かりから外れた場所で、彼は暗くなった空へと視線を向ける。


「画面越しに観ていた怪物。──正義のヒーローみたいに、そんな奴等を倒す力があれば、なんて安直に考えていた俺が悪かったんだ。だから、あの女が俺達の前に現れた」

「──ッ、それは…」

「わかってるよ、みっちゃん。…俺だってもうあんな手には乗らないさ」


 乾いた笑いが空を切り、街灯がチカチカと点滅する。


 2人の脳裏に浮かぶ、不気味なまでに美しい女の姿。

 色仕掛けに憧れへ煽る言葉、そして画面越しではない怪物に、現在進行系で襲われているという状況シチュエーション。数カ月前、彼らの前に現れたその女は、言葉巧みに2人を誘導し、戦う力を与えた。そして、次々と現れる真神類を、人知れず殺し続けていた。

 …そう、それこそが女のマッチポンプであった事も知らずに。


 ギリッ、と。口内を鳴らして、セカイは己の拳を握り締める。


 庄司から問われた、戦うことの意味。彼女の話曰く、何らかの実験に利用されていただけだ、と。

 そんな言葉が脳内に反芻する刹那、コトハの手が、そんな彼の肩に置かれる。


「大丈夫。世界セカイが間違えそうになったらあたしが止めるから、ね?…あたし達、2人で最強のパートナーなんだから」


 点滅する街灯が、夜道の輪郭を浮かび上がる。


 ──あぁ、と。短く頷いたセカイは、解いたその拳を、置かれた手にそっと重ねたのだった。



ーーー



「ただいま、姉ちゃん」


 ガチャリとドアを開け、室内に響く誠良の声。糸羽町市の一角、そこに立つ一軒家へと帰宅した彼は、グローブとヘルメットを外し置くと、リビングへ続く廊下へ足を踏み入れる。


「あー、おかえり誠良。悪いけど夕食は適当にお願い」

「はいよ」


 リビングから聞こえる智代子の声。

 軽く返事をし、手を洗った彼は、棚に置かれたインスタント麺を手に取ると、慣れた動作でお湯を沸かす。


「──で、そんなに食い付いてるけど…姉ちゃんは何を見てるわけ?」


 リビングに顔を出し、そう言葉を告げる誠良。

 彼の言う通り、真剣な表情で液晶を覗いていた智代子は、リモコンのボタンを軽く押し込んで、前のめりになっていた姿勢を正す。


「観ればわかるわ」


 ただ簡潔に告げられた言葉。

 誠良は促されるように隣に座ると、制止された映像へと視線を移し変える。


「マスメディアが報道してた昨日の事件映像か…でもたしか、俺が向かった時には例の2人組が解決してたはずだけど?」

「そう、なんだけどね…」


 歯切れが悪く、そう口にする智代子。

 彼女にしては珍しい反応を前に、誠良は疑問符を浮かべる。

 誠良の記憶が正しければ、昨日、目覚めるや否や彼が駆け付けた頃、真神類は倒され、明大や華奈子を含む逃げた人々が既に病院へ搬送された後だったのだ。にもかかわらず、警察の現場検証も終えた今、わざわざ映像を見返す姉の様子は、彼にとっても不可解に思えてしまう。


 ただ無言で、言葉の続きを待つ誠良。

 そんな彼とは対照に、智代子はリモコンを液晶に向け直すと、その映像を再び動かし出す。



『こちら、現地より中継です。


 現在、怪物は最上階にて交戦中とのことです。


 駆け付けた警察によりますと、居合わせた一般の客は避難を開始しており、怪物の周囲からは既に誰もいないと確認が取れているそうです。


 周囲の住民は──』


 ピッ、と。そこで映像を止め、誠良の方へ振り返る智代子。

 見上げる構図で静止された画像の中、促されるように覗いた彼は、その視線を一点に留めると、そこから目を離せずにいた。


「白い龍の、怪物…」


 ポツリと漏れた声に、智代子がコクリと頷く。


 彼の視線の、その先で。建物内に、たしかに映ったその怪物は、映像が動き出すや否や、まるで何事も無かったかのように終ぞ映ることは無かった。

名前:田辺タナベ明大アキヒロ (26)

性別:男

備考:本作の主人公であり、ヒロインである華奈子の彼氏。

 眠っていた間に両親、弟、家、職、そして過去3年間の記憶を失った男。

 かつては誠良のことを華奈子の彼氏だと勘違いしていたが、現在は家族の一人のように大切に思っている。

 自身も一度だけ英雄ヒーローに変身した経験もあり、誠良がエンバハルであると知る数少ないうちの一人。

 白龍の怪物を幻視したことがあるが、その関係性は不明。

 医者が驚くほど回復が早い。

 ■■■■■。

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