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File25.力の使い道

──前回のあらすじ──


 カップルに扮して、事件を追っていた世界セカイ言葉コトハは、それぞれヒロアス・カフラマンに変身すると、居合わせた明大の機転も助けに犯人である亀の真神類を見事撃破。

 一方その頃、逃げ出した人々を扇動していた華奈子は、辿り着いたビルのエントランスにて、真神類の幹部であるゲアジェントと遭遇してしまった。

 火花が飛び散り、次々と爆散していくモノクロの人型。

 赤青白黄の4人組は、各々の持つダガー、ショット、シールド、メイスを振るうと、2つ頭の怪物を取り囲むようにして、池の畔へと追い込み迫る。


「さぁ、観念しろフィナマノイド(・・・・・・・)!ここから先にお前の行き場は無い」


 赤い男──Α(アルファ)がそう叫び、ダガーの切っ先を向け放つ。


 水面が揺れ、さざめきを奏でるほんの一瞬。

 周囲を振り返った2頭は、左の頭部をガシガシと掻きむしり、ギョロリと飛び出た瞳を動かす。


「あ、アニキ!コレはマズくないっすか!?」

「あぁわかってる!クソッ、こうなったら──」


 一人でそう会話して、何を思ったのかその場で飛び跳ねる2頭。その全身から溢れた黒霧が、4人組を巻き込んだ周囲を飲み込もうとして──


「ソレはもう通用しねーよ」


 不意に青い女─Β(ベータ)から放たれた風の弾丸が、ソレを霧散させ2頭を水面に叩きつける。


「バカな!?破られ…!?」

「アニキ…!」



「「No魔Re:(ノーマリゼ)actionーション-BLASTER(・ブラスター)Active(アクティヴ)!」」」」


 水面でもがき、目を白黒させる2頭。なんとか姿勢を持ち直し、よろよろと立ち上がった刹那、4人の重なった声が響くと同時に彼ら(・・)は周囲が暗くなる錯覚に襲われると、妙に目立つ巨大な砲台を構えた4人組をその視界に捉える。


「よくも─愛でるべき美を散らしてくれたな!その罪、その存在をもって贖いなさい──!」


『fire.』


 電子音と共に放たれた、虹色に輝く光弾。4人の姿のような幻覚が、次々と2頭に着弾する(一撃を与える)と、その全身を貫通し水面に火花を散らす。


「棘がある花だった、だとぉぉぉぉぉぉッ!?」

「アニキーーーッ!」


 意味不明な断末魔と共に、高く上がる水柱。砲台を構え直した4人は、そんな爆風を背に各々奇っ怪なポーズを取る。


『異界門の開門反応を確認。残り時間28分です、直ちに迎撃に向かってください』


 スピーカー越しの女性の声。

 一息をつく間もなく、腕のデバイスへと意識を向けた4人は、互いにマスク越しの顔を見合わせてどちらともなく頷き合う。


座標送信を確認マーカーチェック・クリア、転送をお願いします」

『了解』


 ただ一瞬、空に現れた巨大な影。

 そんな怪現象に反応するように、4人は光の渦に包まれると、影と共にその姿を消し去る。



「・・・」



 目まぐるしく移り変わる現実。

 静けさの戻った糸羽町自然公園の中で、そんな一部始終を静観していた()は、興味を失ったように振り返ると、黒い肉体を深い藪の中へと消していった。



★ー☆ー★ー☆



「そう、ゲアジェントがやられたの…」


 明け方、糸羽町市某所。陽の光がオレンジに染め始めた空の下、スーツ姿の女が呟いて、柵脇のベンチに腰掛ける。


「えぇ、それはもう、想定されたデータ以上で。彼女は手も足も出ない大敗でしたよ」

「…その割には嬉しそうに見えるんだけど、貴女は一体何を考えているの、ヌセイリン?」


 ふふっ、と。スーツの女─ビャステコに問いかけられ、扇子で自らの口元を覆い微笑む女─ヌセイリン。きらびやかな服を靡かせ、ゆっくりとビャステコに近づいた彼女は、その扇子をピシャリと閉じ、つつくようにして不満げな顔を刺激する。


「──それはもう、愉快なことですよ」


 カチャリ、と。卑しく話す言葉と共に、ビャステコの横にトランクケースが置かれる。


 仲間が減ったというのに、愉快なこととは一体何事か。

 目の前の娼女を睨みつつ、そう思考を巡らせたビャステコ。怪訝に思いつつ、彼女は差し出されたケースに手を伸ばす。


「ね、愉快でしょう?」


 キラリと朝焼けを反射する、一眼レフカメラ程のバックル(・・・・)とオピレイド。その意味も分からず、ソレと顔交互に見比べる彼女を前に、ヌセイリンは整ったその顔を大きく歪めると、恍惚とした表情で天を仰いだ。



ーーー



 ぼんやりとした視界に飛び込む、もはや見慣れた白い天井。

 ゆっくりと上体を起こして、見慣れた空間で一人息を吐く。


「病院、か。華奈子さんも、無事だといいんだけど…」


 ふと部屋にある時計を見て、言い聞かせるようにそう呟く。

 どうやら時間にしてあれから半日ほど、俺は眠っていたらしい。時間は昼前を指しており、心なしか腹も減っているように感じる。


 固まった両腕を伸ばして、背筋をバキバキと動かす。


 全身の痛みは無い。

 ただ残った気怠さだけが、あの一連の展開を思い出させてくる。


 せっかくのデートだったし、本来ならあそこで楽しく食事…のハズだったんだがな。まぁ、あの亀女みたいな奴が紛れ込んだ地点でそうはならないか。


「所詮は結果論か」


 たらればの話を頭から振り払い、見慣れた天井に向かって息を吐く。

 幸いにも、こうして五体満足だったんだ。会えなくなるわけでも無いし、一先ずは退院して、その後また誘えばいいしな。


 ギシリとベッドを軋ませて、病室の床に足をつける。

 

「──やっぱり、また力加減が難しくなってる」


 拳を開閉して、言い聞かせるように呟く。若干歪んだベッドの縁が、その異常さをこれでもかと俺に訴え繰り返す。


 …握力だけじゃない。腕力も、脚力も、視力や聴力さえも。目を覚まして以降、まるで人間としてのリミッターが外れたかのように、異常なまでに強くなっていた。


「──気の所為、じゃなさそうだな。…華奈子さんなら何か知ってるような気もするけど」


 ある意味では事故由来の生物的欠陥かもしれないが、意識しておけば問題ない。そもそもここ数年の自分のことですらわからないのだから、1年前までの自分に原因があったのかもしれない。

 …まぁ、真神類マコトとかいう怪物が、現実でヒーローと戦ってるくらいだ。そういう不思議なことが起きてもおかしくはないだろう。うん。


 そこまで思考を巡らせて、不意にコツコツと響く、廊下を歩く医者達と思われる足音。

 ようやく来たか、と。内心呟いて、歪んだベッドを何とか直す。

 また、いつも通りにいけば問題無く退院できるだろう。精密検査でも至って普通だと言われていたしな。もしかしたら、気づかぬうちに鍛え直していたのかもしれない。

 兎に角今は早期退院をして、早いとこ華奈子さんに会うとしよう。


 俺は力加減を調節しながら、未だに残る疑問を頭の隅に追いやると、ノックをするより先にベッドの中へと潜り込んだ。



ーーー



 ドタドタと、病院の廊下に響く忙しない足音。

 周囲の視線が集まる中、ボサボサの髪を靡かせた眼鏡の女─庄司は、一直線に病室の一つへと向かうと、その扉を音を立てて開け放つ。


「出雲ちゃん!」


 ベッドサイドモニタの音をかき消して、部屋中に響き渡る声。息を切らした彼女は、視界の先に目当ての姿を捉えると、震える足をそのベッドへと向かわせる。


「…」


 ピッピッ…と。しばらくの沈黙に、リズムを刻みゆく電子音。

 様々な管に全身をつながれ、ベッドに横たわる出雲は、微かにその胸を上下させると、呼吸器の中を曇らせる。


「──なんだ、先客か」


 不意に病室に響いた低い声。

 その言い方は無いでしょ、と。軽い打撃音が続けて鳴ると、2つの声の主(セカイとコトハ)は、庄司に歩み頭を下げる。


「はじめまして、庄司さん」

「──っ!?なんで─いや、そうか、君たちが…」


 言い終えるよりも早く、2人の姿を見て納得した庄司。その視線の先、セカイとコトハの腰には、おそろいの拳銃型デバイス─『レイテュール』が収められている。


「え、この人が庄司さんなの!?俺はもっとこう、マッドな男を想像してたんだけど…」

「いや、なんでそうなるのよ」


 庄司のことなど露知らず、軽く言葉を交わし合う2人。病室という異質な空間の中、場違いな言い争いをするその姿は何処か浮いていて。そのやりとりを見た彼女は、微かに頬を緩めると、眠る出雲へと視線を戻す。


(まったく君ってやつは…この2人に、それとエンバハル君に当てられちゃったのかい?)


 内心そう呟いて、ズリ落ちた眼鏡をかけ直す。無造作に立ち上がった彼女は、再び2人に向き直ると、ゆっくりと口を開け咳払いをする。


「あー、痴話喧嘩しているところ悪いけど、ここは病室だよお二人さん」

「ち、痴話喧嘩なんかじゃ──っ!?」

「そんなんじゃ──っ!?」


「シーッ、ね?」


 指を立てられ、顔を見合わせ黙る2人。

 そんな若者の姿を横目に、庄司は緩みかけた頬を締め直す。


「独孤世界に衣光言葉。──この際だし、少しボクと話をしようじゃないか」

「俺達と…?」

「話…?」


「あぁ…ボクが調整(チューン)したレイテュールと、その力の使い道について、ね」



ーーー



 いつものように簡易検査を終え、退院した病院をあとにする。

 一応診断としては急激な疲労やストレスによる気絶、だったらしい。身体機能的にも問題は無さそうで、握力云々は精神的に弱っている影響ではないか、という話だ。…まぁ、これに関しては、意識しておけば問題無く生活できることが既に経験済みだしな。


 エントランスを抜け、傾きかけた日が照らす外へと足を踏み入れる。

 スマホに入っていた連絡によれば、華奈子さんが自宅で夕食を用意してくれているらしい。昨日の今日で普通に過ごせる彼女は本当に強いと思う。

 なにはともあれ、昨夜の一件、華奈子さん達は無事だったらしく、あの場にいたほとんどの客は既に帰宅済であるらしい。


「慣れってのは怖いもんだ」


 真神類マコトとかいう怪物が、日々人を襲い命を散らしていくような世界。

 俺の知らぬ間に、人々はそれすら日常化し、ある意味他人事として受け入れてしまっている現状。…いや、きっと俺も、記憶があるならそうなっていたような気もする。


「アキヒロ」


 ひとり考えながら歩き出そうとして、不意にかけられた声に足を止める。振り返るれば、華奈子さんに似た銀髪の男が、俺の視界に映り込む。


「よう誠良。…なんか久しぶりな気がするな」

「…数日しか経ってないけど」


 互いに軽く言葉を交わし、どちらともなく笑みを零す。

 実際、久しぶりと感じたのは本心だし、数日しか経って無いのも事実。…ただ、最後に会ったのは興信所だし、昨日といいその後が濃すぎたのだと改めて感じざるを得ない。


 閑話休題。


 促されるようにして、駐車場へと移動した後。俺は渡されたヘルメットを被って、蒼いバイクに乗る彼の後ろに跨る。


「ちゃんと捕まっててくれよ」


 あぁ、と。短く返事をして、回した手を強く組む。


 そういえば、俺が大学時代に取った免許は失効していたか。…誠良のこのバイクといい、車の乗り回す智代子さんといい、交通手段として足を用意できるのはいい。華奈子さんとの今後もあるし、改めて取り直すことも考えてみてもいいかもしれない。


「なぁアキヒロ、アンタは──」

「ん…?」


 風を切り、道路を進む俺達を乗せたバイク。

 赤信号で止まるは否や、不意に聞き取れた言葉に返して、その続き待つ。


「──やっぱなんでもない」

「いや、それはねーだろ誠良。気になるところで止めんじゃねえよ」

「それは…確かにそう、だよな」

「だろ?だからなんて言おうと──うぉっ」


 信号が青に変わり、予告もなくバイクが再び動き出す。

 手を離さず咄嗟に力を込めたとはいえ、油断してたら振り落とされてたかもしれん。

 

「おい誠良!危な──」


「アキヒロは!」


「──っ!?」


「力を手に入れたら、どう使う…?」


 風を切る音越しに、確かに耳に響いたそんな声。ミラーに映るスモークに隠れたその表情が、移りゆく町の景色を反射し流れる。



 ──力を手に入れたら。


 頭をよぎる、あのとき(白いエンバハル)の全能感。…確かに、力を手に入れた人が、真神類となり好き勝手したくなる感覚もわかる。かく言う俺だって、怒りのままに鈴村を殺そうとした。でも──



「そんなの、決まってるだろ」


 ──俺は、華奈子さんを守る。


 彼女との約束だけじゃない。

 家族も、友人も、記憶も、全部失った俺に唯一「ある」存在。もう何も、失うわけにはいかなくて。だから彼女にも、失ってほしくなくて。

 この死が近づいた世界で、もしそんな力が手に入るなら。彼女も、そして彼女の大切なものを守るためだけに。俺はきっと、その為に力を使うと。


 すんなりと出たそれは、言葉となったかもわからない。…でも、誠良が一瞬、頷いたように見えて。全身にかかる風が、強く俺達に打ち付けた。


H.A.T.E.(ヘイト)(= Hamper Action To Enemy)』

「The hated military system.」

・アヤが遭遇した赤青白黄の色をした4人組のヒーロー。

伝NO(デンノー)空間より突如現れた怪人(=フィナマノイド)に対抗すべく、とある科学者によって作られた軍隊の現場担当部署。

・色順にΑ、Β、Γ、Δのコードネームがあり、それぞれを隼斗ハヤト飛鳥アスカリュウ皐月サツキが腕時計型通信デバイス(通称:アームトランサー)を介し認証を得ることで武装が展開され、変身する。

・戦闘中、遠隔で武装の状態は管理され、必要に応じて追加武装の転送・変身解除等の処置が行われる。



『不可視要塞 5lie-us(ゴライアス)

「A giant robot that doubles as a base.」

・ヘイトの4人が拠点としている超高精度迷彩付大型飛行軍艦。

・搭載された空間遡行システムにより、伝NO(デンノー)空間などの別次元での運用が可能であり、状況に応じて人型巨大ロボ「ヘイトエンペラー」へと変形する。

・内部には生活空間がある他、司令部やドックが存在しており、隼斗達が認証を得た際に転送される各種武装の管理修繕がされている。




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