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File22.2人の狼

──前回のあらすじ──


 出雲の依頼により、その同期である庄司が、遂に対真神類用携帯型特殊武装──『サプレスバックル』を完成させた。

 水面下で真神類との抗争が加速していく中、明大が出会ったのは2人の狼姿をした新たな英雄ヒーローだった。

 カチャリ、と。

 卓上照明の光が、灰色の机上を照らし出す。

 両手に手錠をかけられた男は、肩狭くパイプ椅子に腰掛けると、耳元まで顔を赤く染め上げていた。


「…で、言い訳はそれで全部かい?」

「…………はい」


 消え入りそうな男の返事。

 机越しに対面する出雲は、その反応に小さく溜息を吐き捨てると、書き取られた資料を無造作に手に取る。


「えっと、独孤(ドッコ)世界(セカイ)31歳独身。職業はフリーターと言う名のヒモ、趣味は成功したことのないナンパと女漁り、見かねた幼馴染に養われてる上、そのコンプレックスからギャンブルにのめり込み、有り金全部すった後に出会った美人局に騙され流されるようにデモルフィネとあの銃を入手、その全能感から幼馴染を巻き込んで怪物刈りをして回っていた、と。で、容疑は?」

「銃刀法違反と違法薬物所持です…」

「それだけじゃないよね?」

「…器物損害と業務執行妨害です」

「よくわかっているじゃないか」


 皮肉った声を響かせて、バンッと卓上に手を乗せる出雲。

 男──世界は、バツが悪そうに視線を泳がすと、膝上の拳を静かに握り締める。


「──出雲さん、こちら終わりました」


 コンコンというノック音と共に、室内に届いた出雲の部下の声。

 開けられた扉から差し出された資料を受け取った出雲は、「ありがとう」と一言言うと、立ったままそれに目を通す。


 資料に書かれていた人物は衣光(イミツ)言葉コトハ30歳。時同じくして事情聴取を受けた独孤世界の幼馴染の女は、既に情報を吐き終え事の顛末すら記憶されている。

 目前の男と情報のすり合わせが終わった出雲は、本日幾度目(・・・・・)か頭をガシガシと掻きむしると、睨見つけるようにして世界へ向かって視線を戻す。


「はぁ…オイ独孤世界」

「──っ、はい…」

「ひとまず事情聴取はこれで終わりだ。…時間を取って悪かったな」

「え…?」


 混乱する世界を他所に、書記官から資料を受け取り外へ出る出雲。

 扉が閉まるのを確認した出雲は、2つの資料を両手に壁に寄りかかると、誰もいない廊下で、ただひとり呟く。


「…本当に、面倒なことをしてくれたな」


 怨嗟の声とともに握り潰される2つの資料。

 彼の手の中には、ここ数日の(・・・・・)警察が把握していない(・・・・・・・・・・)真神類関連事件(・・・・・・・)が書き記されていた。



ーーー



 2人の(ケモノ)に遭遇してから数日。いつものように華奈子さんを送った俺は、とあるビルの中へとやってきていた。


「こんにちは、田辺さん」

「…こんにちは」


 何処か既視感を覚えるような、なんてことないありふれたビルの1フロア。

 佐倉興信所と書かれた扉を抜けた俺は、出迎えてくれた智代子さんに軽く会釈をかえす。


 最近は就活も忙しかったせいか、智代子さんと会うことすら久々に感じるが…それもまぁ当然っちゃ当然か。俺を華奈子さんが介助してくれたのと同じように、彼女も想定以上のダメージを負っていた誠良の看病をしていたらしい。

 今日、こうして俺がここに来たのも、そんな誠良が人並みに回復したと連絡があったからに他ならないしな。


 促されるように移動し、通された会議室と思しき一室。

 部屋の奥に座っていた人影は、俺を見るなり立ち上がると、笑みを貼り付けてこちらへ駆け寄ってきた。


「見舞いに来てやったぞ、誠良」

「…来てくれたんだね」

「まぁ、な。元気そうじゃないか」


 笑顔の奥にある、少しだけしんどそうな誠良の表情。

 空元気で振る舞う彼は、何事もなかったかのように日常会話を並べていく。


 既に一月以上経っている、華奈子さんの誘拐事件。

 常日頃からヒーローとして戦場に駆り出されていた彼であっても、あの日かかった負担は相当なものであったらしい。…まぁ、限定的とはいえ、あの日変身した俺もしばらく寝たきりになっていたし、その負荷の辛さはわかっているつもりだ。適正があるとはいえ、使い続けていた分の反動は俺の比ではなかったらしい。

 俺は適当に相槌を返して、そんな誠良をジッと観察する。疲れた表情に、若干震えが残る手足の動作。…ひと通り回復したとはいえ、どうやら蓄積されたダメージは未だに残っているようだ。


「──で、──だから、今日から俺も…」

「誠良」

「──っ」


 今日から俺も『戦いに参加する』、と。この期に及んでそう言おうとした言葉を遮って、この救いようの無い御人好しの両肩をガシリと掴む。


「まだ休んどけ」

「でも─」

「『今回だってアンタが助かったのだって奇跡みたいなもの』…だろう?お前だって同じだ、誠良。お前が俺を案じてくれたように、俺もお前を心配してるんだ。…正直、今のお前は見ていられないしな」

「………そう、だな」


 しばし俯いて、観念したようにそんな声を漏らす誠良。

 俺は彼から手を離すと、持ってきていた菓子折りだけ置いて、会議室を後にする。



 以前、俺は誠良に命を投げ出すような真似はするな、と、口煩く言われたことを思い出す。…俺に何かあれば、華奈子さんが悲しむ、と。俺はついぞそれを守ることはなかったが。

 さっきの誠良を見るに、アイツもきっとさっきの口約束なんて守らないだろう。…例えそれが、華奈子さんや智代子さんを傷付ける結果になったとしても。


「…守るものの為に自分を顧みないのは同じ、か」


 ──だから本当に、アイツは何処か俺に似ている気がする。



 誰もいない廊下を蹴って、俺は忙しない事務所内を抜けていく。

 智代子さんや出雲の話によれば、ここでは通常の業務の他にあの怪物共──真神類の事件も警察と連携して秘密裏に扱っているらしい。

 この慌ただしさもきっと、それに関係してるのだろう。…ここ数日、例の狼以外の真神類関連で何か起きたという話は聞かなかったしな。肝心の誠良があの状態だから、寧ろちょうどよかったのかもしれないが。


 出雲さん曰く、『代わり』があるから問題ないらしいが…一市民としては、早いとこ職滅して安心させてほしくはある。まぁ、俺が願ったところで何が起きるわけでもないけれど。


 閑話休題(さて、なにはともあれ)

 帰宅するにあたり、智代子さんに一声かけようと、デスクの並ぶ通路を通り過ぎようとした時。

 誰か消し忘れていたのか、つけっぱなしとなっていたPCの画面に映った画像が、まるで吸い寄せられるように俺の視界に割り込んでくる。

 画像は粗いが間違いない。



 ──あれは、俺が知っていた(・・・・・)白い龍の怪物だ。



ーーー



 とある建物の会議室。

 電気の消えた室内にて、プロジェクターによって投影された「人を襲う真神類」の映像。先日の狼達(・・)が割り込むところでソレは再生を終えると、冒頭へと戻り再生を繰り返す。


「──以上が、今回の実験における成果となります。残念ながらこの個体は『ヒロアス』『カフラマン』を名乗る彼らによって撃破(・・)されてしまいましたが、オピレイドの臨床結果として、副次効果(・・・・)も踏まえ十分であると考えます」


 タブレット端末を片手に淡々と言い終え、軽く会釈をするきらびやかな服の女──ヌセイリン。

 会議室を取り囲む面々(4人)を一瞥した彼女は、すました顔で映像の再生と止めると、正面奥に座る大男へと視線を向き直す。


「よくやった、ヌセイリン。…まさか、ここまで個体差が激しいとはな」

「…ありがたきお言葉」


 大男の声に、そう言って頭を下げるヌセイリン。

 ピリついた空気感の中、不意に舌打ちが室内に響き渡り、全員の視線が1人の女に集中する。


「どうかしましたか、ゲアジェント」


 集まる視線の先にいる、着崩したスーツの女──ゲアジェント。

 ヌセイリンに名を呼ばれた彼女は、忌々しげに机上の配布資料を投げ捨てると、椅子を蹴って勢いよく立ち上がった。


「納得いかないわこんなものッ!何故自力で進化もできなかった下等生物にこんな──ホルスザクもそう思うでしょ!?ね!?」

「…どうして俺に振る」


 騒ぎ始めたゲアジェントに、訝しげに苦言を呈する向かいに座るスーツの男──ホルスザク。

 そんな彼の一言に、味方をしてもらえないと察したゲアジェントは、わなわなと拳を震わして、次なる標的へと視線を向ける。

 

「ビャステコ!」

「はぁ…」


 案の定、といったように、溜息を吐いて資料を一瞥するスーツを着こなす女──ビャステコ。

 立っている2人を交互に見た彼女は、向かいの席に座るホルスザクを軽く睨見つけて、重々しいその口をゆっくりと開け語る。


「確かに、ゲアジェントの考えも一理あるわ」

「じゃあ──」

「でも、実験とはいえ私の部下がオピレイドによって一定の利益を得ていることも確かな事実。…それは貴女もわかっているでしょ?」

「──っ」

「…だから一つ、私から提案があるの」


 ゆっくりとビャステコを見つめて、「提案…?」と呟き返すゲアジェント。

 釣られて視線を向ける3人を他所に、ビャステコは再び小さく溜息を吐くと、資料をおいて口を開ける。


「実験体とはいえ、真神類(私達の同胞)撃破(・・)してきた巷で『ヒーロー』とか囁かれてる存在──エンバハル。さっきの映像にも出てきた邪魔者──ヒロアスとカフラマン。そろそろ鬱陶しくなってきたし、これを期にどちらが早く『処分』できるか勝負したらいいんじゃない?」

「勝負…ふふっ、そうね!見てなさいヌセイリン!自ら進化に到達した私達が、オピレイドなんて道具に頼った下等生物とは格が違うことを思い知らせてあげるわ!」


 勝ち誇ったように叫んで、その勢いのまま会議室の扉を開け放つゲアジェント。

 ホルスザクの咄嗟の制止は意味もなく、彼女は上機嫌にその場を飛び出すと、廊下の向こうへと消えて行く。


「…ビャステコ、お前──」

「責任転嫁はよしてよホルスザク。私は止められなかった貴方のかわりに『提案』を用意してあげただけだからね」


 憎めしそうに睨見つけるも、どこ吹く風と返されるホルスザク。

 ビャステコは「それに──」と言葉を繋げると、ヌセイリンに渡された資料へと視線を落とす。


「──ヒロアス、カフラマン、そして黒と白の(・・・・)エンバハル…『オリジナル』が見つかった今、厄介者には退場してもらわないといけないしね。…そうでしょう、



────アマトゥス様」



 アマトゥス、と。そう呼ばれた大男は、閉じていた瞼をゆっくりと開けると、その口角を怪しく吊り上げた。

名前:独孤ドッコ世界セカイ (31)

性別:男

備考:『ヒロアス』の変身者。

 幼馴染に衣食住全てを依存している生粋のダメ男。色街で美人局に騙され、デモルフィネと『ヒロアス』に変身できる不思議な銃を手に入れてしまった。

 幼馴染に促され、現在では真神類(マコト)を倒すためだけにその力を振るっていた。


名前:衣光イミツ言葉コトハ (30)

性別:女

備考:世界の幼馴染。『カフラマン』の変身者。

 世界経由で手に入れたデモルフィネと銃を用い、エンバハル(=誠良)の裏で真神類狩りを行なっていた。

 莫大な富を持つ投資家であり、とても正義感が強い。

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