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File2.本物の怪物

──前回のあらすじ──


 病院で目覚めた主人公、田辺タナベ明大アキヒロは、同じ病室にいたおばさん(廣瀬ヒロセアンズ)と出会い、この町に怪物とヒーローがいることを知った。

 俺が目覚めてから早2週間。

 点滴の取れた俺は、1年間動いていなかった筋肉を元に戻すため、病院内にある施設でリハビリを行っていた。


「お疲れさま。明大アキヒロさん」


 不意に聞こえたその声と共に差し出された、水の入ったペットボトル。

 ベンチに座っていた俺は、首にかけていたタオルで汗を拭うと、それを受け取りながら意識をそちらに向ける。


「ありがとう、華奈子カナコさん」


 反射的に出たその言葉に、ニッコリと微笑み返す銀髪の女性。

 俺が目覚めた次の日、宣言通りにお見舞いに来てくれた彼女は、佐倉サクラ華奈子カナコだと名乗り、俺の身体を拭いたりしてくれた。

 …まぁ、気恥ずかしい気もしたが、美人に世話されるのはやぶさかでなかったしな。

 俺の髭がこざっぱりしていたのも、彼女が手入れをしてくれていたからみたいだ。

 先生(医者)や看護師の話では、どうやら俺が病院に搬送されてからの1年間、彼女──いや、華奈子さんは毎日必ずお見舞いに来てくれていたらしい。

 …俺の世話までするもんだから、周囲からは恋人だと勘違いはされていたが。


 閑話休題。

 俺は華奈子さんから受け取った水を口に流し込むと、顔を垂れた汗と共に口元を拭う。

 …やはり運動後の水は美味い。うん。

 華奈子さんは半分残ったペットボトルを俺の手から取ると、流れるように俺の隣に座り込む。


「それで、どう?身体の調子は?」

「えっと…一応、もう俺の覚えてる感覚と同じくらいには自由に動かせる。先生も回復が早いと驚いてたけど」


 軽く笑いながら、当たり障りの無い会話をする俺達。

 毎日顔を合わせていたら、自然と話をするようになるのも必然、だったのかもしれない。

 俺自身、華奈子さんと会っていた記憶は無いが、話し掛けてくれる彼女は何処か懐かしく思えた。



ーーー



 華奈子さんが帰宅してから数分。

 自身の病室へと戻った俺は、ベッドに横たわる。


「お疲れさん、青年。今日も彼女とイチャイチャしてたのかい?」


 俺がベッドに入るなり、そんな声をかけてくるおばさん。

 茶化すような彼女の言葉を前に、俺はわざとらしく、一瞬だけ怪訝な顔を作る。


「いい加減、そういうのはやめてくださいよアンズさん…それに、何度も言いましたが俺と華奈子さんは付き合ってません。…彼女はただ、助けられた恩を返そうとしてくれてるだけだと思いますよ。…まぁ、俺にそんな記憶は無いんですけど」

「あら、本当にそうなのかい?…アタシには、あのがそんなふうに動いてるとは思えないけど…」

「ハハ…冗談はよしてくださいよ、杏さん。…そう言われたら、勝手に期待しちゃうじゃないですか」


 そう、例え冗談だったとしても、割と本当に勘違いしそうで怖い。

 非モテの悲しいサガなのかな、俺はこの2週間、勝手に期待しかけてる自分に対して何度自己嫌悪したものか…


 そんな俺の心情など露知らず、ニヤニヤと笑みを浮かべるおばさん──否、杏さんが視線を外した瞬間、不快なサイレン音と共に窓のカーテンが赤く染まる。


「──また、だね…」

「えぇ…もういい加減慣れ始めた自分が嫌になりますよ」


 先程までの表情から一転、暗い顔をする杏さん。

 外から鳴り響く、この大量のサイレン音は、十中八九あの怪物達が引き起こしたものだ。

 この2週間、毎日のように聞いていたせいか、この音は嫌でも俺の耳残る。


 …華奈子さんは大丈夫だろうか?


 ふと、そんな心配が俺の頭を過る。

 昨日までなら、そんなことを一切気にならないんだが…

 何故だろう、無性に嫌な予感がする。


「どうしたんだい?急に立ち上がって」

「えっ…?」


 不意に聞こえた杏さんの声に、ハッと我に返る。

 慌てて周囲を見渡すと、どうやら、俺は無意識のうちにベッドから飛び降りたらしい。


「俺、どうして…」


 救急車のサイレンに埋もれて聞こえる、今までとは違う不快なサイレン音。


 ──本当に、全くもって訳がわからない。

 なんで、こんなにも俺の胸はざわつくんだ。



ーーー



 ──ヴーヴーヴー


 大通りから外れた小道の中、スマホのバイブ音に反応するように、不意に乗っていたバイクを止めた青年。

 画面に表示された文字を見た彼は、被っていたヘルメットを外すと、それなりの長さのある銀髪を風になびかせながら、流れるようにスマホを耳に当てる。


誠良セイラ!中央3番地に真神類マコトが出現!既に警官と交戦中だけど、着実に糸羽イトウチョウ病院前へ向かってるわ!』


 スマホのスピーカーから聞こえた、焦るような女性の声。

 誠良セイラと呼ばれた彼は、反射的といった様子でキーンと響くスマホから耳を離す。


「糸羽町病院!?姉ちゃん、それってたしか──」

『いいから早く来て!被害が出る前にアンタが食い止めるのよ!』


 通話越しに聞こえる発砲音と共に、早口でまくしたてる女性のその声。

 わかった、と一言残した誠良は、ブツリと通話を切ると流れるようにヘルメットを被る。


 彼を乗せた蒼いバイクは、まるでその心情と共鳴する生き物のようにエンジンを蒸すと、誰もいない小道を勢いよく飛び出した。



ーーー



「総員、撃てェーッ!」


 不意に響いた掛け声と共に、周囲に鳴り響くいくつもの発砲音。

 武装した警官達の放った弾丸は、目の前に立つ、何処か蜥蜴を思わせるような異様の怪物へと突き刺さると、勢いをなくして地面に落ちる。


「ハッ…警察隊も所詮この程度か。面白くない」


 怪物から発せられた、ノイズがかった嘲笑うような声。

 一瞬の間を空けて、その声をかき消すように警官達は再び引き金を引くと、弾丸の雨を怪物へと浴びせる。


「──グゥ…ァ…」


 突然宙を舞った、一つの黒い影。

 うめき声と共に、警官達の立つ地面に落ちたソレは、彼らの装備を赤く染め上げる。


「ひっ───」


 先程まで生きていたであろう、かろうじて原型を留める赤い物体。

 ぐちゃぐちゃになったソレに意識を取られ、警官の1人が悲鳴を上げたのも束の間、不意に怪物は地面を蹴ると、警官達を蹴散らしながら指揮官と思われる男の首を掴む。


「オイ、これ以上殺されたくなきゃさっさとこの場を引きやがれ」

「──ッ!」


 声と共に歪な口元から溢れる、怪物の生暖かい吐息。

 ギリギリと首が締められる中、男は怪物を腕を掴むと、射殺さんとばかりにキッとソレを睨み付ける。


「誰が、言うことを聞くと思っt──」

「じゃあ死ね」


 男が言い終えるより早く、冷たい声でそう吐き捨てる怪物。

 投げ捨てられた男のその身体は、ゴロリと胴体と頭を引き離しながら、警官達の足元に転がり落ちる。


「ひっ────」

「馬鹿、怯むな!今は奴を──」


「鬱陶しい」


 警官達が再び銃を構えようとした瞬間、 遮るように漏れた怪物の声。

 まるでその声に共鳴するように、不意に周囲に飛び散った血が、いくつもの人型の何か(・・・・・)へと姿を変えると、警官達へと襲いかかった。



名前:佐倉サクラ華奈子カナコ (26)

性別:女

備考:本作のヒロイン。

 かつて明大に助けられたことがあり、毎日欠かさず昏睡状態だった彼の元へお見舞いに訪れ、身の回りの世話をしていた。


名前:廣瀬ヒロセアンズ(??)

性別:女

備考:明大におばさんと呼ばれていた女性。

 保育士だったが、真神類マコトに襲われたことにより左足と夫を失い、現在は休職中。

 娘が一人いる。

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