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File13.双子の妹

──前回のあらすじ──


 華奈子カナコの双子の妹、智代子チヨコ邂逅(・・)を果たし、流れで家に上げてしまった明大アキヒロ

 一方その頃、糸羽町市では怪死体と共に新たな真神類マコト達が動き出していた。

「それなら、華奈子ちゃんの家に住めばいいんじゃない?」

「智代子ちゃん!?」


 部屋のことについて話すや否や、思い付いたようにそんな言葉を口にした智代子さん。

 隣に座っていた華奈子さんがとんでもないものを見るような表情で立ち上がっている。


 うん、そりゃ当然の反応だろうな。俺だっていきなり弟からそんなことを言われたら同じ反応をしただろう。…ま、弟とはもう話すことすらできないんだけど。


 憂鬱になりそうな思考を振り払って、2人の方へと視線を戻す。

 立ったまましばらく固まっていた華奈子さんは、チラリとこちらを一瞥すると、智代子さんの耳元へと口を近づける。


「智代子ちゃん、そういうのは、もうちょっと段階を踏んでやるもので…いきなり言っても引かれちゃうだけじゃ──」

「何を言ってるの華奈子ちゃん!そんなんだからいつまで経っても進展なんてしないのよ!」

「でも…」

「こういうのはさっさと既成事実でも作っちゃえばいいのよ!」

「き、きせ─!?」

「そうよ既成事実!わかるでしょ?モタモタしてたらまた(・・)誰かに盗られちゃうよ!」

「──ッ…でも…」


 …うん、とんでもない話をしてるな。

 2人には申し訳ないが、小声で話されてるとはいえ、遮るような生活音もないしバッチリと聞こえてるんだよなぁ…


 別に俺だってそこまで鈍感ではないし、俺個人としては惚れた女(華奈子さん)の家に住まわせてもらうのもやぶさかでないんだが…


 小声で言い争う2人を他所に、俺は再び思考を振り払うと、窓から見える明るい庭へと視線を移した。



ーーー



 明大が思考を放棄するのと同じ頃、出雲と別れた誠良は、興信所へ向かって蒼いバイクを走らせている。


「…?」


 大通りから脇道に逸れようとした瞬間、不意に視界を横切った黒っぽい人影のような何か。

 ドリフトをかけながら、反射的にバイクを停めた誠良は、ヘルメットのバイザーを軽く上げると周囲の景観へと視線を凝らす。


「…気の所為、じゃないよな。…クソッ」


 代わり映えしない町並みを前に、そんな言葉が口から漏れる。


 ─今のは真神類だ、と。己の直感がそう告げる。


 バイクから降りた誠良は、胸元に入れたスマホに手を伸ばすと、周囲を警戒するようにして近くの路地へと足を急がせた。



ーーー



「──ので、是非華奈子ちゃんの部屋にですね…」

「ぉ、ぉぅ…」


 身を乗り出す智代子さんの熱弁に、困惑混じりの声が漏れる。


 …しかし何故、彼女はそこまでして俺を華奈子さんの部屋へと連れていきたいんだろうか?

 少なくとも、俺が目覚めてから一月以上関わりのある華奈子さんが言い出したならともかく、初対面(・・・)である智代子さんがこう勧めていることが引っかかる。


 そんな思考を掻き消すように、何処ぞのセールスの如く息継ぎする間もなく喋り続ける智代子さん。

 ふと視線を泳がせると、目の合った華奈子さんは恥ずかしそうに俯向く。


「─ッ」


 顔に熱が集まるのを感じて、反射的に目を瞑る。

 なんだ、なんなんだ今の反応は!?まさか華奈子さんも満更でもない、とかなのか?だが──



 ──ヴーヴーヴー


「ッ!?」


 不意に鳴り響いた、着信を知らせるスマホのバイブ音。

 いつの間にか話を止めた智代子さんは胸元から取り出したスマホを見るなり表情を変えると、俺達を一瞥してリビングを出る。


「智代子ちゃん、また仕事でなにかあったのかな…」


 ポツリ、と。閉められた扉を見つめながらそんな声を漏らす華奈子さん。


 …そういえば、さっきまでの智代子さんの話的に華奈子さんだけ勤め先が違うんだったか。

 毎日のように怪物が出るこのご時世、不安になるのも仕方ない、か。…(セイラ)が怪物と戦うヒーローだというのもきっと知らないんだろう。彼なら身内である華奈子さんに伝えるようなことはしていないと、理屈でもなくそんな気がする。


「ごめん華奈子ちゃん、ちょっと急に仕事が入っちゃって…」


 リビングの扉が開くなり、開口一番にそう言う智代子さん。

 流れるような動作で智代子さんに何やら告げ口をした彼女は、ニッと口元を歪めると「お邪魔しました」という声と共に退室した。


「なんだったんだ一体…」


 再び訪れた沈黙に、無意識的にそんな声が漏れる。

 この小一時間、智代子さんが上がってからしたことといえば、俺を華奈子さんの家に住むよう頼んできたことくらいだ。「忘れ物を届けにきただけ」で済む内容でもないし…正直なところ、俺には彼女がここに来た理由が検討もつかない。


「どうしたもんかね…」


 疑問するように呟いて、電気のつかない天井をただ無意味に見上げる。ふと視界に入った時計は、12時を回る頃だ。


「そうだ。華奈子さん、昼食はどう──」

「──…たいです」

「ぇ?」



「私…は、明大さんさえ良ければ…その、一緒に暮らしたい、です…」



「えっ…?」


 え?華奈子さんは今なんて…?一緒の暮らす…?誰と?俺と…?


 混乱する思考を抑えて、上げた視界を彼女へと戻す。


「…っ」


 完全な不意打ち。

 顔を赤らめて言葉を絞り出す彼女を前に、俺考えることを放棄した。



ーーー



 大通りから少し外れた路地裏にて。

 光の届かぬ細道を走る誠良は、不意に突き当たりの分岐路に着くと、見渡すようにしてその足を止める。


「クソッ…犯人は現場に戻る、とは言うがアテが外れたか…」


 鼠一匹いる気配すら無い路地に、誠良の荒んだ声が木霊する。

 早速連絡を、と。胸元からスマホを取り出そうとしたその瞬間。不意に視界に入ったモノを前に、直感的にその手を止める。


「これは…」


 無意識的に歩み寄り、ハンカチーフで包んで拾い上げる。

 カードのようなソレを目に、誠良は一瞬目を見開くと、すぐさまスマホを取り出した。

名前:出雲(??)

性別:男

備考:糸羽町市の真神類関連に精通する部署の警部補。

 誠良らと協力して真神類関連事件の調査・解決を行っている。

 誠良=エンバハルであることを知る数少ない人物。

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