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File12.日常の再開

──前回のあらすじ──


 誠良セイラと別れ、人気のない実家へと帰宅した明大アキヒロ

 持ち帰ってしまった黒く無骨な注射器デモルフィネを目に、明大は彼ら(ヒーローや怪物)との接触を決意するのだった。

「おはようございます」

「ッ…!?お、おはようございます…」


 朝日共に目が覚めて、昨日まとめたゴミを出す。

 すれ違った近所の人達は、俺を見るなり幽霊でも見たような表情を作っている。

 驚きと恐怖。怯えたような彼らは、俺に挨拶をするなりそそくさとその場をあとにする。


 まぁ、そんな反応も無理はない、か…

 詳しい情報を知らない彼らにとって、俺は3年越しにいきなり帰ってきた状態であり、一ヶ月前の家族の葬式にも出なかった人でなしの男だろう。…さも当然のように挨拶されたら俺だって同じ表情になる。


 重い足を動かして、実家の玄関のドアに手を引く。


 ──ペキッ…と、壊れる音がして、反射的にノブを離す。


「はぁ…」


 誰かの悪戯か、それとも単に風化か何かか。手形のように凹んだノブを前に、思わずため息が漏れてしまう。

 不幸なことは重なるというか、今日も朝からツイてない。


 幸い、凹んだのは持ち手のみだし、ノブを掴まず無理矢理開ければ入れはする。…どうせ盗まれてすぐに手放す予定だし、しばらく放っておいても問題無いだろう。

 そんなことを考えて、ノブの可動部分に手をかける。


「あの、明大さん…?」


 突然聞こえたその声に、俺は思わず振り返る。


「なんで…」

「その…昨日はごめんなさい」


 俺の視線の先──家の前で、何やら紙袋を携えた華奈子さんはそう言って頭を下げてきた。



ーーー



「悪いね、急にここまで呼び出して」


 糸羽町市の南側、沿岸部の一角にて。

 バリケードテープの前に降りた誠良は、難しい顔をする警官の男を前に、いつものように(・・・・・・・)それを潜って中へ入る。


「直接呼び出されるなんて珍しいしですね、出雲さん。…今回は別件で何か合ったんですか?」


 誠良のその言葉に、一瞬躊躇うように口を閉じる出雲と呼ばれた警官の男。

 彼は広げられていたブルーシートをゆっくりと持ち上げると、覗いてみろと言わんばかりに誠良へ向かって手招きをする。


「──ッこれは…」

「…見ての通り、まるでミイラのように干からびてやがる。もはや死亡推定時刻も当てにならんだろうな」


 ブルーシートを元に戻し、静かに息を吐く出雲。

 興信所に勤める自分の見解が求められているのかと、誠良が視線を動かした瞬間、不意に出雲は肩を組むようにして顔を近付けると、囁くように口を開ける。


「まだ憶測だからあまり大きな声では言えないんだがな…俺はこの件、真神類の仕業なんじゃないかと考えてる」


「──え?」


 しばらくの沈黙の後、言葉の意味を理解したように間抜けな声を上げる誠良。


 誠良の知る限り、真神類に直接襲われた人間は綺麗に肉体が消え去っており、ましてやミイラ状態の死体など目にしたことも無かった。


 言葉の意味を確かめるように、誠良が視線を戻すと、出雲は周囲を一瞥して胸元から一つの袋を取り出した。


「これって──」

「あぁ、間違いなく例の注射器(デモルフィネ)だ。…変死体(コイツ)の服ん中に未使用のものも入ってた」

「なら、なんで死んで…」

「言っただろ?真神類の仕業かもしれないって。これは俺の想像の域だが…おそらく、別の真神類と交戦したんだろうよ。そうすれば、何かに抵抗しようとした形跡にも説明が付く」


 現実がどうかは知らんがな、と、最後にそう付け足して、誠良の肩を叩く出雲。

 彼は注射器(デモルフィネ)の入った袋を丁寧に胸元に仕舞うと、現場検証をする他の警官の元へと戻っていった。



ーーー



 ひとまず華奈子さんを家に入れてから数刻。差し込む日光に照らされたリビングにて、俺達は向かい合っている。


 …しばらく流れる無言の時間。

 会話の食い違いだったとはいえ、昨日の今日だしとても気まずい。


「あの…」


 不意に響いた、おずおずとした華奈子さんの声。

 何も無い家内に泳がせた視線を彼女に戻す。


「明大さん、昨日は本当にごめんなさい!」


 突然頭を下げた彼女を前に、俺は慌てて席を立つ。


「ちょ、なんで華奈子さんが謝るんです!?そりゃ平手は痛かったですけど、別にわざわざ謝られるようなことは──」

「だからこそ、です…」

「…え?」


 なんの脈略も無い彼女の言葉に、思わず素っ頓狂な声が漏れる。

 ゆっくりと顔を上げた華奈子さんは、そのまま立ち上がると膝前に置いた手を強く握りしめる。


「あの後、弟─誠良から話を聞いたんです。お互いに誤解があったって。まさか、明大さんと誠良に交流があるなんて思いませんでしたけど。…優しい明大さんなら、きっとまた許してくれるってわかってたんです。けど、これは誤解のままで済ませたくないから、だから──」


 ──コンコン、と。不意に扉が叩かれる音。

 彼女はそこまで言いかけて、背筋を伸ばして口を閉じる。


 なんと間が悪い、と。そう思いながらも音のした玄関へと向かう。

 おそらくこの後、言葉の続きを聞くような機会はそうそう訪れないだろう。…でももし、あのまま続きを聞いていたらどうなったのだろうか?

 ゆっくりとノブに手を伸ばし、優しく扉を押してみる。

 妄想のような俺のそんな思考は、扉先に立つ華奈子さんと瓜二つの女を前に粉々に砕け散った。



ーーー



 プライバシーとはなんだろうか。

 正面に談笑する2人の女性を前に、ふとそんな考えが脳裏を過る。


 佐倉智代子(チヨコ)、興信所の経営者にして華奈子さんの双子の妹…らしい。左目の泣きぼくろがあるが…正直、パッと見だと華奈子さんと見分けがつかない。


 閑話休題。


 智代子さんの話曰く、彼女は華奈子さんの忘れ物を届けに来ただけらしい。

 …なんでここに華奈子さんがいるのを知っているのかとか、どうして初対面である俺のことをそこまで知っているのかとか、色々気になるところがあるにはあるが…この際それはどうでもいい。うん。俺と同い年であの規模の興信所を経営しているんだ、これくらい造作もないのだろう。


「それで、ずっと気になってたんだけどさ」

「ん…?どうしたの智代子ちゃん?」

「あー…その、華奈子ちゃんじゃなくて田辺さんに聞きたいんだけどさ」

「え?」


 不意に話を振られ、反射的に声を漏らす。

 無造作に置かれた遺影を一瞥した彼女は一呼吸いれると、そっと口を開けた。



「事情をある程度把握してるとはいえ、なんでこの家、こんなに何も無いの…?」



ーーー



「これで、3人目…」


 日光の遮られた路地の中、静かに響いた低い声。

 散乱した服を踏み荒らした怪物は、己の右手を開閉させると、獣のような口角を静かに引き上げた。

名前:■■■■(??)

性別:男

備考:キノドンのような特徴を持つ第2ステージの真神類。



 

 

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