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File1.画面越しのヒーロー

 風都〇偵を見ていたら、無性に変身ヒーローモノが書きたくなったので書きました。


 とても不定期更新になると思います。

「いらっしゃいませ」


 とある商店街の一角で、不意に響いた高い声。

 黒い長髪の、何処か幼気な雰囲気を残した女性は、忙しなく通る人々へ向かって声を張り上げる。


 普段から賑わいをみせるその通りは、ひらひらと舞う桜の花弁によって、より一層活気を増していた。


「やぁ、こんにちは」


 店番をしていた彼女の声に導かれるように、ふらりと来店してきた一人の男。

 三十代前半だろうか、厚手のコートに深くハットを被った彼は、彼女に向かって声を掛ける。


「今回も、いつもと同じのを頼めるかな」


 特に店内を覗く訳でもなく、男は落ち着いた声音でそう言う。

 女性は、待っていたかのように微笑むと、「少し待って下さいね」と言い残して店の奥へと消えていった。



★ー☆ー★ー☆



 ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…


 一定のリズムで流れる電子音と共に、ゆっくりと目が覚める。

 ぼんやりとした視界に写る、白い天井。

 手も足も動かぬまま、俺はしばらく、ボーっとしていると、ようやく思考が動き始めた。


「…知らない天井、だな…」


 よくあるテンプレートのような、そんな台詞。

 自分が病室のベッドで寝ていることを理解するのに、そう時間はかからなかった。


「…目が覚めました?」


 不意に俺の視界に飛び込んできた、美しい銀色の短髪をした女性。

 誰だかはわからないが、ニッコリと微笑んだ彼女は、思い出したようにナースコールをすると、俺の視界から消える。


 さて、ここまできてようやく気付いたが…俺は何故病室にいるのだろうか?

 脳が働いていないせいなのか、記憶はひどく曖昧だが、これといって事故などに巻き込まれるようなことは無かったはずだ。

 それと、何処か親しげに話し掛けてきた先程の女性は、一体誰なのだろうか。


 ドタドタと誰かが病室へ入ってくる音。

 俺はかろうじて動く首をそっと右へ向けると、どうやらナースコールを受けた医者が来ていたようで、例の彼女が何やら話をしている。

 見ればパイプ椅子もあるし、視界から消えた彼女はそこに座っていたようだ。


 彼女と医者との話が終わり、不意にこちらを向いた医者にパチリと目が合った。



ーーー



「それでは、私はこれで。何かあればまたお呼びください」

「ありがとうございました」


 医者の言葉に、礼を言って頭を下げる女性。

 医者との話を終えた俺は、取り付けられた点滴を見回しながら、そっと息を吐く。

 いつの間にか動くようになっていた上半身が、少しだけ上げられたベッドに深く体重をかける。


 …どうやら俺は一年間、この病院で眠っていたらしい。

 なんでも、ガラの悪い奴らに襲われた彼女を守って、その時浴びた銃弾で大怪我をして病院に運ばれたんだとか。

 もちろん、そんな嘘みたいな話を信じられるわけもない。自分で言うのも何だが、俺は何処ぞのヒーローとは違って、誰かを助けられるような、そんなできた人間ではない。

 彼女には何度もそう言ったが、そんなことないと全く取り合ってくれなかった。

 医者の話によれば、曖昧な俺のこの記憶も全部、一種の記憶喪失のようなものらしい。

 まるで現実感の無い話だが、思い出せないので、とりあえずそのままにしておく。…まぁ、英雄ヒーローみたいって言われるのは悪い気はしないしな。


 ──ヴーヴーヴー


 不意に鳴り響いた、スマホの振動音。

 俺の顔を覗き込んでいた彼女は、ポーチの中にあるソレをサッと取り出すと、慌てた様子で俺とスマホを一瞥した。


「あの、俺のことはいいんで早く出てあげてください」

「あ、す、すみません!明日、また来ますから。では」


 ニコリと微笑みながら、そう言ってせわしく病室を出た彼女。

 ガラガラという、引き戸の閉まる音とともに、俺は肩の力をそっと抜く。


「良かったのかい?行かせちゃって?」


 俺の安堵も束の間、突然聞こえた女性の声。

 視線を声のする左へと向けると、いつから覗いていたのか、ニヤニヤとした表情をしたおばさんが、カーテンの隙間から顔を出していた。


「えっと、どういうことで…?」

「アハハ…面白いこと言うね、君ィ。あんなに可愛いを引き止めないで帰らせちゃうなんて、アタシゃびっくりしたよ」

「は、はぁ…」

「ま、あんな出来た彼女さんを取られないように、精々頑張りなさいな」


 何処か馴れ馴れしく、軽口を叩くおばさん。

 この人の目にはどうやら、先程の女性が俺の恋人のように写っていたらしい。

 いや、そもそも1年と寝たきりだったし、名前すら知らん人が恋人な訳無いだろ…


「ん?どうしたんだい?」

「あ、いえ…」


 不意にカーテンの隙間から視界に入った、おばさんの足に巻かれた包帯。

 骨折、でもしているんだろうか…?

 彼女は、そんな俺の視線に気付いたらしく、自身足と俺を交互に一瞥すると、そっとカーテンを開けた。


「この足、気になるかい?」

「あ、いや…」

「アハハ、なに、口籠ってるんだい。そもそもここは病院。怪我人と病人がいるのは当たり前さね」


 あっけからんと、そして何処か暗い表情でそう言うおばさん。

 …まぁ、怪我をした理由だって人それぞれだし、深追いする必要もないか。


 俺がそんなことを考えていると、不意に外からサイレンの音が聞こえてきた。

 ここは病院だし、緊急の患者が来るのはわかるんだが…なんか多くないか?


「はぁ…今日も、かね…」

「えっ…?」


 何処か哀愁に満ちた声で、ポツリと呟くおばさん。

 反射的に声を上げてしまったが、我ながら無神経だったかもしれない。


 俺の心配も束の間、彼女は不意ににこちらへと視線を向けると、ぎこちない笑みを浮かべる。


「お前さん、優しいんだね」

「え…?」


 おばさんが溢した、そんな言葉。

 またも反射的に声を出したが、彼女は段々と柔らかい表情へと変わった。


「そんな心配そうな顔しないでよ。空元気なアタシが馬鹿みたいじゃないか」

「は、はぁ…」


 俺の口から出るのは、「はい」とも「いいえ」とも違う、曖昧な溜息(返事)

 空元気、と、自分のことをそう言った彼女は、ベッド端に置かれたリモコンを手に取ると、備え付けのテレビへとそれを向けた。


「少しだけ、アタシの話を聞いてくれるかい?」


 何処か寂しそうに、そう問いかけるおばさん。

 先程までの、絡んできた時とは全く違うその姿を前に、俺は何かを考えるよりも先に頷いていた。


「ハハ…助かるよ」


 彼女は、乾いた声でそう言って、テレビをつける。

 外のサイレン音が鳴り止まぬ中、俺の視界に写ったのは、見たことのない「現実」であった。


『こちら、現地より中継です。


 現在、怪物は周囲を取り囲んだ警察と交戦中。


 死傷者の数は現時点では不明ですが、駆けつけた救急隊によって次々と救急車へと運び込まれております。


 周囲の住民は、警察の指示により、速やかに避難を──』


 テレビから聞こえた、アナウンサーのそんな声。

 画面の向こうには、黒い人型の何かが、武装した警察官に包囲されている。


「なんだ…これ…」


 まるで、特撮ドラマのワンシーンのような、非現実的な中継映像。

 ふとおばさんの方へと視線を向けると、彼女は何か悔しむように拳を握りしめていた。


「見たかい、お前さん。…これが現実だよ」

「現実って…そんな馬鹿な…」

「…」


 俺の言葉に、無言で首を振る彼女。


 いや、嘘だ。俺の知っている限り、こんな映像はエンタメの一部、つまりヤラセなはずだ。

 そう決めつけて、俺はかろうじて動く左手で、自分の頬を抓った。


 ──痛い。


 筋力が落ちているせいで、そんなに強く抓ってはいないはずなのに、俺の頬には確かに痛みが伴っている。

 …そんな馬鹿な。

 先程の自分の台詞を、脳内で復唱する。

 鳴り止まぬサイレンの音は、そんな俺の思考を否定するように俺の鼓膜を揺らす。


「現実、なんですか…」

「…」


 何を言うでもなく、ただ頷くおばさん。

 どんな言葉よりも、その行為は俺の思考に深く刺さる。


 周囲の音とは裏腹に、しんとする病室の空気。

 テレビやサイレンの音が鳴り響く中、不意に彼女はうわ言のように口を開けた。


「アタシの旦那はさ…怪物に殺されたんだよ」


「───え…」


 頭をガツンと叩かれたような、そんな衝撃。

 それくらい、おばさんの放った言葉は、俺の頭に響いてきた。


 ─殺された?


 ─誰が?


 ─この目の前にいる女の身内が?


 ─テレビに映り込んだ、あの得体の知れない怪物に?


 三度みたび、俺の思考はかき乱される。

 液晶を見つめる彼女の表情は、何処か哀愁に満ちていて。

 その言葉は事実なんだと、俺の中の、思考でない何かがそう伝えてくる。


「つい、先週の話さ。アタシのこの足も、奴に襲われてできたもんだしね」


 瞼に涙を浮かべながら、言葉を紡いでいくおばさん。

 今まで、誰にも話したことがなかったのだろうか。俺に話した彼女は、涙を流しながらも何処かスッキリとした表情へと変わっていた。


「…もう、1年くらい前になるのかな。町に怪物が現れて、人が殺されたのは」

「…1年、前…」

「あぁ…アタシ達も最初はなんかの冗談かと思ったさ。…でも、現実ってのは残酷でね。アタシの友人も、同じように襲われかけたとか、そんな話も聞くようになった。…それで、先週遂にアタシ達が巻き込まれた」


 奮闘する警官達の映像を眺めながら、淡々とそう語るおばさん。

 彼女の頭には、きっとその時の記憶が焼き付いていて、この映像は苦痛以外の何物でもないはずなのに。

 言葉ではないけど、それを乗り越えようとする彼女の想いは、俺の心に深く響く。


「…でもね、あの日はそれだけじゃなかった」

「ぇ…?」


 今日何度目かの、素っ頓狂な俺の声。

 おばさんはそんな俺を無視して話を続ける。


「そう…あの日、アタシ達は出逢ったのよ。怪物のいるこの町から、アタシ達を守ってくれるヒーロー(・・・・)に」


 今までの比ではない、彼女の複雑な声音。

 その言葉が鼓膜を震わせた、まさに瞬間。テレビの映像に、一つの新しい影が映る。



 何処か蟲や龍を思わせる、まるで特撮ヒーローのような、洗練されたシルエット。

 モノクロのボディに入った、一筋の紅いライン。

 黄色い複眼を淡く輝かせた、ひとりのヒーロー(・・・・)が、怪物から警官を庇うように、映像の中へと飛び込んできた。



「あれが、英雄ヒーロー…」



 無意識に口から漏れた、そんな俺の声。

 おばさんは、一瞬驚いたように俺へと振り返ると、再びテレビへと視線を戻す。


「…そう。彼が、アタシ達を助けてくれた命の恩人。…彼がいなきゃ、アタシはここにはいない」


 そこまで言って、再び表情が曇る。


「──でも本当は、もっと早く来てくれれば、旦那も死なずに済んだのにって、未だに思ってる。…でも、彼が来なきゃ、アタシも、娘も助かってないのは事実だし、それ以上は望んでない」


 そんなおばさんの声が届くはずもなく、テレビに映ったヒーローは、襲い来る怪物に拳を叩き込む。

 きっと、彼女の言葉は正しい。そう、頭では理解している。

 でも、人を庇いながら、怪物と交戦するのその姿は、そんな言葉では否定できないと、俺は直感的にそう思った。


「…きっと」

「ん?」

「…きっと、も精一杯、なんじゃないでしょうか。…俺には、偽善者にしては美しく見えます」


 俺のその言葉に、一瞬呆けたように固まるおばさん。

 画面の向こう側で、怪物を爆散させたは、震える両腕で酷い表情をした青年を抱えている。


「…っぷ、アハハ!…面白いこと言うね、君ィ」


 中継が切れた瞬間、唐突に笑いだしたおばさん。

 暗くなっていた空気は、いつの間にか明るくなっていた。


「確かに、お前さんの言うとおりなのかもしれんね。…アタシ達は今、こうやって生きてるんだ。…決して見捨てられたわけじゃない」

「そう、ですね」

「あぁ…!お前さんに話をして良かった。…これから、自分が何をすべきか、ちょっとだけわかった気がするよ」


 考え方が少し変わったのか、最初よりも明るくなったおばさん。

 そんな彼女の生き様と、中継の最後にちらりと映った、仮面を被ったの後悔するような表情・・を目に、俺はふと考えるのだ。



 この町にはヒーローがいる。



 ──と。

名前:田辺タナベ明大アキヒロ (26)

性別:男

備考:本作の主人公



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