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8.猿里八は理不尽。+とある委員長の熱い想い



 俺が長い長い回想をしていた間も八巻は俺に悪態をつきっぱなしだった。

 面倒くせぇー。イケメンだけど、とにかく面倒くせぇ-。

 「はいはい」と適当にあしらっていたら・・・・・・


 ぐぎゅるるる~


 と八巻の腹が鳴った。

 『お前、朝飯食べてないの? これ、食うか?』


 と言って、俺が今まではむはむしていた食べかけのタコスを差し出す。

 イタズラのつもりでニヤニヤしながら差し出したものの、八巻は顔を真っ赤にして、


 「おっおまっ!それっかんせつっっき、ききっっ・・・・・・いいのか?」


 と、少し慌てた後になんと素直に受け取ろうとした!! てか『間接木』ってなんだ??

 奴は俺の手首を摑み、そのまま俺の手づから食べようと口を近づけていく。


 イケメンが目を伏せて、口を大きく開けている。やばい・・・・・・かわいいかも・・・・・・

 「うわぁっ、いやいや待って待って!!!こっちが恥ずかしいわっ!やっぱやめて!!」


 と今度は俺が慌ててしまったが、奴は気にせず動きは止まらない。俺の片方の空いた手も掴まれて、止めることができない。ふぎゃーーーー!!!


 

 あと少しで食べられるっというところで、俺の差し出した右腕を後ろからガッと掴まれぐいっと持ってかれた。

 後ろを振り向くと、チヒロが八巻の代わりに俺の手から食べかけのタコスをもくもくと食していた。

 チヒロは最後の一口まで食べほすと名残惜しむように俺の指をペロッと一舐めし、口を離していった。


 「うまかった」


 「・・・・・・お前がうるさいからチヒロが起きちゃったでしょうがぁぁぁ!!!!」


 俺は正面に向き直り、一部始終を目撃してわなわなしている八巻を叱咤した。

 


 「はあっ!??おまっ、なっんだよ今のはっ!! ってか、なんで俺が怒られるんだよっ!!」


 「チヒロの睡眠を妨害した罪は重い! あと、今のが最後の1つでした~残念♡」


 「くっかわっ・・・せっかくの間接キッ・・・・・・だったのに・・・・・・」

 だから『間接木』とはなんだよ。


 ――キーンコーンカーンコーン――


 「あー、もうチャイム鳴ったから、バイバイ」


 「また来るかんなっ!! 覚えてろよチヒロ!!」


 あー、でたー名ゼリフ『覚えてろよ』。名ゼリフが『覚えてろよ』って・・・・・・ふふっ

 ちょっと悲しいトコあるよなあ、あいつ。それにしても、なんでチヒロを敵視してんだ?

 チヒロなんかしたっけ?


 ガラッ

 「おはよー」

 「おはよ2人とも」


 「おはよー」


 予鈴が鳴って人がどっと入ってきた。

 今まで俺たち2人+八巻しか教室にいなかったんだぞ。みんな遅くない?大丈夫?







 マキは知らない。

 授業前の朝の時間、教室がマキ達2人の無意識な甘い空気によって大変入りづらい雰囲気になっていることを。

 そしてクラスメイトはそのムードを壊したくない半分、チヒロが怖いというのが半分でその時間教室に足を踏み込まないようにしているのだということを。
















 ある生徒は見た。恋人ではないというほうがおかしい2人の、朝の教室での甘い甘いやりとりを。

 その生徒は入学式を終え今日から授業だという日の朝、張り切って教室一番乗りになろうとめためた早く登校したのだ。

 『ふふっ。誰もこの時間には来ていないはず。 僕が記念すべき最初の日の一番乗り・・・・・・ふふっ』


 そう優越感を抱きほくそ笑みながら廊下を歩き、2組の教室のドアを開けようとし窓の向こうをそれとなく見たとき、チヒロとマキがいるのが見えた。

 あの2人は色々と有名なのを聞いている。なんかガキ大将みたいなのをバッタバッタ倒しているとか、小学校では全部の部活でレギュラーの座を奪い好き勝手に暴れまくっただの、熊と戦って勝っただの、(以下略称)・・・・・・


 どうしよう。1人で入るのめちゃめちゃ怖いんですけど・・・・・・。いきなり初日にカツアゲされたりして。ひぇー!!誰か来るまでここで待ってよう。


 そう思って窓から様子を窺っていると、なんと2人は教室で何かを食べていた!!!!

 おい!中学では学校に食べ物もって来ちゃダメなんだぞ!!先生に言うぞ!!


 真面目な少年にとって校則というものは絶対であり、それを破ることは禁忌に値するものだった。

 これは許すわけにはいけないと、彼は2人に怯えながらも勇敢に注意しようとドアの取っ手に手をかけたそのとき、中からマキのほんのり甘い声が聞こえてきた。


 『もーぅ、また朝ご飯食べずに来たの~?ダメだよー、朝はちゃんと食べなきゃ。 ほらっ』


 『ん。うまい』


 『ほんと?よかった。これ、俺の創作料理。・・・これ好き?』


 『好き』


 『ふふっ。口に合ってよかったぁ。  あっ、じゃあ明日から俺がチヒロの朝ご飯作ってきていーい?こうして教室で食べよ?』


 『じゃ俺明日からちゃんと喰ってくる』


 『ははっ、うん。そうして!朝は絶対食べたほうがいいから!! 今日のはチヒロのために作ったんだから全部食べてね』


 『おう』


 『でもさ、朝の教室って静かでいいね。 なんか、この時間好きかも』


 『そうだな』


 



 ・・・・・・・なんだ、これ。

 え、この2人コイビト?  あっまーーーーい。

 ちょっ、見た目と噂で引かれる2人がこんなっ、甘い空気を作り出すとは。 ギャップ萌え・・・

 これが萌えかっっ!!


 2人の普段とのギャップに朝一でヤられて悶えながらドアにしがみついている生徒の肩に手が置かれた。ヒォッとなって振り返ると、そこには2組の生徒であろう男子が怪訝な目をこちらに向けていた。


 『どうしたの。入らないの?』


 『だだだダメですっ!いい今はっっダメですぅぅー!!!』


 2人のやりとりを目撃した生徒は今来た男子の腕をひっつかんで下駄箱の方に引っ張っていった。

 

 『え、なになになに。どうしたの?』

 男子はうろたえていたが、生徒は自分の判断は正しいと確信した。




 その日クラスの委員長を決める際、その生徒は委員長に立候補した。そして晴れて委員長になった彼は、チヒロとマキが終了のチャイムと共に教室から去っていったのを確認するとその他の生徒全員に『朝教室に入るのは予鈴が鳴ってから』と命令した。


 そして彼は委員長の名にかけて、毎回の席替えのクジを全力で仕組むことになる。




 

 彼は2人の朝の甘い空気を死守することを誓ったのだった。


 



 


























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