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7.中学入学式(襲い来る不安)



 ――中学校の入学式――


 『おまたせっ!ごめんチヒロ!!』


 『別に。今来たとこだ』


 いつも待ち合わせの場所には2人同時に着くという不思議があるが、この日は俺が珍しく遅れてしまった。入学式とか結構大事な式の前の日って、よく眠れないんだよな・・・なんか、緊張しちゃって。

 前回の中学校の入学式とかどうでも良すぎて何とも思わなかったのを覚えているけど、今回はチヒロと一緒でわくわくする。それに両親も来るしな。だから珍しく緊張するのだ。


 俺自身の中学の入学式・・・懐かしいな・・・・・・

 最初の方は友達たくさん作ろうって意気込んでたのに、結局無理だって悟るんだよな。

 だから中学でもぼっちだったなぁ・・・・・・ぐすっ

 今はチヒロに感謝だな。一緒にいてくれてありがとう・・・(うるうるっ)


 『チヒロっ!』


 『ん?なんだ?』


 『俺と一緒にいてくれてありがとなっ!!』


 俺はそのとき感謝の念が溢れてきており、いきなりなんだと思われただろうが本心だし笑顔でそう告げた。うん。本当に感謝してる。父の日、母の日に加え、チヒロの日というのも作った方がいいなこれ。作ろ。俺が勝手に。

 いきなりの日頃の感謝の言葉と、不意打ちのマキの笑顔でチヒロの顔が固まったのを、マキは知らない。





 でも、ユウキとチヒロがくっついたら俺、また独りぼっちになっちゃうのかな・・・・・・


 一瞬、前世の自分が一番嫌だった気持ちが蘇ってきた。

 2人が恋人になるのは決まっていることなのに。

 いや、漫画の中で2人がくっついた後もマキとの関係変わってなかったぞ。うん。そうだそうだ。安心安心。

 ・・・・・・でも、未来はどうだろう? いつまでも3人で仲良くいられるわけではないし、やっぱり最終的には独りぼっちに・・・・・・・・・


 

 いきなり不安が押し寄せてきた。今俺はじゃないのに。漫画の中の真希なのに。

そう思うと、今度は今まで感じていなかったキャラに対する責任感というものが襲ってきた。

 将来の自分に思いを馳せたこのとき“俺は今、自分がこの世界で、本当に生きているのだ”ということを実感し、恐怖したのだ。そしてそれと共に、俺が今までやってきたことは間違っていたのではないかと感じた。


 今まではなんとなく、どこかこの世界は現実のものではないと思い込んでいた。だから自分はあくまで自分であるから好きに生きようと思って、まるでゲーム感覚で実際好きに行動してきた。父も母も、チヒロも俺に突っかかってきてた奴らも、そして自分自身も、これ以上無いほどリアルなものなのに。

 昔よくこんな時がなかっただろうか。自分の手を見つめて、『ああ。本当に自分は生きているんだな。いつか死ぬんだな』ってまざまざと感じる時間。俺は今、それに襲われている。


 自分の手を見て、『ああ。俺は、あの漫画の真柴真希なのだ』と。このマキとしての将来を考えなくてはいけない状況であるのだ、と。

 将来また独りになってしまうのではないかという不安と『一体俺って何だっけ』という自分の存在に対する不安が襲ってきたことによって、一気に俺の精神は不安定になり身体が突然ブルッと震えた。


   コワイ・・・・・・コワイ・・・・・・・ひとりが、こわい・・・・・・

 ひとりはもういやだ。今度は、誰か一緒に・・・いて欲しい・・・


 俺が内心でぐるぐると、よからぬことを考えていたそのとき、


 『 マキ 』


 と俺の前世からの憧れの人で、この世界に生まれてからずっと一緒にいてくれたその人の声を聞き俺はその声に刹那、縋ってしまいたい衝動に駆られてチヒロの方に顔を向けた。


 だが、チヒロの顔を見てハッとした。


 ダメだ! 2人の幸せを壊しちゃだめだ!!俺が見守るって決めたんじゃないかっ!そして、そんな2人と一緒に高校生活を楽しむって・・・・・・

今でも十分自由に過ごしているのに、これ以上のことを求めるなんてこと、あってはいけない。

 大体、縋るってなんだ?一体自分は今、チヒロに縋ってどうして貰おうとしたんだ?

まさか、『いつか運命の相手が現れても、俺のこと捨てないでくれー!』とか言うつもりだったのか!?それじゃお邪魔虫にも程があるぞ俺・・・・・・

 何かを探るような顔で俺を見ていたチヒロに向かい、俺はにこっと笑んで『だいじょうぶだ』と告げた。

 が、

 『大丈夫ならそんな顔しねぇだろ』


 と言って俺の肩に腕を回し、ぐしゃぐしゃと髪をかき回した。

 ううっなんだこいつ!!いい奴だぁ。いい奴すぎる・・・・・・。とっさに俺、『あ、ありがと♡』って、ハート付けちゃったじゃねーか!!


 なんだかほんわりして俺の心の中のゲリラな大荒れ模様は落ち着いた。よく考えたら、今俺は1人じゃない。前世は叶わなかった、両親と共に食卓を囲むこともでき、たくさん親の手伝いもできている。そして隣にはチヒロもいる。何も怖くなんかなくなった。

 まあ、ほんとに俺がこの世界でマキとして生きていくことに変更はないし、結局のところ俺は俺だしな。てかもう同化してるし。俺は正真正銘この世界の住人だ!

 あとキャラの責任なんて知るか!!どうせ俺が何したってこの世界の主人公はチヒロとユウキだから俺の行動一つなんてどうでもいいだろ・・・・・・って、ずいぶん前に吹っ切れたはずなんだけどな・・・・・・。

 

 と、半ば逆ギレする俺なのであった。



 これからもこういう風に自分のことについて考えて不安になる機会は度々やってくるだろう。でもこの人生も一度きりのもの。だから、不安を感じるという今を楽しむことのできないことに大切な時間を費やすのではなく、その時その時を最高に過ごそうと思った。

未来のまだわからないことに不安を感じるのは愚行だ!!


 そう意気込み精神が復活したマキはさっきとは打って変わって元気に歩き出すのであった。













『ふぃー。着いたー』






 途中精神不安定になってチヒロになでなでしてもらったりしたけど・・・無事着くことができましたっ・・ごほんっ








 正門に近づくと、親と共に来た子らや友達と来た子達が各々門の前にある入学式という立て看板の隣で写真を撮るのに順番待ちしている。




 『あー、カメラ持ってくればよかったー』




 『写真は嫌いだ』




 『えーー。帰りに親にカメラ貸してもらうから撮ろうよー!今日この日はもう二度と来ない日なんだよぉ。ねーーお願い――チヒロ。  あっ、まってまって!! もうっ!』




 こんなやりとりをしつつ、俺たちは写真の順番待ちの人だかりを避けて通りすぎた。ちょっと納得いかないが、あとお願いを10回くらいすれば、チヒロのことだからきっとOK出してくれるだろうなぁ~。チヒロとの写真かぁ・・・・・・小学校の卒業式以来だから、めっちゃ久しぶりだな・・




 と、そんなことを思いつつチヒロの後を続いて歩くと脇の方に立っていた教員が俺たちに紙を渡してくれた。




 クラス表だった。眺めると、俺のクラスは2組だとわかった。


 チヒロはどうだろう・・・離れちゃったら、ちょっと寂しいかも・・・・・・




 『俺2組だった。チヒロは?』




 『俺も2組』




 よっしゃあああああ!!!!!同じだああい!!




 俺は嬉しさのあまり、調子に乗ってチヒロの胴に抱きついてしまった。






 『やったー!!チヒロといっしょだー!!』


 と、大げさに喜びを露わにしたのだ。




 ふとチヒロの顔を除くと面白いほど固まっていた。


 おっ、いつも何にも動じないチヒロくんのレアな姿っ!


 ちょっと恥ずかしいけどツボにハマりそうっ・・・・・・時々やろう(くふふ)










 俺たちは体育館に入り、2組と書かれているレーンのパイプ席集団へと向かった。


 チヒロの名字は「黒原」で最初が「く」だから出席番号順で前の方で、俺は「真柴」で「ま」だから後ろの方・・・・・・少し寂しいけど、しばしの別れだっ。友よ・・・・・・






 そう哀愁を地味に漂わせながら、後ろの方の自分の出席番号が書かれた席にストッと座る。


 帰りに絶対親に頼んで2人で写真を撮ろうとまだ諦め悪く思っていたところ、自意識過剰かもしれないが、自分へと注がれる目線を感じた。俺は膝に肘を乗っけて下を向いていていたから正確とは言えないが・・・




 もう一度言う。自分でも重々自意識過剰ではないかとも思うが、自分の席の周囲の男女がこちらをちらちら見ている気がするのだ。


 ふと顔を上げてみる。すると、思いっきりこちらの方を見ていた女子生徒と目がばしっと合った。


 同じクラスだし、第一印象が大事だ。俺はにこっと笑って会釈した。


 彼女はポッと頬を朱に染めて会釈を返してくれた。






 そのとき俺は自覚した。


 『俺、イケメンだわ』。


 そうじゃん。チヒロと八巻とか、他の漫画に出てくるキャラはみんな面が良いが(ユウキは眼鏡で顔の大半が見えないから何とも言えない。が、おそらく美形)、サブキャラのマキだって悪くはない。むしろ俺からしたら、万歳ものだ。


 この世界の中では赤とか青とか黄色とか金髪とか・・・メインキャラの髪色は皆目を引く色をしている。もちろん好きで染めている奴もいるが、スタンダードは黒だ。


 その中で俺は、他のキャラみたく派手ではないけどそこそこ目立つくらいこの赤茶髪は綺麗に見える。しかも髪は昔から変わらず鎖骨あたりまでと少し長めに伸ばしている。・・・・・・チヒロはいいの。黒色がいいの!!やっぱヒーローは黒髪だよ。(俺の勝手な持論)


 登校中の精神不安定さはなりを潜め、軽く自意識過剰に勤しむマキだった。




 


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