謎の眼鏡野郎(byチヒロ)
あの事件以外無事に時が過ぎ、俺たちはこの4月から通うことになる王翼高等学校の入学式に足を運んでいた。
朝、待ち合わせ場所に少しだけ送れたマキ。こういう特別な日には夜に眠れなくて朝寝坊するの、変わってねぇな。少しだけにやけてしまう。
急いできて鏡も見てないのか髪もボサボサだ。マキの毛は猫っ毛だから、ヘタに指で掬おうとすると逆に絡まって痛がらせてしまう。だから、上げかけた手にぐっと力を入れて我慢する。
さあもう行こうかという空気になったところ、こないだ八も俺たちと一緒に入学式へ向かいたい旨を聞いていたことを伝えねばと思い口を開く。マキは驚いたような顔をしていたが、俺と八が連絡を取り合っていることに意外だったらしい。
ちょうどそのとき遅れた八が走ってきた。
「おーわりぃわりぃ、おっまたせ―。はよー マキ、黒原」
「おせー。待たせんな猿里八」
空気中に花を飛ばしている。なんかキャラが変わったなこいつ、と思った。
昔はオラオラ系でもっと厳つかったような気がするが。まあ、やかましいところは変わってないが・・・・・・
「わりーって。 って、マキ髪ぐしゃぐしゃになってんぞ」
謝りながらマキの崩れた髪を見つけ、自然な流れで梳こうとする。
「いてててててっっ!! やめろバカ!!!
羨ましいのとマキが痛がっているのとにイラつき、一瞬殴ってやろうかと思ったが止めた。マキに心が狭い思われそうだし。
もう八なんかほっといて行こーぜ、チヒロ!」
マキに腕を取られたことに嬉しさを感じたが、次の瞬間凍った。
“八”だと・・・!!?なんだそれ、犬みてぇじゃねぇか・・・・・・!!!
笑いももちろん起こったが、それ以外に親しみを込めた呼び方に嫉妬のような気持ちが沸き起こった。
マキはプンプンと可愛く起こったフふりをしつつ、宣言通りずんずん進んでいくが、後ろで猿里八がブツブツと何かを言っているのが聞こえる。
「は・・ち・・? え、俺のこと・・・だよな!? え、・・めちゃうれしい・・・・・・」
マキはきっと聞こえていないだろうが、俺は一言一句漏れずに聞き取った。
なんだか・・・・・・好きな奴に犬扱いされて喜んでいるあいつを見ると、不憫に思えてくる。
そんなこんなで朝から騒がしく、俺たち3人は入学式へと急いだ。
式中マキはトイレに行っていたらしく、決められたクラスへ解散となったときに帰ってきた。
おそらく朝を抜いてきたから腹が鳴りそうにでもなったのだろう。中学のとき俺にはあんだけ朝飯の重要さを説いてきたっていうのに。まったく。
そう溜息をつきながら連れだって教室へと向かう。俺たちは同じクラスだったが八は8組という、少し距離のあるクラスだった。入学式が終わった後、またブツブツと言いながらトボトボと8組に歩いて行った。
角の向こう側から何かケンカ越しな声が聞こえた、が無視して教室へ向かおうとするとマキが必死に止めてきた。なんだ?どうせカツアゲとかなんかだろ。入学式に忙しいな。
かなり必死に俺に絡まれている奴を助けろとトラブルの現場を指を指して訴える。
ちらと見たが、絡まれている生徒は大きな眼鏡で顔を認識できなかった。だが、知り合いでもなさそうなのに何故マキはあいつのことを助けようとしてんだ?しかも俺に助けさせるって・・・・・・?
おまけに何かを隠して誤魔化そうとしている顔をしている。
何なんだ、一体・・・!!
俺はその眼鏡にムッとし、角から出て絡んでいた奴を一瞬で倒した。殴る時デカ眼鏡の奴と眼鏡越しに目が合ったが、その目はすごく鋭いものでとても弱者には見えない相貌だった。
なんだこいつ・・・。なんで弱そうに振舞う・・・・・・?
混乱したがなんか色々考えるのが面倒くさくなり、マキの手を取って先を急ぐ。マキの存在を認めた眼鏡は僅かだが目を見開き、そのまま黙ってこちらのことを凝視していた。知り合いか・・・?それにしてはどちらも声をかけないな。
まあどうでもいい。
気怠そうな教師の話をイライラしながら聞いていると、後ろから受ける視線の五月蠅さにさらにイライラとしてくる。ちらと後ろを向くと、さっきの眼鏡と目が合った。眼鏡で鋭い視線を隠しているらしいが、俺にははっきり表情がわかる。
そしてさらに斜め後ろを盗み見ると、俺を凝視している眼鏡を見ている。なんなんだ一体・・・・・・!!
告白もできない臆病なくせして一人前に独占欲は強い俺は、うっすら不安を感じるのであった。
やっと解散になりマキと共に帰ろうとしたところ、眼鏡の奴が近くで俺たちに声をかけたそうなオーラを出していた。
さっさと声をかけるなりしろと思うが、彼は勇み躊躇いを繰り返し、ブツブツと何か自問自答していうようだ。その様子にまたイライラ年、持続していたイライラも相まって俺はマキを連れて教室を出ていった。
マキが、教師が言っていたことを聞き逃したというので内容を簡潔に伝えたが、あの眼鏡を眺めることに集中していたのかと思うと心が穏やかでいられなくなる。
その後八と合流し昼食をとりに店に入ったが、そこでもマキは俺たちの会話をボケ~っとしながら飲み物を飲み続けていた。二桁を超えているのに自分が何を飲んでいるのかもわからないような、心ここにあらずという感じで、俺はまたあの今日一日で忌まわしくなってしまった眼鏡の顔を思い出すのだった。