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ケンカ以外に夢中になれるもの(byユウキ)



 俺は小学校2年生までを施設で過ごした。

それから『白島』家に養子に迎えられ、家族を得た。




 いつから施設にいたのか記憶がないが、おそらく生まれた直後ぐらいだろう。働いている人間に聞いても何も応えてはくれなかった。



 施設の中ではまさに弱肉強食、弱い者は強い者に従うしかなかった。俺は体も背も小さく、本当に小さい頃からなんでも他の奴らに奪われてきた。食事やおやつ、遊ぶ玩具に共同の道具など他にもたくさん・・・・・・


 そして施設内だけでなく、学校に通い始めると学校でも馬鹿にされることが多かった。家族がいない、それだけで馬鹿にされてもいい存在なのか。そう、憤ることもあった。

無視をすればいいものを、俺は俺自身を馬鹿にされることに我慢できず複数の相手に立ち向かい、ボコボコにされることもざらだった。


 力が全てなのだとわかった。

 力がなければ奪われる。尊厳すらも。




 それから俺は体を鍛え始めた。何をすれば良いかなんてわからなかったから、めちゃくちゃに筋トレをしたり走ったりイメージトレーニングをしたりした。

 身長は栄養の問題かあまり伸びはしなかったが、ケンカはかなり強くなった。

だが、まだ足りないと思った。


 小学校の3年生になる年に、俺は白島という家に引き取られた。優しい母に活発な父、そして年の離れた兄。典型的な良い家族。

俺は昔馬鹿にされた理由であった家族を、今手に入れたのだ。

 

と、言ってもすぐに馴染めるわけがない。だって、書類上は家族かもしれないが実際は血の繋がっていない他人なのだから。

でも、白島夫妻はいい人だった。家族というのはこんなに温かいものなのだと少しだけわかった気がした。


 問題は、義兄だった。

彼は特別俺のことを嫌っていたわけではなかったがなにかと勝負を仕掛けてくるタチであり、俺も自分の力がどのくらい適用するのか試したく勝負にのった。

 そして、ボロ負けしたのだ。

 完全に負けた。今まで相手してきた奴らの比じゃなかった。


自分の力の無さを、ここでも実感したのだ。



 俺は段々奪われることに対する対抗手段というより、“強くなる”ことにのめり込んでいった。

義兄は、正確には問題があったとは思うが強くなるための練習相手にはもってこいだった。

しかし彼は大学に進学する際に家から出てしまったのだ。俺が中学3年のときだ。


 俺は誰に負けるのも気が済まず、成績は優秀だったし運動もできたのでどこの高校へ進もうかと考えていた。調べていると、『王翼高等学校』というところは優秀で偏差値も高く有名なのは知っていたが、ケンカが強い奴が多いという言葉が誰かのコメントの中に書かれていた。

俺は、『そこしかない』と即決した。


 どんな強い奴に会えるのだろう。俺の心はそんなことでいっぱいで、勉強よりも妄想の方が勝っていたのだった。



 無事合格し、俺は7年とちょっとを過ごした家を出て新しい地へと向かった。

高校が家と離れていたので、独り暮らしを始めるのだ。全てを1人でやるのは大変そうで、少し緊張する。しかしその時の俺はとにかく強い奴を間近で見て研究したいという思いが頭の大半を占めていた。



 新しい家でものの配置や必要なものの調達など細々としたことを終わらせたが、まだ入学日までは時間があった。

 そして俺はまず見た目を変えようと閃いた。俺は自分でも思うほど切れ長の目でかなり野性味を感じさせる顔をしている。いかにもとまではいかないが、「ケンカができる」と思われそうな風貌なのだ。

 俺は高校へは強さの研究をしたいだけで特段ケンカをしたいという訳ではないので、そもそもケンカをふっかけられないようなヘタレ丸出しで相手にされないような見た目にしようと思いついた。


まずはめちゃ厚瓶底眼鏡。おお・・・!俺の目を完全に隠せる!それにしてもデカいな・・・・・・

鏡で見てみると、これでかなり見た目を変えることができることがわかる。

 俺の独自の考えだが、これでオタクっぽさがあれば完璧だと思った。アニメでも見てみるか・・・・・・?



 どっぷりハマってしまった。ヤバいめちゃ面白い。アニメなんて子どもが見るやつだと舐めてた節があったけど、これは完全に間違っていたなと思う。

 特に『ぴょんっ☆とキャロット』。主人公はぶりっ子系の女だがその毒舌ぶりが面白いし、腹黒なところも俺と重なる部分があり共感できた。


 こうして入学式までの数日間、俺はアニメにどっぷりと浸かった日々を送っていたのだった。



 






 入学式当日の朝、窓から入ってくる少しスンとした冷たい空気に爽やかな気持ちで頭を覚醒させる。うん。最高の日だ。


 しっかり朝食もとり、いざ学校へ!


 と思ってたら家の時計の電池が切れていて腕時計を見た俺は即駆け出した。

一回試しに学校へ行ってみたのだが、そのとき見つけた近道を使うことにする。おそらくこっちの道を使えば余裕で間に合うはず!

 ほんの少しの差だが、時間にどきどきしながらではなく心穏やかに登校したい。せっかく今日は最高の日だって思ったのだから。


 そう思い目的通り少し狭い道に入る。

 急いでいたためその道を歩いていた人の肩と少しだがぶつかってしまった。



 「あっ、すいません」


 「おいてめぇ、それだけで済むと思ってんのかぁ? ああ?」

 

 「ひぇっ、す、すみません~!!」



 面倒くさい奴に絡まれてしまったが、良いぞ俺!ちゃんと見た目通りのリアクションだ。

そんなことを考えていると相手はなんだか嫌な笑みを浮かべてなんか『一発殴らせろ』的なことをほざいてる。


 チッ、めんどくせぇな~・・・一発やれば解放されるかな?



 そう思案を巡らせていると、俺の来た方向からまた新たに人が走ってくる。俺は道の端に寄るが絡んできた奴も俺が後ずさったのだと思い距離を詰めてくる。

 ちげぇよ、人が来んだよ。


 

 案の定、走ってきた子はめんどくせぇ奴の鞄に肩をぶつけてしまった。


 その子は『すいませーーん』と間延びした声で思ってもないような謝罪を述べ、そのままかけていこうとすると、俺の目の前にいた奴がその子の腕を掴んだ。


 あっぶねーな!!腕抜けるかもしれないだろ!!!



 「なんっだその態度はぁぁああ!?ああん!?」


 男(よく見ると同じ制服着てた)はそう言ってその子にも絡もうとしだした。

おいおい・・・こいつマジで面倒くさいな。そろそろ一発お見舞いしてやろうか――


「急いでんの! じゃーま」


 そう眼鏡の下で思った瞬間、男がぶつかった子に回し蹴りされた。

 

 

 

 回し蹴りを終える時、倒れた男越しに相手の顔を見た。





 その子は、







 めちゃくちゃ可愛いかった。




 彼はすぐさま走って行ったが、心を奪われた俺は焦って 

 


 「あ、ありがとうございます!!」


 と真面目に情けない声でお礼を言ってしまった。

 彼は手を挙げて応えてくれ、それに格好いい!!と思う。
















 















 俺はその日、“強い”こと以外にも夢中になれるものと出会ったのだ。



























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