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小海老のきもち




 俺は特異な容姿をもって生まれた。

 どこもかしこも真っ白い。

 それに細っこくておまけにチビだ。




 弟ができたときは嬉しかった。が、初めて弟の姿を見たときは俺と違って普通の容姿の弟に寂しさを感じた。


 両親には『かわいい かわいい』と言われて育った。それは、嬉しいものだった。

だって、外では悪いことしか言われなかったから。




 俺は人から好意を抱かれることが少なかった。

 まず、みんなと違う見た目で遠ざかられる。『珍しいものを見る目』で無遠慮に見られるのが嫌いだった。


 次第に俺はみんなの視線に反抗的になっていった。みんな舐めてかかるけど、俺は強い。すぐにボッコボッコにしてやった。そしたら、もっと遠ざかられた。



 弟は俺を見るときにあの嫌な目で見てくる。でも弟だから別に嫌な気がしなかった。でも俺は外での癖で、その目で見られると睨んでしまう。だから極力弟の視界に入らないようにした。



 

 小蟹の身長はどんどん伸び、すぐに俺の身長を越していった。


 その時、俺のプライドからか、一瞬弟が俺を馬鹿にしているような気がした。




 そう思ってしまってからは、もうだめだった。



 ひたすら歯を食いしばった。悔しかった。





 小蟹は、俺の欲しいモンを全部持ってる。全部悪い方に考え、両親の意識も小蟹にもっていかれたような錯覚を起こした。

 俺は小蟹に嫌われてて、馬鹿にされているんだ。俺も小蟹のことは嫌いだから、別にいい。


 現に小蟹は家族でどこか食べに行き、小蟹のように食べたい物を言えない俺をムカつくような顔で見てきた。




 


 小蟹は人と繋がるのが上手い。


 俺は人と関わるのがヘタ。


 小蟹は身長高い。


 俺は低い。


 小蟹は――


 俺は・・・・・・




 そうやって、俺はどんどん底なしの沼に身体を沈ませていったのだ。

 羨望と嫉妬の沼に。










 自由な高校生になり、心が少し穏やかになった。

 高校が自分の肌に合っていた。クラスという意識も中学より少なく、個人での行動が自由。中学では会う機会があった小蟹とも、全く顔を合わせなくなったし。



 だがやはり俺は皆から距離を置かれた。多分自分から何かそんな近寄りがたい空気を発しているのだろう。

 そして、俺のことを馬鹿にしてくる奴も次から次へと湧いて出てきた。そいつらは片っ端からぶっ飛ばしていったら、誰も近寄らなくなった。




 1人平和な生活を送っていると、なんと小蟹も同じ高校に行くことに決まった。

 まただ、また俺の居場所をとるつもりなのか・・・・・・

 なぜその高校を選んだのか、聞きたくなった。





 2年に上がってすぐの時期、全く接点がない俺のことを知らない奴が屋上でケンカを売ってきたので買っていると、ある1人の生徒がやって来た。



 その生徒は淡いピンクが混じったブラウンの柔らかそうな髪を風にたなびかせていて、目は不思議な色合いで思わず見入ってしまうほど綺麗だった。


それに唇は小さくてぷるっとしていて、おいしそうだと思った。



 初めて、人をかわいいと思った。




 そして、これらの情報から彼が噂で聞いた『真柴 真希』という奴なのだとわかった。噂ってもんは大体は当てにならないが、その噂によるとこの真柴って奴は相当強いらしい。


 

 試しにケンカを売ってみる、が奴は逃げ腰で段々とイライラしてきて突発的に動いてしまった。


 しまった怪我をさせる!と思ったが、奴は間一髪俺の突きを受けやがった。

 今までの奴で、この突きをかわせた奴はいたが、受けられた奴はいなかった。こいつが初めてだ。



 一気にわくわくし、攻撃を出す。避けてばかりで確かに刺激が足りなかったが、でも俺とのケンカでここまで保つ奴は早々いない。



 こいつ、いいな・・・・・・かわいいし





 また今度にしようと一方的に止め、その場を後にしようとする。何か言いたいと思って口を開いたが、口を開くと不快にさせるような言葉しか出てこない。しまった。


 そうするとあちらも悪態をついてきた。それも『おチビ』だと。


 だがそいつの目は俺のことを馬鹿にしている目ではなかった。だからかんに障らなかったのだと思う。むしろ少しだけ口元が緩んだ。




 










 それから機嫌がよかった。あいつの顔を思い出すだけで気分がよくなった。

 また会いたいと思っていると、ちょうど窓の向こうにあいつを見かけた。




 だが、あいつの隣には







 小蟹がいた。























 真柴まで俺から――



 まだ俺のものになってはいないが、せっかく目を付けた奴だったのに。あいつは・・・・・・






 あいつと共にいるのを見たときから、小蟹の様子が少しだが変わった気がする。普段は諦めていた俺との関係に、一歩歩み寄ろうとしている。

 なんだかその変化が、疎ましかった。












 ある日の下校時、いつも通る公園の横を歩いていると、抱き合っている2人の姿が見えた。


 そのとき、俺は言葉にできないほどの衝撃を受けた。なんていったらよいかわからないが、

絶望、みたいな。









 気づいたら、俺は小蟹にケンカを売っていた。


















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