21.俺の兄は・・・(by小蟹)
俺の名前は和馬小蟹。自分で言うのもあれだが容姿端麗で頭もそこそこ良く、運動もできる。まぁ、完璧人間に見えなくもないが・・・・・・俺自身はいつも必死で完璧な自分を繕っている。
俺には2つ上の兄がいて、物心ついたときから俺は兄に嫌われていたと思う。どうしてかは知らないしわからない。赤ん坊の頃を思いだしても兄に可愛がられた記憶はなく、なんなら兄も小さいながら睨んでいたような気さえする。気のせいだと自分で思いたいだけで、実際睨まれていたのかもしれない。だが成長するに従って、兄は元来目つきが悪いのだとわかった。しかし目つきが悪いのにしろそれをさらに悪くされる身に覚えは、成長しても全くと言っていいほどなかった。
俺は小さい頃から思った事をすぐ口にするタチで、いつも大好きな母親にべったりとくっついていた。それに少々我が儘だった記憶がある。
俺が母にべったりとくっついているとき、兄はよくその様子を陰から見ていて、きまって目つきの悪さは3割増しになっていた。それと共に、なんだか寂しそうな雰囲気がしていた。母は兄を手招くが兄はそれに答えず自分の部屋に行き籠もってしまう。子どもながらに可愛くない、と思った。子どもなんだから言いたいことを言えばいいのに、と。そんな風に兄の態度を見る度小さなイライラが積もっていった。
俺は母親似で紺色の髪、そして優しそうな容貌が遺伝した。対して兄は父親似で髪は一見白髪に見える銀髪であり、それは学校でも目立つらしくおまけに目つきが悪かったものだからあまり寄りつく人はいなかった。俺も例外ではなく珍しい容姿だと思っていたため昔からジロジロと見てはいたが、彼は俺が見ているとわかると一睨みして姿を眩ました。兄と同じ空間にいるのは、食事の時間だけだったように思う。
俺はすくすくと育ち、小学校の低学年頃には兄の背丈を超した。幼稚園の頃からませた女児にはべったりとされていたが、小学生にもなると大抵の女子生徒が俺を意識するようになった。そうなってくると、男子生徒からは面白くないという様な目を向けられる。俺は正直面倒くさかったし、人とどう関わっていいのかもよくわからなくなっていた。
その一因は、兄だ。
親には愛情を注がれて育ってきたが、生まれてからずっと実の兄には嫌われていて、その原因もわからない。最初は頑張って兄とコミュニケーションを取ろうとした。だが次第にそれは無駄なのかと思うようになった。それだけ努力しても兄は最初から取り合ってくれない。だからだ。
そして人間にどう接したらいいかわからなくなった俺は、ヘラヘラするようになった。完璧人間で人を寄りつかせないお高くとまったキャラではなく、もっとリーズナブルな感じのイケメン。女子に告白されても、あからさまに好意を露わにされても軽く躱し、男子のノリにも気前よく応える。
そうしたら、すぐに人気者になった。
そして年月は流れ、俺は兄と同じ高校に入学した。未だ関係は変わらず、いや前よりも空間を共にする時間は大幅に減った。
兄が高校に入学するのと同時に父親の海外への転勤が決まり、父にぞっこんな母は父について行くと即決。急なことであり兄の通う学校も決まった後だったため、両親は俺たち2人をこの家に残して異国の地へと旅立ってしまったのだった。
ちなみに両親と兄との関係は良好と言え良好だったと思う。つんけんどんな態度だったがコミュニケーションはちゃんととっていたし。だからか両親は兄と俺との関係も全く問題視していない。そのことを俺は問題視していた。明らかにオカシイだろ。家の中で必要な時以外ひっと言も会話なしだぞ! これは普通なのか?
ということで俺は今、俺のことが嫌いな2つ離れた兄と一緒に暮らしている。
精神的に辛い・・・・・・。
さらに、俺の中には長年築いてきた複雑な思いがある。それは実現することが不可能だと気づいている己の欲望のせいだ。
その欲望とは――
“兄をだっこしてみたい”
である。
だって、 かわいいから。
子どもの時は確かに兄に対してイライラすることが多かった。外食に行ったときなんか、俺だけ食後にパフェを頼んで、兄だって食べたそうにしているのに両親に聞かれても首を横に振っていた。
俺がおいしそうにクリームを頬張るのをガン視していたけど、欲しいとは言わなかった。でもその食べたそうな様子を見て結局両親は勝手に頼み、兄はいつもより口の端をほんの少し上げて周りに花を飛ばしていたのを覚えている。
その時も、花を飛ばしてパフェを食べる姿にキュンときたものの、若干苛ついてしまった。言えば良いのに。『欲しい』の一言を。言わないがために両親に一心に構われるのが気に入らなかった。
というようなことが多々あり、俺はその度にイライラとしていた。
イライラとすると共に、俺は兄と仲良くしたかった。一緒に絵を描きたい。一緒におしゃべりしたい。一緒にかけっこをしたい。一緒に、一緒に・・・・・・と多くを願ったが、それが叶えられたことはなかった。俺には友達と呼べるかわからないが、同年代の子どもが常に側にいたから、遊びには困らなかった。だが、自分の兄と遊べないということにずっと寂しさを感じていた。
日常もそうだ。なぜか敵を見るような目をして見てくる。『俺がなにかやった?』と聞こうかと何度思っただろうか。でも、俺の身に覚えのないことをつらつらと言われでもしたら・・・・・・と思うと、そんなことは聞けなかった。
そんな風に俺が兄に対して抱くのは、少しの苛立ちと“人間と接する時の不安”だった。
でも、もう一つあった。それは、“愛でたい”という気持ち。
兄の見目が珍しくジロジロと見ていて睨まれたことが多々あったが、実は始めから兄のことを『可愛い』と少なからず思ったいたのだ。
全身白くて雪の精みたい。ある雪の降る日にはそう思ったこともある。あまりにも兄が白くて、雪に紛れてしまうのではないかと心配になったほどだ。そのときは寒さでいつもは真っ白な頬が真っ赤に染まってて、気絶するほど可愛かった。母が取ったその時の写真を眺めているときは最高に癒やされる時間だ。
そうやって可愛いさを日々感じていたら、次第に触れてみたいと思うようになった。
だが、悲しくもそれは叶わないのだとわかった。
それは多分、俺の身長が兄の身長を越した頃のとある日の夜。
食後流しで茶碗を洗っていると、兄が食器を台に置きに横に来た。ふと兄を見ると、すぐ知覚に白くてふさふさしている綺麗な髪。つむじがなぜか無性に可愛く見えた。
その時『そうか。俺は背伸びをしなくてもいつでも兄の頭を撫でることが出来るんだ』と思ったのを覚えている。そのとき俺は、俺の座右の銘通りに自分の気持ちに正直に兄の頭に手を伸ばした。
兄は俺が手を伸ばした瞬間にさっと横に避け、今までで一番のにらみを利かして小動物のごとくサササッとその場から消えた。
これが唯一の、やって後悔したことかもしれない。
それから兄はそれまでよりも俺に近づかなくなってしまった。
俺はまたしても新たなダメージを受けていた。
『俺に触られるのがそんなに、そんなに嫌なのか・・・・・・』と。
それから何年も経ったが、俺は兄に触れることを諦めなかった。
あわよくば抱っこしてみたい! 真っ白くて柔らかそうなマシュマロみたいなほっぺたをふにふにしてみたい!! 抱きしめたい!!!
『可愛い』なんて、別に兄を馬鹿にしているわけじゃない。普通に、可愛い。
だって、可愛いから!!
でも兄と会話すらできないのは変わらない事実で、少しでも接点を作ろうと思って入ったのが今俺が今通っている王翼高等学校だ。ここはなかなか入るのが難しい高校だったが俺の学力的には問題なく入学できた。俺が制服を家で試着していたとき、その様子を偶々見た兄の目にはまた負の感情が滲んでいた。




