禁忌の付箋
物語の中に出て来る人物(脇役)のショートストーリーです。
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親愛なる我友
藤堂寺ご夫妻へ
大変お久しゅう御座います。
変わらずお元気で居りますでしょうか?
ホテルに入られる所をお見掛けしたのですが、車に乗って居りましたので、お声をお掛けする事も出来ず、こうしてお手紙を認めました。
お見掛けしたのも何かの御縁、そう思い、ご報告とお願いを申上げます。
私も長年、占術師としての生業を続けて居りましたが、そろそろ隠居を決めて、心安らかな生活をしようと考えて居ります。
隠居後は、占術の研究を進め、出版等で生活をして行こうと思って居ります。
それでなのですが、藤堂寺家の所有致します島の一部をどうかお貸し下さいませんでしょうか?
喧騒の誠に賑やかなこちらの生活に疲れ果て、何処か静かな場所に身を置きとう御座います。
誠に図々しいお願いでは御座いますが、然るべき御礼は致します。
後日、お時間を開けて頂ければ、すぐに参上して詳しくご説明を致したく。
取急ぎご報告伺いまで。
灰色の占術師
リモリィ・グレモリィ
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カタン、と硝子ペンを置いたリモリィは、横で黒髪を弄る癖がある女を見やった。
「書いた?」
「ええ、書きました」
黒髪の女は猫を二匹呼び寄せた。
「下僕ども、こいつを至急お届けして来て」
と、猫に投げ付けた。
「にゅ〜下僕使いがあらいよねぇ」
「みゅー!
ほんとだわ〜」
と黒と灰色の猫は口々に文句を言うと、その毛皮を脱ぎ始めた。
ベリ…バキ…と嫌な音がする。
「にゃ、今日は僕が男の子〜」
「みゃ、私は女の子〜。
名前どうする?
私、ルディでいいや」
本の革表紙の色を見て、彼女は自分をルディと名付ける。
「じゃ、色の名前じゃないけど、もじってエディにしようにゃ〜」
と、二人はお互いの美しい形に見惚れて手を重ね合わせた。
「「んふふふ…♪」」
すると双子は、手紙を拾いあげると、部屋を出て行った。
「…手紙、きっと無駄になりますね…」
「また書けば良いじゃない…」
黒髪の女が眼鏡を直して、夜の街を眺めた。
「結構…面倒臭いんです…ああ言うの」
「…そう?
ま、取り敢えず仕事に行こうか…リモリィ様」
黒髪の女はコートを羽織ると、スケジュール帳を出した。
「今夜はねぇ…。
ゲッ…!
ボク、コイツ嫌い!
くっさい香水付けてる奴だよ!」
それを聞いて、リモリィはクス…と笑う。
「代議士の森川さんね…確かに…私も嫌い。
本当に臭いんだもの。
腹の中から腐った人よ」
と、コートを羽織って、二人は部屋を後にした。
お疲れ様でした。オチはありません。本編のちょいとした脇なんです。こんなオチはないけど、本編で語れない事をツラツラ載せて行きます。