―プロローグ―『抗え』
・・・どうする、どうすればいい?
戦場から、また一つ声が消えてゆく。
2メートルはあろう巨体が、ゆっくりと進撃し、刀状になった巨大な右手を振るう。
目の前で鮮血が散り、遅れて鈍い破砕音と共に仲間の持っていた、機器仕掛けの剣が落ちる。
現実的な死。それが目視できる形で近づいて来ている。
怖い。
怖い怖い怖い。
恐怖で力を失った右手には、もう武器を持つ力もない。
確実に死ぬ。目の前には、そう確信させる程の敵がいる。
もう・・・無理だ・・・
「うろたえるなあぁぁぁ!!!」
背後から飛び出した深紅の光が、迫り来る死に衝突した。
ぶつかり合う二つの力に、オレンジの火花が散る。
深紅の光は、やがて己を操る女の影を映し出す。
「馬鹿者!死を恐れるな!死を受け入れるな!お前が死んだら、誰が統率を執る!?」
統率?・・・そうか。俺が指揮官か・・・
「でも・・・もう無理だ・・・部隊はほぼ全滅。逃げる術も、戦う力も残ってない・・・」
「お前が諦めてどうする!うっ、っつ!」
敵の巨大な力に、彼女の大剣が弾かれる。
「ほぼ全滅なのだろう?ならまだ戦える!指揮する人間が諦めては、勝てる戦も勝てん!」
――死に、運命に、抗え――
何度も聞いた、俺たちの合言葉。
そう言うと彼女は、再び敵の体目掛けて飛び込んでゆく。
「でも、もう・・・」
「大丈夫」
後ろからの優しい声と共に、肩に温かい手が置かれる。
「まだ、私たちが居る。諦めなければ、必ず勝てる」
少女の一言に、俺もやっと決心がつく。
「そうだな・・・俺が諦めちゃ、死んだ奴らが報われないよな・・・あいつらのためにも、俺は止まっちゃいけねぇ!」
俺が立ち上がると同時に、先程飛び込んでいった女が押し返されて戻ってくる。
「やっと戦う気になったか!ならここからだ、一気に押し返すぞ!」
「・・・うん」
「言われなくても!」
毒づく彼女に、俺は大声で返答する。
―――まだやれる・・・―――まだ戦える!
それぞれの武器を構え、俺たちは三位一体となって突撃し―――
巨大な刀状の右手に、思い切り引き飛ばされた。
近くの木に体を打ち付け、そのまま倒れこむ。
切られてはいない。
だが、衝撃であちこちの骨が折れているようだ。
「やっぱり、無理じゃないか・・・」
うまく呼吸ができない。肺でもやられたのか?
最後の力で顔を上げれば、先程の少女が倒れている。
・・・下半身のない彼女を、倒れていると言って良いのかはわからないが。
「ははっ・・・今度こそ死ぬのか・・・」
今更薄れた恐怖心に、そのまま俺は目を瞑る。
この世界に来た日から、今日までよく生きられたと思う。
最早逃れる術はない。どうせ死ぬのを待つだけだ。
――死に、運命に、抗え――
「・・・無茶言うなよ。ここまでくると呪いだぜ?」
全身が痛い。体を動かす力もない。そしてこの状況の原因となった巨体は、ゆっくりと前に進行してくる。
それでも――
「それでも・・・戦えってのか」
なら、やるしかないだろう?
薄れゆく意識の中、俺は再び武器を手に取る。
『IS-01』通称、不屈の剣。俺の戦いに、ずっと付き合ってくれた機構剣。
無茶だとは分かってる。それでも――
「死に、運命に、抗え」
ゆっくりと立ち上がって剣を構える。
俺・・・雨野裕斗の物語は、死ぬ間際に幕を開ける。