窃盗団
深い森の中を休まずに歩いてきたため、気がつけば滝壺の裏にある拠点はもうすぐだった。
三人の男は二頭の馬にそれぞれ乗せた女が落馬しないよう気をつけながら険しい道を来ていた。最初は女も抵抗をしたが一発殴ったら気絶したので、これ幸いに馬に乗せたのだ。それからどれくらい歩いてきたろうか?大通りを進めばそこまでは遠くはなかった、けれども、人目につくわけにもいくわけがない。だから、隠れながら移動しているため、それなりに時間もかかるとゆうものだ。
{魔の手}は変わった、一時は壊滅しかけた窃盗団だが、トップが変わって大きく成長した。
グルーヴは壊滅しかける前から属してはいるが元は冒険者だった。しかし、あの日からすべてが変わった。そう、あの日、幻華戦争に巻き込まれた日からだ。
少し嫌なことを思いだしたなと、グルーヴは腰に下げた水筒を口につけ、水ではなく、アルコール度の高いウィスキーで喉を潤して、過去の思い出を振り払った。
「兄貴ぃー、なんか後つけられてませんかね!?」
大柄の男がグルーヴの後ろから耳打ちをした。
「あぁ、分かってる。」
グルーヴは気づいていた、しかし、気に止めることはなかった。なぜなら、相手は上手く尾行してきたつもりだろうが、実践経験は乏しい素人だとゆうこと、それは尾行に勘づかれている時点、そして、漏れ出す殺気を抑えられない時点で分かったからだ。
しかし、このまま拠点までついてこられても、まずいとゆうことは思っている、だから、森を抜け、少し開けた場所で少し遊んでやるつもりでいた。
●◯●◯●
エリアスは青年から言われた方角へと走り出して、山のふもと、深い森へと入るあたりで馬の足跡と思われるものを発見した。そして、それは森の奥まで続いている。
直感でわかった。おそらく、これが青年の妹さんとお姉さんを連れさったやつらの痕跡だとゆうことに。
そして、足跡を見る限りでは、相手の人数は三人、青年の言った、情報と同じだった。
エリアスははひとつ深呼吸をし、なるべく殺気を消して森の中を器用に駆けていく。
獲物はすぐに見つかった、先頭を歩く細みで、くの字に曲がった奇妙な剣を携えた男と、馬をはさんで後ろを歩く、鎖のついた金属製の棍棒を肩に担ぐ大柄の男と、腕に黒い手と髑髏を模したタトゥーが入った男、そして、馬に乗せられ、項垂れている女性二人の姿を。
エリアスは気づかれないよう尾行をし、チャンスを伺った。
このままついていってアジトを突き止めてから行動にうつるべきか、ここで、三人を仕留めるか考える。
そして、決めた。後者の考えで行こうと。仮にアジトを突き止めたとしても、仲間がいた場合、一人ではきっと何も救えない、それならば、ここで、三人を仕留めて、確実に女性を救った方がいいと考えた。
エリアスは気づかれないように男三人を鑑定していく。
相手は全員格上の存在だった。しかし、エリアスは臆することはなかった。
バランを初めて見た時、絶対に殺せないと感じた。しかし、今目の前の三人は確かに強敵ではあるが、バランにくらべれば子供だましでしかない、それにエリアスは確信していた。
自分よりも格上だけれど、殺せるとゆうことを。
そして、その時は来た。相手が少し開けた場所に出ようという瞬間、ダガーナイフを逆手に持ち、音もなく間合いを詰める。
確実に後ろを歩く腕にタトゥーの入った男の首筋にナイフの切っ先が当たる。あとはそのまま、掻き切るだけ。
筋肉質の男の首の筋繊維をブチブチと切っていく感触、骨にあたり上手く滑らせるように首骨を避け、喉仏の向こうまで切りぬいた。
血飛沫が宙を舞う。
(まずは、一人。一度右に入って森の中にもう一度隠れる。)
エリアスは瞬時に判断して。右の方へ走り抜けようとした。
しかし、目の前には・・・
「残念でしたーーぁっひゃっひゃっひゃーぁー!!!」
首を掻き切って殺したはずのそいつがそこに立ちふさがった。
「なっ!?どうして!?」
エリアスは驚きを隠すことができなかった、そのため、次の反応が遅れる。
右後方から金属製の巨大な棍棒が迫ってくる。
「ジャッシュ!潰すなよ!」
「わかってますよ!ロウウェルの兄貴!」
エリアスは棍棒があたる刹那!ギリギリのところで、右腕でガードの体制をとる。
しかし、棍棒がドゴォ!っと音を立てエリアスを数十メートル吹き飛ばした。
エリアスは数十メートル先の木の幹に背中を強打し止まる。
右腕の骨は粉々に砕け、肋骨も何本か折れていた。
くの字に曲がった奇妙な剣を携えた男が近寄ってくる。
その男に髪の毛を捕まれ強引に顔を上げさせられる。
「よう、嬢ちゃん。おれはグルーヴってんだ。よろしくな。それで、誰の差し金だ?」
エリアスは答えようとはしない。固く口を結ぶ。
「はぁー、めんどくせぇーなー。」
グルーヴは頭を無造作に掻く仕草をする。
「なっ、兄貴ぃ。その女どうするんです?」
大柄の男ジャッシュが問いただす。
「まぁ、こんな乱暴なやつは売り物になんねーだろ。どのみち殺るんだけどよ。そうだな、最近は女の人さらいの仕事が多いし、けど、売り物だから傷物にはできねぇ。お前も溜まってんだろ。この女はすきに犯っていいぞ。ただし、明日の昼にはボスと合流だからな、それまでには処分しとけよ。」
「あざっす兄貴!話が分かって助かりますます!ロウウェルの兄貴はどうすか?」
「おれに女を犯す趣味はねえよ。分かってんだろ?けど、殺る時はおれに回せよ。」
ロウウェルが興味なさげに答える。
「まぁ、しかしこの女。Cラン冒険者かと思ったら駆け出しのFランじゃねーか。」
グルーヴがエリアスの首から下がっている、冒険者証の石のプレートをいじる。
「レガシアのギルドからの宣戦布告ですかね?」
ロウウェルがグルーヴに訪ねる。
「いや、Bラン以上のパーティーが複数で来たら、そうだろうが、こいつ一人ってことは、今日さらった女を助けにきたお人好しのバカだな。それに今はまだレガシアのギルドと表ざた揉めたくはない。それはボスの意向もあるしな。」
「そうですね。分かりました。」
「とりあえず、この女には少し眠ってもらうか。」
グルーヴはある程度の力でエリアスの鳩尾を殴り気絶させた。
●◯●◯●
頬に冷たい雫が落ちて、エリアスは重い瞼を弱々しく開く。
右腕の感覚は全くないが、両腕と両足に鎖が巻かれている。隣を見れば助けるはずだった姉妹が同じように鎖で捕らえられている。二人はすすり泣きをしている。
エリアスは先ずここがどこか探ろうと試みる。
どうやら近くで濁流が落ちる音が聞こえ、ここが滝壺の裏の洞窟だと気付く。
おそらく外に近い方で、先ほどの男たちの談笑する声も聞こえる。
エリアスは囁くように、同じように捕らえられている姉妹に声をかけた。
「あの。大丈夫ですか?私が必ず助けますから!」
「あなたは?」
エリアスよりも少し年が上だと思われる、お姉さんの方が聞き返してくる。
「私はエリアスです。冒険者をしています。といってもこれから初仕事の予定だったんですけど…」
「そうですか・・・でも、エリアスさんもだいぶ辛そうですけど?」
「私は気にしないで、回復薬飲めばすぐ治りますよ」
とは言ったものの、腰に着けていたアイテムバッグがないことに気づいた。おそらく気を失っている間にとられてしまったのだろう。
エリアスはどうすれば姉妹二人を助けだし、こここら脱出できるかを考える。幸い繋がれている鎖は魔法ですぐ外せそうだった。けれども、その後のことを考える。あいつらに見つからずに抜け出すことができるのか、もし失敗したら、次は本当に命が危ないかもしれないと感じた。
それにあいつらの強さには違和感を感じていた。鑑定スキルで見た時は格上だけれども、そこまでの差はなかったはず、そして、ユニークスキルなども誰も持ち合わせてないはずだった。
そのため、考えられるとすればエリアスでは知らない何か能力をさとられないような錯覚スキルを持っているのか、もしくは、そのようなアイテムがあるのか、答えは分からないが鑑定スキルで確認できた以上にやつら三人は強いとゆうことだけだった。
エリアスが考え込んでいるまに、やつらの談笑が終わったのか、笑い声等は聞こえなくなってきた、そのかわり二人分の足音が近づいてくるのが聞こえた。
やってきたのは下卑た笑みを浮かべる大柄の男と、興味なさげに無表情な筋肉質の男だった。
「おっ、目覚めてるようだな。」
大柄の男が目の前まできて、エリアスは身構える。
「そんなに、身構えるなよな、これからお楽しみなんだからな。がっはっはっは!」
男たちは酔っているようだった。
そして、エリアスは今しかないと思い赤魔法、火神の鉄拳を発動する。
エリアスから放たれた赤魔法は大柄の男に直撃する。一瞬で相手の身体が燃え上がりゴロゴロとのたうち回り始めた。
そして、赤魔法、融解を使い繋がれていた鎖を絶ちきる。
すぐさま筋肉質の男の懐に飛び込み拳を叩き込む。エリアスは攻撃力はそこまで高くはないが、体術スキルS級の拳は男をひるませるには充分だった。
しかしそれだけで二人を倒せたわけではなかった。いまだ身体が燃え上がっている大柄の男に左肩を捕まれる。そしてそのまま左肩の骨を粉々にされる。痛みが身体中に響く間もなく今度は腹部が熱くなり、吐血する。
自身の腹部に目をやると、ナイフが突き刺さっている。
筋肉質の男が片膝をつきながらもナイフを投擲したようだった。
「ロウウェルの兄貴!悪いがこの女を殺すのも俺がやります!ぐちゃぐちゃになるで犯して、なぶり殺しにします。」
「ちっ。分かった。くれてやる。お前が終わったら、おれがその女の身体、骨まで喰ってやるよ。」
エリアスは二人の会話を聞いてゾッとした。自分はここで死ぬんだと悟るには充分すぎた。
今になって思い返せば自分はバカだった。根拠もないのに拐われた姉妹を助けられると思っていた。会ったこともない人を助けようとした。それは自分ならできると慢心していただけだ。
今目の前に死があることを沸々と実感する。
「騒がしいと思ったら、はぁー。うるさくて眠れねー。」
グルーヴがめんどくさそうにやってくる。
「「兄貴!すんません!」」
ジャッシュとロウウェルの声が重なる。
「嬢ちゃん。わるいがどのみち、ここで死ぬんだ、悪あがきはよせ。まぁ、なんだ、冥土の土産に教えてやるよ。嬢ちゃん鑑定スキル持ってるな?分かるんだよ、実践経験ないやつの鑑定スキルはよ。心の中を覗かれる嫌な感じがな。だけど、手練れたやつの鑑定スキルは見られてる感じがしねぇーから怖いんだな。まっ、それはいいか。それに、おれらは鑑定スキルで見られても困らないように、ステータス改竄のアイテムをつけてる。だから弱く見えたんだろ?けどな、実際はおれたちはAラン冒険者に匹敵すんだよ。」
エリアスは項垂れる。つくづく自分の詰めの甘さを呪う。
どうりで、強すぎた訳がわかった。それならとエリアスはグルーヴに聞いてみた。
「一つ教えて下さい。そのロウウェルって人、私は確実に首を切って殺したはずでした、どんなカラクリですか?」
エリアスは森でのことを思い出す。どうせ死ぬならこれくらい教えてくれるだろうと思ったからだ。
グルーヴは素直に答えた。
「それは、こいつがユニークスキルでゾンビを持ってるからな。確実に頭を潰さない限りは死なないんだよ。はぁー。お喋りはここまでだ、ジャッシュ!ロウウェルあとは任せる。おれは寝るあまりうるさくするなよ。」
グルーヴはそれだけ言うと再び戻っていく。
「それじゃ!やっとお楽しみだな!たっぷり可愛いがってやるぜ!」
ジャッシュがエリアスの服を引きちぎる。
エリアスのまだ発達中の胸が露になる。そして、いまだ腹部に刺さったナイフを勢いよく抜くと何故かポーションをかけて回復させてくれる。
ナイフが刺さっていた腹部の傷がみるみる元の綺麗な状態に戻る。
「せっかくだ朝まで犯しまくってから殺すからな、先に死なれたらつまらないだろ!」
ジャッシュが汚い顔を胸に埋めてくる。ロウウェルは後ろでやはり、興味なさげに見ていた。後ろでずっと一部始終を見ていた姉妹は身体を震わせながら出きる限り見ないように目をつむっていた。
エリアスは涙をこぼしながら思う。
(最低な人生の終わり方だ。生まれも、死に際までも最低か。)
エリアスは覚悟した、こんな男に犯されて殺されるなら、自分の手で終わらせると。
その時だった。
エリアスの胸に顔を埋めて身体をまさぐっていた、ジャッシュの動きが止まる。
「あっ!?どうなってやがる?」
ジャッシュの身体は何かに縛られているようだった。
「こんな、小細工ぅー!!おらぁぁ!!!」
ジャッシュは強引に身体を動かす。
しかし、何かに縛られていた四肢と首はいとも簡単に切り落とされる。胴体は後ろに転がり両腕、両足はきれいにわかれ、頭はエリアスの顔の横に落ち、光を失った目がエリアス見ている。
そして、何者かにエリアスは視界を遮られ、気を失った。