ご挨拶3
エリアスは感動していた。
アイラが用意してくれた紅茶を盛大にこぼしたにもかかわらず、怒らないでいてくれて、これから主人に挨拶するのに、汚れたままだと恥ずかしいだろうと、シャワーまで貸してくれた。何よりも、このシャワーに感動していた。
(叔父様のとこでは、毎日薪をくべてお湯を沸かして、大変だったなぁ。でもこのシャワーはここをこう回すだけで、暖かいお湯でるし、やっぱり魔道具ってすごいや。)
そんなことを考えながら、ひとときの幸福感に浸るエリアスだったが、湯船の方を見ると、不思議なことに、ぽこぽこと気泡が上がってくることに気づいた。
何だろうと思いながら手をそっと入れてみると、急に湯船の水が盛り上がってきた。
「ンッ?オハヨ、。キミダレ?」
湯船から上がってきたそれは青色の塊であったが、声が聞こえてくる。
エリアスは咄嗟のことでびっくりして声を上げてしまった。
「きゃあぁぁぁ!!ス、スス、スライム!なんでここに!?」
エリアスはそのまま、足を滑らせて、しりもちをついた。
そこにアイラがどうしたのかとやってきた。
「あら、メルおはよう。ここで寝てたの?驚かしちゃダメでしょ。」
「コイツガ、カッテ二オドロイタ。ボクハネテタダケ。」
メルとゆうスライムはかたことながら、自分に非はないと言いたげだった。
「まぁ、責めているわけじゃないけど。」
「トコロデ、アイラ、コノコハダレ?」
メルはずっと気になっていたことを聞いた?
「ほら、新しくご主人様の仕事のお手伝いをするエリアスよ。メルも自己紹介して。」
メルはいまだしりもちをついているエリアスを見ているのか、目がないから分からないけど、おそらくエリアスの方を向いているのだろう。簡単に自己紹介を始めた。
「ボクハ、メル。スライム。ゴシュジン二ツカエテイチバンナガイ、センパイ。」
どことなくメルは自慢気な様子だった。
エリアスすぐ立ち上がり、メルに軽くお辞儀をしてから答える。
「先ほどは驚いてしまってすいません。エリアスといいます。今後ご指導の程お願いします!」
「ンッ!ガンバレコウハイ。」
メルは納得したようだった。
そんなことがあって、しばらくリビングでアイラと、メルとどこから来たのかとか、好きな食べ物はとか、談笑してくつろぎはじめた時である。
ふいに玄関の扉につけてある、鈴が鳴った。
ノックなどせずに入ってこれる人物、それはこの家の主であることを物語っていた。
エリアスとメルが出迎えに玄関の方へ向かって行く。エリアスは少し落ち着いていた鼓動が再び激しくなっていくのが自分でも分かった。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
「オカエリゴシュジン!」
アイラとメルが共に迎える。
「ご主人様、帰宅してそうそう失礼します。以前お話されていた、娘が来ております。」
「分かった。」
それだけ言うと家の主はリビングで固まっているエリアスのところへ来た。
「お前がエリアスか?おれはバラン。グレゴリウスのじじいから、話は聞いてる。使えなかったら、すぐに送り返す。」
バランは淡々と告げた。
「初めまして、エリアスと申します。今後ご迷惑をおかけするかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします!」
エリアスは緊張しながらも、すらすらと挨拶ができた自分を褒めてあげたい気持ちになった。
そして、バランを見て、一瞬で分かった。今の私では、この人を絶対に殺すことができないとゆうこと、圧倒的な実力の差を感じていた。
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グレゴリウスはエリアスが向かった、街の方をぼんやりと眺める。
エリアスは無事に街へたどり着けただろうか、バランに会うことはできただろうか。考えれば考えるほど心配にはなるが、自分が人生の中で力の使い方、知識を教えた弟子二人のうちの一人と考えれば、何も問題はないだろうと自分に言い聞かせる。
それに、バランのところへやったのだ。グレゴリウスはバランの実力を誰よりも認めているからこそ、エリアスを預けることができたのだ。
ただ、考える。自分が若い頃ならバランに勝てたろうかと。
グレゴリウスは頭の中で、シミュレーションをする。が、バランに勝てるイメージが湧かなかった。
「わしも、いい頃合いかのぉ。」
グレゴリウスは若い頃のことを噛み締めるように思いだし、そして、この人里離れた森の奥深くの質素な場所で、二人を育てたことに、もうやり直せない過去の過ちも、ここでの思い出も、全て墓場まで持って行く覚悟はできていた。
「さぁてと、最期の仕事を済ませようかのぉ。」
グレゴリウスは九十歳近い老人とは思えぬ足取りで、エリアスが向かった方とは逆の方へ歩きだした。