ご挨拶
「こちらが報酬になります。どうぞお納めください」
30代後半の、眼鏡をかけた顔立ちの良い女性が慣れた手つきで金貨の入った袋を差し出してくる。
「あぁ、恐れ入ります。」
静かな声で、男が丁寧でありながら、重々しい声音で返答をして、金貨の入った袋を受けとった。
その顔は黒い布で口と鼻を覆っているため、定かではないが、年は20代前半とうかがえた。
「いつも、仕事が早く尚且つ、証拠を一切残さない、あなた様の暗殺術には、私共も信頼を置いています。今後とも良好なお付き合いができればと思っております。」
女性がにこやかに微笑みかけてくるが、そんな親しみがあるとは到底思える口調ではなかった。
「詮索はしない、それが良好な関係を保つ手段ですよね?」
男はさりげなく受け流し、部屋から出ていこうと背を向ける。その背中に一言声がかかる。
「えぇ、そうですね。今回もありがとうございました。{葬儀屋さん。}」
男は軽く手を上げて、扉を出て行った。
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賑やかな街の通りをでて細い小道に入ったところで、エリアスは足を止めて小さなメモ書きを本日何度めになるのか、見返していた。
「ここらへんだと思うんだけどなぁー、違うのかなぁ…」
ついつい一人言を漏らしてしまうが、もちろん一人で来ているため、返事をしてくれる人はいない。
回りを見渡しても自分がどこに今いるのかも分からない状況で数分考え込んでいると、巡回中の王国兵が二人小道の向こうからやって来た。
エリアスは咄嗟に声をかけようとしたが、何か思いとどまって会釈だけして、またメモ書きに目を落とした。
(やっぱり叔父様が誰にも道のりを聞いてはいけないよって言ってたし、もう少し頑張って探そう。これからお世話になる人だしね)
そう思いエリアスは再び歩き始めた。
エリアスがここまでするのにも訳があった、身寄りのない自分を引き取って育ててくれた、叔父の元をはなれ、自立して生活していくためだ。それに仕事の紹介も叔父がしてくれたとゆうこともあり、言い付けを守っていた。
そうこうしているうちに小道を曲がり続けて、行き止まりまできてしまっていた。
(どうしよう…)
エリアスは今度こそ泣き出しそうになるが、ふと顔あげて回りを見てみた。
するとそこに、自分の探していた、家にたどり着いたのでは?と気づいた。
エリアスは再びメモ書きに目をやり、家の番地を確認し、メモ書きに目をやり、見にくい表札に目をやり、そして、満面の笑みを咲かせた。
「見つかったー!間違ってないよね、うん、間違ってないはず」
エリアスは声をあげて喜んでしまったことに気づくが、すぐに気を引き締めた。
それもそのはずである、これから仕事をする上でお世話になる人に挨拶するのだ、緊張しないはずもない。
昼間にしては少し薄暗い階段を上ろうと階段に足をかけると、魔法道具の電灯が灯る。
一歩段を上がるごとに緊張もましてきた。エリアスは足が棒にでもなってしまったのでは?と思うほどに緊張をしていた。そしてついにその時が来た。
扉の前で深呼吸をしてから、扉をノックしてこう言った
「すいません、今日からお世話になります。エリアスです。よろしくお願いします。」
そして、しばらくの沈黙が立ち込める。
もう一度ノックしようかと思ったところで、扉がゆっくり開き始めた。
「あら、可愛いらしい子がきたわね。今ご主人様は出かけてるから、上がって、待っててもらっていいかしら?」
扉の前には、色白で銀色の髪に真っ赤な瞳の絶世の美女が出迎えてくれていて、エリアスは同性ながら、見惚れてしまっていた。