ボヌル
お店の中は、外からでも分かるぐらいガヤガヤと賑わっていた。賑わっているからこそ、中に入るのを躊躇した。
「忙しそうだから、後から来た方がいいかしら? 」と、ルミエールは思い。その場から離れようと、向きを変え。歩きだそうとした時だった。
カランカラン……。
お店の扉が開き、赤茶色の長い髪の毛を後ろで三つ編みにした一人の女性が中から出てきた。
その女性は、周りをキョロキョロと見回した後。近くに居たルミエールに気づくと、ルミエールの方へと近づいて来る。
「……もしかして、あんたがルミエールかい?」
(どこかで会ったことあったかしら……。)
どれだけ思い出そうとしても、ルミエールは分からなかった。
首を傾げているルミエールを見た女性は、可笑しそうにクスリと笑った。
「ごめんよ。私は、シスターから話は聞いていたからルミエールの事を知っていたんだよ。私は、リゼ。このお店を営んでいるよ」
「は、初めまして! 今日からお世話になります。ルミエール・リフェアです!」
リゼが、このお店を営んでいる人だと知り。ルミエールは、慌てて頭を下げて挨拶をする。
(この女性が、ボヌルの店主……。あの護衛の人達は、リゼさんの事を怖い人だと言っていたけれど、そんな感じもしない優しそうな人だわ……。)
「迷子になっているのかと思って、これから探しに行こうとしていた所だったんだよ。」
「すみません……遅くなりました。」
「無事に来たんだからいいさ。初めての帝都だから、街を見て回りたかっただろうしね。さぁ、入りな。」
リゼはそういうと、お店の扉を開けてくれた。扉を開けると、ガヤガヤと賑わっていた声がよく聞こえてくる。
ルミエールがボヌルの中に入ると、防具を身に付けている冒険者の人や、お昼なのにお酒を飲んでいる男の人達が居るのが見えた。
「ようこそ、ボヌルへ。此処が、今日からあんたの居場所でもあり。働く所だよ」
(此処が、私の居場所……。)
一度目の人生では故郷で嫌われており、リゼリアの居場所は無かった。
この国に嫁いできてやっと、リゼリアの居場所も愛してくれる人もいるんだと。これから、この人と幸せになるんだと。そう、思っていた。
周りから、ブランの事を不幸にするんじゃないか。この女はまた捨てられるんじゃないかと、囁かれていてもブランが守って。否定してくれていたから、リゼリアは安心してブランと一緒に居れたのだ。
だが、リゼリアじゃない違う令嬢との恋愛が噂で囁かれた時は、もうリゼリアの居場所はなく。周りが言うように、自分は幸せになれないんだと思ってしまった。
だからなのか、リゼリアはせめてブランの幸せを願おうと思った。
生まれ変わってからは、シスターは自分達を家族の様に接してくれた。何か悪いことをしたら叱り。優しい笑みで褒めてくれたことだってあった。
教会には、沢山の子供達も居たので寂しくはなかった。只、此処を出て行ったら、また一人ぼっちになるんだと思うと、寂しさしか無かった。
自分を産んでくれた両親は、事故で亡くなりルミエールを置いて逝ってしまった。ルミエールは、今世でもまた家族も居なく。両親の愛情も分からなく、一人ぼっちなんだと思った……。
いつも運命は残酷だ。と、そう思っていた。だけど、リゼは此処がルミエールの居場所だと言ってくれた。
そう思うと、目から涙が流れ落ちる。
「ルミエール!?どうしたんだい!?」
「違うんです……ご……めん……なさい。」
「おいおい。リゼさんが、ついに女の子を泣かしたぞ」
「おい、大丈夫か? お嬢ちゃん」
リゼや、周りにいた人達が慌て。心配をしてくれている。その事だけでも、ルミエールの心はポカポカと暖かい気持ちになる。
早く泣き止まないといけないのに、ぽろぽろと涙が溢れてくる。流れ落ちてくる涙を手で拭うが、涙が止まらない。
(否定をしたいのに……。泣くことを我慢しよう。今度こそ強くならないといけない。と、思って決めていた所なのに……。私は何も変われていないわ。前世の様に、弱いままだわ……。)
「……ほら! 泣き止みな。今忙しいんだから、手伝ってもらわないといけないんだよ!?」
「……はい!」
リゼはそう言いながら、ルミエールの涙を持っていたハンカチで拭う。
涙が止まり。ルミエールが下を向いていた顔を上げると、お店に居たお客さん達が優しい眼差しでこちらを見ているのが見えた。
「こんな可愛い子をリゼさん虐めるなよ? ……それよりも、こんな可愛い子が働いている店だったら、毎日でもくるな!」
「ハハッ! 間違いない!」
一人の男性が言った一言で、お店の中は笑いに包まれた。
「それは、どういう事だい? 今笑ったやつは、私のスペシャルメニューを平らげないと帰らせないからね!! ルミエール。手伝っておくれ!!」
「……っ。はい!」
リゼは怒った表情で腰に手を当ててそう言うと、調理場に入っていった。それにルミエールも続く。
その後ろでは、何故か悲鳴が上がっていたのだった……。