幸せ
ルミエールが朝起きると、寝転がりながらこちらを見ているブランが居た。
起きるまでの間。寝顔を見られていたと思うと、ルミエールは恥ずかしくなり、隠れてしまいたくなった。
そんなルミエールをブランは後ろから抱き締め、微笑ましそうに見ていた。
起こしに来たネスとリーオが部屋に来たことで、二人は寝台から出る事になった。
リーオは部屋に入ってきた途端、ルミエールの服が乱れていないかなどをチェックし、安心したようにため息をつくとブランにポツリと小さな声で「ヘタレ陛下」と呟いていた。
二人が火花を散らしている間に、ルミエールは別の部屋で着替えを済ませる。ルミエールが戻ってきた時には、ブランも着替えを済ませていた。
二人は食事を摂り終わると、ブランは仕事へ。ルミエールは、マナーなどを教えて貰うために別れる。
リゼリアだった頃と、今とでは貴族の顔ぶれも変わっている。マナーも覚えているかも不安なため、一から学ぶことにしたのだ。
(ブランの隣に居ても、恥ずかしくないようにしなくちゃ……。)
ブランは気にしなくても大丈夫だと言っていたが、ルミエール自身ブランに恥をかかせるような事はしたくなかった。まだ結婚していなくても、ブランの婚約者だから他国の人達と会う事だって増えるだろう。
その時、リゼリアの生まれ変わりだという事に……ブランの婚約者だという事にルミエールは甘えたくなかった。
どれだけ大変でも、自分が決めた道だ。ブランと一緒に歩んでいくと決めた日から、ルミエールは覚悟出来ていたのだ。
「ルミエール様。講師の方が来て下さっています」
「行きましょう」
リーオに声を掛けられ、ルミエールは座っていた椅子から立ち上がる。
ブランはルミエールの意思を聞くと、すぐに講師を手配した。その人は、急なお願いにも関わらず講師を受けてくれたのだ。
ルミエールは、講師の人からマナーを学び、どれだけ大変なのかを痛感する。
リゼリアだった頃は、祖国では蔑ろにされていた為マナーなど学べなかった。この国に来て、ブランの計らいで色々な事を学び始めたが、学び終わる前にリゼリアは死んでしまった。
前世で学んでいた事があったとしても、忘れている部分が出てきていた。平民としての暮らしになれてしまっていたルミエールは、自分の出来無ささに苦笑いを浮かべる。
知らない国があったり、貴族の顔ぶれが変わっていたりと前世から変わっている事も多く、ルミエールは驚愕する事が多かった。
一通り教わり終わったのは、外が薄暗くなってきた時だった……。
ルミエールは、講師の人を見送ると机にうつ伏した。
「……疲れたわ」
「フフッ。お疲れ様です。」
リーオはハーブティーを淹れ、ルミエールにカップを差し出した。ルミエールはカップを持つと、一口飲みほっと一息をつく。
「大変だけど、学べるのは嬉しいわ。」
「それはようございました。」
楽しそうな表情のルミエールを見ながら、リーオは嬉しそうに微笑んでいる。
コンコンコンッ……。
扉がノックされ、リーオが扉を開けに行く。扉を開けると、そこにはブランとネスが立っていた。
「ブラン!?」
「今大丈夫かい?」
「どうしたの?」
扉の前から動かないブランに、ルミエールは不思議そうな表情をしながら近づく。
そんなルミエールに、ブランは意地悪そうに微笑むと自分の方へと手を引っ張り、抱き寄せた。
「ブ、ブラン!?」
「陛下! ルミエール様をどこに連れて行く気ですか!?」
何処かに転移をしようとしているブランに気づいたルミエールとリーオは、焦った様な表情をした。
リーオは、慌てた様子でこちらに来ようとしていた。
「すぐに戻るから心配するな」
ブランはリーオにそう言い残すと、ルミエールと一緒に光に包まれながら転移してしまった。
ルミエールが次に目を開けた時、目の前には様々に咲いている花と満点の星空とが目に飛び込んできた。
「綺麗……」
月の光に照らされている花が、風に吹かれて揺れており幻想的雰囲気だ。
そんな光景を見て、無意識にルミエールの口からは言葉を発してしまった。
「ここを見つけた時、自然や花が好きな君が喜ぶと思ったんだ」
「えぇ、とっても素敵な所ね!」
ブランは、自分の着ていた上着を地面に敷くとその上にルミエールを座らせた。ブランもルミエールの隣に座り、楽しそうにキョロキョロと辺りを見回しているルミエールを見ながら微笑んでいた。
「疲れも吹っ飛んだかい?」
「もちろん! 連れてきてくれてありがとう。ブラン」
「君は、昔から頑張りすぎる所があるから……休憩も必要だよ?」
「えぇ……」
ルミエールは、自分の頭をブランの肩へ凭れ掛けさせながらボーっと、景色を眺める。
「頑張りすぎなくても良い。自分達のペースで進んでいけば良いんだ。」
「でも、私が出来ない事で迷惑かけるかもしれない……。それが怖いの 」
「あの頃から変わっている事だって多いんだ。誰だって、最初から完璧な筈ないじゃないか。」
「フフッ。そんなに私を甘やかしちゃダメよ?」
ルミエールは可笑しそうに笑いながら、ブランの鼻を指先でつついた。
「愛しい人を甘やかしちゃダメなのかい?」
二人とも見つめ合うと、クスクスと笑う。
「ルミエールは何かしたい事はあるかい?」
「祖国の人達の事も気になるし、色々な景色を沢山見たいわ! 沢山やりたい事があるの」
「あぁ、君がやりたい事を全てやろう」
「ありがとう」
前々から、祖国の人達がどうなったかルミエールは気になっていた。それに、前世ではあまり見られなかった景色を沢山見られると聞いて、ルミエールは嬉しくなった。
「やりたい事をやっても良い。何かあったら二人で乗り越えて行こう。二人で幸せになるんだ」
「えぇ!!」
見つめ合いながら微笑んでいる二人の頬を、風が撫でた。
ルミエールはこれから先の不安もありながらも、こんな何気ない幸せが続けばいいと願った。だが、ルミエールの思いとは裏腹に各国は、水面下で動き出していたのだった……。
第一章は、ここで一旦終わり。第二章へと続きます。




