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皇帝

ブランの前髪から見える漆黒の瞳は何も写していないようで、表情も感情が抜け落ちた様に無表情だ。

これまで、ブランのこんな姿を見たことが無かったルミエールは、ブランから目をそらす事が出来なかった……。


「……ブラン」


戦場に居るときみたいなブランに、緊張とブランの殺気で周りに居た人達も動けなくなっていた時だった。ポツリと聞こえるかどうか分からないほどの小さな声で、ルミエールがブランの事を呼ぶ。ブランはルミエールの方をゆっくりと向く。


ルミエールは、ブランから視線をそらしてはいけない様な気がした。

じっと見つめられているブランの漆黒の瞳に、ルミエールは吸い込まれそうな感覚になった。


「ルミ……エール……」


「ブラン」


「ルミエール……」


「なぁに? ブラン」


「ルミエール!!」


そこに居る事を確認するかの様に、ブランは何回も何回もルミエールの名前を呼ぶ。いつものブランの表情になったと思った瞬間、ブランはルミエールの方に歩み寄るとルミエールの事を強く抱き締めた。


「心配した……。また、君に会えなくなるのかと思ったら気が狂いそうだった……。無事で良かった」


「ブラン、助けに来てくれてありがとう」


「……ルミエール、もっと顔を見せて?」


ブランはそう言うと、ルミエールの頬に手を当てると顔が見えるように上を向かす。

眉は八の字になっていて何処か泣きそうな表情だが、先ほどの感情が抜け落ちた様な表情でもなく、いつものブランに戻っている事にルミエールは安堵した。

そんなブランを見つめていたルミエールは、ブランの顔がどんどんと近づいている事に気づく。


「ブ、ブラン!?」


「何?」


(何じゃないわ!! 周りに沢山の人が居るのに、ブランったら何をしようとしているの!?)


ルミエールが、ブランの胸に手を当てて押し返そうとするが、ブランの体はピクリとも動かない。


「あらぁ~」


「こんな所で、自分の息子の口付けする所を見ないといけないとは……。」


遠くからリーリエとルダンの声が聞こえる。

何処か、リーリエは楽しそうだ。


「ブラン! 沢山の人達が居るのよ!? 恥ずかしいわ!!」


「……人が居なければ良いのかい?」


「なっ!! そ、そう言う事じゃなくて!!」


ルミエールは、顔を真っ赤にしながらもブランから離れようとしているが、ブランはそんなルミエールを逃がさないようにルミエールを強く抱き締めている。

だが、ブランの表情は何処か楽しそうだった。


「ごめんよ? 離れるから怒らないでおくれ。だが、これは許してくれるかい?」


そう言いながら、ブランはルミエールの前髪に手を伸ばし髪を掻き分ける。

どんどんと、ブランの整った顔が近づいてくる。ルミエールは、反射的に強く目を瞑った。


チュッ……。


リップ音が聞こえたかと思うと、おでこに口付けを落とされていた。


「そんな顔していたら、襲われてもしょうがないよ?」


「なっ! な、何を言ってるの!?」


ルミエールはブランから逃げる様に離れ、真っ赤な顔をしながらブランを睨み付ける。


「フフッ。じゃぁ、二人の時にしようね?」


「し、しません!!」


(リゼリアの時は婚約して、すぐ死んでしまったから知らなかったけれど、ブランがこんなに意地悪だったなんて!! )


「ねぇ、ルダン? ブランちゃんって、やっぱり貴方によく似ているわね?」


「そうか? まぁ、親子だからな。それよりもリーリエ、帰ろう」


「もう! ……じゃぁ、ルミエールちゃんにブランちゃん。そろそろ失礼するわ?」


ルダンは、リーリエを優しく抱き締めながら肩に顔を埋めていた。


「リーリエ様、ありがとうございました。」


「フフッ。良いのよ? だって、貴女は大切な娘なんですもの。前みたいに、また一緒にお茶してくれる?」


「はい……ぜひ!!」


大切な娘だと言われ、ルミエールは嬉しさで涙が出そうになった。

そして、前みたいにリーリエとお茶が出来る喜びで花が咲いたような満面の笑みで返事をする。


「あら、嬉しい! ブランちゃん、早く結婚してしまいなさい。こんな可愛いルミエールちゃんを、ほっとくのは危険だわ! 」


「……分かってます。では、父上も母上もお気をつけて」


「リーリエ、帰ろう」


「はいはい。……じゃぁね?」


ルダンが転移魔法を使う。最後までリーリエは、優しく微笑みながら二人に手を振りながら帰って行ってしまった。


「さぁ、ルミエール。帰ろうか」


「……。」


「……ルミエール?」



ルミエールはじっと、ブランを見つめる。そんなルミエールに、ブランは困惑していた。


「フフッ。やっぱり、いつものブランだわ」


「……すまなかった。怖がらせたかい?」


「初めて噂の皇帝の姿を見れたんですもの。いつものブランも先程のブランもかっこよくて好きよ?」


「……っ」


ブランは、嬉しさで言葉が出なかった。ルミエールの前で見せていた姿と、戦場などで見せていた姿は全然違う。

怖がられるかもしれない。離れて行ってしまうかもしれない。と言う不安で、ブランは押し潰されそうだったのだ。


「……ルミエール」


ブランがルミエールを抱き締めようと手を伸ばす。

もう少しで手が届きそうな時だった。


「ルミエール様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ブランが大きく穴を開けた天井から、ルミエールの名前を呼びながら一人の女性が飛び降りてきた。


「……リーオ?」


いきなり現れたリーオにルミエールがびっくりしていると、リーオが側に寄ってきて体を隅々まで見始めた。

そんなリーオを止めるかのように、ネスも現れた。


「リーオ、止めなさい」


「でも、ルミエール様にお怪我があったら大変だわ! ルミエール様、どこも痛くありませんか!?」


「えぇ、大丈夫よ? ありがとう。」


「あぁ、怖かったでしょう。……犯人め許さない」


リーオは腕捲りをして、何処かに歩いていこうとしていた。それを、慌てたような表情をしながらネスが止めている。


「リーオ、落ち着くのです」


「落ち着いていられますか!! 子供達も拐い、ルミエール様も拐ったのですよ!?」


「はぁ、本当にリーオはいつも良いタイミングで現れるな……。」


ブランは、リーオとネスのやり取りを見ながらポツリと言葉を落とした。


「……??」


ルミエールはなんの事か分からず、首を傾げている。そんなルミエールを見ながら、ブランは苦笑いを浮かべている。


「……陛下。婚姻するまでは、陛下からルミエール様をお守り致しますので」


「いや、邪魔をしないというのは……。」


「嫌でございます。それを守れないならば、婚姻をしても守り通しますが?」


「くっ……」


何かに気づいたリーオは、ブランの側に寄ると小声で話し始めた。そして、ブランは頭を抱えだしてしまった。


「ブラン? どうしたの?」


「ルミエール様、心配せずとも大丈夫ですよ。」


「そ、そうかしら? 何か悩んでいるみたいだけれど……。」


「あれは、陛下への試練なのでほっといて大丈夫です」


「試練?」


リーオが何を言っているのか分からずに、ルミエールが首を傾げたがリーオはいつもの優しい笑みでルミエールに微笑むだけだった。

暫くすると、何かを決意したような表情をしたブランが居た。


「分かった。良いだろう」


「フフッ。」


リーオとブランが何かを喋っていたが、ルミエールはなんの事か分からなかった。只、ネスは隣で呆れた様な表情をしていたのだった。


「さぁ、ルミエール。帰ろうか」


ブランに声を掛けられ、やっと帰られるのだと実感した。


(リゼさんにも心配かけたから、きちんと謝らないと……。)


ルミエールは、やっと帰れるという喜び。これからまた、危険なことがあるかもしれないと言う不安でいっぱいだった。

だが、ブランと一緒に歩んでいくと決めたルミエールは、覚悟を決めることにした。今度こそ、幸せになると。後悔をしない生き方をすると決めたのだから……。






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