閑話.我が儘王女のその後
(何で……何でなのよ!!)
頭の中では、それだけが駆け巡る。
あの侍女が来て、竜王を止めた後。誰にも気がつかれないまま、モブリアン・シルフィスは国へと帰るために、密かに騎士達によって連れていかれていた。
(何故!? 一国の王女である私を無視して。竜人の国の者は、平民の女なんかを庇うのよ!! 可笑しいじゃない!! お父様だって「番なんてお伽噺だろうから。可愛いモブリアンが皇帝の妻になれるぞ」と言ってくれたのに……全然違うじゃない!! それに、皇帝があんな化け物だったなんて聞いていないわ!!)
「……モブリアン・シルフィス様。貴女には、転移魔法で帰っていただきます」
「ネス・フレリア様!!」
騎手に連れて来られた部屋には、ネスと騎士団団長であるシルが居た。
「王が、貴女を罰する事なく帰される事に感謝しなさい。貴女のお付きの侍女達は、先に帰しています。」
ネスはそう言いながら、魔法を発動している。
そんな態度を見て、モブリアンは頭に血が上る。
「こんな化け物の国なんて、二度と来るもんですか!!」
言った後「大国の宰相であるこの人に失礼な事を言ってしまったんじゃないか。魔法で、始末されるんじゃないか。」と、思ってしまった。
「……化け物の国ですか。まぁ、ここで罰しなくても。貴女達はどうせ自滅されますしね」
最後に、シルが言っていた言葉の意味を、モブリアンはこの時理解していなかった。
「何を言っているのか。」と、口を開こうとした時には目の前は眩い光に包まれた。
光が収まり。モブリアンが目を開けると、自国の門の前に転移していた。
「あの平民の女、覚えていなさい……。絶対に許すもんですか!! 王女である私に楯突いて、私をこんな目に遭わせて!! さっさと、身を引いてれば良かったのに!!」
(そうだわ! お父様に頼んで、あの女を拐ってもらえば良いわ。そして、分からせてやれば良いのよ!! 貴女のせいで、王女である私に恥を掻かせたという事を。そして、もう二度と竜王様の前に現れないようにしましょう。)
そんな事を考えていると、口角が上がってくる。
(それよりも。国の王女がいるというのに、門の扉が開かないのかしら? 門番も居ないみたいだし……。)
ドンドンッ
扉を強く叩き。叫ぶ。
「ちょっと!! 王女であるモブリアン・シルフィスが帰ってきたのに、何故門の扉を開けませんの!! さっさと開けなさい!!」
すると、門の横にある。人、一人が通れる様な扉が少し開いた。いくら待っても、人が出てくる気配もない。
疑問を抱きながらも扉を潜ると、街は静まり返っている。いつも人が歩いているのに、誰一人と歩いていないのだ。
「……何でなの?」
お城までの道のりを歩くが、誰にも会わなかった。路地にいる、孤児の者達もいないのだ。
前を真っ直ぐ向くと、いつもと違う光景が飛び込んできた。
お城の方から、黒い煙が上がっているのだ。
「……嫌な予感がするわ」
はしたないが、モブリアンはドレスを捲し上げ。城の方に走り出す。やっとの思いで着くと、お城の前には人だかりが出来ていた。
いつも過ごしていた城は、何故か火で燃え盛っている。
呆然と立ち尽くすモブリアンに、一人の男が気がついた。
「王女だ!! 王女が帰ってきたぞ!!」
その声で、ふと我にかえる。
(早く、お城の火を消さなくちゃ!! お父様とお母様の、無事を確かめなくちゃ!!)
「何故……何故、お城が燃えているの!? あなた達、何をしているのよ!! さっさと、火を消しなさい!」
人だかりに近づくと、足元には父と母が居た。
首を飛ばされた姿で転がっていたのだ……。
「きゃぁぁぁぁ!! お父様! お母様!! 」
側に近づこうとした時、住民達に取り押さえられてしまい。近づけない。
「何をするのですか、無礼者!! 離しなさい!!」
「お前達王族のせいで、俺達の暮らしは良くならない……。」
モブリアンを取り押さえていた、一人の男がそうポツリと言葉を溢した。
(何故、そんな目で私を見るの?)
周りの民達の目には、憎悪。悲しみ。殺意。そんな感情が垣間見える。
「何を言っているの! 離しなさい!!」
「……そうだ。この女も、王族だ。」
「王族や貴族が贅沢しているせいで、息子が死んだ。」
「お前達が使っているお金は、俺達が稼いで納めている金なのに……。」
そう言われ、モブリアンは暴れていたのをやめる。
(そうだ、キラキラとした宝石も。ヒラヒラとしたドレスも。お父様がよく買っていた絵も、民達が納めているお金で買った物だった。でも、お父様はお金を納めるのが民達の義務だと言っていた。だから、気にするな。と……。)
ぼんやりと、そんな事を考えている時。民達の後ろで、モブリアンに付いている侍女達が立っている事に気づく。
「貴女達、助けなさい!! 私の侍女でしょう!!」
地面に這うように取り押さえられている為、お気に入りのドレスも。竜王様に見てもらうために、張り切ったメイクもぐちゃぐちゃになっている。
(何故、私がこんな目に遭わないといけないの? さっさと、助けなさい。貴女達は、私の侍女なんだから。クビにされたくないでしょ?)
そんな気持ちを込めてモブリアンは叫ぶが、侍女達の目には殺意がこもっていた。
「私の息子は病になっていたのに、十分な治療を出来なく死んだ。十分な薬がないから、診れないと言われたわ!!」
「王族にお店の雰囲気が気にくわないと言われ、親の店を潰された!」
(あぁ、誰も助けてくれない。私は、このまま自国の民達に殺されてしまうのだわ……。)
そう思うと、目に涙が溜まる。
「……貴女達にはきちんと警告をした筈です。」
聞き慣れた声が聞こえ。はっとする。
後ろの方から、宰相である男が歩いてきた。
(いや。違う……。この男は、お父様に逆らったとかで。最近、宰相の職を解かれたのだ。)
「私は、民達の声や民達の生活を見てほしいとあれだけ言っていた……ですが、貴女達は自分の贅沢の為に私達の意見を聞きもしなかった。」
(そうだ。民達の反乱により滅んできた国の事を、私は幼い頃に学んでいたはず……。もっと、民達に目を向ければ良かった。でも、過ぎてしまった事を悔やんでしまっても過去には戻れないし、私達がこれまでしてきた行いなのだから……。)
今さらそんな後悔をしても、遅い事に気づく。
「殺せ」
「殺せ」
「私達を苦しめた、悪魔達を殺せ!」
周りに居た民達の声が、どんどんと大きくなっていく。
民達はモブリアンに近づくと、持っていた剣を振り上げる。
死ぬ直前に見た光景は、民達の憎悪に満ちた目だった……。
シルフィス国の王族や不正を働いていた貴族は、民達の手によって処刑された。
王族の一人でもある王子は幼いながらも、王達の不正を止めようとしていたのもあり。民達からの支持もあり、唯一王族の中で生き残っていた。
その後、モブリアンの弟である王子が宰相と一緒にシルフィス国を建て直していくと、各国に発表をした。
帝国も、安定するまでは支援すると発表をしたのもあり。王子が王として就くことに、反対する国は居なかったのだった。




