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「ねぇ、ルミエール。一緒に、城に行かないかい?」


騎士団の人達が、ルミエールを襲った者達を連れていくのを見送っていた時にブランがそんな事を言った。


(……城に??)


「……ダメよ。あの頃とは、違うのよ? 今の私は、貴方の妻でも婚約者でも無い、只の平民なのだから。」


「……君が好きだったお菓子を、貰ったのに。」


(……えっ? お菓子ですって!? いえいえ、ダメよ。我慢しなさい、ルミエール。何があっても、あの頃とは違うのだから行ってはダメ。)


「それに、君がよく飲んでいた紅茶もあるのに……。」



(香りが凄く好きだった紅茶があるの……?)


他国の名産物で、あまり出回ってないから。今世は飲めてなかったのだ。


「それに、リーオも会いたいと言っていたのに……。」


「リーオが!?」


リーオとは、城で侍女をしている。そして、ネスの番でもある。

リーオと初めて会ったのは、ルミエールがまだリゼリアだった頃で、祖国に居たときだった。

リーオは悪事を調べに、侍女として潜んでいた一人であるのだ。


「リーオ……。会いたいわ」


「うん。リーオも会いたがっていたんだ。……ルミエール、一緒に行こう。大丈夫、城に他国の者達は居ないから。」


(……ブランに、挨拶に来ていた他の国の人達は帰ったのか。)


「……分かったわ」


ルミエールがそう言うと、ブランは嬉しそうに笑っている。


「良かった! じゃぁ、早速行こう!!」


ブランに手を差し出されたので、ルミエールはその手を握る。一瞬にして、目の前の景色が変わった。

さっきまで街に居たのに、昔によく見ていた場所に立っている。


「……ここは。」


「フフッ。懐かしいでしょ? あの時と、何も変わってないんだよ?」



さわさわと風で揺れている草や、毎日手入れがされている色とりどりなお花。

あの頃と同じ、懐かしい景色が目の前に広がっていた。


「ルミエール、少しここを見てるといい。リーオを連れてくるよ」


「えぇ。ありがとう」


そう言うと、ブランが離れていったと同時にシルが入れ替わって側に来た。


「……シル。」


「懐かしいでしょ? ここは、ブラン様があの時と変わらずにする様に命令されたんですよ?」


シルは、嬉しそうにそう言った。


「そうだったのね。嬉しいわ……。」


好きなお花と、落ち着く空気。

此所に居ると、嫌なことも忘れる特別な場所。


「……なんで、なんで!! 貴女がこの城に居るのよ!!」


後ろを向くと、モブリアン・シルフィスが居た。


(他国の人達は帰ったんじゃないの?)


「……モブリアン王女、シルフィス国の人達は帰られたはずですが。」


シルはルミエールの前に立ち、そう言った。


「あら。シル・ネイスト様、ごきげんよう。ブラン様に用事があったので、私だけ残ったのです。」


「でしたら、応接間でお待ち下さい。他国の王族でも、行って良い場所と駄目な場所ぐらいございます」


シルがそう言うと、モブリアンは顔を赤くして此方を指差した。


「そこの平民はどうなんですの!? そいつこそ、出ていくべきですわ!!」


「……近づくな」


シルの声が低くなる。

シルの表情は見えないが、モブリアンは顔を青くしている。


「なんなんですの……私こそが、皇帝の妻に相応しいのに!!」


モブリアンは、そう言うと手に持っていた扇子をこちらに投げてきた。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


投げられた扇子は、ルミエールに当たらず跳ね返りモブリアンの方に向かっていった。


「貴女、何をするの!? 私は、シルフィス国の王女よ!?」


鼻を真っ赤にさせ、涙目で此方を睨んでいる。


「……では、貴女は分かっているんですか? ルミエール様は、ブラン様の番だと」


シルはそう言うと、剣を抜いていた。


「嘘……嘘よ!! お父様はそんな事なんて、言ってなかったわ!!」


「いえ、本当です。我が主人である、ブラン様の大事な番様を二回も傷つけようとしたのです。一回は警告しましたが、二回目は……ない。」


「いやぁぁぁぁ!! 助けて!! 知らなかったの!!」


モブリアンはそう言いながら、ルミエールにすがり付いてきた。


「……汚い手でルミエールに触るな」


後ろに引かれたと思うと、ブランの声が聞こえた。


「ルミエール。遅くなって悪かった」


「ブラン……。」


ブランの声を聞くと、何故か安心する。


「ブラン様!! お助け下さい!!」


「……モブリアン・シルフィス。貴様は、警告を無視し二度も私の番を傷つけようとしたな」


「本当だと知らなかったのです!」


「ハッ! 何を言う。きちんと、抗議文で伝えた筈だ。ルミエール・リフェアは、私の番だと。ニ度目は、国を滅ぼしても良い覚悟で来いと。」


竜人の番の事については、何処の国でも幼い頃に説明を受ける筈だ。それだけ、番という存在が大切だから。


「あっ……あぁぁぁぁぁぁ!!」


コツコツ……。


ブランが、モブリアンの側へと歩みを進める。


「来ないで……来ないで化け物ぉぉぉぉぉ!!」


「何を言っている? そんな化け物に、一目惚れをしたのは貴様であろう?」


(止めないと……止めないといけないのに、声が出ない。)


シルもモブリアンの後ろで剣を突き付けている為、此方に気づいていない。


(ブラン、ダメよ。殺してはダメ、私は大丈夫だから。)


「ブラン……ダ……メ」


ルミエールは、やっと出た声を振り絞ってそう言った瞬間だった。

視界の隅で、頭の後ろで纏めあげられた金の髪の毛の女の人が横を通りすぎ、ブランの元に行く。


ドゴーン……。


大きな音がしたと同時に、ブランは床に沈められていた。


「陛下、駄目じゃないですか。リゼリア様が、やめて欲しいと言ってらっしゃるのに。」


手を叩きながら、そんな事を言っている女の人が一人立っていた。

前世、よく見ていた顔。

いつも優しく、頼りになる友達の様な人。


「……リーオ??」


「はい。お会いしたかったです。リゼリア様」


リーオはそう言うと、深々と頭を下げた。





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