胸騒ぎ
ルミエールは街から帰り、歩き疲れてしまったのかベッドで横になっていると、いつの間にか眠りについていた。
その夜、ルミエールは不思議な夢をみた。
まだ、ルミエールが赤ん坊の頃だろうか。
赤ん坊のルミエールを抱きながら、悲しい表情をしている女性と、そんな女性の横で心配そうな表情をしながら女性の肩に手を置いている男性が居た。
その二人は、ルミエールが小さい頃に亡くなった両親だった。幼い頃に亡くなった両親の事を、ルミエールは写真で見たことがあった。
シスターの話によると、ルミエールを拾った時に側に写真が落ちていたらしい。
その写真を、今でもルミエールは大事に持っている。唯一、自分の家族が写っているのだ。自分を生んでくれ、事故の時にはルミエールを守る様に覆い被さっていた両親をルミエールは嫌いになるわけがなかった。
ルミエールの母はエルフで父は竜人だった。
この世界では、エルフや獣人が竜人の番になるのは珍しい。番が居る者の殆どが、同じ種族同士なのだ。
時々、人族やエルフが番というのがあるらしい。番を持つ種族の者達は、遠くに番が居ると分かれば番を探しに自国を出る。魂で繋がっているため、何処に居るのかが気配で分かるのだ。
『この子の魔力は、あの方と一緒で珍しいわ……。それこそ、他の国がこの子を狙う。』
『この子は、皇帝陛下の奥方……リゼリア様と同じ魔力を持っているのか?』
『えぇ……。』
前世では魔力が膨大にあり、珍しいと言われていた回復魔法がリゼリアは使えた。
人族が魔力を膨大に所有する事はまずない。だから、人族では魔力を持っている者を妬み。嫌うのだ。
前世と同じで、回復魔法を使えるとなると人族の国以外の国は喉から手が出るほど欲しいだろう。それも、魔力が膨大にあるのだ。
(前世と同じで魔力が膨大? でも、今世では魔力が暴走する事が無かった様な…。)
魔力が多いと、小さい頃は魔力を制御出来なく暴走する事が多い。
だが、ルミエールは幼い頃から魔力が暴走した事はなかった。
『この子は魔力が多いのに、もう制御が出来ているわ。本当に天才よ……。だから、余計に狙われてしまうわ……。』
『……そうだね。魔力を視れる者も多い。私達が守れなかった場合、この子は危なくなってしまうだろうな。』
母は、ルミエールを抱きながらポロポロと涙を流している。エルフは勿論、獣人や竜人などの中には魔力を視ることが出来る者も居る。両親は、幼い我が子が襲われてしまうと連れ去られてしまうということを心配していたのだろう。
『……エルフの国で採れる石を持たせましょう! あれだったら、防御してくれる他に自分の魔力を抑えられる効果があるわ!!』
『だが、あれは番を持つ種族にとってはあまり好ましくないだろう……。それを着けて、ルミエールの事を番が分からなくなってしまったら……。』
『でも! これしかないの!! ルミエールを守るには!! 』
その後も、二人のやり取りを他人事の様にルミエールは眺めていた。
そうしている間に時間は流れ、エルフの里で採れる石を父がネックレスに加工し、幼いルミエールに着けてくれていた。母もルミエールがネックレスを着けたのを見て、何処か安心した様な表情をしていた。
(こんなにも私を思って……守ってくれてたんだ……。)
前世の時には考えられないほどの嬉しい出来事に、ルミエールは心がポカポカと暖かくなった。
その後も様々な場面に景色は変わり、ルミエールが初めて座ったときや歩いた時。両親は、自分の事のように出来たことを喜んでくれていた。
二人の嬉しそうな表情をしながら笑っている笑顔……。
ルミエールは、これが夢だと分かっていても両親のその表情を見れた事が凄く嬉しかった。
ピシッ……ピシッ……。
いきなり空間に亀裂が入り、目の前で喋っている両親が崩れて見えなくなっていく。
(あぁ……この夢ももう終わって、目が覚めるのね……。)
最後の最後まで、両親を目に焼き付けるようにルミエールは見ていた。
(お父さん、お母さん。私の事を守ってくれて……愛してくれてありがとうございます。)
この夢で、前世では感じられなかった親の愛が凄く伝わってくる。ルミエールは、生まれ変わって良かったと思ってしまった。
空間は、あっという間に崩れていく。
部屋で目が覚めた時、ルミエールの目には涙が浮かんでいた。物心ついた時から両親の記憶は残ってなく、今世でも絶望していた。
前世では家族に見放され、今世では親の愛と言うのが分からないのかと、ルミエールは幼い頃思っていた。
でも、違ったのだ。今世の両親は、ルミエールが将来狙われてしまうと思いあの石をくれた。ルミエールを守る為に……。
その真実を知れただけでも、両親に感謝しなくてはと思った。
(前世で出来なかった事をやってみたい……。今世は、幸せになりたいと思ってもいいのだろうか……。)
そう思い、ルミエールは首にかけていた石を見る。
前までは無かったのに、何故か石に亀裂が入っている。
ルミエールは、石に入っている亀裂を見て胸騒ぎがした……。




