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プロローグ

リゼリア・ファンスは、亡国の姫でもあり。この国の王である人の婚約者でもあった。今日は、属国の方達が集まったパーティーが開かれていた。

でも、そのパーティーの途中で抜け出して部屋に戻って来てしまっていたのだ。

側では、侍女達が心配そうにリゼリアを見ている。

今は、誰にも会いたくも何があったかも喋りたく無い。リゼリアは、侍女達に申し訳なさそうにしながら「誰にも会いたくない」と告げ、下がらせた。


先程から。リゼリアの頭の中では、パーティーで聞いた令嬢達の声が離れない。


(いつもだったら、噂なんて気にならない……。)


だけど、隣国の王族に挨拶をして回っていた時に令嬢達が喋っていた内容は、城の中でも聞いたことがあった内容だったのだ。


『ねぇ、あの噂ご存知?』


『えぇ。見られた方が居るらしく、知ったのですわ。二人とも凄く楽しそうなお顔をしながら、お喋りしていたって聞きましたわ。』


『じゃぁ、やっぱり捨てられてしまうのかしらね。』


二人の令嬢が、クスクスと笑い。リゼリアの方をチラチラと見ながら、聞こえる声量で令嬢達は喋っていた。今、パーティーに行っても令嬢達の間ではそんな噂ばかり…。

その噂と言うのが、リゼリアの婚約者である方が。他の令嬢にぞっこんだという噂だった。

「皆。噂話が好きだから、もしかしたら嘘かもしれない。」と、リゼリアは最初の頃は思っていた。


だけど、本当の事を聞くのが怖いのだ。

リゼリアは、その噂の令嬢と一度だけ会ったことがあった。

この国に初めて来たとき、幼い頃からの知り合いだと。婚約者から、紹介を受けたのだ。

その時は、リゼリアに優しく微笑みかけ。話が弾んだので「仲良くなれるかもしれない……。」と思っていたが、会ったのはその時の一度きりだけだった。

パーティーで見かけても、あちらから話しかけてくる事もなく。接点もあまりなかった。



(……もしかしたら、私の事を愛していなんじゃないかって思ってしまう。だって、私以外の人にあまり笑わない貴方が笑ったと聞いたときは、胸が張り裂けそうだった。だって、令嬢とは幼い頃からの知り合いなのだもの。もしかしたら、あの噂は本当なんじゃないか。私を愛していると言っていたのは、偽りではないのか……)と。

本当は、リゼリアは婚約者の事を信じたい。

「生涯、ずっと一緒だ」と、言ってくれた事を信じたい。噂なんて嘘だと信じたいのだ。

だけど、何処か不安に思っている部分もあった。


もともと、種族が違うから。リゼリアと婚約者とは生きる年数だって違う。

そのことを知っているからか、リゼリアの事を。周りは『何故、お前の様な人族なのだ』『婚約者がかわいそうだ』と言う目で見てくる。

両親にも愛されず。唯一愛してくれていた婚約者にも本当は愛されていないなんて、かわいそうと言う目で。

リゼリアは、それを結局耐えれず。パーティーから逃げる様に、戻って来てしまった……。



昨日、何も言わずにパーティーから帰ってしまったリゼリアを心配して、仕事で忙しい婚約者が部屋にわざわざ会いに来てくれたのに、結局会わずに帰ってもらっていた。


(失礼なことしてしまったかしら……。いつも陰で言われていたのを、婚約者が守ってくれていたのだと実感する。私の耳に入らない様にしてきてくれたんだ……。あの人は、途中で居なくなった私の事。怒っているだろうか。呆れているだろうか。こんな弱くて、ダメな女なんて嫌われてしまっただろうか。)


そんな事を、考えてしまう。



コンコンッ。



「失礼致します。リゼリア様、お食事召し上がれますか?」


リゼリアがこの国に来てから、ずっと付いてくれている侍女が心配そうな顔をしながらそう聞いているが、リゼリアは静かに横に首を振る。

何も食べたくない。誰にも会いたくない。とそんな意味を込めて。


「ありがとう。でも、お腹が空いていないからいいわ。ごめんなさい。」


「いえ。では、お腹が空きましたらまたお声かけ下さい。昨日も食べてらっしゃらないみたいではないですか……。パーティーで何か、あったのですか?」


言ってしまおうかと思った。本当の事を聞いたら、こんなに悩む事は無くなるんじゃないかと。


「……何もないわ。また……何かあったら呼ぶわね」


「……畏まりました。」


(でも怖い。本当だったらどうしよう。受け止められるの?本当の事を聞いて、噂が本当だったら。今度こそ、私は一人ぼっちになってしまうんじゃないの?)


そう思うと、聞けなかった。

その後も、友や侍女が心配そうな表情をしながら部屋に来てくれたが、友は仕事で忙しいのか遠くの国に行ってしまい。いつも付いてくれている侍女は、両親が倒れたので実家に帰ってしまった。

リゼリアは、寂しかった。心を許せる人達が周りから居なくなり、婚約者に会う勇気もなく。どんどんと、塞ぎこんでしまったのだ。


どれだけの時間が経ったのだろうか。それからも、毎日の様に会いに来てくれた婚約者にも会わず。侍女に追い払ってもらう。食事もあまり取らなかった。食事をとっても、気持ち悪くなり嘔吐してしまうから食事をとるのをやめた。倒れてからも、噂は侍女達の口から耳にしていた。


(もしかしたら、私が死んだらその令嬢と婚約をするのかしら?)

そう思うと、目に溜まっていた涙が流れ落ちる。



その後、リゼリアはどんどんとやせ細り。最後は、眠るように亡くなった。

亡くなる寸前になって、思い浮かべたのはやっぱりあの人との事だった……。

初めて出会った時の事や、怒ったこと。嬉しかった事。そんな事を思い出していた。


(貴方が、私と違う人と婚約しているところを見たくない。出来るのであれば、令嬢でない私に生まれ変わりたい)と、思いながらリゼリアはそっと目を閉じた。


この日。静かに、リゼリア・ファンスは息を引き取った……。




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