表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エインヘリヤル・ゲート  作者: ラウンド
2/2

2nd.choice ある傭兵の記録


 あなたは、目の前へと襲い来る、侵略軍の兵士たちを押しとどめ、繰り返し、繰り返し押し返して、その勝利の末に訪れた暗闇から、目を覚ました。

 光が、目に飛び込んでくる。

 次に蒼空が、草原が、そして花と、幾つかのよく分からない模様が組み合わさった渦が、上体を起こすにつれて視界に収まった。

 頭を振る。自分は寝ぼけているのか。先ほどまで、自分は屍折り重なる血生臭い城の中に居たはずだ。

「お?ようやくお目覚めか」

 すると、背後からよく通る、覇気のある女の声が聞こえた。あなたは戦に身構えるように体をはね起こすと、敵を迎撃する時の鋭さで振り向いた。

 そこには一人の、強者の覇気を感じさせる秀麗な女戦士が居た。

 装備は、飾り気のない軽鎧に身の丈よりは多少短い両手剣を背負っているという出で立ちで、しかし全てが見事に噛み合った彫像のような、超然とした雰囲気を持っている。

「お前が来てから、大体三時間が経過って感じか。ていうか、お前、敵の多い世界にでも居たのか?あたしは敵じゃねぇよ」

 あなたは、目の前の女戦士の言葉に警戒しながらも、剣を収める。そして、少し混乱していて取り乱してしまったと、素直に謝罪を伝えた。

「そうかい。ま、当然の反応かね。取り敢えず座りなよ。話をしようぜ」

 女戦士は特に気分を害したという風も無く、そうなることが最初から分かっていたという雰囲気で、草原に腰を下ろした。

 あなたは大人しく、言われた通りに草の上に座る。

 気勢が削がれたという事もあるが、この場所が何処で、自分がなぜここに居るのかなどの、今の自分に必要な情報を持っているだろう女戦士の提案を断る理由が無かったからだ。

「さて、何から話そうかね…」

 女戦士が話をする態勢に入ったので、あなたは、ここは何処なのかと質問を投げる。女戦士は少しだけ考えたあと。

「ここか?ここは、例えるなら、生と死の混ざり合った場所ってとこだ。お前は元の世界での戦いを終え、ここに運ばれてきた」

 疑問符が浮かぶ。どういうことだと。

 女戦士は目を閉じ、しばし考え、そして再びあなたの顔を見た。

「お前の今の状況を簡単に説明すれば、お前は元の世界で英雄的な活躍を果し、その後、何かを救うことのできる程に力を持つ者として選ばれて、ここに連れてこられたってとこだ」

 意味が分からなかった。自分は元傭兵で、英雄なんて大層なものではないし、世界を救ったわけでも、誰かを救ったわけでもない。そんな自分が世界を救うとは、どういうことだ。そう、あなたは質問を重ねる。

 女戦士は、半分呆れたような微笑を浮かべた。

「意味?そのまんまの意味だ。お前が生前どうだったかなんて関係ない。お前には世界を救えるだけの力がある。そんだけだ。簡単だろ?」

 そう断言されてしまった。なに当たり前のことを聞いているんだと言わんばかりだった。思わず身を乗り出しそうになるが、女戦士に手で制されてしまった。

「まあ落ち着けって。ここからが大事な話だ」

 加えて、そう言われてしまい、どう言い返すことも出来なくなったあなたは、一先ず疑問を封印し、女戦士の方にしっかりと体を向けて話を聞く体勢を整えた。

「悪いな。それじゃあ、始めよう。端的に言えば、あたしは、お前の力を借りたい。ある目的の達成のためにな」

 どういうことだと、あなたは聞き返した。それを乗ったと判断したのか、女戦士はニヤリと笑った。

「今からあたしは、お前に二つの選択を提示する。一つ目は、あたしに力を貸し、あっちの赤い渦の先に広がってる世界で、危機に陥っているとある女を救助すること。二つ目は、あたしの誘いを断り、向こうの青い渦から楽園に向かい、来世まで楽しく過ごすこと。お前には、どっちかを選んでもらうぜ」

 ちょっと待ってくれと、あなたは女戦士の言葉を遮る。そして、もう少し詳しく話を聞かせてくれと、詳細を催促した。

「分かった。もしもあたしの誘いに乗った場合、お前は、ある世界の大陸にある辺境の城に送られる。そこには、ある覇王の秘密を知ったために、無実の罪を着せられて幽閉された若いお后様が居るんだが、それを消そうと王様が暗殺者を差し向けようとしているんだよ。保身のためにな」

 酷い話だと、あなたは舌打ちする。女戦士も、まったくだと同意した。

「その秘密ってのが、大陸統一のために覇王が掲げている思想は、実は魔王復活のための生贄確保計画の一環だったってなもので、平たく言えば世界征服のための踏み台にするってとこだ」

 吐き気を催すような権力者はまれにいるが、ここまで行くと逆に清々しいなと、あなたは苦笑を浮かべた。

「まったくだ。で、お前の仕事は、そのお后様を暗殺者や正規軍から守り抜き、覇王の野望を挫こうと動いてる革命軍に身柄を保護させることだ。ああ、覇王を倒す必要はない。それはお后様の統率を受けた革命軍が確実にやってくれるからな」

 要するに、要人の護衛か。あなたは自分に与えられる予定の仕事を要約して返した。

「そうだな。そしてお前ならその役に適任だと、あたしは判断したってわけだ」

 なるほど、難易度も危険度も高いが、やりがいはありそうだと、頷く。

「やりがいはあるぞ。何せ世界を救うカギを守り通せって話だからな。だが、お前が思ってるよりは難度や危険度は高いかも知れない」

 どういうことだと、再び聞き返す。

「ああ、この事件。実は、それを裏で唆した悪者が居てね。あたしはそいつらの、そう言った企みを阻止して回ってもいるんだ。だから、そいつらの妨害も有り得るってわけだ」

 あなたは、なるほどと肯く。単純に、敵側にも、この女戦士と似たような存在が付いているという話だった。

「もちろん、お前をあたしの手駒にしようとしている自覚はある。だが、あたしはそういう世界には干渉できない決まりになっていて、誰かに手伝ってもらわないといけない。そこで、お前の出番というわけさ」

 あなたは、なぜ共に戦うことができないのか、なぜ干渉できないのか、試しに聞いてみることにした。

 すると女戦士は、おもむろにあなたの顔を見つめ、首を傾げて見せた。

「お前には、あたしは“どういう風”に見えてる?」

 不思議な質問だった。もちろん、あなたは見たままを伝える。

「そうか。なら“お前”には、あたしは“軽装を纏う秀麗な女戦士”に見えている、と言うことになるな」

 何か違うのだろうかと、質問を重ねる。その姿があんたの姿ではないのか、と。

「少し、ややこしいんだがね。あたしは、お前に合わせた姿を取っているんだ。お前が見ていて違和感のない。或いは不快に思わない姿を。また或いは、お前にとっての、神様とか言うものに対してのイメージをそのまま取るようになっている。そのどれに当てはまるかは、あたしには分からないけれどもね」

 女戦士は豪快に、楽しげに笑った。

「ちなみに、他の世界の奴には、あたしは別の姿に見える。時にもっと若い、あるいは老いた、あるいは性別が違うこともあれば、化け物の姿になることもあるってわけで。ま、つまり、そう言うことだ」

 あなたは、その言葉の意味はいまいち理解できなかったが、妙に納得してしまった。

 もし怪物になじみのない世界を救いに行った挙句、怪物が降臨したと騒ぎになれば、世界を救うどころではない大事になるのが目に見えている。

「理解してもらえたところで。話を続けよう。頼みたいことは、さっき伝えた通り。そして、この誘いに乗るかどうかは、お前に決定権がある。つまり、お前は引き受けても、引き受けなくてもいい。どうするかは自由だ」

 あなたは目を見開いた。強制かと思っていたと、素直に伝えた。

「はっ。まあ、仕方ないな。だが最終決定権はお前にあるんだ。あ、もし引き受けてくれるなら、お前が、お前の全盛期の力を発揮できるよう手助けするし、仮に引き受けなかったとしても、お前は何も気にしなくていい。その時は、楽園へと向かうお前の背を見送った後で、別の候補を探しに向かうだけだからな」

 そう言って、女戦士は豪快に笑った。

 言葉は続く。

「今すぐに、とは言わない。ゆっくり時間をかけて決めるといい」

 そう言うと、女戦士はその場を離れ、草原の中央に備えられた屋根付きの休息所のような場所へと移動した。

「引き受けてくれるのなら、あっちに見える赤い渦へ。楽園に向かうのなら、向こうに見える青い渦へ向かえ。あたしはここで、待っているよ」

 女戦士は椅子にもたれ、居眠りを始めた。

 あなたは、静かに二つの渦を見比べ、一度草原に寝転ぶ。視界に広がる蒼空はどこまでも澄んでおり、まるで海のように大きく広がっている。ただただ静かで、草原を吹く風は、あなたの体を程よく冷やしていった。


 それからしばらくの後。あなたは選んだ渦の前に立っていた。

 女戦士は、いつの間にか、あなたの隣に立っている。

「お前の選択を尊重する。向こうでも元気でな」

 あなたは開かれた渦の先へと視線を向け、思いを馳せる。

 声が続く。

「もしも困ったら、あたしの名前を呼べ。あたしの名は、ファ・ルシファ。ファで一回切ってからルシファだ。忘れるなよ?こっちの世界の言葉で『明けの明星』と言う意味らしい。あ、こっちは忘れていいぞ。ただの名前が、少しでもお前の道しるべとなるよう、祈ってるよ。さあ、行ってくれ」

 あなたは、その言葉に背を押されるように渦に飛び込み、その光の先へと一歩を踏み出した。


続きを一つだけ、書いてみました。想像の一助となればと思います。

それでは、お付き合い有難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ