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真相

前話までのあらすじ――


大学2年生の俺(浦野淳平)の自宅に突然現れた見知らぬ女。

彼女は自分のことを俺の元カノの二瓶純子だと言い張る。

俺と純子とは既に3ヶ月前に別れている。

同じサークル仲間のイケメン野郎・池田と付き合うからと一方的にフラれたのだ。

純子と池田は、それに乗ると恋が成就するとウワサの『24番の観覧車』に乗ったという。


自分こそが本物の純子だと言い張る黒水美登里に話を聞いた俺は、怖くなってコーヒーショップから飛び出してしまう。

俺は家に逃げ帰ったが、汗でびっしょりになった黒水美登里が追いかけてきた。


「黒木……さん、麦茶だけど飲む?」

「あー、ありがとう淳君! 私、喉がからからで……助かるわぁー」


 俺はこの女の名を呼ぶとき、つい躊躇ってしまう。身体は黒木美登里という名で心は二瓶純子だと言い張る不思議な女。たしかにこの女を見ていると仕草や言葉の節々に元カノの純子との共通点が見つかる。コップに注いだ麦茶をぐびぐび一気に飲み干し、ぷはーっと息を吐く豪快な飲み方など、テニスの休憩時間に毎日見ていたそれとそっくりだ。


「もう一杯、どう?」

「あ、いただきます!」


 黒木美登里はコンパの席でビールをついでもらうサラリーマンのような仕草でコップを両手で差し出す。その2杯目もぐびぐび飲み始めると、ふっくらと柔らかそうな唇から漏れた一滴があごから首筋に流れゆく――ついつい、ふくよかな胸の膨らみに目を遣ってしまう。純子より胸が大きいな……

 豪快な飲み方の一方で、黒木美登里はリビングのソファーに浅く腰をかけ、左手をコップの底にあてて大人の女性として礼儀正しい姿勢を崩さないことのギャップに戸惑ってしまう。おそらく彼女は俺よりも年上、しかも社会人なのだろう。


 彼女は汗ふき用に貸したタオルを丁寧に折りたたみ、


「淳君、やっぱり足が速いよね-。私、今の身体は24歳だからさ……追いかけるの大変だったんだよぉー、あっ、これ洗濯して返すからね」


 と言った。彼女は俺より5歳も年上だった。

 やはりこの女はヤバい! ついリビングに通してしまったが、早急にお引き取り願いたい! 


「いやいや、そのままでいいから。あ、そうだ! 俺、この後出かける用事が――」

「淳君、さてはこのタオル……くんかくんか匂いを嗅ぐつもりなんでしょう?」


 彼女は悪戯っぽい笑顔で折りたたんだタオルを持ち上げて言った。

 意外な彼女の反応に俺は言葉に詰まった。


「ふふっ、冗談よ! 私はあなたの彼女なんだから、この身体も好きに使っていいのよ?」

「お、おまえ……何を言って……」

「んー? だってぇ、淳君……私の前の身体に入った人に酷いこと言われて別れちゃったんでしょう? それ以来、3ヶ月も彼女がいなかったんだもの……何かと大変なんでしょう? 男の人って……」


 そう言いながら、黒木美登里はソファーから立ち上がって俺に近づいてくる。

 それに合わせて俺は後ずさりする。

 キッチン前のカウンターテーブルに腰がぶつかり、置いてあったカップが床に落ちて割れた。その音にビクッと反応して黒木美登里は、

「あっ、淳君怪我はない? 大丈夫?」

 と言いながら、膝を床について割れたカップを集め始める。


 小指を立てた華奢な手でカップの破片を甲斐甲斐しく拾い集める彼女を見て、俺は純子の意外な一面を覗いた気持ちになっていた。いや、この女は純子じゃないんだ! そう必死で抵抗しようとするも、俺の頭は混乱のるつぼと化していた――


「あっ!」

 と純子、もとい黒木美登里が小さな声を上げ、薬指を口にくわえた。

「えっ、指を切ったの? 救急箱を持ってくるからそこの水道で洗っていてよ」

「うん、淳君はやっぱり優しいね!」

「まったくドジなんだからジュ……」

 俺は純子の名を呼びそうになって思わず息を飲んだ。


 怪我の治療を終え、彼女と俺は改めてソファーに座り直す。

 ごく自然な感じで俺の隣に座ろうとした彼女を、対面側に座るようにお願いした。


 彼女はそれまでの雰囲気からガラッと変えて、真剣な趣で真相を語り始めた――


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