ウワサ
前話までのあらすじ――
大学2年生の俺(浦野淳平)の自宅に突然現れた見知らぬ女。
彼女は自分のことを俺の元カノの二瓶純子だと言い張る。
一体どういうこと?
彼女は池田哲広と『24番の観覧車』に乗ったことがあるらしいが……
裏野ドリームランドは県内にあるレジャー施設としては古株の遊園地だ。オープン当初にはそれなりに人気があったようだが、近年は近隣の大型レジャー施設に人の流れが傾き、今年の春にとうとう廃園となってしまった。
その裏野ドリームランドに関する『24番目の観覧車』のうわさとは、廃園となるわずか一ヶ月前にSNSを通じて拡散したうわさ話のことだ。その内容にも様々なパターンが存在したのだが、共通した内容としては――
――裏野ドリームランドの24番目の観覧車に乗った男女は結ばれる――
うわさ話の派生系として、片思いの彼女と一緒に乗ると両思いになれるとか、両思いの男女が乗ると相手の知らない一面が見られるようになるというものもあった。
うわさを聞きつけたカップルが続々と遊園地へと足を運ぶ結果となり、うわさ話そのものが遊園地側の作り話ではないかとの憶測も広がり始める。しかし、その疑惑を吹き飛ばすに十分なほどの体験者の喜びの声がネット上には飛び交うことになる。
情報を制するものは得をする――それはいつの世になっても変わらない真実。うわさを知らない相手を言葉巧みに遊園地に誘い、見事に恋を成就させた男性陣の喜びの声が次々にSNSに投稿されていく。
やがて『24番目の観覧車』のうわさ話は公然のものとなり、週末には多くのカップルが裏野ドリームランドへ押し寄せた。しかし、新聞の社会面を賑わせたそのうわさ話も、遊園地の廃園に伴って一気にフェードアウトしていく。廃園のスケジュールは半年前から既に決まっていたのである。
「……4月というと、裏野ドリームランドが廃園になる1ヶ月前……つまりはまだ『24番目の観覧車』のうわさ話が広まる前だよな?」
俺は努めて平静を装い、黒木美登里に確認する。彼女はこくんと頷いて、
「うん……だからそのときはまだ私……『24番目の観覧車』のことを知らなくて、池田君の魂胆を見抜けなかったのよ。ごめんね、淳君……」
と、俺を拝むような仕草でそう言った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……黒木……さん?」
「なあに淳君? ……私は純子よ」
彼女は拝むような仕草をやめて、きょとんとした顔で俺を見つめた。
一瞬、付き合っていたころの純子の表情が重なって見えて、俺は首を振る。
彼女が純子を名乗っていることに関しては、この際もう後回しだ!
「キミは、純子が池田に騙されて『24番目の観覧車』に乗った……そう言っているのか?」
「うん、そうなの……」
「ということは、観覧車に池田と純子が乗ったことにより、2人は付き合うようになったと……そういうことを言っているのか?」
「ええ……でも信じて淳君、私は今でも変わりなくあなた愛しているわ。その気持ちは観覧車に乗る前も乗った後も変わりはないの。今の私は黒木美登里という別人の身体にいるけれど、信じて淳君、私はあなたを愛しています!」
そこまで聞いて、俺の理性のたがが外れた。
俺はテーブルに両手をついて立ち上がり、黒木美登里を睨みつける。
「キミは純子に何を言われて俺の前に現れたのか知らないけれど、純子は……あの女は……あろう事かサークル仲間の池田に気移りして俺をフったんだ! 今までも忘れない、池田の勝ち誇ったような顔を……純子は自分の口でもう俺とは会いたくないと……はっきりと言ったんだ――!」
俺は大声を上げてしまっていた。気づいたときにはコーヒーショップの店内にいるすべての人々が俺を見ていた。彼らの表情が池田の勝ち誇った顔と重なり、俺はいてもたってもいられない気分になる。
「――――っ!」
俺は逃げ出す。あの日、サークル部室から逃げ出したように……