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視線

前話までのあらすじ――


3ヶ月前に『24番目の観覧車』に乗った元カノの純子は、黒水美登里の身体と入れ替わったという。

目の前の女の正体が純子と理解した俺は、感情が抑えきれずに黒水美登里の身体と結ばれた。

彼女は自分の身体を取り戻すための作戦を立てていた。

『24番目の観覧車』の真相を解明するための動画番組への出演依頼を池田とニセ純子に持ちかけていた。もちろん、俺も協力することになったのだが……

 裏野ドリームランドの入口には撮影スタッフらしき男たちが3人集まっていた。業務用ビデオカメラを肩に担いだカメラマンらしき男、先端にマイクを取り付けた長いアームを持った音声担当らしき男、そして照明機材や反射板を抱えた男――


 家庭用ビデオカメラでお手軽に撮影するぐらいのことを想像していた俺は、すっかり気後れしてしまう。


「あのう……今日はよろしくお願いします……」

 俺は3人のうち誰に声をかけてたらいいのか迷いながら、3人の男をちらちら見ながら挨拶をした。

 すると、カメラマンらしき男が、

「ああ、アシスタントをやってくれる浦野さんですね。チーフから聞いていますよ。こちらこそよろしくね。いま、チーフとスポンサーさんは事務所へ手続きに行っていますよ。そろそろ戻ってくるでしょう」

 と、気さくな感じで答えてくれた。みると、スタッフの3人ともまだ若手らしく俺とそう年が離れてはいないようだ。


 ちなみに『スポンサーさん』とは、もちろん純子のことだ。遊園地の施設使用料と撮影にかかる費用をすべて彼女が支払うことになっている。具体的な金額はとうとう教えてくれなかったが、大学生の俺には到底支払える額ではないことは確かだ。黒水美登里という女は相当お金を貯め込んでいたのだろう。撮影スタッフの立場からすると、彼女はいわゆる金づるということだ。


 しばらく男4人で待っていると、チーフと呼ばれる男と金づる、もとい黒水美登里が戻ってきた。

 だ、だめだ! 心の隅で彼女を色眼鏡で見てしまう俺がいる。

 俺が愛しているのは純子であって黒水美登里ではない!


 黒水美登里は赤縁めがねをかけ、白いリボンで髪をポニーテールに結っている。黒いジャケットに黒いズボン。すっかりイメージを変えて登場してきた。


 チーフと呼ばれる男は他のスタッフと同様に若く、気さくに話しかけてきた。ビデオ撮影時は彼がナビゲーターとして登場するということも分かった。


 遊園地スタッフに導かれて俺たちは園の中に入っていく。裏野ドリームランドが閉園となってすでに3ヶ月。中は荒れ放題――と予想していたが、きれいな状態を保っていた。テレビドラマの撮影のために整備されているらしい。


「ねえ、今日はずいぶん大人の雰囲気に変えてきたようだけど、どうしたんだ?」

 俺は歩きながら純子に耳打ちした。

 純子はくすりと笑って、

「これは私の勝負服なの! 年相応にちゃんと見えるでしょう?」

 と答えた。そういえば、俺と会うときの格好はいつも若者向けを意識した服を着ていたな。大学生の俺に合わせてくれていたということか……

「でも、さすがにスーツだと蒸れてきちゃう……今日は気温が高いよね」

 そう言いながら、純子はブラウスのボタンを1つ外した。

 ふくよかな胸がぷるんと振るえて、ブラが見えるのではと思って焦ったが、見えなくて残念……いや、ホッとした。


 

 一行は曰く付きの観覧車へ到着。

 遊園地スタッフによる試運転も終え、準備万端。


 俺と純子はゴンドラの扉の開け閉めを入念にリハーサルを行う。

 予定では純子がドアの開け閉めを担当し、俺がその補助をすることになっていたのだが……

「私は直前まで隠れていようと思うの。だから淳君が私の代わりをやってくれないかな?」

「えっ!? なぜだい? 純子が池田たちを動画撮影に誘ったんだろ? なぜ隠れている必要があるんだ?」

「私……この身体でビデオに映りたくないの。みっともないじゃない!」

「そんなことはないよ! 純子は今の身体でも十分魅力的だよ」

「淳君……もしかして……私より黒水美登里の身体に……」

「そ、それは誤解だ! 俺が愛しているのは純子だから!」


 思わず俺は大きな声を上げてしまい、撮影スタッフの視線が突き刺さる。

 黒水美登里に向かって『純子』と呼びかける俺を訝しげな目で見ているようだ。

 俺は納得できないまま、渋々了承するしかなかった。



 そして、池田と『純子』がやってくる―― 


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