彼女の努力
彼女は愚直なまでの努力した。
誰かに自分を認めてもらうために。
叔父が自分の美貌を認めたから売ったとは思いもせず。
叔父が彼女のために売ったとは思いもせず。
だけれど、平民の中でも下の下の暮らしをしていた彼女には礼儀作法なんてわからなかったし、粗末な言葉遣いしかして来なかったから、話術なんて身につけられなかった。
努力しても努力しても出来なくて、彼女は自分に失望した。
でも、彼女を見てくれている人はいた。
その貴族の子息である。
彼は何でも出来た。
だからこそ、努力している彼女をいつも見ていた。
努力とは如何なるものか、と思いながら。
彼には努力と言うものが分からなかった。
その生活が終わるまで。
自分に失望しながらも彼女は努力を続けていた。
教師に鞭で叩かれようが、出来損ないの烙印を押されながらも。或いは狂っていたのか。
毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日。
いつしかその家で彼女を超える努力をする者は居なくなっていた。
ある女は、彼女を見ていると自分が恥ずかしいと言い、でも努力をしなかった。
ある男は、彼女を馬鹿にしていた。
だが、彼女のひた向きな姿を長年見ていて考えが変わり、努力をした。でも、彼女を超えられなかった。
彼女の努力はその貴族の耳にも入るほどだった。
努力を重ね続けて、いつしか彼女は一流の人間になった……ように思えた。
彼女は未だに自分の存在意義を見いだせていなかった。
だから、その貴族に懇願した。
もっとレベルの高い教育を受けたいと。
彼女の今までの努力を無駄にするのは国の損失だと思ったのだろうか。
その貴族はその懇願を受け入れた。
そして彼女はまた売られる。
その貴族よりも高位の貴族に。
別れの日、その貴族の子息がいた。
彼は察した。
彼女が努力したから、此処から去るのだと。
努力とはそういったものかと思った。
努力した先の彼女を知りたいと思った。
彼女が去るとき、自分に言い聞かせるように彼女を信じた。
彼は感情に取り憑かれる事となる。
彼女は努力を重ね続けた。
いつも、何処でも、どんな時であろうと。
自分の存在意義を見いだしたくて。
何でもいい、何か秀でたものが欲しくて。
彼女は一流になった。
彼女は貴族よりも貴族らしくなった。
だから舞踏会に参加する事が許された。
彼女は喜んだ。自分が認められたと思って。
貴族に用意されたドレスを着て参加する。
売られてから誰も見たことのない太陽のような笑顔で。
それが破滅の道への入り口だとも知らずに。