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地獄に堕ちし者達  作者: 柴野まい
第3地獄
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セインセイズの場合

  此処は地獄。

  生前の後悔や、執着心によって、死後の苦しみを乗り越えることができた者達が至る場所。

 そして、何らかの目的に取り憑かれていた者達の至る場所。



 これは、地獄に堕ちし者達の話。


 ***


  此処は、地獄の遊技場。

  そこで、一人の男がビリヤードをしていた。

  彼は綺麗な銀髪で、端麗な顔立ちをしており、異性どころか同性まで振り向きそうなほど。だが、誰も彼を気にした様子がない。

  彼が打つと、摩擦力など無いかのように、的球が動く。

  それを彼は黙って見ていた。

  そんな彼に声を掛ける者がいた。

 

「よお!セインセイズ。この第三地獄の長が遊技場なんぞに来ていて大丈夫か?確か、今日は書類の整理があるんじゃなかったか?」


 ビリヤードをしていた男……第三地獄の長、セインセイズ・イーンフェルヌスは、少し驚きながら声を掛けて来た男に返事をした。


「やあ、ガードル。書類の整理はまだ途中だけど疲れたから、ここに来たんだ。……やっぱり僕にも休息は必要だよ」


 声をかけて来た男……ガードルは、それを聞くと、セインセイズの持つキューに目を向けた。


「そうかそうか!俺はてっきり、お前が書類の整理を忘れていたのかと思ったぞ。休憩が終わったら、大変だと思うが書類を終わらせるんだぞ。俺も手伝えたら良いのだが、規則がな」

 

 そう言うと、ガードルはセインセイズの肩を叩いた。

 セインセイズは少しだけ痛みに顔を歪めた後、作り物の笑顔で言葉を返した。

 

「ああ、心配してくれてありがとう。地獄の長としての仕事はきちんとこなすさ。……個人的な仕事も含めて」

 

 後半の言葉はガードルには届かなかった。



 

 ☆


 セインセイズは執務室にいた。

 先程ガードルと話していた書類の整理をする為だ。

 書類には、地獄に来た人間の情報がのっていた。

 一枚一枚、隅々まで読んで、不備のない事を確認する。

 暫く黙々と整理する。


  すると、その中に自分の情報を見つけた。

 セインセイズは思い出す。

 自分が生きていた頃のことを。


 あの、自分だけが歩んだ人生をーー。



 ☆


 セインセイズという男は、とある国に生まれた。

 母親は高級娼婦で、高位貴族の愛人として裕福な暮らしをしていた。

 父親は不明だったが、セインセイズを見れば、おそらく美形だと思われた。


 母親譲りの端麗な容姿、父親譲りと思われる綺麗な銀髪、どこを見ても非の打ち所がない美少年だった。


 セインセイズは、母親から礼儀作法と、巧みな話術を学んだ。

 セインセイズは、何もなく、ただ母親に言われるがままに学ぶ日々に嫌気がさしていた。


 だから、時折こっそり家の外に出て、同年代の子供達と、年相応の遊びをしていた。

 端麗な容姿は子供達を驚かせたが、特徴的な銀髪は鬘を着けていた為に、反応はなかった。

 セインセイズも遊んでいる時だけは、年相応の笑顔でいられた。


 だが、そんな日々が続くはずもなく、遊んでいる所を偶然にも母親に見られてしまった。


 母親は激怒した。

 お前が今もこの家に居られるのは誰のおかげだ、と。

 自分の息子として恥ずかしくない行動をしなさい、と。

 自分の名誉の事しか考えていない母親に、失望して、でも、母親から認められたいと思った。

 母親が見ていたのは自分ではなかったから。


 それから数年間、セインセイズは家から出ることを許されなかった。

 その間、母親が持っていた本などを読んで過ごした。


 そんな生活が続いたある日のことだった。

 セインセイズは、紙に文章を書いていた。

  何か変わった事があった訳ではない。

 強いて言えば、机の上の物が邪魔だなぁと思ったくらい。

  ペンで机の上にある物をコツコツ叩く。

  すると、押した訳ではないのに、独りでに物が動いた。

  セインセイズは自分の不思議な能力を目の当たりにして、驚愕し、歓喜した。

 

 これで、母親からの関心を引けると。

 セインセイズは、それからその不思議な能力の検証に没頭した。


 意識して能力を使う練習。

 どこまで自分の能力が届くかの検証。

 球を用意して、転がすように動かすのではなく、摩擦力など無いかのように、そのまま動かす練習。


 検証し尽くして、母親に能力……念動力を披露した。


 念動力を見るや否や母親は、セインセイズの肩を掴んで、笑顔になって、こう言った。


 流石私の息子だ。セインセイズ。お前を産んで良かった、と。


 セインセイズは踊りたくなるほど、嬉しかった。

 自分だけが母親に認められたと。


 セインセイズと母親は、互いに血が繋がっていると分かっている唯一の存在だった。


 だからだろうか、数カ月後セインセイズは外へ出ることが母親の同伴があるとはいえ、許されていた。


 母親に連れられて、初めて来た高位貴族の館で、セインセイズは初めての恋をした。


 その相手は、ルイーズ・レイルティーといった。


 美しい金髪、白磁のように白い肌、緋色と藍色のオッドアイ、優しそうな印象を与える垂れ目、整った目鼻立ち、正に芸術品のような美少女だった。


だが、セインセイズが恋をした理由は容姿ではなかった。


母親がホールで挨拶回りをしている間に、セインセイズは貴族のパーティを知識としては知っていたが、どうすれば良いか分からず、ただ突っ立っていた。


そんな時、誰かが声を掛けて来た。

それが、ルイーズ・レイルティーという女だった。


「あの、私と踊って頂けませんか?」


セインセイズは、いきなり声を掛けられたので、少し狼狽え、はにかみながら返事をした。


「はい、喜んで」


ルイーズとのダンスは、とても楽しかったと記憶している。ルイーズはセインセイズにリードされながら、笑顔で踊っていた。セインセイズは、母親でさえが久しぶりに見た、本当の笑顔だった。


その後、セインセイズとルイーズはホールの隅に寄って、2人だけでいろいろ話した。


ルイーズのこと、セインセイズのこと、互いに今日のパーティが初めてだという事などを話した。

2人はとても気が合った。


だから、パーティが終わった後も会いに行き、話して。

そんな生活が数年続いた。



セインセイズはとても美しい青年になっていた。

ルイーズとの関係も良好だった。

……友人として。

ルイーズさえいれば他の人はどうでもいいと考えるようになっていた。


セインセイズを取り巻く環境に少しだけ変わった事があった。


母親の美貌は健在だったが、目尻や顔にシワが出来始めていた。

だから、貴族から愛想を尽かされ始めていた。

礼儀作法、巧みな話術、そしてその美貌でたくさんの男を虜にした女が、落ち始めたのだ。


貴族という後ろ盾が減り始めた彼女は焦った。

このままでは、暮らしがあの頃に逆戻りしてしまうと。

一度裕福な暮らしを続けたせいで、愛人以外の選択肢はなかった。


誰かが母親を尋ねてきて、何かを言っていた。

他の仕事を見つけろとか、そんな事を言っていた気がする。


もし、そこで選択肢が広がっていたら、その後の()の人生はあんな事にはならなかったかも知れない。


でも、セインセイズは地獄にいる。


後悔しても、もう遅い。

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