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オルティア・レコード  作者: 南 泉
二章 〜 魔女と小さな銀の鍵 〜 ベルゼ浮遊大陸編 第一部
75/75

75話 叡智の守護魔獣(ガーディアン) ー叡智のビナレスー

 あるギルドにて

一人のケット族の少女と ”メルナ” がしとねを供にしていた

ワンピースドレスやフリルソックスを履いたまま

優しい衣擦れの音とも共に、口から くちゅり くちゅりと

湿った音をたてながら相互を慰撫していた。


「今代の連中は、異性装の ”おれ” でも平気で寝るのか? 」

「えぇ そうよ メルナ 今代は貴女の頃とは違ってね ”異人” が種族の主体でね

貴女が散々さげすんできた連中が今や世界の主種族でね 

世界オルティアの幅を利かせてるのよ

どぉ? すごいでしょ、この繁殖力 雲霞うんかの如くとは正に

オレ達のことを言うんだぜ なぁ?


 オレは異性装だろうがなんだろうが

”可愛い” ければオレの好み♡ そうではないヤツは関心ないね

どうでもいい有象無象の一つ、

でも特に貴女みたいなのが ...好みだねぇ 実にいいよ 実にいい

外観は少女で実はオトコ でもオトコ臭さは一切感じさせない

今代でもテメェみたいなのはゴマンといるがこの ”オレ” の様に徹底しきれてねぇし

人外じゃないから小汚い汚物みたいな異性装の連中が

”女”や”少女”を気取ってて辟易へきえきしてたのよ 私」

ケット族の”少女”はメルナのしるしを弄びながら可愛い唇を貪っている。


「オレも驚いたぜ今代は、そこら中にオレと同類がいるのな 

あぁ〜ん そこはメルナのしるしなのよ やさしくしてよ ねぇ

でもでも もっといじって♡ ねっ? 」

 対してメルナは嬌声を交え、ケット族の少女の耳を甘噛みしながら囁いていた。

その嬌声は”まるで”少女のように細く切ない。


「んーそうだぜ、 ぱっと見分らんヤツもいるが、

本人はたぶん ”女” や ”少女” の ”つもり” なんだろうぜ

このオレ様もそいつらと同類だがな  

こうやって ふふっギルド受付嬢として”少女”の ”つもり” をしているんだからよ」

ケット族の少女? のアッシュグレーの髪がふわりと揺らぎ

爽やかなサボンの香りを振りまいた。


「可愛いの姿に男のしるしって背徳的で退廃的で特にホントにステキ♡ 」

ケット族の少女? はメルナの髪を掬い上げ可愛い小鼻に持っていき

「羨ましい髪だぜ オレのもこんなふわふわの髪にしてぇな」

と愚痴た。


「あはっ お笑いぐさだな てめぇだって 昔は、オレと同類だっただろ

テメェ自身のしるしが嫌で魔物にわざと喰わせやがったくせによ

それに”再誕の実”を使えばどんな容姿や人外の能力ちからも思いのままだぜ

”特殊な死の条件” の代償付きだがよ」

メルナはワンピースドレスを着たまま同じくワンピースドレスを着たままのケット族の少女を

両立ち膝で後ろから優しく抱きしめて可愛い声で囁いた

そんなまるで姉におねだりして甘える妹のような光景がギルドの一室で繰り広げられていた。


 ”再誕の実” は彼:メルナの時代 蒼き深きノーアの全盛期

種族改変を行ないこれでヒム族・エル族・ドワ族・ウル族・ケット族を生み出した

当時は”再誕の果実又は、変転へんてんの果実”

とも呼ばれ急速な突然変異ミュータント化を使用者にもたらす。


 相性が悪ければその苦痛で爆散したり、異形の化生バケモノに変異・又は苦痛に耐えきれず

自死に追い込まれたりと危険を伴う ...が上手く順応する事が出来さえすれば

思い通りの能力ちからを獲得出来る。

 

ただし特殊な死の条件という枷を永劫背負うことにもなる

特殊な死の条件は、普段なら何でも無いちょっとした事でも即座に完全な”死”を呼ぶ

 何がその条件になるかは正に運次第であり、中には鉄気かなけに触れただけで

即座に命運が尽きた者も居るという


”再誕の果実又は、変転の果実”の製法は蒼き深きノーア以外知る者は無く

シーアの時代はその時の残滓物という事になるが、製法を知る筈のメルナでさえ

新たに生み出すことは困難を極め、おいそれと手出しが出来無い

当代(ノーア時代)の魔導化学はその多くが喪われて久しく

シーア(クレア)の時代ではそれらの多くはは錬金術や魔術等の

隠秘オカルト学の術式に取って代られいた。


 今となっては、魔導化学より不安定で不確実な錬金術や魔術等の

隠秘オカルトの術式に頼らざるを得なくなってしまったのである。


「うふふ オレは、しるしが大嫌いだった

こんなの 女の子にはついてないってのになぜか、オレにはついていたからな

オレも女だと思っているのに姿見を見る度、醜い男の躰が目に入って来やがってよ

メスガキ共を腹癒せに殺りまくっていたもんさ

ソイツから奪った服を着るのが何より愉しみだったぜあの頃は」

ケット族の少女はメルナに腕を回されながらこう独白した。


 独白は尚も続く

「それは、それとして魔導医術にはカネがいる 

でさぁ 手っ取リ早ぇってんで孤児院生活のガキん頃な

オレの小汚いしるしを豚犬の餌にしてやったのよ


...... 。


 もちろんブツは小汚い豚犬のハラん中でさ 取り戻すには既に手遅れ

オレははオレで半死半生で救護院行き

そのまま”女”として今まで過ごして来たってわけ

もちろん ”わざと”さ 心ん中では大喜びだったけどな まぁこれ見てみろ」

 ケット族の少女? がショーツを下ろすと

男のしるしは無く

女のしるしに似てはいたが、何者かに食い千切られた無残なきず跡があった。


「まぁ オメェの来歴なんざ今更、知ったこっちゃねぇし どーでもいい

いまこうしているのは、オレの探し物を聞きてぇだけだ」

かわいい少女の姿でメルナは、似つかわしくない男の声でケット族の少女? の耳元でこう囁いた


さらにケット族の少女は、下卑た男口調でこう言い返す


「なぁ、冒険者共の受付嬢をしてるお前ならさ 

可愛い見たこともない小娘連れて歩いてヤツ見たことねぇ? 」

メルナは下卑たニヤ顔で ケット族の少女の獣の張り出した耳を軽く甘噛みしながら

尚も囁き続ける。


「具体的に言えよ こちとら日に数え切れねぇ程の有象無象を相手にしてるんだぜ

そんな道端の石ころみたいな連中に、愛想笑いして相手してる身にもなってみろよ」

可愛い声だがケット族の少女の言葉使いは男性そのものだった。


「なんというか、場にそぐわなそうな雰囲気があるんだよ、

らしくないっていうかなんつうか 言葉には言いづれぇんだがな」

「さてね何回も言うが、オレは何万と冒険者を相手にしているがすぐには思いつかねぇな

いきなり ”ライブ・アーティファクト” っつてもよ オレに判るわけねぇだろが

それと忘れずに言っておくがな、誰がテメェを水晶の棺から目覚めさせたと思ってやがる

オレを強請ゆする気かよ あぁ?


 だれのおかげで、今代の知識を粗つなく活用できるようにしてやったと思ってやがる

そこらへん、ちゃんと弁えろよ」

ケット族の少女はワンピースドレスを着たまま ”胡坐” で頭を捻って後ろから

抱きしめているメルナを鋭い目でめつけた。


「分かった分かった、悪かったよ テメェとの付き合いも ”長い” からな

まぁ 見つけたら教えろや 

そうしたらテメェの願望ねがい叶えてやるよ

もう一度徴しるしがほしいんだろ ホント未練がましいのな」

謝罪の言葉であるが、粗雑さは隠せなかった。


「あぁ それは、否定はしねぇ 完全に女になりきったつもりでもよ

男ってのは一度生まれると

命運尽きるその時まで、女で昂ぶった劣情をはらさずにはいられんさがらしい

メスガキを見ると昂るんだよねぇ こう、ラムラってな感じでよ

同じ ”男” ならわかるだろ オレは”元”だが


 現にミーアっていうオレのダチの尻と胸を見ると

ムラムラ来やがるんだよ」

「ほう 随分その娘にご執心じゃねぇかよ」

メルナは興味深そうに眉根を動かす。


「まぁな ガキのころ初めて見た時、あぁコイツはオレの女だって 

そういう予感がしたんだよ ”オレのモンになるためだけに存在してる”ってな

 いつか”リア”としてあの女をモノにしてぇのよ

分るか? この焦れるような懸想をよぉ」

下卑た少女声でリアは自慢気に独白した。


 リアは、しるしを喰われて以来男の声は一切出なくなっていた

理由は分らなかった 子供の時、しるしを喪うと男の声が出なくなり

胸も自然に膨らんで相応の良い形に落ち着き全く少女と見分けがつかなくなる

リアにとって これは思わぬ嬉しい誤算だった。


 世の中には敢えて男の要素を少し残したまま”女”になる異性装好きもいるが

それは彼の様式美に反していた。

 

 何処どこまでも自分は ”リア” でありたい そう思っていたかったのである。


「オメェのようにあからさまじゃねえが、たまには女共に紛れて ”ゲス” として悪さしてぇのよ」

リアは腕を組んで、タイツに張り付いたタイトスカートを艶美な仕草で直しながら

こう言った。


「そんで何か? 俺様のようなしるしがいまさら、欲しくなったか

豚犬に自分の”しるし”喰わせたほど、じぶんが嫌いで、メスガキの死姦好きのお前がか? 」

リアは顰めっ面をして

「っるせーよ 死姦好きは俺様の嗜好だから放っとけよ

今は、その話してるんじゃねぇよ 今度はさぁさオレの体内に隠せる様に細工してくれよ

この疵跡を綺麗にして女のしるしのようにしてそこに

オトコを隠すんだよ、これには莫大なカネが掛かるし魔導医師のツテもねぇ

だからテメェなんだよ

それと何か、初めて出会った時”俺様の魔導医術と錬金術は当代一”だとほざいたのは

ハッタリか? 

 

 普段は、気さくで専属受付の”リア”として、

裏では大の死姦好きの”元男ゲス”として満足するにはさぁ 

卑俗な器具だけで劣情を満たすだけじゃじゃモノ足りねぇんだよ

オレはもう一度”生”の感覚を味わいてぇのさ」 

とタイトスカートをゆっくり捲りあげる。


 男らしさは微塵も感じさせないその自然な仕草に、思わずメルナの股間も膨らんだほどだった。

いだろう、俺様の魔導医術と錬金術は当代一と言ったのはハッタリじゃねぇ

結果で証明してやるよ ただし ...後は分るな? 」

「あぁ ライブ・アーティファクトとかいう小娘の情報だろ? 

分かってるって いい加減しつこいぞ

オレの家で温和しく ”女のネルリーナ”してろよ」

「わかったわ リアおねーさま♡ 」

最後は外観相応の可愛い声音でスカートを摘まみくるりと回る


「あぁ メルナちょっと待てよ」

「ん? 」

可愛いとびっきりの笑顔で振り向いたメルナはおねだりをするような目付きを作った。


 おそらくメルナの頭の中ではまたろくでもない事が画策されているに

違いない、長年の付き合いで分るリアならではの表情。

何か新しいゲスで非道な事を企んでいそうな蠱惑的な少女顔にリアも思わず頬が緩んだ。


「オレが懸想しているミーアって女の連れだが、

ここいらでも数本の指入るってぐれぇ腕っこきの”錬金術師”でよ

このオレが女の嫉妬ってやつでぶっ殺したくなるほどなんだが」


 リアは、昔からミーアに異常に懸想していた

彼女の毛、目、鼻、口、耳、尻尾、はては小水まで全てが好きだった

例えミーアの姿が変わったとしてもリアの懸想は変わらないだろう

なぜなら彼はミーアという ”存在” そのものを懸想していたからである

彼女ミーアが生来の女性であることも大きく影響していたかも知れない

中途半端な”女性”である、と勝手に思っていた自分とでは雲泥の差があった

その劣等感がリアを更に歪ませていったのである。


 それが、何処の馬の骨とも知れぬ錬金術師のシアズに熱を上げている

リアにはその錬金術師シアズの存在が絶対赦せなかった。


 いずれ折りを見て無頼漢ゴロツキを雇って始末してやろうかと思ったことさえあった

そのうち暫くして、その錬金術師の男の姿をぷっつり見かけなくなった時は内心嬉しかった

やっとミーアを独占出来ると。


 でも期待あては外れ今度は、見知らぬ少女にべったりだった

リアの嫉妬の矛先は迷わずその少女シーアへ向けられる

ここで、言い淀む理由は無かった。


 リアは本来、内務規定で冒険者の事は他言無用だったが、

迷わず、非道な異性装のネルリーナにシーアの事を

あっさりとぶちまける。


「ある日を境にぴたっと見かけんようになったと思ったら、

見たこともねぇ小娘を連れ歩くようになってて今度はソイツにべったりとしやがったんだよ

ベルゼに発つ前ちょっと相談にのった事があってな

詳しくは聞き出せなかったが 何でもその”錬金術師”がホムンクルスを創造していて

そのホムンクルスの小娘に魂を喰われたとか何とか言っていたぜ」


 シーア達がベルゼに立つ前ミーアがリアの下を訪れた時、

リアはミーアからこのような不可思議な話を聞かされていたのである


 その時、リアはミーアを強引にモノにしようと一瞬頭をよぎったが

無いしるしではどうしようもなく

真剣に相談されてしまいついに情に絆されてしまい

「悔しいよね ミーちゃん その”妹”が自分より女の子っぽくなるって

嫌よね しかもその彼が死んだ後にいけしゃあしゃあとソイツが本人だなんて

言い放ったんでしょぉ? それは、彼を死んでも独り占めしようとする女の

ずるい常套句に違いないわよね

死んでも ”彼” はわたしの中にいるっヤツだよね それ」


 リアは、長年女を演っていて同僚の受付嬢からこの手の恋話こいばな

嫌になるほど聞かされていた、最初は野暮ったく感じていたこの種の話題が

リアとして話の輪に入っていくうち次第に大好きになっていき

この時ほどリアは心底女になって良かったと思ったことはなかった。


「貴女の懸想する”錬金術師シアズ”を奪った醜くてあざとくって憎い女って

思いなさいな


 そうすればさぁ 段々さぁ、自分の方が相応しいと感じてくるようになるわぁ

憎い”シーア”が自分より女の子っぽくなってもさぁ 

自分の方がより一層相応しいと思えてくるし 

それに、もう彼の墓をあばいたんでしょ

頭蓋シアズをきれいに舐めて抱っこしてやりなさい

そうすれば思い人は何時までも微笑んでくれるよね

いくら”シーア”が女のコっぽくなっても頭蓋シアズを持ているワタシには勝てない

ミーアが一番ってね」

こう囁きミーアを黒く染め上げたのである。



「なんてことがあったぜ」

メルナに話ながらリアはあの時ミーアに囁いた事を思い出し

下品にニヤついた。

「それ、ホンモノかもしれんな」

リアの言葉の”錬金術師がホムンクルスを創造”の部分に

メルナは食いついてきた。


「何がよ? 」

まさかそこに食いついてくるとは思わなかったリアは素頓狂な声音で問い返した

「はぁ そんなの居るわけねけだろ 御伽噺さ

メルナよ、アンタ ライブなんとか にご執心のあまり頭のネジがあさっての方に

向いたと違うか? 」

「バカなテメェには分からねぇだろうがよ、ホムンクルスってのはオレの時代にも成功しかけて

量産寸前までこぎつけた代物だぜ

 

 易々とはいかんが時代が進んだ今代なら

出来うるかもしれんて代物だぜ 

一先ず、ライブ・アーティファクトの小娘はさて置いていいから

その見たこともねぇ小娘の名と特徴を教えろよ」


 メルナは目をギラつかせる

自分より優秀な錬金術師などこの世界に存在してはならない

そんなどす黒い目だった。


「妙に食いつきがいいな 今はベルゼにいるが名は”シーア”って小娘で

目ん玉の色が左右で違う、それに光線の具合で髪の色が変わるってな

妙な髪色の娘だあんなんは有象無象の冒険者共の受付嬢してるオレですら

見たことも聞いたこともねぇ


恐ろしいほどの別嬪な小娘で肌もすれちゃいねぇし

この嫉妬深いオレ様でも怖ぇくれぇだ」

メルナは間髪入れず


「アハハハ そんだけ聞けりゃ上等だ やはり ”リーア” もこの時代で

目ぇ覚ましてやがったかよ

今はシーアって名乗っているってかぁ それとも、創造されたホムンクルスを装って

この時代をのうのうとしているかだな 一度この俺様が直に確かめてやるさ

こりゃ、面白くなって来やがった」


 リアにはメルナの言葉の意味の大半は不明だったが

この異性装の見た目少女は確かに使えると、ずる賢いリアは早速算段を巡らせた。


 最初、水晶の棺に入っていた時はホンモノの少女だと思っていて

早速ブチ殺して死姦を愉しもうとワンピースドレスのスカートを

捲り上げたら男のしるしがついていて 気色悪くて

そのまま、洞窟の奥へ棺ごと蹴り落とそうとしたら

可愛い声で、命を乞われて仕方無しに助けてやった


 そうしたら、一緒に洞窟に連れて来ていた

孤児院の少女メスガキを、いきなりしるしで嬲り初めてそこで

リアはあぁコイツはオレ(リア)と同類だと 直感して

盟友の儀を結んだのである。



 頭は良さそうだマギが極端に少ないらしい

何せ簡単な (( フレイル )) の呪文でさえも満足に火晶石ひしょうせき一つ

励起させる事が出来ないのだ

この世界ではマギの許容量の少なさは死活問題である

そこで全て生活の面倒を見る代わり

自分の願望ねがいを叶える為のほんの少しの智慧をこの異性装の男から借りることで

離れることが出来ない、共利関係を築き上げたのである。


 メルナメルナで、今代の知識が殆ど無い

ギルドの受付として働いているリアの世界の生きた情報は

最も欲していた一つであり神代の頃のように、種族構成が逆転した時代では

温和しくしておいたほうが得策と判断していた

 ”昔”のように粋がっても多勢に無勢であり”大きな”事を構えるには

強大な能力ちからも足りなかったのある。


 リアはリアで、智慧や野心などはどうでもよくただ美しく成りたいのと嗜好さえ満足出来るなら

メルナがどんな事をしても、今代の常識を知らなくても 構わない

それでいて、あまりお互いに深く立ち入らない暗黙の信頼 

それさえ有れば満足だった。

 

 リアと喪われた筈の民”蒼き深き者”メルナはこうして出会い

深い友情と信頼を、シーア達の預かり知らぬ所で築いていたのである。


「なぁ、メル? ネタを一つオレに教えてくれよ  こうして辛気臭ぇ

アルカーナ くんだりまで来てやってるんだぜ

オレとしては男共を誑かして一杯奢って貰うつもりだからよ

早く済ませろよな」


 タイトスカートをわざとらしく直し、タイツを触りながら、辺りの男の視線を伺う

アルカーナには、魔物の調査や遺跡の古文字の解読等で、

男女問わず、種族問わず大勢の冒険者や衒学好きの学者等が

談話室で議論をしてたが リア自身は書物には関心はなく

専ら奢り目的の好みの男漁りや、趣味の死姦目当てのメスガキ探しには

格好の場というだけの存在だった。


 リアはこうして、男から酒代やら食事を”おねだり”しつつ、情事を巧みに避け

自腹はとことんまで切り詰め、あとは外観の魅力で

奢らせざるを得ない状況を演出する、そんなホンモノの娼婦しょうふ顔負けの

生活が大好きだった。


 羊皮紙とインクとやや黴臭い空間 巨大な書架の隙間でメルナを後ろから

腕を回しながらリアは囁く

ここオルティア大陸西方ガイガ大森林帯の中心地知識の集積地”アルカーナ”を

訪れていた二人

リアの片手はメルナのワンピーススカートの中をまさぐり

かつて自分にもあったしるしを弄っていた。


あぁん いや ...やぁぁ


可愛い嬌声を漏らすメリナ

「ねぇ 早く し・て♡ 」

とメルナの返答を優しく促す

「いいわ リアねーさま ネルはね、水晶の棺にね 入る前 んんっ やっぁ 

...おしえ んんっ ...あげる ...」

甘い吐息混じる言葉を要約すれば


 ことわりの因果律は”蒼き深き者(ノーアの民)だけが滅びの対象であり

それ以外の種族はライブ・アーティファクトを含めて多少の犠牲をはらんでいても、

歯牙にも掛けなかったのである。


 そこで、水晶の棺に入る前、ことわりの因果律がどう転ぶか分からない

故に、此処の知識の集積地”アルカーナ”を悠かに陵駕する

無限迷宮図書館とも言える叡智と知識を記した書物を

二人の ”生きている開架式と閉架式の迷宮書架” の少女ライブ・アーティファクト

魔導技術院:メルトスが全てを封印した


 苛烈で残忍な性格で気に入らないと知識と智慧・記憶の全てを喰らい

特に書物は大好物で、書籍が集約している所に出没し喰われた書物は

どんな文字で書いてあっても、意味が全く理解できなくなるといわれていて

しおり”を持つ司書(盟主)を探して

幾度も休眠と覚醒を繰り返しているというのである。


 彼女らは、”しおり”を持つ司書(盟主)を絶対盟主として その司書(盟主)が

命運尽きるまで絶対的に付き従い数多の知識と禁呪と禁忌の智慧を授ける

彼女ら自身にはその”しおり”は探し出せず最も相応しい者に

自ずと手渡てわたるという 相応しくない者が持つと一時的な恩恵は得られるものの

彼女らに知識や人格はては自我まで喰われてただ食って排泄するだけの存在に

成り果ててしまうのである


 ”蒼き深き者(ノーアの民)” はこのことわりの因果律の

範囲外にあるライブ・アーティファクト達に、叡智と知識と禁忌と禁呪を委ねた

 なぜなら、自我さえ有れば建造物等の構造物と違い

自身の生存本能で災いから逃れることも出来るからである


 メルナは、後でそのライブ・アーティファクトを探し出して手許に置くはずだった

が、あまりにも刻が経ちすぎてガラリと世界は様相が変化してしまった。


 彼女らは行方が分からず手掛かりもない、そして一番気掛かりなのは

自分を悠かに凌駕する叡智と知識がこの世界に ”ライブ・アーティファクト” として

存在し続けていることだった、是が非でも探し出さねばならなかった

自分の(メルナ)の他にこのような存在を赦せるはずもなかった

誰よりも先んじて”しおり”を探し出し永久に葬らねばならないのである。


 頼りの”宿り木の鞭”も何処いずこへか喪い、

彼女らを従わせ葬る事が唯一可能な”しおり”も

探し出せてはいない。


 これらすべてメルナの捜索の対象ではあるが 優先すべきは

そのライブ・アーティファクトだった その手掛かりを求めて

かつての巨大書庫アーカイブであり、

今代はオルティア大陸の ”遺跡アルカーナ” に訪れていたのである


「な? 解ったろオレが血眼になる訳がよ

今代はどういう名かしらんがソイツの名は ”アルカーナ” という小娘だ

あのメスガキめが 魔導技術院:メルトス総力を上げて創造してやったのに

まだ高鼾たかいびきの最中か それともどこをほっつき歩いてやがるんだか、

呑気なもんだぜ とまぁそういう訳だ」

とメルリーナは一人ごちる


「あぁ 分ったよ面倒くせーな ライブなんたらは知らねぇが

その ”宿り木の鞭” なら神代級のお宝として

そのうち、冒険者共の間でも出回るだろうしな温和しく待ってなよ」

「あぁん」

メルナは顔を赤らめて 最後にぶるりと震えて果てた。

「けっ ヒトがせっかく話し聞いてやったのに勝手に果てちまいやがった

いい気なもんだぜ これだから、男ってやつはよ」

と自分も元・男なのを棚に上げてリアは肩を竦めた。


「おっ ここにいた リアさん どうかねオレと一杯やらね? 

って 妹さん連れ? 」

「あはっ♡ 見つかっちゃわぁ 今はこのと一緒だけど用事は済んだわ

さぁ メルちゃん お兄さんにご挨拶して」

メルナはあわててスカートを直し

「お兄様 メルナなメルナって言うの 今ねリアおねーちゃんのご用が済んだから

絵本買って貰っちゃった」

と後ろ手に棚から咄嗟に取った絵本をドヤ顔で見せつける

 

「おぉ それは良かったな嬢ちゃん ここの販売本は高ぇから大切にしな」

「うんっ 大切にするねリアおねーちゃんっ」

メルリーナを装うメルナ

「ごめんね メル 私、このおにーさんと一杯飲んでくるね

いい子で待ってなさいな」

「は〜ぃ 楽しんで来てね〜♡ 」

と姉妹の様に振る舞う


「ねっ おにーさん リアね寂しくなって来ちゃった お食事しない? 」

「ふへっ 妹が居なくなって寂しくなったか」

「うん そうのなの 私って妹に依存してるの

だからね、こうして誰かに依存していないと落ち着かかなくて ...ね おにーさん

だから、一緒に ...ね♡ 」

口から出任せの嘘でも、男はこういう誘いは絶対断れない事を

元は同じ男性でもあるリアは十分理解していた。


 男は下心丸出しにしながらリアの尻に手を掛け表の酒場に入っていく

「珍しいじゃねぇかよ オメェから誘うなんてんー? リア」

と自然に接吻を交わすリア

リアはバイセクシャルで、相手が男でも自分の中の女心さえ揺さぶられれば

ねちっこい接吻までは、忌避感なく赦していた 


「ふふ (かさないで♡ お食事したら上の宿でね ...お触りまでなら ...赦してあげる

私、娼婦しょうふじゃないから それは解ってくださるかしら? 」

「うへっ いいともさ、こうして受付嬢といちゃつけるてのは

俺等のような野郎の冒険者の間じゃちょっとした自慢の種だぜ」

ギルドの受付嬢は男性冒険者にとって、正に憧れの女性の筆頭である

妻子持ちの男でも一番目にして親身になって案件の相談に乗ってくれる

女性であり、そんな女性と一緒に歩けるのはかなりの伊達男で有ることを

同じ男性冒険者達に、証明しているようなモノだったからである。


「ふふ 解ってる♡ 長いことね ”女” を演っているとね

たまに懐かしくなるのよ ”オトコ” のむさ苦しい体臭がね」

「うおっ 嬉しい事言ってくれるね まずはたんまりメシ喰おうぜ

それと オヤジ、琥珀酒あるか もちろん ”瓶” でだ」

男はリアの言葉の真意も知らず、食事に誘う

目について入ったいかにもな、高級酒場のオヤジは


「へぇ、毎度あり アガテ山脈から卸したてのが有りやすぜ

大瓶で? それとも小瓶で? 」

店主のオヤジはニコニコ顔。


「よしっ 今日の稼ぎ全部で、大瓶でくれよ」

と男はカネ袋をガチャりとカウンターに置く

「気前がいいお客さんはいつでも大歓迎だぜ

メシはオマケにしとくぜ」


 琥珀酒の大瓶一本は滅多に出ない

大抵はゴブレット一杯か小瓶のさらに半分が出れば経営は十分利益が出るから

酒場の主人にとってこの反応はしごく当たり前だった。


 リアは慣れた手付きで琥珀酒大瓶の栓を抜き

彼には少なめに自分の分も少なめにガラスのゴブレットに注ぐ

酒は氷晶石ひょうしょうせきを伝い程よく冷えて

さらに、手の温もりで仄かな酒精の匂いが漂う


 料理が出るまでの間も

リアは男の様子を見ながら絶えず足を組み換えしたり

タイトスカートの裾を直し、これ見よがしにタイツも直しあざとさを演出する

 辺りからは男を妬む視線と自分に注がれるねっとりした視線

その両方をリアは愉しんでいた。


「はい 当店、最高級の一皿だぜたんまり食ってくんな」

と目の前には二人分の料理が出される。


 それは、乾し肉を細かく刻んで葡萄酒に漬け込み柔らかくしたものと葉野菜の組み合わせ

同じくもっちりと固めた麦パンを細かくちぎったモノの

上にチーズの薫製を細かくし振り掛けた後、表面をこんがり焼いた料理が皿に出される

リアは柔らかく溶けたチーズをパンと程よく火が通った肉を葉野菜に絡めて口に含み

男に口移しに与えた


「アンタはどこまでオレを喜ばせてくれんだ」

男はすでに耳まで真っ赤にして分かりやすかった。


「うふふ こうやって食べるとさらに美味しいでしょ♡ 

ねぇ それと、お土産にこの大瓶頂いても? 」

「あぁ いいとも、もとよりこれはあんたのモンだぜリアさん」

躰も程よく温まり、上の宿でリアは約束通りお触りを赦す

久々のごつい男の手の感触にリアは満足だった。


 リアはほんのちょっとしか減っていない琥珀酒大瓶を鞄に仕舞い込み

「ありがとね 今度優先的にいい物件回してあげる」

専属とはいっても、普段は通常の受付の業務となんら変わることが無かったが

多少はこうして案件の”融通”も利くのが専属の特権でもあった。

こうした行いがリアの評判を高めていっているのは自明というものであろう


「ありがてぇ 女房に稼ぎがねぇなんて言われると、ちょっと具合が悪いからな

ガキ持ちにはつれぇ身よ じゃな 愉しかったぜ」


 と別れも尾を引かせないこれも

リアが受付嬢をるに当たって身につけた処世術である。


 メルナの立っていた床には果てて放った体液がついていて

男にはお馴染の匂いがついていたが

先程の男もリアに夢中で気が付くことは無かった

その体液でさえ彼にとっては単なる素材でしかない

小瓶に採取すると可愛い自分の小鞄ポシェットに仕舞い込んだ


「テメェの体液まで素材扱いかよ あぁ? ネル」

酔いもさめて素面しらふに戻ったリア

メリナが採取し終わった頃合いだった。

「おうとも、これも”ホムンクルス”大事な素材だし

オレから出たモノは一滴残らずオレのモノだからな

だれにも渡しはしやしねぇ

「まぁいいさ それよか死姦液はどうした? 」

「あぁ 家に戻ったら地下にいってみな

たんまり作りこんである 好きなだけ使いな」


 人間や動物の遺体または遺体の一部(内臓など)に含まれる水分と脂肪分を

特殊な液に置換える禁断の錬金術で生成される透明な液体である

シーアの時代では、

禁忌の錬金秘儀として古文書で記述が僅かに残るのみ

死姦嗜好のリアにとって遺体の保存は急務でありこの死姦液は

喉から手が出るほど欲しかったモノである。


 リアの王都:ギルトスの一等地の自宅地下には

多数の”人形”がある

みなシーアくらいの少女であり、生気が無い以外は

生前と何等変わりない。


 綺麗なワンピースドレスを着せられ唇も着色されて

髪も丁寧に整えられリアの私室に

寝そべったり椅子に腰掛けさせられていたりと姿勢も様々である

しかし、彼女等は微動だにしなかった

リア死姦液プラスティネーションにより永遠の若さと美を

約束された永劫の処女おとめ

中には彼の母校であるベゼリン女学院の制服を着た少女モノまでいた。


「うふふ 今日はどのにしようかしら」

リアは仕事着であるフリルタイトスカートをめくり上げ、パンプスを脱ぎ

寝台に黒のタイツ姿で乱暴に”胡坐”をして品定めをしている

「ふぅ〜 仕事おつきあいの後の一杯は最高だぜ」

見知らぬ男性から奢ってもらった琥珀酒をゴプレットにちびりと注ぎ

一口、丁寧に舐める

彼は、私室でのみ”オトコ”としての本性を露わにする

なんだかんだ理屈を捏ね回しても彼は根は”オトコ”だった。


 視線を巡らせ 寝台たら

「よっこらせっと」

と可愛い少女の声で、フリルタイトスカートをめくり上げたまま


寝そべらせていたうねる長い銀髪の少女を抱えて寝台に運ぶ

普段着のリアはワンピースドレスでふんわりと広がったスカートが好みで

フリルタイトスカートは仕事時のみの着用だった。


 リアは卑俗な器具で少女と戯れる

リアにはしるしがないのは先の通りだが豚犬にしるしを喰わせて

無残な疵痕として残っていて

未だに残る男の劣情が昂るとこうして卑俗な器具で愉しんでいた。


 リアに強引に唇を奪われ蹂躙される”人形”にされた哀れな少女達

表情もなく、精巧な哀れな義眼はただ高い天井を仰ぎ見ていた


んっんっ んぁ


 男と違い果てる事無き要求と欲望

人形にされた少女達のワンピースドレスをゆっくり剥いては、

違うワンピースドレスを着せて

髪を梳いたり、ねちっこい愛撫と慰撫を嗜む様子は、さながら大人の

着せ替えお人形遊びだった。


 この少女達に懸想する”ミーア”が加わるのを夢想しながらリアは

目の前のお人形を慰撫し続けていた。


 それを見つめる、詰襟の長衣のエル族の男性

その左胸にはギルド総長の証が、光っていた。


「あまり、おいたは、遠慮して下さいね

リアさん こちらも貴女の嗜好をどうのこうの兎や角”異論”を

唱えるつもりは有りません

私、 ...としても貴女の行為を黙認しているのですからね

本来なら、諮問委員会に討議し懲罰会議の上

永久追放となるところですよ この所業は


 ”銀の娘”の情報を なるたけ優先的に回してもらえると有り難いのですがねぇ

そのために、わざわざ貴男を専属受付嬢に推挙したのですから」


 詰襟の長衣のエル族の男性は、非人道的行為を怜悧な目で

ただ見つめていた。


「あぁ 分ってるって 今はお楽しみ中だってのに

いつ タフタルから戻って来やがった

しかもオレの私室に勝手に入り込みやがって あぁ? ”ドリエル”よぉ」

リアは厳しい眼で睨め付ける


「ふふ、いつだっていいじゃないですか

”銀の娘”を懐柔する神代級の遺物の片割れを見つけた ...とだけ

タフタル大陸の統制庁リームレスに有りますよ 

取り出すのに少々手こずりそうですが

まぁ何とか成るでしょう


 貴男のその死姦液プラスティネーションの技術をこの

ドリエルめに供与して下されば貴男の処遇も給金も査定も思うがままなんですが

決心は如何程ですかな? 」

リアは、フリルタイトスカートを捲り上げたまま、人形と戯れていた


「あれは、オレのモンじゃねぇよ メルリーナに直接聞きなよ

製法を知って居るのはアイツだけだよ」

リアは無遠慮な男言葉で返した。


「そうですか メルリーナ嬢は気紛れでしてね

こちらからさんざん”素体”を提供しているに拘わらず

一向にお返事を頂けないのですよ

もし、貴男がご存知で 今、お教え頂けましたら

人形それ”の蒐集しゅうしゅうも充実するのでは無いかと」

表情一つ変えないドリエル

むしろ、目元は緩んでいるほうかも知れない、

シーア以外の有象無象の冒険者は、ドリエルにとっては

舞台の傍役以下の存在だったのだ

最初にシーアを目にした瞬間からドリエルは、その妖しい人外の魅力に囚われてしまったのである


「私は”官吏”とも懇意にさせて貰って居りますから

多少の融通は利くかと

是非、 ”銀の娘” もその人形の仲間に加えて、私:ドリエルめの

手許たもとに置いときたくなるのですよ


 活気あるままでも魅力は更に有るでしょうが

気儘な彼女は私の手からは簡単に翔び立ってしまい

とどまってはくれないでしょう


 そこで、貴男のそれですよ

銀の蝶は、綺麗な匣に留まってこそ、それを見る者に多幸感をもたらすのですよ

今の、貴男リアの様にね」

ドリエルは歪んだ願望を、慰撫の最中さなかのリアを表情を何一つ変えずに

言い放った。


 そして、リアのお好みのローズピンクの口紅のついたゴプレットを取り

それに重ねるように唇をつけ、残りの酒を一気に呷った。


「ふふ なかいい趣味してますね この口紅もお酒も」

「いわれるまでもねぇ 酒も口紅もどれも一級品だぜ

特に口紅はバルケモス大陸産で、一級の魔導調香師の作だからな

オレの愛用品だよ これ一本で普通の冒険者なら小さい屋敷とメイドを

定命まで面倒見きれるくらいだぜ」

ドリエルは、自分の唇についたリアの口紅を薄く指で引いて

そして、舌で卑しく舐め取った。


「そうでしたか なら、バルケモス産の口紅全色揃えさせましょう

私の求める対価としては瑣末ですから」

「あぁ だったら薄赤系と黒系それと今付けてるような系統にしてくれよ」

リアは此処で初めて、器具で繋がったまま 少女ともの卑俗な慰撫行為をやめて

ドリエルの方に向き直った。


 それを合図にドリエルが頭を回し、凝りをほぐす所作をすると、カサカサと虫が這うような

物音が遠ざかっていった。


「ちょい待ちなよ さっきの話しだがな、今解っているのは、ある錬金術師が居なくなったと同時に

忽然と”入れ替わる”ように

現れたということだけ それと人外という以外は解っちゃいねぇ 

今口紅くれるってんでやっと思い出したぜ」


「で ”ある錬金術師とは” 」

ドリエルは自分の動悸で目が翳み蹌踉よろける。

ドリエルの推察が正しければ、ここである錬金術師の名がリアの口から出てくる筈である。


「なんでも、ここオルティア大陸の腕っこきの”引きこもり錬金術師:シアズ”だとよ

オレのミーちゃんがそう言ってたぜ」

「アハハ なるほど、ようやく合点がいきました そういうことでしたか

シアズならやらかしそうですね ぁぁあ、なんて素晴らしい

お礼に人形の”素体しょうじょ”を一つ差し上げましょうかね これは貴方への正当な対価です

遠慮なさらずに慰撫なり蹂躙なりすればいいでしょう」

上ずった声はドリエルの気持ちの昂ぶりを如実に示していた。


 ”メルリーナ”がお楽しみの後は

貴男が好きにしても結構 どうせ冒険者一行パーティーの生き残りで

身内には”魔物のせいで死んだ”と既に伝えて有りますし 

遺体は魔物に喰われた事になっています

私が改めて後で始末した魔物:魔灰熊デモンド・ベアを、

その一行パーティーが討伐したという名目の特別慰労金で、

カタが付いてますからね 煮るなり焼くなり、人形にするなりなんなりと

あぁ もちろん貴男好みのうねる蒼銀の髪の小娘ですよ」

ドリエルはニヤニヤ嗤いを抑える事すら忘れリアに譫言うわごとのように言う

冒険者一行パーティーでも梃摺てこずる魔物:魔灰熊デモンド・ベアをドリエルは

片手で首を軽くへし折って既に一頭、始末していたのである


「とんだ 総長様だせ 突然オレをあいつらの専属受付嬢に

指名したと思ったら こんなからくりかよ とんだゲス野郎だな」


ニヤリ


 と嗤うリア。


「いえ、わたしがこんなゲスな男に成り下がるのは、

あの ”銀の娘” 関する刻だけですから御安心を後は、至って真面目なで

実直な男ですよ 何せ、全ギルドの”総長”ですから

 今回の貴男の査定は、うんと上がりました 次の特別査定給金ボーナス

期待していいですよ 

何れにせよ、今度ともお願いしますよ リア

そのためにわざわざ王都の一等地に邸宅を与えているのですから」


 元は、王都の魔導研究院の旧研究施設だった。

いまでも施設は真新しく最新の器具や施設が整っているが

ドリエルの一言でシーア専属受付嬢:リアの所有に権利が移行した


 リアの王都の一等地の邸宅には”出入口”というものは

見当たらなかった ぐるりを高い塀と杜。、多重の結界で囲い完全に閉じた

空間で表向きは、王都直轄の魔導研究院の建屋の一棟ということになっている

が実際はリアとメルリーナのためだけの”本邸”であり

地下空間は広く深い メルリーナが ”遊ぶ” には余り有るくらいである 

 仮に一般に開放されていたとしたら

観光名所になるくらい地上部も豪奢なエル族様式の邸宅に

リアとメルリーナは二人きりでその”観光名所”を独占していた


 リアは、トルティアのギルド近くにも質素な家がありこの家自体が

邸宅の出入口になっていて家の扉を閉めて柱に彼がしている

指輪を押し当てると部屋空間全体が歪み、本邸の離れの尖塔に転移される

更に、肉眼では見えず指輪の持ち主だけが見える不可視の回廊を渡り

ようやく本邸内に入ることが赦される。


 更に、指輪を外そうものなら例えリアやメルリーナでさえ容赦なく喰らう

王都魔導研究院が ”飼っている” 生きた邸宅だった。

これと同じものでさらに大規模のが空中庭園:レーヴェンティールにもあるとされているが

真偽の程は定かではない。


 ドリエルは指輪の宝珠を体内に埋め込んでおり 元・此処の所有者でもあるので

出入りに関しては一切問題ない。


「貴男が ”安心” して何時でも銀の娘の情報を提供出来るようにね

では また、メルリーナ嬢にも、 

早く王都の魔導研究院入りを とお伝えくださいませ」

「あぁ ヤツの”生きている書架”の ”ライブ・アーティファクト” とやらをとっ捕まえたら

喜んで行くだろうさ それはアイツ次第でオレはどうでもいいことだ」

とリアが乱暴に乱暴に言うと


 ドリエルは軽く一礼してその場を辞した。

豪奢な廊下を歩きながら 口角の端に付いていたリアの口紅を長い舌でまた

卑しく舐め取り

「魔性の女め あれが元・男とは未だに信じられませんね

一度じっくりと、解析したいものですな

このわたしも危うく魅せられるところでした  

浮気はダメでですよね、 ねっそうでしょう? シーア  

貴女はどの銀細工より美しく繊細でそれいて、永遠にくすまず、腐食もせず

こっ このドリエルためだけの 可愛い愛しの銀の蝶っ!! 

その鱗粉の一片ですらボクは、精を放って果ててしまいそうだ」

彼は上ずりながら頭の中で確信する


 あの 

オルティア大陸の腕っこきの引きこもり錬金術師:シアズがホムンクルスを創造したのだと

ではあのホムンクルスの少女の魂は一体何処から?


 生命と魂の創造は女の肚からでしか出来無い

その他の手段による全くの無から有への創造は、ことわりがこれを赦さない

ならばその代替となるモノがなければならない

 ドリエルの中の確信は次第に核心へと迫りつつあった

 

 ヴァン族は十字聖剣を恐れるという、

ドラコ族は十字聖槍を恐れるという、

ならその両方の特質を持つと噂されるホムンクルスの少女は?

彼の中では問いと推察、そして確信と目まぐるしく思考が飛び交っていた


「それでもいいでしょう 貴女が動いているだけで、今は満足ですよ 

魂が誰であろうと その行方がどうなっていても瑣末な事!! 

もっと動き、駆け抜ける姿をボクに見せてくださいませ、

貴女の足元にすら及ばない、この矮小なドリエルめに!! 」


 馬車の中ドリエルは、一人大声で恥も外聞もなく独白していたが

その大声ですら、王都の喧躁を破ることは出来なかった。


 彼が、用もないのに忙しく大陸内外を移動しているのも

公務を言い訳に、シーアの痕跡を追っているからであり

逆に忙しくしていないとシーアのことで

公務に手が付かないからだった。



 ことわりの因果律はリーナに微笑んだのだろうか、

それともメルナに、微笑んだのだろうか

確かに、リーナも明晰夢通り今代まで、水晶の棺で生き延びルースという男性に

見つけられて愛し、契り愛いそしてシアズという一粒種を

遺した、だが因果律の微笑みはこれで最後だった

何故なら彼らは”不慮”の事故で冒険の最中さなか双方共にに命を落としてしまったからである。


 ことわりの因果律は決して、矛盾と齟齬そごを許してはくれない

メルナが水晶の棺で生き延びたことで

因果律は、片方リーナを”不慮”の事故で”消す”ことで矛盾と齟齬そごを修正したのである。

しかし、因果律のことわりは、残酷なことに関係のないルースもリーナの因果律に

巻き込んだのであるが、ことわりを破った代償だった。


 ただ唯一ルース・リーナに救いだったのは、一粒種のシアズが季節の巡り10の歳月が経った後

因果律が動いたことだった。


 このようにすぐには齟齬が修正されず幾許いくばくかの猶予があるのも

因果律のことわりの無慈悲・残酷な一面である

いつその”刻”が来るのか誰にも分らない

そして高潔なリーナを選ばず、残酷で非道なメルナを選んだのもそれであった

ことわりにとってどんな人物だろうが関係はなく、最終的に辻褄が合えばそれはそれで

良いので有る。


「ではな オレはそこらをうろついて来る ”ネルリーナ” としてな

それと髪を伸ばせ ”ショートボブ” ってのはオレの好みじゃねぇ

女は髪は長いほうがいいと思うぜ バカな冒険者の男共もころっと可愛さに絆されてよ

聞きもしねぇ秘密やらをペラペラ喋ってくれるぜ 同じ”男”だから よ〜く解る」

「そうするよ 今はベルゼに行っているがミーアってオレのダチが

最近妙に色気付けやがって、髪を伸ばし始めやがった くそっ

最初はうざったくてショーボブ(これ)にしてたがな

あのクソダチが伸ばしてきやがってよオレも伸ばしておけば良かったぜ

畜生がっ!! 」

少女リアは思いっきり毒付くと木の壁を拳で殴り軽く凹ませる。


「あぁそれなら心配しなさんな

オレとテメェの仲だ それくらいならすぐロハ(タダ)で長く可愛くしてやるよ

しかも自在に動かせるオマケ付きだ

まぁ せいぜい専属受付の特権を大事にするこった

ね〜ぇ おうち帰ったら ”ネルリーナ” と遊んでもっと今代のお話聞かせてよ

ねー♡ 」

と最後は蕩けるような少女の甘え声。

「あぁ たんまり聞かせてやるよ これまでいい子にしてな」

と相変わらずの男口調のケット族の少女? 

「最後に お口に頂戴 ”リア” おねーさま」

「全く ”ネル” って女の子のふりだけは誰にも負けないわね

リアもね そんな貴女が大好きよネルちゃん

おいで」

「うん リアおねーさまあぁん♡ 」


 メルナもとい ネルリーナは立ち膝でリアの後ろから リアの唇に

ねちっこく 何度も舌を絡ませスカートの股間を膨らませて接吻を交わし

リアも負けじと接吻を返す

 

「今代の事をたんまり聞かせてやるぜ そんかわり オレにもいい目、見させてくれよ

んーっ♡ 」


 シーア付き専属受付 リアは元・男であり更にあの”メルナ”とは深い仲で

かつリアが幼い頃からの友人でありしとねの相手だった。


 全ては幼い異性装のリアが同孤児院の少女を洞窟に連れ立って

劣情をぶつけている最中崩れた壁から

美しいメルナの水晶の棺を偶然見つけて、彼を目覚めさせ

メルナとリアの二人でその哀れな少女を蹂躙した時から始まっていたのである。


 シーアとミーアがリアに出会う以前から

メルナとシーアは不思議なえにしで既に絡め捉われていたのである。



「貴女は リーナ? 」


 それがわたしに向けられたその少女の第一声

うねる蒼銀の髪にやや気難しそうな金の瞳。


”普通”の少女、では無いのは

全裸の躰に縦に走る淡いピンクの筋である

彼女の喉元から臍上まで正中にあるそれは、

女のしるしのように ヌラヌラ 粘液で光っていた


「リーナ? 」

わたしは、その少女に鸚鵡返しで問うと

「ん、 貴女からリーアのとても濃い匂いがする

近くに行っていい? 」

ある程度の距離まで近づきそれ以上は近寄ろうともしない

「いいけど 敵対しないというなら何もしないわ」

「敵対は有りえない だって貴女から濃いリーアの匂いがするもん

ねぇ もっと近くで嗅がせて」

と もじもじ し始める。

「いいけど まず服を着てくれるかしら? 

いくら、”同性おんなのこ どうし”でも目のやり場に困るもの」

この頃のわたしは、既に女性の裸をみても”同性”を見ているような

感覚しか、感じなくなっていた


 以前は、もっと羞恥のような”得”をしたような感覚が

強かったのに


「お姉さまがそう言うなら それと靴も頂戴」

「えぇ もちろん」

そういいて小鞄ポシェットから、彼女に似合いそうなの見繕い

傍まで来ていた少女に服を渡すと

「ね 着せて頂戴 リーナならいつもそうしてくれたわ」

とおねだり顔で、じっと待っている

手を掛けるとさわりと髪が蠢めき優しくからんで来る

何かを訴える目にわたしは自然と彼女の唇に吸い寄せられていく


ちゅっ ...んぁ んんっ ...くちゅ んぁ ...ぁんん


 互いの舌が絡み口腔をまさぐ

「ふふ 悪いね 貴女 ほんとは自分で着られるくせに」

「んっ ごめんなさい でも貴女はやっぱり リーナと同じ

ティリエをヒトとして扱ってくれるのね

こんな”裂け口”があっても」

と彼女は躰の正中にある女のしるしに似たそれを

少し ニチャリ と開く

そこには、肉襞にくひだと多数の女のしるしには有りえない

細い牙が見えていた

「でも 貴女はそれでどうにかしようとはしてないわ 

ただそれを見せただけ それにこうして唇を合わせてくれる

だったら怖がる必要はどこにも無いわよね ティリエ」


 とわたしが言うと

「わ〜ぁん 寂しかった ずっと寂しかった ずっと独りだったの

本当は、喰べたくもない”同類”を喰らわずにはいられない

この醜い躰 こんなティリエを女の子として扱ってくれたの

リーナとシアーズそれと貴女だけ 後はバケモノ扱いで

誰も近寄ろうともしない

刻が過ぎたら今度は手の平を返すように、

ライブ・アーティファクト達を従わせる為に焚き付けてくるッッ! 

そんなのはもう絶対イヤっ イヤなのッッ! 」

と抱き付たままかぶりを振る。


「落ち着いて やはり貴女って? 」

「うん、私:エルティリエはライブ・アーティファクトを喰らうライブ・アーティファクト

ノーアの意向に沿わないガラクタを喰らうためだけの存在

こんな自我を持たされて、言うこと無理矢理きかされて

ヒトって だーーぃっきらい ぜーったい、ぜーったい、だーーぃっきらい

好きなのはリーナとシアーズとそして貴女だけッ だから

お願い 貴女の傍に居させて! 」

彼女は破顔して懇願して、綺麗な顔立ちは涙でくしゃくしゃだった。

「そう 泣かないでわたしはシーアっていうの

先ずは服を着て頂戴 独りで着られるでしょ? 」

彼女をここままにはしてはおけなかった。


 「うん」

と羞恥を気にする風でもなく手早く用意したワンピースドレスを身に着ける。


「あぁ すてき シーアってやっぱり だーっいすき」

『 ほうお主がライブ・アーティファクトを喰らうライブ・アーティファクトかの? 』

「えぇ そうよ ”贄の蛇” 貴女までティリエの存在を否定する気? 

貴女の思い道理には絶対させないもんっ んべー」

と私に抱きついたままいつの間にか浮いていたクローティアに

鋭い眼光で敵意を剥きだし舌をだしていた。


『なにも、しやせんよ ただの 』

「ただの って何っ? 」

『 そうそう、警戒せんでもええ 今代は昔ではない、

幾々星霜も経てようやく一時ひとときの安寧を手に入れた

そう気張らんでもいいと思うがの』

...が


 クローティアの眼が一瞬鋭くなる。

『ただのう 此奴には既に、四人ライブ・アーティファクトが従いているでの

全員シーアと盟約を交わしておる お主、飢えに耐えられるか 

彼女らに少しでも手を挙げれば お主とて無事ではすまんぞ』

「そっ それは分かってる ギアトレスとユクントスのライブ・アーティファクトは

平らげた、まだ外界にはたくさんいる それと女の子のライブ・アーティファクトには

手は出さない 喰らうのは男性型だけ ...ならいいでしょ? 」

とエルティリエは断言した。

 

『ほう 言い切りおったな さすれば、”証”をシーアか儂に渡せ 

そうすれば、此奴との盟約を認めよう

後、ノーアのことは他言無用じゃ』

「シーアおねーさまにも? 」

エルティリエは、不思議そうな顔でクローティアと何やら聞きなれない単語について

目配せをしていて きゅうと細めた。


『そうじゃ 儂が贄の蛇であることは此奴も知っておるが

セカイには沈黙を守らねばならぬ事もまた多数ある それは

お主が見てきた全てがどんなモノか解っている筈じゃがな』

「ふんっ 今まで日和見の貴女がそこまで言うんなら黙っておいてあげるわ

おねーさま 赦して こういう訳で昔の事は余り言えないの」

 ”贄の蛇”たるクローティアに言われたのを理解したのか

このときは素直だった。


「でも、証は貴女には渡さない おねーさまに直接渡したいの

それでも? 」

『あぁ それでもええよ で何を渡すんじゃ』

「んーっとね これっ」

とエルティリエは又唇を奪う

そして、 ヌルリとしたものが彼女のから流し込まれる


けほっ っけほ と

咳き込むが体調に変化はなくなにか体内を巡っている感触に襲われる


「今ね、ティリエの”生体核ライブ・コア”の一つをおねーさまに預けたわ

これでティリエはおねーさまに生殺与奪の一つを握られたって訳

これで盟約はお終い」

とあっけらかんとしていしていた。


 この”生体核ライブ・コア”とはティリエの弁によれば

ライブ・アーティファクトの体内を巡り位置が常に移動していて本人しか

分からない三つの ”生体核ライブ・コア” の一つだという

外観は小さなヒトの脳髄そっくりで、池沼に済む水棲の不定形の

下等な魔物:魔粘液アメーバのように動き回るという

三つあるうちの一つだがこれが彼女の何を司っているのかまでは、

流石に教えてはくれなかった。


『ほう それ(生体核)とはな 見上げた”覚悟”じゃな よかろう後は好きにするがええ』

「いい気にならないで ”贄の蛇” 貴女の言うことでなティリエはシーアおねーさまの

言う事を聞くっていってるの 貴女じゃない」

と 

むーっ とむくれる。


『とりあえず寝床はどうする ヒトの寝台ならレフィキアにあるが』

「ヒトの寝台なんて 絶対いや」


 あれがいいと 

根の一部が繭状の塊になっていた空間全体をさしていた


『どうやって運ぶんじゃ これ』

とクローティアも思案に暮れていたが

{ ふふ このキルリアに任せてくれる イクリプスにこの巨木ごと

移植すればいいわ ねいいでしょ ティリエちゃん }

と声だけ聞こえてくる

確かにあの 空間なら大きさには困らないだろう

「武器のお姉さまぁ いいの? ティリエもそこ行きたい

良いでしょ? 」

と空間に向かって話しかけると

{ もちろん いいわ 先ずは全員個々から出なさいな }

と言われ

また根の繭の一部が解れて表へ出ると巨大な空間の裂け目が出来る

それは空間に縦に走る空間のひびの様である

まるでいかづちのように高い巨木の天辺まで伸びゆっくり地面を

歩く様に移動して行き裂け目に巨木ごと飲まれていった。

後には、根ごと引き抜かれたよにぽっかりと穴が空き、

最初からそこに在ったように、叢で縁が覆われた池が出現していたのである 


 これはイクリプスの特質で空間に喰われた物体オブジェクト

辺りとの齟齬が生じないようにこのように、

今まで”喰われて”きた物体オブジェクトに置き換わるという。


 この池も辺りの空間に合うようにいつかどこかでこのイクリプス

喰われきた物体オブジェクトだった。


 以来、ティリエはわたしのイクリプスに入ることが出来る

能力ちからを使って何時でも ”寝床” に戻れるのだが

わたしは生きた武器の少女達から完全には認められてはいない

当分、レフィキア内で過ごすこ事となった


 魔路パスを通じて知ったミーアの存在は

彼女ティリエのヒト嫌いで残忍な本来の性格露わにしていく

彼女の関心は早くも、ミーアをシーアを邪魔する

唾棄すべき存在ものとしてその鎌首もたげていたのである。


 「ねー? おねえさま ティリエは御本をたくさん読みたいの」

と彼女は甘えてきていた。


「えぇ いいわ

ミーア姉様のお部屋には勝手に入らないでくれれば

レフィキア内は貴女の自由にしていいけど」

と言う。


「うんっ ティリエは絵本がだいすき リーナもよく読んでくれたのよ

でもおねえさまはリーナとは違う ...けど同じ」

と腕を回し接吻を繰り返し求めて来ていた。


「そうねぇ 今は書庫代わりのレフィキアの部屋は貴女の当分の仮住まいって

ことで 此処にいるビヨンと同様のオートマトの”レヴィア”に用事を言ってくれれば

大抵の事はこなしてくれるから」

 今は、行方も生死も分からぬレフィキア 淡い金の髪に淡いアメジストの瞳

背は高く、妙齢の美人であったシアズの師匠

屋敷を異空間に、閉じ込めるに当たり

彼女レフィキア”の許可は求めなかったのであるが

いくら待っていても、帰ってくる気配はなく

シアズが大人になっても一向に姿を現さない不貞の師匠

今は、屋敷の書代わりに開放されていて

ライブ・アーティファクト達も時々、今代の知識を得るために

出入りは有るようだが彼女達はそんなことより

だらしなくお菓子や紅茶などで過ごすのが永劫とも言える

時間の大半だった。


 彼女達曰く、

「御本より、お菓子が好き」 だそうだ。



 と言うと

彼女は、今はクローティアと魔導書”クロちゃん”と別に存在可能な

”魔導書クロ”の中に入っていった。


 ただ、入っていく直前彼女は

「二人の ”生きている開架式と閉架式の迷宮書架” 

の異空間体の少女ライブ・キリル

”栞”を探して このきっと貴女も彼女も気に入ると思うけど

”栞”は神代じんだいの叡智と禁呪・禁忌の”迷宮書架”

敵対する連中に先んじて頂戴これが私:ティリエからのたった一つのお願い」

と囁いたのである。


 この世界オルティアには、ライブ・アーティファクトより更に上位の存在

生きている異空間がそのまま少女の姿になった者達がいて

安寧の場を求めているという

他にも 生きている”監獄と牢獄の少女” や生きている ”杜”生きている や”遺構”そのものが

少女の姿を取っていて

能力ちからを求める下賤げせんなヒトの迫害や好奇な目から逃れ ひっそりと

ビクビク怯えながら居るという


 彼女達は、特定の能力ちからに特化していて

その他は、ライブ・アーティファクトくらいだと言う

それでも今代でその存在自体が

この世界オルティアに棲めるモノを遥かに凌駕していると思うが。


意味深な言葉だけを残して彼女はレフィキア内に消えていった。

 

 ティリエは、くんくん匂い辿りながら書庫に入って行き

後から恐る恐る入って来た

シーアの四人のライブ・アーティファクト コトン・ラヴィア・レメテュア・フェーリア

は早速新しい”お姉さま”と情報を交換していた


 ティリエは、ライブ・アーティファクトを喰らうライブ・アーティファクトであり

同じライブ・アーティファクトでも彼女の上位種でもある


一人ずつ丁寧にティリエのパンプスに接吻をしていく

「ふふっ 可愛い達ね やはりミーアお姉さまをどうにかして

シーアお姉さまから”遠ざけなくて”は不可ないわね」


「ね? ね? そうでしょ そうでしょ? あのだけ

”成りそこない”だもの 

私達が懐かないからってひがんでばかりなんだもん

つまらないんだもん、せっかく残忍な性根があってもそれ”生かしきれていないだもん”

だからつまんない」

と口を揃えて言う。


 ティリエは、シーアが例え見逃した敵対者でも”気分”次第で

見えない所で制裁を容赦ない処断を下す

そんな残忍な性根であり、


「お優しいのはシーアおねーさまだけでいいの

他はそんなのいらない おねーさまが出来ないことをやれてこそ

”冥闇の獣”の眷族たる我らの役目であり従属する意義でもあるの」

とティリエは言い放った。

「ねー そうだよね なのに温和しくメイドごっこしてる

ミーアは赦せないよねー」

とまた 全員で口を揃えて言う。


 扉をノックもせず自在に動かせる髪で錠を難無く開ける

ティリエ寝台で毛布を被り何やらごそごそやって居る

ミーアの元へニヤニヤしながら近づいていった


 そしていきなり毛布を剥ぎ取るとネグリジェ姿で股に、シアズを頭蓋をあてがい

慰撫行為をしているケット族の姿があった


......  ッッ!?


 自分だけの悦楽中のこれである

言葉など出ようもない。


「へぇ 貴女こんな事してるんだぁ〜 あぁそのままでいいわぁ

わたし、ティリエはティリエよ たった今さぁ シーアねーさまの眷族になったの

でさ、ちょっとご挨拶ってわけね いやしくて大嫌いな同居人のおねーさまにね」

とのっけから辛辣な挨拶となった。


「いやーっ これは誰にも渡さない 渡さないッ!! 」

と慰撫行為もそっちのけで頭蓋を抱えるミーア


「あはっ だから言ったじゃない 何もしないって

でもさ貴女 シーアおねーさまを憎んでるでしょ? 」

この時明らかな狼狽の顔色を見せるミーア

「あ・た・り ってね 分かり易いわぁ 

でもいいのよ憎んもさ 私達みたいにさぁ

どれほど焦がれて やっとやっと見つけた盟主と違ってさ

貴女さ、死人に懸想した単なるメイドだもん

つまんない あーつまんない

それで、シーアおねーさまの”おねーさま”気取りって

一番大嫌い しかも、醜い女の嫉妬かやっかみって 嫌よね

どうして 盟主シーア様を嫌うのかなぁ?

理解出来ないわね

あぁ ティリエの大好きなシーお姉さまぁ」

とシーアから貰ったワンピースドレスの開いた胸元の淡いピンクの筋を


くちゅり と弄り始めた。


 女のしるしのようなそれは湿った音を立てて少し開いて

魚の骨のような細く針のような牙? がずらりと見えるそれを

自身の指で更に弄る


この時、初めてミーアは慰撫行為どころでなく

今までの少女とは明らかに”違う”と確信して

小水をだらしなく漏らした。


「そんなに こティリエが怖いの? 

シーアお姉さまはこれも素敵って弄ってくれたのにね

今のではっきりしたわ、ライブ・アーティファクト達が絶対懐かないわけ

そんなんじゃこれからも、おねーさまに縋る私達のような存在に

ずっと嫌われるってのに」


ここで

「だってっ! 貴女達って怖いんだもん どうしても怖いのは怖いの!

だって 私はあのとは違う! 」

「へぇ おねーさまを”あの”呼ばわりって

すぐにでもさ 喰っちゃっていいけどぉ 

今はお腹一杯だから、喰べないでおいてあげる

でも 今度シーおねーさまを ”あの”呼ばわりしたら

二度は無いわ これだけは覚えておいて」

と少し開いた裂け口の牙をガチリと鳴らした。

「それから 貴女の嫉妬と憎しみに満ちた、嫌なお部屋にも二度と勝手には入って来ないから

安心して慰撫行為でも好きになさい」

とドヤ顔で睥睨するティリエ。


「貴女には憎しみってないの? 」

とつい言葉を滑らすミーア


 途端にシュルリと首に巻き付くティリエの髪

「それが シーおねーさまに対する質問だったら 今この場で

胴体と首が別れる事になるけど? 

今の今でまさか、そんな愚問は出てこないよね

いい? ティリエはねー ヒトがだーーぃっきらい 

ぜーったい、ぜーったい、だーーぃっきらいなの大好きなのは

シーおねーさまだけよ よく覚えておいてね このクソネコッ! 」

と罵倒されるも、ぎゅうと少し膂力を込められてすぐに開放される

 

「それとお菓子と紅茶とおカネを頂戴? 

魔導のちっちゃいレヴィアに少ししかもらえなかったの」

とこの時ばかりは甘え声でおねだりをするティリエ。


 ミーアはネグリジェのまま、お菓子箱とおカネを渡し

紅茶は後で書庫に持って行かせると約束して

ようやく、ミーアは緊張感から開放されたのであり

別れ際に

「おねーさまを慕う達には気難しすぎて

貴女ような女には、一言も口を聞いてくれないもいるからね」

と念を押される。


 これ以降は、五人ともレフィキア内での活動は

”通常”に戻ったが、ミーアは少ずつ心が壊れ初めていく

「ちょっと待って」

辛うじてミーアはこの言葉を発した


「まだ、何? 」

ティリエはは振り向きもせず乱暴な言葉を返したが

剣呑な気配は纏ってはいない。


「どうして貴女達はシーちゃんをそんなに慕うの? 」

こればかりはどうしても聞いておきたかったたった一つのことだった


「どうしてって決まってるじゃない シーおねえさまのうんと昔ね

大事なヒトの遠い遠い血脈に繋がっているから、

 

 それからね、”冥闇の獣”が怖いからよ

 ”シーお姉さまを本気で怒らせるにはいかないもの” と

私達でさえ十分に理解しているから、だから庇護して貰うの

それにクソヒト共と違って戦いを強要しないもん

それだけよ アナタには、これが理解できるのかしらね

シーおねえさまを心底慕って永劫の眷族になるこの誉れがね」

と声は既に上ずっていて慈愛と懸想の念にあふれていた


...... 。


 あぁ いっそシーアに盲従出来たらどんなに幸せだったことか

でも、ミーアの生来の”女”の部分がそれを頑に拒んでいて受け入れる余裕は持ち合わせて

居なかった、でもそれがミーアの器の限界でもあったのだ。


 理解したような理解出来ていないような曖昧な表情で

ティリエの後ろ姿を見送るミーア

そしてこれが彼女ティリエがミーアの部屋を”勝手に”訪れた最初で最後となった。

 

「おっ シーアじゃねえか? ん? たしか此処にはでっけぇ樹があったと思ったんだが

オレの検討違いか? 」

いきなり声を掛けたのはケインズ大規模討伐隊レイド頭目リーダーそのヒトだった。


「あぁ 気にすんな 言わなくていい 御前さんが何かしでかしたのはしっている

一部始終ではないが見ちまったモンでな」

としたり顔。


 わたしは、思わず身構える

「おっと よしてくんな、見たのはオレだけだ他の連中は、それぞれ探索中でな

これはオレの単独行動だよ

何も説明してくんなよ 説明されてしまうとオメェさんにとっても

オレ自身にとってもどでかいコトに足を双方共突っ込む上に

おめぇさんにはオレが余計な足手纏いになってしまう

それは互いに”利”を生まんだろ な? 」

ケインズは、ごつい顔をちょっとおさなげに曇らせていた

彼の言うことはもっともであった。


 わたしの問題に彼を引き入れる事もこの場では容易ではある

全てを話してクローティアの黒薔薇の紋章を刻み

従僕と沈黙を誓わせればそれでいい


 だが、彼がそれを望んでは居ないことは今の発言からも痛いほど察せられた

「沈黙を守ると言うなら、何もしないわ」

と答えると

「あぁそれぐらい約束なら簡単だ皆には黙っておくとしよう

話しは変わるが 仕掛けの目処めどはついたかい? 」

先の水を引かさない限り 眼前の”塔”への攻略は出来ないであろう

巨大な水塊という自然の力は、一介の魔物やホムンクルスがどうにか出来る

相手ではなかった 冥闇の獣ですらその自然のことわりの下で

どうにか生きている、彼女ですら能力ちからふるえば必ず

自身に返ってくる それが自然の力でありことわりでもあった。


 わたしのまもりに従いている古代浮遊魚の能力ちからなら

水中での移動は容易いことはこの地に着いたその特

理解はしていたが 彼らが護るのはあくまで”わたし”だけであり

他の、冒険者には敵対こそしないものの、

仲間とも庇護対象とも絶対にみなしてはくれない

彼ら古代浮遊魚達は、シーアという少女のためだけの存在だからだ。


「まだ何も」

「そうか 俺達はまたあの塔の近くで天幕を張る

せっかく此処まで来たんだ

何昼夜も攻略地に居座るのは数多あまたの冒険でも慣れっこだし

幸いここいらには、たくさん”食糧”がわんさかいるしな

死にはしまいよ」

とあっけらかんと構えていた。


 確かに外界とは違う猪に似た獣、走鳥そうちょうなどがいる上

大樹には甘い匂いの果物までたくさん実っている


 娯楽こそないもののここできょを構えたくなるほど豊かであり

餓え凌ぐには余り有る程でもあった。


 通常の”探索”や”攻略”は常に食糧との駆け引きであり

引き際の見極めや撤退の落とし所でもあるというのに

ここではその一つは完全に解消されていた。


 その時、わたしは急激に視界が冥くなって意識を失った

クローティアとビヨン・ケインズの慌てふためく声を遠くに聞きながら

意識の底へ沈んでいった。


{ちと 無理しすぎたようじゃのぅ シーアよ}

聞き覚えのある声は内なる”冥闇の獣”クレアーティアだった

{案ずるではない ただの疲労じゃよ あの裂け口の小娘は

ライブ・アーティファクトの小娘より位階が上の存在

マギをたんまり持っていかれたな

初回の盟約時にあれだけマギを要求する小娘は妾も初めてじゃの}

「クレア そんなこと言いに来たわけじゃないでしょ? 」

こうやや剣呑な口調をにじませ応える。


 意識下で物見遊山な獣が瑣末な事を

わざわざ言いたくて意識を”無理矢理”奪ったのだとしたら

酔狂にも程がある。


{あはは 隠し事は出来んか お前に従いている ケット族の娘の

様子がおかしい事に気付いておるか? }

最近は、躰の調子が思わしくないとの事で

大半をレフィキア内で過ごしているミーア

「躰の具合が悪いとは聞いているけど? 」

{ふふふっ お主は本当は気付いておるだろ

彼奴あやつ)のまなこに狂気がくすぶっておることぐらい}


...... 。


 ギアトレス入りするベルゼのネグリールに滞在していた

時からミーアのまなこに狂気が見え隠れしたのは

実はなんとなく理解していた

 それでも、一行パーティーの調和を乱すまでには至らず

黙認していたのも事実である。

{沈黙はということは 理解はしておるな? }

重ねて問う言葉に首肯で答える。


{今はまだ っておるようじゃが ”溢れた”時はお前が

永劫に背負う厄介なかせが課せられるやも知れぬ

今からでも遅くはない

彼奴から宿り木の種を取り去り、あとは捨て置くがよかろ}


かせ? 」

{あぁ そうじゃともいつ溢れるやも知れぬヒトの尽きることのない狂気

欺瞞、怨嗟 ちょっとした切っ掛けでヒトは容易く瓦解するものよ

そして、尚悪い事に”底”がない}

「それは、わたしもでは? 」


{ ...... 。 }


 元ヒトであるわたしも同じではないのか何故、”クレア”は

シーア(わたし)も、とは言及しなかったのか? 

その意味するところは、とうとう最後まで”クレア”から聞く事は出来なかった


 獣らしい合理的な思考にわたしは

「だめっ ミーお姉さまがおかしいのは知っている

今のわたしを見る視線が女の嫉妬のそれだとも気付いている

でも、今はだめっ ミーアから何も聞いていないし

話してもくれない でも今はだめ 

いくらクレアがどうこうしようたって 絶対ダメっ!! 」

重ねてクレアの言葉を否定するわたし。


 今は、朧げな”シアズ”の記憶の中のミーアは

いつも優しく時におカネの使い方に厳しかった

でもかけがえのない身内もある

異種族で子は成せ無くとも でもだ。


{存外、頑固なトコもあるの ふふふ お前がはっきりと

嘆願し否定したのは お主の意思と捉えるが良いな? 

我が現身うつしみよ}


はっきりと首肯。


{そうか それなら近い内にヤツの狂気が溢れたその時は

妾の本当の獣の姿できつい仕置きをしても良いかの? 

あぁ、生命までは奪わん ただ 以後そのような嫉妬なとど

下賤げせんな感情すら沸かなく程の仕置きと躾をくれてやるだけじゃよ

それでも、我が現身うつしみたるお主に悪意を持って敵対するなら

その時は}


「その時は? 」

{全身を千々にし 魂をも喰らい輪廻の輪にすら入らせぬ

それでも良いというなら 今は成行なりゆきに任せようとするかの}

と穏やかな口調に戻る

「ありがとう クレア 猶予をくれて」

{猶予も何も お前自身の事だろうが 

阿呆の如く、流されているお主を見ておれんかっただけじゃ

でも、妾の言葉は本当じゃぞ良いな警告はしたからな}

とクレアはまた意識下に引っ込んでいく。


 ミーアの問題は近い内に必ず起こる

出来れば起こらないで欲しい

でもこういった勘は悔しい事に外れた事がない。


 わたしは、どうしたものかと考えあぐねている内に意識から浮上した。


......ア 

...ア 

シーア


優しい声

何処か懐かしい声 

包み込むような声

そして力強い


[ シーア 大丈夫ですか? 生命に別状は有りませんが

冥脈めいみゃくが乱れています

マギの流れがこれほど乱れるとは、どうしたのです? ]

まなこに薄赤の紋章を浮かべるビヨン


 冥脈めいみゃくは異世界人である渡り人を除く

この世界オルティアの生けとし生ける者全てに

ある血管とは別に体表面に走っている経絡けいらくであり

マギの源流でもある。

 種族固有の大まかな類型パターンに分けられ更に個々人でそれが

微妙に脚色アレンジ)されそれがマギ行使の能力差ともなっている

それが乱れているという


 偏頭痛や耳鳴などちょっとした変調はこの冥脈の乱れから来る

非道いと術行使の死活にも関わる重要な要素でもあった


 ビヨンはオートマトながらこの”冥脈”を視る能力ちからを備えていたのである

「中のヒト(クレア)とお話してたの」

こう今のわたしには答えるしかなく

[ そうでしたか ”クレア” とシーアである貴女の統合が近いと診ています

強大なマギの行使は またこのような乱れを生みかねません 控えた方がよろしいかと ] 

「 えぇ 」

空返事からへんじ

『ビヨン それ以上の詮索はよせ』

とクローティアが会話を挟む

[ クローティアがそううなら ]

とビヨンは会話に蓋をされたような形でそのまま沈黙した


 シーアが倒れた直後

クローティアはシーアから溢れんばかりの膨大な”マギ”を感じ慌てて

それを吸収していた。

贄のクローティアですら味わったことのない上質で禍々しいマギ。


 存在自体が次第に薄れ行く自身をつ以外に

なぜクローティアはシーアに引っ付いているのか

それは贄のクローティアに第二の目的が在ったからである。


 即ち、この溢れんばかりの上質で禍々しいマギを 常に適量に保つために

”安全弁”の役目も在ったのだ

シーアの髪から吸収されたマギは、どうやら彼女の胎内の子宮で上質のマギに精錬されているらしい

無意識に振りまくマギに、少しでもおこぼれに預かろうと悪意は寄って来易い


 溢れそうになっているそれを吸うことで

適量に保つと同時にクローティア自身の存在も維持する事が可能である

正に共利共生の関係っだったのだ


 それが乱れるということは、彼女シーアの中で何が起こっていたのか

クローティアはそれ以上の思考を放棄した。


 幸い意識が覚めた彼女シーアにはやや疲れが見えかくれしていたが

”大きな”変化はないようである

クローティアは改めてこのシーアの異常な適応力と環境順応性に

自身クローティアが存在を自覚してから”初めて”恐怖した。


 

 近場の天幕で

ソーヤとニースは

「なぁ アニキ ”英雄”とか”勇者”ってこの世界オルティアにいるのかな? 」

「何だ 突然そんなお伽話 ガキじゃあるまいし」

「お伽話? 」

ソーヤはこの世界オルティアに転移してきた”渡り人”である

ソーヤの目線で言えば此処オルティアが異世界だが、

彼らニース達目線でいえばソーヤこそが異世界人ということになる

そして、今の主体はこの世界オルティアであり、ソーヤは異世界人ということになる。


 ”英雄”とか”勇者”はソーヤの世界チキュウセカイでは

竜や邪悪な魔法使い、はたまた巨大な世界の陰謀に否応無く巻き込まれ

たった一人の少女ヒロインをそれら悪意から遠ざける というのが

王道であり定番の英雄譚の類型である

それらが”現実リアル”となっているこの世界オルティアでも

”お伽話” 扱いされている ”英雄”や”勇者”とはどんなのか

一度聞いてみたかったのだ。


「あぁ 俺等が”英雄”とか”勇者”って認めるヤツはな」

と一旦もったいぶってわざと間を空けるニース


「巨大な有翼魔人が率える幾千、幾万の魔族相手に” 単騎”で口上を垂れ流し

自らの存在をわざと明け透けにし粗末な革鎧や胸当て、粗末な剣一振りのみ

そして討伐の翌朝には全て抹殺して尚、疵一つ負わない。


 そんなヤツの事を言うんだよ 此処オルティアじゃな

でも現実リアルはそうじゃねぇことは、テメェ自身がよーくその身を持って知っているだろ

因みに男女は関係ねぇ 女でも剣士や戦士はいるし男でも治癒役ヒーラー

ゴマンといる まぁ何れにせよ、そんなヤツはどう転んだって居ねぇってこと

だから ”お伽話” ってこと

お前が本気でそれを目指しているなら

オレはもう一度徹底的に腐った性根を叩くところだが

既にお前も躰中に、くんしょうをこしらえているだろ

その時点で テメェは もう ”英雄” や ”勇者” って言わねぇ

でもよ、そんなお伽話の ”英雄” や ”勇者” って連中より

ずっと、テメェのほうが、 ”英雄” や ”勇者” らしくないか

オレは、お前の方がカッコイイ生き方って思うけどな」

と長い独白めいた言葉を締めくくる。


「ごめん、つい気になって聞いてしまって

ただ此処オルティアでの扱いはどんなんか興味あってさ」

ソーヤは聞いてはいけないことを

無遠慮に聞いた居心地の悪さを感じていた。


「いいってことよ それに謝る必要性もないけどな

ほんと渡り人って変わってらぁ


 でもよ、これ真っ先にオレに聞いて正解だったな

ケインズや他の冒険者連中なら、物も言わさねぇうちに拳が顔面に飛んできても

おかしか無いからな まぁオレもオメェが渡り人じゃなかったらそうしてたからな

全く”運”のイイヤツだぜ」


 ソーヤは何を感じたか遠くでオートマトに膝枕されている

七色に輝く髪の少女を見つめていた。


「まぁともかくだ 俺達は俺達なりでねぇし

此処は、主催シーアに任せようや

今は、十分に鋭気を養っておけ こういうときこそ休息は大事だぜ」

と自分にも理由付かせるように言っていたが

と隣で聞いていたナリアに横腹を肘でど突かれていた


「アンタはいつもそう言って休養ばっか取ろうとするんだから

少しはソーヤの稽古の相手でもしてやんな

大の男二人が傍に居りゃさ、むさ苦しいったらありゃしない」

と愚痴をこぼすも目はもちろん本気ではなく

むしろ本当にニースの躰を気遣う慈愛も同時に満ちていた。


 ほううのていで、体良ていよく天幕を追い出された

ソーヤの剣戟音とニースの大盾がぶつかる音が聞こえてきたのはそれから間もなくだった。


 ナリアは二人が出て行った後、下腹部の辺りを愛おしそうに擦る

彼女の胎内には芽生えたばかりのニースとの新しい生命が既に宿っていた


 ニース内緒でいつ流産しても可笑しくない

この危険な大規模討伐隊レイドに参加していたのである。

 

 これにはナリアなりの矜持もあった

お腹の仔と自身が生命いのちある内に、ようと知れない経験出来るか出来無いか絶好の

機会を一緒に切り抜けたいと、救護院で小さな小さな生命の存在を知ったその時

覚悟を決めたのである。


 非道い母親だと術士の素材屋に仔を宿す度、堕胎して売り渡す親も多数いる中

ナリアはそんな非道さを軽く押しつぶす程の

類まれな高潔な精神の持ち主だった。


 別の見方をすればナリアも、新しい母体の庇護無しには生きていくこともままならない

そん小さな生命を抱えてわざわざ危険な死地に飛び込む非道さも

十分ナリアは承知の上で例え両手・両足が無くなっても絶対に守り抜くと

女神リーンに誓ったのである


豪放磊落ごうほうらいらくな性格と気質が多いウル族は多くは

戦神アグストの信奉者が大半を占める中彼女は数少ない豊穣神リーンの信奉者だった

夫のニースは典型的な戦神アグストの信奉者だったがそれで喧嘩をしたことは一度もない

信奉する神は例え夫婦間でも同じとは限らない

戦神アグストも、女神リーンから産れた神である事を知っているからである


 剣戟音混じる中、ニースとソーヤは稽古に打ち込んでいた

戦士のニース、剣士のソーヤにとってじっとしているのは

やはり性分には合わない 異世界人でもあるソーヤにとって”実際”に武器を思い切り

振れる機会は一生ににも無い事である。


 彼の時代では全てが仮想世界ヴァーチャル・ゲーム内での体験ですらでしか無く

所持ともなると面倒な法的手続きを踏むという段階を踏まねばならなかった。

それに実際に生命を奪う目的に使うともなれば手に触れることすら叶わない。


 それが今はこうして、堂々と得物を振れて自分に向かう悪意を

これで切り伏せたとしても、お咎めなどあろうはずがない。


 やや凡庸ぼんようで平坦な生活に刺激を求め、仮想遊戯ヴァーチャル・ゲーム

身を置いていたのが今は実際の異世界にいてこうして(ソーヤ視点で)異世界人のニース

と剣を交えていた

 やや危険な世界オルティアではあったが。


「なぁ 聞いてくれよ」

珍しくニースから声を掛けて来て少し、ソーヤに隙が生まれそこを大剣に見立てた

木の棒で軽く小突かれ少し蹣跚よろけるソーヤ

「こうして テメェを揺さぶる腹芸で搦手からめての上手い持ち主も居る

無言で襲って来る方が稀だ、特に知性ある魔族連中や無頼漢ゴロツキ共には

用心するこった

オレは搦手連中は苦手だが、でも手は休めねぇな っと

いまは指南もそうだが、本当に聞いてもらいことがあってな

稽古の手は休めないで聞いてくれ」

ややニヤケ顔のニース。


 豪放磊落ごうほうらいらくなウル族とも思えないだらしない顔を隠せないでいた

「なんだよ アニキ ニヤケ顔で」

「もうすぐお前もアニキになるんだよ」

「は? 」

唐突な彼の言葉に最初はそれしか言葉が出来なかった

もし、ソーヤに下の弟や妹が居たならこの科白で思う所があったはずだ。


「ん 「は? 」 って? 言葉の通りだよアイツの腹ン中によ

俺達の仔が居るんだぜ ナリア(アイツ)はオレに気遣って隠して居るようだが

ちゃんと分るんだよな 出産はまだ先の話だがないずれお前は”アニキ”になるのは

確実だぜ」

「おめでとう そのアニキが知っているというのはナリアさん知っているんすか? 」

ソーヤも今度は手を休めずニースの相手をする。


「多分、大雑把なオレの事だから知らないとでも思って居るんだろうさ

今は、まずはこの局面をどうしても生き残ることが先決だし

お互いに気を遣いたくねぇ けどよオレがどうなってもいいがアイツには

是が非でも生き残って貰わねばならん


で ...そこでだ、もしオレが命運尽きたその暁に、オレの事を色々アイツの仔 いや俺達の仔に

話してやっちゃくれねぇかな 簡単には魂を散らさないようにはしてぇが

世の中が世の中だ誰も担保はできねぇ

オレよりお前はまだ若いし、多少は躰の無理も利く

この大規模討伐隊レイドに参加した以上、手抜きや妥協は赦されん

皆を護る楯役タンクとしての矜持もある

だから、たのむぜ」

ニースのこの言葉はあまりに重かった。


「時に、テメェには好きな女はいるか? 」

と話しを向けられ思わずシーア(クレア)の方を見てしまうソーヤ

「あぁそうか 知っちゃいたが アイツに懸想はよした方がいい

誤解すんなよ、アイツはとてもお前が全てを受け止めきれねぇ程の

宿命をすでに持っちまっている

お前には絶対無理だぜ、アイツの伴侶は

懸想すんのはお前の自由だが所帯となるとその感情だけではどうにもならんこともある

悪い事は言わねぇ、同じヒム族の女か”渡り人”の女にしろ」

ソーヤはこの世界オルティアに転移されてから、前々から

同じ国出身の”渡り人”の噂を聞いた事があった

過去にも”渡り人”がいてこの世界オルティアの物事を示す単語も

似た語呂合いがすでに単語としてある


 甘藷サーツ芋・アープル(りんご)の実・オーレジ (オレンジ)など

語呂で連想しやすい物も多い

この世界オルティアでは芋は全て甘藷サーツ芋か、馬鈴薯ジァーカ芋の二種であり

細かい名など無く こまかい品種名などは存在しない

柑橘系も檸檬レーモンとオーレジ (オレンジ)の二種で事足りていたのである


 この世界オルティア動植物・無生物全てに言えることだが

有名処しか通り名は無くあとは全て”名無し”である


「うん 考えておくよ」

とは言ったてはみたものの ニースの惚気話しの手前、せっかくの雰囲気を壊したくない

かなり生返事で答えた。


「あはは 解ればばいいさ さぁメシ時までもう一汗ながして

そこらで沐浴してそれからメシにしようや」

とそれから暫く剣戟の音は止むことが無かった。


 宿命は、運命さだめられたものだが、運命はどう転ぶか誰にもわからない

それは、残酷なほど万物に等しく賽の目が投げられる

ソーヤ・ニース・ナリアそしてお腹の仔にも。


 わたしは、遠くに剣戟音を聞いて意識が急激に覚醒するのを感じていた

『あぁ心配するでない ウル族の楯役タンクとその一行パーティーの剣士が

稽古をしておるんじゃよ 全くゲンキンなヤツラじゃて

こんなときこそ、休息すれば良いものを無駄に体力だけはあるのう

でも中々感心な事でもある お主も剣の稽古はどうした

この儂には稽古をしているようには見えんがの』


 いつぞやの蛇腹剣は手入れはしているものの

それ以上に振る気はなくおざなりになっていた

この有り様では、あのドラコ族から認められるのは当分先のことになるだろうと

ぼんやりとそんな事を思っていた


 体調はやや朦朧するが特に気怠いことはない

ただ 盟約時あのティリエにたんまりとマギを持っていかれて未だ本調子では無かった

エルティリエはライブ・アーティファクトを喰らうライブ・アーティファクトで

自身でも ”貪食のエルティリエよ” と言ってたっけ、と今更のように思い出していていた


 マギを喰われたのは最初だけで今の魔路パスの太さは

他の盟約を果した達と変わりは無く

余程、餓えて居たのだろうという事で

納得はしたものの今代は彼女の餌となるライブ・アーティファクトの現存は確認出来ていない

既に盟約している四人のライブ・アーティファクト達は既に彼女の

”餌”ではなくすでに同類の存在として認知されている。


これからどうやって彼女の”餓え”を満たしてやろうかと考えていた時


[ シーア(クレア)あの塔の水塊の排水方法がやっと解読出来ました

何分アルカーナの深い情報の階層に巧みに料理のレシピとして偽装されていました ]


 ピンクの紋章が消えたビヨンは体内を巡る水銀の音が膝枕でもはっきり聞き取れる

位大きかった。


『でかした ビヨン してその結果は? 』

コホンと軽く咳払い

オートマトなのに彼女は”焦らす”ことを知っているらしい


[ あの台座ですよ 寄生木やどりぎの根本に解除する宝珠が有るらしいです

それにはミーアの寄生木を操る能力ちからがどうしても必要です

ミーアの寄生木の種の能力ちからが ]

「わたしが ミー ...を」

『あー 待て待て儂が説得する お主は此処で待っとれ』

言葉をクローティアが挟んだのはなんとなく理解できていた


 今体調が悪いとは言っているが、わたしへの嫉妬が我慢できなくなっていて

激く揺れているのだと


程なく話しが付いたのだろう

やや仄暗い嫉妬の光を目に宿しながらも

表情はいつも言葉もいつものミーアがメイド服風のエプロンワンピース姿で

地面の陣から出てくる


「今は、ごめんなさい とだけしか言えないの」

とその一言だけしかわたしには言葉を向けてはくれなかった

なにやらクローティアと二言三言ふたことみこと交わし

くだんの場所へ

巨大な大樹のうろから生えたこれも立派な寄生木


その前に佇むミーア


〽翠にいだかれし

〽蒼きくらきもの

〽混沌の泉より今還りし


詠のような呪文のような不思議な語感の三行詩


「あれ? これなんでだろ知らない呪文なのに」

唐突な呪文に戸惑うミーア

『やはり知らなんだか たぶんこの寄生木の種がお主の心の臓にある種と

同じものじゃろうて おそらく感応したのじゃろ』


ミーアの胸元が翠の淡い燐光が光りそれが糸のように巨大な寄生木を幾筋も

絡め取っていきずるりと寄生している根本が蠢き

やがてうろが露わになる

 

 そこにあったのはギルドカードよりは二回りほど大きな

長方形の半透明の薄い翠色のカードであり

表面一面にびっしりと蒼い幾何学文様が刻まれていた

これは蒼き深き者(ノーアの民)の姫巫女たるリーアの重要な祭祀施設への

鍵であり神代の今は眠っている遺物の主鍵マスターキーである

これは鍵穴に呼応して”鍵”の形が自在に変化する

 今はカード状だがときには玉、六角柱、多面体、棒状と

相手の錠に応じて変化し重要な祭祀施設や設備や機能などの

起動に使用される


ミーアが取ろうとして激しく青白く細かいいかづちが走る

『お主が取ってみるがよかろ これは持ち主を選ぶのかも知れぬ』

ためらっていると

『はよせんか いかづちがこわいといっても死にはせんよ 多分』

と無責任な言葉


わたしは ままよ とばかりにふれそれを手に取った

それは薄く軽くガラスのような質感でとても硬く感じられる


手に取った瞬間、幾何学文様に青白い光が走る


[ アタラナ マスター ヲ カクニン アナタ ヲ

(新たなマスターを確認 貴女を)


ノーア ノ ケツミャク ト カクニン イゴ ショユウケン ハ

(ノーアの血脈と確認、以後所有権は)


スベテ アラタナ マスター ニ イコウ ノーア ノ エイチ ハ

(全て新たなマスターに移行、ノーアの叡智は)

アナタ ト トモニ ]

(貴女と共に)


 安物のオートマトのようなぎこちない聞きなれない音声は

一旦神代の言葉から古代語そして今代の共通言語へと翻訳されているからだろう

[ ワレ ハ チセイ ヲ モツ カギ ナリ ワレ ヲ ダイザ ニ

(我は知性を持つ鍵也 我を台座に)

サシイレヨ ]

(挿し入れよ)

と音声が言う


この付近で台座は一つしか無い

水没した尖塔の台座にはカードを差し入れる隙間がよくよく観るとあって

わたしはためらいなくカードを差し入れる

すると台座中央がゆっくりと左右に開いた。


 そしてレバーを押し下げ役割を終えたカードは消える事無く

わたしの蒼い一房の髪と一体化し真っ直ぐだった一房の髪は

全体が波打って毛先がくるりくるりとカールし見た目が大きく変化し完全に同化し

これ時以来聞きなれない音声を聞くことは無かった



 そしてこれ以降この波打って毛先がくるりくるりとカールした一房の髪は、

情報収集に加え眠った神代のノーアの叡智を紐解き

機能を起動させる万能鍵の役割をも担うこととなるのである


 凄まじい水音とともに多量の水塊が排水されていく

本来の用途は伺い知れなかったが

わたしにはどうしてもこの仕組みが”この為”に予め準備され仕掛けられていたとしか

思えなかったのは、クローティアの意味深な表情を見ても明白だった。


 というのも

『ふん 準備のいいことじゃ が、これくらいの機微が御前さん達にも

あったなら 自ら”亡び”に向かわんでも良かったじゃろうに

でもな 御前達の叡智は今こうして新たな者に引き継がれた

安心して今はゆっくり眠るがええ』


 と独白を聞いてしまったから

あるいはクローティアはわざと聞こえるように独白したのかも知れない


「おぉー すげー おぃ! 皆起きろ 事態が動いた

準備だ 準備ッ!! 」

慌ただしく動く大規模討伐隊レイド


 この時、ベルゼ浮遊大陸直下のタフタル大陸の随一の大盆地で、

タフタル辺境の人跡未踏の地、ベルゼが過去タフタル大陸から離れた結果出来た盆地

アギオス大盆地に、未曽有の”大雨”が三日三晩に渡り大量の

古代水棲魔物とともに降り続けたという。


 幸い極少数の冒険者の犠牲は在ったものの

アギオス大盆地は、人跡未踏の地では最小限で済みはしたものの

以後この大雨は ”アギオスの大災厄雨(あぎおす の だいさいやくう)” として

要らぬ尾鰭がついて人々に広まることとなった


 これを尾鰭を付け広めたのは、ヒム族の一派

キーリ派である。


 ヒム族でも魔族を信奉する特異な一派で、

常に如何に自分達を少数で、か弱い被害者一派かをでっちあげ世間に訴え、

世論を誘導し自分達に味方につけるかに

心血を注ぐ陰湿極まりない一派である。


 そうしてまんまと彼らの煽動に誘導された哀れな世間知らずは彼らの信奉する魔族に

有るときは贄、またあるときは彼らの餌、そしてあるときは実験体として

提供されるのである


今代は大きな戦も厄災も無く自分達を哀れな被害者に仕立てる材料ネタ切れ気味だった

ところにまさに、降って湧いたようなこの人跡未踏の盆地の大雨は

彼らに格好の材料ネタを提供したのである。



 実際は小規模な討伐隊レイド数名が、大雨による氾濫と古代水棲魔物の犠牲に

なっただけで、危ないところには決して近寄らない

狡猾で日和見なキーリ派の連中にはだたの一人とも被害はでていないというのにである。

がもちろんシーア(クレア)の知るところでは

なかった。


ヒトは簡単に、自分に都合の悪い真実を隠し都合の良い嘘を信じまたそうであると観望する


 彼らキーリ派の嘘は巧みに心理に潜り込み浸蝕する

生死が理不尽に魔物や人外に奪われるこの世界オルティア

やり場のない怒りや悲しみをこういった一派に重ねて支持する連中もまた

それなりにいるのも宗教国家タフタル大陸の特長でもあった


 王制のオルティア大陸と、宗教の名を借りて多様な思想集団が混沌とするタフタル大陸

同じ ”竜の瞳” 一行パーティーでも思想はまるで違う

それでもそれなりに民がいて国家を形成している

それがここオルティアというセカイだった。



 水位が下がり一定のところまで排水? は治まったようである

つい先程まで水中にあった本来の入り口は今や完全に

シーア(クレア)や大規模討伐隊レイドを迎え入れようとその

苔や藻で覆われた生臭い空間を露わにして


 開いた台座のレバーは掻き消えて細い手摺も無い階段がシーア(クレア)達

を誘っていた


「おっと 依頼人は隊列の中だ 先頭は俺達 楯役タンクの役目だ

まぁ アンタは特別に俺達楯役タンクのすぐ後でもいいぜ

シーア(クレア) 本当は興味あんだろこういうの? 」

とケインズ


 わたしの好奇心が顔に出ていたらしい

あまり活発に動く方ではないもののそこはやはり昔、男であった名残が隠せない

未知の空間への好奇心は例え躰と心が少女になっても変わらなかった

「お前、顔に似合わずお転婆なのな それと髪変えたろ」

とゆっくり蠢く一房の髪

やんわり波打ち毛先はくるりと巻いている

「まぁ おっかねぇのは違いないが”害”はないよな」

軽く首肯


 さすがケインズ楯役タンクでも大規模討伐隊レイドの頭目を張るだけの事はある

観察すべきところはちゃんと観察していた。


「まぁいいだろ 実害がなきゃオレはどうでもいいからな」

と仏頂面だったが声のわずかな震えは隠し切れていなかった。


 皆一斉にだらけた雰囲気から一変空気が引き締まる

ニース達も一行パーティーが集まる

ニースとソーヤを迎えに来たサリも

「ニースさん ソーヤ君皆準備出来てますぅ はやくって ナリアさんがー」

と見た目通りのおっとりした少女を装っていた が

ソーヤの耳元で

「いいか クソ子僧 このオレをあまり煩わせるなよ 

クソでっけぇヘマしたら こんどこそオレはテメェを見捨てるかんな

よくその粗末な男のしるしに言い聞かせておけよ ...ですぅ」

と最後だけ 可愛い少女の声だったがあとははソーヤより

男性的でゲスな声音だった


 突然の違和感におろおろしていると

「ん? どうしたのかな ソーヤ君 サリに何か付いてますぅ? 」

「んあ いや何もただ」

「タダ? どうしたのかな? 」と

声音はいつもの蕩けるよな声音。

「ご ...なんでもない 皆のところへ」

首を傾げながらも、今は事態が動いた事の方がソーヤの大半を支配してしまい

サリの言葉の違和感は片隅に既に追いやられていた。


「ニースさん 皆さんがお待ちですぅ」

「おぅ 今行く オメェは視察団を見てやってくれ

治癒役ヒーラーの空きはケインズんトコから一人借りるんでな」

「はいですぅ」

とにっこり笑顔のサリはいつも通りだったが

リンゼの処に向かう途中

「はっ アイツはやはり莫迦で阿呆だぜ こんなにも”男”を丸出しにしても

オレを女だと思ってやがる 顔ばっか気にしやがって阿呆これに極まれりってか」

と顔を醜く歪めて下品に舌舐めずりした。


 実は先程ソーヤに囁いたときわざとしるしを股間から九割飛び出させて

ワンピースのスカートには少女にはあってなならない違和感があったのだが

ソーヤはサリの顔ばかり見ていて下には目すら向けて居ない

彼にもう少し観察眼と目の前の少女は女であるという概念を覆す機微があれば

サリの正体を看破出来たかもしれない

それを知っていて看破されない絶対の確信を持ってでわざとサリは、ソーヤを試したのである。


「我輩達も行こうか  ドラン」

{おぅ 行くとしようぜ 最後に携帯食一齧りさせてくれよ}

「相変わらず ゲンキンだな 一齧りな」


ニラウス謹製の携帯食、茹でた卵黄の蜂蜜漬けと

香草にくるんだ半生のベーコン

これは塊の半生ベーコンを香草でくるんで寝かせた物で

表面は半乾き状態で硬い

香草毎食べるのだが味は濃い目で本来は、葉物と一緒に湯がいてから

食べる料理であるくるんだ香草と胡椒が葉物の茹で汁と肉の旨味でが

絡み絶妙な味わいを醸し出すのだが

一口大のそれをそのまま喰べても携行食くらいにはなる

あとは、口直しの卵黄だけを茹でた物を蜂蜜に漬け込んだ物で

滋養にもなる携行食だった。


 彼自身はこういった料理はあまり得手ではなく

これらの知識は全てニラウスの恋人で薬師・古巫女ドルイド

旅暮しであったリンディールからの受け売りであり

彼女の調理法レシピを記した私製本を性格に真似ているだけとは

本人の弁である。


 薬師・古巫女ドルイド

薬草をその場で組み合わせ様々な薬を調合する師業で

自然の樹々や草花、ときに妖精・精霊などの能力ちからを借り

またはこれらを使役して

悪意から身を守る術師であり

必然的に香草や気付け薬などの調合・素材の扱いにも長けている

そんな彼女リンディール調理法レシピを記した私製本であり

その効果は折り紙付きである。


 ニラウスとドランは列の前衛と楯役タンクの次に身を置いた

階段は狭く手摺は無い上藻や水草で滑りやすい

さっき迄水中だったところは完全に露出し水面は悠か眼下である。


 トリンデ出身の元船乗りの楯役タンクは、

「水面ってのはな高ぇ場所から落ちると”地面”と同じよ

躰がぺちゃんこになってよ 街の街道にひばり付いて死んでる

干しガエルみたいになんぞ、気ぃつけなよ」


「うへぇ こぇぇなぁ」

誰かが発した声は怯えを隠しきれない


 街中の溝付近はよくカエルが馬車やヒトに踏みつけられて

死んでいるのをわたしも知っていたので思わず、蹣跚けそうになっていた


 皆も同じだったらしく

一同その男に異論で水をさしたり疑問を投げる者は居なかった。


 列は階段の幅によって時には三人並ぶ事も有れば一人のこともある

その時誰も我先にとか遠慮しあって中々順番が決まらないことは一度も無かった


 お互い誰が先に並びそして順番を譲るか自然の流れで決まっていく

いつ飛行型や浮行型の魔物が襲うかも知れない

故に素早い判断と順番の譲り合いが求められているからである。


 やや蛇行を繰り返し時には途切れた階段を各々術で飛び越え

(わたしはビヨンに抱かれて飛び越えたが)

やがてこの尖塔の本来の入り口と思わしき場所まで

誰一人欠ける事無くたどり着いたのである。


 後はかつての喫水線きっすいせんまで注意深く歩むのみ

時折、水塊に取り残された魚型の魔物がびちびち跳ねる音が聞こえる

言うまでもなくこれらの魔物は神代級・古代級の小型魔物であり

もし、外界に出たなら一匹で値千金の価値は下らない


 しかし下世話な会話は聞こえてこない

未知の魔物には触らないに限る、皆冒険者としての定石は忘れていない


程なく水に浸かった回廊部を抜けて乾いた回廊部に差し掛かる


「おーっ 皆居るか? 近くのヤツ互いにさぁ、確認頼まぁ

普段は商売敵でもよ今は一行パーティーだ確認次第一気に進むぞ」

「おーっ」

静謐を破り、ざわりざわりと一行パーティーの喧躁が蘇る

総勢40名、脱落者及び致命傷無し と此処までは順調であった。


 しかし幾星霜も訪れることのない古代の遺構

魔物たちにとって一行パーティーは久しぶりの”エサ”にしか見えていない

美味しい新鮮な肉達が自ら縄張りに入って来たのだ


 今まで醜い共食いか時折水面から飛び出る魚型の魔物しか

エサが無かったのある

有る者は鋭い牙を鳴らし、有る者は爪を打ち鳴らす

そして多数の醜いまなこは新鮮な肉達に釘漬けになっていた


 此処の魔物たちは外界から迷い込んだ魔物と在来の魔物と

交雑を繰り返し、近親交雑を重ね外界の魔物とは一線を画す


 蒼き深き者(ノーアの民)の実験体のなれ果て

彼らは蒼き深き者(ノーアの民)では無い為、種の亡びからは逃れる事が

出来たなれ果ては交雑を繰り返し、近親交雑を重ね出鱈目な体躯構造と

躰中に腫瘍状のできものや膿などが張り付いていてそこから触手を伸ばし

仲間を取り込んだり、できものや吹き出物から蛆を飛ばし寄生し

同胞を増やす またその同胞を取り込んでいまや元の生物の原形すらとどめていない


 かつては多少の理性も知性もあったがシーア(クレア)の時代は

理性も知性もまったくなく

無為な闘争本能のみが彼らを突き動かす


 蒼き深き者(ノーアの民)から創造され、種族として発展したヒム族・エル族・ドワ族

ウル族・ケット族に対する遺恨だけを闘争本能に変えて

外界にも少数は存在し湿った仄暗い階層遺跡・遺構の最底に棲まう者である


 冒険ギルドでも討伐の対象すらならない

世界オルティアから放逐されるべき者

それら全てを”異形種”と呼ぶ。


 ヒト型や獣型や虫や環形動物型、棘皮動物型など様々な形態を持つ彼らは

つき動かされる闘争本能を一行パーティーにたなびく。


 殿しんがりの若い剣士はその姿を見た

醜い姿を、出鱈目な体躯を、その表皮に巣食うできもの

 

「うわーっ 異形の化生バケモノだ 皆構えろ! 」


その一声で、全ては始まった。


「皆、円陣を組め 外囲に楯役タンク! 内側に前衛のヤツ

その内側に魔法職、遠隔攻職、更に内に治癒役ヒーラー 中心に案内人と視察団!

シーアは遊撃ッ!! 出来るなッッ!! 」

ケインズの鋭い一声ですばやく円陣が組まれるのと

異形種達が飛びかかってきたのは同時だった。


 小汚い膿汁や体液を纏ませ


{ミギャアァァァー ピギャアァァァー アァッァアー キィーッ}


とおぞましい咆哮をあげ金切り声を撒き散らす 


ケインズ・ニース共に


(( 戦神アグストの名に於て命ず、小さき盾に

不沈のさいを築き・要塞人ゴリアンテス如く給うなれ!! ))


と防御の呪文を付与エンチャントする


 彼ら楯役タンクの信奉する戦神アグストと

要塞級の岩人形ゴーレムゴリアンテスの絶対不可侵の能力ちから

一時的にその小さきヒトの身にマギの続く限り降ろしたのである


 神降ろしの術あるこれらは長くは持たない

中型異業種二十体・五波ウェーブをやっと凌ぎ切るくらいだろう

大型だとさもありなんであろう


「前衛!! 大剣のヤツを輔佐しろ

大盾から漏れたヤツの始末を任せるッ」

トリンデ出身の楯役タンクが怒号をあげる


 大剣の楯役タンクは切る・弾く出来るが大盾持ちは

強烈な盾弾き(シールドバッシュ)が主たる攻撃手段であり

小物には向かない

 

容赦なく小型は円陣に深く切り込んでくる

それらをソーヤ達剣士が裁く


 そして遠隔魔法職や弓職は遠くにいる大物に少してもダメージを与え

楯役タンクの負担を減らすのである


 わたしは、ヘルハウンドを召喚、蟲を彼らに飛ばす

初めて相まみえる醜い異形種達生臭い汁を飛ばし

細い触手を伸ばし取り込もうと向かってくる


{ミュギャァァァーッ ァアアーーッ}


 四足の獣の背中に張り付いた幾つもの人面

頭らしきモノはなく引っ切った首の断面に小さな牙を備え

管のような舌? を伸ばしてきてその先にも、小さな牙がびっしり生えている

おそらくこれで相手の内臓を啜るのであろう

黄色い液体を漏らしながらしゅるりと向かってくる

既に数多くの蟲を打ち込まれたにも関らず だ。


その管状の舌を ぐじゃり と噛み千切るヘルハウンド

それでも 今度は首の断面の牙をカチカチ鳴らしてくる


[ シーアお任せを ]

ビヨンがフレイルを唱え水銀の糸で異形を絞る

それでも尚異形は少女わたしの新鮮な肉を求め藻掻く


恐るべき執念だった


{アキャァァッ ァァーーッ}


 なんとも表現し難い断末魔を上げその異形はビヨンの炎に焼かれ

細かい火の粉となって霧散した


「シーちゃん? 」

ミーアは流石にこの時は感情を殺していて

普通の純粋なまなこであった

「えぇ 大丈夫 疵はない それよりまた来るッ」

一匹さばいた所でまだかなり残数は有りそうである


{シーア殿、 此度は我れが貴女の脚となり牙となりましょう

しっかり 掴まっていてくだされ

我らは貴女傷つける訳にも、喪う訳にもゆきませぬ

我、九番ヘルハウンドは貴女とともに}


 彼らに固有の名は無い全てケルベロスのケールより

序列を番号で呼ばれるのだ

そして戦闘で武勲を上げ序列を上げていく

そして絶えず入れ替わる。


 これが辺獄に棲まい永劫の罪人の魂を貪り喰らい続ける犬型魔物の

宿命であり、掟であり変えられぬことわりである

こうして一人の少女に仕える身になっても。


 皆は遠巻きにシーアを見る

「うへぇ ヘルハウンドかよあれ一匹倒すのに俺等が十人でも出来るかってのに

どうやって手懐けんたんだろ」

「やめとけ 手を差し出した途端肩からばっくりだぜ」

「アイツは多分少女の姿をした何かだろうぜ 手は付けないこった」

と若い冒険者は囁きあっていた

ニラウスも細剣レイピアを振り、ドランと討ち漏れた中型や小型の異形種をさばいていく


・・・ おぉ 我が愛しの巫女姫:リーナ よくぞこのエトルの地へ参られた

この叡智のビナレス、幾星霜も貴女の再訪をお待ち申し上げておりました

あぁ、あぁぁ 素晴らしい貴女と相まみえるこの時・この日・この瞬間

なんとも甘美な ・・・

シーア達と異形種の戦闘の場よりわずか二階層上の回廊外側の踊り場


 小柄な老紳士姿の男が独白していた

この小柄な老紳士姿の男の名は ”叡智のビナレス” かつてリーナ健在の時代

ノーアの民の時代、ここ遊戯施設テーマパークエトルの出し物の一つ(アトラクション)

”智慧の魔獣の知恵比べ(ゲーム)” であったモノは時を経て

今代は、有翼魔人ァタウェーによって人造魔導知能(AI)は改変され

愛しの巫女姫リーナと望まぬ戦いをする手駒と成り果てていた


 この尖塔はかつて遊戯施設テーマパークエトルであり

多くノーアの民の憩いの場として都市の象徴的な建造物だった

 多くの登場人物キャラクターには独自の魔導工学による高度な人造魔導知能(AI)が

搭載され、巫女姫:リーナはそれらからも好意を持たれていたのである。


 異形種達の攻防は三波さんウェーブで下火となり

あとは大型二体を残すのみとなった


「細かいのは全て潰した 後はアイツらだけだ 

もう少し、踏ん張れや 依頼主を守れ! でないと報酬はビタ一文出ネェからな」

ケインズの気勢が声となり雄叫びとなり鼓舞の声となる。


 大規模討伐隊レイドに於ては依頼者も同行する場合、

依頼者が死亡すると報酬は一切出ない、ギルドにも参加者全員が違約金を

ギルドカードから強制的に引き落とされ、加えて拒否の選択肢は無く

金額がマイナスになるとギルドへの借金に変わる。


 ギルドカードは金銭の授受の煩わしさがない反面、こうした場合

同意無しに、即座に借金もまた抱えることになる

金利は本人死亡による未払いの危険が有るためである


(本来は、金銭の損失はなく聖都:リームレスに、カード残金が精算されるだけだが

ギルドへの統制庁からの還元キックバックは減少する

親族への借金取立てはこの世界オルティアでは存在しない

ゴロツキ等が親族の借金のカタ代わりに取り立てる行動を取ると即座に

”官吏”に拘束される)


(この世界オルティアでは借金制度を利用したかったら先ず

商工ギルド、職人ギルド、冒険者ギルド、生産者ギルドに加入する事が必須で

商人用のギルドは、加入へのしきいが高くシーア(クレア)ですら

要件は満たしていない

多重加入は可能だが、活動実績や活動経験が無いと借金制度は利用出来無い)


 非常に高利となっていて、どんなにずぼらな冒険者ですら自身のカネの管理だけは

異常に煩いのである

本人の死亡で借金は帳消しになるが、誰もが帳消しの対価として

わざわざ死を選択する愚か者が居ないのは自明の理である。


ギ ...ギャァァーッアァァ 


最後の一体がシーアを無視して陣の中心へ躍り込む


 細剣レイピアを構え急所と思われる場所へ突き込み

ドランは息吹ブレスを浴びせ

魔術師達が火弾や氷弾・中には雷弾を打ち込む者が居た


 次第に動きは鈍ってはいくものまだ決定打にはならない

犠牲者を求めて、体表の瘍から多量の蛆や膿汁触手を飛ばしていく


 円陣中心に構えていた若手の剣士の男にそれらが一斉に食らいついていった


うわぁぁーっ ぎひッ たふけ ... 


そのあとは言葉にならない


 肉食の小蛆が皮膚に潜り込み顔や手足が歪んで

眼球が体内圧で飛び出してくる

口からは尻から潜り込んだ触手とも共に

はらわたが飛び出して窒息で青ざめ斃れていく


更に追い討ちとばかりに細い触手が手指と腕・脚を切り飛ばした


 顔を覆い隠した指の隙間から、

「きゃーぁ リンゼ 怖いわぁ」

等と表では”あざとく”言い放ちながらも

見ていたネルリンゼは、あまりの嬉しさから、それが激しい劣情へと変わり

しるしが昂ぶり可愛いショーツを押し上げていく。

(これだよ これが見たかったんだぜ オレはよ ハハハ 傑作だぜ)

と内心では歓喜し、

顔を両手で抑え、怖がる演出ふりも彼のニヤついた口元や目付きを巧みに覆い隠していた。


「おぃ サリっ あいつらの援護しろ! 」

「はいです ニースさん」

サリはリンゼに駆け寄ると耳元で

「あんま はしゃぐなよこの野郎ってもうしるし押っ立てやがってよ

可愛いショーツ台無しじゃねぇか」

「えへへ だってぇリンゼはオトコよ

いいじゃない? 欲望に忠実なのって♡ 」

とどさくさに紛れてサリの手を掴んだリンゼは、膨らんだスカートの股間に押し当てる


「けっ 呑気なモンだな 今はこれ以上は我慢しろよ

テメェが野郎だってのを知られたくないだろ んーっリンゼよぉ」

と軽く恫喝するサリ


「んっ 分かったもん リンゼはオンナノコだもん

温和しくするーっ」

と幼女ような口振りでサリに返す。


「温和しくしてな」

とサリは錫杖を掲げ


((この者らに女神リーンの息吹きと 

いとけき者の幸いの翅有れ))


 このいとけき者とは神族の幼い従者すなわち”天使”のことである


 楯役タンクの不沈のさいとは違い

加護と同時に小さなダメージをも癒やす高等治癒術の一つである。


 リンゼ達は小さな羽舞う柔らかな半球状の結界に包まれ

討ち漏れてくる異業種からの攻撃の尽くを撥ね除けていく


 ソーヤも負けじと一振り剣を報いてこれが致命傷となり

最後の大型異形種は斃れた

実はこれが何気に最年少で初の異形種討伐となった。

これらの討伐・ダメージの貢献具合は全て冒険者達のギルドカードに

手を煩わせる事無く正確に書き込まれていった


{ねぇ 美味しかった? チェシ}

{うん 久しぶりの獲物なの 少し興奮しちゃったぁ}

イクリプス内でこんな会話が交わさていた


 大猫に話し掛けるのは生体戦術魔導殻ライブ・ソラスの少女

キリルアであり話し掛けられた大猫は

シーアの頬を巨大な舌でべろりと舐め上げた

黄昏の獣イヴェール族の純血統の鎖ネコ種:クレプスクルムこと

クレプスクルム・ チェシリア ・イヴェールである

{これで やっと人化出来るわぁ 本体は此処から出られないけどね んしょ}


 忽ち、大猫:クレプスクルム・ チェシリア ・イヴェールは

香箱座りになると赤黒い粒子に包まれ

それが次第に少女の姿を形取っていく

{ねぇ これどぉ? }

スカートを摘まみくるりとまわるチェシリア

{素敵ね、チェシ でもねシーお姉様に会いに行くのは堪えなさい

今行くとお姉さまのお立場が悪くなるの

ヒトってね人外が大嫌いなの 強大な能力ちから有るものに

おそれる振りして下心在りきですり寄ってくるか

さもなくば恐怖に駆られて闇雲に敵対するかの二択だけ

お姉さまをそんなヒトどもの好奇の目に晒したくないの

それは理解できるでしょ? }


 とケット族のような外観の少女に囁くキリルア

{うん 知ってる ヒトってだーっきらい 好きなのは

リーナとあいつ(シアーズ)とキリルねーさまとシーアねーさまだけっ

シーねーさまはヒトの姿してるけど獣だもん だから特別にだーーぃすき

だからチェシは我慢するの それでいでしょねぇ? ねぇ?}

といきなりチェシはキリルの唇を奪う


 頭の両耳を左右別々にくるくる回しリボンが揺れ

四つに分かれた尻尾も縄のように一本に撚り合わさっていく

そういう状態のチェシリアは最高に機嫌がいいのだ。


 彼女はシーア達が異形種達の三波以降の

全ての異形種をイクリプスの裂け目から

実像世界に唯一 一部分だけ出せる右前足の少しとその大爪と

その身に纏う茨意匠デザインの鎖とで引っかき寄せ

喰い尽し、図らずも人化の切っ掛けを得ることが出来たのである。


その結果、シーア達は大型二種を含む異形種三波の波状攻撃だけで済んだのである。


 イクリプス内は鏡像空間であり異空間でもある

実像で世界とは違い所々に”闇溜り(やみだまり)”と呼ばれる

水溜りのような物が出来る


 これらは、全て蒼黒のや黒紫色や赤黒い色をしていて

湧き水のようのように瘴気が湧き出ている

この”闇溜り(やみだまり)”は実像世界では直接視ることは出来ず

イクリプスからでしか視認出来無い

魔物の湧き場所とも、揺籃ようらん場所とも言われるが定かではない。


 ただ言えるのは、これが濃い瘴気でありイクリプス内に棲まう者達にとっては

かけがえのない存在であるという事実だけである。


 チェシリアは大猫の姿に戻りまた水の代わりに闇溜りを少し飲み干すと

丸くなって目を閉じる。


 ノーアの時代、両親を蒼き深き者(ノーアの民)に目の前で虐待され無惨に嬲り殺された

そして満身創痍の彼女にだた一人救いの手を差し伸べたリーナと

匿う場を提供したシアーズを思い浮かべながら。




「ふぅ 後は小物だけだな 全員構えを解けッ!! 」

「「応ッ! 」」

渡り人以外のソーヤ以外の全ての冒険者から纏ったマギの気配が薄らいでいき

ケインズ達は皆大きな溜息をついた


 この時ソーヤは初めて”イゲン・ルート・オンライン”では無いホンモノの

生死を掛けた戦闘を生き抜いたのである


「よく頑張ったな 小僧 この”サリ”様から一度も治癒役ヒールを受けてないなんてよぉ

あっと 言い忘れたがこっちの口調がオレのホントだぜ

このことを誰にもバラさなきゃな、少なくともこのベルゼから発つまでは命は繋げるぜ」

「あ うん すんませんサリさん」

「莫迦かよ すんませんってのはオレに殺されてから言えよ

今は何もしてねぇだろがよ このガキィ」

とサリは可愛い顔で耳元でまるで”男”のような口調で囁いていた。


 いきなりだったがソーヤは知ることがなかなか出来なかったサリの一面を

垣間見たような気がして不覚にも少しドキリとしていた。


「おーし 犠牲は一人だけかまずは黙祷を」

とケインズ

その一声で一同皆被り物を脱ぎ僅かに残った肉片や防具の残骸に黙祷を捧げる

彼のギルドカードはこの時細かい黒い粒子となり何処いずこかへ流れていったのだが

誰も気に留める者は居なかった

「リゲルよぉー 先に逝っちまいやがってぇ、テメェの仇はオレが必ず報いてやる

だから安心して逝けよ」

と取り縋る若い剣士


「あのう」

わたしは思わず声を掛ける

「あぁ 依頼主の嬢さんか こいつの為に祈ってくれるかい

こういう事は滅多に無いんだよ、大抵の依頼主は高見から俺達の結果しか

気にしちゃいねし頭数が減ったって消えた奴の事は消耗品ぐらいにしか見っちゃいねえ

それでも俺達はいいんだが、なぁせめてアンタがコイツに目ぇかけていたって思わせてやりたいだよ」

わたしは、この冒険者の事は何も知らない

本来は祈る義理も義務も無い 

だがわたしの目的の為に若い生命と引き換えたこの若者に祈りを捧げられずには居られなかった

 死んだ友人の為に祈ってやってくれと頼んだ若者の目が真っ赤になるほど涙で濡れていたから。


わたしは十字聖教の祈りの作法で今は数切れの肉片と化した彼に向かって

祈る。


...彼の御霊に安寧と静謐あれ 

淡き息吹が彼の御霊を包みあまくにへ導き給うなれ...


「ありがてぇ 感謝する」

シーアにどうのこうのというつもりは無い

自ら進んで大規模討伐隊レイドに志願したのだ

彼は唇を噛みしめてそのまま踵を返し、仲間と思われる一行パーティーへ戻っていった


「ほぉ、アイツは見どころがあんぜ 大抵はあの歳ごろってのは依頼人に食ってかかるのにな

テメェがこのぼうけんしゃになるってに決めたってのによ」

とケインズ。


「まぁ、世の中ああいうヤツだけだと良いんだがな

中には逆恨みもあるからな上手く応対あしらえるにならんと

依頼主は勤まらんぞ ガハハ まずは皆休養を取れ

第一の踊り場までもう少しだ 

嫌な気配がプンプンしやがる とりあえず警戒しつつ 各自散会ッ!! 」

「「応!! 」」


「なぁシーアよやけに異形種が少なかったな あの勢いとこのエトルの手の入らなさから

見積もってももう四・五波いや六波は来そうだったが

誰が助け船を出してくれたのか ...な? 」

「そう? 」

わたしはまだ冒険慣れはしていない ケインズに何か思う所があるようだった。


{ ねーぇ? チェシ 貴女ねー 狡いわぁ 一足先に人化するなんて

サーペシアも早く人化したいの ねぇねぇ }

イクリプスの中で駄々をこねる可愛い声

その声は、やや大きめの銀の蛇から発せられていた。


{ いーでしょ ねっ いーでしょ? チェシばっかりずるいったら ずるいもん

ねーッ キリルねーさまぁ? }


「そうね 今はチェシに譲りなさいな 此処には”ビーキ”は居ないし

 シーア(クレア)ねーさまが

ルベリト岩礁まで行くまで堪えなさい アソコなら”ビーキ”は一杯いるわ

そこで飽きるほど喰べればいいじゃない? 」


{うっうーん そーするね今は闇溜りで寝てて良いでしょ}

と銀の蛇は幼子のような口調で駄々こねるように言いながらも渋々納得したようである。


「えぇ ゆっくり寝てなさい シーおねーさまだって言うこと聞かない子は

嫌われるわ それでもいいのかな? 」

キルリアが目を細めて意地悪そうに言うと

{それは いーやッ!! ぜーったい いーやッ!! 

チェシに負けるのもシーおねーさまに嫌われるのもぜーったいいーやッ!! }

と蛇の姿のまま首を激しく振る。

{温和しくしてるもん 温和しくしてるんだからッ、いいでしょッ!! }

と頭を振って闇溜りの中へ潜っていってしまった。


 この銀の蛇ことサーペシアは神代級の蛇型魔物の頂点に君臨する

全てのエンシェントサーペントの上位種

サーペシア・リキューラであり神族の追跡とノーアの滅びからこのイクリプスに逃れて来た

世界オルティアで、最も執念深く狡猾な魔性の猫型魔物と双璧を分かつ魔物である

彼女は、ノーアの亡びをいち早く察してキリルアと取引を交わし眷族となる代わり

自身の安全を完全に確保した。


 あの神族ですらキリルアを介在しなければサーペシアに交渉すら出来無い

そんな盟約を交わしたのである


 ”ビーキ”は大型のカエル型魔物でルベルト岩礁とタフタル大陸の一部に棲息する

古代級の悪食魔物で目の前の動くものは何でも喰べてしまう。


 大型の瘴気を吐き散らすいぼガエルであり

特級の難物魔物で幾百も大規模討伐隊レイド

そのでっぷりとした腹に収めてきた古代級の悪食魔物であり

それらはルベリト岩礁やタフタルの杜奥に顰み悪食と暴食の限りを尽していた。


 傍らのヘルハウンド九番は言う

{ シーア様 もうすぐ我が群の長一番が煉獄狼ヘルハウンドから

魔黒妖狼ブラックドッグへ再誕いたしまする

その折りには是非冥界の一部をお見せ出来るでしょう。


 そして、我ら狼型魔物の貴女様への忠誠の一端を垣間見て

その折、貴女様から相応しい名を拝命致せば其奴そやつは人型となり

貴女の牙の代わりに悪意を噛み切ってくれるでしょう

ですが其奴そやつは男としての人格ペルソナを備えております

 少女好きの貴女には不本意では有りましょうが

是々非々のご配慮を賜りたく}


 わたしは周りからは少女好きと思われて居るらしい

実際そうなのだが本人男性ヒト型を望む以上、拒否する合理的な理由もまた見つからない

 

 そこでわたしは昔男だった頃、読書好きの女子から

挿絵付きの恋愛本を借りたことが有り

その時の相手役の端麗な男子の容姿を思い浮かべていた

すかさず九番は


{おぉ すばらしい これはさぞかし一番も納得でしょう

早速心象(イメージを伝えねばなりませんね}

とニヤニヤの狼顔で言い放つ


「貴男、わたしの心を視たの? 」

とやや険を含んだ言い方をすると

{お仕置きは勘弁を、貴女様のごく表層しか視て居りませぬ故これにて御免ッ!! }

と掻き消えてしまった。

冥界へ戻った彼:九番は一番に心象(イメージを伝えた後、

暫くシーア(クレア)心の深層が”全く”見え透かない事に暫く

怯えていたがこれはシーア(クレア)自身は預かり知らない事であった。


 普通に煉獄狼ヘルハウンドとこんな交わすのを目の当たりにて

ケインズは、ただおどけて肩を竦めるだけだった


シーア(クレア)と剣呑な雰囲気のミーアを見て一人ほくそ笑む

清楚な身形みなりの少女がミーアに下卑た視線を送っている



(きゃはぁぁん すてき すてきじゃない あぁ言うのって

タフタルに帰ったらロザリーねーさまに教えっちゃお教えっちゃお

でもでも 銀の小娘ったらちーっとも堪えていないじゃない

なんでなの? なんでなの? 

 セアラ、もぅこぉーんなに おっきしてるのにさぁ

銀の小娘が堪えていないのは納得いかないなぁ

落ち込んでしょぼーんとして心がさぁ 壊れかけた所をさぁ

”このオレがでっかいしるしでさ ブチ犯したあげくオレのガキを

テメェの女のしるしからひり出させてそして ひり出ててきた

ガキを目の前でブチりてぇのによぉ もっとさこのオレ:セアラをさぁ 悦ばせてくれねぇかな 

あーッ クソッ あーいうメスガキ見てるとほんとムカツクぜ)


 三人だけの少数パーティーの、氷の魔術の使い手で

足首近くまで有る、淡いアイスブルーの髪に淡いピンクの瞳、水色と白を基調とした

たっぷりフリルやレースをあしらったワンピースドレスを好み


 脚は子供っぽい白のバラ柄のタイツで包み、ぺたんこの水色のパンプスに同色のバラリボンを

あしらった清楚な雰囲気を全面に醸し出した少女は

他人の痴情のもつれや剣呑な雰囲気が大好きな

異性装の男性:魔女セアラである。


 今日は彼お気に入りのケープ風の襟が付いた白を基調としたワンピースである

この上から質素な頭巾付きローブを羽織り、

シーア(クレア)達に下品な視線を送っていたのである


その下品な視線はシーア(クレア)に一瞥をKれた後、ミーアに釘付けになっていた

首魁ボスあのケット族の娘でやすかい? 」

「ヘェッ、いいタマだぜ 首魁ボスが関心を見せるのも頷けやすね」

一人は、体躯の大きいウル族の男性


 もう一人は痩せぎすであるが、筋肉質のケット族の男性

ウル族の男性は剣士、ケット族の男性は短剣を獲物とする斥候である

「あぁ あのケット族の小娘だよ オレの興味を無性に掻きたてやがって

今はオレのしるしが猛ってしょうがねぇ」


 セアラは頭巾付きローブの前合わせを少し開く

その下の可愛いワンピースドレスの股間ははっきりと彼のしるし

下品な主張を反映してこんもり盛り上がっていた。


 異性装の男性:魔女セアラは実は、フレジアの過激派クフリー派の創設者の一人で

自由気儘にあちこちの大陸で、残虐で非道な凶行を愉しんできている。


 可愛い旅装で大きな鞄を重たそうに持って気の良さそうな老夫婦の家に

世話になって好意に甘えて上がり込んで、

孫娘がいると聞いた彼老夫婦の目の前で、孫娘を犯した挙げ句

生皮を引ん剥く、更に老夫婦の手足を折り動けなくなったところに

遇々居着いていた仔猫を握り殺して老人の口に押し込んで窒息させる

非道を平気で行う外道の中の外道である。


 この世界オルティアの猫は魔物の餌にはなりなするが

ヒトの犠牲になる事は無い 何故なら魔界の監視者として畏れる存在であり

腐れ鼠や普通の鼠退治の重要な担い手でもある彼らは

付かず離れずの関係を保っていた。


 そういう扱いのこの世界オルティアの迷い猫は丁寧に迎えて、

自然と出ていくまで差し障りの無いように扱うのが

世界オルティアの知性ある全種族に根付いている本能でもあり

暗黙の常識でもあった。


 だから内心では邪険に思ってても決して行動には出さない

いつ魔界から手痛いしっぺ返しを喰らうかも知れず

猫には関わらないのが得策とされている もし”猫”に絡まれた時

余計な因縁を彼ら猫達に持たせないよう


””魔の猫魔の猫 我れ見逃せ仇成す者彼の地へ彼の地へ””

(まのねこまのねこ われみのがせあだなすかのちへかのちへ)


 という呪文が深く浸透しているくらいである

そこが番犬・猟犬としての役割がある街犬と明確な扱いの違いがあった。


 その”監視者ねこ”に無為な凶行を加える事をして

しかも、自身は猫の報復を恐れ呪文だけは欠かさない

セアラはそんな身勝手で自己中心的な下衆な異性装の男でもあった

そうしてこんな調子で行く先々で悪行と凶行を繰り返して来ていた。


 シーア(クレア)達に同行したのは兄:セシリから

シーア(クレア)の髪の毛の採取を依頼されたからだった。


 有形でも無形でもどんな存在のモノでも閉じ込めて置くことが可能な

”神代級遺物:妖精瓶フェアリーボトル”を預かり受けてこれに

シーア(クレア)の躰の一部を採取する事

これに応える為に大規模討伐隊レイドに潜り込んだのである。


 創始者であるセアラは同じく異性装の兄:セシリと共に宗主と呼ばれ

今は首魁ボスの地位を後進に譲り自らは表向きは、聖皇女として

タフタル大陸の宗教組織に深く入り込んでいた。


 尤もセアラの裏の顔を知る者はいない

なぜなら、その尽くを亡き者にしてきたからである

罪なき動物でさえも。


 奔放なセアラは、その性分からじってしてられずこうして非道な事を愉しみながら

各大陸を巡っていた。


「あぁん♡ すてきな、ミーちゃん いいかてめぇら折を見てあの娘を犯るぞ

オレはいつも通り清楚で我侭な御嬢を演るからオメェらは

もし、暴れたら口利けなくして温和しくさせろよ

どんなクソ猫だって口塞いで牙をし折って爪抜きゃ温和しくなるからな

でも今は我慢だなあの踊り場の厄介なヤツを先に始末してからな

それまでは、ぜってーに手ぇ抜くんじゃねぇぞ なぁ? 」

セアラは可愛い顔からは似つかわしくない男の声でこう言い放った。


「へぇ 首魁ボスいまは温和しく大規模討伐隊レイド連中に

協力しまさぁ 俺達の依頼の目標ターゲットも此処にはいねぇし

不意に殺生もしませんて なぁ? 」

とウル族の男はケット族の男に同意も求める。 

「俺等は”やさしい”しその上”礼儀”が正しいから目標ターゲット以外の

無為な殺生はしねぇ そうだろセアラのアニキ」

「あぁ オレは愉しみで殺るがオメェらはちゃんと言い付け守れよ」

フレジアから一線引いたセアラはフレジアの掟からは既に外れていて

 自由奔放な殺非道な殺戮の愉しみを思う存分満喫していた。

「「へぇ」」

と一人の清楚で可愛いお嬢様風な男と、目付きが鋭い

従者にしては、似つかわしくない二人の冒険者は一つの小さな天幕に潜り込んでいった。



{ 余の爪先まできおったか 銀の娘、この余がわざわざ自我を与えてやった

ビナレスに貴様の道理を通せるか、しかとこ見せて貰うぞ}


{あぁ我が盟主 有翼魔人ァタウェー我れに自我を与えし盟主よ

我れの銀の姫巫女へのこの想い全身全霊を持って

思いの丈をぶつけて差し上げましょう}

小柄な執事風の男の周りには それぞれ紅・緑・青の三色の光球が無数に浮かぶ

それらは時折重なり”白色”になる


{さぁいつでも参られよ 我が姫巫女 この爺ぃが幾星霜もの懸想の念と

貴女の道理どちらに盟主の手が差し伸べされますことやら}

そう独白した小柄な執事風の男の貌は醜く狂気をはらんでいた。


「準備は整ったか? 

クソ小便は済ませたか? 

己れが信ずる神にお祈りは済ませたか? 

出来たなら 行くぞッーーッ」


 ケインズの怒号と共に、わたしと大規模討伐隊レイド

一同、回廊の端にある突き出た踊り場に、一斉に踊り込んだ

もう後戻りは出来無い、このまま逃げる事も赦されない

地に縛られているガーディアンはその場の宝物を護り

どちらかが斃れるまで何処迄も従いてくるのだから。


 道理と道理の戦いがいま始まる。


 わたしが一番最初に感じたのは、

気圧された気当たりでもなく、圧倒的な威圧感でもなく

異常な懸想の情念であった。


{アハァ 流石、銀の姫巫女様 幾星霜も見目麗しゅう御座いますな

このビナレスの全力の懸想をお受け取り下さいませーっ }


 彼? はわたししか眼中に無く他の冒険者達には目もくれない

彼にとって冒険者達は単なる物体オブジェクトでしか無かったのである。


「うぉー こんジジィ 相手はオレらだ ムシすんじゃねー」

と若い剣士の男がと飛び出して行く


 これを皮切りに、怒濤の如く一斉に冒険者達が群がっていく

「あんの 莫迦たれめ 血気早りがってッ!! しょうがねぇ

アイツを護るぞ」

とニース

楯役タンクは皆、全ての大盾や大剣に護りの術を付与エンチャント済みである


{ッフッ! 何を騒いでいるのかと思えば、薮蚊やぶかが少々騒がしいようですな

退治な邂逅の挨拶も交わさせぬとは全く 騒がしい羽虫だのぅ

姫巫女様 左様でしょ? }


 と右手を掲げると彼の周りの色取り取りの珠から一斉に、

赤の珠から火球・蒼の珠から水の息吹ブレス・氷塊・緑の珠から風の塊・風の刃が放たれる


 いずれも、威力は上級術師に匹敵

氷塊一つ、風の刃ですら踊り場の分厚い石床を深く穿ち大孔が空き

悠か下に水面が見える

孔自体は小さく踊り場はとてつもなく広い


 当面はビナレス諸共自滅は避けられそうだがそれも何時迄、保つかは

予測は出来無い


 わたしは、

「貴男は わたしだけが目当てでしょう? 何故皆を巻き込むッ」

と強い調子で叫ぶ


{はっ 姫巫女様 見たでしょう

羽虫共が雲霞の如くこのビナレスに、不調法をしたからで御座いますよ

貴女との会話を邪魔し、こうして私めに術を使わせるとは

赦されるべきではないッ !! }


 彼の情念はわたしの言葉を無視し、独り善がりな持論を展開する

ならば

「 どうしても聞く耳は持てない? 」

{はい シーア(クレア)様 貴女のお名は彼の有翼魔人ァタウェー様から

お伺いし我が盟主ァタウェーより積年を思いを叶えて貰ったのです

あぁ 貴女に懸想し貴女が”刻狭間ノときはざまのはこ”に入られてこのビナレスは

あろうことか置いてけぼりを食らわされましたーーッ


 貴女とどんなにご一緒したかったことかぁ 判りますかぁ? 

御付きの神官の一人としてぇぇ

こんなに焦がれていたのにぃぃ あぁ何故に何故に 私めはご一緒出来無かったのか

”今”だに理解不能でェェェース 貴女に今こそ全てをこの私めを受け止めて戴きますよぉぉぉ}


 彼の言い分の大半は意味不明で理解は出来なかったが

今の彼は心を喪い懸想の情念に取り憑かれた哀れな男であった

しかも彼は、あの有翼魔人ァタウェーの配下だという


「ならば わたしの道理を通すまで、どうしても有翼魔人ァタウェーのところまで

行かねばならないの」

わたしは此処で覚悟を決める。


 彼の道理が通るか、わたしの道理が通るか二つに一つである

ヘルハウンドを一体再び呼出し

「お願い わたしの足になって」


 と言うと

{シーア(クレア)様、やっとご命令して下さいましたな

この八番全力を以て貴女様の御足になりましょう

しっかり我が背にお乗り下さいませ}


 とその背に跨がりやや長毛な彼の被毛をしっかと掴んだ。

「あぁ 我が盟主ァタウェー様 お聞きですか

彼女はこの私めと戯れてくださるそうです

見ていて下さいませ ぁぁ我が盟主 すばらしいわが盟主

このビナレス全力で 貴女のお戯れのお相手を致します

ついでにこの羽虫共も一掃して見せましょう」


 彼と有翼魔人ァタウェーとの間に何か交わされたのだろう

間が空いて彼の目付きが戦いのそれに変わった。



「先ずは、定石通りに 陣形組めッ」

ケインズの怒号で皆は、楯役タンクを前に前衛をその内に後衛に遠隔術士

その隙間の要所に治癒役ヒーラーを配置

ケインズの一喝で陣が完成


 相手の攻撃を伺う

「おぉ 正に定石ですなぁ しかしこのワタクシめは銀の巫女以外、所詮は

有象無象の石礫いしつぶてにすぎませぬ

よってこのワタクシめの有象無象たる宝珠がお相手いたしまする」


手を高々と天に掲げるビナレス

其処には無数の色取り取りのたまが浮かぶ

しかし不思議な事にその色は紅、翠、蒼の三色でその他の色は無い


クローティアがそうするように指をパチリと鳴らすビナレスおう


途端に、紅からは火、翠からは風、蒼からは氷と水の

球、息吹ブレス飛礫つぶてと形態を変え一斉に降り注ぐ


「っテメェ 術士ッ! 」

ケインズが言い放つ

「左様、 いかにもワタクシ ビナレスはその昔銀の巫女に

仕える大神官のなれ果てにて御座いますと、人造魔導知能(AI)が朗々と口上を述べる

力任せ等という不粋な攻撃は、ワタクシめには相応しくない

したがってこのビナレス知力の限りを貴女にぶつけますぞ シーア(クレア)様

いや 我が愛しのリーナ様」

「リーナ? 」

わたしは、聞いたことも無い名を向けられどう反応したらいいのか分らない


「今はその御姿では、知らないのも無理は無いでしょう

我らノーアの民の焦がれるほどの崇敬を集め、民を導く永遠の象徴! 」


 わたしには、彼の単語が理解できなかったが誰かに似ていて

昔はその誰かは民の崇敬を集めていたことだけは理解出来ていた

今代のオルティアのノージェ、タフタル大陸の聖女ルルスのような存在であったと。


「でも貴女はワタクシめを歯牙にも掛けなかった

彼程貴女に尽くしたのにこの仕打ち

決して許されざるべきではありません

 このワタクシめが貴女の御目を覚まさせてしんぜましょう」

この科白は誰に向けたモノなのか

彼の視点は悠か上を見上げていた。


「ようするに勝手な思い込み? 」

「ははぁ そう来ましたか それならそれで言いでしょう我が思いの丈を受け止めて下されば

それはそれで良いのです さぁ往きますぞ」


 冒険者達を翻弄している珠とは別に本体? が自らわたしに迫る

やはり術士の宣言通り 徒手空拳では攻撃して来ず

魔導書を懐から取り出すや一体の蛇を呼び出す

「召喚? 」

「あぁ そうですともこれはエンシェントサーペントの幼体

”サーペシア” さぁ 愛しの巫女を喰らいなさい」

白銀で目がアメジストの大蛇が大口を開けて迫るっその刹那


癖のある黒髪、細面で顎は細く薄い唇、怜悧な紅の目の青年が

「お待たせしました 我が主 ちと冥界で人型になる修練を積んでおりました

いやはや四足と違って中々に中々ですな

いましがた魔黒妖狼ブラックドッグへと再誕した一番でございます

彼の冥界では、ケール様の修練が一番きつうございました


青年は全身を黒のピッタリとした皮製の衣服を纏い

指貫きの手袋を嵌めている


 彼の全身からは真新しい皮の匂いが漂ってわたしの鼻を心地よくくすぐってきた

この”エンシェントサーペント”め 彼奴に傀儡にされております

貴女がアイツの相手をこの俺様がこの”エンシェントサーペント”の目を

覚まさせます ちとキツイお仕置きだが我慢しろよっ」

と彼は一振りの黒い剣のような得物を手に蛇に飛びかかる


{ 上手くやっておるなアイツ シーア(クレア)様ま我れの背に }

いつの間にかケールが私を乗せビナレスに肉迫していく




「 うおっ なんだこれは術士かよ 」

一方ケインズはいつもの調子で物理攻撃だと高を括っていた

 ...がさにあらず術は術でも純粋な術攻撃だった

術には簡易的な物質を構成してそれを術に乗せるのと

今まさに彼らを翻弄しているような、全てがマギで構築されたモノがある

ケインズやニースが大盾を構えるも全てを防ぎ切れない


 火や水の飛礫、風の息吹ブレスの威力の幾割かは盾を通過するのである

その威力は具象された火や水、風と同様彼らの肉体をジリジリ焦がし、凍結させ、

風で体力スタミナを容赦なく奪っていく


 術士も術で攻撃を防ぎ術で同じく攻撃する

能力ちからの根源は同じ術士のマギであり明らかに長期戦は不利になる


 ビナレス本人? はシーア(クレア)に夢中だが一向に彼のマギの威力は衰える気配がない

「アイツ バケモンだろ? 」

とニース

「だろうよ だからこんなトコで守護ガーディアンしとるんだろうさ

だがよ この戦いは俺達のような肉弾野郎には得手じゃねぇ 

あぁ 鬱陶しいな くそっ 打開策があるやつ 大声で言ってみろ

この際、どんな荒唐無稽なことでもいいいぜ」

とケインズ


 しかし、皆己への攻撃を防ぎ反撃の機会を伺うのに手一杯である

そんな”都合”いい声が上がるはずがない


 ソーヤもこんな状況であれこれ策を巡らしていたが火や水や風は剣では切れない

シーア(クレア)から貰ったのがオーパーツ製の剣で無く

”普通”の金属だったら今の様に弾く(パリィ)すら出来なかった

辺りを見回すと流石 皆冒険者が永いせいか

ちゃんと得物に術を付与エンチャントしてあった


 それでも、彼のように弾く(パリィ)のが

関の山という戦況は冒険者側のジリ貧である。


 珠はある一定の間隔を置いて紅・翠・蒼の三色が一つになり

白色に輝くそしてまた三色に分かれ攻撃を激化させるのだ


 良く観察すると珠は必ず三色で白色一色になる時が有り

一つでも珠の色を残して二色を破壊してもすぐ復活していた

その逆も然り三色一組みの一色を破壊しても同じであった


 これが十数組あり破壊しても補うように

色の珠が復活しての堂々巡りであった


 完全破壊の法則性ギミックを読み解かない限り

ジリ貧どころではなく一撃死こそないものの次第に消耗させられて

体力の回復もままならないまま糧秣もたんまり蓄えがあるままの

不名誉な”死”を晒すことになる


 冒険者にとって、糧秣も尽き、一矢報いての一撃死で死亡となれば

誉れともなるが、こんな穏やかな”死”はまさに笑い者である


 多くの冒険者家業の連中は、必ず生きて自宅なり拠点にに帰って来られる訳はないと

常々心の片隅に命じている

不名誉な”死”は後世に名誉ある死より長く語り継がれる

だれもが子孫にまで汚名を着せたくないとも思っているのである

彼ら冒険者は脳筋に見えて意外と、繊細なたちも併せ持っていた。


相からず珠の数は減らせない

三つで一組の珠の何れかを破壊しても必ず復活し、じわじわと一撃死しない程度の

いやらしい攻撃を仕掛けてくる。


 冒険者達の戦闘は大抵は、短時間に生死は別にして

短時間で勝敗を決める事に慣れていて

長期戦になりそうな時は一旦、退くという選択肢を残しているものであったが

それが今はその選択を塞がれている状態でもある

 

 

{ニラウスよぉ なんか打開策はネェのかよ

頭は良いほうだろ? }

とこんな場違いな阿諛おべっかを言うドラン

「ふふ 阿諛おべっかを言うくらいなら 体力スタミナは有りそうですね」

{ ちっ バレたか だがよ解るだろ ぽんぽん、息吹ブレスつ訳にもいかないのがよ

賎しい攻撃だぜ}

ドラコ族にとって息吹ブレスは取って置きであり多量のマギを一気に

喪う諸刃の剣である


 こうした”たいした事もない”攻撃に出鱈目に放つべきモノではないのは

ニラウスも良く理解していた。


 しかしながら、具象化した炎や水、風は実際に肉体を傷つけ確実に

その肉の器を損耗し何れは、命運の果てに追い込んでいくのもまた事実


 術者は銀の少女しか念頭になくこちらには歯牙も掛けない

「舐められたモノですな ドラン 我輩達は所詮その程度の相手とうことでしょうか」

{いいや、そうでもないぜ アイツは妄執に因われているだけさ

懸想が嵩じて拗らせちまってアイツにか最早、目に映るモノが無いんだろ

かくいう、御前さんだってああなる寸前だったんだ

自覚は無いだろうがな}

「いやはや、面目無い」

{謝るこたぁないぜ それに今は、違うだろ

誰だってああなるもんだよ気にするな それより俺には何か打開策が見えそうなんだが

俺の言葉で上手く表現出来ねぇな あの色が関係しているとは思うんだかな}


 ドランはニラウスを相棒とて高く評価していて

なにかしらの反応を期待したがニラウスも今まで対峙したことのない

現象に戸惑っているようだった

朧げながら浮かんだ打開策を上手く言語化出来無いもどかしさを

誤魔化すようにドランは頭を小さな翼の先の爪で頭を掻いた。


「うむ ここはあの”渡り人”のソーヤ君に聞いてみますかな

彼は常から遊戯ゲームだの体力スタミナやマギの総量が見えるだのと

素頓狂な事を言ってニースに拳骨喰らわされているし

何か素頓狂な打開策が出てくるかも」


{あの子僧か 俺が言うと怖がるだろうから ニラウスよ

後は任せた 何、背中は任せろよ 話し込んでいる時はお前は勿論

あの子僧も守ってやるぜ}


「頼んだ」

{おぅよ}


 この二言で小さな約束は成立する

長年の信頼とはこういうものである。


「戦闘中済まない 戦いながら聞いてくれ」

ソーヤは剣で弾き(パリィ)ながら 突然の声がけに驚く


 あまり縁のなさそうな”吟遊詩人”がいきなり話し掛けてきたからだ

「すんません 捌き中で えーと 」

ソーヤは戸惑いの返事を上の空で返す


「あぁ 我輩は”吟遊詩人”のニラウスという

このドラコ族は”ドラン” 相棒だよ」

 ソーヤの思い描く”吟遊詩人”と大旨印象が合致していたが

積極的に戦う”吟遊詩人”は初めてだった


 異世界ちきゅうせかいでは”吟遊詩人”という言葉は形骸化して

今や過去のアーカイブでしか御目に掛れず、


 彼が愉しんでいた遊戯ゲームでも殆どが

相棒ペットを連れ歩き(これはペット自慢が大半)か鼓舞や付与効果バフ等の

支援向きの職が殆どで

こうして細剣レイピアを振るい彼と同様な”戦闘職”に混じって

積極的な戦闘行為をするプレーヤーは少数派だったからだ


 勿論これは遊戯ゲームでは無いのは承知の上だが

彼の異世界ちきゅうせかいでの印象は完全に払拭されていない


 怪訝そうな表情が表に出たらしい

「はは ”吟遊詩人”戦うのは可笑しいのかな」

「あ いやすんません 俺の印象とあまり違っていて

顔に出ていましたか? 」

「まぁ そうだね でも今はそれを云々兎や角言う事では無しで

聞いて貰いたいことがあるんだ」

ソーヤよりは戦闘経験も人生経験も段違いなこの男性に何を相談されるのか

内心及び腰になっていた


 異世界ちきゅうせかいでの

年長者とこの世界オルティアでの年長者の扱いはまるで違う

先ず年長者に成るまで生き残りそれなりに、この世界オルティアを謳歌する事自体が

厳しいのである


 種族間の小さな諍い、魔物、魔族、強大な能力ちから、権力、

異世界ちきゅうせかいでは非合法と見做される数々の行為や慣習や倫理観等

それらが”日常”として存在するこの世界オルティアでは、


 現地人ですら馴染めない者は、強き能力ちからある者に簡単に搾取され淘汰され

それを利用する者にさらに搾取される


 如何に早く倫理観に馴染み、図太く世渡りをするかで生死が左右される

そんな世界オルティアの”信頼”のおける年長者の言葉の重みは

異世界ちきゅうせかいとは比べるべくも無い


「そんなに気張らなくてもいいよ 今回は君の”素頓狂”な意見を聞きたくてね

単刀直入に言うと この珠の攻略だよ

ドランが言うには珠の色が関係しているのでは無いかという


” 珠はある一定の間隔を置いて紅・翠・蒼の三色が一つになり

白色に輝くそしてまた三色に分かれ攻撃を激化させる”


” 良く観察すると珠は必ず三色で白色一色になる時が有り

一つでも珠の色を残して二色を破壊してもすぐ復活していた

その逆も然り三色一組みの一色を破壊しても同じである ”


という だから此処に攻略法が見いだせるのでは無いかと」


それを聞いたソーヤは授業で習った

光の三原色の法則を思い出した


” えーと 皆さんの使っている液晶ディスプレイや 立体通過ディスプレイには

たった三つの色しか使われておりません

性格には点灯無しの黒が有りますが

ここではそれは置いておいての三つの色に付いて説明しましょう


色覚は個人によって微妙に異なりますが紅・翠・蒼は光の三原色と言われます

太陽光から受けて見える色は見えている以外の色を吸収して

色覚している色が反射してその色として見えているのは

先の講義の通りですが自ら発光させ色を色覚させるには

人の目の生理学構造と相まって

紅・翠・蒼をカラーモデルとして扱っています

それを機械で扱いやすいよう数値化すると紅・翠・蒼となり

これらの混合で様々な色が出来る訳ですが

さらに詳しい事は文献で調べて見て下さい

奥が深く探求するには面白い分野ですよ” 」


と言われ様々な実験を体験した記憶があった


 この中で彼は今の珠の現象と似た経験をしたのだ

紅・蒼・翠の単色の光が重なり白となる

また光源をずらすとまた色が現れる

それと似ていたのだ。


 それぞれの色の珠が重なり白く輝く

そしてまた三色に分かれ攻撃が始まる

ただ白色の時は攻撃はしてこない間隙があった


打開策はそれかもしれない。


「あの 素頓狂だと思われるんですが」

「おっ 是非聞かせてくれ、今はどんな事を言っても

ニースには内緒にしておく、なぁにダメ元さ

やらないで後悔するよりやって後悔する方が我輩としてはお勧めだね」


 これはニラウスの自責の思いもある

やや気恥ずかしい思いを振り切り思いを口にした。


 ソーヤは異世界ちきゅうせかい語を使わず

できるだけこの世界オルティアの言葉に意訳しながら答えた

「ほぅ ソーヤ君はその白色のとき集中して攻撃を叩き込めば

珠の復活は避けられると? 」

「ではないかと だた術は物理かは分からない

未知の属性かも」

「いやー これは有り難い早速試して見よう

さっきも言ったがダメ元さ」


このことは早速ケインズとニースに伝えられ

実行に移される


 そして分かった事は白色のとき三種の属性の術攻撃を叩き込む事が

効果的と判明 

 それと炎・風・水属性の”術”を同時に叩き込まねば効果が無いこともまた分かった

しかし白色の時の時間は短く集中して叩き込む勢いと強さが無いと

破壊には至らない事も判明

それが有に百を数える


「おしっ 攻略が見えて来やがったあとは根性だぜ

治癒役ヒーラーは術士のマギの回復と疵の癒し


 おれら楯役タンクは術士を護る 前衛は切り伏せず弾く(パリィ)事だけを考えろ

残りは遊撃に徹しろ


 アイツに絶対 珠を向かわせるなよ」

ケインズの鬨の声で皆一斉に動く

これはものの見事に功を奏し徐々に数を減らしていくのである


ビナレスに肉迫していくケールとわたし

「おぉ 美しいお方 有象無象も中々やりおるますな

珠を増やす程には このワタクシのマギがもったいない

全力で参りますぞ シーア(クレア)様」


 彼が取り出したのはなんと 蛇腹剣である

訓練もままならない からのいきなりの実戦である


「この剣で貴女を刻み有翼魔人ァタウェーの手土産と致しましょう」

わたしも訓練用の蛇腹剣を取り出す

「ほほぅ 貴女も得物持ちですか 召喚士としては

手頃な得物ですね剣として良し、鞭として良し

意思を乗せればこれこの通り」

とまるで腕に生えた蛇の如く翻弄する


 まるで猫の爪が肌を撫でる様に細かい切り疵を作っていく

微かな痛みと同時に疵が癒えていくむず痒さ露になった肌を覆う

質素なワンピースには物理・術をある程度防ぐ庇護が付呪エンチャントされている

そのため今この痛みを受けているのは、極僅かであった


 しかしながらこれとて万能ではない

不意の攻撃はライブ・アーテファクトのラヴィアと契約時に

従いてきた五匹の不遊魚達が私の周りを

泳ぎ護っていた


 彼らは当初の姿から幾分変わりつつあって

今は、三対の大きな鰭を備え異形じみた姿に変わっていた

ラヴィア曰くこれはシーア(クレア)の能力ちからに応じて

姿・形が変化していくそうでありまだまだ変わる可能性を秘めていそうである


「はっはぁーっ 素晴らしい護りですな

このような守護獣ガーディアンまでいるとは思わなんだ

ご自身の疵をご自身で癒せるとは

真に驚きですな」

と彼は自身に酔い芝居がかった科白を吐き出した。


 蛇腹剣の切り結びが、彼に分があるのはやはり経験と得物の差だろう

可憐に攻撃をいなして回り込む様に鞭を踊らせていた


 一方で、相手もすんでで躱し急所めがけて切っ先を叩き込まんとするが

先手を読まれていなされる


 得物も相手は”練習用”などでなく”本番用”である

手入れはビヨン任せだったかそれでも得物の彼我の差は大きかった。


 それを遠目でみていた一人の”男性”

{ シーア(クレア)様は動きが教えに忠実しすぎですな

しかし わたしと対峙したときよりは動きは遥かにいいですね

彼女(?)ルベラは今は男性の姿に変えてこの大規模討伐隊レイド

傭兵の剣士として潜り込んでいたのである


 この世界オルティアの冒険には単独で行動し、自身の腕を

商品にしている者もいる

それらをこの世界オルティアでは”傭兵”と呼び習わしていた


 高い戦闘力や豊富な知識や経験も、全て己れの商売道具にすぎないとする

思想の持ち主で他者とは慣れ合わない、孤高の冒険者である。


 大抵は、手足の枷となる相棒を持たずはぐれ狼のような生活を好み

非常に感情が無味乾燥ドライ指向で

中には、激しい復讐心を糧に存在意義を見出す者も多い


 そんな孤高の冒険者を装い大所帯のケインズの一行パーティー

剣士として雇われていたのである


 その目的は自身の向上のためでもなく武勲のためでもカネの為でも

復讐心の為でもない、シーア(クレア)の行動をレーリアとリーメアに

報告するためだけにこのような冒険者を装ったのである。

全てはレーリアとリーメアに賛同した多くのドラコ族やヴァン族を

統べる次期王女候補の

動向を見守る介添役としての指命を果たすのが

彼? 彼女? の行動原理の全てであった。


{シーア(クレア)様今暫く堪えてくだされ その時が来ましたら

お渡し致します。

と祈るような目で見つめていた。



 大きなサーペシアの口がヘルハウンドの一番に迫る

{ お嬢ちゃん お痛はいけないぜ いくら傀儡っても自身の意思を無くしちゃ

しめぇだぜ }

それでも尚向かってくるエンシェントサーペントの幼体に

{ ちっ しょーがねぇなぁ ちっと我慢しろよ }

と言うが早いか一番は、白銀のエンシェントサーペントの頭に拳を一発食らわせた


きゅうぅぅーーッ


と可愛い悲鳴を上げもんどり打って仰向けに伸びてそして可愛い

”少女”の姿に変わっていく


うわーん 痛いーっ


と大泣きをして恨めしい目で一番を見て


「あれっ なんでここにいるの? 

知らないオジサンに何か喰べさせられて ...つ 」

と吐き出したのは黒い宝珠だった


それをすかさず足蹴にするやいなや宝珠はあっけなく砕け散る

それを以て彼女を縛っていた何者かから開放されて

誤解したのだろう、すぐにに食ってかかってきた

「もう少し眠ってな」

と彼女の鳩尾に食らわせて意識を奪った。


 華奢な体に可愛いワンピースドレスの少女を抱えそのまま

レフィキア世界へと掻き消える

そしてレヴィアに世話を任せ、改めてシーア(クレア)に加勢した


「シーア(クレア)様 召喚した魔物は呪縛を解き

今は少女の姿でレフィキア世界に居ります

あとはレヴィアが何とかするでしょう


レフィキア世界に入る際些か不本意でしたが少女の姿を取りましたが

後は、シーア(クレア)様とこの一番とアイツだけです」

青年姿の”一番”はそう言った。


 わたしはその少女の顔を見たかったが今はそれ所ではない

いち早く保護する対象と判断し安全な場所へ避難させた

その英断に感心し


「えぇ お願い」

「もちろんですとも」

その一言で全てが始まる。わたしと”一番”とビナレスとやらの道理を賭けた戦いが。


 この世界オルティアでは、冒険者同士では術名を言わない

無詠唱が基本である


なぜなら自分の手管を相手にわざわざ知らしめるようなものだからだ

牽制の意味合いで、実際に発動する術と詠唱が異なる場合もあるが

それは高位の魔術師や魔女など魔術の求道者ができるのであって

シーア(クレア)いえどもこれはできなかった


 詠唱は大きな隙を生み、更に敵対相手が知性体である場合は対策されることも

あるしたがって術士の多くは気合の言葉のみで戦うこととなる


 しかし例外もあり、相手が敵対知性体ではない場合は、一行パーティー

自分の術を知らせるため、単純な術でも一言詠唱をする場合もある。

これは、周りに頃から発露する術を知らせて安全域に退避してもらったり

射線を開けてもらう意味合いも持つ


 経験豊富な冒険者だと、一行パーティーの構えで判断して予め効果範囲を避ける

そんな動きが自然と身についていた


 今回は、一応知性体であり辺りは打撃音・破裂音・たまに斬撃音が飛び交い

あとは気合の声で満たされていた


「どうしましたかな? シーア様 私めが恐ろしいですか? 

他の皆様は私めの術に翻弄されていますなぁ

 少しは、タネを看破されましたが 少しも問題有りませんとも

貴女と相手できればそれでいいのですから

では手ずからお相手いたしましょう」


 小柄な老紳士姿の男は、右手に細い細剣レイピアに似た蛇腹剣を構え左手を後ろに回して

一気に詰め寄り、今まさに鋭い突きを浴びせてこようとしてきていた。


大変お待たせしました

次回 76話 思惑の聖女達

お楽しみに

細かいニュアンスは変更があるかも知れませんが

ストーリー変更は有りません


目の前に迫るレイピアの切っ先!! シーア(クレア)はどう切り抜ける?

一方、タフタル大陸 宗教都市国家:聖都リームレスでは聖女ルルスがある思惑を画策していた。

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