74話 課せれた責務 ー禁忌の詠唱と囁きそして・・・ー
お待たせしておりました
難関去って、また新た難関が待ち構えていた
巨大な円柱が建っている周りを、ぐるりと堀が囲んでいた。
古い、遺構や遺跡等は、外敵避けの罠兼結界の”堀”が造られていることがある
大抵は水面には飛び石があり、そこを渡って行くのだが
よく目を凝らせばそれはとてつもなく高い、かつての屋根を支えたであろう
柱の頂辺だったりする。
御多分に洩れずその堀もまた水棲魔物の格好の棲みかと化して、
天然の要塞となり冒険者達を阻む。
わたしが見た聖廊へ至る巨大な円柱状建造物もこのような
堀に囲まれていた。
「ねー ミーアこのような”堀”って見たこと有るの? 」
わたしは、師のレフィキアからしかこのような冒険譚は聞いたことがなく
実際目にするのは初めてだった。
「ん そうシーちゃんは見たこと無かったっけ ...そうだよね」
何処と無く含みがあったが今はどうでもよく、次の言葉を待った。
「あるよ よく適当に近づいて不意に、頭を喰べれらる仲間が居たりするのよ
だから、水場やこのような”堀”は一番危険よ」
この時、ミーアの唇が醜く歪んだが、わたしは気付かなかった。
「まずは、此処をどうにかしねぇとな」
とケインズ。
開口一番、取っ掛かりを作るのはやはり頭目といったところであろう
「伏せ越し(一度水中に潜り、その水中に入り口がある)でなければいいがな
生憎、オレは泳げねぇんだよな」
とニース。
明らかに苦手そうな顔をした彼はは純粋な山育ちで水泳ぎは苦手らしかった。
山育ちのニースにとって、専ら
水関連は、オルトの妖術頼りであり
その水泳ぎの素養がある者はルベリト大岩礁帯の
海賊連中上がりか、海岸近くのトリンデ出身者で無いと無理であろう
まして何が棲んでいるかも分からない水中で、下着で素潜りと来ればどれだけ
厄介な場所かは知れているというものだ。
取り敢えず、蛭蛇が多数生息している叢では、早く堀付近の
石畳になっている堀付近まで近づく必要があった。
数人の斥候を先頭に、堀近くまで慎重に大規模討伐隊の隊を進めていくと
全面石畳の場所があり湿ってはいるが、取り敢えず蛭の驚異は回避されそうである。
石畳の高さとほぼ一致した水面は凪の如く静かであり時折水面に丸い波紋が
出来るのみで、とても水棲の魔物が跋扈しているとは思えない静けさであり
皆見慣れない風景に、早速その水面を恐る恐る覗き込んだ。
「うぉー すげー 街だぜ ありゃ古代の街だな でも俺達の知っている”街”じゃねぇな
建てモンが、皆四角いぜ 見てみろ」
と戦士の男。
「ほんとだ 入り口も四角だしかも小せぇな」
わたしも水中を覗き生まれて初めての光景に息を飲む
今の私達の住居は遺跡や遺構をそのまま利用した集合住宅風のや
セネストリのように魔物の遺骸をそのまま利用するのが殆どで
一戸建となるとレフィキア世界の屋敷の様に貴族趣味の屋敷を買うか
見栄張りが多く、華美好きなエル族の住居の払い下げを買い取るのが
大半で、大雑把なウル族や根無し草の生き方を好むケット族等は
あまり華美には拘らず雨風さえしのげて魔物からある程度身を守れれば良いらしい
質素な石造りや木造多く
翻って、ややエル族と似た趣向が有るのがヒム族で
自分の生きた証を子に伝える為子孫に受け継ぎ受け継ぎ発展させて大きくなって
いく傾向にあり煉瓦造りが多かった。
職人堅気のドワ族は岩窟など自然の穴倉を主に居住形態としていたり
岩をくり抜いてそのまま住居にする、ノミ一本で綺麗に仕上げ
己の腕を内外に示し工夫と技を競うそれが反映された居住形態である
ビヨンの製作者のブレイルの工房のドワ族もこのような岩をくり抜いような
工房が集まっていた。
もちろん例外があり全てが当てはまるわけでない
それに各種族が混在していると
大きさも形もバラバラで石造りや木造・煉瓦造りと外観も
一つとて同じ建屋はないし傾向が揃うこともない。
しかし、わたしが見た建物は
大きな四角柱が折り重なるように乱立している上に、
どれも入り口らしき開口部が小さかった 住居と言うにはあまりに
見慣れない構造物だった。
『蒼き深き者の跡じゃよ』
髪の中からぼそりと声が聞こえる。
『こんな場所にまだ痕跡が残っていたとは驚きじゃわい』
クローティアは驚きの声を隠せていなかったが、彼女なりには
驚嘆していたようだ。
「ねぇ なんであんな形なの? 」
私が聞くと
『彼らは、一族一種の種族で部族同士で氏族を作っておった
男も女も体格差は殆ど無い われらのように多種族文化とは違うからのう
したがって自ずと建物も段々収斂されあのような形に落ち着いたのじゃ』
「うわー あれビルじゃん すげー」
とソーヤ。
「びる? 」
異世界語だろうか? 聞いた事の無い響きの言葉である。
「あぁ 俺等は、あんな建物にいたんだ ”異世界” じゃ
都会なんかがあんな風だけどちょっと懐いな」
と彼の目尻に涙が浮かんだのをわたしは見逃さなかった。
水は透明で、陽の加減か蒼っぽく見える
この幻想的な風景も、水中は今やかつての住人に代わり 小型・大型の水棲魔物が
今代の住人としてその街? を謳歌していた。
魚型の魔物、蛇型の魔物、長い鰭や多数の尾を持つ物など
水棲に特化した姿で、時に激しく魔物同士で喰い喰われ
弱肉強食の理に縛られていた。
よく観察するとわたし達が挑まんとしている巨大な円柱状の建物は
驚くべきことに何かの塔の頂辺であり悠か下は複数の尖塔群が寄り添った
聖堂風の建物でありその円柱状建物は一番高い塔らしい。
小柄な住人がこれほどの巨大な尖塔を建てた目的は今は分からない
わたしたちが今、やらなければならないのは過去に、思いを馳せる探求ではなく
内部の進入と探索迫り来る敵意の排除、聖廊へ到達の道筋をつけ彼の者との対峙
それだけである。
辺りを見回しそれぞれの斥候が見終わった頃合いで
一団は散会となり、潜入方法を探っていた。
「おっ サリてめぇはどうする? 視察団の護衛に就くか」
やおらニースがサリに問うと
「えぇ そうしますぅ 彼女等がサリおをぉ指名してきたので
ニースさんが良ければ、護衛したいですぅ」
と相変わらずおっとりした”少女”の振りをする
このニースの一行のサリは”少女”などではなく
服わぬ種族の異性装の男性”サリューシア”である
「そうか、まぁ今は他にも治癒役は数名居るからいいだろうよ
全く、こんなトコまでノコノコ従いて来やがってよ
遠足じゃねぇんだからよ」
と愚痴るも、今回のギアトレスの監査も兼ねての同行である
彼女等が、ベルゼの統治者たる大賢者:ランドルフに顛末を報告して貰わなければ
この大規模討伐隊の正当性と、褒賞が担保出来無い
したがって、無為にも出来無い確固たる事由があるのである。
サリと視察団のネルリンゼは、目配せで頷き
ニースの治癒役のサリは視察団に合流した。
「なぁ オレがちょいと少女の振りすりゃあ あののニースだってあの通りさ
それよりちゃんと報告書は記録してんだろうな リンゼよぉ? 」
とネルリンゼ小声で囁く。
「うん サリちゃんの言う通りにやってるもん でもリンゼはぁ ねー早く
ヒトが千々になるトコ見たいの ねー? 」
とサリに甘え声を出す
この視察団の筆頭のネルリンゼもサリ同様服わぬ種族の”男性”で
他人が苦しんだり千々になるのを見るのが何より好きでただそれだけのために
この大規模討伐隊に名乗りを上げた外道である。
下界では大抵は”事後”の屍体しか拝めない
慈悲深く、博愛に満ちた慰問視察団を装い
魔物や無頼漢に凄惨な目に遭わされた被害者の慰問に訪れて、
遺体をたんまり検分したその夜は、
屍体を思い出しながら酒の肴に”男性”として昂ぶった徴をメイドにぶつける。
それが今は、”生”でそれを見れるのだから彼は
その時を今か今かと待ちわびていたのである。
「あんまりはしゃぐなよ 外面だけでも
体裁を整えておけよ なぁリンゼ」
と傍目は仲のいい女友達の様に手を繋ぎ、その手に血管が浮き出るほど
膂力を込めた
「サリちゃん イターイ そんなにしないでちゃんとオンナノコするから
お手々をゆ・る・め・て♡ 」
彼はスカートに明らかな違和感を浮き出たせ、しなを作った
「今から、興奮するなよ 相変わらず”判りやすい”ヤツだな
今回は必ず誰かそうなるからゆっくり愉しみな
でも”仕事”はちゃんとしろよな」
「えへへ、 分ってる♡ メイドに任せているもん」
「ちっ 怠惰な野郎だぜ」
と
こんな会話が視察団一行では交されていた。
ニースは、かつて冥骸獣”ユクントス”この心の臓が有った聖骸遺構:エトル
つまり今こうして攻略中の遺構に潜る前
サリに言われた事を思い出してた。
彼女は、このギアトレスの件が済んだら、タフタル大陸に
身を置きたいと告げて来ていた。
滅多に私生活を明かさない彼女ではあるがこうして自身から申して出て来たのは
彼:ニースにとっても内心驚いていた。
小一行としては優秀な治癒役であり
かなりのドジや進んで地雷を踏み大怪我や再起不能寸前まで追い込まれた
異世界からの渡り人であるソーヤを幾度となく救って来ていた
そんなサリが、どうしてもタフタル大陸の姉の元へ身を置き”神官”としての役割を
担いたいと申し出たのである。
優秀な治癒役が抜ける痛手が重々承知であり
冒険者稼業は、個々の思惑が入り乱れる小集団でもある
小さな”国家”と言ってもいいだろう
時に利害がぶつかり恫喝・裏切り・他一行の間者・
時に気に入らない面子の陥れなど
そんな手汚い謀略など事欠かない。
それでも、一行の形を保っていられるのは相互に助け合わないと
カネや報酬等の利害が同じだから... これに尽きる。
例え、手汚い手段でそれらを独り占めしようにも
埒外の異能などを持ち合わせない限り無理だからだ。
一個人でそれらをやり遂げるのはあの得体の知れない
さっきから石版の傍でなにやらオートマトを話し込んでいる
シーアという少女ぐらいであろう。
突然、オルティア大陸の辺境の街に現れて何の”対価””代償”なしに神代級の
武具を提供した謎多き少女。
王都ギルトスでも少ないながら彼女の人外な噂が否応なしに入ってくる
冒険者なら、そんな未知の噂は憧れ共に怖れでもあった
人語を理解する神代級の人外が身近にいると思えばいいだろうか。
なにはともあれ、サリが抜けるのはこの一件が片付いてからだし
一番の相棒で伴侶たるナリアには話してあり了解も取り付けてある
「仕方ないだろ ニース、ウチの一行は縛り付けないのが方針だろ
二人で夫婦の祝杯を上げたときからの約束さね
とっくに理解しているだろ アンタ? 」
「あぁ そうだともだからオレは二つ返事で了解したさ
ナリア、お前との約束は反古にはしとらんだろよ 違うか? なぁ」
「分かっているならいいさ 早いとこ天幕張って落ち着きたいトコだけど
ここは あの娘次第かね」
ナリアはシーア達をじっと鋭いウル族独特の眼光で見据えていた。
わたしは、辺りを見て回るうちこの石畳の地面には蛭が寄って来ないことに気ずき
一先ず安心していた、盟約を結んだ少女達の濃厚な気配を感じつつ
奇妙な石版の前に立っていた。
『シセラよ おるか? 』
クローティアは空に向かい呼びかける。
「うふふ 居るわ シセラは何時だっている わが主シーアのいる場所なら」
『相変ず 忠義は見上げたモンじゃの 誰にも従かなかった ”魔女”の遺産たるお主がの』
「相変ず 貴女も貴女ね ...で察するにこの石版って訳? 」
「そう 文字があるけど古代文字とも神域文字とも違う どうよみ解いたいいのか
教えてくれる? 」
わたしが理解出来るのは今代文字と古代文字の一部くらいで
魔導考古学の学者でもなければ、
読み解けない更に古い文字体系は流石に解らなかった。
「ねぇ ビヨン 貴女アルカーナと魔路繋いで居るんだっけ? 」
[ そのように、理解してます しばしお待ちを シーア・シセラ
...語彙検索 変換 ...今代語に翻訳 .........完了。 ]
ビヨンの瞳にピンク色の陣が浮かび文字を光の紐のような物でなぞっていた
突然 抑揚のない事務的な音声がビヨンの声色で響く
[ ようこそ ...蒼き深き者の 本日 ...... ...歴 ...年 巨蟹の月 緑藻の節
遊戯施設:ニフーレ・トカーナは 皆様に有為な遊戯をご提供いたします
三体の魔物 ......。 ]
突然事務的な音声が終了して
[ どうやら此処までのようです あとは解析出来ませんね ]
「ありがと ここでも有益な情報はなさそうね」
わたしはポツリと愚痴をこぼす。
遊戯施設:ニフーレ・トカーナ・巨蟹の月 緑藻の節など慣れない単語が飛び込んでくる
わたしが知っている遊戯施設といえば安全な街の広場にある鞦韆ぐらいで
後は殆どが遊戯札ぐらいでそもそも施設としての遊戯場所は聞いたことがない
ただ愛読書の異世界譚本にはこうした施設があり大きな”水車”のような乗り物や
地面をうねうねと、高速で動き回る”鉄の蛇”や
拷問処刑用の振り子断頭刃のような船を模した乗り物等が
描がれていて真っ先にこれらが思い浮かんだ
ただそれらのよな乗り物の姿・形も微塵も感じられない。
ただわたしの頭の中では、内部に進入する方法がこれらの情景や想像を追い払っていた。
と
静かな水面が前触れ無く盛り上がり
{ボェェェー }
奇妙な声を上げながら菱形で長い尾の魚型の魔物が飛び出し少し水面を滑空した後
大きな水飛沫をあげ再び水中に消えていく
なんといっても特長的なのは
頭部先端の両側には、胸鰭由来の”頭鰭”と呼ばれる
ヘラ状の特殊な鰭が一対あったことである。
”普通”の魚を想像していた内陸育ちのわたしは見たこともなかった。
「おわっ なんじゃありゃぁー ”レーヴェンティール” か?
海の魔物がなぜこんなトコにいやがる
とトリンデ出身らしい海の漢のようなウル族の男性が大声を張り上げていた
海の漢は簡単には物事に対して動じない質であったが
流石に虚を突かれたらしい、素頓狂な顔を晒す。
その男性の話しによれば水中に潜った魔物は ”レーヴェンティール” といい
その大きな口で 小さな漁船を一呑みにするという
時折大群で今のように海水面すれすれを滑空して得物を喰らう海の漢泣かせの魔物の
一翼だという。
自ら好んで襲いはしないものの大群の回遊に邂逅すると
トルティアの王立船団ぐらいは、あっという間に壊滅するほどの勢いらしく
なるべく回遊域には入らないよう海の大海賊:ケモール率いるルベリト岩礁帯
に於ては身近な脅威としてつねに警戒しているとの事。
「あいつは何でも丸呑みしやがるんだ ヒトはもちろん船やモノもだ
ハラの中に入ったヤツで生きて帰った者もいねーってくらいおっかねぇんだよ
でもよあいつらの親玉はベルゼの大きな浮遊大陸一つ分の
躰があってよ 空に浮かんで魔霧を喰いながら
主を求め神代から彷徨っているってよ 元・海賊稼業のオレ達じゃ
有名な伝説よ その一翼がなんでこんなトコによ おっかねぇよ」
と終始声を震わせる。
わたしは古書にあった ”レーヴェンティール” と同一の魔物かは不明だが
あの一見可愛らしい姿にウル族の男性とは異なる場違いな印象を受けていた。
ややあって、鏡面のような水面を覗くと菱形の影が多数奥底に見えかくれしていた
塔の内部に入るにしてもまずはこの水塊をどうにかせねばならなかった。
「シセラの見解を聞かせてほしいな」
わたしは、シセラに問うと
「んー? そうだねもう少し時間を頂戴 それといい事教えてあげる
この床の石畳はね 蛭避けの素材で出来てるわ大昔も今も蛭は嫌だもんね
少し貰って置きなさいな 咎める ”蒼き深き者” もいないしね」
これを聞いて私はすぐ床を小刀で削り粉末にする
『 どれ久々にお主を手助けしてやろうかの その粉末を 胸の鱗になすり付けて見るんじゃよ』
クローティアに言われてわたしの胸の谷間にある鱗群の一つに粉末をなすり付けると
クローティアはパチンと指を鳴らす
すると私の鱗が一瞬青黒く染まるとまた元の白銀にもどる
「何を? 」
『これでお主は命運尽きるその時まで蛭共に怯えなくて済むぞ
お主の鱗群はこの辺一帯の蛭避けの石畳の地面に相当する効果がある
ただお主のマギの状態次第で効果は変わる 体調には気をつけるんじゃ』
これ以来わたしは嫌な蛭に悩まされずに済んだが効果があるのは
ある一定の距離までであり完全には避けてはくれない
それでも以後湿った叢に入っても蛭達が自ら慌てて逃げてくれるので
冒険に役立ったのは言うまでもない。
今の会話を聞いた他の皆も、その場で色々な形に加工して
身につけていた。
中には多量に装身具に加工する強者までいる始末であった
シセラは水中等お構いなしに悠か水底の正規の入り口らしき所まで
幻体のまま潜っていった。
「おしっ 蛭の心配が無い以上 ここで一旦此処で小休止といこうや」
「「おーっ」」
とケインズの一声で、天幕が張られた。
遺構内に時折差し込む外界の光からは夜も昼かも分からず、
皆思い思いに小休止を満喫していた。
※※※
時はシーアの時代から遡ること 季節の巡り約幾千前
”蒼き深き者” 又は、蒼き深き種族:ノーア族と呼ばれる
叡智に長け、争いを好まない種族が全盛を誇っていた頃。
一人の少女が愁いを帯びた面持ちで神殿に入っていく
「どうなされました 姫御子:リーナ様」
一人の老神官がシーア同に陽の光加減で七色に輝く髪を揺らす少女に声を掛ける
「いえ ただ ちょっと ...」
と言葉を濁す。
このリーナという少女の髪もまた暁方には暁方色、宵闇時は宵闇色
陽が指す日中は加減で七色に変化しシーア同様の髪色をしている。
銀光沢で単色の髪のノーア族にとっても非常に珍しい
正確には色は無く中空で光線の具合で七色に輝くのだが。
そんな彼女は、このノーア族のなかでも取り分け見目麗しい可憐な少女だった
こうして ”姫御子” として種族の神の託宣者として
あるいは、象徴として皆に慕われるそんな存在の彼女が
酷く愁いを帯びた表情で神殿内を歩いていた
従者達が余計な詮索を入れたくなるというもの
「ははぁ さては貴女様に婿殿のお顔でも託宣で示され
それが、お気に召さなくて嘆いておられるのかですかな? 」
「うっ うん そんなとこ ...よ」
やはり端切れが悪い返事だが、老神官はこれ以上追求はしなかった。
「お出かけで? 」
「うん、 ちょっと気分晴らしよ 都市最大の遊興施設:ニフーレにね メルナと」
メルナはリーナの従者でもあり友人でもある
遊興施設:ニフーレは悠か遠い遠い未来シーア達が訪れる 後に聖骸遺構:エトルと呼ばれる
尖塔群である。
争いを好ない代わりノーア族は非常知識欲が旺盛で、こと知識の追求にかけては
時に、他者に対して排他的とも取れる獰猛さと貪欲さを見せる。
その、知識の御蔭でシーアの時代より悠かに優れた工学・魔導・錬金術等が発展していた
その知識の集合体であり成果である魔導機構都市:メルエンティアを創造し
少女型の都市制御中枢に管理を任せるくらいである
その応用が、生きた遺産や
生きている戦術魔導であり後に畏怖の対象になったのは
生きた遺産達が先にシーアに独白した通りである。
そんな彼ら(ノーア)の遊興施設もまた知識欲に疲れた人達の憩いの場であると同時に
知識のお披露目の場であった。
中には実験的な装置もありそれらが人々を、魅了し更に知識欲を駆り立てる。
そんな知識欲の塊のようなノーア族のリーナだが
彼女は、血筋はあるもののあまり貪欲な部類には属さない
一般人である、といっても遥かに優れた叡智はしっかり備えていたが。
しかしながら、その温厚さには裏があった
争いを好まぬのではなく、同じ種同士の争いを”意図”してさせないよう
ある残酷な方法で自分達の種族の闘争本能を満足させていた
即ち、優れた魔導医学を応用して自分達の似姿達を創造しそれらを弾圧や差別することによって
猛る本能を満足させていたのである。
最初は、自分達と変わらない容姿の”ヒム族”
次に過酷な労働向けに狼を元にした”ウル族”
愛玩用に猫を元にした”ケット族”
細かい細工物を造らせるためだけの種族”ドワ族”
賢い自分の話しと長命な自分達についてこられるような相手に”エル族”
等であった。
他にもトリや蜥蜴等を改造した種族を創造し
それぞれに”知性”を与えた。
どれも自分達より劣る容姿や躰の特長を持たせた。
同種族同士で差別意識を持たぬように
これもわざとこれらの異人に対して差別意識を植え付けて
矛先を向けさせるためである
さらに今度はそれら異人同士で争うように焚き付け煽る
問題が大きくなった所で、それをダシに創造したノーア族自らが弾圧
粛清の名の元で堂々と蒼き深き者自らの闘争本能を満足させる
そういった残酷な手間を掛けて蒼き深き者同士の争いや差別を回避していたのである。
リーナはこれにも憂慮していたが民の象徴たる自分が同じ種族の半ば
特質とも言える行ないを非難するわけにはいかなかった。
これがリーナが抱えている大きな重責の一つ
もう一つは、彼女が姫御子たる所以である、明確な託宣を得られることにある。
時に世界は彼らの目に見えぬ所 神界・人界・魔界・冥界を争う三神の争いの真っ只中で
世界全体が混沌として新種の魔物も三神の争いの余波で次から次へ誕生して
各地で脅威をもたらし
それらは蒼き深き者達にも差し迫った終末思想に染めていった。
この時産まれた後に”神代級魔物”と呼ばれる魔物が進化したものや人々の
負の感情に形を与えられたモノ達がシーアの時代の魔物の姿になっているのは
言うまでもない。
そんな終末期思想の最中の明晰な託宣である
そのあまりに重すぎる内容に、先のような
従者にすら勘繰られるような言葉の調子となってしまったのだ。
遊興施設:ニフーレ でリーナはメルナと御忍びで染め粉で黒に染めて
少しでも重い託宣を頭の片隅に追いやろうとしていたのである。
「ごめんね ちょっと待って メルナ」
「どうしたの 案内用の石版の方 真剣に見てるけど? 」
「あっ うん ちょっとね メルエンティアの少女型制御中枢とお話してくるね」
「えーっ こんな時にも”お仕事ーぉ?” 」
「すぐ済むから待ってって」
リーナとメルナ達は 遊興施設:ニフーレの最上層部に
張り巡らせた展望用遊歩道で展望を眺めていて
その散歩中だった。
リーナはその一つの石版に近づき彼女しか知らない
普通の案内文の文字からメルエンティアの少女型制御中枢と対話出来る
符丁の文字を選び触った。
普通の案内文であるがこの文字列から特定の符丁になるよう文字を一つ一つ触ると
これが少女型制御中枢と対話出来る特別の文字列になっていて
その特権は彼女しか赦されていない。
「ね? お願い出来るかな どうしてもずっとずっと”未来”に此処を訪れる
女の子に伝えたいの どうしても、此処まで水で一杯になって通れなくなっているのを
助けたいの ”一階層下迄”水を抜く仕掛けをね ここまで水で満たされるその前に」
[ ふふっ 貴女はいつもそうね 今より 遠い遠い未来を優先するなんて ]
優しい機械的な声であるが抑揚はヒトそのものだ
「違うっ 今のヒトも好き 私達が創造した異人達も好き でもどうしても
”滅び”は ......これ以上は勘弁して」
重過ぎる託宣は言葉を詰まらせるのに十分だった。
[ まぁ いいわ 貴女の託宣は間違ったことって無いもんね
下の階層迄の排水の施工命令はたった今発行したし 制御の宝玉は
すぐ転送しましょうどうせただの命令の容れものってだけだしね ]
彼女は魔導機構都市:メルエンティアの少女型都市制御中枢であり
独自の自我を有する。
都市の開発や制御の全てを担うリーナの時代の頭脳であった
これも都市開発や制御に煩わされくない思いで開発された
蒼き深き者の叡智の一つであった。
その彼女に時折こうして”指令”を出すのも姫御子の重要な”仕事”の一つだった。
程なくリーナの足元には水色に輝く握りこぶし大の宝玉が転送されてきていた。
[ それと 私亡き後も動くように自動命令を宝玉に仕込んで置きましょう
それで 宝玉はどうしましょうか ]
「遠い遠い未来、この石版しか残っていないの だからこうしてこうして」
と
リーナが更に符丁を入力すると石版が縦に二つに分かれた
これは本来この魔器の整備用の空間である。
「此処に収めると仕掛けが働くようにしてちょうだい
宝玉はそうね あれがいいわ」
と後ろ側にある大木の洞にそっと収める
この樹も未来には残っていて更に巨大な大樹になっているのが明晰夢で
分かっている。
「お願いどうか見つけて頂戴」
リーナは、祈りを捧げ寄生木を目印にその洞に植え込んだ
そして、新設されたばかりの巨大書庫:アルカーナにある詩文を残したのである
※※※
再び今代シーアの時代
わたしは隈無く石版を見つめていたが古代文字らしき文字は見当たらず
気になる気配もない
そこで一計を案じ ビヨンにアルカーナの調査を依頼したが
何せ魔路が遠く細い
珍しく
[ シーア 暫くお時間を戴きます ]
と相当負担がかかっているに違いない瞳の色がピンク色に終始淡く輝いていた
戻ってきたシセラも
「うーん 芳しくないわね この魔女の遺産たるシセラ様を此処まで悩ませるなんて
いい了見してしてるわね」
と
シセラもご機嫌斜めですぐ左手の薔薇の紋に入ってしまった。
『 なぁに焦らんでもよかろて それとミーアの奴元気が無いの どうしたんじゃ? 』
終始無言だったミーアの顔色も優れないようである 高地のせいでもなさそうだが
大事を取ってレフィキアの屋敷で休むを言って陣に潜っていった。
能力ある少女達も沈黙を保ったまま
レヴィアに依ればライブ・アーティファクトたちは相変わらず部屋から出て少し庭で遊んだあと
すぐ篭ってしまうという
余程、ライブ・アーティファクトを喰らうライブ・アーティファクトの存在が怖いらしい。
そのライブ・アーティファクトを喰らうライブ・アーティファクトとやらを”こちら側”に引き入れ
なければどのみち彼女達の協力は得られないし、無理に連れ出すわけにも行かない
私は小さい天幕で横になり静かに目を閉じた
ヤンスは今男性同士ということもあり吟遊詩人のニラウスと行動を伴にしている
魔樹の遠足籠 ロムルスは
『どうかしやしたか シーア様 っち寝てしまいましたか
時に クローティア様 ミーア様の様子がおかしいことには』
複数の目玉をギョロつかせクローティアに声を掛ける。
『 うむ 気付いておるわ 今はそっとしておけ
人外になってもそのことに葛藤もない此奴の方が儂からすると
どこかおかしんじゃ』
『そうでやすね シーア様はまるで最初からシーア様だったように思えまさぁ』
『儂もな そう思うこの儂がこういう事態を此奴に強制しておきながら
勝手な言い分だとは思うがな』
と半ば自嘲気味な物言いだった。
わたし、ビヨンはヒトの手に造られし魔導人形である。
いくら高性能なコアを二つも備えて居いてもそれを支える義体が追いついて来なければ
わが主人たるシーアを守り切ることは出来無い
メイドのミーアは薄暗い感情を抱えているし、身近な処から
安寧が瓦解するかも知れない
なぜこんな”不安”な感情が起きるのかというと
じつは稀代の魔導工学士でもあるブレイルでもヒトである以上完全な
モノは造ることは出来無い、水銀の劣化、義体の僅かな遊び(クリアランス)の拡大
定期的な診断が得られない現状
それらがビヨンにも差し迫っていた。
それらがすべて”不安”いう感情に集約される
シーア達に知れずこっそりとアルカーナを検索していた私が
見つけた語句は疑似生体義体という言葉
ヒトの様に疵がついても自動で修復する柔軟な動きも可能
強靭な骨格と生体の持つ柔軟な動作
水銀の血管と、ヒトと同様な血液の血管を備え見目は
ライブ・アーティファクトのように可愛らしい
オマケに髪まで自在に操れるという義体も存在するという。
今の水銀の武器に加え強靭な髪までも武器になる利点は
人目からは武器を帯びているようには見えないことである
何より暖かくて柔らかい内骨格製なこともある
外骨格では出ないことも多くシーアの望みに全て応えることが出来無い
いろいろ算段した結果 この結論に至る。
何時しかシーアに頼まれた情報とは別にこんな事を検索している
七色に輝く髪を優しく掬う魔導人形が此処にいた。
※※※
リーナという少女が負うにしてはあまりに重く残酷な明晰夢であり託宣だった
ある日、巨蟹の月 緑藻の節にリーナは
老神官に全てを打ち明けた
それは、あまり遠くない未来 行き過ぎた知識欲が
超巨大な怪物を生み出しそのユクントスの討伐ために
この遊興施設:ニフーレの尖塔を心の臓に突き刺し討伐した ...が
その後腐敗した怪物の瘴気に侵され異人達を除く全ての
蒼き深き者が疫病で”たった一人”を除いて滅亡する事を
同時期、目覚めたばかりの人造硅素魔物:ビナレス・ビナレアーナによって
魔導機構都市:メルエンティアもすべてを破壊され滅ぼされ
都市が千々に砕け散りこの人造浮遊都市の七色の建材や素材が世界中に散り
”オーパーツ”と呼ばれる七色の小石に成り果てる事も。
この滅び以降世界は、七色の色彩の物質が自然の色に加わった
そして魔導都市もリーアの世界もそこで完全な終焉を迎える事も
このとき、姫御子として祀り上げられて皆の象徴として
政にも干渉を赦されず、特定の個人に感傷や懸想を持つことすら叶わず
ただ置物のように生きてきた彼女が
初めて、自分に課せられた重い責務と義務と逃れるすべのない運命を自覚したのである。
「さようですか 生あるものいずれは終焉を迎えるもの
ただこれが自然の理では無しに
我らの所業の所為なのは皮肉ですかな
それとも異人達を虐げた我らへの天罰ですかな
いずれにせよ
運命やも知れません
この老いぼれも貴女が
婿殿と共に歩みゆく姿を見とうございましたが ...はは叶いませんでしたか」
達観したような彼の目に大粒の涙が浮かび
リーナは静かに彼の問いに首を縦に振る。
「えぇ ”お父様” わたくしだけが何故遠い遠い未来へ託されたのでしょうか」
リーナは老神官:リウスの大きな胸に抱きついた
彼らは小柄であるがそれでもリウスの胸は今の彼女には大きかった。
「リーナ、それはお前にしか出来ないことを託されたのだよ
この我ら蒼き深き者達でもなく、儂でもなくお前個人でしか出来無いことをな
...で刻は何時かね? 」
「いえ、それは分りません そこまでは女神:リーン様は親切ではいらっしゃらないのです
明日かも知れませんし 猶予がまだあるのかも知れません
でもいつか”近い刻”ではあります」
リーナは毅然と言葉を返す。
「そうなれば、準備を怠る訳には行くまい
至急、魔導院に後世に優秀な遺物を遺すという名目で櫃をつくらせよう
或る種の動物達が行う冬眠を模した魔器じゃ
この中に入れば歳も取らずあらゆる厄災から逃れることも出来ようが
民全体は無理な上今から開発に入るのでは出来るのは一つかも知れん
お前の明晰夢の様にな」
「お父様も ...っ」
老神官:リウスは言葉を継ごうとしたリーナの口を人差し指で閉ざした。
「儂もその滅びのなかに入っておろう、老い先短いこの我が身
其方の口からそれ以上は言わせたくない
世界の理は曲げてはいかん
助かるはずのお前も、因果律の連鎖に巻き込まれ託す事も叶わなくなるやも知れぬ」
確定していない未来は、常に不安定で因果律の連鎖は容赦なく残酷である
助かるはずの命でさえ、容易く奪っていく。
わぁーーーっ
とリーナは外分もなく泣いた。
「ふふ 泣くではないぞ お前の亡き母:ミラーゼに神界ユクラシアから怒られるぞ」
お父様ーーッ。
嗚咽は静かな私室に大きく響く
「この儂だってッ 本当はッ 本当はッ」
リーナ幼い頃、産後が思わしくなく病弱だった彼女は既に他界していて
男手一つの愛娘である。
普通とは違う髪色の所為で姫御子に選ばれた数奇な運命の娘が
愛おしいのは誰にも負けない
滅多に父と呼べない、彼女を甘させることも、彼女が甘えることも赦されないだた一人の
老神官の従者に徹していた彼がここで初めて感情を吐露し
愛娘の激情にリウスもこの時、従者としての枷を外していた。
「この事は誰にも? 」
リウスは努めて冷静に尋ねる
「はい、 でもメルナにだけは打ち明けようかと」
「うむ 彼奴ならいいだろう 機会を見てお前から言いなさい
それが今お前自身で出来ることだからな」
やさしくリーナを抱きしめるリウスがいて
姫御子と従者でなしに、ごく普通の父娘が大神殿に佇んでいた。
この大神殿はシーアの時代タフタル大陸 聖都:リームレスの基底部に
あり世界でも最大の古代の迷宮遺構として存在している。
それ以降リーナは父と一緒にいる時が多くなった以外は
二人は傍目からは日常を取り戻していた。
今以て不明なのは”誰が”巨大なユクントスを塔の上まで導き
そして、上から奴を押し付けたか である。
リーナの明晰夢は自分に関する事や、起きた結果ははっきりと視えるのに
その”肝心”となる経緯となる場面は見えないのである
※※※
静かに束の間の休息が穏やかに過ぎる
わたしは改めて辺りを伺い見渡していた
こうして景色を眺める余裕はエトルに入ってから初めてあり
今までは見とれる暇もなかった
(そういえば ”昔”はこうしてぼんやりするの好きだっけか)
わたしは”シアズ(だれか)”の思い出と今を無意識に重ねる。
辺りには樹齢が想像付かない巨木が数本生えていてその内の一本は洞から
生えたであろう寄生木と共生していて
絵描きがいたら題材にするくらいの奇観を放っていた。
レフィキアの屋敷で寝台でふて寝をしていたミーアに
『そんなにシーアが憎いか? それと頭蓋にいくら懸想したところで奴は戻らんぞ』
といきなりクローティアの声が降り掛かる。
「だめッ! これはミーアのなんだから 誰にも渡さない」
と子供の様にクローゼットに取り縋る
『儂もどうもせんよ 御前さんがそれで満足するならな じゃがの彼奴に
憎しみを向けてもどうにもならん 御前さんがよ〜く知っておる事じゃろ? 』
「それは知ってる でも私の卑しい女の部分がどうしても赦さないって
それと なぜシーちゃんだけ可愛いの? あの娘達の様に可愛く成りたいのにっ!! 」
と泣きじゃくるミーア。
彼女がいう”あの娘”とはライブ・アーティファクト達のことである。
華奢な躰に可愛い容姿長い髪やうねる髪等がそれらを更に引き立たせ
仕草一つとっても様になっている
野暮ったい容姿と自認しているミーアとは対極だった。
『再誕する方法が無いとは言えんが お勧めはは出来んな』
「えっ それって? 」
『 ”再誕の実” という 言葉は知っておるか? 』
場数を踏んだ冒険者のつもりのミーアでも初めて聞く単語だった。
『あぁ 魔族界隈の話しじゃからな 御前さんが知ってる ”普通” の冒険じゃ
聞くこともなかろうて それに関われる冒険者なぞ有象無象の中の一握りだけじゃよ
一口喰って耐え難い苦痛と引き換えに思い通りの姿や形質を得る事が可能じゃよ
主に魔族連中がヒトを己れと同族に引き込む手段に使う事が多いがな
”普通” には手に入らんよ』
「でっ でも何らかのしゅっ 手段が有る筈っ 」
ミーアは今にも飛び掛からん勢いでクローティアに差し迫っていた。
『でもな お主の躰は例え手に入ったとしても耐えられんがの』
「ね どうして どうしてよっ!! 」
と更に鬼気迫る勢いのミーア。
『既にお前さんの躰はボロボロじゃ あのキマーラの奴に手痛い目に合わされて
死に掛けでシーアの能力で無理矢理押しとどめたに過ぎんからな
健全な状態で人外に変成したのではない。
シーアの能力が失われれば御前さん すぐさま躰があの瀕死の状態に戻るからの』
クローティアの口から衝撃的な一言 更に
『術には不可逆の法則があって 術で変化したものは術が解けても元には戻らんが
シーアのあれは術ではないからな シーアの魔路が途切れた途端
”元”に戻るし ”宿り木の種” もシーアの魔路に従っていてな
魔路が切れると途端に”心の臓が喰われる”ぞ』
耐え難い事実が心に突き刺さり、今まで受けたどんな魔物からの攻撃より痛かった。
ミーアの殆どがシーアによって生かされる事を知ってなおそれでも
納得が行かなかった
奥底の生来の”女”の部分が激しく受け入れる事を拒んでいた。
「どうして!! なんで いつもあの娘なの シーアシーアってッ!! 」
と激しく枕を床に叩きつけるも
バフッ
と情けない音を立てるだけだった
『それだけ彼奴は別格ということじゃろ
この儂ですら、あんな存在は初めてじゃからのぅ 扱いに戸惑うことすらある』
とポロリと本音を漏らした。
人造種族というだけでも、神代から栄枯衰退を繰り返した様々な種族達
それらを超える何かがあの虹彩異色の少女が内包している
クレアーティアという宵闇の獣にしても全てが埒外なのである。
見た目は、ヒム族に似た美しい少女というだけで
前例も無ければ他の種族との類似点も見いだせないのだ
扱いに慎重になるのも戸惑うのも無理は無かった。
『じゃから機を待つんじゃ ヒトが再誕するにはそれだけ乗り越えるべき事が多いからの』
「でもあの娘の傍には居たくない
でないとわたしだけ、みじめになるだけじゃないッッ!! 」
とミーアも勢いでつい勢いで口が滑ってしまう ...が
でも本音の内なる激情だった。
押し殺していた激情がは何時かは溢れる
ヒトの気持ちというのは、こんな感情一つで容易く溢れ易いモノなのだ
それが人外になっても平気で順応して
激情すらどうにかしてしまえそうなシーアの方が変なのだと
気付くにはミーアはまだ幼かった。
『ミーア それは本気かの? もし本気ならこの件が全て片付いてからにしてもらうぞ
その後出奔するなら好きにするがええ それまでは一行としての役割を
果たして貰うからのよく心の臓に刻んでおくことじゃな
儂の情けで魔路だけは切らないで置いてやるからの』
クローティアの怒気が篭った声はミーアを心底震え上がらせるには十分だったが
売り言葉に買い言葉である
ミーアも
「えぇ そうさせて貰うわッ!! 」
と横柄な言い方でつい応酬してしまい
『勝手にするがええ』
と声の気配がそのまま完全に途切れてしまった。
シーアの髪の中でクローティアは
(つい言ってしもうたわ
これじゃウロボロスいやウロレシアと大昔喧嘩分かれした時と同じじゃな
全くヒトは分らん難儀な生き物よ)
と髪をしっかり掴んだまま ややふて腐れていてもシーアの髪の中は
やはり気持ちがよく意識を屋敷に飛ばした疲れもありそのまま
目を閉じてしまった。
わたしも疲れたのと蛭に怯えなくて済むようになったのとでそのまま
意識を沈めていき
気がついた時は皆天幕から這い出して周辺の探索を行なっていた。
「おう 起きたかい あぁ気にすんななよ 俺達は俺達なりの探索だ
寝ててもいいんだせ イシシッ」
と意地悪そうな目を向けるケインズと男性冒険者達。
女性陣はノアを筆頭に探索一行を組んだらしく
女性冒険者達を引き連れ
「さぁ 男達に負けないわよ ゆっくり寝ていらっしゃる”依頼主”に
良い結果を持っていくわよ」
と嫌味たっぷりの気合を掛けていたが、やがて皆散会し辺りに消えていった。
残されたのは視察団と見張りの冒険者数名と貴人取り次ぎ役の昼ビト数名であった。
私も辺りを探るべく急いで簡素なワンピースとブーツに着替えてビヨンと探索を開始する
クローティアの伝言でミーアは体調を崩してレフィキアの屋敷で休むと言うことであった
※※※
リーナの時代
特別浮遊式管理隔離区劃:庭園・レーヴェンティール
ここに多くの見目麗しく可愛い姿の少女達が白い簡素なワンピースを着せられ
庭園で遊んでいる
このレーヴェンティールはベルゼの浮遊島一つ位の大きさと広さを備えていた
菱形の大型魚型魔物レーヴェンティールを魔導医術で巨大化させて
住まわせていた。
彼女等が皆リーナ位の少女ばかりだったがある実験の失敗作達であり
魔導技術院の所長の一言で即廃棄される運命にあった
ノーア族は叡智に優れ知識欲に貪欲なのは先の通りだが
彼らは無生物や装身具から人型に変化する兵器まで創造していた
ノーアの民いえど星全てを掌握し開拓しきった訳ではなかった
未開の地はたっぷりと残されていたが殆どが、三神の争いの余波で生まれた
魔獣や魔物の住み処となっていて、知的生命であるノーアの民は
その一厘ですら掌握しきっていない。
当然、開拓には ”担い手” が必要であり異人達を差し向けてほんの少しの報酬を与える
これが今代のギルドの原形ではあるが、相手が人外の魔物となると
簡単に ”つぶし” が効かないものもまた事実。
何せ彼らは ”成人” するまでは全く使い物にならないからである
そこで新たに考案されたのが古くなった装身具や未知の鉱物・魔獣の素材
ありとあらゆる無生物から ”生きた” 武器を創造する必要が出てきた
これならいくらでも ”つぶし” が効く
程なく見目麗しい ”少女” 達がそれら無生物から ”創造” された
見た目を可愛い姿にしたのは ”兵器” であることを隠す為で
自ら争いを好まないと謳っているノーアの民が兵器を創造しては
異人達に、難癖を付けられ謀叛の発端にも発展しかねない
そんな事態を避けるための詭弁の策だった。
研究者の中には ”遊び半分” で彼女等を創造した者たちまでも現れる
”少女” を自己顕示欲のためだけに創造した不逞の輩であり
知識欲赴くままの創造
自我と知性を遊び半分で持たされた兵器達の意志を無視して。
そういった本来の目的外の ”少女” や性格に難がありすぎて言うことすら
聞かない ”問題児” がここに収容されていた
収容と言っても、狭い空間ではなく開放的で広い空中庭園ではあるが
地上から悠か上空の魔霧帯までの隔離である
レーヴェンティールの餌が魔霧という事もあるが脱走しても人型ならこの高さなら
流石に死亡するだろうとの算段もあった。
自我と知性を研究者の遊び半分で持たされた彼女達
外の世界を知らずただ無為な散策で永劫とも言える刻を過ごす
そして廃棄が決定し一体また一体と知らぬ間に姿を消す ”姉妹” たち
そんな、穏やかな監獄とも思える環境にノーアの民にすれば埒外の
高潔な精神を持った 彼女達の世話役で錬金術師:シアーズが
担当になってから一変する。
外界の話しを読み聞かせ外の風景の映像を魔器で見せたり
普通のヒトとなんら変わりない扱いを始めた
同じ心根のリーナもまた髪を梳いたりこっそり可愛いワンピースやドレスを持ってきて
着せたりと家族同様に接していた。
「ねー リーナぁ シアーズったらねー また、変なお話聞かせるの ふふっ本当なのかしら? 」
「シアーズのお話 もっと聞かせて 聞かせて」
「髪を梳いてよ リーナぁ それと可愛いワンピース頂戴 それと甘いお菓子っ! 」
と可愛いおねだりまでするようになり二人には大変な懐きようであった。
しかし、これを良しとしない一派もまた存在する
「シアーズ君 どういうことかね? 廃棄品なぞに情操もおしゃれも必要あるまい
モノはモノらしく扱ってくれたまえよ」
と同僚の研究員。
「上から廃棄が決まるまで、お前は黙って世話をしとれば良い」
とやや老齢の上司。
「リーナ様もリーナ様ですぞ どうしてあんな廃棄品共に世話を焼かれるのか
儂には分りませんなぁ?
”見た目” だけのガラクタなんぞに情でも絆されましたか」
と特別浮遊式管理隔離区劃:庭園・レーヴェンティールの所有・管理している
魔導技術院の所長。
誰一人となく”彼”の素顔と姿を見たことも又、見せたこともない用心深く狡猾で邪悪思考の
持ち主。
蜥蜴を魔導医術で改造しドラコ族を、野性の人型吸血魔物から肉食系のヴァン族を
密かに生み出した邪悪思考の持ち主
高潔で清廉な精神を宿したシアーズやリーナとは対極的な男。
徹底した差別至上主義者で異人達や創作した種族全てを異人と呼び
ノーアの民こそ永遠の繁栄を約束された種族で新たな種さえ創造し
そのノーアの頂点に立つのはさらに自分だけと豪語して止まない
下劣な男。
魔導機構都市:メルエンティアの中心的研究施設:メルトスの
誰も知らない執務室に向かう
長く緩やかに波打った髪、前髪の一部を伸ばし三つ編みに編み込み
可愛く揺らしている
可愛いワンピースドレスにフリルのソックス水色のパンプス
の一人の少女がスカートを揺らし入っていく
「お帰り ”メルナ” 今日も良い子にしてたか んー? 」
可愛くスカートを摘まみ脚を交差させ腰を下げるメルナ。
「はい ”お父様” メルナはいつもいい娘にしています んんっ
メルナにお口頂戴♡ 」
と ”お父様” にねちっこく接吻をする メルナ
怜悧で冷たい印象、髪をオールバックで丁寧に撫で付けて詰襟の長衣を纏ってる
ノーアににしては珍しい長身痩躯の男性。
「どうだ 我らメルトスが総力を上げて開発した 生体魔導人形は? 」
さっきとは打って変って下卑た声が漏れて来ていた
その声は男性からではなく、先程可愛くスカートを摘まみ、脚を交差させ腰を下げ挨拶し
男性とねちっこい接吻をしている ”少女” のかわいい口から発せられていた。
「はい とても人形とは思えません 恙無く ”所長” を演じておられました
メルナ様」
と猫型の異人のメイドがメルナにこう話しかけた
「誰も このメルナが ”男” で
魔導機構都市:メルエンティアを統べる ”所長” とは
思うまい なぁ ケット? 」
このメイドの名はケットという
後にこの名が猫型異人の種族名になったのはなんの皮肉だろうか。
「はい メルナ様の”お嬢様”のふりには感服いたしますわ
メルトス創設依頼メルナ様がゲスな殿方でいらっしゃるのはまだ誰にも看破されておりませぬ」
”ゲスな殿方”と直ちに制裁される侮蔑的な物言いだが
クスクスッ
「メルナはねぇ ゲスで残酷で残虐嗜好の男なの♡
ヒトよりマギが少なくても女神様はちゃんとメルナに賢い叡智と
女の子のような可愛い容姿を授けてくださった
だからメルナはもっと女の子らしくしなきゃならないもん ねっ? ケット そう思うでしょ? 」
可愛らしくワンピースのスカートを摘まみくるくる回るメルナ
「えぇ わたくしケットも異人ながらこんな処遇は夢にも思いませんでしたわ」
「だって その大きなお耳可愛いだもん だ・か・ら ト・ク・ベ・ツ」
ケットの耳は普通の猫型異人の耳とは違い大きく横に張り出しふわふわで
形が違っていて、尻尾もフサフサな長毛で皆とは何もかも特別だった
このメイドの末裔が後にケット族の王族となりウロレシア付きメイド”ソアラ”という遠い血脈に
繋がっているのは紛れもない事実である。
劣情処理の為だけにメイドという破格の地位に据えた特別な存在という割には
扱いが丁寧で特別な何かを感じていた。
メルナはワンピースドレスの股間の膨らみを気にする風でもなく
”所長に
「新しい容姿の奴を用意したからな テメェは用済みだな
おい ケット こいつは精錬炉にぶち込んでおけ 素体ぐらいには使えんだろ」
と息巻いた。
リーナ付きの従者で、唯一傍に居る事を赦されたメルナこそ
こともあろうに”男”であり、
ノーアの民こそ永遠の繁栄を約束された種族で新たな種さえ創造し
そのノーアの頂点に立つのはさらに自分だけと豪語して止まない
下劣な男そのヒトだった。
彼:メルナは従者公募の時、徴を残し元から女の子のような容姿だった
自分にほんの少し手を加えて少女に変成した
最初の男であり、自在にそれを体内に隠せるよう細工したのも
積極的に異性装を好んだのも彼が発端だった。
こうしてまんまと少女になった”彼”はこうして
神殿世界すなわち、一般庶民生活から悠か雲上の神殿生活へ入り込んだのである
「どう? 改めてメルナの”女の子”っぶり まさかオレが男で 所長とは思うまい」
下卑た声の男声でメイドに歪んだドヤ顔で言い放つ
「お見事ですよ メルナ様の ”女の子” っぷりは当のリーナ様ですら気付いておりませぬ」
声も可愛い少女声に切り替えて可愛い微笑みを浮かべ
「うふふ そうでしょそうでしょ? メルナは可愛い女の子の”ふり”するのが大好きだもんっ
そこら辺の”メス共”にはぜーったい負けないだからッ!!
だれにもメルナは本当はゲスな男だなんて思わせないんだからね♡ 」
とスカートを摘まんでくるくる回るその姿や仕草は外観通りの可愛い少女だった。
メルナは凄まじい膂力で ”所長” の首を折りその場で足で激しく踏み付け
損壊を愉しんでいた
「後始末はこれに限る すんなりと精錬炉に入れると思うなよ
クソ人形めが!! 」
僅かではあるがこの生体魔導人形にも自我がありちゃんと ”痛み” も感じられるように
メルナは造ってある
{ オユルシヲ ... オユルシ ...オユル ...シ シ シ }
端麗な顔はメルナのパンプスで踏み付けられ有りえない歪みかたをしている
ヒトの骨と同様な内骨格の素体が皮膚を突き破り人造血液の赤と、水銀の銀色が飛び散る
淡いピンクの人造脳がこぼれ落ちても尚、命乞いをしていた哀れな ”所長”
彼はただ鼻の造形が気に入らなくなった瑣末さえとも思える理由
それで、それだけの仕打ちをしていたのである
尚、ヒクヒク動く ”所長” に顔を醜く歪め暴虐の限りを尽くし
スカートを捲り上げ男の徴から派手に小便を掛けた。
魔導機構都市で姿を見せないのは、体魔導人形であることに加え
好みで顔や姿を変えてこうして鬱憤が溜まる度に壊しているからだった。
差別主義者の彼はオートマトは異人よりも更に下位のできそこない(ジャンク)扱いだった。
謎に包まれた魔導技術院:メルトスの”所長”は全て生体魔導人形であり
本当の所長は見た目少女の”メルナ”だった。
狡猾な彼は体魔導人形に所長を演じさせ
当の本人は時にリーナ付きの従者として、時に少女の姿を利用して
同種族の少女を、言葉巧みに劣情をぶつけ実験体にすべく
常に街に堂々と出かけていたのである。
街で時折発生する、種族の禁忌同種殺し
を平気で行ない、正体を看破した少女には彼の徴で
品選びをする買い物感覚で、容赦ない残虐な凶行を行なう
そんな凶行も特異な
躰の所為で一度も追い詰められた事も無いゲスで非道な男だった。
「貴女があの”シアーズ”が適任と言われるから我慢して置いてやっておるのですがね」
と散々嫌味が降り掛かるがシアーズも
「あの娘達は我々の勝手で人型に変化出来るようにした上に
自我と知性まで与えておいてその言い草はないでしょう」
所長代理の位階二位に強い調子で抗議するも
「うるさいな君、あれは、この儂らメルトスの傑作だぞ遊び半分で与えてやってなにが悪い」
と居直られ
「いんや あいつの可愛らしさはオレが創造したんだ おまえのは
性格に難が有りすぎじゃね 賢くてもダメダメだなだから廃棄品だろうがよ」
とこんどは傍にいた研究者同士で野次の応酬
終いには
「とっ とにかくこんどはあれ等を処分する ”少女” を創造する
それまで せいぜい可愛がっておけや この腐れ錬金術師めがっ」
と毒付く始末。
これらの ”少女” は後にライブ・アーティファクトや戦術魔導殻:ライブ・ソラス
と呼ばれる一群の少女達である。
リーアの時代には畏れられる存在だが、蒼き深き者達の気まぐれな遊び半分から生まれた
実験体に過ぎなかったのである
そしてこの特別浮遊式管理隔離区劃:庭園:レーヴェンティールこそ
蒼き深き者滅亡後の
エル族:レギミニア・ヒム族:アーカニアの二大王朝時代の政争の具にされそのときに
既に元の無生物の姿に戻っていた彼女達が世界中に散逸したのは
後の歴史を見れば明らかである。
※※※
わたしは、散策を兼ねて周囲の探索を始める
ミーアは気分が優れないということもありビヨンとクローティアでの探索となった
ヤンスは男性冒険者に混じって別行動であった。
探索や攻略時は流石にお洒落は出来ず、質素なワンピースと
レオフィールの翼膜より誂えた外套を羽織る
柄は淡いベージュに淡いピンクの花柄に変化させていて
一見は普通の女性冒険者とあまり変わりはなくすんなりと
集団に紛れていた
「おっ 嬢ちゃん ”いつも”とは違い質素だな
でもよ ”らしく”見えるぜ オレの一行の女連中ときたら
(( わたしもあんなの着たい))
などとぬかしよるから カネ貯めんなと言うがな 聞きやしねぇし
まったく 女ってのはこんな局面でも可愛く見せたかったりするもんかね
オレには分からんな でもよ、質素というわりにはその外套ただの代物って訳じゃ
なさそうだな
大方、それの素材飛竜どもの翼膜ってトコだよなそれ オレの見立てじゃ
たいしたモンだぜ 飛竜なんざオレ達ですら まだ、まともに相手にしたことねぇってのに」
とやや嫌味と皮肉がこもった物言いに思わず眉根が動いたらしい
「 まぁ、気にすんな 分かるヤツにしか分らんよ ちょっとからかっただけだ」
...... 。
「俺達は、俺達であの水をどうにかする仕掛けやら陣やらをちょい探ってみるつもりだ」
「あの 糧秣は? 」
探索となると数昼夜は見込まれる 食料の事が頭をよぎる
わたしは、ロムルスに一杯食料を入れて来ていて ”当面” は困らない
「あぁ 糧秣ねぇ 大食い連中ばかりでな 困った時は ”貸し” にしてくれや
今はまだ問題ないな、此処でも見慣れねぇ食いモンがあるが
虫どもが齧っていりゃ大丈夫だろし保存食以外は調達出来るからな ”キノコ”を除いてな
例え憎いヤツや反りが合わなくとも同胞に食わせる訳にはいかんからな」
街に流通しているキノコ類は”多数”の先人達が、犠牲を払い”安全”とされるモノだけが
ギルドに張り出されて、山採りされている 初心者向けの”仕事案件”にもなっていて
山採りの薬草同様、常時張り出されていた。
キノコの一部は、地下遺構を利用して栽培されていて 地下に追いやられた最貧層の住人の
数少ない稼ぎにもなっている。
後の見慣れない食べ物類や果物・木の実類は、”豚犬”に喰わせて
毒の有る無しを判定させているのが
シーアの世界での毒の判定の仕方だった。
「いつでも 足らないときは言って下さい わたしは依頼人としての責務がありますから」
と言うと
「おほっ 豪気な嬢ちゃんだな まぁそんときはよろしく頼むわ」
と片手を挙げ 待っていた男性冒険者達の元へ去っていた
確かに杜の木々には見慣れない果物が実っており
小さな虫達がたかっていて甘い匂いを放っていて
更に外界の豚に似た獣さえ見掛ける。
冒険者にとって野外は遺跡や遺構と違い、食料の調達には不便しないものなのだ
危険な魔物や魔獣さえうろついていなければだが。
でも錬金術浸けの生活のわたしにはまだ、食料の自給それが自体あまり馴染みがなく
彼にいらぬ事を言ってしまったようで、少し恥ずかしくなって
傍にあった石ころを ”男” のようにブーツで蹴り上げた。
※※※
異人達に魔物狩りと人跡未踏の地を開拓させるに当たり
ギルドを創設したはいいが初期は不正が多かった。
そこで魔導技術院:メルトスでは個人と紐付けされる”カード”を開発し
それに加えて討伐した魔物がだまっていても記録される仕組みを作って
更に異人達の競争心を掻き立てるために
経験点制度も始める
この施策により魔物は確実に討伐されるようになり
経験点をめぐり彼らは更に厄介な魔物まで黙っていても
討伐してくれる。
個人と紐付けされている御蔭で、管理も容易い
魔導技術院はこうして人身を掌握していった。
これがシーアの時代でも有効に活用されているのは 最早、説明するまでもない
※※※
いままで、じっくりと見る暇も無かったが
わたしは、改めて自分のギルドカードを見ていた
魔物の討伐数が少ないわりに経験点が非常に多い
はたして、これは”冒険者”と言えるだろうか?
それともただ単なる興味本位の物見遊山に来ている少女なのだろうか?
まだはっきりと結論は出ていない
しかしこんなのが他の冒険者に知れたら事である
小鞄に確実に押し込んだ。
ビヨンの解析結果はまだのようである
彼女の瞳はピンク掛かっていて相当な負担が有るに違いない
それでもいつもと違わない歩みで周囲を警戒していた。
深く、緑が覆う胴回りが外界の木々とは違い極端に太く
木肌もかなりの刻を経てこうなったのだろう事が見て取れた
杣人が手を入れていない樹というのは正にこういうのを指すのだろう
雄々しき異形を眼前に見せつけそれが深き杜の基底となり、杜を守っていた。
幸い嫌な蛭は近寄っても来ず、正常な大気を胸一杯吸い込む
先程の、寄生木の大樹は一際異彩を放っていたが
まずは詳しく辺りを探索? していた。
※※※
ライブ・アーティファクトを処分するために生まれた一人の少女
まだ”普通”のノーアの民だった頃
彼女は、リーナ付き侍女のメルナが
可愛いワンピースドレスのスカートを派手にめくり上げ口に咥えて
”立って”その男性の徴から派手に
放物を描いて用をたす所を目撃してしまう。
「あーぁっ くそっ どいつもコイツも糞ったれが
オレが可愛い”女の子”のふりしてりゃつけあがりやがってよぉ
接吻しろだの ケツを触らせろだのって 色目使いやがってよ
あ〜ぁ 気分最低だぜ こちとら”オトコ”だってのによ」
と毒付いてこともあろうに片足を小便をしている樹に
ドンッ と蹴るように挙げてそのまま派手に小便をして更に
可愛い靴下留め(ガーターバンド)を直して居たのである
今日の彼は水色のリボンパンプスに白のフリルソックスという服装で
一見、行儀が悪いお嬢様のようにも見えるが
小水の出先を辿れば、男の徴の先端からだった。
「んぁあっ? メスガキィ!! 見やがったな、テメェはもう生かして帰さない
オレ様の実験素体になって貰う 丁度、他のメスガキを調達する手間省けたぜ
ねー? こっちへおいで ねっねっ メルナとぉ 一緒にあそぼーか? ねぇッ!! 」
と最初怒気の篭った男声と言葉使いは次第に おねだりする少女のそれに変わっていく
そのまま メルナは派手に徴を振って滴を切り髪を蠢かせて 少女の首を絞める
「なっ 何よ あんた 男? バッカじゃないの その格好
それで、女の子のつもり
ワンピースドレスが可哀想ね アンタのような”男”に着られるなんてっ」
と苦し紛れに抵抗するもメルナは
「ほう 小憎らしくても俺様に比肩する可愛さだぜ、お前には永劫の可愛さをくれてやる
可愛いさに免じてさぁ 顔は弄んないでおいてやるから安心しな
そん代わりに最も醜い役割と裂け口を付けてやる なぁ? 」
啖呵を切ったその少女はそこでメルナの恐ろしさを垣間見る
同種族同士の争いは禁忌の筈がこの少女姿の ”男” には通用しない
それを悟った少女:エルティリエは初めて
いやぁぁぁーっ
と大声をあげるが此処は魔導機構都市:メルエンティアの人気無い杜である
「可愛い声で哭き叫ぶその声 聞きたかったぜ」
下卑た声のメルナの股間はスカート越しに分かるほど違和感を浮き出たせていた。
それを最後にメルナにその少女は劣情の限りをぶち込まれて
有無を言わさない辱めを受けて 最後にヒトとしての心が完全に壊れてしまう
あは はは ... はひはひっ
と言葉にならない言葉
オトコなん ...て あはっ ダイキラ... い
ヒトも ダイキラ... い
股間から蹂躪を跡を引きずり髪を乱暴に掴まれて
培養槽に裸のまま、メルナに蹴られて入れられて
そのまま意識を闇に手渡してしまった
幾日か時間も忘れた頃、気が付けば、胸に正中に大きな裂け口が出来ていて
何やら激しく貪り喰っていた。
「ん? ”メルナ” わたしはどうすればいいの? 」
可愛くも小生意気な顔のエルティリエ
「ほぅ よく仕上がったな 暫く特別浮遊式管理隔離区劃:庭園・レーヴェンティールで
養生してからお前には”姉妹”を処分してもらう いいな逃げ出そうとするなよ
とメルナが手に持っていたのは、
翠の六角柱に入った寄生木の小枝。
手に握れるくらいのそれは ライブ・アーティファクト達の専用の
折檻の道具であり
いけない事をしたライブ・アーティファクトに、自在に鞭の様に六角柱から伸びて
メルナが激しい苦痛を与えるのである
ヒトの剣や術くらいでは動じないライブ・アーティファクトですら
この寄生木の鞭には激しく怯えていた。
これは、ライブ・アーティファクトの体内を巡り位置が常に移動していて本人しか
分からない三つの ”生体核” を正確に捉え
直接 ”激痛” と皮膚を剃刀で縦裂きにされるような苦痛を否応なしに与える
折檻の為だけの道具。
”生体核”はライブ・アーティファクト達の強大な能力の根源であり
ヒトに紛れる為に可愛く美しい器を維持する正に生命そのものである。
これに直接激痛や苦痛を与え時には、破壊さえも可能な ”武器” であった。
彼女達が怯えるのも無理は無く
シーアの時代になっても本能的に寄生木を怖がるのはこの時の
恐怖が本能としてライブ・コアに刻まれてるからである。
最凶のライブ・アーティファクト:エルティリエはヒトとしての精神は完全に壊れたが
ライブ・アーティファクトに再誕後は、新たに残忍さと苛烈さを手に入れた
オトコとヒトは大嫌いだがこうして従順な素振り(そぶり)を見せておけば
少なくとも鞭は振るわれずに済む。
「いいから わたしにもう姿を見せないで
リーナとシアーズだけなら合ってあげるけど他は絶対イヤ」
とエルティリエは 裂け口を大きく開けて噛み付こうとする
「おっと オレに噛み付くなよ 姿は金輪祭見せねぇけどよ
役割を果たさねぇとこうだぜ」
と 翠の六角柱から寄生木が伸びて 裂け口の中に潜り込んでいく
「やっやめて 分かったからそれ仕舞ってよ」
と涙目になる最凶のライブ・アーティファクト。
「一丁前に涙なんか流して 傑作だぜモノのくせによ 聞き分けのいい子は好きだぜなぁ? 」
と伸びた寄生木は翠の六角柱の小枝に戻る
何処迄もゲスで非道なメルナだった。
「じゃさぁ 手始めにさぁ、リーナとシアーズの前でさぁ 可愛がっている二匹を喰って見せろよ
オレは別室で観察しているからな ハハハっ
オレから言わせればリーナとシアーズこそ可笑しいぜ
”こんなモノ” に愛情を注ぐなんざなぁ 」
と可愛い顔を醜く歪めて睥睨するメルナ
可愛いパンプスで足蹴にされ地面に顔をめりこませながらも逆らえない
エルティリエ。
その後、お菓子と洋服や絵本を持ってきた二人の目の前で
可愛がってい二人のライブ・アーティファクトを容赦無く喰らうエルティリエ。
呆然とする二人を後にしてそのままエルティリエは庭園を飛び出し
二度と帰って来なかったという。
エルティリエは夢を見る
ギアトレスの冥骸都市 ”ユクントス”を歩く姉
「ねぇ もぅお腹一杯 遺産のオンナノコ 食べ飽きたぁ ねぇねぇ
でも”お外にでたらまだ沢山食べられるのかなぁ おねーさまぁ」
「あらら 下のお口から涎が出てるわ ちゃんと拭きなさいな」
「いやよ おねーさまだって 下のお口から出てるじゃない
粘っこいのが」
「ふふそうだったわね」
と彼女らが”下のお口”と言っている胸に縦に裂けた”裂け口”からはズラリと鋭い牙が
並び
ぐちゃりぐちゃり
湿った音が聞こえ手首らしき物が見え隠れする
そして粘っこい”涎”が地面に落ちる前に霧となって霧散していく
「早く私達の”おねーさま”に会いたい もう幾星霜もここにいるのいや」
「そうね此処の封印解けないとどうにもならないわそれに
”おねーさま”じゃなくて”おにーさま”かもよ私達の主は」
「いやいやよ 絶対”おねーさま”じゃなくちゃイヤッ 嫌なんだから」
「まぁ泣かないの でもねもぅ封印が解けそうよ」
「ウソっ いつもそうやってウソつくんだから おねーちゃんだって食べちゃうんだからね」
「ふふ 怖いわね」
と姉らしき少女は妹らしき少女に接吻をする
んんっ......んんんぁ...
「おねーちゃんのいじわるっぅ いつもこうやってご機嫌取ろうとするんだからぁ」
「ふふ いい娘ね ......ちゃん」
「いこ ......ねーさま」
と二人の少女は派手なゲップを ”下の口” から吐き出し歩いていく
不思議なことに誰も彼女らに注目する者はいない
何故ならこれはエルティリエの願望だったからだ
優しく包容してくれる同類の ”姉” リーナ似の主人
その何もかも。
同類を貪り喰うことでしか餓えを満たせないライブ・アーティファクトとして再誕しながらも尚
焦がれる人恋しさ
優しいお姉さまに甘えたい、お菓子や・絵本・可愛いワンピースドレスをおねだりしたい ...想いは募る。
「あの メスガキ喰うだけ喰ったら出奔しやがって」
メルナは爪を噛みながら憎らしげにつぶやく。
「メルナ様、どう致します? 追っ手を差し向けますか それとも刺客を? 」
ケットは、メルナのスカートの中で足のお手入れをしながら
問いかける
「ふふ んんっ メルナぁ〜 んーっ イっちゃいそうよ」
「えぇ そのままいいですよ」
くぐもった声も上ずっている。
「追っ手や刺客を差し向けてもアレを潰せんよ
俺様の最高傑作がそうそう簡単に潰されるかよ
でも、放っておいても問題はないぜ」
「なれ れふ? (何故です?) 」
たんまり、お口に含みながらケットは問い返す
「あぁ アレは同類”でしか”餓えを満たすことが出来無い
そう造ったんだからな、菓子なんぞで餓えを満たせるものかよ」
と顔を恍惚に染めてうっとりとしてるメルナ
傍目はそう見えていたが 口は醜く歪み舌舐めずりをしてスカートの股間の上から
スカートごとメイドの頭を押さえつける。
んっんーーぁ
か細い悲鳴とも嬌声とも取れる声をメルナは可愛い少女の声で上げ ...そして果てた。
同じく舌舐めずるケット。
「お粗末様でした 随分と溜まってらしたのですね
私もぉ 溜まってきちゃいました 同類を殺ってきていいですかぁ
異人同士は同種・同類殺しの縛りも無いですし 貴女の好きな尻尾や耳を
集めて来ても? 」
「あぁ 好きにしな これはギルドからの献上品だ 持ってけよ」
と渡したのは一対の双剣である。
何でも開拓中に見つけた洞窟から見つけて来たという
「おれはこんなものには興味はねぇが異人共に必要以上の武装はいらねぇからな
直ちにギルドに命じて、未開拓地から手に入れた 状態の良い武装は冒険者共から
はしたカネを渡して今後、全部”取り上げて”おくとするか」
と何やら思案にしていた。
後世、この思案は遺跡で手に入れた武器防具や遺物をギルドで買い取り
改めて競り(オークション)に掛けるその制度に発展していった。
この日を境に異人の耳や尻尾が切り取られる事件が増加していく
当初は、魔物の仕業とされていたこの凶行が
同じ異人による凶行と知れて、それが異人による永い永い種族戦争に発展し
この行為が禁忌とされたがそれはまだまた先の話しである。
エルティリエも当初は、同類を貪り喰うのは激しい嫌悪に見舞わていたが
激しい餓えは段々そういった呵責も食い尽していく
そうして心は枯れ果てていった。
ある樹の根本の洞で彼女は衣服をくれた優しいリーナ・
絵本を読み聞かせてくれたシアーズを思い出す
「ティリエ どんな貴女でもティリエ は ティリエ いつか帰っておいで此処
は貴女の居場所なのだから
二人に思い焦がれながらも帰ることは出来無い、戻ればもっと非道い目に
彼ら(リーナ・シアーズ)も自分も合わされる
そんな自分が嫌になり自らを自らで封櫃した
※※※
樹の根が繭の様にエルティリエを覆い幾千の季節が巡る
リーナの直系血脈シアズの精液とドラコ族とヴァン族から創造された人造の
リーナ似の少女が彼女と
理に導かれた必然の邂逅がすぐそこに迫っていた。
{ ねぇ? クレア(シーア)おねーさま ヒト共なんて皆、殺っちゃお?
今度の娘私達の”次”に苛烈よ ねーさまにか懐かないねーさまだけのね うふふ ...早く}
邪悪な囁きが蝕から聞こえる
蝕に棲まう邪悪で苛烈な生きている戦術魔導殻:ライブ・ソラスの少女
キリルア・メザレイラは虚像空間から、わたしの中の獣に甘く残酷な囁きを
忍ばせる
わたしは、散策もとい探索中何かに導かれるように奥へ奥へと歩む
巨木の根元の土はすでに無く根が剥き出しになっていて
更に繭状の塊が見える 近づくと根の一部が自然と解れ
ぽっかりと入り口らしきモノが形成されていく
『シーア? 大丈夫か』
「えぇ 多分敵意は感じられない」
『そうか 儂はお主に任せるからの』
「ありがと そう言うと思った」
『全くこうも埒外とはな神族共が、茶々を入れて来なきゃ良いんじゃがの
どう出る? リーン』
最後のクローティアの科白はわたしには理解出来なかった
なぜなら神域言語でつぶやいたのだから。
わたしとビヨン・クローティアの三人とロムルスが入ると
解れた根は絡まり完全に元通りになり
今は何処が入り口だったのかさえ見分けがつかなくなっていた
根の隙間から漏れる陽の光で苔が淡く輝いて見える。
そして、中央には蔓でできた寝台に美しい一人の少女が
胸を軽く上下させながら眠る幻想的な光景が飛び込んできた
雑然とした床には多数の人骨? らしき骨の数々が散らばり
少女のワンピースドレスも色褪せていて
手に取っただけで崩れてしまいそうだった。
いか程の季節の巡りが過ぎてこうなったのかは
分からない ...だがこれだけの刻を無視して少女は今し方寝入ったように
可愛く美しかった
わたしが、この少女がライブ・アーティファクトだと確信したその特
「んっんーっ」
はらりはらりと、ワンピースドレスを崩しなら上半身をゆっくり起こしながら
可愛い声をあげその少女は、淡い金の瞳でわたしを見つめる。
「貴女は リーナ? 」
それがわたしに向けられたその少女の第一声だった。
メルナ (男)
蒼き深き民の住人
魔導機構都市:メルエンティアの魔導技術院所長
魔導技術院:メルトスの”所長”
蜥蜴を魔導医術で改造しドラコ族を、野性の人型吸血魔物から肉食系のヴァン族を
密かに生み出した邪悪思考の持ち主
高潔で清廉な精神を宿したシアーズやリーナとは対極的な男。
徹底した差別至上主義者で異人達や創作した種族全てを異人と呼び
ノーアの民こそ永遠の繁栄を約束された種族で新たな種さえ創造し
そのノーアの頂点に立つのはさらに自分だけと豪語して止まない
下劣な男。
次回 75話 叡智の守護魔獣 ー叡智のビナレスー
お楽しみに
細かいニュアンスは変更があるかも知れませんが
ストーリー変更は有りません




