表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルティア・レコード  作者: 南 泉
二章 〜 魔女と小さな銀の鍵 〜 ベルゼ浮遊大陸編 第一部
72/75

72話 螺旋の邂逅 ー最後に見えしものはー

本エピソードには残酷な描写と、生理的嫌悪感のある描写が含まれます

 巨大な一羽の大鴉が、ベルゼより急速に離脱しつつあった。

頭は、白骨化して躰も所々既に白骨化している

 

キィキィ

 

 と耳障りな音はその大鴉の骨が軋む音であった。

その中心部に丁度誂えたかのように馬車の客箱が収まり中から淡い光が漏れ、

よくよく目を凝らせばそこに、一人の妙齢の美女と同じ灰青色のゆるくうねり紅い薔薇を髪に

散りばめた少女を見て取れるだろう。


「お兄様ったら 可愛い寝息を立ててまるで”オンナノコ”のようね

ねぇケルア ルベリトにさぁ着いたらねーぇ ”また”殺戮オタノシミを始めるのかしらね? 

やーね それ」

ラトアは、チューリップスカートから黒いタイツに包まれたスラリとした両足を優雅に

組み直しながらメイドでケット族のケルアに話しかけた。


「どうでしょう? 今代は”そこら中に”官吏”なる輩がうろついていて

昔のようにはいかないかも知れませんね ”フラウ”のときは温和しくしてくれていたのですが

こうして”元”の躰に戻った今となってはフラメリア様のお気持ち次第ですね

全く、困った御方ですね」


 とケルアは

寝ている”少女”のワンピースドレスのスカートを見つめていた

この寝ている”少女”は少女などではなく立派なしるしを備えた”男性”である


 フラメリアは他の躰に乗り移っている時は温和しいのが

本来の躰に戻ると一変し、

 可愛い少女の姿を利用して街中で同じ背格好の少女に因縁を付けては近づき、

男の劣情を満たした後、髪に仕込んだ細い茨で

遺体にさらに劣情を昂ぶらせ欲望を満たした後、細かく切り刻んでそれにも

劣情を向ける少々困った性癖があった。


 今代は”郊外”ならともかく街中に官吏がうろついていて簡単には劣情をも満たすことが

出来無い状況にあった

シーアの時代は、街中や村落等は多少なり治安はそれなりに保たれていたのである。


 黒い眼出し三角頭巾、薄い甲冑姿のが一人、

黒い眼出し三角頭巾に呪符をあちこちに貼り付けた長衣のローブ姿のが一人と

二人一組で行動する。


 腰には数々の拘束具や呪符を括り付け

街中を歩いている官吏は、魔族や冥魔いえど簡単には逃れる事が出来無い。


 魔抗石まこうせき製の拘束具や、聖銀製の特殊な能力ちから封じの首輪を持っていて

治安や風紀を著しく乱せばどこからとも無く現れて、

そういった輩を捕縛・拘束して何処いずこかへ連れ去って行き

その上、そうして連行された者の後の行方は、誰一人知らなかった


 彼らは神出鬼没な時もあれば街中を警邏するようにうろつくことも有る

食事を摂る様子も一切見掛けることも娼婦や男娼の客引きに乗る様子もない

皆は口には出さないが、気味悪がっている世界オルティアことわりの一つだった。

 

 中には彼らのご機嫌取りのつもりか誇示のつもりか、正義感気取りの只人も取り巻いていたが

時折茶々を入れる彼らにも官吏達は、反応は示さなかった。


 巷では、不気味な風体も相まって連れて行かれた連中は

魔導実験に使われるだの、魂を抜かれるだの、闇社会に放り込み

処分を任せているだのと色々な憶測が都市伝説にもなっていて、

この得体の知れない官吏達は有史前から、全ての種族に恐れられる存在だったのである



I. 統治域内での”過剰”な秩序の乱れの禁止を強制的に制する権利

II. 統治域内での闇雲な生命せいめい奪取の禁止、身体の過剰な損壊を監視する権利

III. 優先的な”魂”の引渡し(あくまで指針であり必須ではない)の権利

IV. 統治域内で拘束した者の処遇の裁量権

V. 拘束具や聖銀製の首輪の行使、その他の能力ちからの実力行使の確約

VI. 以上の項目が官吏に担保される限り統治域のある程度の風紀の乱れを抑制

を統治者に確約


 を結び都市内や村落が無法地帯にならぬ様に常に均衡を保っていた

したがって統治域に住まいまたは、統治域に踏み入れた時に

どんな種族であれ官吏達の処断には温和しくしていているし、莫迦な抵抗は示さない

彼らの正体を既に看破している人外達も


”神族の傀儡かいらいという屈辱を味わいたくない”


 そういう思いが何より優先するため

(人外や無頼漢ならずものにとって)不本意ながら、

(官吏の存在が)社会の枠から極端に逸脱しないように

温和しくさせられているのである。


 実はこの官吏こそ天使から成り上がって、神族から地上の治安と監視を命ぜられている

”従者”の別の姿であった。

官吏は、各大陸の統治者と幾星霜も前からある取引をしていて

当代統治者に連綿と受け継がれている。


 誰がどのように交渉して、このような取引が成立したのかは今代では

誰一人謂いわれを識る者も存在しない

女神:リーンと世界蛇(ミズガルズの大蛇)以外は。


 兄:フラメリアが問題を起こせば

既に対外活動で魔術講師としても名があるラトアの活動にも

官吏にカネや魂を握らせるにしても、多少なり支障が出る危険リスクがあったからである

無言で(対価を)彼らが受け取れば良し、そうでなければラトア自身の身すら危ういからだ。


 ラトアは、タイツの足を ”女性” らしくゆっくり組み直して思案していた。

今代まで幾星霜もの間、 ”フラウ” の中にいたのがやっと元の躰に戻れたのだ

当分は、他人には乗り移るのは嫌がるであろうこともフラメリアの性格から考えても

わかりきっていた事である。


 内心ではもう少し ”フラウ” の中にいて貰いたかった ...が銀の娘のせいで

多少予定が狂ってしまっていた。

そしてラトアは、兄程は歪んだ性格はしていない

混沌の能力ちからの一端さえ利用できればそれで良かったのである。


「お兄様ったら、オタノシミを忘れてくれたらいいのにね そうはいかないわよねぇ

どうしようかしらぁ? 困ったわぁ」

と琥珀酒を艶美な唇に軽く含ませ、妙齢の女性の容姿に相応しい艶っぽい声で思案していた


 ラトアも、自身の”しるし”を体内に隠せる”望み”が叶うまで

心の臓の結晶があと一つとなっている。 

此処にきて、その夢が瓦解するのを非常に恐れていた。


 ラトアは混沌ベルビュールに心の臓の結晶を捧げる対価にこうやって

徐々に自分自身を理想の妙齢の”女性”に近づけていたのであり

完全に女性専用の施設に出入り出来る躰になるまで

あと一歩だった。


 そうすれば、男の卑俗な願望を理想の女の姿で満喫出来る上、

劣情の対象である”少年”を女として”少女”を男として蹂躙できる

そう思うとしるしが昂ぶってしょうがない

(ふふこれは”オトコ”冥利よねぇ 早くガキどもをオレのしるしの虜にしてぇぜ)

と更に艶っぽくしなを作り脚を組み直したり

タイツの皺をゆっくり手で撫でて直したりハイヒールの爪先をくいくい動かしたりしていた。

これを見て誰が見ても、ラトアが男性とは思いもしないだろう完璧な仕草だった。

 

 混沌ベルビュールの方はというと結晶を捧げられそれを起点に全ては無理でも 

ほんの少し残滓を撒き散らせるのだ しかも、フラメリアとラトアとケルアという

手足の様に動いてくれる自分の眷族を従えられる、両者はそんな共利関係にあった。


「んーっ ラトアぁ テメェこのオレがオタノシミを忘れただと? ざけんなョ」

ぐっすり寝ていたはずのフラメリアがむっくり上半身を起こす

目を細めかなり剣呑な空気を纏っていてラトアのしるしは一気にしぼんでしまった。


「お兄様 そっそれは えーと、ラトアの失言でした しかし今代はお兄様もご存知の通り

官吏がうろついていて先々代とは違います」

とラトア。


「ご自重下さるとこのケルアの活動も捗るのですが フーちゃんは

こうしているだけで周囲あたりが霞むほど可愛いのでございますから

いつもどおりのお淑やかの方がお似合いですよ」

とケルア


「そーぉ それホントにそーぉ思ってるぅ? 」

と小首を傾げ指を咥える様はとても男とは思えないくらい愛くるしい。


「はい そうですとも オタノシミは取って置きの方がいいですよ

”毎日”じゃオタノシミでなくなりますからね」

「そうねぇ ”毎日” じゃオタノシミじゃないもんね フーは貴女ケルアの言う通りにするわ

ねぇそれでいいでしょ? 」

と満面の笑顔。


「是非そうしてくださいまし、たまにならこのケルアも玩具の調達とオタノシミに協力致して

差し上げますわ」

とやや上から目線の物言いだったが メイドに甘えるのが何より大好きなフラメリアにとっては

気にする風でも無い。

 このメイドの機嫌を損ねると、面倒で緻密な下準備を全てラトアと自分達でしなければならない

怠惰で自堕落なフラメリアにとってそれは願い下げだったのである。


「わぁぁあ! うれしい♡ 貴女も柔和な面下つらしたはこの わたしより下衆だもんねーっ」

とフラメリア。


「お誉めに預かり光栄ですわ 言うことをきいてくれたご褒美を 早速差し上げなくては

いけませんね さぁフーちゃん このケルアを召し上がれ」

とスカートを捲ると白く艶めかしい脚が編み上げブーツから覗く

「うん フーにごほーび頂戴っ ケルアぁ 早くっ」

とフラメリアは早速劣情を露にしてスカートに違和感がくっきりと現れる

 この少女フラメリアが男であることは最早、疑う余地は無い

それほどスカートの違和感は目立っていた。


「ふふ殿方はいつも急いていますね、可愛いこと♡ こんなにしちゃってまぁ

ケルアも嬉しゅうございますよ」

ケルアは自分に主導権があるのを知っていて、ワザとフラメリアを焦らしていた。


「だってだってフーはオトコだもん 我慢できないの♡ 早く来てぇ♡ 」

両手を口元に添え頭を横に振り、早く早くとおねだりをする

「はい いいですとも ゆっくお召し上上がりくださいませ ”お嬢様”」 

 とケルアは

いそいそと豪華なフリルやレース仕立てのメイド服のままフラメリアの寝台にもぐり込む

その柔和な顔の唇の口角は醜く歪んでいた。


 男女の、卑俗な行為が行われるのを横からねっとりと見届けたラトアは内心ほっとしていた

(これでお兄様の気が逸れてくれればそれでいいわ 

それにしてもケルアったら一番下衆なのはやはり貴女ね

孤児院で、温和しそうなお顔で連中を鏖鏖殺おうさつして

大規模な孤児院を五十も潰してきただけのことはあるわ

やはりワタシの見立ては正しかったということよね。


 もう一人のケット族の幼いも、フレジアの幹部の近くまで登っておきながら

そんでもって錬金術師の男にお熱になって、ケルアより下衆な性根を封印してしまうんですもの

もったいないわよぉぅ ねぇそうは思わない? ”魔爪まそうのミーア” )


 ラトアは細い葉巻に火晶石ひしょうせきで火を点け淡いピンクの煙を燻らせた

ラトア謹製の薔薇の香料入りである

彼は妖術や魔術だけの職能持ちではなく優れた魔導調香師でもあった。

 ここでミーアの名がラトアの唇から漏れるのも無理はない

幼くして両親を目の前で惨殺されたミーアはその特、自分に降り掛かる多量の血や臓物を

浴び初めて、自身の外道で下衆な性根に気付いたのだ。


 孤児院の寮母がミーアを発見したときは泣きもせず、

バラバラの肉塊に

「うふふ とうさま、かあさま みんなとうさまやかあさまのなかまにしてあげるわぁ

きゃはッ、 ミーアをもっと抱っこぉ抱っこしてぇ とグジャリ、グジャリと

血の海と臓物の中を嬉しそうに転げ回っていたという


 直ちに救護院の隔離室に隔離されたが、温和しくしていたため

開放室に移されそこで、同じような性根の”ケルア”と出会う


 残虐好きの二人の幼い少女がやる事は、決まっていた

「ねぇ ケルアちゃん ここでさぁ どっちがより楽しくここの連中殺れるか

競争しよっか? でねでね ただ殺るのはつまんないから

派手に殺った方が勝ちよ 分かった? でね ミーちゃんはこれが ”得物ッ” 」

幼いミーアはどこからかくすねてきた

医療用の小刀メス二振りを指の間に挟み鮮やかに毛布を細切れにする。

「ミーちゃんすごぉい ケルアは何にしよっかなぁ」


 と隣で裁縫をしていた老婆が糸で切傷を負ったのを見て

「わぉ 糸って切れるんだ これにしよっかなぁ」

「ふふ ケルアちゃんって目の付け所が違うわぁ これおみやげ」

と見せたのは 医療用の細い鋼の糸である 七色に輝くそれはオーパーツ製だった。


「これに決まりっ」

と嬉しそうに得物を器用に手に絡めとる それはまるで注えたかのようであり

ケルアは怪我一つしなかった

 

「でねでね もうここには用は無いし、どうせいずれ死ぬ連中ばかりだたら

すぐ殺っちゃおっか? 」 

と薄笑いを浮かべる幼いミーア

こうして、二人の幼いケット族の少女による殺戮が此処から始まった。


 皆が彼女達を微塵も疑わなかったのは、全て事が済んで、駆けつけたときは

二人で抱き合い嘘泣きをしながら


「うわぁあん ひっく 怖かったよぅ 怖い ”お兄さん” がねミーア達を殺そうとしたの

うわぁあんーっ」

 と発見者に抱きつく、勿論これは全てが演技で口元は歪み

かわいい二人の口の中には、犠牲者の一部があった。


 こうして上手く世間を瞞き殺戮を繰り返し幼女から少女へ成長する

だがある孤児院で二人は遇々、別々の居室に分けられてしまい

競争相手がいなくなったミーアはリアと出会う

彼女も、最初は趣味の殺戮の犠牲者にするつもりだった。


しかし、何故か気が合いお互い無二の親友と呼べるまでにはなる。


 幼な子は時として虫等を残酷な方法で殺したりするものだが

ミーアの場合それがヒトだっただけの事である。


 それでも殺戮の衝動は日に日に募るばかり、

そこで、街の男娼館で犠牲者を求めて異性装の男性を切りつけるが返り討ちにあう

それが、あのニールである。


「貴女、そんなに殺しがしたいの? 」

と囁くニール 彼は黒のワンピースドレスに紅いパンプスといういでたちでは

あったが男性だと判別は可能だった。

男娼館の周りの路地には偏執的な性癖者きゃくを求める

こうした異性装の男女が沢山いたのである。


 ミーアは、こうした大っぴらにできない性癖の持ち主なら堂々と殺っても

大事にはならないと踏んでいたので格好の”遊び場”だった。

「うん もっと沢山したい だって楽しいもん

今は、大人になって多少は我慢出来るけどどうしようもないわ こればっかりはやめられないの

最近は女が疼くのよ。 女がね。 」

ミーアは最初は楽しみで、最近はその外道な衝動と所業に

女の悦びを重ねあわせるようになっていた。


「貴方こそ 今度こそ殺されたい? 」

と片目を眇め二振りの短剣を構える


「良い目ねン あなた ”フレジア”にこない? お友達にはナイショでねン

依頼された件ならどんな殺り方でもね 赦されるのよ この業界フレジアではね

それにギルドカードも うちらがね調達してあげるン いい条件とは思わない?」

 ”ギルドカード”と聞いてミーアの両耳は跳ね上がる

推薦人なしでは直ぐ発行されない上、後は地味な依頼クエスト経験を

ひたすら積み重ねなければ得ることが出来ないからだ


 今後の活動には是が非でも必要だった

ミーアは目を輝かせる 堂々を殺戮が出来てそれが食い扶持に繋るのだ

願ったり叶ったりであった。


「えぇ リアに手ェ出さないって言うならね」

「それだけならお安い事よ 決まりね、幹部に合わせてあげる 通過儀礼として

簡単な依頼をこなせばいいわよ


あと裏切り者は手痛い制裁を覚悟してもらうわン

さぁその性根 アタクシに存分に見せて頂戴な」

と話は纒まりミーアはフレジアへ、そして忽ちの内幹部近くまで上り詰める

しかし、ここで大きな波乱がミーアを待っていた。


 ある錬金術師との出会いであり”冒険者”というその日暮らしの魔物狩りを

生業なりわいとする連中との出会いだった。


 ヒト相手だとあまりに”手応え”がないのである 

メイドの振りをして目標に近づき短剣であっさりとカタがついてしまう

ミーアにとってこの行いはあまりに作業過ぎて新たな刺激を

求めてもいた。


 フレジア経由でギルドカードを作成し冒険者も兼業したが でも魔物は魔物であった。

獣のなりそこないのような連中を手に掛けたところで

女としての高揚感が湧き上がってこないのである。


 どうしても、悲鳴や幼女に殺められたという絶望の目が足らない すごくつまらなかった

程なく冒険者からも退いてメイドをしながら 仕える主人を遊びで殺めてしまわないように

気を遣いながらフレジアと兼業で食い扶持を稼いでいた


 元々、ケット族という種族は気紛れであり興味を失ってしまえば

歯牙にも掛けないそんな血が流れている。


 冒険者に興味を喪い初めてから 生まれてはじめて強烈な”懸想”という

飽きることのない感情を普通の錬金術師に抱いたフレジアの所属の身としては

これだけで堅気かたぎに戻りたいと決意させるには十分だった。


 フレジアで活動をしていて組織内でも高名と評判だったから

ある時、高名な魔女(名は覚えていない)に、自分の性根を封印するため

躊躇い無く訪れたのである


「そんなんでいいのかい? 性根を封印するっていったてねぇ

簡単にはいかないよ


 子供の頃からの性根だからねぇ どうしてそんなに必死なんだい

このババに聞かせてくれないかね いやね、たんなる興味本位さ」

と魔女は乱杭歯を見せ涎を垂らしニヤニヤ嗤う。


「えっと ミーは恋をしたの あるヒム族の男性にッ。

でもどうしても殺戮の癖がぬけないの 物心がついたときからずっとッ

好きになってもつい癖でヒトの血や臓物を見たくなって終いには殺ってしまうの

とうさまやかあさまもそうだった、好きで好きで大好きだった。


 でも殺された後どうしてももっと一緒にいたくて

とうさまとかあさまを自分の躰に擦り付けたの そうしたらもっといい気持ちになった

でもそれ以上一緒にはなれなかった。

 

 だって、他のみんなって ”綺麗なまま” すぐ土に埋めてしまうんだもん

とてももったいないじゃない? 

ミーアに血肉や臓物を分けてくれないんだよ なんかオカシイよそんなのって

そうでしょ?


 好きな人に血やお肉や内蔵の一部をあげるのって すごく当たり前じゃない? 」

とシーアよりやや幼い当時のミーアは疑問も良心の呵責なく可愛い仕草で首をかしげ

大きな耳とケット族にはしては珍しいフサフサの尻尾を揺らしエプロンワンピースの

スカートを掴み、こう言い放った。


「中には面白くて殺っちゃったモノもあったけど、大好きな人達はみんなそうしてきたの 

でもあの錬金術師ヒトだけはどうしても ”生きてて” 貰いたいの 

ミーアのね 悪いクセが出て

躰に血やお肉や内蔵とかなすり付けてはいらずにならない前にッ! 」

と全てを吐露したミーア。


 これが幼い少女の口から平然と言い放たれた言葉とは思えない ...が

ミーアの目には狂気の色も哄笑を含んだ笑いも何一つ見出すことは出来なかった。


「フォフォ 御前さんよくそれで 果てはてさきうしないビト にならなかったのぅ

既に病み過ぎているのか、それともそれがお主にとっては ”正常” な状態なのやもな

 まぁいい冥土の土産話がでけたし引き受けてやるとするかの このババに任せるがよかろ 

目覚めたときは対極なたちにしてやるわ

温和しゅうて ”いい子” にな。 」


「それでいいわ メドネア様 それだけ本気よ ワタシ」

と訴える目は真摯だった。

 

「最期に対価だがな 御前さんの今のたちが本物であるかどうか試させてもらうでの

三昼夜後の満月が頂辺に登るまで 生の ”心の臓” 五十と ”肝臓” 五十を瓶に詰めて

このババに持ってくるがよかろ いいか、老若男女は問わんすべて只人のじゃぞ

魔物で、誤魔化しは利かんからのぅ よぉく覚えておきな。


 いまお主が言った話がホントなら造作もないことだろ 丁度在庫もう成ってのう

調達にはカネやらなにやらババには、ちくとしんどいでの どうじゃ殺れるかの? 」

と埒外な対価を突きつけるが

「いいわ それで、どうせ最期の”オタノシミ”でしょうから 楽しませて貰うわ」

とミーアは快諾。


 ミーアにとって最後のオタノシミが始まる。

その瞬間から全て心の臓と肝臓が無い状態で

この街に連続で五十の老若男女の犠牲者が出ることになった

(きゃは〜ん♡ やっぱこれ楽しいわぁ うんと楽しまきゃね 

あぁぁん なんて甘美なのかしら)

ミーアは殺戮の快楽と女の悦楽を同時に味わっていた。


時には遺体そのものが見つからない場合もあった


 そんなときはたいていミーアがお気に入りでお持ち帰りをして

彼女しか知らない寂れた遺跡で肉片と内臓で戯れていた。

何故って? その犠牲者が特にミーアのお気に入りで心底愛おしいと感じたから。

大抵は少女だったが中には少年も含まれていた


ミーアは幼い頃は少年も少女も殺戮の対象であると同時に劣情の対象でもあった。


 約束の刻限より大分前、密かに持ち込まれた物を見て魔女は目を丸くする


全て、”本物”で瓶の中の品にはささくれ一つ無い


「確かに ”本物” じゃて 今からその性根を奥底に封印してさらにその楽しい”記憶”を

別のつまらない”記憶”に差し替えてやるさぁ 陣にお入り 魔爪まそうのミーア 」

「どうして ワタシの二つ名を? 」

じゃの道はへびだろて」


 それきり何も言わずミーアは陣に入り楽しい殺戮の記憶をつまらない平凡な記憶に差し替えた


””両親が”魔物”討伐にでてそれきり後はお決まりの孤児院に引き取られ

幼い”リア”と出会い冒険者として少し活動した””


というつまらない平凡な記憶に。


 しかし、封印できたのはあくまでその性根だけであり

今も、あまり沐浴が好きではなくて、湯に浸かっても直ぐ上がってしまうのも

血と血脂と臓物が直接肌に擦れる感触を躰が覚えているからだった

なにしろ後者(血と血脂と臓物)のほうが沐浴よりミーアに女の悦びをもたらしてくれていたのだから


 目が覚めたミーアは、どこにでもいる平凡なヒム族の錬金術師に懸想する平凡なメイドに

目の前の瓶の中身を見ただけで気を失うくらいの 

ごく当たり前のケット族の少女になっていた。

彼女の性根の封印は成功していたのである。


 それからは”フレジア”のニールに”裏切り者として執拗に狙われ嘗ての仲間に尻尾を切られかけて

大錬金術師:シアズの元に転がり込んだのはすでに知っているところである。

 

 この世界オルティアには平凡で平和な両親からミーアのように、先天的にどうしようもない

邪心を抱えた只人が生まれたりもする

 生まれながら神域文字を解読出来るルルス同様、只人は精神面では人外達より

遥かに多様性に富んでいたのである。

定命のことわりが短い対価としての恩恵ギフトであろう事は想像に難しくはなかった。


 

”儂の術は完璧でない ”遺産の少女” やそれ以上の人外の少女共と長く生活を

するとあるいはまず有りえん事だろうが あっさりと解けるやも知れんがのぅ 

ともかく最後の仕事はこれきりじゃてこのババは楽隠居と決め込むことにする

後はお主の世話になるとるかのぅ


 なぁラトアよ、早う完全な”女”になってこのババにみせとくれよ

男だった弟子がこうも別嬪になるなんて生きてて良かったわい。

儂も”師匠冥利”に尽きるわいな ハハハハァ”

ラトアは知り合いの老魔女からこんな話を聞かされていて、ふとミーアの事が浮かんだのである。


「ふふ我が師:メドネア様  このラトアも もう少しで大願成就の運びと成りましょう

貴女様もルベリトにて封櫃の棺で今だご息災でいらっしゃるでしょうし

これからも貴女の御知恵を授かりたいですわ

 

 魔爪まそうのミーアは手放しましたが

ケルアという第二のミーアを手駒にできました 今暫くお待ちを」

髪をケルアに梳かせ、なにやら黒水晶の結晶にに語りかけていた。


 ラトアの足元にはケルアが遊びで、つい殺してしまった下半身をだらしなく

晒した少年が転がっている。

「ねぇ ラトアさま ミーアちゃんの様にケルアがこの殿方を慈しんできて宜しいかしら?

あまりに可愛くて 全てタノシミたいの 血も肉も素敵な臓物も」

「えぇ オレも愉しんだ後だし、もう好きににしていいや 

慈むんだったらお前専用の沐浴場でな。 ここを野郎の血とモツで汚すなよ」

とラトア。 

何が行われようとしているのかはすでに誰もが理解していた。


「はぁーぃ やったーっ 久しぶりだわぁ お肌が喜んでいますわ ラトア様」

「それは良かったわね 心の臓と肝臓は別にしておきなさい メドネア様にさしあげるのですからね」

「はぁ〜ぃそうします ラトア様ぁぁん

うふっ こーんなに楽しいこと よくあのミーアちゃんワタシに教えてくれたと思ってるわ

あのって意地悪だから殺った後、

更にどうやって楽しんでるかなかなか教えてくれなかったんだもん

それでは失礼しますね ラトア様」

「あぁ到着まではまだ、時間がかかる ゆっくり愉しむがいいさ」

ケルアはミーアと違い元は”そんなには”残酷な性根ではなかったがミーアにほだされて、

今ではすっかり当時のミーアのような性根になってしまった。


 ケルアは彼女専用の”バスタブ”で一糸纏わぬ姿を姿見に映す

そこには、可愛らしい少女の躰からだらしなくぶら下がった男のしるしがあった。


(ふふ オトコノコのしるしっていいわぁ

これでようやくミーアお姉さまを愛してあげられるから まってておねーさま )

ケルアもミーアに絆され性根を完全に捻じ曲げられた一人で

ミーアに懸想するあまりこんな卑俗で歪んだ性格になった。


 ケルアはれっきとした少女でかわいい格好や服や小物が大好きで

少女的な身なりが大好きな半面、性格は殆ど男性寄りで

征服欲が特に強く、女としての悦びより男の悦びに強く憧れていた。


 ミーアと別れてから混沌のベルビュールに歪んだ卑俗な願いをして

体内に自在に隠せる男のしるしを形だけもいいから欲しいと懇願したらあっさり叶えてくれて

ケルアも大満足だった。

何といっても立って小水をする便利さ、少女を蹂躙する時の劣情の快感と征服欲は

手に入れたらもう後戻りできないものが彼女にはあったのだ


 これは付き従うフラメリアもラトアも知らないケルアだけの秘密だった

ケルアはずる賢く、男性寄りの性格を巧みに隠していたのである。


{ケルアよ お主の ”別命” を忘れるではないぞ

特にお主には目を掛けてやっておる 上手く、あの二人を御してみせよ}


 姿見から男女混声がケルアの頭に響いてくる

「はいベルビュール様 仰せのまま、御言葉のままに」

とケルアは全裸で素早く傅くが

姿見の中のケルアは同じ全裸姿で立ったままである。


 ケルアがおもてをあげると鏡の中の”ケルア”は姿見の前のケルアに抱きつき

濃厚な接吻を交わす


「あぁん ベルビュール様意地悪ですね どうしてワタシの姿になるんです? 」


{フフ ケルアってケルアが一番好きだもんね 次に大好きなのは ...}

とベルビュールはケルアの声色と姿で言葉を囁く

ケルアはすぐさま言葉を奪い

「きまっているじゃない ミーアお姉さまよ ワタシの次に一番好きなケルアだけのお姉さま」

{いずれ 会えるわ ”だからこのオレにつくすのだぞ” }

とケルア(ベルビュール)は語尾だけ男女混声で黒い霧に戻り姿見の中へ消えていく。


 ケルアは嬉しさのあまりしばしその場で呆けていた

姿見の中には同じ仕草をして呆けている少女だけが残される。


「でもこれ ”素”が出て言葉がつい殿方のようになるのが唯一の欠点よね

でもまぁいいか 

これでメスガキじっくりいじって楽しめるんだからよォ んでもよしばらくは

隠しておかねぇとなぁ ”ラトア” や ”フラメリア” が動き出しやがったからな」

と語尾は昂ぶってしまい隠し切れない男言葉で締めくくる

そして


くちゅり としるしを体内に隠す。


 せっかく貰ったものは出しておくのは当たり前と思っていて

男のしるしは常に出しっぱなしだったし

可愛いワンピースドレスがそれを隠してくれていた。


 そんなことがやり取りされているとも知らず

ラトアは艶美なネグリジェに着替え赤の天鵞絨の寝台に横になる。


 沐浴場で ぐちょりねちょり と湿った音と楽しそうな鼻歌が刻をおかずして聞こえてきたのは

いうまでもない 

まるで 腑抜けたミーアに当て付ける様に。


 次なる犠牲者えものを求めフラメリア・ラトア・ケルアの三人は

恋と伝説の岩礁帯:ルベリトを目指す

ラトアは”女性”魔術講師として、フラメリアはその”妹”として、ケルアは温厚で柔和で従順なメイドとして。



 一方、バルケモス大陸でもシーアの動向に注視する動きが一つあった。

バルケモス大陸、レルリアが仕切る一大商業連合体

その中でも一際異質な魔導機構組合がある

魔女戦争の前代は魔導機構都市:メルエンティア人との戦争であった

前代と言っても、魔女戦争よりは幾千も季節の巡りを遡らねばならなかったが。


 当時は、魔導機構都市:メルエンティア人がここバルケモスの地に存在する

異空間:暝府ネキュイアで栄華を誇っていた


 全ては、

少女型の都市制御中枢ユノン・メルエンティアに全てを委ね

魔導機構に生活の全てを頼り周辺の天候まで制御していたとされる機構仕掛けの都市である。

しかしながらいき過ぎた文明はそれ以前に滅びた古代王朝:レギミニア同様

自滅の途を歩む事となった

メルエンティア人が自ら創造した硅素製魔物:”ビナレス”と”ビナレアーナ”によって

すべてを破壊され滅ぼされた。 


 ビナレアーナは女性型、ビナレスは獣型だったが

あらゆる無機物・有機物を際限なく取込み暴走、神族の介入を待たず

取り込んだ物を世界に撒き散らして自らもオーパーツの残骸として散った。


 そしてその都市を構成していた七色の鉱物が世界オルティア中に

ばらまかれる。 これが魔女戦争時代やシーアの時代地面に無尽蔵にある

七色の謎の鉱物、今代はオーパーツの欠片と名を変えて

地面に散らばって普通に見てとれる七色の物質である。


 そしてメルエンティアの生き残りは制御中枢と一部を除いて全てが滅んだ。

硅素製魔物:ビナレス・ビナレアーナも含めて ...しかし数々の記録までは喪われずに済んだのである

それを、後世のエル族の始祖達が受け継いで今代に至る。


その筆頭集団が今代のオートマト生産の中心組合:バルケモス魔導機構組合

通称: ”機構仕掛けの臍の緒” であり

ブレイルの師もこの位階五位に席を置いている、しかし彼は行方が知れず現在は空席である。


「封印地域:ギアトレスがたった一人の少女の能力ちからで解けたそうじゃないか」

「そのようだね しかしながら我らはその少女が気になっているのではない そうであろ? 」

「確かにな 彼女シーア能力ちから云々(うんぬん)はどこぞの誰かに任せれば良いのでな」

「そうじゃとも 我らが最も懸念しとるのはそんな事ではない」

「我らが追い求めているのは”ユノン・メルエンティア都市群制御管理中枢体(少女型)”

と二人の生きた戦術魔導殻の”少女”じゃな」

「然りっ! 」

と一人の大老がバシリと大机を叩き埃と書類と雑多な部品が飛び散る

他の抜け目ない目付きの老人たちが口角泡飛ばす。


「いまだ行方が知れず、もし悪しき者の手に渡ったら

あの時(魔導機構戦争)の二の舞ぞ どうしても行方を探せ! 姑息いちじしのぎでもいい 

あの ”フレジア” にカネを握らせてもいい どうしても所在を掴むんじゃ!! 」

と更に昂る大老。


”大老” と個人名さえ呼ばれない ”機構仕掛けの臍の緒” の長。

全大陸の遍く魔導と魔器の全権を掌握せねば気が済まない

そんな妄執に取り憑かれた男。


 眉毛は長く床まで垂れ下がり二人の美しいオートマトがそれを丁寧に拯い上げ

手に取って横に控えていた。


 彼こそ、稀代の魔導工学者の才能と智慧を有しながら、世間では凡百の魔器修理屋として

甘んじているビヨン・レヴィアの産みの親ブレイル

その人の師匠でありブレイルが父と呼ん”だ”男である。


 名を捨て”大老”と名乗り息子とバルケモス大陸で袂を分かち

その後、妄執に囚われたエル族のなかでも最高齢の男もあった。


「まぁ 落ち着きなさいな 大老 このエメラーナが視察団としてネルリンゼ”嬢”を彼の地に

同行させていましてよ、安心なさい 五大陸で見つからなかった以上あとは

人外の支配域の”魔界””冥界””神界”の何れかと 

わたくしも方々に手を伸ばしていますけど そんな”噂”は何一つ入ってきませんでしたわ

あとは誰も入り込めなかった彼の地か、五大陸でも人跡未踏の地しかありませんこと? 」


「うむ、それはそうじゃが検討はついておるのか? 貴女は女性秘書官でも位階が上と聞き及んで

こうしてわざわざこのバルケモスに召喚し もてなしを施して”やって”おるのじゃよ

さらに お前には魔女戦争以前に仕込まれた琥珀酒まで小樽一つくれてやってもおる

それなりの結果を持ってこんと その女狐の下のつらの皮剥いでやるからな

全てのオートマトを敵に回したくなければ、儂等に有益な報せをいち早く持ってくることだ」

と組織の長 大老 は底冷えのする嗄れた声でエメラーナを恫喝する。


「あららぁん 怖いこと、怖いこと  お歳を召されると気が急くってホントだわ

落ち着いて待ってなさいな」

とエメラーナはその大老の大きな手を自分でスラリとした黒のタイツの太ももに這わせた

それ以上手が上へ行こうとするのをやんわりと押し戻して

「ねぇ? わたくしなんかより 可愛いは他に沢山いるでしょ 

お爺ちゃん、今は我慢しなさいな」

とさり気なく拒否を示す。


「うむ いつも見てもお主は男を寄せ付けんな ”燃える氷柱つらら” の異名の通りじゃて」

と素直に手を引っ込める。


「うふ このエメラーナ その名で呼ばれる事は恐悦至極にてございましてですよ

良い報せを期待してなさいな」

と大きな手に紅い口紅で接吻をする。


 そして、エメラーナは幾人かのむさ苦しい老人達の間を

甘い香水の残り香と艶めく尻をゆらし立ち去っていった。



去り際にさり気なく渡された書き付けには


 貴様が”男”だということは百も承知 ついでに言えば ”服わぬ種族” であることもな

我らを完全に ”敵” に回せばどういうことか身をもって知ることになるぞ”


 と走り書きがしたためてある。

(ふーっ 食えないジジィ共め ここはオレが一歩譲ってやるよ

世界オルティア中の ”魔器”と”オートマト” 全て ”敵” に回すなんてはオレの柄じゃねぇし

そんなこたぁ 莫迦のすることだぜ 


”男”のオレに気安く触りやがって、でもよタイツ越しのあの手の感触はちと癖になりそうだったな 

まぁ琥珀酒の礼代わりだ 触らせてやっただけでも感謝しな 

 まぁ賢いオレのことだから我慢程度で済ませてやっちゃいるが

アニキ(フローレア)だったらと思うとさぁ ...って考えただけでオレの自慢のしるし

じぼんじまったじゃねぇかよぉ 劣情の仕切り直しかよ 

クソジジィ共め オトコってのは意外と ”繊細デリケート” なんですのよ

それをなんも分かっちゃいねぇ 


 でも琥珀酒はたんまりと手に入ったし 

今夜はアニキと久々に一杯やるかねぇ どうせネルリンゼの”野郎”もあっちにいってる間は

連絡は取れねぇしギルドの仕事は非番だしな メスガキを肴にのんびりすっかぁ)


 と次第にスカートの中で”また”劣情にまかせて大きくなったしるしを多少持て余しつつも

エメラーナは秘書官のようなスラリとしたブラウスとやや丈が短めのフレアスカートを

揺らし、”女衒街”へそのタイツに包まれたスラリとした”男”とは思えない足先を向けた。


 エメラーナが言う ”アニキ” とはバルケモスのみならず

五大陸に名高い”慈善家”として多額の寄付を孤児院

に寄進し表向きは品位品行申し分ない誉れ高い”氷蒼ひょうそうのフローレア嬢”と

社交界きっての令嬢であり華である 凡百の壁の華達を圧倒し

男性のみならず年頃の少女までもが憧れる五大商家:ラクランス家現当主:フローレア・ル・ラクランス

その人であり

”彼”もまた服わぬ種族の一翼である。


 性根は下衆極まりない外道であり

慈善活動等をする度、機嫌が悪くなりメイドにこっ酷く当たり散らす


 そのメイドはフローレアを”男”と看破した一番最初の彼の劣情の”犠牲者”ではあるが

彼女は、醜く歪んだ心の持ち主でフローレアの秘密を唯一知る者として

秘密の独占者として

フローレアの美くしさ目当てに言い寄る小娘達を徹底的に排除して

付き人となり、メイドとなり、時に彼の劣情の相手として、男女の間となっていたのである。 


 琥珀酒の小樽はのちにバルケモスの自宅、ラクランス家へ運ばれることとなり

兄のフローレアともに混じり気無しの本物の琥珀色の液体が贅を凝らした

氷晶石ひょうしょうせき入りのゴブレットになみなみとがれ

彼らのかわいい小振りな唇へ運ばれる事となった。


 後で袖の下にいくらでも利用出来る様に安酒で薄めた物は数本の小瓶に小分けする。

(これで良しっと、結果が何であれオレは今んトコ損は無しだな

良い結果がくりゃぁ、オレらにまた報酬が有るらしいがそれについては今はいいか)

彼:エメラーナは秘書官らしく損得で動く男であり

感情や劣情に任せて損得を顧みないフローレアとはその点で違っていた。


フローレアもエメラーナも美しい顔の唇を”男”らしく醜く歪ませ舌舐めずった。



 ギアトレスでは大規模討伐隊レイドが入り口とされる場所に集まり

全容すら見えない聖骸遺構:エトルを攻略せんとしていた。


「ほぉ ここが聖骸遺構:エトルか 噂じゃ人跡未踏ということだが

そうでもねぇかな うっすらとだが痕跡があるな」


 指し示したのは綺麗に磨き込まれた床である

最初こそゴツゴツした岩肌だったのが奥に進むにつれ

明らかに人の手が加えられた様な床に変化してきていた

濃い青紫色の四辺が整えられた岩塊ブロックが整然と敷き詰められてその隙間からは

淡い燐光が漏れて光の壁の如き様相を呈していた。


「ちょっと待て おい リーリャさん その燐光めがけて石塊いしくれ放ってくれや」

「あン 何でさ? 只の光だろこんなん 鳴子もねえし、棒切れで突きながら来から

問題ないだろ」


 隊列は斥候役三名が先頭次に楯役タンクその次に前衛 間に術師 その後方に視察団

術師殿しんがりに更に前衛と 現地募集の人材五人も含めて総勢四十五の大所帯ならでは

の贅沢な隊列であった。


 わたしは術師ということで一番安全な中程の視察団の前方である

学院や騎士の隊列とは違い 厳密はない大体の並びであり 

後は事が起きたら視察団を守るように、皆陣形を臨機応変にとるだけである

 

 通路は広く大のウル族、武器を佩き防具を帯びて並んで五人は歩けるくらい余裕であった

しかし、全てが手慣れた者、誰もど真ん中を堂々と歩く愚は犯さない


壁沿いに斥候が罠を警戒しつつ歩くのである


 その後の列は広がっても問題ないが大抵小組(小グループ)を作り

固まって、移動していた

そんな中でのケインズの会話だった。


「今までは、岩塊いわくれだったからな 

アレは、単なる”明かりじゃ” ねぇ あれににた光の罠を見たことが有る

ここは俺様の言う通りにしな」

とよその一行パーティーの面子に躊躇い無く指示を出すケインズ

それでも今回の大規模討伐隊レイドの頭目はケインズである

ここで拒否する理由はない。


「まぁ いいよアンタが言うんなら やってやるよ」

と形のいい尻を揺らし小さい石を隙間から漏れる燐光に放った。

シセラは

<< ねぇ今回は寝てるわ また後でね シーア >>

と左手の紋にとっくに入ってしまっていた。


 よってシセラの助言は期待出来なかったが今回は他に手練がいて

必要無しと判断したのであろう

彼女の洞察力がわたしを遥かに凌駕していることは、先の空中遺跡:ギメルで既に明らかである。


握り拳大の石が隙間の燐光に触れた瞬間


パァーン


 と粉微塵に砕け散り細かい破片が勢い良く四方に飛び散るも

各人の得物がそれを素早く華麗に捌く

誰も不用意に怪我をする者は、居なかったがソーヤだけはいくらか、

高速のつぶてかすったようだった


 わたしの場合も、あの指輪に棲んでいる不遊漁が守ってくれてダメージ一つ負わない

ビヨンも素早く手で叩き落とし、ミーアも短剣で捌きヤンスも氷の結界を張り

事無きを得ていた。


「ちくしょう あれは厄介だな ぱなっから手詰まりかもな

でもよ 先には”無理やり通った痕跡があるな

可哀想によ 燐光アレに刻まれたな」

さっきケインズが痕跡が有るとう言ったのは 

燐光の罠に刻まれた魔聖ユトレイア精鋭部隊:薄明騎士団ペルネルの慣れの果てが

あったからなのである。


 鎧ごと綺麗に切り刻まれた哀れな骸がそこかしこにあり

小さい地虫型の魔物が多数食らいついていた。


(わぁ〜♡ すんげぇな アレが生きてりゃな さぞかし良い声を上げたろうによ

その現場に居合わせたかったぁ あんっ またおっきくなってきちゃった

男ってこれだからイヤよね)

と手を顔で覆い繊細な少女の振りをして指の間から舌舐めずるのは

スカートの中のしるしが状況に敏感に反応した視察団のネルリンゼその人である。


「ん どうした嬢ちゃん 怖いか? 現場はいつもこんなんだぜ でもよこれは俺達でも

さすがに慣れぇもんだな まぁ、直ぐ忘れるこったな ハハハ」

と呑気に声掛けする戦士の男。

豪奢なペチコートがリンゼのしるしを全てを覆い隠し可愛いワンピースドレスは

一心不乱な戦士の男の、下卑た下心一杯な視線の全てを浴びていた。


「えっ えぇごめんなさい こういう現場はリンゼも慰問で慣れているつもりですけど

アレはきついですわね」

と手で顔を覆い笑い顔を巧みに隠す

取り繕うのは彼:ネルリンゼにとってごく当たり前な所作である。


 (あっれ この ”懐かしい” 感じ何処かで

あぁぁ なんて綺麗で素敵な死に方なのかしら 美しいわぁ

...あ・れ... なんでこんな事感じるんだろう でもどこかで... )

と何かがもたげて来るのを必死で否定していたのはシーア(クレア)の傍で

アレを見てもあまり哀しみも慈悲も湧いてこない、そいういった情緒の感情の希薄なミーアだった。


 実は先にクローティアからシーアが闇の勢力とも手を組む事もあると聞いた事自体は

どうでも良かった。


 あの時泣いたのは、”シーアという娘が”シアズ”を危険な目に巻き込もうとしている”と

思ったからである 

そのくらいミーアはシアズが好きで頭では理解していても、

未だにミーアの中ではシアズとシーアは同一人物だとは思っていない

(だってシアズ様はカッコイイ”男性”で何より”わたしよりかわいい”少女”な訳ないもの)


 と頑な感情が目の前で起きシーア(シアズ)に説明されても尚、事実を完全に拒否していた

ミーアの中ではシーアという娘があの時シアズを”殺した”という

確固たる ”事実もうそう” に既になっていたのである。


 ミーアを取り巻く人外の少女達やシーアの可愛い容姿、蠢く髪やわらかい髪等

野暮ったい髪や下品な娼婦のような双丘の自分のそれらを比較して羨しくて妬ましくて

ミーアの感情を激しく追い立てていた。


 ここ数日、ギアトレスに来訪以来 シアズに対する激すぎる懸想はミーアの本当の性格と性根が

首をもたげて、今にも心の檻をやぶらんとしていたのは

ミーア自身まだ気付いていない

 ライブ・アーティファクト達は一向に懐かず、自分だけ輪の外に追いやられたそんな疎外感も

それに拍車をかけていたのである。


 レフィキア世界のミーアの自室の箪笥には、 自分の地味なメイド服の他に

無精なシアズから取り換えさせた着古した実験着等シアズの私物が多数あった


 そして、綺麗に整頓されたそれらの中に

シアズの墓をこっそり暴露あばいてくすねてきた当初は肉片で汚れていたが、


 綺麗に舐め取ってあり

今は、丁寧に拭き清められ手脂で更に艶を増した一つの ”頭蓋骨” が有った。

説明するまでもなくこれは嘗てのシアズだったモノである。


 衣装箪笥の扉をあけシーア(クレア)にすら見せたことのないとびきりの笑顔を頭蓋骨モノ

向け、当たり前のように語りかける。


「シアズ様、ご機嫌いかがですか?

本日も貴方様のお言いつけ通り ”妹君シーア” の面倒は 

このミーアがしっかりとみさせていただきました。」

( ”妹君” は可愛くて華奢で柔らかい御髪おぐしでミーアはちょっとヤキモチを妬いていますが

赦して下さいますよね ”同性” の恋敵としては申し分ないこのミーアですが

今は些か、シーア(あちら)に分が有るようですね。

 

 何れわたしも華奢で可愛く素敵な躰を手に入れ、

そして シアズ様を”お兄様”等とほざくあのを苛められるように

...えへへっ♡ いろいろ方々にお願いしているんですの あぁたまんない


 遺産の少女な可愛い躰に、あのシーア(メスガキ)を蹂躙したいというヤロウのような要求

それを同時に望むワタシってちょっと贅沢かな? 

わたしの最愛のシアズ あぁ貴男はもう絶対、誰にも渡さないっ)


 とシーアにはいつも略式で済ませている挨拶を 

最礼であるスカートをつまみ深々と床にこうべを垂れ箪笥の ”頭蓋骨もの” に跪き

自分では下品な娼婦しょうふの様だと思っている、豊かな双丘に優しく抱きしめる。


 こうした行動はここベルゼに航って、徐々にシーアからシアズらしさが喪われていくのを

実感し始めたときから既に習慣化していた。


 シーアを愛おしく感じるミーア、逆に恋敵としてまたはシアズを奪い去った憎き少女を

蹂躙したいと思っているミーア、

生来から女の業を背負って生まれてきたこの少女はこの二つの相反する感情に

ずっと苛まれていたのである。


 時折、ミーアがシーアと別行動で買い物をしていたのは

このよこしまで卑俗な欲望を叶える手段を密かに模索していたからでもあった。


 せめて誰も見ていないところではと、この内なる狂気を晒しても問題は無いと

ニヤリと醜く口角をつり上げる


 こうした狂気の心と平然と同居出来るのも、

生まれながらにすでに常人以上にずる賢いのもミーアの持って生まれた特質だった。


 普段通りに振る舞えるのは

この ”頭蓋骨シアズ” がいつも傍に居てくれるからであり

そしてこの前の晩も丁寧に撫でさすり寝台で共に過ごしていた


 物言わぬ ”頭蓋骨シアズ” は、ミーアがシーアにするのとは違い

熱い情念がたっぷりとこめられた接吻を

虚ろな眼窩は黙って受け入れたんまりと享受する。


これが、シーアですら知らないミーアのレフィキア内で自室での私生活だった。



「どうしたもんかな アレ」

とニース

「どうしようもないね あの燐光に触れた途端、アタイ達はああなっちまう」

とリーリャは転がったヒトだったモノに視線を向ける。


幸い風上はこちら側で匂いは漂って来ない。



 四辺が整えられた岩塊ブロックから漏れる淡い燐光の壁は明滅を繰り返しながら

さながら迷路の壁の如く、行く手を完全に拒んでいた。


「たかが、光にすら対抗手段がねぇとはな 流石封印地域:ギアトレスだけはあるぜ」


 と 

ケインズは息巻いていたが、

ワザと虚勢を張っているのはその大粒の汗、微かに見て取れる頬の引きつりから

はっきりと伝わってきていた。


「まずは此処で夜明し つってもここは建てもんの中だし皆適当に休め」

「おう ケインズさん 俺等はいいぜ」

「しょうがねぇな此処で天幕の準備だ どうしても、彼処を突破せにゃならんしな いいだろ? 」

「応 それでいいぜ」


 と特に異論は出ず

遺骸が視界に入らないように考慮しつつ各自天幕を準備を進め

一旦会議と相成った。

此処は入り口からも程良く近く一端街に出ての資材の買い出しには便利な位置だったが

 それでも、

地図役マッパーに言によればこれでも普通の遺跡や遺構ならすでに踏破しきっている

距離らしい

 逆説的言えば、まだ全容の掴めない遺構のほんの一端であるということでもあった。



 「申ーし上げますっ 生体戦術魔導殻ライブ・ソラスの小娘の居場所がーーッ

ようやく掴めましたっ クロノーラ様」

「あぁン ようやくかぁ? テメェ今まで呆けて居たわけじゃあるめぇな」

声色は幼い少女そのものであるが少女の言葉とは思えない男性的な口調。


 女神:クロノーラは刻を司る女神であると同時に

歴史から葬り去られた”禍物マガモノ”を扱う魔族の特質も併せ持つ

対極的な二面性があった


 平凡な只人の家庭から神域文字を解読出来る子や、邪心や倫理観がない子が突然

生まれるといった 善し悪しに拘わらず精神面での

多様性の恩恵ギフトをクロノーラは無意識で且つ、

無作為で与えているのも 彼女の重要な職能の一つであった。


 クロノーラは幼い少女・男性的で粗野で失策には容赦がない魔族的な部分が

程よく同居している二面の女神でもあったのだ。


「いっ いえ彼の娘が 冥骸遺構:エトル入りした途端、二体の小娘の

気配を把握いたしまして御座います。 けっして怠惰していた訳では... 」

「ほぉ お前の ”怠惰さぼり”のせいではないと? 」

「畏れながら」

と小さい少女の前で床に額をピッタリ擦り付ける従者。


 それをクロノーラは人界から取り寄せたワンピースドレスを着て、

片足を下品に上げ可愛いパンプスで後頭部を

踏みつけていた。


 既に、 ゴリゴリ と鼻が潰れる音がしていたが 眉根一つ動かさず

クロノーラは

「まぁ いいさ ”オレ” はここでテメェに仕置きをするってんじゃわけじゃねぇ

まぁ鼻が潰れる ”くらい” はお仕置きのうちには入んねぇからな」

と恫喝していた。


「クロノーラ、貴女”また”従者を潰す気ですか? 

感心しませんね ようやく”従者”にまで成れた者の魂を再度千々にしなくとも良いのでは? 」

と後方から声を掛けたのはハグスールである。


「えー ハグ兄ぃ だってだってぇ コイツったらねー クロノにだまって遊んでたんだもん

ねー お仕置きは当然じゃない? 」

といつもの口調でハグスールの後方に隠れ指をビシリと指す。


「そんなぁ これでも精一杯だったんです

ギアトレスだって あの娘の御蔭で入れたんですし

此処は何卒、何卒御慈悲を”クロノス”様」

「ふん オレ(クロノス)の名を呼ぶとはな いい度胸じゃねぇか 

なぁハグ兄ぃ こいつ天使に降格させてもいいだろ? 」

とハグスールにしがみ付きながらまた少女声の男口調で恫喝する。


「いいですか クロノーラ貴女は ”女神” なのですよ いい加減”クロノス”をがらせなさい

オンナノコが下品ですよ」

「むーっ ”クロノス” ちゃんを下がらせるわ これでいいでしょ? 」

とクロノーラがいうと

「ちっ しょうがねぇな 今後オレをクロノーラから起こすんじゃねぇぞ

テメェには最後の機会をやる。 引き続き、生体戦術魔導殻ライブ・ソラスの小娘の動向を探れや」

と言いうと

「クロノスちゃんは下がったわ 後、貴方が失策らない限り出てこないって

ちっかり(しっかり) おちごと(お仕事) ちてきて(してきて)」

と再度ビシリと指を指す。


「はい、クロノーラ様の温情痛み入りまして御座います 何卒御慈悲あるご処断を」

とさらに従者は素早くクロノーラのパンプスに接吻をした。


「それで よろちい(よろしい)」

と言うと、従者は躓き転びながら転送陣へ慌てて駆け込み そしてふっと掻き消えた。


「貴女も貴女ですよ ”クロノス” は出鱈目に出しちゃダメですよ

あまりに”彼”が出張ると刻が乱れて良くない事を引き起こす可能性だって有るのですから」

とハグスールは、クロノーラのかわいい額を指で弾いた。


「ぶーッ 痛いの やーっ」

とぶすくれるが今回ばかりはクロノーラの失態であった。

クロノーラは刻を秩序側に寄らせ、クロノスは刻を混沌カオス側に寄らせる

世の中が乱れた時は大抵クロノスが出張ってきて何かしら神界でやらかして

兄達にどやされている時だった。


「でも ハグ兄ぃ生体戦術魔導殻ライブ・ソラスの小娘ってなんだっけ

なんか とーってもクロノ達にとっても怖いモノだったような? 」

「呆れましたね 冥刻の玩具箱めいこくのおもちゃばこを管理しておきながら、

そんな事も解らないのですか

いいですかクロノーラ 生体戦術魔導殻ライブ・ソラスって言うのはですね」


 と説明したのは

以下の様な内容だった。


生体戦術魔導殻せいたいせんじゅつまふどうかく(ライブ・ソラス)


 滅びた種族、二人の 蒼き深き者 が創造したといわれる、

生体武器の種族:メザレイラ一族

で正式名は 少女型生体戦術魔導殻キリル・ソラス

と呼ばれてですね


 ユノン・メルエンティア都市群制御管理中枢体(少女型)によって厳重に管理されていた

三つで一組の宝珠:生体戦術魔導殻キリル・ソラスが幾星霜の時を経て少女の姿を取ったもの

なんですよ。


 胸に三つの宝珠が埋め込まれていてこれが本体で

少女の姿はこの”意思が有り自我を持つ宝珠”が自由に行動出来るように自身で創造したもので

今代は宝珠のみの姿には戻れないんですが 我々にとっても人界にとっても

”生きた禁忌級の武器”の少女達です。


 と意気揚々と説明する

ハグスールの説明癖は幼いクロノーラに対しても容赦がない。

「えーっ また難しいお話ぃ 最後の ”生きた禁忌級の少女型の武器” でいいんじゃないの」

としかめ顔

ハグスールはつい説明癖が出て

コホン とわざとらしい咳払いを一言。


「有り体に言えばそうですが 問題はその禁忌級の武器が自由意思をもち自我を備えている点

それと”武器”ですから人界の常識や倫理感が全くないことなんです

使役者次第では人界のみならず魔界・冥界にもそして ここ”神界ユクラシア”にも”多少なり

影響が出るやも知れないとう事です


「そーだよね ハグ兄ぃ 魔界と冥界は”蛇”の支配域だから どーでもいいけど 

いたするのが”神界”と”人界”ならちょっと困るかなぁ? 」

と指を咥え上目でハグスールを見つめるクロノーラ。


「神族としては ”人界” は多少どうなってもいいですがね 

ことが”神界ユクラシア”にまで及ぶとなるとワタシも兄上も看過できないですからね」

「ねぇ そうでしょう? 兄上」

「おぅ そうだな またあの少女共とその愛玩動物ペット

暴れるとなりゃ俺様も ”重い腰” をいよいよ

上げざるを得ないってわけだ」

といつの間にか腕を組んだ仁王立ちのアグストがいた。


「ふっ 驚きました 気配を全く感じさせないんて相変わらず見事なものです」

と嫌味な言葉にはアグストは反応せず話題を切り出す。


「それよか問題は、あいつらが素直に使い手に懐くと思うか?

いまはまだ異空間で温和しくしとるようだかな ...... っとさっき慌てておめぇらのとこ走ってきた

従者ふん捕まえて 聞き出したのよ、なんか面白そうだなってな ガハハ」 

「あまり従者を脅かさないで下さいますか? 兄上に脅されてさらに”クロノス”に責め立てられては

いくらなんでも気の毒ですよ


 話が逸れましたね

えぇ ”今は” です 今まではライブ・ソラス達は使い手が気に入らないと見るや

直ぐ殺してしまってその不満を世界中に当たり散らしていましたからね」


「いいや違うな 俺様が言いたいのはそんな”瑣末”なことじゃねえよ

あの胸についてる三つの宝珠だろ 一番厄介なのはよ

なまじ、少女型のせいで、ライブ・ソラス(それ)とは知らずに

ちょっかいかける莫迦や阿呆共がいることだろ

 

 宝珠アレだけが欲しくてよ

小娘から強引にむしり取ろうとした莫迦や阿呆が居たからな

一度のみならず幾度いくたびもな そして手痛い目に遭わされても

只人ってのは ほとぼりが冷めやがると自分等のしたことを綺麗サッパリ

忘れて同じことを繰り返すことだろ そこだろ問題ってのは。

事実を”伝説”とか”迷信”だとか言ってすり替えるのが得意だろがよ

度毎に後始末する俺等神族の身にでもなってみろや

御蔭で俺様の出番は無くならないがな ガハハアハァ」

と大笑い。


「あぁ 只人ってそうでしたね 大抵は”伝説”とか”迷信”って真実や経験に

根差しているモノなんですがね 

それを煽る魔族も大概ですがまた ”名無しの災厄” を招かなきゃよいのですが」

と珍しく眉間に皺を寄せるハグスール。


  ”名無しの災厄” とは

過去にライブ・ソラスとは知らず二人の少女に宝珠目当てでちょっかいを出し

怒りを買い

あまりに破壊され尽くしてしまい 厄災が起きた事すら後世に残らない

そんな出来事が幾度か遭った。

「そうよ その ”名無しの災厄” の後始末をするんが俺達の ”仕事” に回されるだろ

三神協定とやらでな、だろ?


 それこそ ”伝説” と称して人界に多量の天使共を派遣して流布しなきゃなんねぇ

たりぃーだろが

人界にはよ ”魔導考古学” なんて過去を探る事に情熱を燃やした酔狂な輩もいるからな

後始末はちゃんとしなきゃなんぇしホントはこれはテメーの管轄だろが? 」

とアグスト


「ふふそうでしたね ぽっかりと歴史に空いた穴を なんとか誤魔化して

そんな ”ライブ・ソラスなんて居なかった” 事にしなければ成りませんでしたから

高名な魔導考古学者なら、いずれ ”ライブ・ソラス” の事がつまびらかにして

しまうでしょうが ”伝説” であれば皆その域から考えが及びませんし

真実を語っているにも拘わらず、誰も信じないでしょう

なにせ只人って目にしたこと以外は、信用しないですからね

伝聞のみともなれば尾ひれがつき都合のいい”伝説”に置き換わる

定命が短い故、と言ってしまえばそれまででしょうがね


 それでも ”伝説” という名の”真実”が”事実”に変われば 

また 面倒な後始末が我々神族に巡って来ますからね

そうすると 本来の ”平定業務” が疎かになる そうすると

ことわりの循環が崩れる・母上のお怒りを買う・神界が乱れる と

負の循環が始まります そうすると二柱の”蛇”が

これを機に協定の反故の言い訳に使われ また前史代の三神の争いが起きかねません

それはいかなる手段を持ってしてでも阻止せねば成りませんからね。


 引き金が世界規模の彼女をめぐる戦いと知れると、神族を責める格好の

理由に使われますし その上立場が弱くなると

何一ついいことが有りません。


 兄上にとっていくさが起きることはいい事でしょうが わたしには困りますからね

”程よく” 厄災が起きて貰いませんとね 一気に只人が減るのは、我々への信仰が減り

神族にとっても存続の危機になりますからね」

「おっ 珍しくオレも同感だな 只人が減るのは、信仰が減ることに繋るからな

でもよまだ ”名無しの災厄” の兆はしが見えたって訳じゃねぇ

俺達ですら手を焼いた少女共だからな」 


「まぁそこはものは考えようです かの者がもし手懐けられなくてどうしようも無いときは」


...... 。


とハグスール 目は怜悧な光をたたえていて一泊間が空いた。

「無いときは? 」

とアグスト。

 

「”彼の者が手懐けられなかった” 事にすれば我らが母上から御叱りを受けることもありませんしね」

「要は、あの銀の娘に全ての責任を丸投げってか? 」


「有り体に言えばそうですかね」

ハグスールは堂々と言い放った。


「これは最後の手段ですが まぁその時は かの者ごと歴史から”退場”してもらうだけです

原因と責任と結果遍く丸ごとね。

 

 しかし、看過出来無い憂慮すべき事態であることも確かです。

早速人界の母上に文を出すといたしましょう

後は母上リーンの御判断で”贄の蛇”と ”円環の蛇” と協議するやもしれません

今、わたしにできるのは文を出すことぐらいですかね」

とやや穏やかな顔に戻る。


 ハグスールの中で一つ算段がついたのだろう

彼は、行き当たりとう事が嫌いで常に自分で”納得”のいく算段を付けてから

”行動”に移る そんな神族だった。


「 ”かの者ごと歴史から退場してもらうだけです” だなんて穏やかじゃねぇな おい、何考えてる? 」

と珍しくアグストがハグスールを諌めると

「あぁ兄上すみません これは言葉の”綾”でしてね なぁに彼の者に永劫に”聖牢”に

棲んでもらうだけですよ どうせ定命のことわりからも外れていることです

死にはしないでしょう あくまで仮定の話ですが」

「うぁわ えげつねぇな ”死” より過酷な運命さだめだぞ そりゃ」

「ふふ 兄上はその一端を体感しましたからね」

「るせぇよ」

とアグストは、腕を組み大きな溜息を一つ。


「しかし、わたしですら居場所が掴めなかった ライブ・ソラスが、冥骸遺構:エトルに

自ら異空間を構築して隠れていたとは恐るべき少女達です

さらに、その異空間の中に二体の愛玩動物ペットまで飼い慣らしているらしいと聞き及んでますよ

宝珠のままで温和しくしていれば良いものをなまじっか、自我を持ちあまつさえ少女の姿を取るまでに

至るとは 蒼き深き者 共も厄介なモノを創造してくれたものですね」

と深い溜息のハグスール。


「でよ、その 蒼き深き者 っての何者だ 俺達が存在する以前から居たようだが? 」

「わたしの研究と母上からそれとなく聞き出したり、従者を使い掻い摘んだ情報から推察するに

母上が我々を産み出した時には既に彼らは滅んでいるようですし直系の血脈も完全に

途絶えていますね。


 三神で覇権争いをした直後、この世界での一番最初の種族とも言われてますが

わたしの考古学の知識ですら全容を解明出来無い程の、種族です

ライブ・ソラスはもとより、遺産の少女・概念や現象そのものが少女型になっているものの

根源を生み出し さらには世界を構築したあるいは眼下に見える


 神族以外の全ての揺り籠であり彼の者達はもとより有機体・無機体全てが息づき育まれている

神界:ユクラシアから見下ろすことが出来る この蒼碧の星の”星核ザビス”を創造したとも

言われてますが今と成っては真偽の程はわかりません」

ハグスールは遥か足元に見える巨大な蒼碧の星を半透明な床を通して感慨深げなまなこ

見つめていた。


 さらに言葉は続き

「三神協定でも、特別匿秘事項になるらしくワタシ如きがどうのこうの出来る事ではないんです 

自分なりに”研究”はしていますがね」

と得意満面でアグストに衒学げんがくを披露する。

「うへぇ 聞かなきゃ良かったな オレにはちんぷんかんぷんだぜ」

とアグストは早々に両手を挙げた


「でも今回はかの娘もいます まぁ此処ユクラシアさえ被害が

及ばなければ多少は目を瞑ってやりますがね 兄上の出番はそれからでも」

「あぁ そうかい、そうかい てめぇまた人界で何か動きがあればいいと思ってんだろ?

とんだ下衆だな」

「ふふ 何とでも仰てください 此処の所すこし退屈しているだけですよ

”停滞” は何も産み出しませんからね それに銀の娘に委ねてみようとも思っているんです

我々が先にライブ・ソラスを確保してから厄介な問題を起きれば

二匹の蛇に都合がいい口実を与えてしまい

神族の立場が危うくなるやも知れません しかし、銀の娘の眷族扱いだと

全ての責任は贄の蛇 つまりですね ... 。」


 ハグスールは、顎を捻る。


「あぁ 言いたい事はわかったよ ”何か”問題がおきたとしても俺達の責任では無いということか

とんだ悪党だな」

「兄上、奸計には流石聡いですね お見事です」

とハグスールは軽く手を叩く


「ふッ でもよここ(ユクラシア)に影響がでたら 

そんときはいくらお前が止めても、オレは腰を上げるぜ いいなハグスールよ」

「えぇ、いいですとも 兄上、その時はワタシも一緒に介入させてもらいますよ」

「おほぅ? 言いやがったな 言質は取ったぞ、クロノーラぁテメェが証人だかんな」

「は〜ぃ 分かってまぁ〜す。 」

とアグストとクロノーラの二人はニヤニヤ嗤う。


「おらおら 天使共!! なにサボってやがるッ! 早く死神から魂を一個でも多く

引き取って来やがれ! 」

とアグストはいつもの調子に戻る。

「まずは、どう手懐けるかお手並み拝見といきますかね ”シーア”」

とハグスールは足元を見下ろしながら腕を組み指先で自分の頬をトントン突いた。



 同日同刻、夜静まり返った遺構内を例の燐光を気にするふうでも無くひたひたと歩く

二人の少女がいる。


 二人の視界には何故か陽炎のように揺らめいている大規模討伐隊レイド一行パーティー

その天幕が映っていた


「ふふ こちらの”世界”からはあちらの世界はまるで陽炎ね お姉さま? 」

「んっ そう ここは鏡面虚像世界:イクリプス 銀のお姉さまと重なり合う世界 だもの」

「へぇ お姉さまがこんなにしゃべるなんて珍しいわね それほど

あの銀のお姉さまが お気に入りなのかしら? 」

「うんっ とても だからこうして出てきた」

もう一人は口数が少なく抑揚無い淡々とした口調で答えた。


「へぇ お姉さまがお気に入りだったら ”間違い” はないわね」

と良く喋る少女は髪を しゅるしゅる とシーアに伸ばすがシーアは陽炎のように揺らぎ

霧散しそしてまた、シーアの形に戻る。

「神族の連中がこの私達:ライブ・ソラスに介入してこなきゃいいけど


はやいとこ向こうの”実像世界(仮)”に行きたいけど 

行きたいけど ってお姉さまっ!? そんなにその銀の気に入ったの? 」

口数が多い少女が動揺したのも無理はない


 もう一人の寡黙な少女が陽炎のように揺らめくシーアに取り縋っていたのである

「んーッ 銀のお姉さまぁッ 早くキリルアを貴女の使役物にしてっ 貴女に仕えさせて頂戴」

と今まで一度も見せたことのない無口な少女の表情と態度に

もう一人の口数が多い似たような面立ちの少女は驚きを隠せない。


 無口な少女は更に寝ているシーアを抱きしめて唇を奪おうとするも

シーアは陽炎のように揺らぐのみであった。


 鏡面虚像世界:イクリプス側から見れば、シーア達のいる実像世界が”虚像”である。

「ねぇ この このソルリアが目をつけてたのに 姉様はいつもいいとこ取りでズルいわ」

と似たややきつめの面立ちのもう一人の少女はキリルアと呼んだ少女に不満を漏らしていた。

「なら ソルリアちゃんも この銀のお姉さまの眷族になっちゃお そうすればいいじゃない? 」

「えーっ ライブ・ソラスの私達 ”二人” も同時にだなんて聞いたこともないわ

でも 器を計るだけならいいよね」


 と銀光沢の淡いブルーラベンダーの髪を伸ばし空間を突いた

驚いたことに何もない空間に髪一房分位の

大きさの円形の幾何学文様の罅が入り実像世界との境界が開く

その文様の罅の隙間から髪が湧き出る様にシーアの髪に触れていく。


「ひぁぁぅ なっ 何なの? この 

器なんて表現するにはあまりに ...でもキリル姉様の勘は当たりね

決めたわ ソルリアもこのの使役物にしてもらおっと」

といままで一度もかいたことのない大粒の汗を惨ませ激しく狼狽し

妙な声をだし慌てて髪を引っ込めて

境界を閉じ派手に尻餅をついてしまったソルリア。


「今はダメ 銀のお姉さま”だけ”をこの鏡面虚像世界(仮)に

お招きしないとね はやくして ソルリア」 

「”取り巻き” がいないところで ゆっくりとね ねっねっ そうでしょ キリルア」

逸るキルリアをなだめるソルリア

「うんそうする あとお願い」

と空間の奥深くへ。


 暫くして、

{グルルゥ グルルゥ ...グルルゥ}

と喉を鳴らす大きな気配と音がソルリアへ近づいてくる

剣呑な空気はなく足音も無い気配は極めて穏やかであった。


「あらっ 貴方もあの銀のが気に入った? 」

{ナーン ナーオ、ナーオ}

と猫のような甘えた声

「そう、貴方が気に入ったなら事は急がないと 貴方、我慢知らずで卑しんぼだから

あっちで暴れたら世界壊れちゃうもんね クーちゃん」

{ナァーン}

とソルリアの頬を舐め上げる大きなざらついた舌。

「こら、こら 甘えないの でもあっち(実像世界)じゃ貴方って大昔と違って

”今は”大したことできないのよ それに分かってる? 

ヒトを沢山喰べてそれでも飽き足らず世界の一部も喰べちゃったもんね

御蔭でこんなに肥えちゃったし、人型でないとお外でられないわよ それにね

貴方の姿を知っているヤツもいるかもよ」


{ナァーン}


 ソルリアの胴回りの何倍もある太い前足を、モジモジさせていて

前足をシーアの方に向けて クイクイ とくうを手招くような仕草をする。

前脚と後脚の上は炎の様に揺らめいていて視認すら不可能であった


「やっぱり 貴方もあの銀のが気に入ったのね? 」

{ナーン ナーオ、ナーオォーン}

と切なげな声。


「今は我慢しなさいな、私達がおねーさまと盟約を結べば

貴方もうーんと能力ちから抑えてならお外へ行けるようにしてあげる

でさ、ちょっと気が早いけど オトコノコの姿がいい? それともオンナノコ? 」

大きな獣はソルリアがオンナノコと行った時一声大きく

{ナァァーン}

と切なげに鳴く。


「そう、オンナノコがいいの いいわとびきり可愛い姿にしてあげるから

今は、キリル姉様のところにお行きなさいな」

というと クーちゃん と呼ばれた巨大な ”獣” は足音一つ立てず奥へ消えていく

この ”獣” こそ神族が彼女らの ”愛玩動物ペット” と呼んでいる

禁忌級古代魔物種:クレプスクルムであり 

世界を何度かこの ”獣” に喰らい尽くされかけた 

異世界語で”黄昏クレプスクルム”を意味している ”名無しの厄災” の主役であった。


「やっぱ 珍しいわぁ キリル姉様がちゃんと受け答えするなんて

最後に言葉を発したのっていつだっけかぁ

でもアレだけ ”昂っちゃって” よほどこの銀のお姉さまが気に入ったのね

せっかく このソルリアが独占しようと思ったのにーっ」

とソルリアが悔しがると


「ね? 何か言った ソルリア あのお姉さまはワタシのもので

ワタシはお姉さまの”使役物”になるの もう決めたの 

だから ソルリアちゃん 独占はダメ」

と奥へ引っ込んだはずのキリルアが 髪を伸ばしソルリアの首を締めつけようとする。

「ごっ ごめんなさいキリル姉様」

同じライブ・ソラスであるソルリアですらキリルアには敵わず直ぐに謝罪した。


 それもそのはずで、キリルアは同族のライブ・ソラスを食らい付くしていて

それを目の当たりして自身の存亡の危機におののいたソルリアは

キリルアに姉妹の盟約を結ぶ事で危機を免れたのである。


 キリルアはたった二人のライブ・ソラスの少女の中でも特に別格で

温和しく無口でも、凄まじい鏖殺能力と殺戮能力を備えていた


「そう ならはやく して」

と今度こそ空間の奥に引っ込んだ


 この鏡面虚像世界:イクリプスは、シーア達が存在する実像世界が複製された空間である

燐光の罠を解除するにはこの空間を経由しないと解除する事が出来無いのは

この時のシーアはまだ知らなかった。


「んっ クローティア? わたしをつついた? 」

仮眠中何者かがわたしのマギに直接干渉したらしく

それを突かれたとわたしの中では認識したらしい。


『何のことじゃ 儂は知らんぞ 突かれたぐらいどうでもなかろ』

「そうなんだけど なんか”奥”を探られるような感じがしたの」

『 ”クレア”をか? 』

声に緊張の色が乗る。


「そう ほんの一瞬だったけど間違いなく ”クレア”まで到達したわ

すぐ気配は消えたけどね」

仮眠中、何者かのパスがわたしの中の”クレア”に触ったのがはっきりと分かった

力量を探られるようなそんなねっとりとした感触。


『うむ、お主の中のクレアまで到達し探りを入れるとは

遺産の少女より上位の者かも知れんな 影に入った少女共は? 』

「いえ それはないと思う 仮とはいえパスが通っているし

仮眠中のは明らかに ”外部干渉” だった そう感じるの」

『そうかかなりの上位の人外かも知れんが人外になりたてのお主に忠告の意味も込めて

言っておくが、差し当たって実害が無ければ

やたら騒ぐのも相手に舐められる ここは先ず様子見とせい


... 。


にしても”冥闇のクレアーティア”にちょっかいをだすとは

いい度量をしとるのぅ

後できちんとこの落とし前はつけねばならんな』

と落ち着けとわたしに言った割にクローティア自身はやたら息巻いていた。

 

『それより此処をどうやって突破するかは儂は手は貸さんぞ

それ如きは自身で切りひらけということじゃ

意地悪で言うておるのではないからな。 そこは誤解の無いように言っておく』

「まぁ貴女クローティアのことだし、髪に引っ付いてていいわ」

わたしも、何から何まで彼女に面倒を見てもらうつもりは毛頭ない

それにクローティアに関してはやや気になる事があった。


『うむ そうする』

と言うと髪に外からは全く分からないくらい潜り込んでしまった

最近は、わざわざ魔導書形態にならずとも大抵の事が出来るようになっていたので

クローティア形態の時の眷族の召喚には支障は出ていない。


 尤も最近はその眷族の出番すらないのだが、

しょっちゅう戦闘をしているわけでは無いのでむしろこれが召喚士の日常であろう。


 ベルゼでは、召喚士とおぼしき冒険者が此れ見よがしに

眷族を連れ歩いて居るのを見かけたが

”ケルベロス”や”ヘルハウンド”を此れ見よがしに連れ歩くわけもいくまいし

経緯やら何やらを聞かれ、痛くもない腹を探られるのは心地いいものではなかった。


 ミーアはまだ深く仮眠中でビヨンは既に目覚めていて視線を動かし警戒を怠らない

「おぅ シーア目覚めたか? 」

とケインズ。

「えぇ」

と答えると


「なぁ 御前さんなら アレどうするよ、燐光の壁は天井まで到達しているし

明滅は繰り返しちゃいるが法則性がねぇ

頃合いを見計らって、掻い潜るわけにもいかねぇ

ここで、貴重な人員は失いたくねぇし、 あんな風にはなりたかねえし分かるだろ」

と指差す遠目の視線の先には哀れな犠牲者達。


「いまそれを思案中よ でも街に出戻るのは考えていない

備蓄はそれなりにあるだろうし ここまで来るのだって大変だったでしょ? 

特に アレ」

「あぁ その通りさ」

とケインズの言葉の通り、岩塊いわくれの素掘りのような通路は物陰も多く

やたらとジメジメと湿っぽく

闇蚯蚓や腐れ鼠の大群が闊歩していた。


 そしてなによりわたしが嫌だったのは

蛭蛇 (スニーキ) である

本来、樹上性の蛭で長く大きい黒褐色に黄土色の2本の筋が入っていて

湿った大森林地帯には沢山棲息している。


 雨のように ボタリボタリ と降ってきては首筋にたかって血を吸い

慌てて切りつけると裂けた切口から子蛭が更に出てくる。


 これが厄介で小さい時は鋭い歯で皮膚に齧り付りついて頭を食い込ませる習性がある

成体は吸血性であったが、幼体は肉食性であった

からだは滑々(ぬめぬめ)して取れないし痛痒さと生理的嫌悪感で気がおかしくなりそうだった


 わたしは幼体のこれに顔中たかられたヒトを見たこともあった

顔中食いつかれ胴体半分程、皮膚に潜り込ませ蠢いていて

腕や脚も肌が出ている所にびっしりたかられ、大声でわめく口腔内まで

食いつかれて施術室に担架で運ばれるヒム族の男性を間近に見てしまった。

あの男性は成体を、闇雲に切りつけてしまったのだろう


 加えて、錬金術師時代レフィキアに腕に生えた人面疽を潰すため

成体が沢山入っていた水槽に腕を浸けられたこともあった

更に腹に人面疽が生えたときは、体ごと沈められたこともある

男性だった頃、誤ってしるしに吸い付かれたこともあった

それ以来、その魔物が怖気立つほどきらいになり

わたしにとって、生涯に残る心的外傷トラウマとなった。


 いまでも救護院に行くとこれの野生種を養殖したモノが医療用に沢山飼われていて

膿んだ疵の後処理や、鬱血して浮腫むくんだ部位の治療に活用されているが

わたしは兎にも角にもこれが大嫌いだった。


 その蛭蛇がここに来る前にわんさかいて魔導書クロの中に逃げ込む訳にも行かず

生理的嫌悪感に耐えていま仮眠を取っている場所まで来たのだから、

往復は絶対に何が何でも嫌だった。


「オメェさんの言うことも尤もだ アレ(スニーキ)はオレだって嫌だぜ

ガキんときなぁ沼で遊んでいてよ ここにたんまり吸い付かれてな

オフクロによく泣きついたもんだぜ ガハハァ」

とケインズ

その指は下半身を指していた。


 わたしが思わず顔を蹙めたのを見たのだろう

「おっと 御嬢の前だったなこれは失礼した 赦せ」

と素直に謝罪した。


「ケインズ様 アレは、兎にも角にも大嫌いなの

備蓄が足りないならしょうがないけど 行くときは公平にクジで決めましょ

その代わり補充の役目のヒトには報酬を上乗せするわ」

「おっ おぅ そうするか うんそれがいいか

大規模討伐隊レイドの発起人がそう言うんだ 皆は異論はないな」


「うぃーす」


 と回りにいた冒険者からは特に異論は出なかった。

大規模な集団では、異論があるならはっきりと代案を示し

さらにそれの正当性を証明しなければならない。


 集団行動で重要なのは全ての一致した賛同ではなく、少数の異論者をいかに

多数の意見に納得させるかで、その頭目の器量が伺えるのだ

少なくともわたしはそう思っている。


「でもよ シーアよ

何時迄もこんな辛気臭ぇトコにも居たくねぇのもオレの本音だな

誰か振り子を出せ これが 172800往復したら一端此処を引き揚げるぞ

今の俺様の最大限の妥協点だなこれなら良いだろ? 」

「えぇ いいわ」

「振り子ならわたしが」

と呪術師の女性が振り子を出し 


「((時を振れゆく、マギスの鼓動、クロノの鼓動、狭間に揺れいけ))」


 と唱えると鎖に繋がれた振り子が宙に浮いてそのまま一定の調子て揺れ始める

呆けて見ていると

「あぁ これ本来は、地脈から水脈やら鉱脈やらを探り当てるのに使うのよ霊脈も視れるけど

アタシは見方が分かんないや

 取り敢えず

こうして歩いて行くとお目当てに当たると止まるのよ

あと円を描いたり揺れる方向が変わったりとかね

”占星術師”が居ないから 呪術師のワタシの出番ってわけね

でもケインズ なんで172800なわけ? 」

とケインズにそのまま話を向けた。


「あぁ なんでもオレが魔導天文学のセンセに聞いた話だが

詳しい理屈はちんぷんかんぷんだが 一昼夜ってのが 

その振り子の調子で86400往復なんだとよ

それが二倍で、二昼夜ってわけさ」

「へぇ 驚いたねアンタにそんな素養があるとはね、時間なんてアタシには

朝明るくなって、一番鶏が鳴いて始まって陽が地面に隠れて

宵の明星が見えれば晩って事でいいからね

季節の巡りや時を気にするのは農奴か、聖職者や学者ぐらいなモンさね 

あんたシーアって言ったっけ、 そうでしょ今回の依頼主さん? 」

と今度はわたしに話を向けられた。


「えっ そうね えーと? 」

「あっ ゴメンね まだ名乗って無かったわ

あたしケインズ(こいつ)の一行パーティーの呪術師:ラエルよ よろしくね」

と明るい茶のストレートロングのエル族らしい女性は親しげな目を向けた。

「アレ(スニーキ)、 イヤよね アタシもよく脚の浮腫むくみを治すのに

子供の頃、母に美容にも良いとか言われてねぇ 

救護院に無理やり連れられて行かされたっけね あはは」

と呑気に笑う。


「おし、後は好きにしな オレはニースと話が有るんでな

ヤツとつるんでくるからよ シーアよアンタもいい案があったら向こうの天幕でに入るからな

声掛けてくれよ」

とケインズは個人用ではない共同用の天幕の中に消えた。


「わたしも 自分の天幕に戻るわ」

とわたしがやや疲れた声で返事を返すと

「いいよ あたしも先ず横になるかね 無駄な体力の消耗は避けたいしね じゃね」

とラエルも天幕に戻っていく

 

 皆、算段を出し合っているようで彼方此方あちらこちらの天幕からヒソヒソ話が聞こえ出している

くうに揺れる振り子を眺めていてもしょうがない

わたしも自分の天幕の中へ潜り込む。

ミーアは相変わらず深い眠りに就いていて時折むにゃむにゃと寝言が漏れていた


「ふふ 銀のお姉さま早く、眠って頂戴。 ワタシの世界イクリプスに来て貰うから

クーちゃんも早くって モジモジしてるわぁ」

と重なり合う世界の中の二人の少女達はシーアが寝入るのを今か今かと待ち構えていた。


ちゃぷり、ちゃぷり


 と 

イクリプス内で、キリルアの周りの空間が歪み

まるで水面のように波紋が広がる

「んっ? キュルリちゃん? 貴女もあのおねーさまがお気に入りかしら」

とぼそりと一言。

 

 波紋からするりと這い出たのは四足の両生類と古代魚の両方の特徴を備えた

”魔物”だった。

体長はシーアの二倍位胴回りもシーアの二倍はあろうかと思うくらいの

体躯である。


{キュルーゥン キュルルルッ}

と可愛いおねだり声でキリルアに甘えてくる

「銀のおねーさまがお気に入りなのは 貴女もなのね? 」

というと


{キュルルルッン キュルルルッン}

とさらに嬉しそうな鳴き声をあげる

「そう クーちゃんと仲良くするなら 此処蝕イクリプス内に居てもいい」

とキリルアが言うと


{キュルルルッ}


とくるりとキリルアの周りを回る

「ホント? 貴女はいつも約束守らないから困っちゃうな

でもわざわざ ”寝床” である深淵の結界からこのイクリプスに出てくるなんてね

よほどのお気に入りなの? あの銀のおねーさま」


{キュルルルーーンッ}

と更に嬉しそうな”キュルリ”と呼ばれた魔物。


んーとっ ......そうだ

貴女もオンナノコの姿になりたいよね クゥーちゃんだけだと貴女もイヤでしょ」

とキルリアが提案すると


{キュルルルッ キュルルルン} 


 とまたくるりと宙返りをする。

「ふふっ いいわクーちゃん同様可愛い姿にしてアゲル

私達がおねーさまと盟約が済んだら思っきり甘えてきなさい」

と言うと 


{キュル キュルル キュルルルッーーッ }

と激しく空を泳ぐ、


 この、両生類と古代魚の両方の特徴を備えた”魔物”は

真名を”キュルリーティア・ルザベル・アマランタ”という

クレプスクルム同様、名無しの厄災で世界を喰った

黄昏の半陸水棲魔獣 とも呼ばれる

禁忌級古代魔物種:キュルリーティア・ルザベル・アマランタであった。

こんな姿でも、深海の古代巨大魔物種:レヴィアタンの直系血脈の血統である。


 そんな禁忌級のライブ・ソラスの少女と禁忌級古代魔物種二体がシーアの入眠を

待ち構えていた。


そうとは知らずにわたしはクローティアを髪に隠しながら

今後の事を考えていた。


 ベルゼ入りして、あの爬虫類の目のような呪物らしきモノを

預けたあの日ウニサーレ・メトリエーテ夫妻から

懇願された依頼を思い出す


「私達の”息子”を殺して」 

それと 

「貴女にしかあの子を止めることは出来無い」

とも


『ん 何を考えているシーア? 』

「あの時の依頼を思い出していたの

わたしの道理と”ァタウェー”の道理どちらが通るかって」

『らしくないな 今に成って及び腰に成ったか』


「うん、正直に言うね 

積み上げた想いも突き上げるような信念もない

そんなわたしが”ァタウェー”を止められるかって

ちょっと怖くなっちゃったの」

『そうか 怖くなったら退いても良いんじゃぞ

儂はそれについては咎めはせんからな』

わたしは正直に今の心境を吐露した。


「でもそんなわたしに、想いを託してくれたあのヒト達に報いたい

今はそれが唯一の支え でもそれで彼の道理に打ち勝てるか分からない」

『心配せんでもええよ それだけで十分じゃよ 

小さな想いが巨大で強大な信念に打ち勝つ事だってある

臆するでないぞ 何時だって儂はお主の味方じゃよ

心配なら儂をその ...何だ ぎゅうっとして良いんじゃぞ』

とやや照れ隠しな言葉と共にクローティアは胸に回り込んできた

「うん そうするね」

と抱きしめようとした瞬間


わたしは、クローティアを抱きしめようとした瞬間

 

クローティアが陽炎の如く揺らぎ腕は空を切ってしまい

その時わたしは、イクリプスに引き込まれた。


『シーアっ!! 』


 とクローティアが言うも時すでに遅く

突然シーアはクローティアの目の前から陽炎のように掻き消えたのである。


 物音に流石にミーアとビヨンは素早く反応し

臨戦体勢をとる

「シーちゃんっ [ シーア? ]」とミーアとビヨン

{シーア様っ}


 とロムルス

三者の発した言葉は皆同じだった。


『静かにせんか パスは繋がったままじゃ ”死ん”ではおらぬ

大方、異空間にでも引き摺り込まれんたじゃろ


 彼奴シーア程の冥魔を強引に引き摺り込むとは、相当な能力ちからの主とみえる

突然消えて大規模討伐隊レイド連中の錯乱パニックを招いてはならぬ

ビヨンよ、お主はシーアの声色を真似られるかッ? 』

と普段はあまり表情を表に出さないクローティアもやや焦燥の色が惨み出ていた

これを察したビヨンはコクリと首肯

[ はいクローティアの御言葉のままに 

これよりシーアの音声の模写を開始 ...完了 ]

『うっ うむ頼むぞ』


「おい 何かあったか? 騒がしいぞ」

と頃合い宜しく天幕の外から男の声。


[ ごめんなさい 天幕にムシが入ってきてびっくりしちゃったの ]

と早速シーアの声色で応答するビヨン

「あっははっ 大規模討伐隊レイドの依頼主ともあろうヒトが

ムシ如きで大声あげるなんざ かわいいねぇ まぁしっかりムシ払いはしとくんだな

御蔭で目ぇ覚めちまったがしょうがねぇな 皆体力の消耗は抑えてるんだ

大声は気ぃつけなよ」

とやや嫌味混じりだが剣呑さはない。


[ ホントにごめんなさい ]

ビヨンはシーアの声色で申し訳無さそうに返答すると

「あぁ もういいって そんじゃな」

と男の気配が遠ざかっていく


『ほぉ 大したもんじゃの』

[ えっへん どうです? 声帯模写は得意なんですから ]

とシーアの声色でドヤるビヨン。

『まずはシーアの帰りを待つか 例の振り子が終わるまで粘るんじゃ』

「ああのシーちゃん 死んだりしないよね ねっ」

とミーアも微かにふるえている。


 この時真っ先にミーアの胸に去来した想いはシーアの身の安否ではなく

自身の消滅の危機だった事に気付いてはいたが、流石に言葉には出せず

黙って心の奥底に無理やり押し込んだ。



 わたしが空間? の中で一番最初に感じた感触は


{ナーン}

という猫の様な甘えた鳴き声と共にザラザラした大きな舌で舐めあげられる感触


 次に感じたのは、

{キュルーゥン}

という鳴き声? のような声とともに躰に纏わりつく湿った何かであった。



 こうしてわたしは、得体の知れない異空間? に唯一人引き摺り込まれた

そして

此処には、クローティア・ミーア・ビヨン・ヤンス・ロムルスも居ない

頼れるのは自身と自身の”血”の武器

あとは指輪に宿っている能力ちからだけであった


 静謐な空間は、及び腰なわたしを見透したかのように

喰らい尽くそうとしていた。


次回 73話 試練と義務 ー名無しの厄災が遺せしモノー

お楽しみに

登場人物につきましては後ほど

活動報告にはプロフィール

本文には挿絵を追加いたします

細かいニュアンスは変更があるかも知れませんが

ストーリー変更は有りません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ