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オルティア・レコード  作者: 南 泉
二章 〜 魔女と小さな銀の鍵 〜 ベルゼ浮遊大陸編 第一部
71/75

71話 彼方(かなた)から此方(こなた)へ ー邪法の果て先にあるものー

本エピソードには残酷な描写があります


 大規模討伐隊レイドが待機している ”星相の窪地” で

”目的”から戻ったサリは早速、フレアネアとテリエラの質問攻めに合い

今代の近況と今、服わぬ種族が置かれている世界オルティアでの立ち位置を

説明する。


「クソぅ 神族の奴らめ悉く俺等を”貶める”気だな

なぁテリエラぁ〜」

フレアネアは髪を掻き揚げ男声で呻くようにテリエラを睨め付けた。

彼らは男声で喋っているが、両足はきちんと斜めに揃え

”少女”らしく両手を前に揃えてすましこんでいて

そんな彼らの仕草に粗暴さはまったくなかった。


「ぇぇ そぉねぇ ”おねーさま” テリエラはねぇ〜 メスを蹂躙できればそれでいいの

もう 昔のように派手に暴れられないって(サリが)言ってるしね ちょっと落ち着くまではねぇ

貴女の指輪で”温和しく”しているわ 

 それと

”オレ” はぜってぇに 理想郷ヴァルハラには属さねぇ いいな サリ 覚えとけよ” 」

とテリエラはそう言って指輪に消えた。

「オレもだぜ サリよぉ あとメイドはちゃんと調達シとけよな」

とサリの耳元にやや恫喝気味にフレアも囁いた。


 二人共スカートや乱れたリボンやレースをお互いに整え合う姿は、

まるで本物の”姉妹”のように慎ましく違和感は無かった。


「はい、フレア様 御意のままに」

とサリはスカートを広げ座っているフレアに居ずまいを正し傅いた。


「ところでネルリンゼはどうした? 此処に居るんだろ? 」

「はい、居りますが ”おねーさま” が怖いとのことで今は自室に引き篭っています

何故そのような事を? 」

改めてのフレアの問いに、真意が読めずサリは可愛く首を傾げた。


「あいつは、”粗相”ばかりしやがるし 一発このオレがヤキを入れようかとも思っていたとこだが

最後の失策りからもう ”幾星霜” も経っているし今はやめとくぜ

何せまだ寝覚めの後だ うっかり加減を忘れて殺しまったら 数少ない俺等の種族がまた

減るはめになるんでな 今は良しとするか。


 オレはなぁ こう見えても昔みてぇな種族の繁栄を願っているんだぜ

だからまずは我ら種族の再興!! これをどうにか出来ないかと思ってるからな

自種族同士で潰し合うのは数が増えてからのお愉しみだぜ」


 フレアは優しいお姉さん顔の可愛い唇からは野太い下品な男声で醜く口を歪ませつぶやいた。

この男は、同族殺しが何よりも好きで難癖を付けては、尽く同胞を葬ってきていた

服わぬ種族にとっても下衆で最低な”男”であり

能力ちからが全て、相手に恐怖を与えることこそ”支配”の原点と考えている非道な支配者であった。


「でも、もうオレ達にはもう”メス”はいねぇしどうにもならないんじゃ   ...ッ!! 」

ここでサリの言葉が詰まったのはフレアの長い髪がシュルリと絡み付き

凄まじい膂力が喉に加わったからである。


「そこをどーにかするんがぁ? テメーの役目だろがよ サリぃ? 違うかぁ? 」

と恫喝するが 直ぐ緩められサリの呼吸が再開され、事無きを得る

肉体という器を持っている以上服わぬ種族言えど肉の縛りからは逃れられないのである。


「ふん、オレは起き抜けで機嫌が良くねぇのはテメーなら知ってるはずだ

まぁこれからオメーにゃ 世話んなるしな これがテメーに対する最後の

”お仕置き”にてやるよ 感謝しな

でもリンゼには一発はお仕置きは必要だな あんのクソ”野郎” めが」

 と遥か ”幾星霜も” も昔の失策りを未だに根に持っているらしく

親指の爪を ギリリ と噛んでいた。


 このフレアネアは外観は優しそうなお姉さんのような顔をして

お淑やかな雰囲気纏っているが

実際は、自分に対する悪し様な物言いや、他の服わぬ種族達には気にならない

瑣末な失策りでも”フレアネアにとって”

気に食わない失策しくじりであれば、その大小に拘わらず、

絶対忘れることはなく機嫌が悪いと何時迄も

それを引合いに出し、難癖を付けて憂さ晴らしをするそんな粘着質な”男”でもある。


「この件はすべてテメェに任せる オレ様もまだ眠いしな、オレは後の王族の”おねーさま”方の

お守りをする テメェは俺様好みの童顔の少女メスガキ共をちゃんと調達しとけよ」

と首を可愛らしく傾げて、細い指の手櫛で髪を整え両足を斜めに揃え眼を座らせニコニコ顔で

サリに恫喝の調子を含ませ言い放った。


 此処でフレアが言う”少女”とはシーアくらいの年頃を指しあまり幼なすぎるとと今度は、

調達してきた者がフレアの手痛い制裁に遭う そんな彼の女の好みは微妙で贅沢でだった。


 お茶に誘い髪を梳いたり 優しいお姉さんのように振る舞い、リボンや髪飾りを与え打ち解けた所で

男の劣情を丸出しにして一気に嬲る これが彼の様式スタイルだった。


 するりとその美しい髪を蠢かせ また軽くサリの首を絡めてくるが

今度は苦しくはない


「はっ はいフレア様 メスガキ共は今暫くご辛抱願います

まずは あの有翼魔人ァタウェーを始末しないことには サリめに討滅が叶えば一番よろしいのですが

事はそうはいきませぬ 然らば、あの銀の娘にこの際討滅してもらおうかと

その為に彼女等にも助力をせねばならぬのは必至 ついては、他種族の力添えに甘じる事を

お赦し下さいませ」

と冷や汗を垂らしながら言うとフレアは 

「オレはその銀の娘には遺恨も怨恨もねぇからな それでよろしくてよ ♡ サリちゃん」

ととびきりの少女声で語尾はそう囁きそしてやさしく額に接吻をした。


(あぁん ”おねーさま”って 素敵だわ とても”同性”とは 思えない♡ )

迫るフレアは男臭さもは微塵もなく、女特有の噎せ返るような香いが漂う

これは見た目少女である彼ら服わぬ種族全般に共通していたが

フレアは特に、ねっとりとした甘い芳香を纏っていた

サリはうっとりとその余韻に浸り不本意ながらも”同性”に対して劣情が飛び出した。


 こうして、サリの部屋の喧騒は去りあとはフレアの残り香のみが漂う

そして、夜が明けるのを待つばかりとなった。


 一方、シーア達は

”先踏まずの石切場”でまったりと過ごしていた


『ところでシーアよ』

と突然クローティアがまったりとした空気を破るように話をきりだした。

「なぁに? 」

わたしは、彼女の真剣な顔と言葉の裏側には とある判断をもとめている 

こんな意図が汲み取れた。


『お主、 闇の手勢と混沌の手勢の違いは判るか? 』

と謎掛けのような質問が飛んできた

「どちらも、悪い者よ」

わたしは、ヒム族の頃も今も闇の手勢といえば禁制品を扱い、人身を拐かし社会の安寧を脅かす

そんな風に捕らえている。


『やはり、そう捉えていたかの でもな、彼ら闇の手勢には儂等にはない

情報と人脈コネを持っていたらどうする? 』

とこれまた謎掛けか誘導か答えづらい質問ではあった。


「...... 。」

わたしは、答えに窮し無言。

 

『もちろん儂のいう闇の手勢とは下っ端の無頼ごろつきではなく

強大な能力ちからを持つ人外の事じゃよ』


「でも、場合によっては”条件付きで”手を結ぶことも吝かではないわ

今だとどうしても情報は限られるし、より深く辿り着こうと思えば

やむを得ないと思うわ

それにレフィキアからは、彼ら彼女らはこの世界オルティアの必要悪で

残虐非道なことをする半面、世界オルティアを深く知るには避けて通れない相手だとも」

と答えた。


 わたしは現に、”ライブ・アーティファクト”という残虐嗜好で残酷な少女達と盟約を結んでいる

その上、闇の手勢といえばすでに”ヤンス”とも盟約を結んでもいた


 錬金術師の頃も手に入にくい素材を手に入れるときは

ミーアに任せず自身で闇の手勢に属する者から

素材を入手したことがあるし

師であるレフィキアからもこの手の謎掛けは散々問われてきていた


『忌避感があるのは詮無きことだがな つい先程微かに感じてな』

「つい先刻さっき? 」

『儂の知っている 種族の濃厚な気配を感じたわ』

と眼を細め怜悧な光が灯る。


「種族? 気配?」

『あぁ、この世界オルティアにはな一般には認知されていない

少数種族が沢山存在するのじゃ

今はヒム族・ウル族・ケット族・エル族・ドワ族・ヴァン族・ドラコ族が主要種族だが

実際には沢山の少数種族がまだまだ存在している”遺産の少女”もそのうちの一種族じゃ』

 

世界オルティアって広いのね 旅をするとそんな種族とも会えるかしら? 」

恐怖や畏れといった感情よりも早くわたしには好奇心が疼いた

そういえばわたし自身も人造種族で獣の種族を内包している

少数種族には、ある種の共感シンパシーを感じていたのかも知れない

なぜなら、いまのわたしはこの世界オルティア少数派マイノリティなのだから。


『まぁともかくその闇の手勢がお主にも”接触”してくるやも知れん

その時は、うまく”条件”を突きつけてうまくやるんじゃよ』

これはわたしに彼女クローティアが新たな ”覚悟” を問い ”決断” を要求している事を

意味していた。


 やや間を置いて

「えぇ、”覚悟” はあるわ」

と一言。


『そうか意図が分かったか やはり聡いな 儂はお主がたとえ闇の手勢に与しようが

構わん お主とともに歩む ......が ただ』

「ただ? 」

此処で言い淀んだ先の言葉は、


『ただ ”混沌”の手勢にだけは飲まれるではないぞ 彼らは

この世界オルティアの ”絶対悪” じゃ 闇の手勢すら ”敵” と見做しておる

その時は儂は存在を賭してでもお主を連れ戻す いいな

それでもお主はあのゲルギルをも手懐けてしまうからのぅ 

恐ろしいヤツめ 自覚が無いとのもどうかと思うしな

これからは少し意識したほうがいいかも知れぬな』

と言うが

「そお? 」

と客観視出来無いわたしは曖昧な返事を返すことしか出来なかった。


『話が逸れたな

その闇の手勢の種族が動き出した気配があってのぅ お主に改めて ”覚悟” を

問うたつもりじゃったが、杞憂に終わりそうじゃな 後でミーアにも同じ

 ”覚悟” を問うつもりじゃ いいな』

といつものように屋敷レフィキアで修練を積んでいて此処にはいないミーアに

視線を彷徨わせ彼女クローティアはどことなく落ち着かない様子でわたしに

念を押す。


 ミーアは相変わらず屋敷でレメテュアの ”ゲルギル” 相手に修練の日々で

此処にはいない。

彼女なりに寄生木の使いこなしを修練しているらしく、

寄生木を入手してからのほとんどをレフィキア内で過ごしていた。


 わたしは、つい怠け癖が出てしまい蛇腹剣の修練を放り投げ

リベランナの宿内の寝台でプディングを俯せのまま食べていて

その時の突然のクローティアの声がけだったのである。


{シーア様、プディングのお代わりはご入りでやすかい?

なぁに 量は俺様の異空間内に”たんまり”有りやすし

”遺産のお嬢様”方の分もレヴィア様にお預けしておりやすから

遠慮しねぇでたんとお召し上がりくださいやし}


とロムルスに変な気を遣わせてしまった

おカネは困らないし少しは世界オルティアに還元しなくてはと考えてはいるが

いざ莫大な資産を持つと却ってせせこましくなってしまう

わたしは生まれて初めてこの感覚を実感した。


「いえ 三つ”も”頂いたからあとはまた後でいいわ 

それより貴男がはどうなの 此処にきて”録な” 魔物もいないじゃないの? 」

と言うと

{いえいえ お嬢さまにお気を遣わせてしまうほど 表に出ていやしたか あっし? }

「今のは、当て推量で他意は無しよ」

{そうでやしたか まぁ あっしは お嬢さま方のように日に何度も

メシ喰わなくてもいいんでやすからね そこはそこということで

此処の魔物はあの肉蜥蜴もそうでやすが 些か脂っぽくて腹にもたれるんで

肉蜥蜴アイツ以外だったら 美味そうなのを見つけやしたんでソイツを喰いまさぁ}

といつの間にやら見つけたのか、早速算段を整えているようだった。


 コルスナからリベランナ経由で大規模討伐隊レイド一行パーティー

個々から遥か遠い、 ”星相の窪地” にいることを知らされ

到着予定は四昼夜目の朝になると報告を受けていて、まだ二昼夜目の夕刻のことであった

彼らの到着まであと丸一日。




「今此処にいる皆に一つ、確認しておきたい」

と気勢を上げ開口一番ケインズは、部屋にこもって居る少数を除く

大規模討伐隊レイドの面子に大声をあげまなこを獣のように細める。


「いいか 明後日の朝はいよいよ シーア(クレア)達と合流するっ!!

このァタウェー討伐の依頼を引受け

俺達は、自分の”意思”と”責任””覚悟”でテメーの命をヤツ(ァタウェー)にぶつけに来たんだ

死ぬな とは言わねぇ だがなたとえこの地で命運が尽きても

それは此処で死ぬんが、テメーの運命さだめだったということだ

あとは言わんでも分かると思うが 改めて言う!!

テメーが死ぬんは テメーの技量・知識・が魔物まものに足らなかったという事だ

誰のせいでもねぇ テメー自身のせいだ 依頼主シーアを逆うらみするなんざ

この俺様が 赦さん なぁそうだろ? ノアさんよ」

とケインズ

「えぇ この依頼は貴方方が ”自ら”選んだ依頼よ」

とノア


「「応!! 解ってらぁ なぁ野郎ども」」

と少数の部屋待機組を除く男・女達は気勢を上げた

ソーヤも負けじとまだ若い声を張り上げる  


 部屋でまったりしていたサリにもニースの大声は届きこれには珍しく賛同して

「ふん、只人の癖に一丁前じゃねぇか」

と珍しく他人ケインズを高く評価していた。


 ケインズの気勢の言葉は只人だけの話ではない

人外のサリでもこれには納得していた。


 徒党を組んで強大な相手と対峙することも、

単独で化生バケモノを食い扶持目的で、討伐するとこともしないが

人外言えどもすべて自分の責任で”目的”を果たす

たとえその目的が邪道でもあっても非道であっても ...だ。


 結果”冒険者”に袋叩きになっても(すぐ返り討ちにして自分のことわり

通すが)決して”他人”のせいにはしないと服わぬ種族達はそう思っている。


 俺等は、ヴァン族共とは、そこが違うのだと 

サリはケインズの気勢を聞きそう言い聞かせていた。


此処(星相の窪地)も明日一日の猶予を残し、静かに過ぎていく。



「のう ケレス 彼らは無事帰って来れるだろうか? 」

ネグリールの記念柱オベリスクの傍に佇んだ

ランドルフとバーバ・ヤガのケレスは彼方の青白い点を見据えていた

「ヒッヒッ 日和見が他人の心配なぞするようになったか

まぁ なんとかなるじゃろ あの銀の娘っ子はな

後はノアぐらいじゃろな この儂がお墨付きを付けられるのはのぅ」

とフードを少しあげ

夜空の彼方の青白い点を見つめている

その点こそまさにシーア(クレア)達がいる ギアトレスであった。


「そうか 犠牲は避けたいが、彼らも承知で死地ギアトレスに飛び込んだ」

「そういうことよ 御前さんは御前さんの信じる神とやらに祈ることだけじゃよ

今出来るのはな」

とケレスは記念柱オベリスクの傍の自分の居住している

小さな建物に戻っていく

この建物は嘗ては、見張りの詰所だったともいうが

今は彼女の仕事場兼住居になっていて

”もう一人”は住むのに余裕ありそうなその”詰所”に戻っていった。



「ソーヤ、ちょっと来な」

とニースはソーヤを皆から離れた場所へ連れ込む

「ニースの兄貴 とうしてオレだけ? 」

ニースの意図が分らずやや語気強く尋ねると

「いいか良く聞け オメェは”渡り人”だ 咄嗟に魔術で牽制が出来ねぇ

頼れるのは剣に埋め込んで貰った宝珠便りだ それは分かるな? 」

「あぁ 分かってるって兄貴 メトリエーテさんから貰った宝珠ならしっかりと

剣にはめ込んであるさ」

「まぁ それはいい でもよオメーは俺達みたいに ”冥脈” がねぇ だから

術行使にゃ回数があんだよ 大技なら二発、小技なら五発ぐれぇっていうのが

あの刻印者の”魔女”の見立てだ。


 この世界オルティアの住人なら多かれ少なかれ生まれながらに

持っている 魔術行使のための力や素養の根源がマギであり

この世界オルティアの生命在るもの全て冥脈と呼ばれる視えない脈絡が

体表面にありそれに沿ってマギが流れ術が行使出来る。


 渡り人であるソーヤにはその ”冥脈” が存在しない

したがって渡り人は 宝珠等の手助けなしには簡単な術すら発動は不可能なのである。


 メトリエーテから貰った宝珠は、このマギを貯めておける特質があるのを

あえて選び、オーパーツの剣に嵌め込んである。

  

 ここの世界オルティアの住人なら、属性を付加したり召喚使役の効果をもたらすものを

嵌め込むがソーヤは、マギ行使前提のこれらの宝珠は最初から選択肢にはなく

ただ一つの宝珠の空き孔に大気のマギを取込み、貯め込む効果のある宝珠を定着させたのである

そして空になるとまた貯まるまである程度間を空けなければ再使用出来無い

それでようやく、魔術のヒヨッコ程度なら術を回数制限はあるが行使出来るのだ。


「だから今回は 術はオレかオルトが言うまで

使うんじゃねぇぞ 分かったか? オメェは”たいした事”も無いのにやたら術を使う癖があるからな

それと今回は”前衛”はだめだ 後衛にまわれ」

「えっ なんで おれは剣士だぜ 表に出ないでどうすんだよ」

とさすがにソーヤは食い下がる。

「いや これはオレの命令だ オメーも見たろ あの気色悪ぃ蜥蜴をよ」

「見たぜ 下(外界)じゃ見たことなかったな」

「それはオレもそうだが、此処にいる連中はたとえ

外界じゃ”豚犬”のような雑魚でも此処では”変異種だ下のようにはいかねぇ」

「あっ あぁ」


 ソーヤはギアトレスという場所は”たかが”ベルゼの一部と思っていたが

肉蜥蜴や手招き草など独特の魔物を見たり独特の移動手段を体験してようやく

外界のようにはいかないことを感じ始めていた

それは此処にいる大規模討伐隊レイド全員が感じていることであったが。


「だからだよ どんな変わり種が出てくるかも知れん だから術の無駄遣いはもちろん

外界気分で出鱈目に喧嘩ふっかけちゃ駄目なんだよ

たから、今回は 他の前衛が討ち漏らしたヤツを始末しろ そういう意味で後衛な いいか? 」

「なんでさ 面白くねぇじゃん」

と口を尖らせ明らかに不満をニースにぶつけると


バシ


と脇を小突かれる。


「面白い・面白くねぇじゃねぇよ 俺達が少しでも手ぇつけてりゃどんなヤツが分かるじゃねぇか

なぁ ナリアよ」

「あぁ そうさ下界の気分で喧嘩ふっかけてさ 予想外の攻撃食らって

溶かされたり石化するよりいいだろ 姿は似てても此処ではどんな変異をしているか

分かんないからね アタイ達なら術当ててさ様子見れるだろうよ まぁ見てな」

とやや離れた樹に 炎弾ファイア・ボールを放つ

赤子の握り拳の半分の火の玉が一直線に樹に当たり 


ボスン


と鈍い音を立てて霧散した 武闘家である彼女ナリアですら樹を焦がすくらいの術の威力はあった。

「すげぇや」

「いんや すごくはないね ニースだって これとは違う術は出来るし

本職だったら これでは済まないかもね なぁ オルト」

ヒム族の男性の妖術使い オルトに顎をしゃくった。


「そうですね わたしなら本気であればあの樹に丸い孔が空きますよ

これでも、妖術としてはまだまだ っていったところですからね

上には上が居ますよ」

と言う。


「なぁ見たろ 死にたくなかったら今回は前衛の討ち漏らしの殲滅に徹しろ

何回も言うがこれは遊戯ゲームじゃねぇ 現実リアルだぜ

オレとしちゃテメーには、簡単には死んでもらいたくはないんだがな」

とニースの言葉はだんだん尻窄みになり語尾はあまり聞き取れなかった。


「分かったよ兄貴 兄貴の言い付けは守るさ」

「そうか これ以上言うつもりはねぇ あとはテメーの判断に任せる

明日までのんびりしな 悪かったなせっかくのいとまなのによ」

とニースは手を振りケインズの元へ

「旦那、ヤツにはオレがしっかり言い含めてきた

莫迦でなきゃ、アイツは先頭をつっ走らねぇはずだぜ」

「だといいんだかな 大規模討伐隊レイド四十も居るそのうちの一人だとしてもな

アイツはなんか気になるんだよな」

「言いたいことは分かるぜ 贔屓は良くねぇと解っちゃいるが」

と二人はそれぞれ大盾を背負って大広間に戻る。


 楯役タンクといっても型は二つあり彼らは大盾と片手剣型の楯役タンクであった

ほかにも、大剣のみで攻撃を防ぐ型もある

幅広の大剣を楯代わりに攻撃を凌ぎその大剣で致命の一撃クリティカルを叩き込む

攻撃型も何人かはこの場にはいた

どちらも体躯に恵まれているウル族の男達がほとんどだが。



{ ッククゥ 役者が揃って来たな 外界の冒険者とやらは

この我にどれだけ抗って見せることやら

このアプレントから出ることもあの小娘ユトレイアのせいで

儘ならぬとはな 忌々しいがまぁ 良かろう

コルスナめが構築した儀式魔術がどれだけの足止めになるやら

さぁ 我が配下ども 已の役目を果たすが良い}


{ ...応 我らの主にて我が神 ァタウェー 黒き翼を持つ者よ!!

我等に永劫の暗き祝福と怨嗟と怒号の福音を!! 与え給え!! }

と知性ある者は言葉を、 知性持たぬ者は鬨の雄叫び、または金切りの奇声を上げ

玉座に腰降ろす有翼人型魔人:ァタウェーを賛え仰ぐ

その胸には更に凶悪な獣の顔。 赤黒く時には青緑の燐光が漏れ垂れ

床を腐蝕させるが床は暫くするとまた元の床に戻る。


 此処は、邪にして聖なる神の座:アプレントと呼ばれる

かねてより、キリンズで一部の冒険者の間で噂になっていた

 ”竜の骨に植物が絡まって出来た島”!!


巨大なワイヴァーンの亡骸に魔界植物が絡み合いそれが聖域となった場所であり

今は、此処は巨大な邪悪を封櫃するための聖櫃アークとなっていた。


ジリジリ ミシミシ 


 身動じろぐ度に黒曜石製の玉座が軋む その玉座の裏には、

それはまるで誂えたかのようにまた、最初から彼の物が嵌るようになっているのか

何やら意味深な半円の円い窪みが見え隠れしている


それも今は、有翼魔人の食い残しや汚物溜めと化していた。


 魔聖:ユトレイアの封櫃の祈りによってギアトレスからさらに隔離された

神の座嘗ての聖域:アプレントではァタウェー以下多数の変異種の魔物が涎を垂らし

中には男性のしるしを怒張させた男性型、大きな双丘を自身の手で揉みい抱く女性型

狂ったように哄笑する獣型などいずれも下界では

古代級と称される魔物達がアプレントに続く螺旋通路を恨めしそうに眺めていた。


 ギアトレスの聖廊層とアプレントを繋ぐ螺旋通路は唯一こうした魔物ですら侵入することも叶わない

女神:リーンに祝福された 通称:神の小路 である。


 嘗てアプレントが聖域であった頃、此処で神の試練を賜る場でもあったが

今代では聖域は邪悪の棺と化し試練の路が辛うじて隔絶の役目を果たしていて

それを永き祈祷によって維持しているのは魔聖:ユトレイア 可愛い少女であった。


 そして、彼女が祈祷に専念しそれに囚われているのを良いことに

多くの利権を貪る貴人の取り巻き達

この十数名によって今代のギアトレスの階層社会が築き上げられ維持されていた

彼らはいつもこう言う


「我ら、ユトレイア様の祈祷の妨げにならぬよう ”賢人世界樹ホロストロスの集い” が

まつりごとを執り行わねばならぬ 

容姿が ”完璧な我らが ”醜悪” な者共を ”粗相” をせぬように管理監督するのは当然だ」

と。


 七昼夜の封櫃の儀が明けて五人の女官の内、一人は儀明けのユトレイアの身辺の世話

残り四人はこれから三昼夜不眠不休の封櫃の儀へ引き継ぐ


「ユトレイア様、儀お疲れでした あと三昼夜は我らにおまかせを 

それまでの間はごゆっくりなさって下さいまし」

と四人の女官は祭壇へ入れ違った


 ユトレイアは七昼夜不眠不休の祈祷 その後、五人の女官の内交代で四人が

ユトレイアの封櫃の儀を引き継ぐ


 これが有翼魔人:ァタウェーを封櫃して幾星霜も繰り返された

聖廊層最上部の封櫃の儀の日常である


 ユトレイアはすでに定命のことわりから外れているが

女官らは既に世代を幾百と重ねていた。


「えぇありがとう わたくしも早くこの儀の連鎖から逃れ、”正しい”まつりごと

執り行わねば有りませんね この因果を断ち切ってくれる御方は何処いずこでしょうか? 

未だそのきざはしすら無いとは、女神:リーン様は我らギアトレスの民は

御目に留まらないのでしょうか このわたくしの封櫃の儀はそんなに矮小で瑣末な事でしょうか」

と愚痴ると世話役の娘が、

「此処でのお話としてまた私の独り言として聞いてくださいまし」

「そお では髪を梳いて頂戴な 女の嗜み中ですから”賢人世界樹ホロストロスの集い”は

おいそれとは入って来ることは出来ませんよ」

あの重鎮達は、ユトレイアがあってその存在を誇示出来る

ユトレイアあっての組織であり機嫌を損ねるわけにはいかなかったのである。


「では申し上げます。 先刻、外縁層の ”世迷いのリベランナ” の使いの魔器が私達女官の元へ」

と美しい銀の髪を揺らめかせながらユトレイアは聞き耳を立てた。

「それによりますと、外界から”冒険者”とよばれる魔物討伐に長け、それを生業なりわいとして

いる者達が此処:ギアトレスを一部開放し、外縁層に到着したとのこと」

それを聞いたユトレイアは小さな体躯を飛び上がらせた。


「そう! これで私もやっと因果から開放され

この歪んだ階層社会を正しいモノに出来るかしらね? 」

「さぁ 私にはなんとも」

と髪を梳いている女官はあくまで独り言を続ける。


「ふふ わたくしの因果を断ち切ってくれるのは素敵な殿方? それとも

素敵なおねーさまかしら 何れにせよ ”世迷いのリベランナ” には此処に誘導するように

伝えておきなさい」

「はい すべて遍くはユトレイア様の御意のままに」

と独り言を終えたか終わらないかの瀬戸際で


賢人世界樹ホロストロスの集い”の重鎮が部屋にどやどや入ってくる


「これはこれは、ユトレイア様 封櫃の儀 大義でしたな

これ そこの娘っ子 大事な話がある 嗜みを終えたら早々に出て行かんか

本来 ここは、お前のような”昼ビト”が居て いい場所では無いのだぞ

それをちゃんと弁えろ シッシシッ」

と邪険に追い払い、

「しっ 失礼致しました ...... ひゃうっ!! 」

と怯えながら立ち去るその後ろ姿の尻に生えていた肉質でまだらな鱗の尻尾ごと

蹴り飛ばした。


 こと有尾種族にとって

とくに敏感な部位で外界では気安く他人の尻尾は触ったり

ましてや蹴ったり等という”常識外”のことは犯さないようにしている。

理由は先の通りでもあるが種族戦争を招きかねないからである


 それを悲痛な面持ちで見つめていたユトレイアは嗜みの労いの言葉も

彼女に慰みの言葉もかけるいとまも無かった。


「あなた達、わたくしもまなこだけは異形ですよ それを解っていて? 」

と言う彼女の両のまなこは銀で爬虫類の様に縦に細かった。

「うへぇ ユトレイア様は特別な御方

あのような 下賎な娘とは同等の価値があるとは思いませぬ 

故同様に扱っては ......っッ 」

と言い寄る重鎮の若い男の頬を張る。


「貴男ッ!!、 それ以上は言葉を謹みなさい でなければ ...... 」

「これは 口が滑りましたこれ以上はお赦しを ですが

このギアトレスは我ら ”賢人世界樹ホロストロスの集い” 

が実際のまつりごとを執り行って

居ることもお忘れなく

 

 貴女様の様に祈りのみではまつりごとは執り行えませぬことも

改めてお忘れなきよう」

と頬の肉を大きく”抉られ頬骨を見せ”ながらも持論を展開する。

その男も程なく抉られた肉が盛り上がり頬が元に戻った。


「それで 外縁層の者達には食料は行き渡っていますか? 

未だ、物々交換では無いでしょうね それとここと内縁層下層・上層皆の声を吸い上げて

まつりごとに活かしてますか? 」

「それは御安心を ユトレイア様 まつりごとは滞りなく

”謀反”や反逆者”には手痛い制裁と粛清を 幾星霜も前から変わりはせぬ」

と別の重鎮はニヤつきながら定期報告をする。


 それはすべて嘘であった。

確かに”謀反”や反逆者”には手痛い制裁と粛清を行っているが

それは憂さ晴らしのために夜ビトを難癖を付けて行っていてであり

決して”謀反”や反逆者”などでは無かった。


 さらに自分達の思想・理念に合わない者は尽く亡き者にしてきていて

謀反や反逆などを起こす気などを完全にいできたからである


 封櫃の儀で極限られた範囲しか自由が無い彼女ユトレイア

彼らが語る嘘が全てで 

真実は”噂”としか彼女の耳に入ってこなかった。


 あの世迷いのリベランナでさえ ”賢人世界樹ホロストロスの集い” の前には

口を閉じざるを得ない 彼女:リベランナの不用意な発言が

夜ビトすべてを危機に陥れる可能が多分にあったから。


 三昼夜は下界と何ら変わりない ”豪華”な食事と 

豊かなお湯での沐浴が彼女に振る舞われていたが

今のユトレイアには次の封櫃の儀に備え体力をつけるため

事務的にこれらの食事を摂り、世話役の女官と沐浴もできず

楽しいおしゃべりも出来ず湯に浸かり疲れを取る

それの繰返しでしか無かった。


 聖廊層最上部には名ばかりの為政者と

我が物顔の取り巻きが支配しており

その陰謀渦巻く只中に人々の安寧と邪悪の封櫃を祈り捧げる少女が一人いたのである

三昼夜後はまた七昼夜の不眠不休飲まず喰わずの封櫃の儀である

劇的な変化を望みつつ、リベランナの報告を一縷の希望の糧にして

ユトレイアは、無味乾燥な三昼夜を過ごす。



「おい、ソーヤ今から前衛が集まり策を練る テメーも顔出せや いいな」

「おう、分かったぜ 今行く」

と内心は先輩達の語気が強い言葉にやや及び腰になりながらも

気丈に気勢を張る。


 冒険者たるもの語気が強い言葉ぐらいで及び腰になっていては

”同業”からも舐められ相手にされなくなって終いには

日和見のそしりを背負ってしまいどの一行パーティーにも誘われなくなってしまう

多少、語気は強くとも先輩に向かって軽口を叩けるぐらいには

なっていて

ソーヤはこの世界オルティアに来てからその重要性を嫌というほど体感していた。


「ソーヤのヤツだいぶ マシになって来やがったな まぁ前衛あいつらにはあいつらの

算段が有るんだろう」

とニースは前衛の旗振り役の若い男性に

「すまんが、後は任せた こいつのことをよろしく頼むぜ」

と言うと

「応 ニースよ 後はオレに任せとけ 死なせないようには”努力”する

さぁ 前衛諸君は此処に座れ」




ルルスは先のメギスト遺跡で発見された有るモノが安置されているここ聖都:リームレスの

巨大地下遺物保管区劃に来ていた。

 そこには、ドリエルもいたが 

ノージェは特別寄宿舎に戻っていてこの場には居ない。


「本題に入る前に これがメギスト遺跡で見つかったという ”十字聖剣”かい? 」

「えぇ その通りよ でもこの通りでブツはこの邪心像の中ね」

と二人が注視していたのは禍々しい有翼魔人を象ったシーアよりやや低い

邪心像である。


「聖なる遺物アーテファクトが最も禍々しく忌々しいモノの中だったなんて

盲点だったわねぇ」

これは、ネグリールのメギスト遺跡より

 厳つい壮年の騎士 ゲルトス率いる蒼翼そうよく騎士団がルルスの託宣により

回収してきた黒い邪心像であった。


「うむこれの中に有るという確信は有るのかい 僕には只の像にか見えないが? 」

「ふふっ 私も最初はそうだった でもねほら」


 ”遍くを、女神の御手によりあらわし、ここにあれかし”


と短い聖句を唱えると

淡く十字の光が像から浮かび上がり

まなこを焼きそうになるくらい目映く輝きやがて収束する。

「うわっ まだ目がチカチカするよ 早くそれを言ってよ」

とドリエルはゴシゴシ擦る。


「ふふ すぐ元に戻るわ それより 問題はこれをどうやって

外に取り出すかよ 現時点で此処聖都の屈指の聖職者でも歯が立たないのよ

先の光に目をやられて三昼夜も視界を塞がれた者もいてね

危うく目の光を失う騒ぎになるとこだったし」

「おーい ルルスさん? それ早く言うべきじゃない? いくら

今もギルド総長を勤めていて 

すんごく大事な立場にあるボクにそれ、後に言う事かい?

目の光を失ったら銀の風の顔を拝めなくなるじゃないか」

と冷静な彼が珍しく食ってかかった。


「貴男なら、例え目の光を失ったとしても大金かけて普段となんら変わらない

オーパーツ製の義眼を直ぐ用意する出来るくせに」

「茶化さんでくれよ いくらオーパーツ製の義眼でも持って生まれた肉眼には

敵わないさ」

「まぁ これは素直に謝るわ ごめんなさいね」

といつもの軽口の応酬を済ませ、


「いま此処の学者連中に解析を急がせて居るけど

オルティアのように王宮魔導研究の設備が整っていなくてね

解析はまだ先ってことかしら


 出来れば、これをオルティアに持ち込みたいけど ...... 」

「それはよしてくれ こっちも銀の風のの解析で忙しいし

更に、本格的に弾性樹脂ゴムの一般化に向けて量産体制が整う頃でね

その特許パテントの配分でリブスと折衝中なんだよ

彼は九割も彼女にくれてやる気満々なんだからね

こちらも莫大な予算を充てている ボクの見立てではねせめていいとこ七:三か六:四だね

 これでも彼女に七とか六渡っても

十分採算は合うけど、レルリアも権利を欲しがっていてね

残りの三か四の配分を巡って激烈な交渉合戦さ

分かるだろ彼女レルリアの性格」


 嘗て冒険者仲間だった リブス・ケモール・ランドルフ・ルルス・そして レルリア

その中で一行パーティーの資金を管理を一手に引受けていたのが

レルリアだった。


「えぇ なんとなく想像出来るわね」

「だろ? 」

だから いまはオルティアには厄介事は持ち込まんでくれよ」

「はいはい 分りましたよそれについてはこちらでなんとかするわ

それと面白いことが分かったわ」

「へぇ何だい 訊こうじゃないか」

ドリエルは身を乗り出す。


「十字聖剣は完全に滅する事は出来無いわ

例え暝府の火口に投げ入れたとしても

世界オルティアことわりによって何らかの形でまたこの地上に舞い戻ってくる

例えば、今火口に投げ入れたとするね 

その場合、いつかは山が火を吹きこれが地上に舞い戻る とかね」

「うわぁ 厄介な代物だね つまり今コレが表に出てきたというのは? 」

「そう、 また世界オルティアが騒がしくなる先触れか兆はしってことかな

良くない方の ...ね しかも聞いてよ

これに対になる ”十字聖槍” も手掛かりをつかんだの

これもあらたか既定路線だったんでしょ」

「これは ボクからも注意喚起せねばならないね

上層の連中には匿秘事項として周知させねばなぁ やれやれ、銀の風が吹いて

何か変わると思ったら 簡単には世界オルティアは変わってくれないもんだねぇ

いやはや、楽しみでもあり怖くもあるな っと 話が思わぬ方にいってしまってすまん」


「いいのよ 話を振ったの私だしね ところで まだ有るの? 」

「まぁ ボク的にはこちらが本題だね

僕等の最高位の神官:ラクティカス君だよ 君なら知って居るとおもうが? 」

と途端にドリエルの目付きが険しくなる。


「えぇ 優秀で柔和で品位品行問題無し評価を得ている

あのお爺ちゃん? 」

「あぁ その認識で間違いは無い ...が それは真実を知る前の話さ

これからは 匿秘事項だ 僕等の面子以外には例え親しい間柄でも口外無用だ いいね」

といつになく剣呑な雰囲気の彼にルルスはビクリと撥ねる。


「ノージェが此処タフタルに航った後だ 彼はヴァン族に、獣人に変えられた

今、彼はボルグラン城基底部 下層区劃に隔離されている」

と囁く

「えっっ!! なんですって? あのラクティカス氏がそん ーーなッ!?

聖都ここにも度々訪ねられては多額の寄進を頂いていたのに!! 」

ルルスはその場にひたり込み顔を手で覆う。

「ノージェ君が居ない頃合いでなくては言い出せなくてね

彼女はラクティカス君に懸想していたようだから」

とドリエルも首を下向きに傾げ横に振る。


「...で 今はどんな状態? 」

ルルスはかろうじてそれを問う


「今は ”まだ” 人語を理解可能だ だが一度理性が外れると


(((ネリスティーナ様))) だの (((ヴェネイーラ様)))だのとよだれを撒き散らし

(((はやく最強の肉体に云々)))だのと暴れ回り

さらに排泄物をそこらに垂れ流したり撒き散らす

果てにそれさえ喰漁る有様 とても表には出せない

今、治癒師が必死になり治療を試みてはいるが改善の様子はない

かなり、ヴァン族の汚染が浸透しているようでね

此処タフタルの施設にも移送は出来無い状態でね」

と決して公には出来ないことを吐露した。


「相手は女性でしょうか? 」

「うーん どうだろうね 異性装者かも知れないし本物(女性)かも知れない

名ばかりでは区別がつかないね。


「だから 異性装者は嫌なの こうやって女神様を欺むこうとするんだから!! 」

ルルスはいきなり声を荒げる

こんな激昂した彼女をドリエルは初めて見た。


「冒険者の君らしくないな 異性装者なんて冒険者時代にもいただろ? 」

「今は、冒険者じゃありませんっ 今はっ!! 」

と更に彼女はやけに語気荒げる。


「済まないね 今の君は女神の代弁者たる聖主だったな 

君の立場上は神を欺く”異性装者”は異端扱いだろうからね ホントにボクの失言だったよ」

とバツが悪そうに頭を掻いた。


「いえ 貴男の所為ではないわ

昔は可愛い子も確かに居たし、異端だなんてこれっぽっちも思ってもいなかった

でもね これは貴男にだけ教えてあげる」


 ......


 此処でルルスは口を大きくあけ息を飲み込む

彼女が重大な事を言わんといているのはドリエルにも痛いほど伝わって来ていた。


「冒険者時代の頃よ 一行パーティーを結成して間もない頃

私ねそれこそ可愛い少女と未紛うばかりの”男”に貞操を奪われそうになって

それから それから うぅぅわあぁぁあぁん 」

と子供の様に泣き崩れる。

ドリエルは あんぐり 呆けていた。

普段は凛然と大衆に説法を説き決して弱い”娘”の顔などを晒したことが無い彼女が

嘗ての仲間のドリエルの前に晒したのは、幼子のような弱々しい少女のそれであった。


「それから私は女神様に 躰を綺麗にしてとお願いしたけど

事実は覆す事は出来無いと知ってしまった 今思えばまだ子供だったのね

それから 私はこの穢れた身を綺麗にしようと一生懸命お祈りしたわ

でもやはり”元”には戻らないそれで 頑張って頑張って今の地位を

もぎ取ったわ でも聖主の地位を得た今でも躰は戻らない

私の記憶から消えてくれないのよッ どうしてもっ!! 」

怒りと哀しみの顔は次第に怯える娘のそれに変わる。


「後は皆の知っているとおりよ だから ドリエルっ 私を抱いてっ! 抱いて頂戴

私の呪縛を解いて 私を”貴男のでもう一度”女にしてっ!! 」

と薄衣の法衣をさらりと脱ぎ捨て扇情的なショーツと

ブラも露わにドリエルに身を寄せる。


「ぼくなんかでいのかい? 君だって思い人だっているだろ

僕にもいる それでも? 」

「えぇ 構わない お願いっ 今ひとときでいいからッ!! お願いよぉ」

と再度泣き崩れようとする彼女を受け止める。


 ルルスにとって、通り過ぎゆく一瞬の様な蜜月もリブスにとっては定命のことわりの全て

それを独占したいという女の情欲 

種族という大きな壁。


 また総長という立場でありながら、あのベゼリン学術院でみてその美しさの虜になった

有象無象の一冒険者たる”シーア” 

立場という大きな壁。


 ルルスはリブス、ドリエルはシーア、

互いに種族や立場の異なる懸想の相手を想い浮かべながらのひとときの

重ね合い。


 それでも、いまこのか弱い女性ルルスが身を委ねてくれるならとドリエルは

「分かった 君の気の済むようにしてあげる おいで」

とドリエルも長衣を脱ぐ そこには逞しい男性の躰とそれに相応しいしるしがあった

「うん ルルスいい子にするから」

と幼子のように言うと倉庫区劃の一角で

甘く切なく、ただひとときのそれでも双方にとっては忘れられない

甘蜜の時間が訪れる。


...... 。

... 。


 長い長い時間が過ぎ 

「成行きといえ ごめんなさいね 私はまだまだ弱いわね これじゃ聖主失格だわ」

「いいやそれを言うなら僕だって、エル族は永い永い刻を過ごすんだ いろんな感情だって貯まるさ」

「そうね そう言ってくれると嬉しいわ」

と言った彼女は

「異性装者はまだ受け入れられないけど前よりはスッキリしたわ」

とルルスは落ち着きを取り戻す。


「そうか 僕なんかでも君の役に立てて良かった」

と言うと

「そうね 悪くはなかったわ」

と蜜の余韻を楽しむように唇を重ねお互い慣れた手付きで服を着せ合う。


...... 。

... 。


 コホン と軽く 双方とも咳払い

「だから、ラクティカスの件は表では病に臥せっていることになっている

それが 病に”斃れた”という事にならなければいいが」

とドリエルから事務的に口火を切った

これが甘い果実を受けそして、一時の甘い愛を渡した男の責任だと感じたから。


「ノージェには、彼の件が一区切りつくまで此処に居てもらうとします」

とルルス、 

そう言った彼女はもう普段通りの顔だった。


「あぁ悪いがそうしてくれると助かる あとネリスティーナとヴェネイーラという人物の件は

こちらで調査する

万が一異性装者となると看破も出来るかどうかも怪しいからね」

「算段が有るの? こっち(タフタル)でもそういう輩が居るらしくて中々、尻尾掴ませないのに」

「いんや ないね いきなり股間を掴む訳にもいくまいしな

名は判明しているから その線で辿っていくしか無いね」

「便りにならないわね」

とルルスの拗ねる娘のような仕草を見てドリエルはドキリとして不覚にも

それに別の少女を重ねた。


期待あてにはしないでくれ」

「分かった でねもう一度だけ...ね 頂戴♡」

「いつのまに、おねだりさんの甘えっ子になったのかな? 」

と軽く接吻を済ませ二人は今後ついて語りながら区劃を見て巡る


 此処は、神代級遺物が誰の手に渡ることなく秘匿されうず高く積まれ

山になっている

 聖都リームレス統制庁の地下最奥部に近い場所であり

ルルスでさえ元老派と枢機派、双方の承認がなければ立ち入れない場所である

ドリエルはただ一人だけ同行が認められている従者扱いでの立ち入りであった。



ミーアがレフィキアから戻って来るなり

クローティアは

『ミーアよ ちょっと良いかのお主に話がある』

「うん」

と軽く一言。


 これから大事の前である ミーアはクローティアが何らかの”覚悟”を迫りそうなのは

ケット族でなくとも、判るというもの

だから首肯と軽めの返答である


「シーちゃんは終わったの? 」

『あぁ 奴さん すんなりと納得しよった 全くどういう精神構造をしとるのか

儂にも理解出来んな』

「うん わたしも”シアズ”様の御心の中は時々戸惑う時があるわ

ある日突然、読み書きを覚えろ と言って何昼夜も研究室に篭ったと

思ったら、金釘で引っ掻いたような字で分厚い教本拵えて来たり

そして、今回だって 何時何時はお前の”誕生日”に制定した だから

最高の土産を”創造”してくるといって

あのを創造したりと破天荒だもの でもねそれが だんだん ......」

此処でミーアは言葉が詰まった。

『まだ”シアズ”に懸想しておるのか? ”シーア”でなくて? 』

ミーアは ゆっくりと首肯。

 ...... 。

『そうか シアズの魂は確かにあのシーアの中にはある


 でもな

だんだんその輪郭が曖昧になって来ておる アイツはいまシアズ・クレア・そして

シーアとして築き上げた魂 それを統合しつつ有る』

「どういう事ですか? クロちゃん 」

ミーアには真意がわからない。


『つまり有り体に言えば ヒトの常識や倫理感とクレアの常識や倫理感

そしてシーアとしての常識や倫理感がまざることになろう

つっ つまりじゃな 今後は、闇の勢力とも繋がりを持つかもと言う事じゃ

御前さんには”縁”が無がなかったであろう輩じゃな』

「シーちゃんはそういうのとも手を結ぶかもって事? 」

『まぁ 有り体に言えば そういうことかな アイツはそれでもあっさりと納得しよった

どうしても”裏”でなければ入らない情報もあるでな

だから そういう輩と繋がった時、ちくと目を瞑って貰いたいのじゃよ

お主の倫理から外れたとしてもな 判るか? 』

「えぇ 感覚としては判るわ ヤンスやライブ・アーティファクトの達だって

多くの命を奪って来てそれを承知で、敢えて一行パーティーにした

詰まる所そうことでしょう? 」

『そうじゃ この世界オルティアは綺麗事だけでは済まされないことも知っておろう? 』

「えぇ 知ってる」

とミーアは自分の尻尾を触る。

『それならいいが』

「ライブ・アーティファクトより怖いも居るの? 」

ミーアは

『そうじゃとも』

とクローティアは目を暝る。


「うん シーちゃんがこうしたいって言うなら 私は助けたいって気持ちはあるわ

それに、シーちゃんはわたしにとって ”シアズ” 様の”面影”を身近で感じさせてくれる

唯一のだもの シーちゃんが居なくなったら 私はどこに”シアズ”様の面影を求めて

いいか分かんないっ」

ミーアは途端に破顔しその場に泣き伏した。

今まで誰にも打ち明けた事のない激しい感情の吐露であった。


『そうか すまんなそこまで吐露せんでもよかったに 

まだシーアはシアズだと割り切れんか? 』

ミーアは黙って首肯。

『でも ”私は助けたいの” ということは

儂は”是”と 理解するが良いかの? 』

「えぇ」

ミーアはこれにも黙って首肯。


『それと お主の”死の条件”は... 』

「えぇ分かってる シーちゃんが命運尽きたその時」

これにはミーアは自分の口からどうしても言いたくて、クローティアの言葉を奪った。

 

 『戦闘は、今までにない過酷なものになろう どうかシーアを守ってやってくれ

冥魔を癒せるのは世界オルティア広し言えどお主だけじゃ それは誇っていい事じゃよ』

「うん ...って クロちゃん指先が薄くなってる どうして? 」

『今彼奴が居ない内に言っておくがの この前のゲルギルの一件で

お主に教えた”禁呪”の対価がちくと効いてきていてな シーアに張り付いて居ないとこの様じゃ』

「えっ だっ大丈夫? 消えたりはしない? 」

ミーアはぎゅっとクローティアを抱き寄せる。


『あぁ”今は”消えるわけにはいかん 確かめたことやりたいことがあるでな』

「でも そんなにクロちゃんに負荷をかけた覚えはなかったんだけどな」

『お主にはな。 じゃが あれは世界オルティアことわり

弄った儂に対する対価として降り掛かっておる』

「いつ治るの? 」

『こればかりは この儂でも”神族”でも分らぬ 世界魔樹ユグドラシルの気分次第じゃの』

ミーアは初めて聞く単語に首を傾げる。


世界魔樹それについては、今は詳細は明かせぬ 赦せ』

クローティアがこういう物言いをした時は、絶対に二の句を継がせない威圧感があり

この件は、時が来るまでは明かせないとうことである。


「うん 分かった 戦闘時は私なりにやってみるわ」

『すまんの』

「だーからっ 言ったじゃない私達は”家族”じゃない

これシーちゃんの言葉だけど」

『シーアが ”沐浴” から戻って来るな この指を見てみ』

と透けかかっていた指先はまた実体を取り戻し始める。

「うん それじゃもう寝るね さっきのは... 」

『あぁ 誰にも言わんとも お主もな』

「えぇ 分かってる」

とミーアは軽くクローティアの頬に接吻をして自室に戻った


 プディングを食べ終わった後、

『シーアよ 儂はミーアと話があるでの ゆっくり”沐浴”でもしてきたらどうかの

 ビヨン お主もじゃ』

と促され、

「いこ ビヨン」

[ ええ シーア行きましょう 戦闘に備えて

水銀のめぐりをよくせねばなりません ]

わたしと、ビヨン二人だけで”長い”沐浴を愉しんで来た

その間の出来事であった。


 沐浴を済ませうねうね蠢く吸血樹の根から水滴がまだ滴り落ち

半乾きのまま 宿の自室に戻る

「ミーねーさま? 」

「...... 。」

擦れ違い様に湿った目を横切らせミーアは何も言わずに自室に戻っていく。

『あぁ 気にするな ミーアはとっくに(覚悟は)決まっておったそうじゃ』


 あの目と態度から何か有ったのは毎違いないことだが

わたしはミーアの心に踏み入るつもりは毛頭なく

クローティアにただ一言


「う・そ... つき」

わたしはこう言って少し剣呑に睨めつけた。

『ふん』

対したクローティアもそう一言って、洗いたての湿った髪に引っ付いた

「やめて せめて乾くまで待って」

と言うも

『いいじゃろ ホムンクルスなお主にとっては乱れもせんし乾くのだって

あっと言う間じゃろ 構わん構わん』

とわたしの視線から外れた先で、

クローティアとビヨンとで意味深な視線のやり取りが有ったのは

最後まで気づくことは無かった。


 白で可愛いフリルとレースがたっぷりなネグリジェを着て

クローティアを引っ付けたままクルリと回る

寝台に横になるのは 此処にも当然持ち込んだ”異世界譚本”

の頁をるがすぐに、飽きて

この世界オルティアの古文書を読み始めた

リベランナ曰く此処ギアトレスに飛ばれてきた書物で見るだけなら良いと言われ

数冊借りていたのである。


 やや難解な古代語を読み解く内に 

嘘かまことか面白い事柄が頭に入ってくる


 古代王朝・魔霧帯を徨う庭園レーヴェンティール・生きているオートマト

ライブ・アーティファクトよりも強大な能力ちからをもった少女達 等々。


『どうした? 面白い事が書いてあるかの』

「 古代王朝・魔霧帯を徨う庭園・生きているオートマト

ライブ・アーティファクトよりも強大な能力ちからをもった少女達がこの世界オルティアには

いるんですって ...すごく興味があるわ んと、今後の冒険の指針にしようかと」

と言うと

『ふふ それは良かったな それらが見つかるといんじゃがの

それと 最後に聞きたい』

「なぁに? 」

クローティアはまだ言いたいことが有るらしく 唐突に問う。

『ヒトとしての倫理観が薄れていくのは怖くはないのか? 』

わたしは ドキリ とする。


 ライブ・アーティファクトと盟約を結んでから、薄々は感じていた事であった

男性シアズ時代の時に抱いていたヒトとしての価値観や倫理観が薄れていく感じがしていたのは

紛れもなく事実である。

わたしは化生バケモノの価値観や倫理観に喰われ

そして、取って代わられやしないかと内心恐れてもいた。


「う〜ん 今は分かんないわ いきなり変わるわけでもなさそうだし

世界オルティアを壊そうとしたら クローティア貴女がわたしを止めてくれるんでしょ? 」

『そうだな そうだったな 余計な杞憂だったようじゃ』

「そうね でもいまは今のままでいいわ ...ふぁわぁ〜ん 

...もぅ眠くなっちゃったぁ ごめんね 今は休ませて」

今は深く考えたくなかった。


とビヨンがそっと毛布を掛けてくれたところでわたしは意識を闇に渡した。


『ふふ 今はゆっくり休め お主に何か有ったら

全力で止める それだけのことよ 

それに この古文書は全て事実で”おシーア”の袂に来る予定の者たちじゃ 

必ずお主に惹かれてやって来る 楽しみにするがええ

お主はそうした ヒトの欲望に振り回されてきた強大な能力ちからを持つ者達の

ついの安寧の灯火たる存在なのじゃからな それに相応しい器たるシーア。


 しかも、皆少女の姿でお主好みじゃ しかし、今まで誰にも懐かなかった 能力ちからある

少女がいとも簡単に懐くなどとは儂も予想外じゃったが』


 と愛おしそうに慈愛を込めて見つめる目があったのも

私は知らない。


 ミーアは宿の自室でレフィキア内の自分の部屋を思い浮かべていた

シアズすら立ち入った事のない女っ気があまりない部屋には

一枚の肖像画があった。


 一人の青年の傍らに、妙齢の女性レフィキアが立っている絵である

しかし、その女性の顔はナイフでズダズダにされていた。


 ミーアがシアズが研究に没頭していて自室の掃除も顧みなかった頃

掃除で遇々見つけたのだ。

どす黒い嫉妬が顔をもたげ自室に持ち込み

事有る毎にその妙齢の女性の顔をズダズダにナイフで傷つけた

 そして、硝子を嵌め絵のシアズに毎夜、唇を重ねていたのだ

絵の中のシアズは、いつもミーアを物言わず見つめていてく何も言わずに

ミーアの唇を受け入れ、はては密かな慰撫行為もまた見守っていてくれミーアは

それである程度は満足していたのだ


 それがあの事故以来、大きく揺さぶられる

ミーアより愛くるしい少女がいきなり現れた思ったら

”シアズそのもの”の仕草をしたときはド肝を抜いた。


最初は、シアズと付き合いが長く仕草の一つ一つまで真似されていると思った。


 その少女シーアがシアズそのものと知った時も

そのホムンクルスの少女にシアズが取り込まれたのではないかとも思った。


そして、あのホムンクルスの少女が少女らしくなっていく度、

シアズの面影を上書きしてしまいそうなそんな気がしていた それが、全て赦せなかった 

くわえて、可愛さを増し美しくなっていく彼女を傍に見て妬ましかった。

でもそのホムンクルスの少女は紛れもなく ”シアズ” そのヒトなのだ

生まれて初めて激しい嫉妬が沸き起こる。


 それに、一向にライブ・アーティファクト達が懐いてくれないのも

理解はしていたがそれも、それも悔しかった。

お菓子やおカネをねだるときはシーアにする様に甘えてくれるが

それきりである。

ミーアも可愛い”妹”をリアや他の冒険者に自慢したかったのだ。


 今、一度だけ 今、一度だけと心に言い聞かせて 

”シーア”に見立てた枕を ”シアズ(シーア)”から貰った

短剣で心ゆくまで、千々に切り裂いた。


 レフィキア内の自室には細切れの枕がいくつもあって

彼が彼女になってからゴミの山が急に増えたような気がする

 幸いにも、ミーアの部屋にはレヴィアも入ってこない

ビヨンだけは数回入れた事があるが彼女はオートマトである

「シーちゃんは内緒にしといて」

と言うと

[ このことがシーアを脅かす事でなければ 

ミーアの内心の秘密は担保されますよ 御安心を ]

と言ってくれた。


 ミーアにもこのようなドス黒い感情は当たり前にある。

シアズに出会うまで、孤児で過ごし尻尾を好事家に狙われ続けて

疲弊した心を救ったのもまたシアズ(シーア)なのだ

はなからシーアをどうこうするつもりは毛頭無かった。


 時折こうして鬱憤を晴らす事以外は、友人と飲む事も嘗ての一行パーティー

折を見て顔を突き合わせる事もない至って味気ない生活でありミーア本人も

極めて寡黙な性格だった。


 それでも、果てはてさきうしないビトに成り果てるつもりもなければ

心の迷いになって、意識を彼方かなたに迷わせるつもりもない ...が

そういうものに自分絶対にならないとは言い切れない

ミーアは今はそれがただ怖かった。


果てはてさきうしないビトとは

 親しい友人や親・兄弟・姉妹・を目の前で無残に殺されるなどして

心の迷い仔を通り越し完全に心を喪い邪法に依らずに魔物に成り果てた者で

激しい恐怖や憎しみ・怒りの感情だけが彼ら彼女らをひたすら突き動かす

多数の眷属・術・剣術等を欲しいままに操り視界に入った者を暴虐せずにはいられない魔物で

討滅して魂を開放するしか手段が無くなった墜ちた只人達の事である。


 それでも悪意の感情に囚われずそんなモノに成り果てない

という心の強さは誰にも負けない、

そんな自負も人外となった彼女にはあった。


 今ミーアが必要としていたのは、シーアではなくリアのような

久方振りに飲んで騒げる友人でありシアズの懸想を忘れさせてくれる何かだった。


こうしたシーア達の想いを、夜の闇が覆い隠して更けていく。

 


 シーアが寝入る数刻前夕餉の刻、

星相の窪地にて、

前衛職と呼ばれる男女らが円坐に座る


 座の真ん中には、火晶石ひしょうせきではなく”本物”の炎が

枝を時折爆ぜさせながら燃えている。

 

 薪の回りには各々、大きな物や、把手がついたのや様々な形状の金属の杯を置く

中身も様々で玉蜀黍のスープや、薄めた葡萄酒に干し肉を入れ煮込んであるもの

甘い蜜に乾燥果物ドライフルーツをふやかしたもの等

一つとて同じものはない


 だた一つ共通しているのは全て前衛職であるということだ

得物も槍・剣・鞭・鎌・拳闘武器を手に嵌めた者等である

だた一点の違いは此処の座にソーヤという渡り人という異世界人いるという点だ


「おぉし 集まったな野郎どもっ!! って女も居るが

躰張って居るやつは此処では全て”野郎”扱いだ いいなっ」

「「応っ!! 」

と男性は勿論、少ない女性も声をあげる


「皆、ソーヤの件はニースから聞いているな 今回はニースたっての希望が有ってな

俺達が討ち漏らした魔物を掃討する役目に回す

ただ手ぇ付けていない魔物ヤツはソーヤにはできるだけ回すなよな

ソーヤっ 手ぇ付けて居ないヤツが来たらしょうがねぇ

誰か手ぇ貸してやれると思うからよ それまで気張りな オレが言いたいのはこんだけだ

後は、得物によって戦略の違いがあると思うっ! それぞれ申し合わせるなり

算段を立てるなり好きにしな

戦闘に備えて まずは、目の前のメシたんまり食べな


戦闘の勝利を誓い、此処に杯を掲げよ!! 」

「「応っ!! 」」

とみな薪の回りに置いて程よく温まった夕食の杯を一斉に掲げる

そして


「「残った奴には祝福を!! 斃れたヤツには弔いを!! 誰欠けることなく死地から戻ろうぞ」」

と鬨の声を上げる


とよくみると辺りにも同じような円座を組んだ後衛の職が同じような

誓いを立てていた。


 そして、翌朝わたしもミーアも何事も無かったのように

顔合わせる

「んっ シーちゃん良く寝れた? 」

「んんっ そう ミーアねーさまは? 」

「そうね ”すっきりしたわ” まぁなるようにしかならないでしょ」

と昨夜の憂い顔は綺麗サッパリ消えていた

(今は今よ、”シアズ”様の肖像画は私のもの ”シーちゃん”には絶対渡さない)

未だ完全には拭い去れぬシーアに対する”嫉妬”ではあるが、

誰にでも有る感情である

戦闘やシーアの支援には差し支えは無い

”少し”でもシーアにシアずの”面影”が有る限りミーアミーアでいられるから

それにシーアが闇の手勢と手を組むことがある事に関しても

本当は、なんとも思っていなかった

ミーアにしてみれば、シアズの面影が有る内はシアズ同等イコール

その他はどうでも良かったのである。


「おっ シーア起きたか コルスナはまだ戻らんが 大規模討伐隊レイドとやらと

一緒に此処に来るそうだ それにちくと話が有る

皆一緒に”人払い”の結界に入るがええ」

と住居の片隅の小部屋に入る

そして

「どうか 我々、夜ビトをこの歪な階層社会から開放してくれ

魔聖ユトレイアと共にこの因果から解き放ってはくれぬか」

といきなり懇願され、初めて永き封櫃の儀の祈祷でァタウェーの封櫃を維持していること

重鎮達の圧政でこのような歪は階層社会になって居ること

ユトレイアは何も社会の真実を知らされていない事

そしてァタウェーは”有翼魔人型”で有ることを知らされた。


 有翼魔人種:


 ヒト型の魔人で蝙蝠のような一対または複数対の翼を有する

高度な知性を持つ魔族であり 尻尾が有る者もいる。


 亜種も変異種も多く 首魁ボスとして君臨する場合が多い

様々な術を行使し肉弾戦もまた得意な種として蔓延る

とあり 特殊な死の条件 でなけれな完全な討滅は不可能とされる


(これは、後でビヨンにアルカーナで調べてもらった)

事を告げられた

私は此処ギアトレスに来て初めて討滅対象が有翼魔人型と知り

少し及び腰になって 少し、お漏らしをしてしまった

(これは オンナノコになったのが悪いんであって、決して及び腰になったからではない)

と言い聞かせた。


 ミーアに小声で、後で”お座蒲団サブトン” あげるね等と言われ羞恥で顔が火照った。


 リベランナの気弱そうな表情を初めて見て、わたしは居たたまれない気持ちに支配され

まだ、ヒトとしての価値観が残って居たのだと 

場にそぐわない感情に半ばほっとした。


 翌朝、霧もやのなか大勢の冒険者が防具や武器を身に付け

わたしが駐瑠している宿に併設されている大きな酒場に

集まっていた

 当然だがサリ・ネルリンゼ一行・ニラウス達もそこにはいた

「へぇ 此処がシーア達の居る場所かい ...でアイツはまだ寝てるんか」

とケインズ。

「あぁ、 シーアはまだ寝とるよ 別に急ぎでは無いんだから 起きてくるまで

待つんだね コルスナ 皆に”取って置き”を出しておやり」

「は〜ぃ 只今ぁ 牛をめて来ますね」

とコルスナは一頭の”牛”から乳を絞り切ってから

誰も見ていないことを確認、

「まぁ オレを恨むなよ なに苦しませず一瞬で楽にしてやる」

と”コルスナ”なりの祈りの言葉をかけて大事に肥育してきた

一頭の牝牛を ”エティアの根” で首を一瞬で落とし

血を皿に受けて慣れた手付きで解体する、

こっそり肝臓の一部を”そのまま”生で食べたのは内緒だが。


 このギアトレスでは牛や肥育した家畜は余す所なく全て食用か素材に使う

肉は勿論、血と肉は腸詰めにして薫製に、皮、角、蹄、舌、骨

大きな複数有る胃の腑も、なめして皮袋に加工したり等とにかく捨てる所なく

利用するのだ。

綺麗に腑分けを行い下拵えするのに手慣れたコルスナ一人で十分だった。


 朝は、軽めの燕麦のパン玉蜀黍の粉と芋のスープを振る舞う

「おぉ待ってましたぁ!! 朝からよ早速腹ぁ減ったぜ さぁ皆自分の信じる神の祈り済ませたら

食うとするかぁ」

とケインズ。

 

 旗振り役はノアだが、冒険者達の頭目リーダーとしては皆ケインズを

指名したらしく 彼が音頭をとる。

一片のパンをつまみとり浅黒い腕を振り上げて彼の信奉する戦神アグスト

捧げ上げた。 


 皆もそれに倣い皆それぞれの捧げる所作をする。

中には何もしない冒険者も居るが、信奉するも何も信奉しないのも個々人の自由である

そして、ケインズが食事を始めると皆それを合図に一斉に食事を摂り始めた。


 サリもネルリンゼも外道で下衆ではあるが、”迂闊”に社会の和を乱すよう真似はしない

二人共、”表”の顔あってこそ裏で好き勝手出来るのである

それをずる賢い彼らはちゃんと弁えていて見た目通りの”少女”を演じていた。


 程なく、下の喧躁がわたしの意識を覚醒させていき

くぅーっ とかわいい音がお腹から出てきた


「シーア、良く眠れたかの そちらの御仁も」

とリベランナはまだねむそうな顔で問うてくる

「えぇ」と三人は頷き 大欠伸を一つ二つ。


[ やっとマギの調整が出来ました 戦闘には問題有りません シーア]

とビヨン

「はい、”飴”あげる」

と小粒のオーパーツの飴を含ませる。


 いつぞやのように、彼女ビヨンは指まで吸い付てきて私は気恥ずかしくなって慌てて引っ込めた。

「いつみても、まるで生身のようじゃ でも儂は以前にもっと

生身に近い”生きたオトートマト:ライブ・オートマトの噂を聞いたことがある

今代でそれに近いモノを再び見れるとは 長生きはするもんじゃの」

とリベランナは言う

わたしは”生きたオトートマト :ライブ・オートマト”という言葉を聞き逃さなかった


「”生きたオトートマト:ライブ・オートマト”? 」

似た言葉を以前聞いた事があった

「あぁ 魔導工学と魔術工学の融合体 そやつは純粋な魔導工学の娘じゃが

 ”ライブ・オートマト”はまさに生身のような器官と魔導工学融合したような

存在じゃよ 誤解のないように言っておくがビヨンとやらも純粋な魔導工学では

最高水準である事は見ていて判る 儂が言いたいのは喪われた知識と技術で創造された

オートマトが存在するというという事じゃよ」

「名は? 」

私は好奇心が擡げる

『シーア興味が湧いたか? 目の色が変わったぞ 気になるか』

「えぇ そうねとても気になるわ ねぇ名とか 

示唆ヒントがあるなら教えて リベランナ様」

「ふふっ よかろうとも たしか名は メルエンティア 超高度に発展した魔導機構都市の名で

その都市制御中枢体もまた同じ名を持つ”少女”じゃよ

詳しい事はわからんがの ルベルト岩礁帯の何処かに居るという噂があったり

どこぞの遺跡にオーパーツの卵のような姿で来たるべき所有主オーナーを待つべく

永き眠りに就いたとか噂があってのう 儂に判るのはそこまでじゃよ すまんな」

 

オーパーツのような卵? ...はて、わたしはこれに似たモノを引き取った記憶があった。


「えぇありがとうございます 頭に留めておきますね」

と言って礼を述べる


...まさかね

この時はまさか、これが本当になるとはまだ思ってもいなかったのである


お腹を抑えていると

「あぁ たったいまコルスナが大勢の冒険者共を連れて下の酒場に居るぞい

浅黒い肌のウル族のヤツが気勢を上げていたぞ

お主達の尋ね人やも知れぬ 行ってみるがよかろ」

と言ってくれた。


『もしや ニースやケインズかもしれん 行くか? 』

とクローティア。

この場で大勢の冒険者と言えば十中八九彼ら大規模討伐隊レイドだろう

やはり彼らが名乗りを上げたのだ。


 魔獣 ”巨大長蟲ヒュージ・ワーム” 以来の大規模討伐隊レイドである

あれからやく六の月が経っている久しぶりに大勢の冒険者と共同戦である

わたしは、久方振りに心が踊った。


<< { 我ら、一同いつでもお喚びくだされ 準備は整っておりまする } >>

と突然のケールからの念話

<< ごめんなさい 貴方達とあまりお話してなくて >>

わたしはケールに謝罪した

<< { いえいえ滅相もありませぬ 本来我らの働きが無ければ無いほど

良い事でありましょう しかしながら今回は、有翼魔人型 我らもざわめきだっておりまする


 シーア様、今回の戦い苦戦は免れませぬ 我らは

例え千々になっても”死”にはしませぬが、躰の再構成にはちくと刻を要しまする

このことを留意おきますよう } >>

と何やら不穏な事を言う。

<< そう言ってくれると安心だけど例えそうであっても、

目の前で千々になるのを見るのはイヤ 

だから、危ないと思ったら安全な場所に逃げて >>

と返すと

<< { 有り難き御言葉、今まで我らにこのような言葉を掛けてくれた御仁は誰もおらなんだ

しかしながら、この身を呈するのもまた我らのお役目。

シーア様の盾となり爪となり牙となりましよう


 それと部下のヘルハウンド共の間では、

早速一番千々になる回数が多いのはどいつか? などと賭けをする始末

困った奴等です ガハハハァ!! } >>

と頼もしいやら何とやら微妙な空気が漂う。


『御前達、いくら死なないとは言えシーアに無様な醜態を見せるではないぞ』

<< { これは盟主:クローティア様 今の御言葉確と我と部下共に言い聞かせまする

また、時がきたらお喚びくだされ 突然の念話 御免でありました} >>

と言い念話が切れた。


 そして、わたしはだんだん大規模討伐隊レイドの喧躁の真っ只中へ

入っていった。


「おぅ シーア(クレア) ちゃんと二歩足で立って入るな

俺達”只人”の冒険者の中じゃ 次に合った時、足が一本余計に増えていたりするからな」

 彼:ケインズ流の軽口でありつまり、再起不能な怪我を足に負って居ない事を暗に

確認していたのだ。


「えぇ 御蔭様で ケインズさんこそ それに皆様方も」

と辺りを見ると見慣れた顔、見慣れない顔それぞれあった。


見慣れた顔にはニース一行そしてネグリール:メギスト遺跡で別れたニラウスと相棒のドランも居る。

『アヤツめ 再誕の儀を受けたな アヤツは魔族じゃな』

「再誕の儀? 」

わたしはクローティアに問いかける

『あぁ 特殊な”死”の条件と苦痛と引き換えに定命のことわりから逃れる儀式じゃよ

基本術者と同等の種族にはなるがな ミーアも”冥魔”になっておるじゃろ』

「彼、 願いを遂げ試練を乗り越えたのね」

『そうじゃとも アヤツなりに願いがあり 永劫に生きたいそう思う何かが有ったんじゃろうて

そういう意味ではお主もヒム族の時の肉体を喪う試練を乗り越えたじゃろ』

「そうね そうとも言えるかな でも苦痛は一瞬だった 痛い苦痛より、魂が霧散する恐怖の方が

大きかったから」


 あの時は本当に一瞬だった 爆発で目の前が全て暗転して気付いたら

今の肉体にまるで前からそうだったように違和感なく収まっていた 

男女の躰の違和感は流石にあったが魂の違和感までは

そんなになかったのである。


 ふわりとワンピースドレスのスカートが揺れ足に風が入り込んでくる

この感覚もすっかり慣れ、長履き(ズボン)だと却って落ち着かない。


「ところでメシ食いながらで悪いが話がある ニース、テメェもちょっと付き合え」

とケインズは大振りのふやかした乾燥腸詰めをパンに挟んだモノを放る

それを難無く受け取りわたしとケインズ・ニース・クローティアの三人は宿の別室へ

 ミーア・ヤンス・ビヨンはニース一行パーティーと共にその場に残る


別室に入るなりケインズは

「シーア お前ヒトじゃあないな お前のメイドのむすめもだ」


...... 。


「無言って言うことは ”是”ととるが? 」


...... 。


「いいだろう まず今回殺る相手はどんなヤツだ 魔人:ァタウェーと聞いたが? 」


「えぇ 間違いないわそれで」

「でだ どんなヤツだ そうだな獣型? 人型? 化生バケモノ型? 」

「いいえ ”有翼魔人型” よ。 リベランナから夕べそれを聞いたわ」

「おいおい マジかよ 難物どころじゃあないぜ 俺達でさえ一度もぶつかったことのない型だ

こりぁあ 大事だな ソーヤのヤツ持ちこたえられっか ニース」

「オレは正直に言う まだヤツが従いてくるってならオレの出る幕はねぇ」

「そうか 一度皆にも 話さなきゃいかんな これは ...で話をもどすぜ

シーアその分だとすでに定命のことわりからも外れているな? 」

 

...... 。


「いいだろう オレは阿諛おべっかも気の利いた会話も下手だ

単刀直入に聞くぜ

”俺達と”敵対”するか? ” 」

これにはわたしは

「貴男達が ”敵対” しない・道理がぶつからない限りにおいては」

「そうか 判り易いな面倒が無くて助かるぜ オメーにも目的が有るように

俺達は、”道楽”でこの戦いに首を突っ込んで来たわけじゃねえ

誤解の無いように行っておくが シーアも ”道楽” でこの大規模討伐隊レイドを組んだとは

思っちゃいねぇ」

「その通りよ これはある高名な魔道師と魔女からの身を切る想いを叶えなければならない

そう思ったから」


「そうか 詳しくは聞かねぇ 俺達は、金・武勲・名誉・誇りいろいろだがな

ぶっちゃけ俺達の後代に名を遺す これが一番よ 

中には夫婦で挑んで居るヤツらもいる

オレは今回大規模討伐隊レイド頭目リーダーとして

重大な責務と責任がある 五体満足とは言わねえがどうしてでも生きて返すってな」

「分かってる」

「シーアと違って俺達の定命は短い だからこの大規模討伐隊レイドには

全力を賭ける 例え命運尽きても 自身が頑張ったって言えるようにな


言いたいのはオメーも真剣に戦ってくれということだ

遊びじゃねぇ」

彼は目付き鋭くでも哀愁を帯びたまなこを刺すように向ける

「えぇ これも解ってる」

「そうか ”信用はしていないが、信頼はしている” 雑魚は俺達がなんとかする

出来れば本星にも一太刀浴びせるまでは行きてぇがな」

とケインズ。


「あとそれから戦利品は勝手にくれてやるなよ 必ずギルドを通せ 

禄に経験も手管のもねぇのが貰っても却ってソイツの為にならない」

とちらっとニースの方を見たようだった。


「分かっわ 冒険者ってあまり経験ないからつい」

「だと 思ったぜ でも、御前さんは”冒険者”だそれを忘れるな」


...... 。


「あとだな これはオレの我儘なんだが」

と今まで無言だったニースが口を開いた。


「出来ればソーヤを  ......すまんこれはオレが言う事じゃじゃなかったな 忘れてくれ」

とニースは言いかけた言葉を引っ込めた。


「まぁ メシでも喰おうや温めたのが冷めちまったぜ」

と三人でパンを頬張った。


「いつ出立する? 俺達としてはいつでもいいんだがな」

「では夕刻はどうかしら 今回は有翼魔人ってことで 降りる人が居るかもですし」

「そうだな夕刻に転送陣の前でどうだ 何しろ10回跳ばなきゃなんねぇし

とりあえず聖骸区 聖骸遺構:エトルまで跳ぶんが今回の目標だな

そこに行く前に一回は内縁層:下層で一泊かな

上層はそっからだ これはノアとコルスナつう此処の住人がな相談して決めたことだ

異議はあるか? 」

「いえ わたしも詳しくは聞いてない 道中の段取りはお任せします」

と言うと

「おし、 それはいいが 目的地 内縁層:下層までは同行してもいいが

そっからは 御前さん用事あんだろ」

「えぇ 出来ればそこからは別行動が良いわ」

「いいだろう 但し、同行するからには”只人”である俺等に従ってもらう

道理とやらもだ」

「いいわ」


 この一連のやり取りで只人で有ることは完全に決別してしまっていて

ケインズとニース達とは既に似て非なる存在になったのだと改めて実感し

また一つ何かの要素がわたしから喪われたと知って涙が溢れた

 ...が、後悔は無かった

蠢く髪や数々の能力ちから それらと引き逢えたのはこの躰のおかげなのだから。


「アイツらはやはり 化生バケモノだぜ 障らぬ化生バケモノに災い無しってな

あいつらは俺等が勝手に手ぇ上げちゃいかん連中だ

それにあのちんまいヤツあれ 贄の蛇 だな あんなんが後ろ盾に居るとなりゃ

神族案件だぜ。 もう俺達がどうこう出来る存在じゃねぇな 

それに銀髪の娘は前合ったときはまだ能力ちからもそんなには無かったけどよ 

くそぅ未だ底知れぬ能力ちからってよぉ どんだけのモン持ってやがるんだ

 もっと可愛く美しくなりてぇし能力ちからは欲しいしなぁ オレもあやかりてぇな」

と欲望を滲ませギリリと指を噛んで赤い筋が垂れた。


「リンゼ よもや今代でこんな連中にまみえるなんてよ 服わぬ種族冥利に尽きるぜ

長生きはするもんだぜ なぁ」

「えぇ、リンゼはとても怖いのサリちゃん ちゃんとリンゼを守ってね

リンゼのアレねアレね しぼんでちっちゃくなっちゃたの♡ 」

と自分のスカートの股間に視線を動かすネルリンゼ。


「けっ オトコがいう科白かよそれ、 でもあいつらには 愛想よく振る舞っておけよ

すぐにでも理想郷ヴァルハラの連中にも伝えておきてぇがそうも今はいくまい」

とサリと視察団のネルリンゼは

シーアとその仲間と思われる一行パーティーから間近に感じる濃い冥魔の瘴気に怯えそして恐怖した。

 ケインズとニースがいない朝食の席で喧騒の最中さなかの歓談中の事だった。

    

「ほう 皆息災のようで 良かったですな そうでしょう? ドラン」

とニラウス。

{それ オメーが言うか? 死に掛けだったくせによ でもオメーの言うことはホントだぜ

まぁ あまり無理すんな リンディールと命運を共にしているということを常に忘れないこった}

「はは 新米の人外によろしく頼む」

{ふん 今更かよ これからは人外でもある俺様が先輩だぜ ハハハ}

とドラン。

二人には、これ以上の言葉はいらない

今までと同様戦闘の準備をするだけであった。


 ケインズは皆に今回の相手は有翼魔人型であることを伝えても

誰一人、及び腰になる者は居なかった 

「ふふ こうでなくちゃな 冒険者とは言えねぇな 堅気には無理な相手だ」

と何だかんだで満足そうだった


「アイツ(シーア)の事をソーヤに言うも言わないもテメーに任せた

後は、成行任せだな おしっ そろそろ出立するかね

リベランナさんとやら、メシ世話んなったな 牛をわざわざ潰してくれてよ」

「なに 気にするな儂は此処に残らればならんて コルスナもいるしな

吉報を待っている 達者でな」

と夕刻になり 今度は夕食後の歓談時の事であった


「リベランナ様、コルスナちゃん 世話になりました 

わたしは全てがすんだら此処に一回立ち寄ります」

とリベランナと抱き合った。


「そうか儂こそ禄に世話の出来んでの これはせめてものはなむけじゃ

と頬に接吻をもらう 男性だったら絵にもなろうが女性同士であり奇妙な感覚であった

中の魂は男だったがすでにわたしからはその

男らしさが消え失せてもう朧げな感覚と記憶しか残って居ない

今、昔のシアズで呼ばれても多分、他人事のように感じられるだろう。


「シーア様 お菓子ありがと お礼にいい事教えてあげる お耳貸して」

と耳を寄せると


”彼の口は、異元イゲンの口 悪鬼の言葉に綻びあり

銀の刃と風を以てこじ開けよ”


と不可思議な呪文めいた事を囁き最後に額に柔らかい唇の感触。


「コルスナも此処でお留守番してるわ どうか息災でお帰り下さいませ 

コルスナの大好きな、シーアおねえちゃん」

と涙目であった

(この時、わたしはまだコルスナが魔族の”男性”であることはまだ知らなかった)


 これは”コルスナの嘘偽りない本心の言葉であり

出来ることならば全てが終わったら”少女”としてシーア達に従いて行きたかったが

このときほど体内のしるしを疎ましく感じたことはなかった ...が

”オトコ”を完全に捨てきれずに居る自身が居てそれは叶わないであろう

若干の寂しさを残しコルスナはシーアを見送る。


 幾つかの転送を経て何回かの転送の際には


「余所者は出ていけーーッ!! 」

「我らに禍いをもたらし安寧を貪る悪鬼共めッ!! 」

と取り付く島も無し。


ようやく外縁層の端まで到達 此処からは



 ユクントスは、先の通り超巨大な魔物の遺骸でありその伏せた

遺骸の六対の肋骨内部の広大な空間に回廊を築き、

昼ビト達はそこに生活の場を見出していた

此処が、内縁層 下層である。


此処も階層社会であり肋骨表面も多数の渡り階段があって、自然の穴やそこに手を加えたと見える

住居があった

ここは外縁層と呼ばれ夜ビトでも変成部位が少ない人々が時折吹き付ける風に曝されながらも

生活しているようだった。

大規模討伐隊レイドはその肋骨基底の門番とやり取りしていて

リベランナから聞いた状況と間近に見た風景からこう推察していた


「あぁ お前らが 夜ビトのリベランナ大規模討伐隊レイド

話は聞いている 中へ入んなよ ここは六対の肋骨のなかでも一番の肋骨都市 ”ルベド”だ

それからあの心の臓に当たる部分の遺構:聖骸遺構:エトル には近寄るなよ

功名心で勝手に行くのは構わんが 俺達に責任を擦り付けられても困るんでな


 俺達にとって彼処エトル化生バケモノの棲みかだが一応聖域扱いでな誰一人

近寄らん つい先日も地下で何事か有ったらしく地揺れがあったんでな

禁忌の魔獣でも目覚めたかと 大騒ぎになってよ

魔聖ユトレイア精鋭部隊:薄明騎士団ペルネルが調査に入ったがまだ帰った形跡はねぇな

くわばらくわばら」

と目は爬虫類の様な縦長の瞳、耳に当たる部分には魚の鰭が就いた背の高い男はそう言って

身を竦ませる。


 旗振り役のノアは

「御忠告どうも まず中へ入れて頂戴な 宿はあるかしら? 」

とやや高慢に問うとそれはさほど気にした様子も無く、

「有るよ 此処にもあんたらみてぇな迷いビトが時折来るんでな

彼らは俺等にとってはありがたい存在でな 高待遇だぜ」

 理由は言わずものがな

貴重な外界の情報と物資をもたらしてくれるからである。


 肋骨都市 ”ルベド” は中空で回廊が交差し背骨に当たる聖廊層は霞がかかって見えなかった

わたしはレフィキアから解剖の手解きをうけ骨の内部はまるっきりの中空ではなく

多数の支持体で構成されており、海産物の海綿状になっている事を知っていた。


 その支持体が複雑な回廊を形成していて主要な通路は両脇に手摺が設えてある

それでも ”転落事故” は頻繁に有るらしい

「オメェらも気い付なよ 落ちるのもトンマだがそれに当たるのもトンマだぜ

そんときはテメェの命運はここまでだったと諦めな」


 オレは観光案内じゃないんでな あとはテメェの足で覚えな

どんなに寝相が悪くても、宿は地面にあるから落っこちる心配はねぇ 安心しな ハハハハっ」

と軽口を叩く。


神界ユクラシアで

 「銀の娘、人造種族たるホムンクルスの少女 いよいよ彼の封印ァタウェーと対峙し

解く算段ですか? 


 ヤツを討滅すれば、世の中が少々騒がしくなりそうですねぇ

どちらのことわりが道理を通すのか見極める場面に遭遇するとは

神族言えど我らだけでしょう 自身の存在を意識して初めての体験ですね

このバグスール久方振りに猛って参りました 

...が、いくら我らでも未来さきまでは見通せません


 どちらの道理がことわりとなるか ァタウェー シーア(クレア) 

それとも ...いや是許こればかりは私でも予想がつきませんねぇ

ふふっ それに聖骸遺構:エトルとなると 

悠かなり旧き深淵の一族・悠かなり旧き幻夢の一族・禍つ混沌と禁忌の獣の一族の少女達は

どう動きますかね」


「ねぇーっ ハグ兄ぃ そのってクロノーラ達でも言うこと聞かない? 」

「えぇ そうですとも 母上リーンにだって盾突き我儘を通して

その存在を強引に認めさせたのですから 

我らでも、彼女らに安寧の場所を与えることは遂に叶わなかった 

今は仮住まいで温和しくしているようですけれども。


...... 。


 それにね あの少女達はとても危険で 

我らが幾星霜も前、ようやくの思いでエトルに棲んでもらうよう ”説得” をしたのですよ

それが彼の娘の影に目を付けたようです」

ハグスールは両眉に皺を寄せ指を当てた。


この仕草はハグスールが最も厄介な案件を抱え込んだ時しか出さないものである

「あっ ハグ兄ぃ本気で困ってる めずらしー」

とクロノーラ

「茶化さないでください 彼女らの仮の棲みかは

神代からの禁忌魔獣:マゴニステスの影ですが、それでさえもう少しで ”食い潰して” しまうでしょう

それに加え更に”居心地”のいい影となると話は簡単です


 まぁ 彼女等が何もしでかさなければ”当面”は静観といきたい所ですが

もし、万が一があったら神族の彼の娘への直接介入もやむを得ないでしょう」

「ねぇねぇ あの銀のの影ですらそんなに凄いの? 」

「えぇ そうですとも 

あのホムンクルスの少女の影には我らには及びも出来無い程の

瘴気に溢れた異空間が広がっているんですよ 

本人は無自覚でしょうが、七人の厄介な少女達ですら持て余す程にね」

「じゃあじゃあ棲んでもらえばいいじゃない? 」

クロノーラはあっけらかんとした物言いでハグスールを見つめる。


「えぇ そう差し向けたいのは山々ですが、厄介なのは

彼女らも高度な知性があり自我がありますからね どう彼女等が動くかが不安でね

気に食わない相手ならどんなに快適なすまいであろうと

簡単に食い潰して亡きモノしてしまうんです。 気分次第でどうにでも動く彼女らですからね


 今まで、多くの武人・魔女・偉人・英雄・魔道士などの覇道の求道者の影に棲みつきましたが

彼らの定命のことわりが彼女等を永く影に留まらせる事は叶わなかった

しかも、好んで禁忌魔獣の影ばかり選んで棲みついてきた少女も中にはいるのだ


「それが今代、終の棲家となる候補が現れたんです、 

彼女シーアなら財も影も十分資質があり期待しています

特に影の選り好みの激しい六人も、全員まとめて引き受けてくれれば御の字なんですがね」

「おっ? 影と闇の少女共がなんだって? あいつらもう禁忌魔獣:マゴニステスの影を食い潰したか

食い意地が張ってやがるな」

「いえまだ完全には食い潰しては居ませんよ兄上 

食い意地が張っているのはその通りですが、それに代る居場所シーアがいま近辺に来ているのですよ

移り気な彼女達が上手く銀の娘の眷族になれば、そうそう悪さも出来無い つまりそういうことです」

ハグスールはシーアが危険な少女達の精神的な枷になる事を密かに期待もしていたのである。


 神族ですら言うことを聞かない、神族すら滅する事が能わない概念が形となった少女達

シーアが一手に引き受けてくれれば 彼女らのご機嫌を取ってなだめすかす必要もなくなる

神族にとって相手に媚諛へつらう事ほど屈辱は無かったからである。


「ほぉ 言うね あいつらはこのアグスト様でも苦手な少女共だからな

掴み所が無いっていうかなんつうか ...な」

「兄上でも苦手なものは有りましたか? 」

「たりめーだろがよ オレはこの件には首は突っ込まねぇ 算段するならオレ抜きでやんな」

と手をひらひら振りどかっと胡座で傍の菓子皿に手を伸ばした。


「我らが介入せずとも銀の娘は必ず彼女らに接触するでしょう あとは成行き次第ですがね

あと数匹も居ない、希少な神代からの禁忌魔獣もあんな少女達に

いとも簡単に影を食い潰されたら たまったものでは無いでしょう

魔獣達には同情を禁じ得ないですがね」

とハグスールは今や数匹となった神代からの禁忌魔獣を憐んだ。


 クロノーラは神界でおやつを食べながら、途中割り込んできたアグストと歓談していた。

このおやつは只人の真似が大好きなクロノーラが従者に人界から持って来させた物であり

本来は、ここ神界では禁制品である。


 シーア(クレア)は自分の影にそんな異空間が広がっており、

既に相応しい住人を棲まわせる準備が整っていたとは

ここ内縁層下層の宿の灯にただ揺らめき映る自身の影からは知り得る由はなかった。



 わたしは、明日朝の聖骸遺構:エトル訪問を楽しみにしていた


「明日は楽しみね クロちゃん」

『そうか 儂はどうでもよいがのぅ 未知に憧れるのは良い傾向じゃ』

「そうね、ずっと以前から未知は面白いし興味があるの

だから、錬金術の途を選んだの 今はご無沙汰だけどね」

わたしは、未知が大好きで、まだ知らぬこのわくわくする感覚は

久しぶりだった。

 

 一先ず、宿に入ると此処は外界となんら変わりない

多少耳や尻尾が変わって居るくらいで見た目的にも目立たなかった

そんな人々の喧躁の中に私達大規模討伐隊レイドは放り込まれた。


「おしっ オレ達は早速 観光と洒落込むぜいいよな シーア」

とわたし達以外の全てがケインズの言葉に倣った。


「おめーさんは エトルとかに潜るのか? 」

とニース。

「えぇ なんか感じるので行ってみたいと思って」

と言うと

「気ぃ付けて行きな 誰も責任は肩代わりしてくんねぇしギルドもねぇし

実入りが無い場所だ。


 すまんがカネが絡まないとオレ達は今回は勘弁願たいね 

聖廊層に行くなら何れ通らなきゃなんねぇが

護衛という名目で此処の案内人を雇うつもりだ 俺達と一緒に行きたきゃ

明後日までここに戻ってこい

それ以降は、後で追いかけて来るなり好きにしな 健闘を祈るぜ」

とニース一行パーティーは頭を下げる

ソーヤが何か言いたそうだったが

「テメェは俺達と一緒に此処で”観光”するんだ いいな

サリ テメェはよくソーヤを見てやれよ 歳格好が同じくらいだし面倒みてやれ」

とサリに言う。


「はいですぅ ニースさん ソーヤ君一緒にどこ行こっかぁ? 」

等とサリはしゃいでいたが

(ちっ オスガキのお守かよ 全く世話の焼けるガキだぜ オレはたんまりと女遊びしたかったのによ)

と誰にも聞こえないようにつぶやいていたが誰も気には止めなかった



わたしは、ヤンスを宿場に待機させ

「明後日の朝まで戻らなかったら皆と一緒に発って頂戴

いいわね 従いてきちゃ駄目よ ヤンス」

と言うと

「へぇ すまねぇす今回はシーア様の言う通りにしますんで 

あっしは宿でやってまさぁ」

と杯で飲む仕草。


宿の主人にカネを多少握らせて

「あの人がわたし達に従いて行こうとしたら”全力”で止めて頂戴」

というと

「へ 分かってら お足分の働きはしてみせまさぁ 安心してお出かけなさって下さいまし へへ

今夜は、オレのガキ共にもいいもん食わせてやりそうだ あんがとよ銀のお嬢さん」

とあっさり引き受けてくれた


 そうして皆より早く寝台に就き朝靄立ち込めるなか聖骸遺構:エトルへと足をむける。

立ち並ぶ尖塔群 黴臭い空気湿った土と苔の匂いがそこかしこから漂ってくる

既に地面には魔聖ユトレイア精鋭部隊:薄明騎士団ペルネルのものと思われる

足跡が多数。


 やや小さいパンプスの足跡も散見されるがいつの物かは分からない

あちこちに入り口らしき穴が開いている

「ねぇ シセラいる」

「えぇ此処に ようやくマギが馴染んで来たわって ここすごいわね

こんな遺構は初めての経験ね ミーア辺りの植物たんまり取り込んでおきなさい

これ攻略の前に必ずしなさい いつぞやの洞窟のように中に無いことが殆どよ」

忠告する。

「はい シセラ様」

とミーアは右手から寄生木を伸ばし辺りの植物を取り込んでいく

粗方終わったらしく

「量もいいくらいですよシセラ様」

「いいわ じゃあ 彼処ね 正面はだめ、かなり大変な道筋ルート

シーア今回は妙な気配を目安にすればいいのかしら」

「えぇ 漠然とだけどこんな言い方しか出来ないわ」

「いいですとも このシセラ気配の”元”までご案内いたしますとも」

と先頭はシセラ次にミーア次がわたし最後尾にビヨン

今日は簡素なワンピースとローブで身を固めてある。


念のためビヨンの横にはヘルハウンド一体を召喚済である。

目指した入り口は正面ではなくその横の崩れた壁の割れ目であった。

中はひんやりとしていて湿気が早速纏わり付いて来て髪を重くした。


 中はぼんやり淡く壁が光っていて指で擦ると光った粘液が付いて酷く生臭かった

良く見ると小型の蝸牛型の魔物が這った跡が何時迄も光って居るらしい

 壁の窪みで事切れたらしい個体の殻もありこれも淡く光っている。

生きているときは躰全体と這った跡粘液が、

事切れると殻全体が発光する魔物:夜光蜷 (やこうにな)

であった。


 これでも古代魔物種であり、大きさはわたしの握りこぶしの半分くらい

殻は殻は分厚く石のように硬かった。


 可愛らしいので数百個の殻と生きたままのを十匹程集め小鞄ポシェットに入れる。

彼らは直ぐ軟体部を引っ込め蓋を閉じてしまう

可愛らしい小瓶にれカンテラ代わりに使えるだろう。

この時、わたしはこれが大変な希少種で隠し通路や隠し扉を暴く光を放っていたのだとは

このときはまだ知らず、単なる光蘚ヒカリゴケ代わりだと思っていた。


 後で、レヴィアに見せたら気に入ったらしくレフィキア内のわたしの私室で空瓶に入れられ

この夜光蜷 (やこうにな)は飼われることに成った。

そして繁殖して重要な収入源となるがそれは後のお話。


『お主は生き物はあまり好きではないと思うとったが? 』

とクローティアが言う。

「いえ 生き物は好きだけど珍しいのが好きなの 

だって一般的なのって可愛くないんだもん 鳥や魚が”特に”大好きよ」


 わたしは、犬・猫も可愛いとは思うがどちらかというとあまり一般的ではない

不遊魚や大きな鸚鵡など人とは異なる棲息域に棲む温和しい魔物が特に好きで

彼らも何故かは知らぬが、わたしがわたし(シーア)になる前から

そういうのに好かれる傾向があった。


 庭で読書をしていても、不遊魚や大きな鸚鵡がよく肩に止まったり纏わり付くなどして

読書の邪魔をしてきたが

餌をやると手から取って食べてくれたりしたものだった。


『そうか、お主は研究一筋でそういうのは興味が無いと思っていたが

新たなお主の一面が見られて儂は満足じゃわい』

と何やら嬉しそうだった。


 カビ臭さと生臭さとは裏腹に幻想的な光景が眼前に広がる。

「気配はずっと下ね 取り敢えず下を目指しましょうか」

とシセラ。


「ねぇさっきの正面の入り口はどうなっていたの? 」

「大したとはないわ 曲がりくねっていて上にしか路はないの

気配は明らかにこっちからよ」

と下に続くという暗闇の先を示す

とその前に 迷宮に擬態した魔物:偽迷宮 (ムムクム)を確かめるため

タバコの脂を落とした ...が変化は無くこのまま奥へ進む


 ビヨンの情報によれば


偽迷宮 (ムムクム)

 偽長持ち(ミミクム)から与えられた 武器防具等を迷宮に似せた体内に散らして

ヒトを迷わせ誘い水溜りに似せた消化液を飲ませたりする

するとそれを壁に吸収する巨大な魔物であり 巨大な擬態性魔物で手練の冒険者が

あっさり殺られる一番の要因である


 迷宮コアがない枯れた遺跡によく寄生してそのまま乗っ取る形で入れ替わり

誰も気づかない そして煙草の火とやにを落とすと正体を現す。

未開封の遺跡にはいない


とあるが短期間で置き換わることもありましてや此処は未知の土地 念の為の処置である


 先程の嫌な匂いにくわえて今度はやにの匂いが加わるが

冒険の好奇心が躊躇うそれを上回る。


しばらく迷宮を気配を便りに歩くとやがて奈落へと通じそうな螺旋階段へとたどり着く驚いた事に

今いるところが頂辺で遥か下へ下へと続いて居るが途中で階段が処々途切れている

そんな場所に到達したのである


 奈落からは普通の闇とは異なるねっとりとまるで”意思”を持ったかのような空気がまとわりつく

妙な気配はまさにその奈落からであった


{ねぇ おねーさま おねーさまの影って誰も居ないの? }

と下の淀んだ奈落から可愛い声が聞こえて来る

声だけで姿も形も見え無かった

「誰っ! 」

咄嗟に血の鞭を構えミーアも寄生木の武器を出し構える。

{ふふふっふ ねぇ 銀のおねーさまもう一度訊うわ

おねーさまの影の中には誰か棲んでいて? }


 二度三度同じ問いを執拗に問うてくる可愛い少女の声

次第に語気が強く成ってきていた


「しっ 知らない影なんてだだの”影”でしょ」

{ねぇ 貴女の影 只の影ではなくてよ 私達悠かなり旧き闇の一族に相応しい棲みかだわぁ

ねぇ 最後にもう一度だけ訊うわ 貴女の影の中に誰か棲んでいて? }

わたしはこれ以上の問答は危険と判断し

「知って居る限り今は誰も居ない只の影よ それでいい? 」

{あぁぁん 素敵 そう そうなのね誰も居ないんだぁあぁん 私達七人の達おねーさまの影に

棲まわせてよ いいでしょッ!! ねぇったら}

とやや語気が荒い。

『ふん こんなところで影を喰らっておったか 悠かなり旧き深淵の一族・悠かなり旧き幻夢の一族・禍つ混沌と禁忌の一族の少女共』

とクローティア。


{おやおやっ 凄まじい気配を感じたとおもったら 贄の蛇様ではないですか

でもいまはこの銀の娘の返答を待っているの 貴女様はそこで”黙って”成行きを見ててくださいませ}

と高慢な口調の少女の声


 クローティアと対等もしくはやや上から目線での物言い

この少女達? はクローティアと知己の仲であり

おそらく神代から存在する何某かが少女の姿をとったモノであろう

今のわたしには此処までの推論で精一杯だった。


『不躾に影に棲まわせてくれとは 禁忌魔獣の影では喰い足らんで、

そんな戯れ言をまだ言うか 姿も見せる礼節も失ったかこの小娘共!! 』

と一喝。


 声の主は

{おぉ こわっ リディアテーナだけでは駄目かしら? これでも一応”星喰い”と呼ばれてもいるわ

他六名は早くおねーさまの承諾を得たくてそわそわしだしたわ

わたしと違って気は長く無くてよ 

でなければそのケット族のと魔導のの影どうにかしちゃうよ いいの? }

とニヤニヤ顔。

容姿は近くに顔を寄せてなお仄暗い闇に包まれ詳しくは分からないが 

わたし好みの美しい少女であることは何となく理解できた。


『シーア、此奴等は危険な小娘共だ お前に受け入れる覚悟はあるか? 』

と問う

 わたしは躇いなく

「えぇ クローティアこの達? はわたしを頼ったそれで十分じゃない。


... ...。


 いいわ ...貴女達まとめて棲まわせてあげる わたしの影の中では好きになさい 

でも約束して絶対に只人に迷惑かけないって」

そういうが早いか六つの黒い塊が私の影に飛び込んだ これは是ということであろう

人外の約束とは只人のように軽くはない。


 ちらっと闇の塊から見えたそのうちの二人は隻眼で淡い青薔薇が片方の眼窩から生えていた。


『さぁ お主だけでも姿を見ぬか』

{イヤよ おーねさまの命令じゃないもん 貴女はおねーさまじゃないもん}

と子供っぽく駄々をこねて、


{ねぇ ケット族と魔導のおねーさま武器をしまってよ でないとリディアねぇ

貴女達の影喰らうぞ いいの? }

と今度は先程の茶化した口調とは違う恫喝の色を乗せて言う

[ 敵対反応極大 ですが自身の保護の為 状態:敵対と武装を強制解除 ]

淡く光っていたピンクの瞳が元にもどり構えを解いた

ミーアも慌ててビヨンにそれに倣う 

素直に応じたのは感じる気配で彼我の差を感じたのだ

「あらら また大変な達が七人もやってきたこと シーアも大変ね」

とシセラはまるで他人事である。


「ねぇ姿を見せて 可愛い顔を見せて頂戴? 」

と優しく言うと

ねっとりとした闇の塊が徐々に少女の姿を取り

わたしに跪いた。


 髪色は淡い銀光沢のローズグレイ、瞳の色は灰青色で

左の髪の色違いの部分はウイスタリアで先がくるくる巻いて可愛らしく揺れている

髪にはピンクのリボンが多数揺れていた


 唇の色はローズピンク、豪奢な深い闇色が基調の蔓薔薇柄のワンピースドレスで

スカート柄の一部はスモークブルーの薔薇柄である。

  

 髪と同じローズグレイのタイツに同色のパンプスをきちんと揃え

「シーア様、わたし リディアテーナはシーア様の影に棲まうモノとして

潜み時に武器となり時に執行者となりましょう ですが... 」

とここでわたしにリディアテーナは腕を回し抱きつき接吻をしながら

こう耳元で囁いた

「私達がシーア様の影に棲まうのはあくまで”仮り”ですわ

もし シーア様が私達にそぐわないと判断したなら」

と此処でわたしは言葉を割り込ませる。


「判断したなら? 」

「喩え、宵闇のクレアーティア様言えど我らの糧になっていただきます

影を喰らい尽して存在をも喰らうでしょう 

しかしこんな居心地のいい影の世界もまた捨てがたいのも事実

シーア様、どうか上の魔人ァタウェーを討滅下さいませ 

それでシーア様の能力ちからを見定めさせて貰います

討滅出来るまで他の姉妹は貴女を認める事は無いでしょう

もし貴女の命運尽きたなら

貴女の影に巣食うモノとして この世界オルティアを喰らい尽くしてそれから貴女の御許へ

我らもご一緒させていただきます。 貴女の魂は永劫我らの糧になり続けるでしょう


 条件は魔人の討滅のみで刻限は有りませぬ故、正急に事を運ぶ必要は有りませぬからご安心を

だた貴女様のご召喚にはそれまで一切応じられませぬ 宜しくて? 」


 彼女達? はわたしに永劫の猶予を与える代わりに

一切の召喚に応じず、可愛い姿も見せてくれないという

正直、後者の方が多少堪えたのはナイショである


「えぇ それでいいわ でも只人には手を挙げないでくれる? 」

と言うが

「それは担保出来ません他のは私より危険で気紛れな性質たちなのをお忘れ無きよう

でもこれでは一方的ですからシーア様の唇を下さいませ

さすれば、我らがどのようなモノ達が垣間見える事が出来ましょう

一刻も早く我らを正式な貴女様の眷族に置いてくださいますよう

お力をお示しくださいますよう」

と言うなり


んっ ...んんんっ くぁっ んっ... くちゅりくちゅり んぁ ぁん 


「素敵なお口 はぁん いいわ すごくいい今までの誰よりも最高にいい んっ くぁっ

素敵なお口」

と蕩けた目で更に抱きつく

「シーちゃん? 」

と此処でうっかりミーアが声を掛けてしまう

「五月蝿い 黙れケット族風情が! 大事な”儀式”の邪魔するなよ んーーっ? 」

と口汚い男口調で左の色違いの髪をミーアの首めがけてしゅるりと絡ませ

締め上げようとして。


「やめなさいっ! リディアテーナっ ミーアおねーさまには手を挙げないでっ」

と軽く鼻をつまむとそのまま泣き出した

「うわぁぁん ごめんなさい”シーアさま” だってだってアイツがジャマしたんだもん

喰われて当然の事をしたのよ」

「ごめんなさいリディアテーナちゃん じゃました私が悪いの だからこれ緩めて おねがい」

と訴える。


 既に人外なはずの彼女ミーアが土気色に顔色が変わっていく

何らかの能力ちからの作用であるのは明白だった。


「ふんっ 気安く呼ばないでミーア シーア様はリディアテーナのものっ 

誰にも渡さないんだもん ...んんんっ」

と唇を放して、ようやくそこで髪を緩めた。

「いいっ? 二度は無いわッ 良く覚えておいて

つまんない 興ががれた あぁつまんない・つまんないーっ」

と言い放ち影に潜る瞬間

「ねぇ 皆早く眷族になりたがっているわ魔人を早いとこ潰して頂戴

だーいすきなシーおねーさま♡ 」

と言って潜ってしまった

その時はまるで水面のように影が 


とぷり


と波紋を立ててしばらく蠢いた後元に戻った


こうして妙な気配は全て消え去り螺旋階段の奈落は只の闇に戻る


 この時地揺れが起きたが 

彼女等が幾星霜も棲みついた神代からの禁忌魔獣:マゴニステスが地に伏し、

永き永き定命のことわりから

解き放たれた音とはわたしの知るところではなかった。


 遺構の外はまだ昼で影は濃く、時折蠢いて蔓薔薇が顔を覗かせていたが

わたし達以外には気付くモノはいない。

皆、そ知らぬ顔で影を踏んでいくそんな普通の日常がそこにあった。


ライブ・アーティファクトの気配だと思って追ったモノはとんでもないモノだったがこれで

七人の少女達が私の影中に仮とは言え棲みつくことに成った。


(それじゃ ライブ・アーティファクトの気配はどこから? ) 

ラヴィア・フェーリア・コトン・レメに念話を送ったが何を恐れてか、一切応じる気配はなく

レヴィアに念話で話すと彼女等は屋敷内にちゃんと居るという。


 影の少女を恐れて居るのかも知れないが、邂逅前からはっきりと同族の気配と断言していた

エトルでは無かったのかも知れなかった。


その帰路、遺構からさほど遠くない場所でウル族のケインズとばったりと出くわす。

「おっ 早ぇな 用事は済んだか? オレは大所帯だが 頭目リーダーとしてな

ちょいと近くまで様子見よ」

「まぁ 目的のではなかったけど用事といえば用事ね」

と流石に内容は内容だけに伏せておく

影からは棲まわせた者にしか分からない好奇心に溢れた気配がしていた


「そうかそれは良かったな ところで 騎士団連中には出会でくわしたか

先に潜ったと聞いていたがな」

「いえ わたしはたぶん正規の道筋ルートではないかも あくまで気配を辿っていっただけ」

「そうか それならしょうがないな 俺達はその正規の道筋ルートとやらを

通って行くからなまぁ まぁそんときだな 

どうだ昼飯 一緒に食うか そのワン公と一緒によ」

「御免なさい ヘルちゃん出しっぱなしだったわ でも機嫌が悪いのどうしてなのかしら? 」

隣に座していたヘルハウンドは軽く唸り声を上げその目線は影ではなくケインズを指していた。


「あぁ ワン公等といって機嫌を損ねたかな まぁ赦してくれ

俺様には”ヘルハウンド”もそこらの犬でもこう呼ぶんだ ここでその”魔物ヘルハウンド”の

名を出しても良いんだが オメェさん都合が悪いだろ

普通の召喚士ってのはそんな”大物”は召喚出来ねぇのが普通だ」

ケインズはとうにヘルハウンドを看破していて 敢えてその俗名で呼び

彼なりに気を遣ったつもりのようだった。


「ねぇヘルちゃん 機嫌直して 彼は悪気があった訳ではないの」

<< 済まぬ シーア様我らヘルハウンド一族をそんな下品な俗名で呼ばれたのでな

つい ”本気” を出しわが君主ケール様をお呼び申し上げこの者を餌にするところ

シーア様がそうおっしゃるなら 我れはシーア様の御言葉のままに

それに 新しい七人は我らより気難しい小娘共ですな シーア様も心労が増えますな

ハハハ 正式に彼の小娘共が眷族になられましたら我ら一同、歓待いたしまする

我らが頭目リーダーも魔人の討伐に今から牙を磨いてお待ちかねの様子

これ以上衆目に我れの姿を晒すわけにもいきますまい

これにて >>


と最後に


{ウォン!! }


 大きな尻尾を一振りケインズに向けて振り まるで”犬”のように一声吠え

掻き消えた。


「ふぅ 危うく挽肉になるとこだったぜ 悪いがオレに一杯奢ってくれ

緊張して喉乾いちまってよ 良いだろそっちも詫び代わりってことで」

「呆れたわ でもそれでケインズさんの気が済むなら」

とまるでわたしが不躾な事をしたかのような成行きに呆れながらも

彼の巧みな話術に感心したのである。


「シーちゃん さっきは御免なさい」

「ミーアねーさまが謝る事ではないわ アレはあのが悪いの」


「何の話だ? 」

とケインズは訝しがる。


「いえ オンナノコ同士の話よ」

と言うと

「へいへい 腹ァへったぜ 男としちゃ色気より食い気だな」

と宿併設の酒場に入り彼と会食と相成った。


 影の中の少女についてはリディアテーナ以外は名しか分からないが

ライブ・アーティファクトと違って彼女等は概念や事象そのものが少女の姿になったモノ達

ということしかまだ分かっていない


 彼女等の性格を考えると先が思いやられて頭を悩ます事になりそうである。

「シーちゃん? どうしたの深刻そうな顔して? 」

とミーア。

「なんでも ただこれからの事を考えるとって思っていただけ」

「何、魔人ァタウェーなら俺達が居るさ なんとか為るから深刻そうな顔するなよ

依頼者がシケた面ぁしてっと俺達も不安になってくるじゃねぇかよ」

となにか誤解を招いたらしくわたしの胸中とは見当違いの言葉が返って来た


 まぁ彼にはそのように受け止めて貰っておこうと

そのまま、食事をすすめる


彼はウル族らしく豪快な一枚肉を炙ったものに 塩や胡椒を軽く振った物に

中級のエール


 わたしは、濃厚な玉蜀黍のスープに大麦パンあとは葉野菜の組み合わせと

乾燥果物を酒に漬け込み酒精を完全に飛ばし砂糖漬けにしたたもので、

これそのものには酒精が無く 

高級品は砂糖漬け一般品は安価な蜂蜜漬けだった


漬け込んだ酒は果物酒として女性冒険者には人気だった。


 このホムンクルスの躰になってから大好きな酒精の類は一切受け付けなくなっていて

今のわたしではほんの少しでも酒精が入ると頭が痛くなってしまっていたのである。


 ミーアは酒精を抜かない乾燥果物であり 懐かしい酒精の匂いがわたしの鼻を刺激した

ビヨンは、オーパーツの”飴”でありこれが水銀の元になるのである



 ボコッ ボコッ


 ネグリール近郊、フラウの墓

神父に祈りを捧げられ生き死人アンデッドにならぬよう”処置”をしたはずが

可愛い手首そして半裸の少女が土から這い出る

シーアが内縁層下層に到着した夜、聖骸遺構:エトル入りする前の夜の事であった。


 躰には検死の跡であちこち縫い目が見受けられて痛々しかった。

「ふふふ ようやくこの躰が壊れてくれたぜ

これで”オレ”もようやく本来の躰に戻れるって訳か

それにしても 畜生あの糞娘めこれからオレ自身とお愉しみって時に

派手に壊してくれちゃってよぉ どうしてくれんだ」

とフラウの声ながら下衆な男口調でごちる


 古くなって赤黒くなった血を傷跡から滴らせ、フラウは一緒に埋葬されたローブを羽織り

ネグリール郊外のとある家の戸口を叩いた


 その数刻前、ラトアはグレーのタイツに大人びたパンプス、

秘書官のような黒地にピンクの小薔薇柄のブラウス

下はチューリップタイトスカートにグレーのタイツ

そのスカートからすらりと形のいい脚を組んで

教え子が死んだ直後とは思えない艶美な笑顔で高価な琥珀酒を嗜んでいた。


 足を時折組み換え、また斜めに綺麗に揃えて舐めるように琥珀酒を口に運ぶ

小さな赤の口紅が硝子の杯に跡を残し彼女の甘ったるい薔薇の香水と琥珀酒の香りが

部屋に漂う。


「アレくらい壊れれば”兄貴”のヤツ ようやく本来の躰に戻れそうだな 

なぁ ケルア? テメーもそう思うだろ そろそろ良い頃合いだってな」

と太い”男”の声で傍のケット族の娘に声を掛けた。


「えぇラトア様、フラメリア様もこれで、ようやく本来の少女の様なお美しい躰にお戻りになられて

いよいよ、我ら混沌の主様のご復活に向けて動けますわね 

あぁん ラトア様 もっとお優しくお願いしますよぉ オンナノコって繊細なんですのよ」

「うるせぇ 分かってるさ ”オレ”はそこんとこ よーく弁えているつもりさぁ」

ネグリールの魔術講師 ラトアは実は男性でいまは自宅で秘書官のような大人びた服装で

タイトスカートから劣情を丸出してケルアと琥珀酒を舐めつつ情事を愉しんでいたのである。


 そして、ラトアの兄:フラメリアは長年フラウとして行きずりの名も知らぬ”少女”の躰に

精神を乗り移らせていて惨殺されてようやく幾星霜にも、渡る肉体の軛から逃れることが可能になり

こうして”弟”のラトアの元へ墓から抜け出してきたのである。


 フラメリア・ラトア・ケルアの三人は先の魔女戦争の際”混沌の主:ベルビュール”の

復活に向け暗躍しほんの少し混沌を浴びた魔人であった


 二人共、当時から異性装が大好きで兄は可愛い少女の格好なりを、弟のラトアは妙齢の

女性の格好なりをして女講師とその生徒として各地を転々とし

ベルビュールの復活に向け暗躍していたのである。


 しかも、弟のラトアは男女とも劣情の対象だった。

特に若い少年が大好きで欠かさず男娼通いをしては少年をもてあそんでいた。


 対して、兄のフラメリアは自分が男性なのにも拘わらず大の男性嫌いで

背格好が同じくらいの”少女”にしか劣情を催さない下衆な痴態野郎だった。

しかも女衒で女を買わず、少女の振りをして行き摩りの少女を誘い

いたぶりもてあそぶのが大好きだった。



 魔女戦争の終結間近、兄のフラメリアはいち早く先のメギスト遺跡に躰を隠し

精神を行きずりの少女に乗り移させて”フラウ”として難を逃れ

弟のラトアはその美貌で追っ手を腑抜けさせケルアが一息に殲滅したのである

 ところがどうした訳か兄のフラメリアは元の躰に戻れなくなってしまい

躰があるメギスト遺跡にリンディールや楔のゲルギルが棲みついたこともあり今回のような機会を

幾星霜も伺っていた。


 兄のフラメリアにはどんな

バラバラの惨殺体にも擬態出来る唯一無二ユニーク擬態能力ちからがあったが

戦争の最中である本当に埋葬されては敵わない、どこに躰の部位が散逸するとも限らない

自分の躰の部位があまり離れていると欠損したままに成ってしまうからである

片目はこうして、永久にうしなってしまった


 ......そしてシーアによる楔のゲルギル討滅、冒険者達によるリンディールの討滅

そして長年居座った名も知らぬ少女のどんくさい性格に

多少影響されてか”運良く”異性装の男性の

服に泥を撥ねさせた こうして因縁を付けられるよう誘導しワザと残忍な方法で殺されたのである

異性装の男性は衣服に関しては女性より過敏なところがあり

泥粒ひとつでも大事おおごとに為るのは分かっていたでのある

なぜならフラメリア自身がそうだから。


しかし、流石に此処まで壊されるとは思っても見なかったが。


 ラトアは外のノックの音を聞きつけ

「おっ 兄貴が墓から帰って来たぜ ケルア沐浴させてやんな

これからは このオレ:ラトア様が兄貴に”女”の悦びってヤツ教えてやるよ」

「はい 直ちに」

とケルアはフラウを迎え湯で沐浴させ小綺麗にする。

「うひょー これまた派手に壊されたな アニキ

でも女で居られるのはこれで最後だし オレが悦びってヤツを教えてやるよ こっち来な」

とタイトスカートから劣情を覗かせたまま妖艶に足を組み直し促す。

「うん オレもこれで女の悦びってヤツを味わえる 最後なのはちくと寂しいが

どうせ他人の躰だ ラトアおねーさま♡ フラウをたくさん可愛がって下さるかしら? 」

と”少女”のようにしなを作る。


「おぉ いいねぇ雰囲気でてるな こっちもノってやるよ」

とラトアも妙齢の女の声で 

「そうねいらっしゃい ねーさまが可愛がってあげるわ そのままいらっしゃい」

と言うとフラウはラトアのスカートの上に腰を降ろした。


「ひんやりしてこれはこれでいいもんだ おめーはどうよ フラウ? 」

「うぅん いいわぁ これが女の悦びってヤツね これも最後ともなるとじっくり味わなくちゃね

あぁぁん いいわぁ 遺跡にいったら あぁん今度は元のわたしの躰と ...ね」

とフラウの中の男のフラメリアは悦びを満喫する。


「流石は、アニキだな オレの上をいってら」

と妙齢の女性の異性装の男と、死体の少女で中身は実の兄という

卑俗的で退廃的な痴態が繰り広げられる。


その間、ケルアはラトアの本来の色である淡い灰青色の髪を櫛で梳いていた

 

 程なくして三人はメギスト遺跡最奥の隠し扉を数刻で探り当てその本当の最奥で

棺に眠る隻眼の少女を見つける。


 ラトア同様灰青色のうねるような髪、

淡いピンクの唇、黒地にピンクと白のバラ柄と青地に青薔薇柄の

エプロン付きのワンピース パフスリーブから覗く細い腕 華奢な体躯。

そして何より特徴的な赤い薔薇が少女の右目から生えていることであった

忘れてならないのはこのフラメリアもまた異性装の男であるということである

眠ったワンピースのスカート部分は目立つ違和感があった。


「あぁぁん 素敵よ わたしって こうやってみても可愛いわぁ やっと元に戻れのね

でもその前に ...オタノシミといこうかしら もうこの躰保たないしぃ〜」

と寝ている ”自分フラメリア” の唇を奪い髪を撫でるフラウ


んんっ 素敵よわたしって このお肌・お顔・この御御足おみあし・このお手々

この御髪おぐし・最後になんといってもこれよ とスカートを遠慮なく捲る

そこには可愛いショーツを押し上げた男のしるしがあった


「アニキよ オレは向こうへ行ってるぜ ケルアと宜しくやってる

たんまり愉しみな」

とラトアとケルアは視界から消える 程なく向こうから情事の甘い声が聞こえだす

「うんっ フーちゃんそうするね うんしょうんしょ」

と子供っぽく言うと

早速、フラウの中のフラメリアは棺に寝ている自分フラメリアに跨がり

卑俗的で退廃的な痴態を心置き無く愉しむ


 ほどなく、寝ているフラメリアの一房の紅い色違いの髪を手に取り

呪文を唱える


((灰は灰に 塵は塵に 有るべく四元素の途を導き給う

さかつる魂をかのうるわな”少女成り”の器に戻さん

我、混沌の名に於て命ずるなり))


と途端にフラウは崩れ落ちて眠っていた少女は


「んっ んーっ どうやら上手く行ったみたいね

反魂はんこんの術ってべんりよね さすがフーちゃん」

と自分で自分を自画自賛する


「これで、フーは色々悪戯出来るの? ねぇケルアぁ」

と本来の躰に戻ったフラメリアは青のパンプスをトントンと床に当てて見たり

ワンピースのスカートをくるくる回して整えてみたり

乱れたレースを直し、生えている薔薇を優しく撫でたり

自在に動かせる髪で落ちていた石を 握り”潰したり”と確かめて

奥から聞こえる情事の声の主に向かって声をかけた。


「えぇ そうですとも フラメリア ”お嬢様” まずはゆっくり馬車の中でおやすみを

お世話はこのケルアとラトア様で尽くさせていただきます」

いつの間にか二人は情事が済んだらしく 棺から半身で起きたフラメリアの足元に立っていた。

ラトアは背がフラメリアより頭半分は高かったが

二人とも直ぐ様床に傅きパンプスに接吻をした。


 ラトアのタイトスカートからは 

はっきりとタイツを押し上げてげているしるしが見て取れたが、だれも気にする様子はなく

それを横目でケルアはうっとりと眺めていた。


「フラメリアお兄様、このラトア死力を尽くしお支え致しますわ それで宜しいかしら? 」

「あぁ いいぜ表向きはオメェが”姉”でこのオレが”妹”ってことにしとけよ

間違えたら喩えテメーでもぶっ殺すからな

俺様はまだ眠いし寝ている間にオレの髪に薔薇を散らしておけよケルア」

「はい 仰せのままに お嬢様を可憐に彩っておきます故、御安心を 

まずどちらに向われますか? 」

「そおねぇ フーはまず ルベリト岩礁帯に向かいたいの 

それとラトアはここの講師を辞して来て頂戴。 行方不明となれば面倒事だし

穏便に済ませてぇしな。


 それと殺しも辞する前は禁止だぜ

遺恨や悔恨などと面倒臭えのは 原因ごと綺麗サッパリ排除するんが俺達のやり方だが

今回はいいかぜってぇに問題は起こすなよ。


 銀の娘が色々絡んでいるからな、目ぇ付けられると厄介だ

”フラウ”のときアイツの近くを通ったがありゃ化生バケモノの瘴気だった

思わずションベン漏らしそうだったからな。


 幸いにヤツはいまギアトレスに行って居ねぇし とっとベルゼからずらかるぜ」

と可愛い姿からは想像もできないような下品な男声。


「お嬢様 男の声は封印された宜しいかと」

「んぁ? そうだったわね つい調子を確かめたくて

 フーはオンナノコだもんね 男の声は恫喝の時だけにするわ

だって下品でイヤなんだもん ごめんなさいケルアぁ」

と外観相応な可愛い甘え声。


「そのほうが宜しいかと 貴女は自在に声色を変えられるのですから

普段はオンナノコの御声のほうがいいですよ」

とケルアは進言する。

「うんっ フーはそうするッ そのほうがいいもんね」

とにっこりと微笑む様子からはこの少女が男であることを

微塵も感じさせなかった。


「ところでこれの始末はどうしましょう? 」

と斃れたフラウを一瞥する

「放っておけ 魂が抜けた今と成っては只の骸だし

オレが入って居た御蔭でっていたようなもんだ

直に溶けるさ」

と今度は少女声で言うが口調は男そのものだった。


 と目を向けると急速に腐敗が進み悪臭を放ちながら肉が崩れ骨となり

全て肉が落ちたころ更に骨がサラサラと細かくひとりでに砕け後には着ていた

ローブしか残らなかった。


「御蔭でたんまり本物のオンナノコってヤツを満喫させて貰ったぜ 今まで、あんがとよ」

とフラメリアなりの礼を言うと

そのローブもボロボロと形を喪い最後は文字通り塵一つさえ残らなかった


 ラトアの辞意をランドルフの部下に伝えた後

ラトアは一人の教え子の少年を見つけ声を掛けた

「あら、貴男? あの時の子じゃない? 」

「はいっ ラトアせんせっ ボク、あれから呪術組合ギルドに入ったんですよ

あとは、頑張って騎士団の後衛部隊に入りたいです」

と生き生きした目で熱く語る。

(そう言えばこの少年は教えた中でも最も飲み込みが早いヤツだっけか

さぞかしいい贄になるし

こういうガキの心の臓はベルビュール様の良い手土産になるな

それにこのオスガキはオレ好みだし 潰すなら今が好機かな)

とニヤリ顔。


「ねぇ 先生ねぇ 貴男のそのお話もっと聞きたいの 宜しいかしら?」

とラトアは”普段通り”声をかける。

「えぇっ センセが ボッボクの話を ...本当に? 」

と下心見え見えで盛った犬のように食いついてきた。

(ちっ オレが”男”とも知らんで間抜けなこった)


「うんそうね センセの自宅でどうかしら? 可愛い”フラメリア”もいるけど

彼女も歓迎すると思うわ」

と誘うとあっさりつい来てきた。


「こんにちはぁ わたしフラメリアっていうの フーちゃんていうの♡ 」

と隻眼の少女、右目には赤薔薇の眼帯がしてある

髪はふわふわで銀の光沢の灰青色していて黒の下地に可愛い薔薇柄のパフスリーブワンピース

水色のレースのエプロンをしていて大きなフリル付きのソックスに水色のパンプス

綺麗に足を交差させエプロンをつまむがサッとラトアの影に隠れてしまう


「ごめんね この人見知りで さぁ フーちゃんはあっちで遊んでらっしゃいな」

「は〜ぃ ケルア一緒に行こ」

と”妹”の少女はケット族の少女と二階へ消える


「へぇ ラトアのヤツ早速、オスガキ連れ込んだか なぁケルアアイツどう思う? 」

「そうですねぇ ラトア様が潰す相手としては申し分ないかと

あのような手合いは生来我らに仇なす存在になるやも知れません よってラトア様の御目は

正しいかと」

「ほう オメェ程の使い手が言うんなら アイツ(ラトア)の好きにさせてやるさ

フーちゃんはここから成行きを見るとするか」

「それが良いでしょう 何か有ったら お嬢様とこのケルアで」

「準備はしとけよ 才あるオスだどんな隠し玉持っているか解らねぇしな

隠し玉だったらこのおれも二個持ってるけどな ハハハハ」

「ふふ お嬢様の隠し玉は立派ですもんね」

「いやーっ フーにそれ言わないで いやだーっ」

等と二階ではこんな会話がなされ階下の様子を伺う”三つ”の目があった。


「ねぇ フラメリアって可愛いでしょ? あのいにしえの呪いで

片目があんな風なのよ、不憫だわぁ」

「でも妹さん 気の毒ですね どんな呪いかはボクは未熟で判断出来ないですが」

「いえ 気にしなくていいのよ 貴男って優しいのね おねーさん貴男ののような子

嫌いではなくてよ」

ラトアはもじもじさせている少年に甘い酒と香水の混じった吐息を吐き

”同性”なら分かる場所へ赤の化粧爪をした手を添える

さっと少年は身を退

(初なガキだぜ”男”の色香に莫迦正直に反応しちゃって 可愛いこと)

ラトアお得意の同情を誘う言葉で相手を安心させた

「 ...それでセンセは妹さんの”呪い”を解くために魔術講師になったんですね」

とやっと取り繕ったように言うのもまだ場慣れしていないのが態度から見て取れる。

(どれ オレもうずうずしてたし さっさと始末するか)


「察しがいい子は好きよ あのの”呪い”を解くためにね貴男の心の臓 

この”オレ様”に頂戴ーーッッ♡ 」

と唇をいきなり奪い左の背中にドスリと手刀をツッコミ抗ういとまなく血管がついたまま

心の臓を無理やり引き摺り出され 

いきなりの鋭い痛みと甘い接吻と、立て続けの強い刺激、何がなんだか判らない 

少年はどうと床に仰向けに

ラトアのタイトスカートの中が見えそこで初めてラトアが男性だと知る。


「せんせ おっ ...とこ」

「あーーぁ スカートの中見えちゃった? 

そうよラトアは男よオ・ト・コ あんたとおんなじオ・ト・コ

どう綺麗でしょ ちなみにって アニキ もうそこにいたか」

ラトアが彼に手刀を喰わらした同刻

フラメリアとケルアはふわりと二階の階段から飛び降りる

二人共衣服は一切乱れなかった。


「そう オレもあんたとおんなじオ・ト・コだぜ どう? 可愛いでしょ でしょ?

フーちゃんね お小水したくなっちゃたの ここでしていいでしょ 

このオスガキにションベンぶちまけても ...ねぇねぇ? 」

と妹だと紹介された”少女”がパフスリーブワンピースのスカートを捲ると

少年は、朦朧とした意識の中で見慣れたモノをそこに見ることが出来た。


「ホント ”アニキ”って男嫌いだよな 自分も男のくせに これからオタノシミって時に

相手が”男”だと直ぐションベン引っ掛けたがりやがって得物を台無しにしちまってよ」

とラトアは野太い男声で言う

「イヤーっ フーはオンナノコなのっ ねぇそうでしょ? ケルアぁ 

オトコだなんて言わないで うわぁぁん」

とフラメリアは激しく泣き出す。

「えぇそうですとも フラメリア様は立派なしるしを持った”オンナノコ”ですよ

泣かないでくださいまし このオスガキにはどうやらまだ理解出来ていないようでわね

我らの倫理観や常識というものが」

とケット族の柔和な顔付きの少女がフラメリアを更に尻馬に乗せ煽る。

「そーよそーよ フッ フーちゃんを莫迦にしたわね どういじめてほしいのかな〜

このクソたれ オスガキーーィッ」

と底冷えのする男声で恫喝。

隻眼の”少女”はニヤリと嗤うと

「オレを”男”だと看破したぁ ぜーったいに赦さないんだからっ! ぜってーによ」

と理不尽な理由を付けフラメリアは

まだ血管がついて躰と繋がったまま動いている心の臓をラトアから取り上げ毟り取った


がはぁ ...と激しく血反吐を吐く少年。


 彼が最期にみたのはラトアとフラメリアが”立ったまま”小水”を自分の顔にかける

二人の異性装の男性の姿であった。


「ほぅ まだ動いてら 活きのいい心の臓だぜ どれここはこのオレ:ラトア様に任せときな」

と怪しげな香炉に入れると紅いザクロ大の結晶に変わる


「ふふこれで手土産が出来た ケルアあと喰っていいぞ好きにしな」

とフラメリア。


「御意に」

とケット族から猫型の獣人ワーキャットへ変化して綺麗に一片の骨も残さず平らげて

綺麗に床を舐めて綺麗にした後。

「大変美味しゅうございました このケルア 恐悦至極で御座います」

と元の柔和なケット族の少女に戻る。


 こうして、遇々ラトアの講生になり遇々ラトアの辞意の帰りに出会った有望な少年は

前途を完全に絶たれたのである。


「あいつ、おせーな 明日はいよいよ選抜試験っだってのにー

おそらくヤツは首席で選抜されると思うがなぁ

おい だれか 探してこいや」

と彼が師事した呪術組合ではこんな会話がなされていたが

当然ながら当日になっても彼は現れることはなかった

今まで、一度たりとも約束事を違えたこと無い 今時実直な少年 ...が ...である。


「ラトアってひどいよねーっ ”女”魔術講師として有望株を次から次へと潰していくんですもの」

フラメリアは休むのも忘れラトアをと歓談する。

「だってぇー 大好きなフーおにぃちゃんの為なんだもん ねぇ ここに接吻のご褒美頂戴♡ 」

とラトアは下半身を指し示すが

「やーよ フーはオトコノコだもん でも今回の働きは大変よくできましたっ! 」

とラトアの頬に軽く接吻をすると

「きゃーうれしー♡ ルベルトでも講師として有望株沢山潰しちゃうんだから もぉっと褒めて褒めて」

とまるで子供のようにはしゃぐ。


 ラトアは普段は凛とした女講師のような言葉使いと態度だが

こうして三人のときはまるで”少女”のようにはしゃぐ豹変っぷりを見せた。

「フフ 頑張ってネ♡ ラトアせんせ♡ 」

とフラメリアもラトアの頭をケルアに抱きかかえられ撫でる

この日ラトアは終始ご機嫌だった。

 

 こうして三人は、

ベルゼからルベリト岩礁帯に向け黒馬車を黒い大鴉に姿を変じさせ遥か眼下に

飛んでいった。


 シーアがァタウェーの足元に近づく度、大陸のあちらこちらで事が否応なしに動く

これもシーアに課せられた宿命だろうか?


 シーア達と大規模討伐隊レイド一行パーティー

聖骸区 聖骸遺構:エトル正面まで来ていた


 目指すは、まず内縁層上層とユクントスの背骨の世界

聖廊層である。


「おしっ まずは此処を攻略すんぞ」

とケインズ

「「 応っ 」」


 と一同。

わたしは、大きな魔獣のような湿ったかび臭い迷宮の入り口に足を踏み入れる

ここより先は未知の彼方であった。



ラトアとフラメリア 共に男性

挿絵(By みてみん)


次回 72話 螺旋の邂逅 ー最後に見えしものはー

お楽しみに


大変お待たせしまして申し訳ありません

ラスボス対決まで三部構成としたかったのですが

六部構成ぐらいになりそうです



ラスボス対決までもう少しお待ちくださいませ

人物プロフィールは後ほど活動報告に掲載致します




ニュアンスや言い換え等の変更は有るかも知れませんが

ストーリー変更は有りません


2018_12_23 本日 フラメリアとラトアのプロフィールを掲載致しました

二人の魔導調香師のプロフィールにつきましてはまたストーリーが進みましたら掲載致します。

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