68話 王櫃の間 と 独りぼっちの為政者
本エピソードには残酷な表現が有ります
彼女、ルルスには幼いことから他人にはおいそれとは言えない
秘密があった。
彼女は神族の言語である”神域言語”と”神域文字”が難無く読み書き、喋ることが出来た
何故、エル族同士の婚姻で生れた子がこのような”天恵”を賜ったのかは
誰も知らない
統制庁で書庫整理中にその、”神域文字”で書かれた装丁を含めた
全てが聖皮紙製の大判の書物を見つけたのである。
尤も、最初に見つけのは若い神官の少年で表紙を見た途端
文字にあてられて三昼夜は意識混濁していたが。
すぐさまルルスが呼ばれ、本を聖皮紙に包み、今こうして
執務室で検めていた。
ゲルトス一行 蒼翼騎士団がベルゼ浮遊大陸へ赴く数昼夜前のことである。
このベルゼ浮遊大陸は正式名称ではなく正式には ベルゼ浮遊島群 という
権威主義の重鎮が ○○島群だと無頼漢共に野放図に蹂躙される可能性を憂い、
ベルゼ浮遊大陸と名付けることで、大陸と認知させ簡単には蹂躙出来ない事を
暗に匂わせることにしたのである。
策は旨くいき、自然な形で妖術使いの竜の瞳の面子 ランドルフを
実質的な統治者に据えることが叶う
その竜の瞳の面子 ランドルフがいるベルゼで大変な手がかりをようやく掴んだのである
今代ではではすっかり闇の手勢や闇世界の仕掛け人で
異性装者が最も多く、性癖も行動も奇異で奇癖が多い連中。
吸血と食肉のヒト型魔族:ヴァン族
忌々しくてタフタルから、厄介払いをしたいが
世界の均衡の理がそれを絶対許さない
そんな魔族が一翼の祖 レーリアを半死半生まで追い詰めた得物
”十字聖剣”の所在の糸口が記されそれが彼の地の ”メギスト遺跡” に有ると言うのである。
(まぁ、これホントかどうかは疑わしいわね 一説にはかすり疵だけとも言われているし
でも とうとう手掛かりが掴めたわ これは、他の手勢には出し抜かれたくたいわね)
とルルスは聖主らしからぬ仄暗い欲望を灯らせていた。
「ゲルトス 直ちに 慰安も兼ねてベルゼに赴きなさい
そこには ”銀の風” もいるというわ まぁこちらの動向はついででいいわ
優先順位は 先ずメギスト遺跡に向い ”十字聖剣” の痕跡を掴みなさい
いい? 結果無しは許しません これは ”託宣” なの
聡明な貴男ならこれがどんな意味を持っているかは蒼翼騎士団の総体の長なら
知っているはずよ」
厳つい壮年の騎士 ゲルトスは大汗をかき重い甲冑の膝を床につける。
このゲルトスは不敬で甲冑のまま膝を折れたのでない
何時いかなる時も自身にタイラント・トータス製の甲冑を着込み
その重さを我が身に課し、指命の重さを忘れぬ様にするためであった。
「は、 聖主:ルルス 直ちに ”先鋭” の者を集め彼の地へ 」
余計な、説明も言い訳じみた弁解も必要ない
たったこれだけの返事で彼は行動に移し
甲冑の重さなどまるで、最初から無いように軽々と姿勢を正し踵を返す。
「ちょっと待って、 彼の地へ趣く時は貴男以外は全て、新人にしなさい
新人にも、世界の動く様を見せてやりたいの」
ルルスは御忍びのリブスから、封印地域”ギアトレス”の封印が解かれたとの
報告を受けて先鋭ではなく敢えて、若い新人達をゲルトスに引率してもらうことを
決めていたのである。
「はっ、 どんなご御命でも 我が身は、御身ルルスと女神リーンの御意のままに」
「それで善いわ 私は公務が有る故 出立には立ち会えません
神官の子達に手伝って貰いなさい」
「御意!! 」
とゲルトスは床に汗のシミ一つ作ること無く辞した
甲冑の外からでも緊張による汗の匂いがしていたというのに ......である。
彼女:ルルスの託宣とは神族や極一部の人外の者にしか読みも書きも理解も出来ない
”神域文字” で書かれた書物を読み解き彼女の信条に基づき
人の支配域である大陸の”極”一部の隅々まで行き渡らせなければならない
その信条そのものであった。
各大陸の統治者は ”全土” を支配域にしているのではない
大陸の九割五分五厘は、魔物・獣・植物・人外達の支配域であった。
まだまだ今代になってすら全土を支配域にするにはヒトはあまりに
脆弱な存在であり、冒険業が今代でも成り立っているのも
未開の地や遺構などが点在し、多くの踏破者を待ち受け続けるだけの
器が有ったのである。
普段は柔和で リーンの再来と言われ多くの人の信仰を一身に受け
祈りをささげるそんな姿ではない
厳しく自分を律する、為政者としての姿がそこにはあった。
それに、やけに胸がざわつく 神族を身近に感じる感性を持っている彼女が
今、この場でも感じる、この凄まじく清廉で明るき陽の光りが如く ”気配” を
遠くに身近に感じながら ルルスはまた書庫から見つかった書物の頁を繰った。
「なにが起ころうとしているの 一度”リリス”とも会合を持たなくちゃいけないわね」
ルルスは腹違いの”妹”のリリスのいる 聖都:リームレスと対なす
基底都市である 冥都 カスパレッサが有る 遥か足元を見ていた
因みにリームレスは旧き神々がエンシェント・サーペントを討ち滅ぼした楔群の名が
由来と言われている。
今代でも健在な聖都リームレスの尖塔群は
”超巨大なエンシェント・サーペントを旧き神々が討ち滅ぼした楔群である”
との伝説がまことしやかにタフタルの人々に伝わっていた。
お堅い、騎士団長が部屋を辞し男臭い汗の匂いが
彼女の中の”女”をくすぐる
「ふぅ、恋だけはままならないわ 一度ルベリト大岩礁帯へ ”表敬訪問” しようかなぁ
でも、恋人の群れでヤキモチ妬いちゃいそう なにやら”ディーボ”の影もちらつくしなぁ
でもあれもこれもと案件もあるし
黴臭いお爺ちゃんや辛気臭いお婆ちゃん達を説得するの めんどいなぁ」
目下の案件のギメスト遺跡、遺産の少女を
神と崇め、孤児院から少女を調達し、”むりやり” 遺産の少女紛いに仕立て上げる
非道な邪教集団 ”ユグドラシル援助会” に施策も割かねばならない
それに、ベルゼ浮遊大陸がタフタル大陸から分離した後の大盆地 ”アギオス大盆地” に巣食う
老竜” ネーヴェンタール”等
それと、このタフタルで暗躍する異性装の ”男性” の影
(ルルスの個人的な見解から言えば異性装は本来の性別を謀る行為で有ると捉えていて
あまり好意的には受け入れてはいない。
異性装行為自体は教義に反する行いではないものの個人的には
受け容れ難いものとしての認識である)
これらの案件は彼女を中々手放してはくれず
恋の戯れにも興じれない。
疼く女の顔をまた聖主:ルルスの顔に押し込めて
彼女が政務を行っている此処、ピレリス大聖堂の眼下に垣間見える
パリモア枢機卿院やロレンツ古聖堂院を目を細め、甘い吐息共に愚痴を溢していた。
ウロレシアは、銀の三日月の拠点を後にしギンメル大渓谷の奥へと御者無き馬車
の暗黒馬の鼻先を向け
大陸の殆どを占める人跡未踏の地:イデア大森林帯へと重々しくも軽い蹄の音を響かせる。
「レシア様? 私、お食事を作るのは苦手ですよ それでもあのイデア大森林帯へと
向かわれますか? 」
と先の行く先を不安気に見ながらソアラはウロレシアに訊ねていた。
「そうね、 先ずは仮の ”屋敷” を見つけないとね お尻が痛くなってきたわ
ディアボロスったら乗り心地が悪いんですもの」
{我が盟主:レシア様 ソアラ殿が居ずまいを整えてくれて
我も移動には気を遣っておるつもりなのだかな これでも御不満か? }
と馬車全体からやや不貞腐れた声。
「ふふ 貴男も言うようになったわね 私が、老賢者の爺ぃの時は怖かったのかしら? 」
{め 滅相もありませぬ だ 断じてソンナ事は ...... コホン もう少しで
渓谷を抜けますぞ}
やや詰まりながらディアボロスは慌ててウロレシアの言葉の矛先を逸らした。
この渓谷は”普通の”冒険者が通り抜けるにはちょっと荷が重く
かなりの経験を積まないと素直に通り抜けることすら出来ない そんな場所を
遠足気分で彼らは通り抜けていた。
銀の三日月の三日月の本拠地 ”古代遺構:ルベリス迷宮遺跡” は
ギンメル大渓谷の入り口付近にあり滅多に冒険業や行商人等が近づかない場所にあった
「それと、私の質問に答えておりませんよ
お食事はどうされますか? 」
とソアラはいつも外れ気味なウロレシアお得意の会話を修正する。
「ごめんね ソアラ 私はいつもそうなの
ついいろんな事を考えちゃうのね 杜は果物の宝庫よ レシア達にふさわしいのが
沢山生っているから 当面はそれで凌ぐわ」
「むぅ それはそれでいいですけど 会合の件も有るんですよ 私」
とソアラは不満を口にする。
ソアラが裁縫職人ギルドの会合 ”紡錘と糸車と絹の靴” は
頻繁に会合があり筆頭に名を連ねている彼女は意匠職人として
男女の服の ”流行り” を提案する役目もあり前回と前々回は
私用ですっぽかしてしまい、今度出席出来なければ
階位を一段階下げるという警告の書簡を受け取っていて
今度こそは、是が非でも会合に出席し顔を見せなければならないところまで
追い詰めれていたのである。
「まぁ 居ても三昼夜くらいよ ”珍しい” お客様が来るかもしれないからね ふふ」
と目を細め何やら思案していた。
彼女:ウロレシアもまた ”旧き贄の蛇” の気配を感じていたのである
どうやら相当ご立腹らしく、このバルケモスの地まで当事者しか判らない気配が
伝わってきていて それが身近に感じられていた
あのトリンデでの酒場以降、両者はぼんやりとであるが互いに気配を辿れる様になっていたのである
「あぁん あのメスヘビときたら ウロレシアが”オンナノコ”になったのに嫉妬したのかしら
あぁーあ 嫌だこと 女の嫉妬って このレシアもこの嫉妬って感情その内、覚えちゃうのかしらね」
と他人事の様に漏らしていた
「そうですよ いずれ、レシア様も その女の嫉妬を身につけられますわ
女の嫉妬って、女を醜く見せときには美しくも見せ、またときには強くもする
どんな魔術も呪いでも実現不可能な妙薬ですのよ
現に私だってレシア様の美しさに 少し ”嫉妬” いますもの」
とソアラは自分の胸に手を添えた。
(男性って本当に”理想”のオンナノコになるのが上手ね
異性装の男性もみな可愛いしね 生来の ”女” には絶対真似できないわ)
と異性装の男性の可愛さを求める心意気に
関心すると同時に嫉妬もしていた。
それでも生来の ”女” はそういった二律背反こそまた強みでもあるということも
彼女:ソアラはきちんと理解していた。
「行けない娘ね 貴女って」
とシュルリと髪をソアラの首に軽く巻きつけた。
「嫉妬は、女を強くも致しますのよ」
と巻き付いたウロレシアの髪を喉の間に指を差し入れ ”難無く” 絡め取って解いた
「ふふ 冗談よ 貴女はこのウロレシアが絶対手放さない そういったはずよ」
とウロレシアも素直に髪を引っ込め
居ずまいを正した
只人ならウロレシアの髪に軽く巻き付かれただけで首と胴体はそれぞれ明後日の方に
転がっていたというのに。
ウロボロスもウロレシアという ”少女” をすっかり満喫していて
丁寧に両足を揃えふんわりと覆いかぶさるスカートから足首を覗かせている
目下の心配事は ”シーア” が気に入ってくれるかどうかだけで
彼女の頭は一杯であった。
やがて、バルケモスの大半以上を占める人跡未踏の杜:イデア大森林帯の突端に
到着して
「ディアちゃん ここでいいわ 停めて頂戴」
とウロレシアの一声
直ぐ様
{相分かった 我が盟主 ごゆるりとお寛ぎくださいませ}
と ゆっくり減速、静かに停車
軽口は叩いていても、主人に対する心遣いが見て取れる所作であった。
このイデア大森林帯はある強大な能力をもつ人外の少女の眷属とも
言われているが今はこの少女の姿はなく杜はひっそりと鎮まりかえり
時折鳴き叫ぶ魔物や獣や鳥の声が杜の静けさに彩を添え
棲んでいる魔物や獣の豊富さを伺わせていた。
「さぁ ソアラいらっしゃいな この狭い馬車から降りるわ
美味しい果物を教えてあげるからこれをパンに挿みなさいな」
とそこかしこに実っている果物をウロレシアは髪を使ってもいでいく
それをソアラは、螳螂蜂の刃で器用に皮を剥き薄く切り
銀の三日月で帰り掛けに貰った乾燥肉をお湯でふやかした物と挿み
遅めの昼食を摂った。
ガサリガサリ
何やら剣呑な音と共に近くの叢から不穏な音が聞こえ
時折、獣の唸り声と共に強い魔獣臭が漂う。
「今の歓談に 相応しくはないわね あぁ嫌だこと」
と表情を何一つ変えないウロレシアとは対極に
顔面は蒼白で尻尾や大きな耳の毛が逆立ち
震えている恐慌に陥ったソアラがそこにはいた。
ソアラはこの臭いに覚えがあった
彼女を半死半生まで追い詰め今は、疵一つない躰に大きな切り疵を刻み
心的外傷を植え付けた魔獣:牙熊であった。
この牙熊は
大きな二本の牙が有る大熊型魔獣で毛色は赤毛で脚が徐々に黒になっている
知能は低いが縄張り意識が強く
はぐれの銀狼魔犬 (ガート)と縄張り争いをよくしている
冒険者の難敵の一つの魔獣である。
彼らは相手の力量等を計る事がなく 全て見た目で判断して襲ってくる
特に少年少女たちや女性やひ弱な男性等がその
手足に備えた、透き通った黒く硬い大きな鋭い爪の餌食になっていた
牙と爪は良い素材になるが、肉は不味いという
冒険者間ではよく”赤熊”と言われていた
彼女等を能力無い少女と侮ったのか ”赤熊” が涎を下品に垂らし
目の前の少女二人にその眼を光らせていた。
「ディア 分かって居るわよね貴男? 」
{御意!! さぁソアラ殿我の中にお入り下さいませ
後は盟主殿におまかせを}
「ごめんなさいっ ディアちゃん 私、動けないのそれに少し
お漏らししちゃった」
と泣きべそをかくソアラ。
{お気になさらぬ様、 今介添致します 御召替えは我の中にて}
と四頭の暗黒馬の一体が紳士風の男性の姿に変じ、
ソアラを介添し馬車の中へ
すると三頭の暗黒馬は彼? が中に入った途端四頭に戻った。
固く扉は閉ざされ
{我が盟主、 ソアラ殿と”裁縫道具”の安全は確保致しました
それとソアラ殿から言伝で御座います
”赤熊”の爪と牙は残しておいて下さい との事です}
「貴男にしては上出来過ぎる程の手際の良さ、流石 ”管理されたディーボ” だこと
後は 任せなさいな」
と色違いの髪をシュルリと伸ばすのを
敵対の合図を受け取ったのか、襲って来たのとはほぼ同時であった
ウロレシアは少女声に剣呑な空気を纏わせ
「失せろ!! ケダモノの分際で”余”のソアラを恐慌させ、この場を乱した
貴様の所業 自らの死で償え このレシアとソアラの視界から消えろ
貴様には 去ねという言葉は意味は成さぬぞ」
とぶん回す前足を難無く避け 赤熊の全身に巻き付いていく
爪で斬ろうとも女の髪である
女の情念そのもののような髪を一本足りとも切る事は叶わず
一方的な惨劇が広がった。
バキバキ と骨が折れる音
ビチビチ と血管が爆ぜる音
グシャリ と潰れる音
{グギャァァァーァ}
と獣の雄叫びを無視して更に締め付ける。
圧力に負けた内臓器官が口、尻それと腹腔の皮膚の薄くなった場所から
血飛沫と共にひり出されて来ていた
そして最後のおまけとばかりに ウロレシアは
顎から強引に蠢く髪で引き裂いた。
サキュホーンより大型の魔獣は見るに耐えない骸を
彼女等が歓談していた場所から10歩ぐらいの
先に晒す。
そこに待ち構えていたように
銀の毛並みに淡い金の縞が入る狼型の魔獣数頭の銀狼魔犬が
おこぼれに預かろうと取り巻き始めた。
そして、今の一方的な惨劇を知ってか知らずかあわよくば
少女達も獲物にせんと時折、鋭い視線を飛ばしてきていた
しかし”群”で行動する銀狼魔犬にはつきものの”首魁”が
見当たらない
おそらく、これらははぐれ者集団であろう
普段は群れで ”首魁” と共に行動する狼型の魔獣が
武勲を上げ群れに戻ろうと躍起で格上だろうがなんだろうが
襲いかかってくるやけに好戦的な個体数体が
赤熊の残骸を引きずり始めていた。
「まだ用事済んでないわ」
とそんな危険な彼らを髪で ”追い払い”
20の黒い爪と同じく大きな二本の黒い牙を無事に回収
「あとは 好きにしなさい このレシアに歯向かえばどうなるかは
知能の高いアナタ達なら分かるでしょ? 」
と髪を彼らの前で揺らめかせ牽制する 銀狼魔犬は
股に尻尾を挟み恐る恐る叢の奥へ思わぬ獲物を引き込み
”ご馳走” に有り付いていた。
魔物もまた、自身の存亡を賭け 潮の満ち引きの如く
時に、格上に立ち向かい時に退く
ヒトのような享楽の為だけの行動は一切ないのである
あの”豚犬”でさえも。
レシアは全てきれいに脚を横に揃えて ”座ったまま”
髪を一振り赤熊の血脂をきれいに落して髪を引っ込めた。
そして
「あぁ また髪が痛んじゃうわ ソアラにまた叱られるわぁ
それに臭い匂いまで付いちゃった」
とまるで ”少女” のようにぼやいていた。
一部始終を馬車の中から見ていたソアラは
恐慌はどこへやら
「レシア様ったら また女にお近づきになられて 可愛いわぁ」
とニコニコ顔である。
{ソアラ殿、平気ですかな? }
「うん ごめんね 赤熊はちょっとね
今の見て気が晴れたわ いつまでも怯えては居られないもんね
もう子供の時は終わったんだもの」
と何やら寂しそうな遠い目をする。
彼女もミーア同様孤児院育ちで普通のケット族とは異なる耳や尻尾をからかわれ
好事蒐集家の好奇の目に狙われていた幼い少女の時期がある。
そして好きだった裁縫の途へ進み
ようやく裁縫で食べていけるようになり少女から女へと差し掛かり
精神も強くなった。
怯えばかりいた幼い少女の頃とは違う そんな彼女なりの覚悟が現れた目でもあった。
「レシア様、ありがとうございました 先程は取り乱してごめんなさい」
と ”座った” 姿勢を赤熊が現れてからも変えていないウロレシアに礼を言う
「あら レシアは気にしてないわ だって貴女はメイドである以上に貴女の”家族”よ」
「うわぁぁぁん 怖かったです」
と気が緩み、ソアラはレシアに抱きついた
「ほら 泣かないの 貴女は絶対に手放さない そう何度も言っているじゃない」
ウロレシアはお父様と呼ばれそれなりに慕ってくれていた
サラ・ソラの事が脳裏に浮かんでいた
彼女等は
ハデスの娘のメイドとなり、今までの過酷な生き方とは完全に縁が切れたと
伝え聞いている。
そんな過酷な生き方はソアラにだけは、させまいと彼女なりに決意を固めていたのである。
「はいこれ”お土産”よ」
と渡されたのはあの牙熊の牙二本、爪20である
どれひとつ疵一つない最高品質の状態であった。
ソアラは目を輝かせる
これは、ギルドでも結構良い値で取引され裁縫道具の素材にも重宝するのである
ソアラは元よりこれらを売るつもりなど無く
これで携帯の裁縫魔器を注えようと算段していたのある。
「此処は 臭くて叶わないわ 仮のお屋敷まで後少しよ って思ったけど
やはり来たわね ”旧き贄の蛇!!” 」
とウロレシアに似た気配共に妖精というには大振りな少女が浮かんでいた。
「やはりお主じゃったか ウロボロスよ しかし、にわかには信じられん
あの クソジジィの格好はどうした?
あれほど、ジジィにこだわっていたのにどういう心境じゃ
まるで状況が掴めん それはさておいてじゃな
証しを見せろ!! そこのウロボロスの気配を漂わせる”少女”よ」
と
ゆるいロングウェーブで白に近い淡い紫、毛先の方になるに従い濃くなっている
グラデーションカラーやや怜悧な印象を受ける目、淡い金色の瞳、
可愛い小鼻・唇はピンク、肌は白いのがよく似合う
黒いフリルやレースたっぷりのワンピースそして、頭には小さいミニハットを被って黒い日傘まで持った
手首から肘ぐらいの背の高さがある一人の少女がウロレシアと対峙していた。
「ふん いきなり現れたかと思ったら不躾に ”証しを見せろ” ですって
茶化すのもたいがいにしてよ
それよりトリンデで見たチンマイのがやはり お前だったか メスヘビめ
バルケモス下まで、良く躰が失くならないで来たこと
それには大いに賛辞を送ってあげるわ」
ウロレシアはしたり顔で、からかうような目付きでクローティアを見据えているが
不思議なことに剣呑な雰囲気は無い。
互いに ”本物” だと、とうに看破してからである。
彼女:クローティアはシーアの髪にただ好きで引っ付いていたのではない
それもあるが、クローティアにはもっと身に迫る事情があった。
コアの大半を失い世界を彷徨い魔導書に身を顰めたはまでは良かったが
ある程度マギの回復をと思っている内に
そのまま魔導書に取り込まれ書と一体化してしまったのである。
巡り巡って後はお決まりの神代級遺物となりシーアがシアズだった頃の
両親の母方の先祖に封櫃毎遺跡探索の際、
拾われてそれを年老いて死ぬ前にレフィキアに託したのが
あの屋敷に魔導書:ネクロンがあった理由であった。
だが誰も開封出来ずシアズがシーアになるまでは叶わなかった
シーアに躰を与えて貰ったまでは良かったが
内在する能力や躰を維持するには膨大で良質なマギを必要としていた
折良くシーアというドラコ族とヴァン族の複合人造種族という申し分ないマギの供給先を見つけ
クローティアは人外を牽きつけてやまないシーア(シアズ)の魂も相まって
能力を提供する代わりとして彼女の髪に引っ付き
大気のマギを吸収した直後の美味しいマギとシーアの体内で変換された
極上のマギ両方を享受していたのである。
それが無い以上 今のクローティアはマギを大気から僅かしか
吸収できない
クローティアの能力はシーアのマギ有ってこそ成り立能力であった。
「五月蝿いわい 今の儂にはもう、お主をどうのこうのする能力を行使出来ないことは
分かるであろ 話をそらさんと さっさと”証し”を見せい」
「ふん しょうがないわね これなら信じるかしらね」
とウロレシアは胸をはだけてブラに包まれた外観相応の双丘の谷間にある
自らの尾を噛んている蛇 円環の蛇の紋章をみせた
更に、何か文言を唱えると淡く輝き
体内異空間 ”黄昏世界(トワイライト” を開いて
「これで、どうかしら 御不満で有れば”中”に入ってご覧なさいな」
と中に入るように指で指し示し促した。
そこには夜空の満天の星々の様な点が円環の蛇の紋章同様、
自らの尾を噛んている蛇を姿どってゆっくり左回りに回転しているのが見て取れた
「もうええ はよ閉じんか ばか者め そのコア一つ一つがディーボのコアであろう
まだ今代でも世界を支配と思うてディーボ共をそこから放って居るんじゃろ?
せっかく均衡が取れている世界に波風を立てよってからに 糞オスヘビが! 」
と罵詈雑言を撒き散らした。
「まぁ、随分と狭量な知見だこと 躰だけでなく度量も小さくなったのかしら? 」
「なんじゃと 言わせておけば」
流石に、これにはクローティアも黙っていない
辺りの樹々の小枝が爆ぜる音がする。
......。
「やめた 疲れたわい こんな事を言いにわざわざここまで転移するはずがなかろ
ただ今代でのディーボ騒動はお主が一口噛んでいると思っただけじゃ
決して ”度量” までチンマクなったのではないぞ」
と小さな胸を張り小さな日傘をビシリと突きつけた。
「レシアも世界をどうのこうのする気なんてもう無いわ
レシアは”オンナノコ”好きの銀の娘と添い遂げたいと願っているだけよ ディーボのコアも
きちんと管理しているしね」
「ふん どうだか? 怪しいものじゃ シーアがオンナノコ好きということだって
どこぞで聞きかじったか、傀儡に仕立て上げたしたヤツにでも探らせたんじゃろ」
とクローティアは取り付く島もない。
「今の貴女には今代のディーボ騒ぎはこの ”ウロレシア” の仕業でなくて
野良のディーボを焚き付けている
誰かの仕業と言っても取り合ってくれないでしょうね」
「あぁ 当然取り合わんじゃとも 確たる証しを得られるまではな
”シーア” を今のお主には絶対引合せんからな 全くシーア好みの姿に成りおって
羨ましい ...... もとい小狡い奴」
「ふふ安心しなさいな シーアがこのレシアに相応しいかは
彼女がこのバルケモスの地を踏めるくらいになるまで、保留としといてあげる」
「ほざけ オスヘビめ 糞ジジィの姿からそんな少女の姿になってまでも添い遂げたいか」
「ぇぇ でもこれ以上 レシアの想いを愚弄するなら ......」
とシュルリと色違いの髪をクローティアの首にやや強く巻き付ける
「ググッゥ」
とやや苦悶の声を上げるも、小さい指で”軽く”髪を引き剥がした
「流石は全盛とはいかなくてもそれなりね 今は先刻と違って
結構能力を込めたのだけれど」
「儂をあんな、莫迦熊如きと一緒にするな」
クローティアは赤熊とのやり取りを影から全て見た上で
こんな事を言う。
「最後にもう一度言うわ」
「何じゃ? 」
「レシアは今代はディーボを暴れさせては居ないわ
あそこのディーボだって”管理された”ディーボよ」
と佇む、ディアボロスを指し示す
......。
......。
ディアボロスは無言
とても二人の”真なる旧き蛇”の会話に割って入るほど無謀ではない
それはソアラも同様であった。
「それは儂が判断する事じゃ」
「それともう一つ 今の私は ”オスヘビ”ではないわ ”ウロレシア”よ」
「儂からも言わせてもらう 今の儂は ”メスヘビ”などでない ”クローティア”じゃ」
「良く覚えておけ」
「良く覚えておいて」
と二人同時。
「それと女の躰ではシーアを”悦ばせる”ことは叶わんぞ それでもか? 」
とクローティアはニヤついてしたり顔を見せた
「いいわ レシアの躰の秘密見せてあげるわ ディアボロスに入って」
「いいだろう 見せてみよ」
と勢いで言ってしまい嫌な予感がしたがもう後に引けず馬車の中へ
......。
暫しの沈黙のあと出てきたクローティアは
「全くあきれたヤツ 女の躰になっても徴には未練があると見える」
「五月蝿いわね今の私は立派なオンナノコよ」
「あぁそうじゃろうとも アレは”見掛け”だけじゃしの これ以上は言わん好きにせい
今回は顔見せだけじゃ 久しい気配を感じたからの
ディーボの件ははっきりするまで、儂の敵対者には変わらん覚えておけ」
と立ち去りかけた時
「 ”クローティア” 貴女相当無理してバルケモス迄来たわね
今回は特別よ ”私” の思い人の近くまで送り返してあげるわ」
とウロレシアは髪で地面に陣を描き
「さぁここからいけるわ」
と淡い紫の陣が完成。
「すまぬな ”ウロレシア” 世話になる
それにだれが ”私” じゃ ”儂” の想い人じゃろが」
と振り向きもせず陣に飛び込み掻き消えた。
「あんなになるまで、無理しちゃって 莫迦なメスヘビ」
「レシア様? 」
ソアラはレシアが悪態をついたその顔を見たが彼女は
どこか寂しそうな顔を虚空に向けて居るだけであった。
「ソアラ やっぱお屋敷へは行かないわ あのメスヘビをそこで待つつもりだったんだけど
目的は達せられたし 又、あの熊のお仲間が来るとも限らないしね
でも、もう少し此処にいてもいいのよ」
「いえ 結構です まだ少し怖くて」
いくら恐怖を取り去ったとしても躰は正直である
ウロレシアから熊の名を聞いた途端、また両膝が笑ってしまう。
「そう 貴女がいうならここは御暇しましょ ”旧き遺構の少女達” のご機嫌を損ねると
レシアでも難儀な相手よ」
ソアラは新しい単語が気になってレシアを見つめる
「レシア様? 」
「ふふ 気になる? でもそれは後のお楽しみ
レシアの想い人が此処の杜に来ることが叶えば 何れは分かること
いま答えを性急に求めるのは感心しないわね」
「そうですか? 」
「そういうものよ でもあの娘達を手懐けられるかしらね ふふ」
それは誰に向けられた言葉ったのか ソアラはまだ見ぬ”想い人”の姿を
想像して頬が緩む。
「あの 暫定商都:ロウレンスに戻る前に果物取っていいですよね
たんまりもいで 乾燥果物にしたいの」
「えぇ いいわ たんまり取って来なさい」
とソアラはたんまり果物を採取する
「貴女、強欲ねぇ そんなに採らなくても」
「ふふ 強欲さも女をたくましくしますのよ、女にはね殿方が
いくら欲しても絶対手にすることのないモノを色々持っているんですよ
生まれながらにね」
とニヤリと艶然な微笑みを返す
この笑みにレシアは始めて”恐怖”を感じていた。
「そう言えば 今の季節の巡りは、
五大商家:ラクランス・シンギイ・ベックス・シラー・リュールの内
ラクランス家が持ち回りだったわ後でたんまり
乾燥果物を売りつけてやるわ」
とソアラは ”黒いトリニートレント製” の裁縫道具入れ兼旅用鞄の
ちょっとした広い空間に ”一杯” になるまで果物をつめこんだ。
この旅用鞄もロムルス同様人語は喋りはしないがちょっとした
外観より大きな収納空間がある
これは裁縫職人の会合で階昇格の際証しとして貰ったものであり
彼女の良き”相棒”でもある
ソアラは ”リーン商工硬貨” も扱えるので早くも彼女の
頭には自身の商業ギルドのカードの ”リーン商工硬貨” 用単位の桁が
増えるのを想像してニマニマしていた。
因みに一般通貨の単位はリーンで ”リーン商工硬貨”用単位は ”リーゼ” である
それと ”リーン商工硬貨” は商工ギルドカード持ちでないと扱えない専用大口通貨であり
ソアラ程の実績を積み重ねてようやく手に出来る物であり冒険者用とは違い遥かに
取得難度が高い物であった たとえ今、シーアが商工ギルドに発行を申請して
リブスやドリエルの力添えがあったとしても絶対通らないであろうそんな代物である。
転送中多数の文字列が飛び交う隧道の中で
クローティアは終始、ウロレシアの少女姿を羨ましがり
「あのクソジジィをあんなにまで変えるのかシーアよ
まったく自覚が無いほど怖いものはないな」
と独りごち
”透けかかってきていた” 我が身がまた徐々に元に戻るのを
安堵の溜息と元に見つめていた。
(まだ、消滅する訳には逝かぬな
儂にはまだやりたいことがある
見たい世界がある
見守りたいヤツ(シーア)がおる
今回は ”多少” 無理をしててでもアヤツに逅わねばならんかった
待っておれ ”ウロレシア” よ
其方のディーボに関する妄言なぞこの儂が覆してみせようぞ
でなければ この儂が救われないではないか)
幾星霜もウロボロスのとの対峙を糧に”目標”と自らを運命付け、存在理由を
確かな物にしてきたクローティア 否 旧き贄の蛇は
少女姿で可愛い唇を噛みしめた。
存外に頑固なのは旧き円環の蛇より
旧き贄の蛇の方であったのである。
いち早くヒト型を取ったのもウロボロスであった
支配域争いの時にジジィの姿で対峙して
結局最後迄、頑としてヒト型を取らなかった
クロゥ・クルを翻弄したのだから。
ベルゼの到着はあっという間だった
バルケモスへ向かう時は時々陣を抜けてマギの消耗をなるたけ抑えつつ
直下のタフタル大陸、それとルベルト大岩礁帯を経由してやっと
バルケモス大陸へ到達したというのにである。
翌朝一番に、宿を出て
陽の高い間はお食事処をやっている酒場にヤンスを呼び寄せる。
わたしは、ネグリールのギルドからメギスト遺跡へ討伐に向かう際に
ヤンスを後添に忍ばせていた
闇蚯蚓の件以来怪しい気配は感じられず一安心していたがメギストに向かう渡り橋
からまた気配を一つ感じていたのである
そこでヤンスには討伐の面子には敢えて加えず
後添としてわたし達が出ていってから尾けさせたのである。
そうしてゲルギルをレフィキア内のレヴィアに渡したあと
ヤンスを呼び寄せ ニケルが言っていた”荷物持ちの少女”の詳しい話を聞くこととなり
案の定やはりわたし達を探っていたその様子の顛末を聞くこととなった。
ミーアにニラウスから教わった携帯食の材料と調理法の書付けを渡す
「わぁ これ携帯食ね 私携帯食は作るの苦手で ありがと シーちゃん
所でヤンスはあの時後添だったのね どこに行ってたと思っちゃった」
「へへ あっしはあっしなりに動いていたんでさぁ
シーア様に何が起きても決して飛び出さぬようにともね
......で 付けてた”少女”ですがね
ありゃ荷物持ちの格好じゃありやせんぜ
黒のワンピースにパンプス大きなトンガリ帽子じゃ仕事になりやせん
よしんば、荷物持ちとしてですよ
あの小鞄は普通のヤツですぜ シーア様やミーア様のような
”仕掛け”が施されている感じでもねぇな 察するにあっしと同業とみやした」
「ヤンス 根拠は? 」
知見を述べた以上元となる根拠が有るはずである。
感覚でもいいが錬金術師ととしての知識が感覚を拒否していた
こと一行に関わる事態には出来るだけシセラのような確実さが
欲しかった。
「そうでやすね 先ずは歩き方が独特でやす常に爪先から地面につける
視線を素早く動かす等がありやすね
常に後ろを確認するような動きが散見されますね
アレは同業に寝首をかかれないかや手柄を横取りされないかなどですね
これらを自然にこなしておりやした
斥候役でも同じですが普段は普通でそんな疲れる事はしやせん」
「女の子? 」
ギルドでも”少女”と言っていたし今のヤンスの報告からも
ワンピースとかパンプスという単語が飛び出した
「へぇ あっしはしませんが異性装の男の可能性もありやすがどうでやすかね?
それがどうかしたんで? 」
「うん 異性装の子ならその動作に思い当たる子がいるのよ」
わたしがシセラと歩いていた時、異性装の少年が同じ格好をしてすれ違ったのを
覚えていた。
若い見習いの魔女と思われる二人の内一人が確かそうだった
やたらきょろきょろ視線を動かして最初は身なりを気にしているのかと思っていた。
同じ雑貨店に入った時もせわしなくもう一人の娘とじゃれついていたが
あれはそう見せる偽装をしていたのかも知れない。
わたしとしては、大事の前の小事 出来るだけ不安材料は取り除きたかった ......が
今はこちらからどうこうするつもりはない。
子蛇を突いて旧き大蛇が出張って来る事もあり得る 先ずそのことを皆に伝えると
「それが賢明な判断かも知れやせん向こうから仕掛けて来ない以上
突かない方がいいかもですね シーア様 どんな後ろ盾がいるやも杳として知れません
小さき貝は水塊の傀儡なり
というルベルト岩礁帯の諺もあるくらいでさぁ」
これは、海岸の小さな貝ですら海底深く潜む水塊等の
傀儡である可能性を示唆した諺であり、
どんな後ろ盾があるかはそれからは分からないから気を付けろと
戒めた含蓄ある言葉である。
皆一同、ヤンスの報告を聞くにとどまりわたし達を監視する者が存在する
その事実だけを今回の成果とした。
某大陸某場所で
甘い薔薇、爽やかな柑橘類の香水漂う中
「なぁ いよいよオレ達が出張ってもいいだろ なぁ おい」
「オレもだぜ こうなんだか 疼って来やがった」
「クソッタレ オレも早くギアトレスに乗り込みてぇな」
「テメェがか ”表”の仕事があんだろが ふざけるなよ」
「るーせぇよ お前こそ会合に、 あまりはツラ出さねぇ癖に
今回ようやく、ツラァだす気になったってよぉ どういう了見だぁ? 」
「んだとぉ こらぁ 表では ”お淑やか” にしてるんだ
いいじゃねぇか 此処で暴れてもよぉ なぁ」
「それより 突然 封印が解けてよ 吃驚こいたぜ
何でも ”オレ等より” かわいい少女だっていうじゃねぇか?
いっぺん ツラァ拝みてぇな」
むくつけき男性の声と下品な口調が紡ぎ出されていたのは
長いウェーブロングの銀光沢の美しい髪に散りばめられたリボン、中には
ライブ・アーティファクトのように髪全体が蠢いている者もいる
婚姻ドレスのような、フリルやレースで飾られたワンピースドレス
足には可愛いリボンパンプス、脚を包むリボン柄や薔薇柄のタイツ
何れも劣らぬ可愛い少女達の唇からであった。
それぞれ寝台に伏せ脚をバタバタさせている者
メイドに脚の手入れをさせているもの、髪を梳かせ姿見で
うっとりとする者、”お人形遊”びに興じる者など
見た目は、可愛くてお人形のような姿をした
見渡して目に付くだけでも八人の”見た目だけの少女達”が黒い羽の有る少女の元に
会合で集まっていた。
「なぁ ”セリシア” いつになったら ”オレ”等は動けるんだよぉ なぁ オイッ!! 」
中でも一際危険な”男”が手に絡めた髪を蠢かセリシアと呼ばれた人物に迫る。
セリシアと呼ばれた人物は
座ったまま執務机に脚をドカリと乗せ上げてクイクイとパンプスを先程
凄んだ見た目少女のような男に指し示す。
「うっせーぞ オメェだけじゃねぇ 俺様も暴れたくてウズウズしてんだ ......が
今はダメだ あくまで依頼が無きゃ動かねぇ 大義を得て堂々と動く
テメェまさかそれを忘れたわけでは有るまいよ
他もよく耳穴かっぽじって良く聞けよ
銀の風は場合によっては敵対するかも知れんしな
そんときはテメェらの番よ
今は、大人しく ”表” で ”少女” をしてろ そん姿でいるのも ”好きだから” だろ? 」
「それは 勿論そうだぜ この恰好で幾星霜も ”少女” してきたんだ
今更な事を抜かすんじゃねぇよ」
「だったら 尚更、今は温和しく少女してろっつてんだよ
下手こくと ”表” でも活動出来んぜ それでもいいか? 」
とリゼシアは半ば強引に理由をこじつけ凄んできた見た目少女の”男”を
説き伏せて話題を変えた。
「ち しょうがねぇ テメェには ラトシアだっけか?
いや違ったな この俺様:リゼシア様がよ ルナティアに話を付けてやるから
まずラーゼスを引き込めや
アイツは最近自分で勝手に、異性装位階二位だとのたまっていてな
付け上がッていやがるしな
きつい ”通過儀礼” を仕込んでやんな なに死んじまってもそれはヤツの器がそこまでの話よ
盟友たる 千変の御使い いや 今は”ロージィ”だっけか にも話は通しておいてやる
特にお前とテメェとテメェは俺等の中でも特に気が短けぇし
扱いづらい”野郎”だと承知の上で頼むんだ あまり殺りすぎんようにしろよ
”表”の顔が有るだろうからな
カネは随時渡すがあんまり、自分の服や小物に使うんじゃねぇぞ
お前らメイドはしっかり特にこの三人の ”スカートの裾を掴んどけ” いいな
「御意! 」
この ”スカートの裾を掴んどけ” はこの者達の中で通ずる慣用句であり
”明後日の行動をしないようにしっかりと主導権を握ろ” という意味である。
とメイドと呼ばれた”本物”の少女達は一斉にセリシアのパンプスに恭しく接吻をする
パンプスには先程まで八人の見た目少女達でいたぶっていた
哀れな犠牲者の血肉がこびり付いていて、妖艶な仕草で綺麗に舐め取っていた。
「おう オメェらもしっかり見習えよ」
「うるせーな 誰が”男”の足を舐めるかよ けッ どこまでも不愉快な盟主様だぜ」
と言葉は乱暴だが剣呑な空気はない。
「後の”残骸”はいつもの通りな」
と会合場所の”白い壁”に視線を動かす
此処は 某大陸某場所。
理想郷が本拠地にしているある遺跡の
さらに奥へ続く扉の向こう側、厳重に管理されている
扉を開けると廃虚の様相が一変、全て白塗りの
聖堂風な建物、地底湖、一面ヒカリゴケが群生する神秘的な風景が広がる空間が有る。
”白い”壁は言わずものがな幾星霜にも渡って重ね塗られた
嬲りモノにされた哀れな犠牲者達の骨粉であった
そんな場所での会合である。
「さぁ 会合はこれまだ 皆 表の顔に戻れや ”少女” として世界を愉しんでこい」
この時は、野太い男声から見た目相応の可愛い少女声に変じ、スカートを軽く摘む者
”少女” らしくクルリと回って深く膝を折れ床にスカートの環を作る者
が一同頭を垂れる。
そして、一番乱暴な言葉を吐いていた見た目少女の男は、はメイドのスカートをきゅっと掴み
後ろに隠れ可愛い声で
「あぁん ......は、一人でも多くクソ共を潰せる様に頑張るもん♡ 」
と上目で指を咥え、あざとい仕草をする。
その仕草に粗野さは一切なくメイドのスカートを掴む、か弱そうな少女そのものであった
「それでは、”おねーさま”方 またね〜♡ 早くぅ早くぅ
とにかく誰でもいいクソ共を手当たり次第鏖殺したぃ〜♡
ねっねっ いいでしょ? 」
と可愛い唇から上ずった言葉の語尾は涙声であるいつも
自分の腕に絡めている髪を蠢かせた。
「ダメですよ ......様 鏖殺は後のお楽しみですからね 此度は、こらえて下さいまし」
「うわぁ〜ん いつもそうやって後伸ばしにするぅ〜♡ ねぇねぇ
ねぇねぇ ねぇったら!! 今日は”一匹”しか殺っていないのよッ!!
あぁ鏖殺 ......にさせてさせてよぉ ......のいじわるぅ」
と首を振り本気の大粒の涙を目一杯に浮かべ
眉を寄せメイドの豊かな双丘に顔を埋め駄々をこねる。
「ねぇ? ......様、鏖殺は後でもいいじゃないですか
いまはラーゼスを引き込むのがが先ですよ」
と駄々をこねた ”少女” に接吻をする
っんっ ......っ......。
んんッ んんッ ......くちゅくちゅ ......。
可愛い唇同士の濃厚な音が響き渡る
「んんッ ......うぇ、うん♡ そうするね どんな通過儀礼をあのオスガキに与えようかな
わくわくしてきて あれっ、オッキクなっちゃった♡ 」
「あら、あらっ オッキクなっちゃいまたね ......ちゃん
もう機嫌は直られましたか? 」
メイドの視線は少女のスカートの股間を注視していた。
「うん♡ ......はもう平気だもん えっへんッ!! 」
と泣き顔はどこへやら左手で掴んでいた蠢く髪に膂力が篭り
グチャリグチャリ ......ブチブチ ......ゴリッッゴリッッ と
引きずっているお人形にしては”湿った”音が足元から響く。
「ダメですよ殺りすぎて壊してしまったら、そのお人形のように替えはもう無いのですからね」
「は〜ぃ 分かってま〜す♡ 」
とその ”少女” は首が取れかかった
この拠点に来る前に適当に選んだもう一人の哀れな犠牲者を
左手で掴んでいた長いウェーブロングの蠢く髪で絡め取り、壊れた”人形”のように
引きずって行くそして、息絶えても尚、髪による蹂躙は途絶える事がなかった
そしてもう一人の短剣の意匠の耳飾りの片方を外して
可愛い舌で下品に舐め回していた見た目少女は、片膝を抱きかかえ
ショーツを見せつける ”彼” のあざとい姿勢を崩さず
「いい眺めだったぜ 久しぶりの眼福だったなぁ なぁ今度のオスガキは
オレにもきちんと遊ばせろよ おぃっ!! 分かって居るんだろうな
今回の道すがらの二匹は、 ”特別” テメェに譲ってやったんだ
ラーゼスのガキはオレが最初に手ぇ付ける 良く覚えときな あぁ?」
「うっせーぞ わぁってらぁ 今回は”たった二匹”だったし くそう あん時テメェに賭けに
負けこんでなかったらな 運もツキもねぇぜ」
今回、散々お人形を蹂躙しておいてまだ満足な様子が見て取れない”少女”は
野太いゲス声で愚痴垂れた。
「約束は約束だ でもよ お前が先に手ぇつけたら直ぐおれも手ぇ出す これも約束だからな」
と短剣を舐め回していた”少女”に
「ああいいぜ オレが遊んだらオメェにやる
そして後で又、短剣で刻めるくらいには生かしておけよ 今回は”通過儀礼”だし
すんげぇ手加減しなきゃなんねぇのが
オレにとっちゃ一番堪えるがなぁ? どうよ見てて面白かったろ
”賭け”に負けたとは言えこんなもん間近で見られるなんざオメェにとっても
”眼福”もんだろ? なぁ? 」
短剣を舐め回していた”少女”が
今度は、二人よりちょっと背が高い
前髪の一部をリボンで束ね毛先がゆるく巻いた見た目少女に声をかける。
「俺はこの”人形”が壊れていく様を見ててよ 可笑しくて可笑しくて
笑い死にするとこだったぜ 久しぶりに 大笑いしてすっきりしたぜ あんがとよ
これですっきり ”表” の仕事にも精が出るぜ なぁ? 」
と純白のワンピースドレスに紅い薔薇のスカート飾りの見た目少女に視線を投げる
「あぁ ”兄貴” は何時だって オレの手本だよ ”表” の仕事でもな」
「そうだろうともさ なぁオレの言うこと聞いてりゃ何も問題はねぇからな」
前髪の一部をリボンで束ね毛先がゆるく巻いた少女が
ニヤつきながら嗤っていた
「 ......とやめろよ オレは肉親だぞ 首はよせよ」
”兄貴”と呼ばれた少女の色違いの髪が
シュルリと伸ばし始めたのを見て、純白のワンピースドレスを着た少女は手で軽く退けた
「おっとすまねぇなぁ オレはこの色違いの髪でいたぶるのが何より好きなのを知っているだろがよ
特に柔けぇ少女の首は最高だなぁ 表情が苦悶に変わる時がオレにとって至福の時だ
分かっているだろ? あぁ? 」
と前髪の一部をリボンで束ね毛先がゆるく巻いた少女を”兄貴”と呼んだ少女の耳元で
低い男声で囁く
一人は、蠢く髪で無抵抗な者を死んだ後も尚、尊厳など意に介さず蹂躙しつくすのが何より
好きな”男”
もう一人は、一級遺物の短剣の耳飾りで死なない程度に消えない疵を刻むのが何より好きな”男”
そして最後は、髪で徐々に
躰中を締め付け苦しみ悶える様を見て嗤い、苦悶の表情に何よりの至福を覚える”男”
そして、始末の悪い事に”表”では”ご令嬢”と呼ばれるくらいの地位と名声を得て尚、
女性なら羨むくらい、男性なら迷わず婚姻を取り付けたくなる程の
”美しい少女”であることだ。
この三人は闇の手勢の中でも最も陰険で陰湿な非道なゲス”野郎”として
闇社会でも名声を轟かせている
”表”では品位品行申し分ない美しいご令嬢
”裏”では陰険で陰湿な非道なゲス”野郎”としての両極端な
均衡を幾星霜も保ち続けてきた”男”達の頂点がここに存在していたのである。
特に危険なこの ”少女” 達は早くも己れの”願望”を満たしたくて
居てもたっても品行居られず早々と拠点を辞し
会合の最初から覆いかぶさっていた緊張した空気が一気に和らいだ。
「ふぅなんでアイツらまで此処に来たのやら いつもは クソめんどくせぇの一言なのによ」
と残った”少女”が男声で言う
「まぁでもアイツはあの三人の中でも特に危険なヤツだ こうして意見を合わせただけでも
僥倖だろうがよ ぁあ? 」
とセリシアが居ずまいを正しスカートをパタパタ直す。
「それを言うなら 会合が終わった途端すっ飛んでいった二人もだろ? 」
とまた別の”少女”。
「”兄貴”はこのオレですら制止が効かねぇ 先刻も見たろ 肉親にですら
あの髪を平気で首に絡めてきやがるんだからよ
いつだったか夜寝苦しいと思ったらあの髪でオレの首絞めてて
ニヤニヤしてやがったし、御情けなんて言葉がアイツに有るわけねぇ
メイドのヤツにはメスガキみてぇに甘えるし
服や小物にも非常にうるせぇし、だからますます始末に負えねぇ」
と終始首を触って震えていた。
「あぁ あいつらはオレ様ですら特に扱いが難しいからな だからこその実行役なんだけどよ
外面は可愛い癖に このオレがいうのも何だが、エゲツねぇ奴らだからな
オレみたいにちゃんとお淑やかな ”淑女” してれば
”表” は可愛いんだが そうもいかねぇか
オレはこういう物言いしてるけど結構買ってるんだぜ あいつらの事をよぉ」
とこれも別の少女が男声で喋る。
「そういうテメェだって暗殺狂の癖によ
よくも抜けしゃあしゃあと言えたもんだなぁ」
と別の”少女”が首を触っていた”少女”に声をかける
「オレは兄貴とは違うぜ 依頼以外のヤツは殺らねぇ主義だ」
とワンピースドレスをたくし上げて、靴下留め(ガーターリング)に挟んだ暗器をちらつかせた
「全く少女の格好ってのは、暗殺向きだぜ こうやって得物は隠せるし
獲物は直ぐ油断してくれるし背が低いおかげて目立たんし
髪で色々出来るし、いい事ずくめだ」
と蠢く髪で暗器を抜き取り空中高く放り上げ、今度は手で受け取り
又放り上げて今度は蠢く髪で器用に掴みとった。
セリシアは、
「まぁ メイドがいるから良いだろ
本物の ”メスガキ” のようにメイドにだけは甘えてべったりだからな やれやれ」
と両肩を竦めて溜息交じりである。
「後、案件はあるか? 場合によっては”ロージィ”にも出張ってもらうしよ
それから、オレから命あるまで 絶対に 銀の風には手ぇ付けるなよ
噂じゃ 大氷狼を味方に従けただの 竜を屠っただの
とおっかねぇ”噂”がある”メスガキ”だ 気ぃ付けろよ
それによ 変に刺激してよぉ お前らが姿を参考にした ”旧き遺構の少女” 共を
覚醒させたら困るのはテメェらの方だから よーく肝に命じておけ
だから オレや”ロージィ”の様に姿を真似しない様にすれば良かったモノを
そんなトコだけは”男”だからな てめぇらは。
少女の姿にするなら他人を真似るんじゃねーよ」
とニヤニヤしたり顔。
「うるせー ここにいるオレも出て行ったあいつらも ”旧き遺構の少女” 共をひと目見た時に
あのようなかわいい少女になりてぇって決めていたからな
今更、嫌味をのたまうなよ それによ完全に真似たわけじゃねぇしよぉ
俺はこの少女姿が気に入ってんだ 今更変えるわけねぇだろが
なぁセリシアぁ まぁ刺激はしないようにはするさ ”旧き遺構の少女”
だって莫迦じゃねぇ 今代は温和しいさ 多分な」
とやや気勢を失い言葉が尻窄んだ。
「さっきの話だが 今は”表”が忙しいからな あとはないね」
セリシアと出ていった三人を除く残りの”少女”一同は返答した。
「良し いいだろう 今後もあいつらにも声を掛けてみるが
来るかは気分次第だからな メイドにでも書簡を出すさ」
「ではな 俺様は此処が拠点だが、テメェらの”表”の活動の場は
他の大陸のヤツもいる
転送陣を使わせてやるから しっかり ”表” に励め」
「応っ!! 」
とまるで ”男” の様に野太い声で鬨の声を上げ
同時に、丁寧に ”少女” の様にスカートを摘み足を交差させ深々と
セリシアに頭を垂れる。
「後は”ラクシア”だがアイツはいま一歩の〆で失敗る悪い癖が有るからな
どうするかね
あいつらは生かしておくという事を知らねぇし 困ったぜ」
と皆立ち去った後だだ広い拠点にメイドと二人独りごちて少女趣味の自室に入り
「ねぇ ”クロノ”おねーちゃまぁ また”玩具”落としてよぉ お願い」
と何やら話しかける。
『ぜーったい ダメっ アグ兄ぃやハグ兄ぃに怒られるもん ”当分”はだめ
ぜーったい だめっていったら ダメっ
セリシアちゃん? この前間違って落した ”玩具” はどうしたの? あれ』
空間に淡い金の燐光が漂いぼんやりヒト型を形作った
輪郭もぼやけ目鼻もないただのヒト型の霧である。
「”クロノ”おねーちゃま あのディーボはルベリト大岩礁帯”で”彼”に頼んで
仕込んでもらったの でもね もう一つ欲しいなぁ なんて ダメだよね? 」
『だめって言ったら ダメっ』
「ごめんなさい 後は我儘言わない 所でおかーちゃまは? 」
『散策するって下界に降りたわ 場所はタフタルの何処かよ 後、セリシアちゃんと
おしゃべりしちゃダメって 言われてるの これ以上は喋んないわ』
「うん ”またね”」
ヒト型の霧は徐々に薄れ消えていく
と虚空を見上げていたセリシアはニヤニヤ顔が止まらない
「ふふ クロノおねーちゃまって ついポロッとお漏らしする”良い”癖が有るもんね
いー事 聞ぃーちゃった これでセリシアもやっと動く大義名分が出来ったってね
......
......ははははっ いい気分」
とセリシアは黒い羽を出したまま寝台に伏せコロコロ転がりながら
自分の羽を一つ毟り取る。
彼の神族の羽は変質し今や黒く染まり後はどうあがいても元には戻らない。
しかも、この羽にはどんな善人にも拭い去ることの出来ぬ永劫の悪意を植付け
終いには、完全に闇の手勢に染めしまう元神族ならではの能力が備わっていた
「だーれに しよっかな あぁん 想像しただけで やだぁ 大きくなっちゃったわ」
と膨らんだスカートの下半身を見つめていた
ピンクのツーストラップパンプスを履き、黒いタイツに脚を包み コツコツ と床を歩く
一人の少女がいた。
豪奢なワンピースドレスに大きなピンクの薔薇飾りと黒い茨、
うねる銀光沢のオールドローズの髪はウネウネ蠢いている
毛先はゆるく巻いてゆらりと歩く調子に合せ揺れ動く
色違いの部分は、濃いピンクアーモンドであるベージュローゼの瞳は
烟る長い睫毛と相まって幼さと可愛さを引き立てる
そして頭の両脇には漆黒の薔薇飾りに緑の茨
スカート部の薔薇飾りもそうだが頭の薔薇の茨も常に蠢いていた。
その少女が背が高いエル族のメイドのスカートを可愛らしく
キュっと掴んでそっと辺りを伺うように セリシアの拠点の彼の私室を目指して
歩んでいた。
「ねぇぇ まだぁぁ? みんなもう帰っちゃったよ? 」
と可愛らしい声、眉を寄せ長い睫毛は大粒の涙で濡れ濡り
上目で見上げる仕草にメイドをドキリとさせる。
「もう少しですよ 此処の拠点は巨大な遺構の更にその奥
今でこそ理想郷に所有権がありますが
我等 ”仄暗き霧” が幾星霜ににも渡りその基礎を築け上げた場所で御座いますよ
広いのは当たり前ですから、駄々をおっしゃらないでくださいまし
ねっほら ”イアゼーラ”様 もう少しで ”セリシア” 様のお部屋ですよ」
と優しく少女の頭を撫でる
薔薇の茨がメイドの手にキリキリ食い込んで血が滲んで来ているが
気にする風は無い
「素敵な娘 もっとこの私を苛めて下さいまし お嬢さま」
「うんっ イアね ルエルの言う通りにするね だから抱っこして」と
両腕を伸ばす。
「うふふ いいですとも さぁ」
とひょいと小さなイアゼーラを両腕に抱きかかえる
イアゼーラと呼ばれた少女はルエルと呼ばれたメイドの首に両腕を回し
すかさず紅い小さな唇をメイドの唇に重ねた
んんっ...... んっんっ ちゅぷ... ......ちゅくっ......
暫し歩みは止まり二人は、妖艶な響きに身を任せる。
やがて、可愛いピンクの少女趣味な扉をノックもせず中に入り
イアゼーラは軽く跳び床にふわりと靴音無く着地した。
両脚を可愛く交差させスカートを片手で軽く摘み小首を斜めに傾げる
同時に
「おぅ!! セリシアぁ 首尾はどうだぁ? 」
と可愛らしい外観からは似ても似つかない下卑た口調の ”男” の声
「ふん ノックも無しとはご挨拶じゃねぇか ぁあ? ”イゼーラ・クレモール” よぉ
いや ”クレモール”っ!! 」
このイゼーラはルナティア同様、自身の強い少女願望を満たすべく徴を除く
全てをこの少女姿に変成した完全な ”男性” であり彼こそ 闇社会の
総元締めで 三神の争い以降 世界の均衡の
暗部としての役割を連綿と受け継いだ巨大な組織 ”仄暗き霧” 位階”二位”である。
「うるせーなぁ おい セリシア オレは ”クレモール” なんかじゃねぇよ
斯くも可愛く可憐に野に咲く 野生の蔓薔薇の如く令嬢様 ”イアゼーラ”
今は、”イアゼーラ” イ・ア・ゼ・ー・ラッ!! だぜ
”裏” の名を軽々しく口にするんじゃねぇぞ コラァ!! 」
とゲスい男声が部屋に響く。
「すまん つい ......な 赦せ なっなっ? 」
「まぁ いい オレとテメェの仲だ それより客に椅子は出さねぇのかよ
オレは疲れるんだぜ 早く椅子出せや」
と恫喝の篭った声で椅子を要求。
彼:イアゼーラは ”仄暗き霧” 拠点以外ではその名を出すことは決して
許さず、不用意に口に出そうものなら直ちに彼の美しいうねる髪と服飾りの茨と
頭の茨の餌食になっていたはずである しかし、セリシアとは本意ではないにしろ
協定を結んでおり 人外の盟約の理に従い”寛大”な判断を下したのである。
素早くセリシアはイアゼーラに椅子を勧める。
そっと”少女らしく”お淑やかな仕草で座り
「よっこらせっと 先ずはこれでいいが 茶と菓子はどうしたよ あぁ? 」
と更に恫喝。
セリシアは御付きのメイドを制し
自ら最高級のバルケモス産の茶葉と拠点が有るこの大陸でも高級な菓子を出す。
可愛い小鼻をひくつかせ香りを愉しみ、嫋やかな手付きで菓子を可愛い紅い唇に押し当て
令嬢でも真似出来ないような上品な仕草で一口含んだ。
「こりゃうめぇぜ 流石高級品だな それにこの足置き台気が利くじゃねーか
おいっ!! ルエル ”いつものように”足の手入れしてくれよな、痛くしたら承知せんぞ」
「はい イアゼーラお嬢さま ただいま」
とそそくさと彼のスカートの中に潜り手入れを始めた
クレモール 否、イアゼーラは顎をしゃくり リゼシアに問いの答えを促す。
「あぁ ルベルトの仕込みは順調だぜ 選り抜きの一人に任せた
危険なヤツだが仕事に関しては間違いはやらん”男”だ
アイツは裏では唆しが得意だからな
”野良ディーボ”をクイェル教のカリエルに焚き付ける役には適任だった
男だと分かっていてもヤツの可憐な少女の姿とあの声の色香には
叶まいよ。
既に、問題なく事は終わっている カリエルはもうヤツの虜に嵌まった
全く恐ろしい”男”だよ
あの拠点を一時放棄していまは思惑通り、ルベルト岩礁帯に拠点を置くそうだ。
”男”が”男”の色香の虜になるなんて 傑作だぜ
”表”でもご令嬢だのお嬢さまだのと世間からも、持て囃されてさぞかし御満悦だろうさ」
と結果と現状を粗つなく報告する
「よし いいだろう アイツは多少癖が強くてオレ様でも
扱い辛い男だが能力も手腕も評価している
多少の粗相は目も瞑ってやっているし
カネもたんまり与えているし 人選は評価しようじゃないか」
と先程会合に出席した癖の強い三人の一人の名を聞くとイアゼーラは
珍しく満足げに紅茶を含む
いつもは難癖を付けてまた一悶着起こりそうに
なるというのに。
......。
(こいつがここまで評価するとはな 見返りが怖いが先ずは一安心だぜ)
とセリシアは先程抜いた羽を指先に器用に立たせて息を吹きかけ
これ見よがしにくるくる回す
「所でその羽誰にくれてやるんだ? 」
イアゼーラはニヤつきながらセリシアの指先で踊っている羽を見つめている
この黒い羽が何を意味するものかを分かって居なければ出来ない表情だった。
「あぁ これか これは オルティア大陸の王都の神官二位の女にくれてやるつもりだ
今、用向きでこの地を踏んでいる筈だ ラクティカスに邪な懸想を抱いていてな
獣人にはお似合いだぜ その女、どこまで闇に飲まれるか今から
楽しみだな ははは」
セリシアはぼんやりと頭に浮かんでいた目標を具体的な言葉にする。
因みにこの”獣人”はウル族やケット族を指し示す単語ではない
魔物としての狼獣人や猫獣人のことである
劣情を催し、己の抑制が効かなくなる又は、血肉の匂いを嗅ぐなりすると
強暴な肉食の獣に変化し見境なく、獲物を襲い欲望が満たされるとまた表の顔に戻る
そんな”怪物”である。
「なぁ 渡すのはのはオレ様にやらせろよ いい女だったら、ついでに
オレの”オンナノコ”を悦ばせんとな」
とスカートの股間に視線が動く。
「エゲツねぇな 可愛い少女の格好してても ”男”の劣情は満たしたいのかぁ てめぇ」
「んだとぉ セリシアぁ それ以上言葉を紡ぐんだったら 覚悟しろよ
オレに向かって”男”等と口に出してみろ テメェでもただじゃ済まさんぞ
もう一度言うぜ オレは”イアゼーラという少女”だ そこんトコ頭に刻んとけ」
とゲスな男の声で言い放ち
頭と服の薔薇の茨と長い髪が撚れて シュルシュル と
セリシアに迫る。
「解った解った もうよさないか それを引っ込めてくれ」
と本気で懇願する。
「いいよ 引っ込めてやるさ」
と言いつつ撚った髪と茨をほどき元の髪と飾りに戻る。
イアゼーラの言葉は更に続く
「所で、オレなぁ 最近さぁ 政治変を起こしてな
本来の盟主のメスガキを檻に幽閉した 御付きのライブ・アーティファクトの
メイドをオレのモンにしょうとしたが中々手懐かねぇし
メスガキもそのメイドの言うことしか頑として聞きやしねぇ
アイツは原初の感情から産まれていてな、殺すことも滅することも出来んが
幽閉して身動きだけは封じてある
でだ 今は、オレ:イアゼーラ様が位階一位って事で今後共よろしく頼むぜ
そのために挨拶がてら来てやったんだ 感謝しろよな」
「あの噂は本当だったか? 」
とセリシア
「あぁそれが、仄暗き霧の政治変の事なら本当だ
ここ最近なぁ 世界がざわめくんでな ついでに事を起こしたって訳よ
オレは ”表” でも 名士のご令嬢として愉しんでるからな
忙しいんだよ
でもよ 傑作だよな 名士のご令嬢様が実は 闇社会の総元締めで ”男”だからな
オレに言いよってくる世間の間抜けな男共のツラを見ているだけで
少女になって良かったと思えるぜ なぁ ”同類”? 邪魔したな 羽は貰っていくぜ」
「いいぜ ほらよ」
と羽はいつの間に傍に立っていたルエルの、豊かな双丘の谷間に押し込んだ
イアゼーラは当初訪れた時同様、メイドのスカートをきゅうと掴み
か弱いご令嬢の”表”の顔になる
「ねぇ ルエルぅ 早く いこ? 」
「はい”イアゼーラお嬢さま” それではオルティア大陸へ向いましょうか? 」
「うんっ♡ そうして、そうして♡ 」
とイアゼーラはセリシアですらドキリとする甘え声でメイドのスカートを
クイクイ 引っ張る。
「それではセリシア様 ”お嬢さま” にせがまれておりますので また何れの機会に」
とルエルは軽く会釈して部屋を辞した。
セリシアは冷や汗と緊張から来る脂汗でこの後直ぐ
入った沐浴場から暫く出て来る事が出来なかった
私室に、まだあのイアゼーラの甘い残り香が漂っていたからである。
帰りの長い廊下で イアゼーラは
「いずれ 此処の拠点を買い戻しオレが執務室に座ってやるぜ
今に見てろよ あのクソオスガキめ!!
あの墜ちた神族のガキをおれに絶対に跪かせてやるからな」
と男声でパンプスの爪先でカツカツ床を突き指をギリリと噛みながら
パンプスでセリシアを踏み付け髪を掴み、”立ったまま”小水をかける様を想像してニヤニヤ嗤う。
紅い唇の横から紅い筋が滴り落ちルエルが
すかさず人差指ですくい取り妖艶な仕草で舐め取っていた
こんなにも彼がセリシアと協定を結びなからも激しく憤ていたのには
理由があった
この拠点は元は 仄暗き霧 の所有だったのだが幽閉している盟主が理想郷に格安で
売り渡してしまったのある。
イアゼーラ(クレモール)はこのことが心底腹に据えかねていたのと、
嘗て”神族”に服わぬ種族として滅ぼされかけ今は数えるほどしか直系血脈の末裔しか
残っていない その恨みが消えずにいて、物言いがつい”乱暴”になってしまう
セリシアとの邂逅時は、概ねこんな感じでありいつものことなのでメイドも敢えて口出しはしない
物言いが乱暴なイアゼーラもメイドのルエルには頭が上がらず窘められると
大粒の涙を浮かべてしまう、イアゼーラとルエルはそんな関係だった。
そして、彼は根っからの野心家として
シーアの誕生により外が、幾星霜振りに騒がしくなった頃合いをみて
組織内で政治変を起こし見事、位階一位の座を奪ったのである。
それぞれの思惑はそれぞれに散っていく
似せ少女達はどす黒い感情を内面に沈め、品位品行共申し分ない
令嬢又は、慈善化家・商家の代表として ”表” を繕う。
それを、幾星霜もの間、連綿と行ってきた”彼ら”にとっては
極々、当たり前の”日常であった。
「おやぁ クローティア 今、お戻り シーアはランドルフの弟子ノアのとこ 向かったわ」
『そうか では我等も追うぞ 今は転移も出来んでな 浮いて”飛んで行く” 』
「やはり シーアが居ないとダメ? 」
『そのようじゃ 大分消耗してしもうたわ 向う(バルケモス)下までじゃとな
お主の想像の通りじゃ』
「仕方無いわ 貴女程の”神”ともなれば使う能力も、消費するマギも
要求する質も桁が違うわ あたくしよりも遥かにね
”魔女の遺産” と称されたあたくしでも精々貴女の五分 いえ 一厘にも満たないものね
必要とする、シーアのマギの量って想像付かないわ
でもそんなに贅沢に”喰われて”おきながら 彼女は平然としてるわね
驚いたわ」
『そこが アヤツの恐ろしいところよ
その資質に惹かれ寄る 遺産・獣・魔獣・果ては魔蒼樹や旧き遺構の少女達の気配すら
活性化しとるようじゃ』
「それ あの娘に伝えた? 彼女はそういう娘達の
頂点となり 標となる存在なのに? 」
『いや アヤツには伝えてはおらぬ 旅を通じて 眷属にするも、敵対するも
シーア次第じゃ 儂からどうこうしようとは思わん ......ただ』
「ただ ......何よぅ」
んんっ んぁっ......
クローティアが到着するとすぐさま シセラは殿方弄りをやめ
クローティアの傍に現れ 熱い接吻でマギの補給を行いつつ
会話を進めていたのである。
『ミーアにだけは其奴等の存在だけは話した アヤツは今居る
遺産の少女ですらまだ 扱いに慣れておらん それが普通じゃしのぅ』
「へぇ その言い方まるで シーアって元はミーアみたいに
只人だったかのような言い方ね 興味あるわぁ」
とシセラはニヤつく その目はクローティアの奥底を見透かすような
それでいて手で無遠慮に、引っ掻き回れるような
そんな得体の知れない”恐怖”を内包していた。
『あまり 踏み込むではないぞ アヤツにだって内心自由はある、好きにさせてやれ』
「分かったわ 例えシーアの中身が ”男の魂” だとしても あたくしの忠誠は些かも揺るがない」
『シセラッ!! 』
クローティアの目が細くなる。
「おっと 怖いわぁ それから 今のは、例え話よ 他意は無いわ 忘れて頂戴な」
とシセラも言葉をこれ以上は続けず 沈黙する
『今の発言は 口が滑ったと言うことにしておいてやるわい
ともに アヤツのマギを喰らう者同士じゃ 敵対するつもりなど毛頭ないわい
聡明なお主の事じゃ
儂は 知っての通り ”贄の蛇”じゃ 贄なしでは何も出来ん
常に 喰らい続けねば己れの存在すら保てぬ
そんな 浅ましい存在よ』
とウロレシアに言われのが余程堪えたのか クローティアは自嘲気味に吐露した。
「それで、目的は達せられて? 」
『あぁ ヤツめ ジジィから少女の姿に成りおった
しかも”見掛けだけ”の徴まで備えおっておったぞ』
「ふ〜ん カミサマって何でも自由なのね」
シセラはおどけたようにくるくるまわりながら言う。
『それは違うな シセラよ 我等”神”とて 世界の理からは逃れる事は
出来ぬ ヤツ(ウロボロス)
も ”それ(少女)で” 姿を定めてしまった 後はいかなる術でも
ジジィの姿には戻れん
この儂も同様で 本とこの”チンマイ”姿以外には成れんし
まして元の ”姿” には戻ろうとも思っておらん
儂は やっと形をアヤツ(シーア)から貰ったのじゃ こんな嬉しいことはないぞい』
「まぁ 今回は、無事を確認したかっただけ 貴女に先刻のような
気勢が有れば 大丈夫なようね」
『お主先刻わざと儂を焚き付けおったな』
シセラが挑戦的な物言いをした意味を理解したクローティアは
『儂もまだまだじゃな アヤツに追いつくぞ』
「ふふ そういうこと 今は私に抱っこされなさいな それっ」
とひょいとクローティアを抱えるとシセラは、ネグリールの尖塔群へ
魔女の遺産として魔女達に、知識と叡智と少女の姿を与えられ
継承されたヒト型の神代級呪物:シセラ・ユーガ・メルクリウス
(これは真名で彼女はこの名で命令されるといかなる内容でも逆らえない
絶対名でもある)
幾星霜の刻を経てようやく叶った 相応しい主との盟約
永劫の 主であり盟主であるシーアの元へ向かっていく。
わたしは、屋台の食べ物を摘みつつネグリール尖塔群へ赴く
「なぁ 聞いたか? メギスト(遺跡)の件 さくっと解決だとよ」
「すげぇ あれほど誰も
近寄る事も出来なかったんが 少女三人でよぉ 綺麗サッパリ解決よ」
「で そいつは って アイツだぜアイツ」
と視線がわたしに刺さるのが解った。
でも、ひそひそ噂をしても囃し立てるものはいない
どんな事でも世界の出来事の中では瑣末なことであり
後々に語り継がれ評価され、そこで始めて遺業と讃えられるのである。
「それに、後に潜った調査団や”吟遊詩人”もいたがな”全員”無事に調査を終えたらしい
”吟遊詩人”も多少 手疵を負ったが命に別状は無いらしい」
「なんで吟遊詩人がそんなトコ行ったんだ 情報猟りか? 」
「まっ 大方そんなことだろ よくある話さ」
わたしは今の話であの夜、天幕で盗み聞いた彼らニラウスは無事解決したのを知った
目的は何だったかは知る由もない
でも彼らは目的を遂げ、次に進むことが出来た 彼らにはまた何処かで逢える
そんな気がしていた。
「あらっ シーア未だ航ってなかった? 」
とランドルフではなく妙齢の女性の声
頭に大きな帽子を目深に被ったノアであった。
「えぇ、ちょっと 寄り道をしてしまって
それに、向う(ギアトレス)にいよいよ航りたいと思って
それと御相談したいこともあって 先ず此処に来ればノアさんに逢えるかなと」
「えぇ 何でも言っていいわ あとほんの数刻で、ランドルフもルベルトの
所用を終え到着するはずよ」
と言う。
『姐さん、いよいよだな 途は既に開いている あっしも行きてぇな』
ネウスネルがしゃがれ声で喋る。
「そうね もしランドルフ様の許可が降りれば私も行きたいのだけれどね
ラトアのヤツ 早く講義終わらないかしらね
悲鳴草と雄叫び草採取をついでにやらせると言っていたし
講生の”七人”の子達ももうすぐ即席だけれど講義もおわるしね」
わたしは、奇妙な感じを覚えるたしか”八人”と当初は言っていたはずだ
「あれ、もう一人は? 」
「もう一人? あれ ラトアがいうには 男子六人 女子”一人”って言っていたけどな
どうしたんだろ なんか可笑しなことでも言った? 」
「あ いや ごめんなさい わたしの勘違いかも」
そうはいったものの 間違いなく当初は男子六人 女子”二人”だった筈
<< [ シーア、私の記録にも ”八人”と有ります 貴女は間違ってませんよ
でも幻惑の術が解かれて素に戻ったのかも 世界には 有ったことを無かった様に見せかけたり
男女の性別を逆に見せかける偽計の術があります 今は彼女を混乱させるだけです
話を合わせた方が 賢明かと ] >>
と珍しく彼女の方から念話で話し込んできた。
<< そうね >>
と話を続ける為に
「ノアさん わたしの勘違いでした 話の先をどうぞ」
と話を促す。
「どこまでだっけ あぁそうだった ラトアの講義が”薬草”採りで最終講義だから
アイツに任せようかなと思っているのよ ネルちゃん」
『うほぅ 嬉しいぜ 姐さんシーアの支援に回るんで? 』
「そうそれも有るわ それと師ランドルフより独自に別命を受けていてね
後で追いかけるつもりよ」
『うひょぅ 楽しみだぜ それとシーア 気遣ってくれて あんがとよ
ノアのやつ どうやら強力な偽計の術に嵌まっていたらしいな
確かに講生は”八人”だったぜ まだまだ俺様が居ねぇとダメだな 全く
手のかかる大人の女だぜ』
「ネルまで 可笑しな事を言うのね」
『あぁ なんでもねぇよ ささ 中に入ろうぜ
どうせ立ち話は出来んだろ』
「そうよ これから打ち合わせだもの 行きましょ」
丁度、
『シーア 待たせたな儂も ”所用” が終わっての そこでシセラと合流したんじゃ』
とクローティアはやや疲れ顔でわたしの髪に直ぐ引っ付き潜り込んでしまった
覚えのある感触に少し懐かしさを感じ ほっとするわたしがそこにいた。
髪の中で吸血樹の根から大量のマギを ”喰っている” 様はまるで胎仔のようであったが
わたし自身はそんな事は知らなった
「ねぇ シーア何処か体調におかしな事はない 例えば疲れたとか 気が抜けた様になったとか? 」
と脈絡の無いシセラの質問に
「ううん 普通 いつもの感触が戻って来ただけよ
どうかしたの? 」
と質問でかえす。
「ふふ、 何でも無いわ やはり自覚はないようね」
とノアにすら視えない半透明な躰で嬉しそうにくるくる廻る。
面子が揃ってわたしは、ランドルフの執務室へ向かった
フラウは奇妙な感覚に襲われていた
此処何日か”もう一人同性”の子と家のことを話したり雑貨屋や屋台で
お揃いのリボンを買ったりした記憶があるが
どうしてもその相手の顔と名前が思い出せずいて
喉に物がつっかかっている感じなのである
「あ れ おかしいなもう一人”オンナノコ”が居たような気がしたんだけどな
でも、無事に課題達成出来たから いいか」
あまり、深く考えても思い出せないものはしょうがない
フラウはきっぱりと思考を切り替える。
「おーい フラウ こっちこいよ 女子”一人”じゃ大変だったろ
先ずは ラトア師匠に報告かな センセが言うには
今回はすんなり子鬼共騙せたらしいからな
センセもなんかホッとしていたようだぜ 先ずは広場に行こうぜ なぁ? 」
男子達は皆、親切であった。
「うん まってみんな」
彼ら七人は揃ってラトアの元に向かう
「よーしっ 皆”揃って”いるわね 実はセンセね 昔、事故で講義中の子をね
魔物に殺られちゃったのよ
だから今回、メギストでも心配で、心配で 今回は、上手く課題が済んで良かったわ」
「センセ 俺達 この悲鳴草と雄叫び草はどうすれば
いいですかぁ」
と男子達は草等には興味は無く、講義終了の証しに貰える
初級用の触媒に興味が移っていた。
「はいはい 先ずは回収します これで当分は手持ちが有るわ
それから お待ちかねの講義終了の証しの触媒よ
これ彼処のネグリール尖塔群の大賢者ランドルフが監修しているわ
これからは 魔術師・妖術師・薬師などの途があります
”死なないように”生き抜いて 広い世界を見て頂戴ね
...... っとちょっと辛気臭くなったわ
でも一個 余っているわね どうしたのかしらね これついでに貰っちゃお」
とラトアは豊かな双丘の谷間に触媒を差し入れた
「はい ラトア先生 ありがとうございました」
と一同軽く頭を下げ それぞれの途へ進み散っていく
こうして ”七人” は最低の術士としての術を此処で学び、身につけた
後は、それぞれの師の門を叩くだろう
ラトアは慣れている事とはいえ目に光るモノがあった。
「さて、暫くはあの子の代理ね これで私も階位が上がると良いんだけとな
同期だったけど ちょっと悔しいな」
とラトアは豊かな肢体を持て余すような歩き方で鞄一杯の”成果”を詰めて
尖塔群に入っていった。
おれは、銀の娘の”荷物持ち”ということにして上手く彼女等の後をつける
そして、あの黒い結晶体が彼女等の手に渡った事を確認して
講義生の仲間に戻りちょっと動きが鈍いフラウの支援をしつつ無事役目を終えた。
今回は”抹殺”の指令は受けて居ない
あの御方から偽計の術の巻物を貰って仕込んでおいたのを
ここで解除する
これで俺様に関わった全てのヒトからオレに関する事は忘れちまうだろう
フラウとは屋台で一緒に食べたりお揃いのリボン買ったりしたっけなぁ
後は上に報告の運びである
ラーゼスは取っておきのワンピースとお揃いのリボンで飾り
くるくる廻る
「よしっ これでいいかな あの御方は身なりには五月蝿ぇしな」
と宿の部屋で整えていると
「おぅ 粧し込んでいるとこ わりぃが ツラ貸せや」
と野太い男の声
「どなた? あの今整えるから待って」
とオレは女声で喋り、声の主を見て驚いた。
左手にはうねる様な髪を、右手にも色違いの髪を絡め豪奢なワンピースを身にまとった
”少女”がいて 声はその少女から発せされていたから
「なぁ オメェよぉ 最近よぉ 異性装の位階二位とか言って
あちこち出張っているそうじゃねえか オレが今直ぐテメェをシメてぇが
生憎と生かしておけとのことだ 素直に来れば良し、 逆らうならこうだぜ」
と左手に持っていた髪を引き寄せる
うっ げぇーーっ
おれははげしく嗚咽しまう
なぜなら蠢く髪に絡んでいたのは ”フラウ” だった
髪は彼女の口に深く潜り込んで
ぐちゃぐちゃ
と音がしていた
目は上を向き 痙攣していて涙も血で染まり
それでも息があるようだった
ぐぉっ ......ごっぎゅりゅ
と声にならない声 そして腹部から その ”少女?” の髪がとびだし
臓物を激しくまきちらした
「フラウッ? 」
オレはこれが精一杯だった。
「おっ? コレぇ 知り合いかぁ? 」
と ”少女?” は声色を可愛い声に変化させ
「貴男には、悪い事しちゃったね
でもでも 私のスカートに泥を付けたのよ もういやぁ
でねでね 人払いをして ”ちょっと”お仕置きしちゃった♡
でも今代のヒトって弱いわぁ すぐこわれるんですもの
面白くな〜ぃ もっと 弄りたかったのに残念ねぇ
ねね これどうしよっか? もっと壊しちゃおっかぁ
ねぇ ゼイラぁ どうする? 」
ゼイラと呼ばれた
毛先はやや金色を帯びていて大人っぽい顔付きで黒髪のロングに金の瞳の
ケット族のメイドは
「”リゼシア様”、 会合でもお二人おもちゃにしてまだ
遊び足りなかったです? 困った ”お嬢様” ですね」
「うん リゼねぇ まだ遊びたかったの♡ 」
「もう御仕舞いですよ ”ラーゼス様” も及び腰ですよ ねぇ? 」
「そうなの ねぇ そうなの? ゼイラぁ」
とリゼシアと呼ばれた少女は不思議そうに首を傾げた。
「えぇ そうですとも お人形遊びは御仕舞いですよ
さぁお人形さんを楽にしてやりなさいな」
とゼイラが促すと
「うんっ ゼイラの言う通りににするねっ♡ 」
と とびきりの少女の微笑みで返事をした。
「あぁ ......フラウ ......なんてことを ......なんで こんな」
ラーゼスは呆けて言葉にならない
「ちぇ 引き抜いてやるよ ほらよ」
髪で ”内臓” を掴んだまま ズルリと引き抜く
そこでようやくフラウは意識を完全に手放し
懐から 講習の終了の証の触媒が転げ落ち
リゼシアは可愛い赤のパンプスでそれを ぐしゃり と冷たい目で睥睨し踏み潰した
「なぁ オメェもこうはなりたかねぇだろ オレと一緒にこいや
あん? このメスガキィ 死んでもまだ涙流してやがる
オレがな ションベンで洗い流してやらァ」
とスカートを捲り ”男の徴” から小水を出し顔にかけてニヤニヤ嗤う
そう このリゼシアは少女などでなく、自分とあの御方と同類の異性装者であった
うねるブルーラベンダーの髪、色違いの部分はオーキッド、ピンクの瞳
頭には大きなリボンをしている、その格好はリボン柄のタイツと相まって
可愛らしいく小生意気な少女そのものであった。
その実”彼は”フレジアのなかでも
特に荒事を好む武闘派 クフリー派 の首魁で
少女の格好を利用して色々な場所に出没し、
自分本意の欲望と劣情を満たすゲスであった
先の会合で セリシアに真っ先に啖呵をきっていたのも彼である
肉の残骸と化したフラウの辛うじて形を保っていた頭には、ラーゼスと同じリボンが揺れていた
オレは、こいつは危険なヤツと直感した
全身の本能がそれを叫んでいて 膝が笑い歯の根が合わない
せめてフラウの目を閉じさせてやりたかった
でも今の状況だとそれも叶わないだろう。
「はい リゼシア様の御言葉のままに」
とかろうじて言葉を絞りだす。
「いいだろう 早く外の馬車に乗れや 此処にはもう用がねぇ
オレもタフタル大陸の会合から戻ったばかりでな
疲れてんだ 馬車の中では温和しくしてろよ でないと ......解っているだろ? 」
と 右手に絡めた色違いの部分の髪をしゅるりとラーゼスの首に軽く巻き付け
恫喝する。
「リゼシア様、 このラーゼス何なりと貴女様のお傍に」
と丁寧にスカートを摘み脚を交差させ深く腰を落とす
「ふん」
と鼻をならし顎をしゃくり乗車を促される。
馬車に、二人は見た目少女の、一人は妙齢のケット族の女性が乗り込む
この惨状は当然、ラトアの目にも入りギルドに調査依頼が出されたのは
リゼシアの人払いの術が解けて シーア達がギアトレスに航った後である。
フラウは、講習でも少し皆より行動が鈍かった おそかれ早かれこうなる事は
ラトアですら気付いていた ......があまりにも逝くには早過ぎた
こんな惨状になるまで、彼女は何故いたぶられなければならなかったのか?
ラトアには、どうしても思いつかず丁寧に弔ってやる事しか出来なかった。
でもそんな若者に適正が無いとは 本人が講習を希望してきた以上
断ることは出来ない
術師として冒険者として、危険に飛び込む事を望んだのは彼女自身なのだから。
わたしは、大賢者ランドルフの執務室でランドルフが到着するのをお茶を飲みながら
待機していた。
「えっとねぇ 師はもうすぐ来るわ 準備っていったっけ? 」
「えぇノアさん 今回は大規模討伐隊依頼を お願いしたくて」
「あぁ その事ね ......で報酬はどうする? 彼らって貴女もそうだけど
冒険者っておカネで動くのが多いのよ
まして、今回は未知の場所、結構な額でないと来ないかもよ」
「えぇ それなら 今回はコレくらいで
おカネは等割で、武具や防具等は全て権利を放棄します」
と書付けに20人位を想定した報酬金額を書いて渡す
これはミーアとビヨンと相談して決めた額である
特にミーアはをわたしより経験している事もあり
冒険者が飛びつく額を的確に出してくれた。
「うわ すごい額ね 大丈夫? 」
とノアも心配顔をしていたが
既にある莫大な資産からすれば調度家具一式よりちょっと多いくらいである
ノアは首肯し
「貴女達が航ったらすぐに依頼を出しておくわね あ師・ランドルフお勤め
お疲れでした」
と見知った半人半魔の大賢者 ランドルフ そのヒトである。
「おや シーア君待たせたね ルベルト岩礁帯の件で 離れていてね
ケモールに君の事話したら
((( 是非、訪れたら歓待したい むくつけき漢達と恋する乙女の地 は
貴女も魅了する事となるだろう )))
と言っていてね
あの漢にしては珍しく 言葉をきちんと伝えろ と五月蝿かったよ ははは」
「あのう 以前討滅した硝子竜の素材の件ですが
いま此処で取り出しても? 」
わたしは、”アガテ”連峰での戦闘で得られた
硝子竜の素材のうち
蒼き宝珠・逆鱗を除く全ての素材を広い大部屋に取り出した
「いつみても その小鞄いいのぅ 儂もほしいの」
「だめですよ ランドルフ様ったら直ぐ子供みたいに欲しがるんですから」
「ふぉふぉ 御前さんには言われたくないの ノア
お主の目は既に 目の前のお宝にいっておろう」
「てへへ 師は何でもお見通しだわ でも凄いなこれ
ドラコ族の素材丸々有るじゃない しかも”血”まで 魔術師なら
香水瓶くらいの量とだったとしても全財を投げ打つ輩も出るでしょうね」
「あと 遺産の娘が素材一つ二つ欲しいらしいので ね フィーリアちゃん」
と呼ぶと
辺りに ザーっ と霜が降り チフェーリアが出てきた
「うわ 此処暑いわ おねーさまの傍いていい? 」
「えぇ いいわ傍にいらっしゃい」
言うと彼女:チフェーリアは直ぐ様スカートを掴み 腰に腕を回す
今はだんだん空気が暑くなる時候である
わたしに抱きついたまま一層冷気を強くするが
そんなには冷たく感じなかった。
「こうやっても平気なのって ”レオ”ちゃんと”リンリル”ちゃんだけ
全ての者は凍てつき一人としてこうやって 尚、動けるものはいなかった
寂しかった
抱き付きたかった
だから シーおねーさまが好き こうやっても平気なのって初めてなんだもん」
全てを凍て付かせる彼女は抱きついても尚 平気な存在は
そあのレオフィールと大氷狼しか居なかった
でも 今は違う 抱きついても凍て付かず優しく受け止めてくれる
シーアという存在が目の前にいるのだから。
「こんな”辛気臭い”のはもう止め
うんとね フェーリアねえ硝子竜の尾とねぇ硝子竜のウロコ10有れば
後は好きにして良いわ
それと 皮 外套を3人分作る位有ればあとはあげる
鱗や皮といっても竜一頭分であり一つ一つが巨大であった。
「皮 これで外套を? 」
「そう おねーさまとミーア・ビヨンの分 これで造った外套はね
気配を極力控える効果があるし 何時でも好きな柄に変える事が出来るのよ
だからね お花柄にだって周りの景色にだってなるのよ
有れば便利よ お手入れも要らないし」
私は嬉しかった、なぜなら空を一緒に
飛ぶことは叶わなかったがこうして 共に旅を彼:レオフィールと歩めるのだ
思わぬ形で夢が叶う。
「遺産の少女:チフェーリア様 本当によろしいので? 」
とランドルフ
「えぇ いいわ 後は好きにしなさい ちゃんと代金は払いなさいよ」
「ふぉふぉ 分かっておる みすみすこんな素材見逃す手はないわ
しかし 一括は流石に無理じゃ 分割でならどうじゃ」
と分割回数えと額を示されるが 良くわからない
「シーちゃん どれどれ へぇ 言い額を提示してきたわね
これならレオちゃんも満足するかなぁ? 」
とミーアが言うも チフェーリアは
「私に聞かないで フェーリアはおねーさまがいいと言うならそれでいいもの
それより早く素材で武器や寝台作りたいの レヴィアに持って来させて貰っていい? 」
とチフェーリアは浮き足立っていて居ても立っても居られないらしい。
「いいわ 後で持って行かせるから」
と言うがが早いか
「もう 暑いのはイヤっ!! 」
と掻き消える。
「皮 どうするかの? 我等のローブ造りの裁縫職人なら半日あれば
仕立て上げることも出来るがの? 」
「えぇ お願いします」
と言って前々から考えていた意匠の書付けを三人それぞれ渡す。
「これで取引は終了じゃ 暫くは此処の運用も安泰じゃの
と正式に取引が終了し
硝子竜の骨 多数
蒼白き竜の血 大樽3樽
硝子竜のウロコ 多数
硝子竜の牙 多数
硝子竜の爪 多数
硝子竜の皮 竜一頭分 外套分除く
の明細がギルドの記録に登録される。
某大陸某場所
此処は世界中のギルドの取引の情報が集約する場所
魔器に映し出された文字列を見つめる
長いストレートロングの緋色の髪、瞳はラベンダー
唇は赤、如何にも秘書官らしいスラリとした背格好で
ブラウス・スカートに別れたツーピース、脚には黒いタイツ
靴も動きやすいような踊り子のようなパンプスの
一人の女性秘書官がいた。
「ほぉん? 珍しいな 硝子竜の素材か
こんなん 珍しいモンが取引されるなんてよぉ 幾星霜ぶり”だぜ”
こりゃ”兄貴”に報告だな アイツも社交界で”令嬢ごっこ”などしてねぇで
少しは”オレ”のように実利的な事しろってんだよ」
と下卑た調子の男の声が小振りな唇から漏れていた。
この”女性”秘書官は流れの秘書官で先頃ある会合に出席いた一人であり
妙齢の女性などでなく深くギルド上層部に”女性秘書官”として
潜り込んで暗躍している”男性”である。
さらりと”嫋やかな手付きで髪を梳り
魔器を操作
パラパラと書類をめくる様はどうやっても男性には見えない
”優秀な女性秘書官”そのものの姿だった。
この男 表向きでは、”優秀な女性秘書官”として
ギルド上層部に深く潜り込み立場を利用して闇の手勢に数々の情報を
売り同じ職場の女性秘書官をその劣情の犠牲にしてきていた。
優秀な流れの女性秘書官としてあの ”ドリエル” にも従いたことさえあるのだ。
「......君 遅くまでご苦労 どうかねそれが終わったら 一杯引っ掛けないかね」
とエールを飲む仕草。
「あら わたくし、仕事が恋人でしてよ 殿方のお誘いはお受け出来ませんし
流れの身と致しましても 節操なく殿方とお付き合いして
軽くも見られたく有りませんの 悪しからず」
とさらりと誘いを断る。
同然、女性の声に切り替えて喋り仕草も完璧であった。
よしんば男と看破されても”確実”に始末してきている
この点でも優秀で表沙汰になったことはない。
そして同僚の女性秘書官を劣情の赴くまま蹂躙してもいた そんなゲスであり
そして頃合いを見計いまた別の職場へと流れていく
そんな男だった。
半日は、過ぎ夕刻 塔の天辺では開いた 記念柱が淡く輝いている
可愛い外套を受け取り念の為に大量の癒しの水薬
各種晶石類を買い込む。
大規模討伐隊依頼も発行した
大規模討伐隊とノアも後を追ってやってくるだろう
「シーア殿 頼み置くぞ 後は言わん貴女のご武運を祈させてもらおう」
とランドルフ
「このシーアの名に恥じぬ結果を持って参ります」
とシーア・クローティア・ミーア・ビヨン・ロムルスそれに遅れて到着したヤンス
シセラは手の甲の紋に戻っている。
計六名の一行は記念柱に触れる
〽 繋げ、繫ぎ、絆ぐ者
......
〽 此方より彼方へ、異界の途を開かん
〽 円環の繭よ、彼の地、彼の場所、彼の刻へ送り給う也や
......
......
〽 女神:リーンの息吹によって
遠ざかるランドルフの詠唱
辺りの景色がブレる
一行は繭状に織り込まれた 文字列の帯に守られ
ネグリール北東上空を目指す
(少なくともシーアの体感であるが)
文字列の帯の隙間から垣間見える空間は真っ青な隧道の様である。
管状の壁面にはシーアすら解読不能な 文字列の帯が張り付いて時には現れ時に、消える
初めて見る、神秘的な光景だった。 音も無く匂いも無く有るのは静謐のみ
やがて出口らしき光点が大きくなり辺りを包む
気がつくとわたし達は 一面灰の世界 碧の樹々は灰を被り色がくすんでいる
しゅわり しゅわり
歩く度、灰が溶けるように消えゆき そしてまた、積もっていく
そして目の前には、巨大な生物の冥骸石(化石)が伏せて横たわり
頭蓋の大部分は地面に埋まり全貌は知ることが出来ない
その 冥骸石を基盤にして多くの尖塔や聖堂らしき建物がへばり付く
そして ”檻”のようになった肋骨の中央に一際豪奢な尖塔群が立ち並ぶ
「すごい」
わたしはこの一言を出すので精一杯だった。
「私もよシーちゃん こんな光景を見ることが叶うなんて 冒険者になって良かった」
[ すべて未知 未知です お父様に直に見せたかった ]
『うむ、タフタル大陸の一部がよもや、こんなことに成っていようとは』
「すげぇ あっし嬉しいでやんす シーア様に従いてこなきゃ こんな光景みれなかったでやんす」
『おう 俺様もだぜ 樹のままじゃこんなトコこれねぇし 目ん玉ついてなきゃ
こんな光景見ることも叶わんかったぜ』
とロムルスは沢山ついている目をきょろきょろ動かす
「わぉ、いい土産話が出来そうよシーア」
と半実体化したシセラが言う
皆一同、驚きと感嘆の言葉は様々だが一つ共通して言えるのは、
ここが結界の揺らぎ時しか途は開かず
長年、外界から閉ざされてきた”封印地域ギアトレス”と呼ばれ、
目の前に横たわる冥骸石は、”冥骸都市ユクントス”である ということである。
シーア達は、此処が閉ざされてから初めて正規の手段で訪れた
最初の一行になったのである。
次回 69話 そして”神の座” アプレントへ
お楽しみに
活動報告に イアゼーラ・クレモールとリゼシアを掲載しました
みてみんに飛びます
別名義で 銀の葬送師と半妖の公爵令嬢 (恋愛物) も連載を開始しております
2018/07/05
作中の諺・慣用句について 初版 を活動報告に掲載しました
テキストフレーバーとしてお楽しみ下さい




