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オルティア・レコード  作者: 南 泉
二章 〜 魔女と小さな銀の鍵 〜 ベルゼ浮遊大陸編 第一部
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67話 愚者の紛糾と狂宴の贄

ネグリールギルド 密談室内


「うむ、 ”先触れ”を斃したそうじゃないか? 」

「いや、 我輩では有りませぬ フォルネウス殿 

シーアなる娘がヤツを従僕のともがらにしたのであります」


 偉丈夫な老紳士風が一人、そして長身痩躯の面長の顔、やや冷たい印象の目

癖の有るパウダーブルーのセミロングの男性が一人

和やかな空気の中、対面していた。


「ほぅ、ヤツは彼の者の手に堕ちたか やはり我々、魔族が注目に値する少女」

「我々? 」

ニラウスは、彼が単独で動いていると思っていた。


 何より、彼に声をかけてきた時も ”先触れ” を討伐しようにも他には誰も居ず

誰かが名乗りを上げたと知って

慌ててギルドに到着したときにはもう締め切っていて途方にくれていた所 

彼:フォルネウスが 特別に仲介してくれたのである

後で、調査団の後ろスポンサーと知ったがこの時は

勿論、知る由もない。

 

 その彼が ”我々” と言ったのである。

「うむそうだな 我が盟主:ハデスとその娘我があるじではあるが、

皇女:セレーシア・トレーシア両御君りょうおんきみ は大変な興味を示されておってな

特に、我が姫君達は邂逅も果たさぬ内に

盟友の契りまで結びたいとまでこのオレに懇願されてな

先ずは、彼の者の実力を見極めわん為、

だれも彼の者以外が名乗りを上げぬよう 細工をしたのだ

そこへちょうど 吟遊詩人の巨大な連合組織: 詩う鶏と沈むハチドリ の

お主がやって来たのだ」

「それと我輩とどのような関係が? 」

ニラウスは真意を解釈しかねていると、

「全く、お誂え向きではないか 彼の少女に加勢するのが

世界の ”生きた” 情報を扱う吟遊詩人ともなれば 言わずものがな」

「その真意は? 」

「まだ、分からぬか? お主は彼の少女を詩にして世間に広める

そうすると只人共が市井で噂する、お前さんはそれを情報ネタにしたり

自分の目で確かめるだろ

更に今度はオレは御前さんから労せず彼の少女の動向を、何時でも探れるってわけさ」

ニラウスはまだ言いたそうなフォルネウスの次の言葉を待つ。


「それとな、明日なんだが改めて提案がある」

とフォルネウスの目がギラリと輝く


「明日の、調査の後のお前との契約だがな

これは財の対価とは別の話だ」

ニラウスは途端に緊張する。


「万が一つにでもだな 魔獣:リンディールから熱い”接吻”を受けて瀕死になってもオレはお前を

何が何でも生かしてやる。 

さすれば、彼の少女に又邂逅も叶うし


 それに

お前は定命のことわりからも外れ

そのドラコ族と永遠の旅も叶うぞ

あの少女は”冥魔”ということはもう看破しておろう? 」

ニラウスは冷汗を垂らして首肯する。


「だから、お前は生命を気にせず魔獣:リンディールに安心して介錯出来るという

享受メリットを受けられるのだぞ さぁどうする?

オレの言葉を信じて乗るか? 

それとも及び腰で自ら介錯も出来ずに全てオレ任せで指を咥えているか?

そして、いずれ定命のことわりを迎えそのドラコ族とも死に別れ

永遠の流浪たる吟遊詩人の夢をついえさせるか? 」


まさに魔族らしい提案である


全てを彼に任せ定命のことわりがくるまで旅を続けるか?

勿論、長命種族のエル族たる彼も何れは、ことわりを迎える

相棒とは、一緒の旅は叶わない


もう一つの選択肢は、少しでもリンディールにこの手で介錯をくだし

”もし”瀕死の重症を負えば、魔族の能力ちからで助かり

定命のことわりを気にしない旅を旅を続けるか?


何れにせよ、形見の品は手元に来るのは違いないが


「そのたっ 対価は? 」

これだけの提案である

躰の一部では済まされまい

場合に依っては死神を仲介せずに魔族の傀儡かいらいに成り果てるかも知れない

こうなると、今の姿はなくなり意思も自我もない魔物に成り果てるだろう

丁度彼の想い人のように


{おい ニラウスよぉ どうすんだ? オレはお前の意思を尊重するがな

テメェがバケモンになっても従いていってやるけどよぉ

あのムスメから逆に討伐される立場になるやも知れんぞ

オレとしては勘弁願いたいところだがな}


 と遠回しに拒否の姿勢である

しかし、ニラウスはっきり言う

「我輩は、我輩の為に生き我輩の為に死ぬ覚悟

フォルネウス殿の傀儡かいらいになっても構わまい

先の提案 お受けいたしまする」

{うわっ 本気だぜこのヒト 後は知らん}

と完全に口を閉じてしまった


「ガハッハハ よう言うた 普通は此処でションベン漏らす局面だがな

オレとしてもそんなバケモンの使い魔なんぞいらねぇ

どうせなら ”遺産の少女ライブ・アーティファクト” 共ぐらいでないと割に合わん」

「”遺産の少女ライブ・アーティファクト”? 」

ニラウスは聞きなれない単語に反応する。

「おっと、今のは失言だ 忘れてくんな ......で 対価の話なんだがな」

ここで たっぷり間が空く。


......


「対価は ”彼の少女” に関する情報一つ漏らさずオレに提供する

これ一点で良い 勿論、御前さんも商売があるだろう

只人どもにもくれてやっていい

オレが欲しいのは、 ”脚色” なしの情報だぜ

世間にはつまびらか出来ん情報だな

定量ノルマもなしでいい

各大陸や秘匿地域等の出入りの手配はオレがちくとは

手を貸してやる。


 どうだ? 魔族との取引にしちゃ美味しい ”対価”だろ 

無論、断ってもいいぜ 他の吟遊詩人に頼むだけだ

だがな、今の契約に関する事は綺麗サッパリ忘れてもらう いいな」

 

 と、

どうしても ”断れない” 状況が積み上がっていく。

ニラウスは、首肯する

「おし、 その首肯は ”是” と受ける取るがいいな? 」

ともう一度首肯。

「いいだろう 明日はオレも手伝うが安心して介錯してやれ これで俺様もずっと 情報を

得られるって訳だな」

と彼の頭の中には既にニラウスが”瀕死”の接吻を受け再誕の儀を行うことまで

折込み済みのような発言をする。

些か、魔族の狡猾な誘導に、ニラウスも 

してやられた感が強かったが、首肯した以上無かった事には出来ない

最後の覚悟を顔には出さず、フォルネウスの言葉を待った。


「さぁ親指を出せ 血の密儀をやる」

双方蟷螂蜂カマキリバチの刃で切れ込みを入れ

血を出し押し付け合う

「これが魔族流だ 今回は ”永遠” の契約だからな羊皮紙なんぞ

この限りにおいては物の役にも立たん

まぁ今夜は酒でも飲んでゆっくり休め オレは、出不精な皇女様の手足代わりに

あれやこれや忙しんでな 後この密談室の費用はオレが払っておいてやる

言い忘れたが ここの支払いの ”対価” はいらん いい返事を貰った奢りだぜ」

と言って扉から出ていきかけ ピタリ と脚を止めた。


「それとな、 今代の薬師の祖でもあり古巫女術ドルイドの礎を築いた人物リンディール

としての名誉も守ってやる

オレが斃すのはあくまで、魔獣:リンディールだ 任せとけ」

と片目を瞑り歯をちらつかせた。


 ニラウスは途端に、年甲斐もなく大きな嗚咽を漏らし男泣きに泣いた


{良かったな これで、オメェも介錯を目標せず吟遊詩人本来の旅が出来るな

今までは、裏の顔は楽しそうでは無かったようだからな}

「あ ...... そ そうだな わ、我輩もようやく これで...... 」

とまた嗚咽を漏らす。

{まだ、結果は出てねぇし どう転ぶかも分かんねぇが

まずは、酒でも飲もうぜ お足も酒代と安物の乾燥腸詰のさかな代ぐらいは有るしな}


と ドランに 乾燥した空気の息吹ブレスを優しく吹きかけられて

下の酒場に足を運んだのである。



 彼らと別れた後、わたしはネグリールのギルドに向かう

ニケル は相変わらず若い女性に声を掛けまくっていた。


「おぅ、シーアさんか 無事依頼は成功したようだな

今回は ちょいと報酬は少ねぇが我慢してくんなよ ってそこのケット族の女

アンタ付きのメイド? 」

「えぇ、あのときは居なかったけど ミーアお姉さま この一行パーティー治癒役ヒール

メイドも兼任しているの」

「うひょう いい女だな あんた、ミーアっていったっけ? 」

ミーアはまだ本調子ではないものの

「そうよ わたしはミーアっていうの 今回はわたしの体たらくのせいで

シーちゃん、一度敗走しちゃったわ」

と弱々しい声で答える。


「いんや、そこは気にしなくていい 冒険者ってのは敗走も立派な”経験”のうちだぜ

オメェさんも冒険者なら一度や二度は有るはずだ

結果を此処に持ってくる これが重要だぜ

まぁ中には躰の一部を喪うヤツもいるがそれでも ......だ」

と酒場にいる 義足の大男にチラリと目配せをする

「それはそうだけど シーちゃんに汚点を付けてしまったわ」

まさかミーアからこんな言葉が出てくるなんて わたしはびっくりしていた 

今まで、汚点を付けまいと躍起になっていたのを此処で初めて知って

彼女に大きな心労を掛けていた事に初めて気付いたのである。

こんなわたしの表情を見たのかミーアは


「シーちゃんは気にしなくてよかったのに これは私の性分みたいなものよ

でも少しお休みしたいな」

とやはり先ほどのちょっとのレフィキア内での休息くらいでは足りなかったらしい

ふらついてビヨンに支えられていた。


「おぅ、無理はいかんぜ ゆっくり休みな もう夜も深くなってきやがったからな

例の結晶体は無事手に入ったんだろ 後で裏の鑑定室で見せてくんな

これは決りでなブツを確認しなきゃなんねえからな

此処に見えないが、一級遺物の小鞄ポシェットかそれ? 」

とわたしの愛用のカスミ草柄のを指し示した。


「まぁ、その小鞄ポシェットに一級遺物を仕込んでんだろ? 」

どうやら彼は、小鞄ポシェットに一級遺物で細工をしていると思い込んでいるらしい

詳しく説明しても面倒事を増やすだけである


「そうよ お祖父様の収集品にあったのを形見で譲り受けたわ

これをお気に入りに仕込んだの」

存在しない ”お祖父様” はこんな場合の方便には大変都合が良かった。

「へぇ いいもんだな オレも財あるウチに生まれたかったぜ っと 

そこのミーアが やばそうだな 明日でいいから 今夜は上で宿とりな

此処は、男女別棟式だ、男女混用もあるが今夜 ”も” 満室でな

シーア達も別棟式のほうがいいだろ? 」

と言ってくれたので 激しく首を縦にふる。

「運ぶのはそこの オートマト でいいな 男は立入り出来ねぇし」

とビヨンをさした。


「おぃ、あれ オートマトだってよ ベルゼ(ここ)じゃ珍しいな」

「でもよ ほんとにオートマトかよ どうみてもヒトのオンナノコじゃね? 」

「ニケルのヤツがそう言ったんならそうだろ」

「あぁ、ヤツは受付やっているからな、ヒトを見る目は確かだ」

「なんだって 大金持ちのお嬢さまが冒険者やってるんだ」

「さぁな オレが知るかよ」

「あのケット族の娘も大変だな お嬢さまの道楽に付き合わされてされてよぉ」

と散々なオートマトに対する物言いは此処でも変わらなかった


「赦せな シーア オレが余計な一言いっちまってよ」

と普段の にへら顔が沈んでいた。

[ いいですよ ニケル 貴男の発言のせいではないですよ ビヨン達

オートマトに対する一般的な反応です 悔しい という感情は励起されません ]

と言う

「すげぇ、まるで本物のオンナノコみてぇだな オレは誰でも構わんし

どんな奇抜な格好なりでも 冒険者は結果が全てだ

動いて喋り知性が有り人語を理解出来るヤツに貴籤きせんはねぇ」

とあっけらかんとした感じに言う。


「おぃ”3人”用の部屋あるか? 女性用だ」

と奥に声をかける

「あるよ、残り二部屋は空きあるよ で一部屋でいいかい?」

と年齢のいった声が帰ってきた

「あぁ、 一部屋でいいから確保してくれ あと鍵もだ」

「あいよ」


 とひょいと奥から鍵らしきモノがニケルの手にほうられた

それを視線も動かさず受け取り

「女性用は白塗りの建てもんだ、入ったら係の女に渡して案内してもらいな」

と件の建物を見つけ案内を受けて二階の部屋に入ると

すぐミーアは寝台に横に成りビヨンに靴や衣服を脱がせてもらって

すぐ深い寝息が聞こえて来ていた


わたしはまだ眠くは無く、今後について色々想いを巡らせていた。


「ごめん、クローティア今夜は一人にして こんな時でも血が欲しいの

でもミーアお姉さまのは我慢するわ」

『あぁ 言わずとも良い ゆっくりしてくるがええ 血は程々にな』

何とは無しに察してくれたらしい 後の言葉は無かった。


 わたしは、宿の窓からパーピリオの翅を広げて夜の街へ溶け込んだ

血の匂いに誘われて ”吸血樹の根” が早くもざわめく

爽やかな薄荷ハッカ飴の香いを頼りに一人の少女を見つけ

魅了チャームで虚ろになったところを喉元に牙を立てる


んん...... っ んっんっ ぁあぁ... ...ん

 

「おねーさまぁあん 素敵」

とか細い嬌声を出す唇を軽く塞ぐ


 ツプリ と牙を立て

こくりこくり とゆっくり薄荷飴を舐めるように嗜む ツツーー と

紅い糸が疵口から溢れる それを丁寧に舐め取ると

可愛い少女は一際大きくブルリと震え、気を失った


「うふふ、貴女の血 美味しかったわ 名も知らない少女さん」

とあの研修生の ”フラウ” を路地に座らせ

彼女が目を醒ますまで効果がある人払いの術を張り夜の空に翔びたつ。


 薄荷味の血は口腔内に清涼な感触をもたらし大変美味であった

「あぁん、美味し♡ シセラ居る? 」

と思わず嬌声が漏れ出ててしまう。


「えぇ、シーアここに」

といつの間にやらわたしの横を翔んでいた

「ミーアの事だけどね あの真面目だからね 貴女の為と思ってついりきんじゃうのね

でもね、あのなりに満足してるはずよ

それと、貴女 ”混沌” まで傀儡かいらいにするのね

今まで、魔女元で育ってきたけどこんなの初めてよ」

と唐突にミーアの話題を切り出してきていた。


「混沌? 」

また聞きなれない単語がシセラの口から飛び出した


「そうねぇ 昔々、ヒトの悪意や嫉妬や妬みなどが今よりも少なかった時代

ある神族がその浄化を一手に引き受けていました。

 時代が進み

いろんな種族が産まれそして、諍いも起きた


 そうして膨れ上がった悪意や嫉妬や妬みをその神族は引受けきれなくなった

結果、この世界に混沌・淀みが産まれた アレはその浄化しきれなかった極々一部よ」

「それお伽噺? 」

彼女の語り口調で説明するその話は

わたしにはただ漫然としたお伽噺のような聞き心地であった。


 わたしには、神族と言われても頭に浮かぶのは絵本や古書に描かれた

両翼のある幼子の人物達しか浮かばなかった。


「そっ、 お伽噺...... かな 貴女にとっては」


とやや含みがある言い方ではあったが 彼女の返答はそれきりであり

この時はまだよくある創世神話の一部と思っていった

「そう? 」

疑問形の返事には答えず

「そう でもアレを手懐けた以上貴女、覚悟なさい

ちょっかいを出して干渉してくる輩は今まで以上よ

休息は今のウチよ シーア」

と何やら警告のような本気とも取れる絶妙な言い回しであった。

「えぇ、分かったわ 今はやれるだけやるしかないもの」

薄荷ハッカ味の血で満足なわたしは、強気な返事をシセラに返したでのある。


「ふふ、貴女らしいこと ますます気に入ったわ」

といきなり唇を奪われいつぞやの遊覧の様に

シセラと空中で淫靡な戯れを愉しんだ。


 シーアが翔びたった後、

『ミーアよ あ奴は、行ったぞ 起きておるのだろ? 』

と寝ているミーアに声を掛けた。

「流石は、クローティア様シーちゃんみたいに誤魔化しは効かないわね」

実は、ミーアの意識は瞭然はっきりと覚醒しており

躰は気怠いものの意識が沈む程では無かった。

目を開けクローティアに視線を合わせる。


『済まぬ、お主にはあの呪文はきつかったかの? 

あのままでは、流石に儂も介入せざるを得なかった』

あの時、シーアの意識が持っていかれそうになった

刹那、禁呪に近い呪文スペルをクローティアはミーアの意識に送ったのである


「いえ、もう済んだことだしシーちゃん無事だったもの」

ビヨン、ロムルスはやれやれと肩を竦めた ロムルスは肩らしき部位ではあったが。


『まだ 遺産の少女ライブ・アーティファクトには慣れんか? 』

「えぇ、シーちゃんは気軽に接しているけど、あの達の価値観についていけなくて」

と最近の心労の一つでもあった遺産の少女ライブ・アーティファクトとの

価値観の違いに戸惑っていた事を、初めて吐露したのである。

 特に彼女等の”嗜好品”には戸惑いが多い

目玉、生骨、氷漬けの心の臓とお凡そ一般的な嗜好品ではないのは

誰から見ても明らかである。


 しかもこのような”少女”達がまだ沢山いて

彼女等ライブ・アーティファクトがまだ姉妹を欲しがっている点である。

『まぁ シーアはあっさり受け入れているがアレはアレで変じゃぞ

ラヴィアのヤツが”生骨”を欲しがった時も躊躇いも驚きもせず 真剣に入手先を考えておった

彼奴の男時代は知らんがもともと分け隔てない思想の持ち主か

それとも”ホムンクルス”などという、一属一種族故の寂しさかも知れんがな』


 シーアがシアズだった時はどうだっただろうか?

ヒム族男性としての彼は、私:ミーア基準でも普通だった様にも思える

ただ ”彼” には異種族である自分ミーアを妙に引き付ける何かがあったのは間違いない

黙って見ていられない そんな気を起こさせるのである

 そんな空気を彼は纏わせていた。


 そしてそれは彼が彼女になった今も変わらない

との考えが及んだときミーアは、彼の容姿ではなく彼の ”魂” に惹かれたのだと

此処で初めて実感したのである。


 クローティアは黙考しているミーアに言葉を覆いかぶせる

『まぁ、価値観の違いなどそうそう慣れるのではない あ奴ら(ライブ・アーティファクト)共も

恫喝気味な言葉をふっ掛けることはあってもな お主に手は出さんじゃろ? 』

クローティアは一日の大半をシーアの髪に埋もれる様に引っ付いていながら

ライブ・アーティファクト達がやや恫喝気味にお菓子や小遣いを要求したりしていたのを

ちゃんと看破していたのである。


「そっそれは、シーちゃんは言わないで」

『勿論じゃとも』

クローティアが他言無用を担保した。


 ミーアは内心つい、誘導されて答えてしまった自分自身に後悔しながらも

今の言葉で気落ちが軽くなったのである。

『それと、もう一つ言っておかねばならんことがある』

とやけに真剣な口調で言ったシーアに内在する”獣”の話を聞いた時は

流石のミーアも自身の尻尾と耳の毛が総毛立つのを隠し切れなかった

そして、この世界にはライブ・アーティファクト以上に気難しい ”少女” が数種存在する事も

告げられた

「シーちゃんには そのことを言わないの? 」

このような話はシーアが一番食いつきが良いだろうに何故

自身に向けられたのかクローティアの真意を図りかねていた。


『あ奴には、あ奴なりに目標を持って貰いたいのじゃ 今言った事は

あ奴が旅をする上でで自ずと知ることじゃろし、どうするかはシーア次第じゃからの

敢えて言わんでおる』 

クローティアはやけに ”目指すべきもの” に関しては独自のこだわりがあるようだ。


 幾々星霜も無味乾燥な生き様を晒してきたクローティア自身の自嘲を込めた

クローティアなりのこだわりであるのだが

ミーアの若い生い立ちでは到底理解出来ないことである。


『今は、疲れてもいるじゃろうしまだ動けない ”振り” をしとくが良かろ』

「えぇ、ありがとね クロちゃん」

『ふん、ようやく お主も砕けてきたようじゃ』

「ふふ 二人きりのときだけよ」

とミーアは、柔らかい寝台にビヨンに優しく耳や頭を撫でられ意識を沈ませた

机にはシーアから貰ったいつも身につけている念話の耳飾りが二つ置いてあった。


 

 女神:リーンが下界に降り立った神界:ユクラシア


「兄上、母上が下界に降りられたら いよいよ末弟が動くのでは? 」

「おぅ、それはオレ様も考えていたトコよ」

彼ら3人のリーンの子供達にはじつはもう一人 ”男性” の姿を与えられたクロノーラの

”弟” がいたのである

「母上も ヤツに酷な事をしたものですね 世界の悪意や嫉妬や妬みの浄化を

彼に全部押し付けるなど 種族が増え人口が増えると諍いの種がそれだけでも

増えるというのに」

とやや 心配顔のハグスールである

「一言多いのは後は言わんがな ヤツはもう墜ちてしまった しかも ......だ

コイツのおかげて すっかり女の格好なりになってしまってよぉ

せっかく 美少年の姿を母上に貰っておきながらよぉ」

とアグストは 側らで ”お人形遊び” をしている クロノーラの頭を強めにぐりぐり

こじった。


「ぶーっ ハグ兄ぃまたアグ兄ぃがーーっ」

薄衣うすぎぬのドレスを翻しハグスールの長衣にしがみつく

「クロノーラ こればかりはわたしも兄上と同じ意見ですね

いくら似合うからとはいえ”弟”に下界の少女の服を着せて遊ぶなんて

感心しませんね」

「えへへっ だって動かない ”お人形” よりセシリスちゃんの方が似合うんだもん」

「えへへっ じゃねぇだろ え・へ・へ・じゃ おかげですっかり女じゃねぇか ありゃあよぉ

オレは、あんなんは弟とは認めねぇ」

とアグスト。


「しかも セシリスの名まで棄てるなんて私達の汚点ですね」

「おぃ、 その名をここで言うのは止せ クロノーラおめぇもだ」

「おっと、すみません兄上 ”冷静沈着” なわたしですらつい

口に出してしまいました アレでも身内ですからね

墜ちて、我等神族とは異なるモノに成り果てて ......もです」

「うぅ〜っ ごめんなさい」

といつもは憎まれ口を言うクロノーラも素直に謝る。


 末弟の名:セシリスの名は墜ちた神族として神族間でもおいそれとは口に出せない

禁忌の名でもあった。


「そりゃ そうだかよぉ 所でクロノーラ 冥刻の玩具箱めいこくのおもちゃばこ の管理はちゃんと

してんだろうな? 」

「もっ もちろん ......よ 玩具はうっかり 下界には落とさないように かんり してるわ」

とあたふたと弁解するクロノーラ。


「でもでも、アグ兄ぃだって 下界に”刺激”があるのはうれしーんでしょ  

なんていったって かかたいのかみ なんだもんねーっ♡ 」

とにこにこ顔で悪びれた様子もない

「ちっ 反省どころか今度は開き直りかよ いいタマだぜ」

「ぶーっ クロノに ”タマ” なんてないもん」

「その ”タマ” じゃねぇよ 全くよぉ もうオレの負けでいい 口喧嘩は女が上ってか

腕っ節ならオレ様が上だがな、可愛いテメェには指一本手出しはしねぇ なんつったって

オレは兄貴だからな そこは弁えてらぁ 

まぁなんだ その今出している ”お人形” も後片付けはちゃんとするんだぞ」

といかつい顔付きを何処か綻ばせなら頭をぐりぐり撫でる。

「またー かみのけ いたんじゃうぅーーっ 」

とさっとハグスールの後ろに隠れてしまった

  

 この 冥刻の玩具箱めいこくのおもちゃばこ は積み重なった歴史や時代で闇に葬られたモノや

”はぐれディーボ”や、絶滅古代魔物・遺物等がごちゃまぜになった匣である。


 そうした、刻に取り残された又は、滅ぶべくして亡んだ遺物や魔物、生物を

拾い上げ、後世に継がない様にするのも刻の女神であるクロノーラの管轄である 

こうして ”お人形” や布製の玩具に姿を変えた彼らは クロノーラの玩具としての

価値を見出されるのである。


 それでも、きちんと ”お片付け” をしないと神界から下界に落ちてしまい

下界ではそれが絶滅古代魔物が突然復活しただの、

亡びた神代級遺物が ”突然” 現れただの

として話題をふりまくのである

 

 そして

つい、数昼夜前にも ”混沌のゲルギル” の結晶体を落したばかりであった

尤も彼女の回収作業はあまり熱心ではないが。


「まぁ、でも先の話ですが母上が下界に降りたとなれば

彼が動くのは必至 策を練っておかねばなりますまい? 兄上」

「うむ、それはそうだな なぁ今でも ”やりとり” はないと信じているがヤツはどう思っているんだ

オレはヤツとはとしもあまりに離れているし なぁクロノーラぁ

ここの会話は母上には言わねぇ 

おめぇならとしも近ぇし知ってんだろ 正直に話せ なぁ? 」

「”セリシア” ちゃんなら おかーちゃま のこと はうらんではいないみたい

それに オンナノコの恰好させたのクロノーラだけではないもん

おかーちゃまだって セリシアってオンナノコの名で呼んでいたり、従者を使って下界から取り寄せた

オンナノコの服着せていたのを見たもん」

アグストとハグスールはほぼ同時に眉間を指で摘み呆れ顔で


「「母上も困った御人だ」」

とこれもほぼ同時。


「 ......でヤツはいま”セリシア”って名乗っているってか? 」

「そうよ しかも バルケモス大陸で結社までそひき(組織) ひてるの ......っ」

とここまで言って クロノーラは慌てて手で口を塞いだ。


「ほぅ? ”やりとり” してない割には随分と詳しいじゃねぇか

このことは母上には言わねぇと言った以上は黙るがな

後でオメェが ”聖牢” おくりになっても弁護は無しだ」

とアグストは口喧嘩に負けた腹癒せに意趣返しのつもりで言う。


「べーっ 刻の女神が ”聖牢” 送りに成ったら刻の進みがめちゃくちゃになるから

おかーちゃまはそんな事しないもん」

「また、オレの負けかよ ぁあ もぅ完敗だぜ」

と大袈裟に大声を上げる。


「兄上、まぁここは母上に任せておきませんか? 

”刺激” が欲しい兄上としては忸怩たる思いでしょうが

クロノーラの話を聞くに今からあれこれ策を講じても

我等としても徒労に終わるやも知れません そんな事に労力は今は割きたくありませんね」

とあっさりさっきの提案を引っ込めた

彼がこうして提案等を引っ込めることはアグストも今まで十数回しか経験ないほど

珍しかった。


「オメェまでそんな事を言うかね くそぅ 刺激が欲しいぜ 全くよぉ」

とつい本音を漏らしたアグストは取り繕う小細工無しに

「そうか、おめぇらがそういうことなら オレとしてもどうのこうのするつもりはねぇ

オレは二度と ”聖牢” 送りは御免こうむりたいからな

しょうがねぇ、天使共をしごいてくるか」

また事の先鞭を切ったとなれば、女神:リーンの御叱りが真っ先に向かうのは長兄たるアグストだからだ。

戦神が学能・技能の神より先に誕生し、神の兄妹達の長兄であることは

ヒトの歴史を皮肉っていた。


「兄上 」

とハグスール

「まだ、言い足りないか? 」

振り返りざまギロリとアグストは睨め付けつつも口元は薄笑みを浮かべていた。


「いえ 下級天使達はお手柔らかにお願いしますよ

わたしも、彼らの不平不満の嘆願書の山は見たくないのでね

余計な事務方処理は願い下げたいものです」

とハグスールも意趣返しのつもりか目を細め薄笑みで返す。


「相変わらずだな わぁってらぁな」

とアグストは大あくびを一つ 持ち場である尖塔群のある一角に戻った。


「ふぅ、わたしも先ずは静観するとしますか」

とこんな時も聖皮紙せいひしに目を通す事は滞っていなかった


 彼は一連の会話を次から次に手渡された聖皮紙せいひしを検めながら

こなしていたのである。


 そして パラパラ 流れるように検めていたが

ある報告書でピタリと動きが止まる。


 それには、つい最近世界魔樹ユグドラシルに珍しく”乱れ”があったというのだ

彼すら経験のない乱れが気になり従者にさらなる詳細を報告せよと指示を出し

検めの作業を続ける


 ハグスールが更に求めていたのは

それがどのような影響を及ぼすのか、それを引き起こしたのは誰かであり

細かい数値等はあくまで裏付けに過ぎない との意味合いを含んでいた

彼らの知見を重要視していたのである。


 こうして、知見がハグスールの関心を呼び現場を見に行って確かめて

実際に重要な事であったならその従者は優秀といえよう、

逆に、たいして重要な事でも無いことを大袈裟に知見を述べて

ハグスール自身が現場を確かめ、結局些事であり彼が

徒労を運べばその従者は無能ということになる。


ハグスールには、このようにアグストとはまた違う厳しさがあった。


 ピタリ・ピタリと三、四回その流れが止まりまた、報告書を抜き取り

「まぁ後はいいでしょう この抜き取った件は保留とさせて下さい 

厄介な事にならなければいいのですが」


 と抜き取った聖皮紙せいひしを検分していた。

彼らの使う言語は下界の共通人語ではない

神域言語が彼ら神族の共通言語である。


 聖皮紙せいひし数枚の文字数でも共通人語に翻訳するとあのアルカーナ

全部の書物くらいの情報量はゆうにある

そんな情報量を彼は楽々と ”いつも通り” 読みこなしていたのである。


「まぁ 彼が少女の恰好でセリシア等と女の名で名乗っても良いでしょう

彼には、母上が背負わせたモノが大き過ぎましたからね

彼に何も言わないのもそれを御承知でしょうからね

クロノ きちんとと片付けておいて下さいね

”うっかり” 下界に落としてしまったのなら仕方有りませんが ......ふふっ」

とニヤリとする。


「へぇ ハグ兄ぃも ”刺激” 欲しいんだぁ? 」

「ふふ、学問は無味乾燥、無刺激からは何も産まれません 

清濁の中から只人が藻掻き、足掻いて産まれるモノです

兄上の存在あっての私ですからね

それとわたしがこう言ったことは兄上には内緒ですよ」

長兄のアグストにはいつも皮肉を込めた物言いの彼であるが

珍しくアグストに賛辞を送った。


 いくさが一度起きれば、学問や技能もそれを期に飛躍的な発展を遂げる

兄(戦いの神)の存在無くしては、私(学問や技能の神)の存在もまた有りえない

これをハグスールも十分理解していた。


 そして、薄笑いを浮かべ片目を瞑る

「はぁ〜ぃ」

とクロノーラもまたお気に入りの四阿あずまやに戻る。

「さて、わたしもまた椅子を暖めねばなりませんね」

と巨大な建物に消えていった。



 すっかり寝息が深くなり完全に意識が沈んだミーアを見て

『まぁ、本来は此奴のように戸惑うのが”普通”じゃがの ......っ ......何じゃ今の気配

アヤツめ 近くに居るのか それとも ......っ どこからじゃ? 』

とクローティアは嘗て世界の覇権と支配領域をめぐり争ったもう一人の”蛇”

同じ世界蛇(ミズガルズの大蛇)から分かたれた”円環のウロボロス”の

クローティア同様、姿を固定する微かな気配を感じたのである。


 前史代初期、世界には女神リーンと世界蛇(ミズガルズの大蛇)の二種しか存在しなかった

世界蛇(ミズガルズの大蛇)を構成していた オーパーツコアがリーンも予想だにしない揺らぎを

見せ

一つは男性的特質を持った”円環のウロボロス”に

一つは女性的特質をもった”真なる旧き贄のクロウ・クルアハ

にそれぞれ分裂、そして三神さんしんによる世界のそれぞれの担当支配領域を巡り

争いが起きた

”円環のウロボロス”と”真なる旧き贄のクロウ・クルアハ”は

元は一つで男女の番の蛇である。


 そして、いち早く神界・人界(現界)を手中に収めたリーンをみてとった

二人の神は、互いを構成する数多くのオーパーツコアを犠牲にしながら

残りの支配域である魔界・冥界を巡りさらなる闘争を繰り広げたのである。

二つの支配域を双方でそれぞれ担当すればすんなりと丸く事が収まるものが

二つもモノにしたリーンをみて、おぞましい支配欲に急き立てられる


 (我も二つ支配域を手中に出来るのではないか) と。

こういう考えに囚われたらもう、意地の張り合いである

二つの領域を同時に支配せんと躍起になっていた。


 結果、クロウ・クルアハ”真なる旧き贄の蛇”は”真なる旧き円環の蛇”(ウロボロス)に圧され、多くの

構成体である幾数多のオーパーツコアを散逸させた。

この散逸させたコアこそ、ライブ・アーティファクト達の遺物の元になった物である


 散逸させた結果クローティアは真名を失いかけ

”真なる旧き贄の蛇”(クロウ・クルアハ)から”旧き贄の蛇”(クロゥ・クル)”へと

変成してしまう


そして、勝利を宣言した”円環のウロボロス”は支配域が神界・人界に次いで、

大きかった魔界を

敗北を認めた”旧き贄の蛇”(クロゥ・クル)”は一番狭い支配域の冥界をそれぞれ支配領域とした

 

 ウロボロスは決着が付いた途端姿を消し

その後、世界は”ディーボ”の脅威に時折曝される事となる

全ては、ウロボロスのしわざだと思っている”旧き贄の蛇”(クロゥ・クル)”は

その後の自身の思想の変化により激しく”円環のウロボロス”と対立する事となって今代に至る。


 番であるがゆえ偶に気配を感じる事が出来るのである

全く忌々しいが。


 これから、封印地域”ギアトレス”に向かう矢先に

”彼”が姿を完全に固定したその忌々しい気配を感じたのである。


 どのような”姿”で固定したのかまでは辿れなかったが

”ギアトレス”の封印を解いたシーアか内在する獣を巡り

いよいよ動き出したと見て良いとクローティアはそう判断した。


『あやつめ いよいよ我等に仕掛けてくるか シーアは絶対渡さぬぞ

更に添い遂げたい等とほざきおったら 

その性根ッ!! この儂が刺し違えてでも潰してやるわい』

とクローティアの躰が淡き燐光を放つ

辺りの床のゴミや椅子や机がピシリピシリと小さく爆ぜるが

ミーアには変化はない。


[ クローティア? マギが臨界を超えます このままでは ...... ]

とビヨンがすかさず忠告。


『おっと 済まんな アヤツの事となるとつい昂ぶってしもうてな 

一度は、面と向かって話す場を持ちたいものじゃが さてどうなるか?

あれから幾星霜、ヤツも無闇に吹っ掛けては来やせんだろうが

今代であのような争いはもう御免こうむりたいものじゃな

せっかくそれなりに、清濁が混じって聖も、 闇も、 冥も程よく均衡を保って居るのじゃからな

じゃが、一言恨み節だけは言わせてもらわんとな

何れ、シーアにも話さねばならぬ 本当に儂に要らぬ刺激を与えおってからにのぅ』

とまた遠くをぼんやり見ていた。



 同刻、遥か遠いバルケモス大陸でシーア好みの ”少女” に姿を固定した

円環の蛇ことウロボロスは クローティア同様世界の覇権等は

既にどうでも良くこのシーア好みの少女の姿で ”添い遂げる” それ一点のみの

行動原理に変化していた。


 そのために ”オスヘビ” としての特質を残しつつ可愛らしくも美しい少女へと一度きりの

変成を自ら施したのである

彼女の体内には普段は隠れている”形だけ”の男性のしるしがある

持っていた大杖を男性のしるしに変じ愛しきシーアの為にそれを備えたのである

躰は完全な少女であっても、形だけのソレのおかげで完全な少女体でありながら、

男性の劣情をも抱えこむ、奇妙な感覚と同居する事と成った。


 そして、バルケモスの銀の三日月の後継者”ミトラス”に継ぐべく

ウロレシアの名を与えてくれたケット族の”ソアラ”ととも暗黒馬4頭立ての大きな馬車で

移動していた。

「まったく嫌ねぇ せっかく可愛い少女の姿に変じても男の劣情と付き合うなんて

これもオスヘビの因果かしらね」

と今は体内に隠れていて外観はなんら女性と変わりない可愛いショーツにくるまれた股間を

見つめていた。


 この御者無き暗黒馬車は、彼?彼女?の眷族たるディーボの一種である

このソアラは裁縫師として使いの途中、魔物にやられ風前の灯火であった定命を

仮の少女姿になったウロボロスと出逢い

ある契約を果たし彼女からウロレシアの名を貰い可愛らしくも美しい少女へ完全に固定し

少女としての振舞いや作法を馬車の中で学んでいたのである


「ウロレシア様、お美しゅう御座いますよ この御姿ならきっとその シーア様も

ご満足いただけるかと思いますわ」

「そう? 余は彼の者が満足であるなら かような姿でもいいがまだ

羞恥があるわい」

とまだ男性口調は抜けきっていない。


「うふふ また”余”なんて言って居ますわね オンナノコはそのような言葉は言いませんわ

そうですね 御自分を”レシア”と言ってみてはいかがです? 可愛く見えますわ」

「うむ、そうかこれからは気をつけよう」

と大きな馬車の一角に足置き台にパンプスのまま乗せて

ややぎこちなく少女の声でソアラの言葉に応えていたのは


 背はクレアくらい

陽の加減で七色に輝く白銀の髪は、うねうねと足首まである

色違いの髪は彼女の淡い紫水晶の瞳と同色である

多くの人外の少女同様髪全体がゆっくり蠢いていた

雪を想起させる白い肌、パウダーピンクの小さい唇

ソアラの趣味で少女趣味なワンピースドレスを身にまとっている

嘗て”お父様”と呼ばれ賢者風の姿であった円環の蛇ことウロボロス否、”ウロレシア”その人であった。


 外観相応の双丘は、可愛い意匠デザインのブラに包まれその谷間には

円環の蛇たる証しであり 今は閉じている管理された

眷族ディーボへの異空間 ”黄昏世界トワイライト” への扉である自らの尾を咥えた蛇の紋が

瞭然はっきりと見て取れた


 その後ろでリボンを結び髪を梳くケット族の裁縫職人のソアラがいる。

色違いの髪を菓子皿にシュルリと伸ばし可愛い口に運ぶ

「あぁん この躰になってからは随分と感覚は前とは異なるのぅ

少女の躰とはこうも違うのかしら これはこれで至極新鮮な感覚ね


 なんにせよ 何れあの ”メスヘビ” とも顔を合せねばならんし

世界のディーボ騒ぎはこのレシア(ウロボロス)の眷族たるディーボでは無しに

”野良ディーボ” 共のしわざじゃと

分かってもらうにはどうしたものか頭が痛いわぁ ねぇ ソアラ」

と色違いの髪がソアラの豊かな双丘に這い寄っていく。


「お おやめ下さいまし くすぐっとうございますよ」

「すまぬ こうして少女の身になっても

あん 男の劣情はそうは簡単には消えないものなのね

あぁん シーア早くこのレシアをそなたのモノにして頂戴

この契りの指輪をあのシーアに ......」

ウロレシアは、切ない声と共に

髪に絡ませている紅く光っていた小さな血の指輪を髪を動かし目の前に掲げる。

「羨ましいですわ、ウロレシア様のご寵愛を一身に受ける事が出来るなんて」

とソアラがもじもじ身じろぎしながら言うと

「それは違うわ この”ウロレシアがシーアの” 寵愛を受けることが出来るかが

心配なの それくらいこのレシアは好いておるのじゃよ お主には分るまいて」

とまだ慣れない少女口調で熱い想いを語る。


「これは失礼しました その少女がお好きなシーア様のためにも もっとオンナノコに近づきませんと

嫌われてしまいますわ」


「そうね この姿に相応しき心の変容をしなければいけないものね

かの者と一緒に歩むためならレシアは何だってする ......何だってするんだから 

世界なんて 騒ぎたいヤツは騒げばいいし支配したければ、勝手に支配すればいい

 後はどうなろうか知ったことでは無いわ」

と少女の躰になったウロボロスは大きな、クマの布製玩具を抱き寄せ決意を新たにする。


 ウロレシアは当初は少女趣味な衣服もこの馬車の内装も関心が無かった

しかし偶々、裁縫師のソアラを助けたのが切っ掛けで徐々に少女趣味にそまりつつあった


 多少、厳つい印象のあったジジィな老賢者風の男性がこうも変わるとは

シーアには、多くの強大な能力ちからを持つ者を引き寄せてやまない

やはり何かがあった。


 このソアラ、裁縫職人の会合 紡錘つむと糸車と絹の靴 の使いの途中

不覚にも魔物に襲われ護衛の冒険者は全滅。

自らも大きく胸を裂かれ死の淵に足を掛けていた


 そんな 風前の生命いのちの前に美しい少女が現れ

「どうした? 余と一緒に来ぬか そなたの魂を捧げるなら

生かしてやってもよいぞ この仮初めの心の臓でな」

と差し出されたのは黒い立方体であった。


「余は想い人の為に少女の姿には成ったが勝手が分からぬ 

余はもっと可愛く振る舞わねばならぬからな

どうじゃ 余に指南をしてくれぬか? 」

と案を持ちかけられたのである。


 質素なワンピースであるが

陽の加減で七色に輝く白銀の髪は、うねうねと足首まである

色違いの髪は彼女の淡い紫水晶の瞳と同色である

そして多くの人外の少女同様髪全体がゆっくり蠢いていた

雪を想起させる白い肌、パウダーピンクの小さい唇と声をかけてきた少女の素材は申し分ない

ソアラは裁縫師であり少女趣味な服の意匠デザインの専門職として売り出す直前だった

 目の前にいる白銀のまたとない素材、一流の裁縫と意匠デザインの腕と自負している

この身が永劫に喪わつつあるこの瞬間、彼女にとって躊躇う事など愚問であった

当たり前の様にウロボロスの提案を受け入れたのである。


 そして名を決めるにあたりウロボロスから出自を全て聞いた時も

「...... そう......ね ウロレシアってどうかしら...... きっと可愛くなるわ

...... だって... ...今でも ......とっても可愛くて 美しいもの...」

彼女はこの美しい少女の出自に驚きもせず

親しい友に語るように答えたのである。


「よう分かった お主を余専属のメイドにする 余に新たな名を与えてくれた

対価としよう


 後は絶対に手放さん 良いな 永劫に余に仕えよ そして

余の想い人にもな」

「 ......はい、わたしソアラは けふっ ......ウロレシア様とその想い人様に、

 うぐっ ......我が身を捧げます

どうか御随意にこの身をお使い下さいませ」

息も絶え絶えながらはっきりと宣誓する。

「うむ 良かろう」

とウロレシアから差し出された立方体を魔物にやられ大きく裂けた胸に埋め込まれる。

忽ち疵は塞がり彼女の淡いフレンチグレイの耳と尻尾の毛先は

赤黒く染まり完全に定命のことわりから外れ人外の仲間入りを果たす。


 ソアラはウロレシア付きメイドとなり こうして馬車でウロレシアと今、共にいるのである

ウロレシア付き永劫のメイドとして。


 ウロレシアの想い人が同じ ”可愛い少女” だと聞かされたのはそのすぐ後であった。

彼女:ソアラが所属する裁縫職人の会合 紡錘つむと糸車と絹の靴 からは

無事な姿を確認され、驚きの声が上がったのは言うまでもなく

さる大貴族の ”お嬢様” 付きとなった事も業界に大いに話題を振りまいたのである。


 一人のホムンクルスの、少女好きの少女のためだけに

自ら姿まで変容させていたとはクローティアはこの時、露にも思っていなかった。


 一方、幾星霜振りに”苛立ち”の感情がわいたクローティアは

『ビヨン 儂はちくとここを空ける あヤツ(シーア)が来ても儂を捜すなと申し伝えてくれぬか

なに ギアトレス出立の日やランドルフ挨拶の折にはちゃんと戻るでの

は空けんようにする 確と頼みおくぞ』

[ はい ......クローティア このビヨン 御言葉のままに 貴女様も 旧き贄の蛇様

としてのお役目も有りましょう このビヨン ロムレスと共に ...... ]

『うむ 済まぬなこれは、儂自身が解決せねばならぬこと故 

彼奴を巻き込みたくないのでな ではな』

とクローティアはクローティアのまま何処かへ翔びたった。


 わたしはシセラと、夜を愉しみそして注意深く宿へ戻る

「あれ クローティアは? 」

いつもなら 一人の時は ふわふわ漂っているか本のままビヨンの近くに”置いて”

あるのだが 気配は感じる事が出来るがひどく遠かった。

[ クローティアなら、所用で暫く空けるとのこと 心配は入らぬとの事です ]

「そう、 珍しいわね」

といつもならすぐ髪に飛びつき潜ってくるあのモソモソした感覚が無く

重さは無いもののひどく心細かった

「ふ〜ん クローティアも”あの気配”を気取ったのね

あの御方も本格的に参戦かしらそれとも ......」

と後は沈黙を保つ

彼女シセラがこのような謎掛けのような物言いをしたとして問い詰めは無駄である

それにはわたしは答えず次の言葉を待った。


「ふわぁ ねぇわたくし まだ遊び足りないの 殿方弄りしてきていいかしら? 」

と大鎌を淫靡にかわいい舌でねっとりと舐め上げていた

「えぇ、 貴女の好きにしていいわ 明日はミーアの疲れを癒えてる頃だろうし

一度ノアさんのとこに行こうかなと もう戻って来ているかも知れないしね」

「そう、 それなら ふふ 殿方弄りしてくるわぁ ここって魔術師や魔道士がおおくて

貧弱な男ばっかり 早く、 ルベルト岩礁帯いこうよ 逞しい殿方弄りたいわぁ」

とくるくるまわる これが彼女流のおねだりだろうか

とてもかわいらしかった。


「ルベルトへは、此処での用事が ”全て” 済んでからよ 我慢しなさいな」

「貴女と、一緒になってからあまりに事が”早く”進むもんだからついその感覚に

慣れちゃった 気のなが〜いこのシセラ 我慢は慣れっこよ

つい、我儘を言いたく成っただけ そのいつも寝ている

リズベートとは根本が違うからね」

と相変わらず軽口ではあるが、彼女なりの意思表示だったのだろう

戦術指揮といい豊富な話題といい やはり培って来たモノの差を見せつける。

「えぇ分かってる 貴女は貴女よ」


 いきなり”再度”わたしの唇を奪うと

「うふふ じゃねぇ 朝には戻るわ」

とシセラは夜の蝶の如く夜空に消えていった。


私も軽く沐浴を済ませ習慣になっているショーツやブラの手もみ洗いを済ませ

新しいショーツを手を開き広げる動作もなめらかになり

足を通しお尻の布地を指を差し込み整える

これもミーアから教わって

当初は破れやしないかとハラハラしながらやっていたのである

今では、普通の所作として難無くこなせるようには成ったが。


 辺りからは同性からの羨望、妬み嫉みの感情が突き刺さるも

目覚めかけている可愛さと美しさを併せ持ったこの躰に対する

慢心が、和らげてくれた。


 わたしの中の”獣”がそうさせているのは想像に難しくはない。

こうして、オンナノコは女に成っていくのだ 


ネグリジェに着替え部屋に戻りミーアの頬に軽く接吻をする

これは、男性のときから早く寝台に就いていたミーアにもしていたことであり

今更でもない そうしてわたしは深い眠りに就いた



 トントンとせわしなく、机を甲冑のままの指を突く蒼翼そうよく騎士団達

おかげで天板は疵だらけである

これ以上の”被害”が出ないことを祈りつつ

宿の主人は固唾をのみながら見守っていた。



「すんません旦那方、 もう少しこの机を少しいたわってやっちゃくれませんかね

安酒場ではこの机も貴重な財でんすんで」

と恐る恐る進言した


 安物言えど家具は家具である 木工職人に直させるにしてもカネがかかる

かといって あまり疵を放ったらかしも出来ない

なぜならこれを見て無頼漢が常連に居ると思われても店の風評が悪くなるからだ

そういうのは、貧民街の木賃酒場の役割である


 木賃酒場は酒精など殆ど無い酒か、肴にしても生産現場から菜っ葉の切れ端や

乾燥腸詰めの肉が殆ど無い切れ端部分を仕入れて”最高級品”として提供しているくらいであり

殆どの素材は持ち込みで主人は焼くか煮るかしかしないのが通例である

このような木賃酒場は、いかがわしい男女の睦言が聞こえたかと思えば

無頼漢同士の殴り合いがすぐ横でおっ始まる 

凡そ官吏の目が行き届かない場所にある酒場は無頼漢うってつけでもあった。



「おぅ つい癖でな これで直せや」

蒼翼そうよく騎士団から 開いた穴ぼこを天板を削り、仕上げ直すには程遠いカネが渡される

「へぇ、すまねぇす」

とどちらが悪いか分からないようなやりとりに 主人はカネを受け取りつつ肩を竦めた。


「うへぇ こりゃまいったぜ」

「ん? 何か文句でもあるのかよ」

「いえいえ 旦那方 これで木工職人に”丁寧”に仕上げさせてもお釣りがきまさぁ」

「そうか それなら 尚、良かったな」

と嫌味と意趣返しの応酬である。


このようなやり取りがシーア達の宿より 僅か距離約100歩先の酒場で行われていたのである

「で? 旦那方 お目当ての捜し人は見つかったんで? 」

「それが、全然 この騎士団様にも入ってこんな お前ら ”銀の髪の少女” を

知っているか? 背は小さくてな 目が色違いだしかなり目立つ格好なりだと

思うがな どうだ カネは ”はずむぞ” とカネ袋からチラリと 此処にいる常連の客層にしては

”大金”を見せつける。


あちこちで喉が動く

しかし誰も名乗りは上げない なぜなら、名乗り出ようものなら

多数に拘束され ”尋問” されたあげく難癖をつけて硬貨数枚で済ます魂胆に違いないからだ

これじゃ、割に合わないことは自明である。


 しかも冒険者仲間を売ったとなれば、界隈では活動も出来なくなる。

術者にとってベルゼから追い出されるということはメシのタネを喪うに等しい。


「まぁ 今回は俺様達は慰安しに来ただけであるッ!! 今回は”偶々”実入りが無かったという

ことにするっ! 皆、小汚い場所での”軍議、大義であった” 引き上げるッ!! 」

と隊長らしき人物が怒号を放つ

この怒号だけはやけに気勢が良くビリビリ空気が震える程で

と水すら頼まずそのまま甲冑を派手に鳴らして一同立ち去った。


「ふぃ〜 やっと行ってくれたか でもなんでタフタルの連中が此処に居るんだぁ

何処かの島で ”演武” でもするんじゃねぇの? 」

「ハッハッハ 違げぇねえぇな」

と厄介払いをしたかのように皆ホッとため息をついた


 しかしながらこの蒼翼そうよく騎士団 ルルスの密命でシーアの動向を探るついでに

メギスト遺跡に調査団一行パーティーが過ぎ去ったあと何かを追い求めに来たのである

態度は、権威主義を絵に描いたような集団であるが

タフタル、ルベルト岩礁と股に掛け遺跡等で密かに首長の命で物品を

蒐集する先鋭騎士団である。


 タフタルは強大な宗教国家であり リーンの名の下にルルスが託宣を受け

その託宣の通りに事が恙無つつがなく運ぶ

そしてこの時、ルルスの手足と成り時には武器、時には盾となるのが

この 蒼翼そうよく騎士団 である。


 普段は”聖女”の冠を頂いて柔和な印象を与えるも嘗て幾度となく死線を越え、

苦労に苦労を重ね、自身の信じる神:リーンの為に今の地位まで上り詰めた

竜の瞳の治癒役ヒール役として支えてきた彼女の信念と信仰の深さはタフタル随一と

言って良かった


 この信念に賛同し、屈強な騎士団達は彼女にも絶対の信仰を誓った そんな連中である

着込んでいる甲冑もまた彼らの重い信仰と信念を守るにふさわしい

特注された皇帝亀:タイラント・トータス製のそれであり、甲冑自体もまた重き使命を背負っていた。


 しかしながら、今代の若い入隊希望者は外観の蒼と白銀にのみ憧れる、惰弱な心根も若者も多い

先程、酒場で怒号を上げた壮年の ゲルトス はそんな若者を引率し久方振りの慰安に密命も兼ねて

ベルゼに訪れたのである


「おめぇらが 権威振りかざすからよ 連中、俺様達を舐めきっていた

オレも少しは”権威”振りかざしたがな ハハハ

まぁ 今回は 慰安だ明日朝、調査団が入ってから 俺達も後を追う

それと、今回は俺達は動かなくていい ルルス様の密命が優先だ」

ゲルトスは、惰弱な若者が血気にはやって生命いのちを安易に落とさぬ様に

彼なりの心遣いを惨ませていた。


「でも隊長 なんで俺達は手を出さなくでいいんですか? 」

若い騎士団員は当然のように質問してくる。


「今回は、純魔族の後ろスポンサーも潜る だから彼らの領分を侵さぬようにする

純魔族らは、契約が全てだ 勝手に俺様達が手を出してへそを曲げられても困るからな

向こうから ”頼み” 込みんで来るまではでは動くな 絶対だ 

まぁ早い話向こうから ”借り” を作るまで待つんだ

なにも無ければ、それはそれでいい さぁ俺達は俺達の事をするんだ

ルルス様延いては女神:リーンの御身の為にッ!! 」

こうした駆け引きは、今代の若者に察しろというのは些か酷である

彼は、駆け引きの指南も兼ねてタネ証しをする


「...「応ッ ... 女神:リーンの御身の為にッ!! 」...」

とゲルトスに続き賛美の言葉を捧げる。

「まぁ 明日までは自由だ たんまり慰安してこい」

「 ...「応」... 」

と皆、重い皇帝亀:タイラント・トータス製の甲冑を脱ぐ ドスリドスリ と

重い音と共に床に脱ぎ捨てられ

男性は鋼のような筋肉を、女性はしなやかさにも強靭さを併せ持った肉体を見せつける

そして、普段着のワンピースやシャツ、ズボン、はたまた長衣に着替え思い思いに

夜の街へ散っていく。


「ふん、俺様も随分と甘くなったものだ 歳には敵わんな」

と 兜だけ脱いだゲルトスは煙草を燻らせた。



 空をあまり愉快ではない感情に支配されながら、クローティアは

今後、シーアにどのチャンスに自分の出自を打ち明けるか

思案していた。


 シーアの”獣”が覚醒つつある現状とオスヘビの ”円環の蛇” が姿を固定し

接触を試みようとする動きまである。


『 (...... どうしたものかのぅ ギアトレスの今だ全貌すら掴めない

未開の地 ユクントスでの件が片付いてからにするかのぅ

それに ヤツ(リーン)の気配までしよる) 』

とウロレシアがいるバルケモス大陸ではなく、タフタル大陸の方角を睨む

それに彼女:クローティアにはシーアにすら明かせない

負い目もあったのである


 シアズが錬金術で失敗したのも実は ”彼女:クローティア” が細工を施したのだ

美しい”少女”が完成した時当初、擬似的で無味乾燥でなにも

牽きつけるモノをもたぬ魂を入れるつもりだった彼の錬金の最終工程に

”割り込み” をかけてそばにいた御人好しで何やら牽きつけてやまない

定命のことわりがある男の魂をどうせならと

その空っぽの美しい人造の少女に”入れた”のである


 彼処で激しい拒絶反応が起き魂も肉体も喪わずに済んだのは

奇蹟の賜である その後の彼の魂の定着ぶりはその後の心情の変化を見ても

まるで最初からそう望んでいたかのようであり

思わぬ嬉しい誤算であった。


 厳重に封櫃された揚句、多数のコアを散逸させ大半の能力ちからを失った

彼女にはそれくらいしか介入する手段が無かったのであり

 この世界に類まれな一属一種族の定命のことわりから外れた少女にくたい

何やら牽きつけてやまない定命のことわりが短い

ヒム族男性の魂という稀有な存在が生まれたのある。

その魂も今はすでに少女にくたいに完全に定着し、永劫の存在になって

クローティアを側らに置いてくれる


『 (儂は、ヤツ(ウロボロス)にヤキモチを焼いているのかもしれん

全く、 こんな小さな恰好なりでは どうにもならないではないか) 』

本当は他の少女達のように上目でシーアに甘えてみたかったのを、心の奥底に沈めて 

くるくる ”愉しそうに” 苛立ちながら独りごちならが夜更けの遊覧をする。


 わたしはビヨンに膝枕をされ浅い眠りの淵の傍にいた

改めて、ホムンクルスについて思考を巡らせる

最も気になるのはやはり

ライブ・アーティファクト達が

「子供のお部屋」

と呼んでいた子宮である

女性の女性たる器官。

唯一新たな生命いのちを育み育てる器官。


 これが備わって居ることは。最初の頃に既に確認済みである

気になるのはこの器官がはたして子を宿せるのかそれとも

人外故の普通の女性とは違う機能が備わっているのか

自身の躰ながら良く分かって居なかった


『ふふ 気に成っておるようじゃな 今宵は”外”が騒がしいな

それはさておき どれ、ひとつ 指南をしてやろうではないか

妾がお主になる時に戸惑わぬように』

「貴女は クレア? 」

『そうじゃとも 他におるまい 結論から言うとな その子宮では子は成せぬ』

「えっ それじゃ? この子宮は飾り? ただの見せ掛け? 」

『こらこら そうはやるでないぞ 妾のつまり其方の子宮は実は此処じゃよ』

と指差したのはクレア自身の糸を引くように裂けていて

蠢いでいる胸の裂け口であった。


『これは妾だけの特質でな此処に呪力の強い物を入れ

”揺籃”するのじゃ さすれば其方の思い描くような少女でも少年でもいいが

人の姿と成り産まれるのじゃ 其方の文字通りの”娘”や”息子”が産まれることになる

特質もきちんと引き継ぐしな』

わたしは、おどろいて夢うつつで座り込む。


「それは分かったわ ではこの”子宮”は? と下腹部をさす」

私の子宮がそれなら躰に備わっている ”これは” なんの為に存在するのだろうか

『ふふ これはな ”妾が其方に成った時に分かることじゃが

今宵は気分が良い 耳を貸せ』

と耳打ちされ告げられたのは

 ......


わたしは顔が火照るのが見なくとも分かっていた。


『まさに人外故の悦びよ お主は少女以前に稀有な存在の人外なのじゃからな』

わたしは、これらの事実を知った今でもこの躰は絶対に喪いたくない 

あの事故の時に味わった喪失感は、わたしの心に強い枷となっていた

両手で自分を抱きしめる。

『ふん もう少し動揺するかと思いきやつまらんヤツじゃのぅ 流石は寄り添うにふさわしい』

と優しき眼で頭を撫でられる

「一つ 聞きたいの? 」

『答えられる事なら』

と前置きされ

『申してみよ』 と続き


「最近 生肉に目が行く時があるの どうして? 」

と食事の時味が薄い事を訊くと

『あぁ、そろそろ欲しくなって来る時かのぅ

この裂け口はお主の揺籃の子宮であると共に見た目通りの役目もある

獣はここから直接獲物を喰らい 食い溜めもする 多分それが覚醒かけておるのじゃろ』

クレアの話によれば 獣は此処で時折食い溜めをして

平時は普通の口でお菓子や紅茶を嗜む程度で十分だそうである。


 従ってわたしにもその食い溜めの裂け口がある以上

衝動は避けて通れないらしい。

「人外って妙な事が多いのね」

『そうじゃとも こういった特質を色々備えているのも我々人外じゃからな

それを活かさずにはおれなくなるのも、縛られるのもまた 人外に産まれたる者の宿命よの

まぁ新米のお主には奇異に感じるかもしれんが

こればかりは、まぁ徐々に慣れていくしかないじゃろな

それが嫌なら 妾が全て取って代わっても良いが? 』

クレアは艶然と嗤う。


「イヤッ!! それだけは絶対にイヤッ わたしはわたし、どんなわたしだって受け入れる

こう覚悟を決めたんだから!! 」

と激しく泣きじゃくった

途端に慈愛の表情に変わり優しく抱き寄せられる。

『おぉ すまんすまん つい ”からかって” みたくなっての その覚悟は

本物のようじゃ 

詫びではないが今宵は妾が夢にいざなってやろう ゆっくり休むが良い』

とクレアの腕の中で意識が遠のく


 知らぬ間にビヨンに抱かれていたわたしは、一筋の涙を零して

それを優しく拭われていたのは知る由もなかった。



 此処は、バルケモス大陸のギンメル大渓谷の入り口付近の古代遺構:ルベリス迷宮遺構

銀の三日月の本拠地とされる場所である

暗黒馬4頭立ての大きな馬車は、大きな音を響かせながら、このルベリス迷宮遺構を目指していた


「ねぇ ”ディアボロス” まだ着かないの? 貴方、少し脚が遅いんじゃなくて? 」

と色違いの部分の髪でお菓子を摘みながら ウロレシアは 御者無き暗黒馬車 に

語りかける。


{我が盟主、我は元々は二足歩行に翼を持つ者で御座います

それをかような四足歩行のケダモノになぞにされて

些か困惑しております おまけに盟主と従者を”内包”して居りますから

脚が遅いのは道理でございましょう}


 と馬車全体からくぐもった大男の声が響く

この馬車は管理されたディーボが一翼 ”ディアボロス” であり

元の姿は大男で頭には二本角、脚には蹴爪をそなえ、背には蝙蝠が如く羽

肌は漆黒、目は金、大きく避けた口、鞭のような尾そして胸にも大きな顔があったのだ


「うふふ 心配いらないわ レシアはねぇ 想い人と添い遂げたら

貴方を元の姿に戻してあげるわ それまで我慢してちょうだい」

大分熟こなれてきた少女口調で答える。


{御意 ......であるならば暫くはこのケダモノの姿で 盟主を運ぶ事に異は唱えますまい

しかしながらこの我の内装はどうにか成りませぬか? 

趣向とはあまりに乖離する故、居心地が悪う御座いますが? }

とこんなやり取りをしていると

「あら、だめよウロレシア様は今は少女のお身体になって心も少女に

お近づきにならねばならないのですよ

だから ”ディアちゃん” 少しの間だから ......ね ......ね? 」

とメイドのソアラが割って入る。

ソアラは、自身も少女趣味でメイドとは程遠い可愛いワンピースを着ていて

ウロレシア付きメイドになるやいなや殺風景な馬車の内装を自分好みにしたのである。

{うむむ、 ソアラ殿これは本当に 必要なことですかな? 

とてもそうは、思いませぬが}

と抗議も虚しく

「ウロレシア様からもなにか言ってやってくださいまし」

とウロレシアにそのまま流された。


「いいじゃない 今はソアラがこのレシアの指南役 言うことを聞きなさいな」

{うむむ 致し方ありますまいな 目的地が見てきましたぞ

御身のお支度を}

「えぇ、ありがとね んんッ」

と口の周りについた菓子の粉を自在に動く髪で拭い

 

ちゅぽん

 

と口に含む

こうしてみると以前の無味乾燥な表情とは比べ物にならないくらい

ウロボロスは”ウロレシア”を娯しんでいた


そして、銀の三日月の門番と多少のやり取りがあったあと

いまこうして、ウロレシアはソアラとともに

サラ・ソラの一件で一線を退いた後、銀の三日月の後継に定めた

 半人半魔ではあるが強大な魔力を誇る男性 ミトラス と邂逅していた。


「ほう、 盟主ウロボロス お美しゅうなられましたな サラ・ソラの件ですかな

それとも他の要件で? 」

「そうねぇ まずはサラ・ソラはもう魔族ハデスの娘のメイドとして

正式に契約を結んだのは知っているわよね? 」

「左様です、”向こうから”敵対の意思がない場合はこちらからどうのこうのするつもりは

勿論、有りませぬ ただ内部の者の中には裏切り者として

粛清を求める声もあることも確かです

 ......ですが 相手はハデス王のご息女、最早相手にも成りますまい

一部の粋がった者は既に返り討ちと言う形で制裁を受けていますゆえ

私、ミトラスめとしては目を瞑る方針と致しております」

と淡々と事務的な対応である。


「それでいいわ どうせハデスの娘の良いからかい相手だろうからね」

「他には? 」

と次を促すミトラス。


「そう 貴男に正式に銀の三日月の総括者になってもらいたいのよ

レシアはもう銀の三日月には積極的には関わらない事にしたいの

ただ口頭だけでは、誰も貴男を後継と認めないでしょうから

これ一つあげるわ」

とウロレシアは両耳の黒い立方体のオーパーツコアの耳飾りを一つ外し

ミトラスの胸に押し当てる

グチュリを湿った音と共に一瞬ミトラスに苦悶の表情が浮かぶ

それもすぐ終わり、彼の胸に半没し定着した。


「これ、レシアの能力ちからの極々一部だけど代執行出来るわ

ディーボは喚べないし扱えないど

貴男の望む武器の形になって貴男を助けてくれるわ

無闇に生命を奪わない理知的な貴男だからこそ託したいの

この能力ちからで結社を盛り立ててね」

と呆けているミトラスを無視してウロレシアは淡々を事を進めてしまう

慌ててミトラスは平伏しようとしたが

「それはやめなさいな、今まで貴男に任せきりだったからせめてものお礼よ」

と優しく姿勢を戻させる。


「このミトラス 盟主の意思を継ぎ盛り立てていく所存でございます」

と胸に手を添え軽く一礼する。


メイドを従えてそのメイドが大きな旅用鞄を持っているいるところをみると

此処には留まる様子ではなさそうである

(実際は、旅用鞄ではなく彼女の裁縫道具鞄であったが)


「ウロボロス様 いや ウロレシア様は何処に? 」

「それは言えないわ でもレシアの想い人の許よ」

「そうですか そんなにまで貴女様を変えられる程の想い人様にも一度お会いしたいものですな」

「ふふ、どうかしらね 敵対しなければ何れ遭うことも出来るかしらねぇ」

と指を咥え可愛い上目でミトラスを見上げた。


「そうですね しかしながら我等とて いくら貴女様の想い人様いえど”敵対”したら

私はともかく、構成員の面子の内心までは担保出来ませんょ」

「ふふ それなら全力で、互いの矜持を賭け何方どちらことわりが通るか確かめるまでね

いいかしら? 」

この時、ウロレシアの目には幾々星霜振りの闘争の光りが灯り

ふわりと髪全体が大きく揺らぎ

辺りの、大気がピシリピシリと小さく爆ぜる音が聞こえる

それは一瞬の出来事では有ったが、ミトラスにはひどく長く感じられた。


「安心なさい レシアは闘争には参戦しない 

世界を動かすのは、私の想い人よ」

と断言した。


「そうですか その時は、その想い人様にお手加減をお願いしなければいけませんね」

と言うと

「どうかしらね賢しい貴男なら、対話という手段もあるけど

もし、ここの下の者が必要以上に出張ってきたら確実な生存の期待はしないほうがいいわ」

としたり顔。


「ふっ 怖いですね でも生命いのちを落したとしても

私の部下のことわりが圧された ......という事でしょう

その者にはそれだけの器も度量も無かった ......それまでのことです」

とミトラスらしく事務的に応える。


 このミトラス 喪った恋人以外の事には極めて事務的であり一切の私情を挟まない

部下の失態にしても処断の手厳しさはあるものの壊れるまでは決して罰を与えない

そんな人物である


 ウロレシアは瞬く間に少女に馴染んできていて傍のソアラも言葉を飲むほどである


 最後に

「ではな、 ミトラスこれより銀の三日月の全権をお主に譲渡する

”相談”にはいつでも乗ってやる その折にはこのソアラに伝えよ

伝える時はそれが仲介もしてくれる」

と半没したコアを指し

「息災で暮らせ」


 とこの時は”お父様”の口調に戻り

やおら軽く飛び跳ね宙に浮きミトラスの額に軽く接吻をする。

またもやミトラスは白い瞳を丸くして呆けていた。

「それではミトラス様、私:ソアラとウロレシア様はまだ準備が有りますので

失礼致します」

と軽く頭を下げその場を辞した


 ミトラスは、大きな執務机によろよろとたどり着く

そしてそのまま暫く突っ伏したままであった。

「私としたことが不覚でしたね まさかあのウロボロスから接吻をいただくとは

思いももしませんでした」

と後から菓子を持ち込んできた事務方の構成員にぼんやりとこぼしていた。


 

翌朝、わたしは例の結晶体をギルドに持ち込んでいた

ミーアはすっかり体調も整い元気な様子を見せていた

「シーちゃん ごめんね」

「いいの もういいの? 」

「うん、 すっかり気怠いのが取れたわ これからあの結晶体見せにいくんでしょ? 」

「そう、規約だからしょうがないね ホントは、ギルドには登録は避けたいトコだけどね」

わたしは、ほんとうは登録は避けたかったあまり目立ちたくないというのもある

しかしながら、登録さえ済んでしまえば所有権を堂々と主張できる

やはり規約は蔑ろには出来なかった


「クローティアは何処いったんだろうなぁ」

とぼやくと

「まぁ ”クロちゃん” も感情があるし今は帰って来るまで待ちましょ? 」

といつのまにやらミーアは クローティア様から クロちゃんと呼び方まで

変わっていた


結局彼女は戻って来なかった ......が肝心な時には戻ると断言した以上

それを信じるしか今はなかった。


「おっす、 シーアさん 早いね 早速例のブツ見せに来たのかい? 」

「えぇ、そうよ ニケルさん」

「おぅ、これもオレの実績(給金)の為だ 勘弁な」

なんでもギルドの職員は受付た人数や色々な付随の業務が基本の給金に上乗せされて

支給らしい。


「おい、誰か変わってくれよ オレ今、ブツの登録すっから此処空けるんだ」

「それなら わたしが ......」

とやや小柄な半人半魔の少女が名乗りを上げた。

「おう ラトシアか ちょっくら頼まぁ」

私と背が同じくらいの、明るい茶の髪、セミロングで肩下迄ある髪を踊らせ

やって来た。

明るいレモン色のワンピースドレスに同じくレモン色のリボンパンプスに

白のタイツに簡素なフリルのペチコートである

髪にも大きなレモン色のリボンが揺れる。


「おう 暫く此処空けるから 後、よろしく!! 」

とラトシアと入れ替わる

「コイツは ”ラトシア” 流れの職員でな つい一昨日ここに配属されたばかりだ

ここには、此処の流儀もあるんでな 基本は出来てるが此処独自の流儀を教えている最中だ」

”流れ”とは、一定の職場を持たずギルド内を転々と文字通り流れ歩く職員であり

ギルドに限らず定住して同じ場所で職を続ける者とは

考え方が異なる者のことを言う。

 この世界では、違う職を転々とするのはあまり良い目では見られないが

こうして同じ職で転々と場所を変えるのは却って歓迎されていた

なぜなら、独自の流儀がある職場では違う流儀を持ち込んでくる ”流れ” には

効率ややり方等を見直す いい機会になるからである。

中には、ギルド長に従く有能な流れの秘書官も居ると聞く。


そんなこんなで彼はラトシアと持ち場を代わり裏の倉庫に向かう

「あぁ 彼女なら心配はいらねぇ あれでも優秀な”流れ”らしい

実績は中の上ってところだからな」

とこんな会話をしながら向かう彼の視線は終始、ミーアの豊かな双丘に

釘付けだった。


わたしは、小鞄ポシェットから結晶体を取り出し床に置く


「ほぅこいつか どれどれ ......つっ うわっ なんだこれ? いかずち? 」

彼が触ろうとした瞬間 パチパチ 爆ぜる音と共に黒紫のいかずちが走った

いかずち イヤーッ!! 」

とわたしは咄嗟にミーアの影にかくれてしまった。

あの事故依頼 わたしはいかずちが極端に怖くなってしまったのである

「シーちゃん? 」

「なんでも無いことは分かるの でも怖くてあの時の事を思い出してしまって」

「大丈夫よ、怖くないからね」

と優しく抱きしめてくれてわたしは落ち着きを取り戻す。


 この世界でも いかずちは非常に珍しく滅多に

天候現象としても見たことが無かったが前(男性時)はそんな事は無かった。

だが、あの日以来躰が本能的に竦んでしまうのである


「うへぇ こりゃオレは触れんな 計測出来ねぇと上から怒られるしな

シーア わるいが 御前さんかわりに計ってくれよ」

と画師は早速画を描いていたが

天秤や、等間隔に結び目を作った細い紐をもっていたニケルは

私に向けて来たのである

「御前さんなら いかずちも起きんだろ なぁ頼むよ」

と更にお願いされて

恐る恐る近づき指で触れてもいかずちは起きなかった。

「さっきはごめんなさい わたしいかずちが大嫌いなの」

「ぁあ 分かるぜ オレだって苦手さ 誰にだって苦手はあるもんさ 気にしてないぜ」

と言ってくれる。


「まずは、目方からな 天秤の使い方は分かるかい? 」

「えぇ 錬金術の基礎だから」

「そう言えばそうだったな」

と難無く目方を計り終えた

「次に大きさだが この紐を使うんだ」

と渡されたのは一定間隔で結び目がある紐であった

「これをぴんと張ってブツの角に結び目を合わせるんだ これを指定した通りにやってくれれば

後はオレが結び目を勘定する」

とわたしは言われた通り結び目を結晶体の角に合わせた

「どれ、此処は五 此処は十 更にここは十三 だな」

と手際も良く

 彼の言葉に併せて先程の画師が描いた画に書き込みをしていた


「ほんとはこれ冒険者にも見せちゃダメなんだが 今回は特別だぜ

手伝って貰ったお礼だよ」

と見せて貰った画には 先程の数値が書き込んであり


注釈と思われる部分には、箇条書きで


黒い結晶体 正式名称は不明

所有者 シーア・オブライエン 


 メギスト遺跡に突如現れ、この結晶体から魔物の出現を確認

冒険者 シーア・オブライエンの手により

魔物を鎮める。


 冒険者の証言から幽体系か幻体系に属すると推察される

出現した魔物の名は冒険者の希望により伏す。


冒険者一行パーティー以外は手を触れること叶わず。


記:ネグリール ギルド 魔樹の虚穴うろあな 

担当:ニケル

と後は画師の名が記されていた。


「これでおわりだ、これで正規にシーアのもんだ 

しまっていいぜ お疲れさん」

ときちんと労もねぎなわれた


小鞄ポシェットに仕舞い念話で

<<レヴィア 後でレメちゃんに終わったから好きな場所に置いていいと

言ってくれる? >>

<<は〜ぃ レメおねーちゃまは今か今かと待ちわびていたわ>>

と返してきた。


「ありがとう ニケルさん」

「いやいや、礼をいうのはオレのほうさ」

「さぁ 持ち場に戻ろうぜ」

とラトシアがいる持ち場に戻ると彼女がいない

「あっれぇ アイツ何処へ行ったぁ」

とニケルが言うと


「あぁ、さっき手洗いの方へ行ったぜ ちょっと長いがな へへへっ」

とその場にいた男が下卑た笑みを浮かべ

「あんた サイテーね」

「そうそう オンナゴコロって知らないの」

「るせー オレは男だぜ」

と大きな腕を捲りあげ太い二の腕を見せつける

「ばか筋肉野郎め」

と気の強そうな女性になじられて、笑いを誘っていた。


 その頃、ラトシアは御手洗などではなく有る人物と

やり取りをしていた。

「なぁ ”ラトス” いいネタ入ったか んーっ? 」

と男性名で呼ぶ一人の少女がいた 

声は野太くゲスな男声髪はロージィ瞳もロージィ

千変の御使いことロージィそのヒトである。


 今回も、ふるもの(アンティーク)人形のようなクロのドレスに身を包み

頭には紳士用の円筒形の帽子を小さくして女性用に仕立て直したような

ものを斜めに被り大きなリボンで留めていた

脚は黒いタイツに包み靴は赤である


「へぇ 首魁ボス 今シーアって娘が裏へ行ったことでさぁ」

とラトシアからも太い男の声

このラトシアもラーゼス同様異性装で流れの受付”嬢”職員として転々と回り

聴謀活動をしているのである。


「おぉ 久方振りだな でやはりブツはあの娘に渡ったか? あぁ? 」

「間違いないぜ いま、”同僚”のニケルが正規の所有の手続きをしに

書類持って行ったからな」

「......でそのニケルって野郎には気づかれたか? 」

首魁ボス、オレの異性装を舐めてもらっちゃ困るぜ

外法のセンセに頼んで可愛くつら変えて貰ったからよぉ つってもほんの少しの

手直しで済んだがな オレはサキュバスの血が濃くて元々オンナのようなツラだしな


 そうそう看破されんぜ 後声もなついでだ これは自由に変えられるが

これが一番カネが掛かってどうしようもねぇ」

「ほう 気合入ってるな」

「あたぼうよ もう少しで定命のことわりから完全に外れる施術すれば

何処から完璧なんだがな」

「なぁ 少女ってヤツはいいだろ 特にギルドの受付だとな

黙ってても情報が入って来るだろ」

「あぁ まさに少女冥利に尽きるってか ガハハ」

と下品な笑い声

「静かにしろ 感づかれっぞ」

「おう 悪かったな」

「おし、これであの娘に確実に渡った事が確認出来ればそれでいい

あとは ユクントスの依頼人に報告するだけだ」

「ユクントス? すると、ギアトレスの封印が解けたって噂はやはり本当か? 」

ラトシアは”少女”の様に両手を口に添え、びっくり跳ね上がる。


「バカ野郎 ギルドに潜っているテメェが知らねぇであちこち、

少女を楽しんでほっつき巡っているオレが知っててどうするよ

だからいつまでも ”理想郷ヴァルハラ” の面子に成れねんぇんだよぉ

オレとしても早く ”理想郷ヴァルハラ” にテメェを推挙してえぇがな

最後の〆が毎度いつも、イマイチだよなテメェは」

とロージィは終始、お得意の姿勢でラトシア(ラトス)に見せつける

彼は多くの部下同様にそこを注視していた


 このラトス、サキュバスとエル族の混血種族で

サキュバスの血のほうが濃くでていて オンナの様な顔に肌真っ赤な小さめの唇

と見た目は少女と変わらずこのせいでまともな職に就けずお決まりの

男娼行きである。


「どうだ、早くカネ貯めれば オメェもきれいさっぱりこのようになれるぜ」

「いや、 そこは譲れんな これで少女共をたんまり嫐ってやらんとな

おれは少女の格好なりで少女を嫐るのが好きなんだよ」

とラトシア(ラトス)は自分のスカートの股間を見つめる。

 マリアージュやヴェネイーラ同様、可愛いワンピースには違和感が主張していた。

「まぁ、それはテメェが好きにしな でも何れ ”女性”秘書官に成り上がりてぇんだろ」

ギルド上層部専門の秘書官になるにはこうして受付で下積みを積み成り上がるのが

一般的ではあるが何せ 位階一位には”絶対”なることは出来ない

何故なら、位階一位はラクランス家令嬢姉妹の妹”エメラーナ”が

その座を独占しているからである。

色々、出自には謎が多いが秘書官としては優秀過ぎるほどで、

各大陸の大手のギルドから”流れ”の要請が立っているだけでたんまり押し寄せる

そうだ。

あの”ドリエル”の秘書も一時勤めて居たことも有るくらいである。


 そうこう、駄弁っている内皆が集まっている受付でラトシアを捜す声が聞こえた

「あっれぇ アイツ何処へ行ったぁ」

とニケルの声であった、手続きが終わったらしい

「おう 早く行ってやんな まだテメェにはギルドの流れの受付として

しっかり働いてもらわねばならねぇからな 

”ラトシアちゃん”よぉ? あのケット野郎にどやされっぞ」


 此処でラトシアは声を変え

「うん ラトシアはしっかりしなくちゃね 御手洗があまり遅いと怪しまれるからね

それじゃね ロージィ様♡ 」

とスカートを軽く摘み足を交叉させ軽く一礼 職場へ戻っていく


「もう少しで テメェの持駒また一匹増えるぜ なぁ ”セリシア” ? 

少女だけの ”理想郷ヴァルハラ” を作るってのに 

首魁ボスが男だなんて傑作だぜ こりゃ 愉快、愉快 なぁレーミィ? 」

「えぇ ロージィ さぁ皆の所に帰りましょうか? 」

とロージィは完全にオンナノコになった ”レーミィ” をつれて何処かへ去った。


いよいよ、”ギアトレス”に航る時が迫る

わたしは、ノアが常駐している尖塔へ向かおうと足を向けた

「あれ、 シーア荷物持ちの少女はどうした? 」

ニケルは突然声をかける

「知らないわ わたしの一行パーティーには”荷物持ち”は

必要ないから」

「そう言えば そうだよなシーアが討伐に向かって吟遊詩人の

”ニラウス”の後に

(((わたし、シーア様の荷物持ちです))) って追いかけていった娘が居たんだがな

魔女の格好してたが可愛い娘だったか顔は特徴なかったな 

まぁいいや 忘れてくれ また機会があったらオレの指名よろしく!! 」

と気になる言葉と売り込み文句を背にそのギルド 魔樹の虚穴うろあな を辞した。


「くそっ 間に合わんかったかな なぁ”ニース”? 」

「いやいやまだ分からんぜ ケインズの兄貴よ

シーアの事だ きっと大規模討伐隊レイド依頼出すに決まってる

そうしたら 俺達盾役タンクが一気に名をあげるチャンスだぜ

ソーヤもこっちの”世界”に慣れて大分マシになってきたとこだからな

いい経験になると思うぜ 少しコイツには贅沢過ぎるくらいの”案件”だがな

「ほう あんた”渡り人”だったのか 俺らのヒム族と変わんねぇな

面付きも”ガキ”から”オトナ”になって来てるぜ」

こと人の評価については飾り立てしない性格のケインズである

今のは最大の賛辞といってよかった。


「オッス、ケインズさん よろしくです オレ頑張ります」

「その”オッス”ってのは異世界流か それ、いいね  おぅ気合入れてニースを助けてやんな」


 ”渡り人”というのは言わずものがな 異世界のある”遊戯ゲーム”中に

この世界オルティアに迷い込み、

 世界・親・兄弟・故郷・習慣・倫理観の全てと決別の覚悟を決め

そして生きる ”目的” を喪わなずこの世界オルティアに押しつぶされず生き残った

そんな 気まぐれな女神:リーンの戯れによって

此処のヒム族としての第二の人生を歩むことに成った

人達のことである。


「ウス」

ソーヤは気合を入れる。


「便利な言葉だな 気合によし返事に好し ......か」

ケインズは若い駆け出しの頃の自分をこの若者に被せていた。

「つい、辛気臭い雰囲気になるトコだったぜ

まぁ折角の機会だし シーアが依頼出すことを祈ろうぜ なぁ? 」


「...「応ッ!!」...」


一同鬨ときの声が上がった。



 いよいよ、シーア達は未知の地”封印地域”ギアトレスと、その中心地冥骸都市”ユクントス”へ


どんな事が待ちうているのやら

シーアにも、ケインズにも、ニースにもそして他の手勢達にも

タフタル大陸に降り立ったリーンにも誰も、分からなかった。





次回 68話 王櫃の間 と 独りぼっちの為政者

お楽しみに


活動報告に ウロボロスとウロレシアの設定を掲載しております

みてみんに飛びます

メイド ソアラについては後日みてみんに掲載いたします



2018 5/22 本日、活動報告に


薬師・古巫女ドルイド術付与師エンチャンターの設定を掲載しました。

 

ウロレシア付きメイド”ソアラ”をみてみんに投稿致しました

活動報告に設定も掲載してもおります。

リンクからみてみんに飛べます


2018 5/23 

物語の都合上 ラトン から ラトシアにキャラクター名を変更します

他は変更有りません

よろしく、お願いいたします


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