66話 混沌より漏れ出(い)づる者と邪法の傀儡(かいらい)
此処、ネグリールの百貨店は相変わらず術士が多い
短杖、大杖や中には、死霊術士用か髑髏を収めた籠付きの杖を持っている者もいる。
「ヤンスは、妖術士よね? 」
「へぇあっしは、妖術を極めているつもりでまさあ 尤も、あっしより上はゴマンとおりやすがね」
とごく普通の短杖をチラリと見せる。
「どんな杖が欲しいのかしら? わたしは詳しくないから教えて頂戴? 」
錬金術師は裏方にまわることが多くミーアのような前線に立って居るわけではない
よって、どのような武器が価値があるのか推測出来なかった。
こっそり購入して彼を驚かせても良かったが検討違いの得物を与えて
わたしに遠慮して、使いづらいのを言い出せなくて能力を存分に発揮出来なかったのでは
意味が無かったのである。
「そうでやすね、あっしら術士は、この先端や杖に同化させている”触媒”がモノをいうんでさぁ
これが全てと言っていいでやすよ
何でも偉い学者や魔導師のセンセの弁を借りればあっしら含めてこの世界に住む”渡り人”
以外の者全て
((( この世界の住人なら多かれ少なかれ生まれながらに
持っている 魔術行使のための力や素養の根源である。
この世界の生命在るもの全て冥脈と呼ばれる脈絡が
体表面にありそれに沿ってマギが流れる これの操作に長けた者が術士として
触媒を励起して形ある業と成す)))
と言うんでさぁ
同じ術士でも治癒師連中は大袈裟に御業なんて言って居ますが
同じでやんすよ
それと、戦士や剣士などの連中も苦手ってだけで牽制には十分過ぎる程のマギを
行使する術使いとしての、素養も備わっておりますよ。
前衛だからって、頭の中まで筋肉で出来ているとは思っちゃなんねえす
そういう連中と渡り合う時も、十分お気を付けてくださいまし
その前に、あっしがどうにかしちまいますがね」
わたしは、大剣と大盾をがっしり構えているケインズの言葉が蘇る。
ヤンスは尚も説明を続けた。
「後は触媒と相性の良い枝や賢者の右手等の呪物を組み合わせるのが
流儀でやす
変わり者の中には触媒を額や手の甲に埋め込んだり
行き過ぎたヤツは心の臓に埋め込み杖は飾りだけという連中もいやす」
と得物の指南を受ける。
「そうなんだ では ”触媒” のいいモノがあれば九割方完成なわけなの? 」
「そうでやす ”触媒”探しもあっしら術士の生きる目的もありやす
術士たるものいかに相性がいい、又は神代級遺物・至宝級遺物を手に入れ
加工して自身に馴染ませるかが全てでやすよ
少なくとも術士連中なら皆こう答えまさぁ」
「生きる目的か ......。 」
わたしは、少女になってクローティアと出逢いこうして旅をしている
クローティアに不倶載天の敵と相まみえるのを手伝って欲しいという。
”目的” は聞かされては居るが
刻限も無ければどんな ”不倶載天の敵” かも聞かされてはいない
全ては旅をしていく上で自ずと知れということではあろうが これは生きる目的ではない
この世界に生をうけ一度肉体が完全に滅びても尚、こうして自ら創造した少女の
器に入って生かされている。
わたしにとって ”生きる目的” を改めてヤンスの言葉によって考えさせられる。
「 ...... ーア様 シーア様 どうなさったので?
お顔が厳しくなってやすが、あっしが何か粗相をしたので? 」
とおどおどした声音で問いかけてきた。
「いえ、貴男のせいではないの ちょっと考え事」
「なら、良かったでやす あっしがお嬢様にご高説を垂れしまって、てっきりお叱りが来るものとばかり」
彼の目は少し怯えていた。
「貴男の説明は分かり易くて良かったし わたしにも分からない事が有るのよ
気にしなくていいわ」
「安心しやした あっしはちょっとそこら辺ぶらついて来ていいんでやすかね
お嬢様とは好みの違うでしょうし ......」
ときょろきょろ落ち着かない様子。
あぁ、”今は”女性のわたしと男性の彼とでは目に留まる物や関心が違って当たり前である
今ではすっかり違和感のなくなった可愛い雑貨や服が並ぶ界隈を知らぬ間に歩いていた
彼にとっては居心地が悪かったのだろう。
嘗て、わたしも男性の時ミーアと連れ立ってトルティアの雑貨店で同じような
感覚を味わった事があった。
「そうね、集合時は念話で呼ぶから後は貴男の自由にしなさいな」
というと
「あっしは術士の道具売り場で屯しておりやす
なにいまはこれがありやすんで、あっしに因縁をふっかけてお嬢様を怒らせるような
酔狂なヤツも出んでしょう どういう訳かお嬢様が来てらしてから闇蚯蚓の連中も
失せたようで安心したでやんす アレでもれっきとした魔物
魔物は魔物を呼び寄せますしそれより 薄気味悪くてしょうがねぇ
それにあのおっかないお嬢様達も退屈を持て余しているでしょうから...... 」
と下男の証しを見せながら言葉の最後を濁らせる。
彼の後の言葉は言わずとも分かっていた
ライブ・アーティファクト達はヤンスを下男扱いしてはいたが
ただ単に彼をからかって居るだけで邪険にしては居ないことはわたしには分かっていたし、
それに、退屈を持て余している彼女達がわたしの敵対心を敏感に感じとり
機を得たとばかりに介入してくるのは目に見えていた。
可愛い”妹”達には自由でいてほしいし、言い聞かせてはいるが完全には縛ってはいない
あとは、彼女達の内心にまかせてある。
クローティアは相変わらず長い髪にくるまれ吸血樹の根を時々弄っていて
気持ちよさそうにしていた
『ミーアのヤツは何処かのぅ ここら界隈には居ないようだが? 』
「そうね、ミーアお姉さまは武具屋か食糧品を扱っているトコかな
ロムルスにたんまり入れるまで買い込んでいるかもしれないしね」
『うはっ 彼奴一杯じゃと 此処で扱っている食糧品全てなくなりそうじゃわい』
「えっ!? 」
途端に軽く狼狽した
見た目は普通の遠足籠より大きめである
彼は中の空間は広いとは言っていたが実際の広さは彼がそう言って居るだけで
確認出来たわけではなかった。
『何を驚いておる お主の”血”を分けて貰っておるんじゃ
彼奴はもう只の ”籠” では無いんじゃよ
それくらいは易い事よ まぁミーアも流石に其処は弁えておるじゃろ』
と何気ない会話で 店内を歩き散策を愉しんだ。
『ミーア様、この布っ切れなんとかなりませんかね? 』
とロムルスは、可愛い刺繍の入った布を被せられて 少し憤っていた。
「あらロムちゃん、 こうしてなきゃ駄目よ 黒いトリニー・トレント製なんて目立つし
貴男はそれに加え ”生きて” いるのよ こうして衆目に曝される場所ではガマンして頂戴」
『へいへい 分かってますよ俺様は特別製だからな 只の籠野郎がこうして
シーア様のお陰で喋る事も出来ればある程度はこうして動くことも出来るからな』
とウネウネ編んでいる蔓を緩ませた。
「それだから、布を被せて居るんじゃないの 分かった? 」
『へいへい 大人しく ”籠” の振りしてまさぁ でも ”いざ” となれば 動きやすぜ
なぁ ビヨン』
[ 当然ですよ 我らはシーア・ミーアをお守りするために存在する
それが このビヨンの行動原理の全てです
事が起きれば躊躇いは有りませんよ ]
『ミーア様、そういうこった』
となにやら二人共、やけに息巻いていた。
原因はミーアが仮眠を取っている時、怪しげな気配が身近に及んだことに
起因していたが、ミーアには余計な心配をさせたくないと
ビヨンとロムルスは申し合わせて、気配の事を敢えて伏せていたのである。
「分かったわ」
と普通に返事を返して
シーアの読み通りに、ミーア・ビヨン・ロムルスの三人は食糧品を買い込んでいた
特にライブ・アーティファクト達の好物のお菓子類や紅茶類は特に大量に買い込んでしまい
奇異の目で見られ慌てて、商人の使いを装い
ロムルスの事は遺跡で見つけた遺物と強引にごまかして衆目の目を遠ざけていた
ライブ・アーティファクト達は、突然ミーアの所に現れては
お菓子や紅茶をおねだりするのである。
ミーアは今でも多少はライブ・アーティファクト達を怖がっていて
突然、彼女らにおねだりされてもいいように十分な量を確保しておかければならなかったし
おカネも、シーアが四人分まとめてレヴィアに預けているおカネとは別に
”おねだり”をしてくることがあった。
ミーアはまだシーアの様に彼女らを妹感覚で、接する事が出来ないでいた
シーアは盟主であるし、妹感覚で接しているようだがシーアの環境適応の
速さに置いてけぼりを食らうことも
シアズがシーアになって屋敷をクローティアに収納して以来
冒険者時代とはまた違う異質な出来事にあれよあれよと巻き込まれるように
関わることも重なり、皆には内緒だったが多少心労がたまっていた。
それでも、ミーアは現役の冒険者に復帰も出来て、
そしてシーアと共に歩める躰も対価なしで手に入れた
この心労が対価だと思うことにして現状を満喫していた。
......がさしもの三人も気配が及ばない遠くからこの様子を伺っていた者があった。
「あのケット族の娘完全に只人やめているわ ねぇ ヴェネ? 」
と
「そうね マリアおねーさま どうやったら対価無しに
只人やめていていられる訳? 信じられないわ
それよりもヴェネね あの黒い籠が欲しいわぁ かわいいし ねぇねぇ 欲しいわぁ あれ」
と彼なりにマリアージュにおねだりをする。
「うふふ、ぜーたく言わないの でもねあの娘シーアの息が掛かっているかもよ
微かに感じるのよ あの娘からね うふふ」
「そうなの? ヴェネはまだ分んないわ」
「ヴェネはまだお子様だからな このオレには微かだがあの目抜き通りに居た時に感じた
匂いと同じのがぷんぷんしやがるぜ」
とマリアージュは口角を歪め下品にちぴゃりと舌舐めずりをして
ほんの少し紅い口紅が乱れ最後は下品な男口調になる。
二人の見た目少女の男は、目をあわせニヤリとほくそ笑む
二人共今日は可愛く膨らんだワンピースドレスを着て入念に粧し込んでいた
それでも分かるくらいにヴェネイーラのスカートの股間が早くも反応してしまう。
「うふふ、 オンナノコ、オッキしちゃった? 」
「ヴェネね ......もぅガマン出来ないの♡ 」
と今にも泣きそうな目で訴えるようにマリアージュをみつめる
「だから今は駄目よ いいこと、俺達は直接は手ぇは下さねぇ そこ分かっているな? 」
とマリアージュはヴェネイーラのくるくる巻いた髪を自分の小指に絡ませ
少女口調に男口調を混ぜ囁く
「俺達ヴァン族はな、幾星霜も前から裏舞台で地下水脈の如く動くのが
宿命さ なぁ ここらはしっかりと覚えとけよ
表で派手に動くのは下品な連中に任せておけばいい
それに、俺らヴァン族はな
魔猿や角魔猿などのオツムの弱い連中を嗾けさせるのが常套なんだよ
それを高見の見物ってわけよ よく覚えておきな
尤も、俺の氏族はあんな下品な連中は使わんがな
上品な幽体系を嗾けるのが俺の氏族の流儀だし
下品な連中を使うのはヴァン族でも位階が下の連中がやる事だ
それにあのお猿さん達ねぇ このマリアを卑しい目で見るの そんなの嫌よ 絶対にイヤッ!! 」
とまるで”少女”の様にしなを作る。
「嗾けるのは今、此処ではない ......分かってるだろ? あぁ? 」
マリアージュの言葉はきつかったが剣呑な空気は今はもうない
嘗てなら即、激しく頬を張られ肉を抉られていた局面だった。
爪をヴェネイーラの喉元に優しく強く突き立てて
ヴェネイーラから微かな嬌声が漏れる
「おねーさま もっとッもっとッ」
とおねだりを迫る。
「しょうがないな テメェの被虐嗜好は流石のオレも腰が引けるぜ
しかし、兄貴もいいモン(ヴェネイーラ)を産み出しやがったな」
と言いながらもマリアージュはヴェネイーラの全身に絡ませている茨に能力を込める
「きゃん うれしーっ♡」
と一層ぶるりと震えヴェネイーラは恍惚の表情を浮かべ涎を滴らした。
すかさず御付きのメイド達が粗相をなおす。
うっとりした心持ちでヴェネイーラは気になっていた事をマリアージュに尋ねてみた
「マリアおねーさまぁ お父様は? 」
「あぁ、兄貴なら相変わらずだ 方面を飛び回っている アイツはアイツなりに忙しいのさ
それでも、おしゃれとオンナノコらしさは俺達以上だ
まったく頭が上がらんぜ
オメェも少しは見れる恰好に成ってきたからな オレとしても兄貴からおっかねぇ
眷属を嗾けさせられずに済んでいるから まぁ良しとするか」
とマリアージュはネリスティーナの眷属を心底怖がっている様子だった。
そして、ふと思い出したかのように
「それと 今と成っては誰がオレを謀ったのかも もうどうでもいいや
どうせ、お父様辺りだろうなぁ オレはお母様にしか懐けなかったし お父様は兄貴にべったりだった
オレはそれが少し、羨ましかった。
ガキの頃はそれをやっかんで色々悪さをしたもんだ
こう見えてもねぇ 今でもそうだけど、マリアってね独占欲が強いのよ」
と何時になく彼にしては珍しく遠い目をしながら男言葉と少女言葉を混え独白をした
ヴェネイーラはそんな叔父が優しい”お姉さま”にみえてますます
彼に陶酔していく自身に嵌っていく。
ヴェネイーラはヴェネイーラなりに自分の居場所をこうして模索していたのである。
側から見るとかわいい妹の粗相を直す姉の様にも見え
実際、二人はもう最初の険悪な空気は何処にも無く
意地悪な悪巧みをする姉妹の様であった
マリアージュは、
今日は珍しく、ヴェネイーラに付き合って 洋服や小物の見繕いに百貨店に訪れていたのである
勿論、自身の衣服や小物類は、全て犠牲者の少女達から奪い取った物であり今でも
それは変わらない。
先の馬車の購入の一件でマリアージュもまたマリアージュなりに
ヴェネイーラに詫びを入れるつもりだったのである。
「今日は、オレの奢りだ ドレスの代金ぐらいなら出してやるから感謝しな」
「わぁ♡ うれしぃ ヴェネねぇ ドレス大切にするね」
と少女として育てられ、男言葉を一切使ったことのないヴェネイーラは
ごく自然にこのような口調で謝意を伝えた。
そして
刻一刻と ”ルナティア” にヴェネイーラのお披露目の日取りが迫っていた。
父親であるのネリスティーナも最近の二人の様子をメイド達から報告を受け
督促の書状をルナティアから受け取った事も有り
ヴェネイーラの多少の粗相の処罰は自身が全て被る覚悟で
お披露目の日取りを決めていたのである。
ヤンスと別れ、一人でぶらつきながら可愛い雑貨や衣服が並ぶ界隈を歩いていると
場に似つかわしくない老紳士がすいっと横に立つ
背は高く白髪で、痩身であり それに片眼鏡と如何にも執事然とした人物が
気配も無くわたしの横に現れたのである。
そのうえ、ライブ・アーティファクト達の反応も無かった
「ご機嫌麗しゅう、 銀の御嬢様 ......どうかそのままの姿勢でお聞き下さいませ
なに、 ”遺産のお嬢様方” でさえ私めの気配は感じ取れないで有りましょう
彼の地 ”ギアトレス” は貴女様を受け入れる準備が既に整っており
今か今かと待ちわびて居ります
ふさわしい出逢いそして 後の言葉の仔細は必要有りますまい
ふさわしい辛苦が貴女を歓待することで有りましょう」
やや、剣呑な空気を纏うも
「此処では、事は起こしませぬ どうか御安心を
束の間の休息をお愉しみ下さいませ この邂逅の記念に貴女のお手を、此処に」
と自分の口元を指し示す。
わたしは、手の甲を老紳士の口元にさしだすとやおらこそばゆい感覚と共に
彼は接吻してきた。
「貴男の名は? 不躾に接吻を要求してきて先ずはそちらが名乗るべきかと」
と毅然と問うた。
「不躾なのは御尤もではありますが 今は、まだ私めが名乗る段では有りませぬ ......が
貴女様が目指すお相手に極親しい者と言えば
聡明な貴女様の事、今し方その名がそのお美しい御髪の中に浮かんだ事で
有りましょう
私めはその浮かんだ御方の執事、という事でご理解いただけましたらよろしいかと」
と回りくどい言い回しで囁く。
すかさず、わたしの吸血樹の根が ザワリ と反応する。
只人ならユラのリボンのお陰で誤魔化せていた吸血樹の根をを難無く看破して
「おっとこれは怖いですな、 ”吸血樹の根” ですか 先も申し上げましたが此処では、
事は起こしませぬ お気持ちをお抑めくださいませ
手短では有りますが私めも所用が有る故、此処で御暇させていただきます」
とまたなんの気配もなく 掻き消えた。
『何じゃ? 彼奴は? 気に入らんのぅ』
と髪にくるまれていたクローティアがボソリと一言漏らした
彼女が気に入らないというからには敵対者の可能性もありはたまた
単なる使者の可能性もある
今一つ ”女の勘” が働かない不思議な人物ではあった。
ギアトレスの封印は既に解かれている、わたしが航らずとも向こうからいくらでも
事を仕掛けて来れるはずである
それを敢えてしてこないのは、能力を見定められているのであろうか
何れにしても余り愉快な気持ちにはなれなかった。
クローティアにも、わたしの空気を読んでか
『余り、しかめ顔するでない 可愛い顔が台無しじゃぞ』
と言われしまい妙にその 可愛い顔 を意識してしまう
最近は、可愛いとか美しいとかそんな女性に対する賛辞とも取れる言葉
を強く意識するようになってきていて、
以前であればまるで他人事の様に感じていたことが、自分に向けられた言葉だと
分かると少し自慢にも似た感情が沸き起こってくるのを感じていた。
「わたしって可愛いのかしら? 」
とクローティアに問うと
『可愛いもなにも、お主がその少女の姿に成ってからずっと皆に注視されとったぞ
それは敢えて言わんかったがな もしかしてお主それに気づいておらんかったか? 』
とここでわたしが常にどんな目で皆に見られているか初めて知ったのである。
慌てて首をすぼめると
『堂々としておれ お主の容姿はお主自身のものじゃからな』
と言ってくれたが、暫くの間は妙に視線を意識してしまいこそばゆい感覚に悩まされてしまった。
『それにしても いろんな手合いが動いてているようじゃな
お主とて不意をつかれぬようにな
儂もそうじゃが、古代浮遊魚類 リムレール・ランコーリが
従いているとはいえ万能では無い これをしっかり覚えておくんじゃ』
今は、右手小指のその指輪の中であの 古代浮遊魚類達が小さくなりクルクル自由に泳いでいた
この数々の指輪達はわたしが沐浴時に外したとしてもいつの間にか指に嵌っているのである。
その事を言うと
『それはこの指輪共もな お主を好いているからじゃよ
道具が持ち手を選ぶのは至極あたりまえじゃな 只人共はオレにふさわしいだのとよくほざいては
いるが実の所その道具がふさわしい持ち手を選んでいるに過ぎぬ
だからな 嫌わないでやってくれんか』
「当然じゃない、わたしは意思疎通が出来ない道具であっても大事な仲間よ
師であるレフィキアにそれを叩き込まれたの それは揺るがないわ」
わたしは、幼い頃実の両親を魔物に襲われ亡くしている
そのせいか、家族という響きがとても愛おしく尊い存在に感じていた。
それを知ってかレフィキアは事ある毎に”家族”の大切さを色んな例で説き伏せてくるのである
たとえ錬金の実験中 ......であっても
ふとそんな懐かしい感覚が通り過ぎた。
マリアージュとヴェネイーラの二人は買い物を済ませミーア達には遂に
最後まで気配を気取られること無くその場から何処かへ立ち去る
こうして二つの気配無き気配が立ち去ると、辺りはすでに夕刻の喧騒に包まれ始めていて
客層が徐々に変わり始めていた
わたしは腰が窄まったワンピースではなく珍しく童女が着るネグリジェのような
ゆったりとしたワンピースを数点購入する トリンデで購入した物とはちょっと違っていて
流石は術士が多く皆憧れの浮遊大陸 ベルゼである 意匠もそれなりに凝った服
が所狭しと展示されていた。
自身としては腰が窄まったかっちりとしたワンピースが好きであったが
ゆったりとしたワンピースであっても
装飾も気合いがそれなりに入っていてついつい一張羅のような衣服を手にとってしまう
部屋着や普段着感覚で着るゆったりとしたワンピースも数点は欲しかったのである
「良くお似合いですよ お嬢様」
店員が世辞とは言えほめてくれるのは悪い気持ちではない
ただ胸の双丘にまで、やや冷たい風がスースー容赦無く入ってくる
それでもゆったりとしてまた違う自分が姿見の中に映っていた
服の意匠もやや童女っぽくて思わず指を咥えて
童女を演出してみた
姿見の中の少女も同じ動作をみせ顔は少し、はにかんで可愛かった。
普段着でもフリルやレースはついているほうが好みであり
結局これも一張羅のようであったが幸いおカネには困っていない
たんまり装飾が施された物を十数点買い込みそのうち一点
クロを基調として白の装飾が施されたそれをその場で着替え
身支度を整えた
『お主は可愛い服がよく似合うのぅ ところでミーアのヤツはどうした? 』
そう言えば彼女は何処だろうか ライブ・アーティファクト達は事有る毎に
お菓子と紅茶を要求しているらしいので、多分食料品を扱って居る場所だろう
と目星をつけ階下を目指し歩いていく。
先のクローティアの発言を妙に意識してしまい視線が気になって
耳を欹てると
「あの娘可愛いなぁ」
と賛辞が一つ
「なんで、あの娘てあんなに可愛く産まれたのかしら」
「私の方がもっと可愛いのに」
「あの綺麗なお顔を疵ものにしてやりたいわ」
とやっかみや剣呑な言葉が三ツ四ツ
女子はやはり男子とは違って、如何に自分自身を良く見せるかが根底にあるようだ
男子なら、自分自身を良く見せるのに、持ち物自慢が多かったので
感覚の違いにいまさらながら少し戸惑った。
ミーアと無事、合流して黙って依頼を引き受けたことを言うと
「しょうがないわねぇ でも今度からは念話でもいいから一言、言って欲しいかな
そんなトコちっとも変わっていないんだから」
とやんわり念押しされた。
事後承諾ではあったがミーアの協力と承諾を取り付け本日は
わたし、ミーア、ビヨン、ヤンスとで百貨店近くの食事処で
夕食と相成った。
『おや、アンタがヤンスという御方で? 俺様は、ロムルスというもんでさぁ
お互い ”男性” 同士仲良くやりましょうや』
「へぇ、あっしも ”男性” のお仲間が出来て肩身の狭い思いをせずに
済みそうでやんす」
『まぁ、挨拶はこれくらいにしようぜ 皆家族なんだろ』
「そうでやすね」
と二人の男性はまだぎこちなかったが漂う空気は悪くなさそうだった
「ふ〜ん、ヤンスやっと ”下男” になれたのね レメねぇ これからいーっっぱい
弄ってもいい? 」
と突然レメテュアが隣に現れる
この喧騒の中ではいきなり彼女が現れても誰も不審には思っていない
「レメちゃん 彼は表向き ”下男” に成ったのであって下男扱いはダメよ」
と言い聞かすも
「いーやーだぁ いくらシーおねーさまの言うことでもこればかりは譲れないわ」
と頑なまでに納得しなかった。
「いいでやんすよ レメテュア様あっしは貴女方のようなお嬢様達にとっては遥かに格下でやすから
気にはしておりやせん」
「ほれ、ヤンスだってそう言っているじゃない でも貴男を格下なんては言っていないわ
そこは訂正してよ
レメ達ってね只人の欲望の果てに産まれた存在だから、
あまり格がどうこうって言われたって分かんないもん
レメ達が敢えて格上と呼ぶならおねーさまと、私達と似て非なる少女達だけよ」
「ねぇ レメちゃん ”私達と似て非なる少女達” って? 」
わたしはこの言葉が気になった。
「そうね、私達と似てるけど、遥かに怖いおねーさま達 ”遺産の少女” とは異なる
存在が居るのよ この世界のどこかにね これ以上は知らない
だって レメって ”迷宮” そのものだからあまり他のねーさま方の様に
動けなかったの だから知らないもん」
とそれ以上の事は訊き出せそうにそうになかった。
彼女は、迷宮遺構:レメテュア でありこの前の浮遊遺跡ギメルではない別のところで
多くの冒険者や調査団等を迷宮遺構:レメテュア に迷い込んだ者達を ”喰って” きたらしい
そして人化してまもなく誰かに封櫃され彼処に安置されていたという
このことは盟約と同時に分かっていたことだが、彼女には私にも分からない謎が多かった
だた一つ言えることは、迷宮遺構である以上自由には動けず、
世間の多くを見て来たわけではなさそうだった。
それが、彼女の言動の幼さに出てしまい他の皆にお子様扱いされているのである。
とはいってもわたしやヤンスよりは遥かに長い刻を過ごしてきていることには
違いはなかったが。
「ねぇ、今度の ”玩具” レメに頂戴 その代わり今度はレメが戦闘に出るから
ねぇったらぁ ねぇ」
と珍しく私に駄々をこねてきた。
「いいわシセラと一緒に、貴女の迷宮の智慧を貸してもらうわ」
彼女が戦闘に直接参加するのは非常に珍しい上、
彼女の遺物に対する知識は幼い外見に似合わず豊富である
今度の攻略には必要不可欠と考えられた。
と言うと
「いいわ、黒のおねーさまと一緒って怖いけど レメがんばるわ」
と快諾してくれた。
その夜、レフィキアのお屋敷でわたしはレメテュアとわたしの寝台で同衾していた
「あのね レメね おねーさまが欲しがっている ”玩具” が欲しいの
いいでしょ? 」
と改めておねだりされた。
「えぇ、いいわ もとよりレメちゃんのための ”玩具” なの
レメちゃんって他の娘達の様に ”おみやげ” は簡単にはいかないからね
せめて、わたしからのお詫びよ」
とレメテュアに詫びた。
「やっぱり、シーおねーさまってステキ レメはは只人 ”丸ごと” でないとダメだから
今代はもう諦めていたわ」
先のレメテュアの言によれば、彼女の蒐集対象は、迷宮遺構:レメテュアに迷い込んだ
ヒトそのものであるため おいそれとは簡単には与えることが出来ない。
それを知っていたのでとても、もどかしかったのである。
出来れば彼女を満足させてやりたいが、今代の事情を鑑みても簡単な
要求ではないことは分かりきっていた。
そこで代替案として、彼女が満足出来る”玩具”が有ればと考えていた矢先に
先の不思議な魔物の件が飛び込んできたのである。
彼女もライブ・アーティファクトである以上、普通の”玩具”では
満足出来まい、件の魔物で有れば近づきさえすれば何時でも
出現し、 ”遊び” 相手になってくれるだろうとの算段が働いたのである。
「レメちゃんは、思い当たる事はないの? 」
ノアのネウスネルも直ちに看破した彼女である それを踏まえ訊いてみた
「んとね、ちょっと見てみないと分んないな 野良の魔物や使役魔物の可能性もあるしね」
と答えに窮していた。
「そう、 ならいいわ どうせ明日見れば分かるもの」
彼女を問い詰める真似はせず、今夜くらいは一緒に寝て甘えさせようと思って
優しく、抱きしめてやる。
両にまとめた髪はラヴィア同様寝台に潜り込んで来る時
ひとりでに解け、髪を下ろした状態になっていた
そして先の会話のあと、軽く沐浴を済ませ今またこうして
寝台に同衾と相成ったのである。
ヤンスやミーアに対しては、小生意気な雰囲気を強く漂わせていて
下男、下女と言い放ち 我儘を言い放題な様子ではあるが
わたしとこうして二人きりのときは、そんな雰囲気は完全に失せて
只の甘えっ子な幼女のようだった。
指をくわえ大きな黒のうさぎの布製玩具を手放さない
それで、わたしに抱っこしてとおねだりをされ抱いてやると
安心したらしくそのまま寝入ってしまった。
そうして、わたしも睡魔のまま意識を手放して一番鶏が鳴くにはまだ早い未明には
覚醒したのである。
今日は、戦闘があるのは分かっていたので、
例によって簡易なワンピースに着替え身支度を整える。
レメテュアはまだ夢に囚れていて むにゃむにゃ 何事か寝言を言っていた
「レヴィア いる? 」
「は〜ぃ なんでしゅか シーおねーさま」
直ぐさま、部屋に現れて
久しぶりに見た彼女も相変わらずであった
「レメちゃんはこのままでいいわ わたしが呼んだら起こして頂戴」
と頼むと
「いいでしゅよ 取り置きのお菓子、レメちゃんにあげてもいい? 」
「勿論よ、 起きたら食べさせてやって」
棚にある、わたし用に取り置いていたお菓子を指さす。
ライブ・アーティファクト達は、普段わたし達がするような食事は一切せず
お菓子や、紅茶が食事の代わりのようであった
レヴィアにも確認をすると、ライブ・アーティファクト達はやはり全員、蒐集品の嗜み以外は
お菓子と紅茶しか口にしないらしい。
「ミーアお姉さまは? 」
訊くと
「もう 起きて修練中でしゅよ 」
と至極当たり前の様に話す。
ライブ・アーティファクト達が寝ている間は ”宿り木” に依る修練で
起きてからは 短剣で修練をするのがミーアのレフィキア内での日課らしかった
そして、ケット族男性 ニケル の元に出向くと既に彼は起きていて受付で大欠伸をしていた
「うわぁ 眠みぃな ケット族は夜行性だっつーのによぅ」
と毒づいていた。
「誰が、夜行性だってぇ? 夜更かししてた癖に きちんと目ん玉おっぴろげな
だらしない顔で応対したら減給だよ!! 」
と威勢のいい女性の声
「うへぇ、おっかねぇな 分かってますよ これだたらウル族の女は
......もうこんな朝早くから誰も来や ......っと
アンタか、シーアさん もしかしてみんな聞かれてた? 」
「えぇ、大欠伸から 毒づいて文句を言ったトコまで全てね」
とからかうと
「大欠伸は内緒にしておいてくれ オレの給金に響くんだ」
と、 にひら〜 と半笑いをする。
「勿論いいわ それよりわたし達の他には、名乗りはあった? 」
「やっぱ、名乗りは居なかったぜ 犠牲者は出ても近づかなきゃ問題無しという事で
この件は、重要案件には入っていない
尤も、調査団の連中はヤキモキしてるがな
なんでもな、調査団の後ろ盾の支援者がな
純魔族のお偉いさんの躰がでっかい老紳士らしいぜ
噂じゃ、魔族の皇女様の御付きらしいがな まぁあくまで噂だ
聞き流してくんな。
(先の老紳士とは違うようね、誰かしら? )
と疑問には思ったがそれは今は関係がなかった。
「例の珠の所有の名乗りは? 」
名乗り出が有れば交渉を早めにしておきたかったのある
場合によってはその人物との”買い取り交渉”も考慮に入れねばならないからだ。
「あぁ、それも誰もいねぇぜ、調査団の連中だって退かしてくれる上に引き取ってくれるなら
万々歳だろうよ」
と説明を受けて
そして改めて、契約書に ”珠” の所有権を主張しギルトの承諾を持って
権利が認められた。
「あんたら以外は、一行も居ないようだな
それに、さっき一番鶏が鳴いたぜ」
考え事で一杯だったわたしは気づけなかった
「ケット族のオレ様の耳を舐めて貰っちゃ困るぜ
後、出立は何時でもいいぜ
場所は此処ネグリール北東の渡り橋の名無しの島だ
遺跡の名は ”メギスト” だがでっけえし行けば直ぐ分かる
魔物はその入り口付近に現れるから気ぃつけな
今は渡り橋は封鎖中だが、この通行証を見張りに見せな
通してくれるからよ」
とギルド発行の通行証を貰う この通行証発行の手数代金も依頼金の中に含まれるらしい
「えぇありがと もう二人、他にいるけどいいの? 」
「あぁ構わんさ アンタが代表指揮だからな 面子は好きに選びな
ただし、問題を起こせば皆アンタに全て掛かる それも覚えておきなよ」
「えぇ、ありがとね」
「おぅ、毎度あり 今後もオレ様を贔屓にしてくんな」
と軽い見た目や喋りとは裏腹に、好印象を与える応対であった。
わたしは、こうして ”メギスト” 遺跡まで足を運ぶ
成程、半分埋もれかけた大きな建物らしき入り口が見えてきた
この島は大きくな無かったがたしかに 遺跡らしい遺跡は他には見当たらない
この浮遊小島全体がメギストかも知れない
よく目を凝らすと確かに入り口付近に黒紫の六角柱の結晶体が地面に突き刺さるように
斜めに立っていた、さらに宇宙から降った来たかのように
結晶体の周りは衝撃で少し落ち窪んでいた
レメテュアはわたしのスカートをきっちり掴み
「あっ あれ使役魔獣 ”ゲルギル” ちゃんよ
でもね、あれ 今代では完全に滅んだ 古代魔物よ
でもなんでアレがこんなトコにあるの? しかもだれも今まで知らなかったなんて」
「どうゆうことかな レメちゃん? 」
わたしは疑問に感じていた
魔獣は意思はあるものの、こちらから手を出したり不用意に縄張りを侵さない限りは
例外があるが襲って来ないしひっそりとしているという認識であり
その上、その存在は忽ち冒険者に知れ渡り絶好の討伐対象になるからである。
なのにまるで ”忽然” と現れたかのような言い振りであった
[ シーアの認識はそれで間違いないですよ アレはレメテュアが言うとおり
この場にはそぐわない存在ですよ ]
「そう、ビヨンおねーさまの言うとおりあれは本来は屋内にいて
遺物を守ったり、主を守ったりしている者なんだもん
しかも アレは完全な”野良”よ」
「”野良”のどこがおかしいの? 」
と訊くと
「あれの存在理由は、主や遺物を守るのが役目よ
完全な野良なんて見たことも訊いたこともないわ」
と首を傾げていた。
「へぇ そうなんだレメちゃん だったら尚更、シーアのペット、もとい貴女のペットに
ふさわしくなくて? 」
とシセラ。
「うん、漆黒のおねーさまぁ あれレメのペットにしたい、したい」
と駄々をこね、ライブ・アーティファクトである彼女が
激しく自己主張をする。
「うふふ、だったらシーアに、アレを手懐ける方法を教えてやりなさいな
シーアのモノになれば貴女のモノに成ったのも同然じゃない? 」
「うん 分かったわ アレにねシーアおねーさまの”血”を付けることが出来れば
おねーさまの言うこと何でも訊くわ 眷属では無いけど忠実な僕になって
自壊せよと言えば簡単に自壊しちゃうくらい
だから手懐ける事自体は簡単だけど、どうやって近づくかが攻略の鍵ね」
と流石は遺物に関しては、流暢な言葉で説明する。
先の救護院の遺体の状況や目撃者の情報によれば、
どんな形態になるかは不明であるが女性に対しては漆黒の騎士の姿で
”魂”を吸い取られるようだ
先ずは、ヤツがどんな相手かを初撃を与えて反応を見極める必要がある
わたしは、単独で例の結晶体に近づいた
すると、目撃証言通り漆黒の霧が結晶体から湧き出でて次第に形となし
漆黒の騎士の姿を取った。
背が高く細身に全身流麗な甲冑で覆い、頭もすっぽりと兜で隠れ
目に当たる部分のみウイスタリアに輝いて、それが鬼火の様に
揺らめき、足音もなく甲冑の軋みも無く歩み寄る。
思えばこれが、警告だった。
茨の鞭を出す前に、事が始まってしまった
そして、予備動作無しに剣を右手を逆手、左手を順手に構える
{ ワレ ......ヲ オコスモノ ダレゾ ...... ワレハ ワレニ モトズキ
ツカエル アルジ ナキ ノ カワリ ニ ハイジョ スル }
と片言の共通人語で言葉を紡ぎ
言い終わらぬ内に間髪入れずに 斜めに大剣を振るってきた。
茨の鞭を出すもヤツに届かないあと10歩分といったところだった
間合いを私は徐々に詰めていく
先般の戦闘訓練がこの時役にたった ......が
ヤツの間合いはわたしよりかなり長かったのである
わたしは剣の本体しか注視していなかったのである
そこに纏う黒紫の炎を注視し忘れていてそれが大きく生き物の様に
跳びかかって来る、
慌てて、飛び退き受身をとるも
纏っている濃いウイスタリアの炎は、剣の本体より遥かに間合いが長かった
そして避け切れたつもりであったが少し、その炎の切先が躰を掠ってしまう
途端に、全身から力が抜けてその場にひたり込んでしまい
痛みは無かったが立って居続ける事が出来なくなったのである。
『シーアっ!! 』
「シーちゃんっ!! 」
[ シーアッツ!! ]
三人の声が突き刺さって更に
レメテュアも
「おねーさまっ!! 」
と金切り声を上げる。
ゲルギルは周りの声には、反応せず
{オォ ナント カンビ(甘美) ナ マギ ナリ
ワレ ニ カンゼンニ トオリコム(取り込む) ニハ マコトニ オシイ
シカラバエイエン ニ ワレ ノ コンゲン(根源) ノ イシズエ(礎) ニ シテクレヨウゾ}
と片言の共通人語で言葉を紡ぎ、漆黒の騎士:ゲルギルは剣を大きく
更に、横に一閃なぎ払う。
その一瞬前、
ミーアの”宿り木”が足に絡み皆の位置に引き戻された
すると、
漆黒の騎士:ゲルギルは漆黒の狼に姿を変えて、
辺りの匂いを嗅ぐ仕草をする。
{ウヌ ドコヘ キエタ トリニガシタカ? オソレ ヲ ナシタカ?
ギン ノ ムスメ メ!!
ワレ ノ シカイ カラ コツゼン ト キエオッタ(消えおった)}
と又、不定形な霧に戻り結晶体に吸収されて、初めて訪れた時の様な
静寂が訪れた。
疵は一切なくただ非常に躰が重かった
『彼奴め!! 極上のマギをたんまり 此奴から奪いおって
赦さぬぞ シーアのマギは儂のものだ』
と
どこか検討ハズレな怒りをクローティアはぶつけていた。
しかしながら、今のクローティアの発言で、大量のマギを奪われたらしいことが
薄れ行く意識で理解した。
魂を盗られてたのは、マギを吸い付くしただけではまだ足りなくて
魂までも奪う質があるらしい 何とも強欲な魔物である。
この時は、わたしが男性でなくて本当に善かったと思えた局面であった。
もし、ただの男性であればあの狼の姿で ズダズダ にされて単なる
肉の細切れにされていてあの遺体の仲間入りするのは容易に想像できていたから。
「シーちゃん マギを癒やすから そのままじっとしていて!! 」
と宿り木でわたしをつつんでくれ
((巡り 巡れ 巡る魔素 循環の理たる世界魔樹
循環の小枝をこの者に手向け給う
我ミーアの魔素を循環の小枝にて 分け与えん))
と朦朧とした意識で聞いた呪文は
初めて耳にする呪文であった。
急速に躰の重みは失せて、意識が覚醒していく
「シーちゃん 良かった。 ......でも あ......れ、目の前真っ暗、 ......まだ陽が高い ......のに」
の言葉を最後に
ミーアが代わりに倒れ完全に意識を失ってしまう
「ミーアおねーさまっ!! 」
と慌てるも、
『これ!! 慌てるではない お主程のマギの器に己れのマギを分け与えたのだ
暫くは目を覚まさんて』
「あの あの ミーアおねーさまは? 」
わたしはキマーラのときの恐れが頭を支配する。
『大事ない 先ず儂の話しを聞け
マギは この世界の理の一つ 循環の理の支配下にあってな
世界魔樹がそのマギの循環を担っておる
一人一人素養と資質によって持っている、
量も質も異なるマギを死んだらその者のマギを滞りなく
次のあらゆる新しき生命に循環させる大きな役割があるのじゃからな
急激なマギの補充には誰かのマギを分け与えねばならん
本来は、この大気に僅かながら漂っているマギで時をかけて癒せるのだがな
今はそんな悠長な事はしておれんかった。
あのままだとたとえお主でさえ七昼夜は目を覚ませんかった
それに”儂”の為にあるお主の極上のマギが枯渇しかけるなんて醜態は
断じてこの儂が認めん。
そこで、冥魔ですら癒やす能力のあるミーアに
取って置きの高等呪文をおしえたのじゃよ
いまなら躰もそれに耐える事も出来、宿り木まで心の臓に寄生しておるし
大丈夫との判断じゃった。
これは、大いなる理の一つである、世界魔樹の
能力をほんの少し高等呪文で代行して強引にその循環を
早めたのじゃがそれでも、お主のマギは量も質も極上で世界魔樹の
能力である程度は補給出来たが、世界魔樹とて無限に早めることは出来るものでは
ないのじゃよ
お主だけに 一杯になるまで与えることも出来んし、能力を割くことも出来ん
我等、お主・ミーアもじゃが、”冥魔”はマギも異質でな
通常のマギを一旦、我等用に変成させねばならぬその変成も行わねばならぬからな
世界魔樹にとっては過大な負荷よ
それで、循環が乱れたら大変な事態が生じよう
よって最も手っ取り早いのは同じ異質なマギで補い合うことじゃ
ましてミーアはお主の能力で人外に変成しておる
このような局面にはうってつけなのじゃよ。
それでも人外化したミーアのマギですら、足らぬかったようじゃ じゃから
今は自然な回復を待て 生命には問題ないし心の臓もしっかりしておる』
と危険が無いことを担保してくれた。
「それじゃ わたしたちって ”変成” とやらは他に頼らず自然に
行っているの? 」
わたしには、常に何かをしている感覚はなかった。
『我等 冥魔は、躰の生理機能の一部としてそれを行っているのじゃ
大気の大量のマギを使ってな。
お主も経験あるじゃろ ベルゼ入りしたとき髪が淡く輝いとったろ?』
「あれ? 」
わたしはベルゼ入りしたとき、魔霧帯で淡く輝いて居たのを覚えていた。
『お主は髪全体で吸収と変成を同時に行い、ミーアはこの色の変わった部分でな』
とミーアの耳の先と尻尾の先を指し示して言葉を続けた。
『常に意識しとらんでもやっておる だから、以前髪を切ろうとしても
直ぐ元に戻っとったと言ってじゃろ
遺産の少女ら同様、お主にとって髪は単なる髪ではない』
わたしやライブ・アーティファクト達が自在に髪を動かせるのも
わたしの 濃い色の一房の髪で情報を得たり 吸血樹の根に
能力が備わっていたりするのも
これで一つ合点がいった。
『今夜は此処で野営じゃな 幸い距離を取ると
ヤツも手出しは出来んようじゃしな』
相変わらず結晶体はそのままであり変化は無い
取り急ぎヤンス・ビヨンの両名は簡易天幕を張り中にミーアを運ぶ
[ ミーアはビヨンとヤンスにおまかせを
あとレメテュアはお屋敷でおやすみ下さい ]
「ごめんなさい シーおねーさま レメの出番はここまでかな」
と困惑顔である。
「いえ、気にする事はないわ 貴女は貴女の役割を果したの
十分に誇っていいのよ」
「うん、 今はおねーさまに従いてレメは幸せよ」
と心底嬉しそうだった。
ライブ・アーティファクト達は人の欲望で産まれその欲望にこき使われ
挙げ句、封櫃された。
彼女らもそれがいやで身を顰めるように生きてきた
そして、彼女等の能力には闇雲には頼りたくないというのもあった。
わたしは、簡易天幕の中で思案に耽る。
シセラも、
「どうしたものかしらね あれ多分物理的な盾やミーアの宿り木じゃ無理ね
このシセラは、強い魔術的な盾が必要と践んだわ」
とシセラも思案に暮れる。
其処へ、
「ちょっと、お邪魔してよろしいかな お嬢様方」
と声を掛けてきた
吟遊詩人のエル族の男性がいたのである。
私とビヨン・ヤンスの警戒の空気を読んだのか 素早く名乗りを上げる
「おっと 私は見ての通り吟遊詩人の ”ニラウス” と申す者
敵対するつもりは毛頭ありまんぞ」
痩身な体躯・色白の肌と典型的なエル族の特徴を備え
更に面長の顔、やや冷たい印象の目そして
鼻下の髭を二つに分け細く香い油で丁寧に撚って、上に跳ね上げらせていた
小洒落た衣服を纏っていて一見、貴族のようにも見えるそんな男性が、
わたし達に気配を気取られること無く其処に立ち、そして丁寧に挨拶した。
「
〽 銀の髪の麗しき処女
〽 純銀の眼に、紫水晶の眼 麗しさを引き立てる
〽 銀の御髪、美の女神も羨望の賛美を
〽 贈るでありましょう
」
謳う様な独特の節回での挨拶かと思いきや
彼は、申し訳無さそうな顔で
「...... っと申しおくれました我輩は、吟遊詩人詩人故、かようなご挨拶で
ありますことを、お赦し下さい
改めて我輩の名は” ニラウス” と申す者、諸国・諸大陸をコレと一緒に漫遊しており、
たまたま貴女様をギルドでお見受けして是非、このニラウスめも彼の者討伐をと
受付に無理を言ったのであります。 」
と彼の肩には 銀の小竜が止まり彼のエル族特有の耳を甘噛みしている。
吟遊詩人とギルドは深い関係があり吟遊詩人の周りには
多くの人々が彼らの詩を聞きたくて集まるのである、故に
宿屋も兼ねているギルドでは、彼らを追い払うどころか
大歓迎で、古来より宿賃はどこでも無料であり貴重な各大陸の情報源でもあるので
ギルドでは好待遇の職であった。
そしてこの一人旅を可能にしているのが、彼の肩に止まっている小竜である
彼らは召喚術で従えているのとは違い
野良のはぐれ魔物やドラコ族の卵を入手し、長い信頼関係を築き上げ
ようやく ”相棒” となるのである
いずれも、このような ”相棒” に至るまでは吟遊詩人自らが ”相棒” に喰われる
又は、愛想をつかされ逃げられるなどの危険もある。
そんななか ”相棒” でも格上のドラコ族の小竜を従えているのは
相当の手練と見えた。
彼らの殆どは一人旅で各大陸・各遺跡を巡る
それ故、冒険者としてもそれなりに腕は立つ者とされていて
実際、簡単に魔物に殺られるようでは情報も手に入らず、身銭も入らない
そのうえ、楽器を携えた上で、さらに細剣やサーベルで
それらを簡単にいなす事が出来なければ、各大陸・各遺跡を気ままに漫遊するこも出来ない
得物に細剣が多いのは、
大剣では両手を塞ぎ、杖は商売道具である語りを妨げられる
そしてなぜこのような小洒落た出で立ちかと言うと
剣士等では・小洒落た衣服を着る事が出来ず、衆目を集める事が出来ない
とこうした必然的な成行きあっての恰好である
仲間とは組まず、独り身が性分にあっていてかつ、彼方此方を自由気ままに漫遊したいとなれば
吟遊詩人の職を選び極めるのが手っ取り早い。
そんな、ある意味戦闘や旅の達人がなぜわたしの元を訪れたのか
彼の、真意を図りかねた。
「吟遊詩人の貴男が何の用かしら? もしかしてあの結晶体が欲しいのかしら? 」
と契約書に著名してから名乗られても、彼は莫大な再交渉権をギルドから購入せねばならない
「いえ、銀のお嬢様 私:ニラウスめは調査団の目的とは別に、遺跡に用事があるのです
丁度、お嬢様があの魔物と対峙する局面に出くわしまして
私めも冒険者のはしくれ、ここは漫然と詩を謳っている刻でないと思った次第。
私と ”ドラン” はこの季節で幼少の砌に出会いそして丁度、 ”巡り二千” を迎えます
ここで、お美しい貴女と出合ったのも、何かの御縁で有りましょう
今一つ、一時の貴女様の戦力にお加えくださいませ さすれば調査団の追い求めるモノの
”情報” を差し上げます」
と更に頭を下げる。
多少の学識がある者が訊けば、 ”巡り二千” という表現がいかに重いモノかが分かる
ピクリ と吸血樹の根が反応する、
彼の視線が一瞬反応したようであるが表情を隠すのが上手い吟遊詩人のこと
看破されたかは分からなかった。
彼らは、自身や自分の身内や知り合いにどんな不幸な事がふりかかっても
これすら詩に編纂し、人々に笑顔で伝えねばならない
精神の強さも求められる、そんな外観や印象とは裏腹に過酷な職業でもあった。
「貴男は手練のようですね わたしはシーア・オブライエン
家名を持っていますがシーアと言ってくださって結構です
手練の貴男を見込んで喜んで、お加えいたしますわ
とわたしは彼の一行の一時編入を了承する。
女の勘が働いたのだ 彼はこの攻略の大きな切っ掛けを作る ......と。
「ニラウス様 ところで楽器をお持ちではないのですか? 」
と吟遊詩人なら肌身離さず携行している楽器が見当たらない
「これは、シーア様、いいところにお目がいきますな
さて、ただ語るも吟遊詩人の名折れです
実は我がニラウスの生命たる楽器はここに」
と腰に結わえていた男性の彼には似つかわしくない
可愛い草柄の革鞄からすいっと大きな撥弦楽器の一つある
リュートを取り出した。
この革鞄もわたしの小鞄同様に
内部に結構な空間があるらしい。
「 一行の編入のお礼に少し昔話を致しましょう
お代はいりません 今はシーア様一行の為の
詩にてごさいます
拍手も喝采も不要でございます故。
〽 何時かの刻 何処かの場所で
〽 今は無き滅びの種族 薬師の少女の御君
〽 愛しの目 麗しの唇 淡き頬 小川のせせらぎが如き髪
〽 そんな愛しの君
〽 間抜けな男の我儘で 愛し麗しの君
〽 悪しきモノ 猛る獣の 暗闇に囚われて
〽 巡り一千 暗き闇に迷えり 後に残るは革鞄が一つ
〽 愛しの君の胎内に収めしは 我が伴侶にて我が生命
〽 我が生命賭けて 愛し君、麗しの君、墜ちし君
〽 天門を開き 転生の環に乗せん
〽 麗し愛し君の 御霊の欠けら 我と共に生き、我と共に歩まん
〽 詩に乗せ、詩に願うものなりや 」
と流麗ながらも声は終始震えていて、表情を隠すのが得意な吟遊詩人はそこには無く
だた嗚咽をもらす一人の男性の姿があった。
「貴男の目的って? このメギストの ......」
「シーア様、これ以上の御言葉は御勘弁下さいませ」
と続けようとした言葉を遮る。
「幸い、調査団の 後ろ盾は 純魔族で位階三位の御方
今までの稼ぎと引き換えに討滅をお任せしました
私は彼から愛し君、麗しの君の耳飾りを受け取る事か叶えば喪う財など
瑣末な事。
あの御方は ((( 取り戻してやる 安心しろ 待ってな)))
とおっしゃってくれましたが、
どうしてもこの目で見て詩にせねばなりませぬ
これも悲しき吟遊詩人の運命と責務で有りましょう
先ずは、あの先触れ(ゲルギル)を討滅をと、いきたいところでしたが
何故か、誰も名乗りも上げない そのときの、貴女様のお名乗りでした。
どうか今一度 利害が一致と相成れば
共闘のお手間をいただきたく存じます」
と完全な泣き顔で懇願される
ときに夕刻又暗い夜が近づきつつあった。
「さて、ドランもう頃合いでしょう シーア様に挨拶なさい」
やがて嗚咽も止み冷静な顔に戻った彼は肩の小竜に話しかけた
{おぅ、俺様はドラコ族が一翼 ”ドラン” ってぇでんだ
ニラウス(コイツ)とはコイツがまだ、ガキの頃からのダチだ
明日はあの”先触れ”を始末するんだろ
どうすんだい? 算段でもあるのか? それとも喧嘩ふっかけて一度退いたか? 」
と質問を三つ重ねてきた。
「そうね 最後の質問に答えれば後の質問の回答にもなるわ
最後の質問については、その通りなの
仮に彼とするわね
”彼”が放つ攻撃は”純魔法攻撃で、ミーアおねーさまの宿り木でも守りきる事は出来ないわ
しかも、実体はあるものの霧状で
女性には漆黒の騎士の姿で、男性には漆黒の狼の姿を取るらしいわ
貴男達が来る前には男性ヤンス一人しか居ないけど
先ず、わたしが吹っ掛けてやったの
案の定、”彼”は漆黒の騎士になって襲って来たわ
......で 魂を盗られる以前にマギを大量に吸われて一時退却ってわけ
でも、ある程度あの結晶体から離れると静かなモノよ」
と結晶体を指さす。
そこには変わらぬ静寂があった。
{でもよ、攻略の検討はついてんだろ 顔がそう言ってるぜ}
とドランはしたり顔でわたしを見つめていた。
「えぇ、何でも このシセラによれば 強い魔術的な盾 との事
これが無くて困っていたところ」
{どこにいるんだい その”シセラ”ってヤツ? }
とドランはキョロキョロ視線を動かした。
「いま実体化させるわ」
と実体化するシセラ
{うぉ......っとこのドラコ族の俺様ですら気付けなかったぜ
世の中はまだまだ広いぜ なぁニラウスよ}
「あぁ そっそうだな」
と彼女をみて二人共驚いていた。
「あら、銀の小竜ね アナタの主人、相当な手練ね」
{応ともよ コイツ(ニラウス)はな 吟遊詩人の ......って最後まで言わせろ}
とニラウスに口を塞がれて言葉が尻窄む。
「気にしないでくれ コイツは余計な一言を言うもんだからいつも
問題が起きるんだ」
と慌てて場をとりなした。
「 で、強い魔術的な盾って コイツの息吹なら短時間なら
あらゆる魔術攻撃を防げるとおもうよ
何せ、我輩は一人旅でね物理攻撃は我輩でなんとかいなせるけど
魔術攻撃は苦手でね もっぱらドラン(コイツ)が盾になってくれている
ヤツの威力は知れないが
僅かな隙が有ればいいんだろ? 」
「さすが 手練だね ねぇシーア やはりこのヒト仲間に入れて正解だったわね
シーアの女の勘ってすごいわぁ」
「さて隙を作るのはいいがどうやって近づくんだ? 」
わたしはある妙案を思いつく”彼”の特性を突いた一瞬の隙である
機はわずかであった
それを提案する。
「おぉ、成程な でこの形態の時にだな ドランの息吹をぶちかますのは? 」
「そう、結晶体が露になったら私の出番ってわけ 最後にあの結晶体は訳が有って
わたしたちが引き取る事でいい? 」
「あぁ、構わんよ そかわりシーアのこと詩にしてもいいだろ
俺達吟遊詩人の性分なんだ」
{なぁ、俺様からも頼むぜアンタの名は出さねぇからよ}
と懇願されて名を出さない事を条件に承諾した。
旅慣れた彼らは素早く干し肉や薬草、干し芋等を簡易鍋に入れお湯で
ふやかす
玉蜀黍の粉末とオーパーツ製の瓶と氷晶石で鮮度を保持した牛の乳:ラッテルで練りこんで
それをその茹で汁で薄めてトロトロにする
そしてふやけた干し肉や薬草、干し芋をさらにそのまま煮込んで食するのだ
ドラコ族のドランも同じ食事を摂る。
対してわたしはミーアが作り置いた例の分厚い茹でた味付きの
乾燥肉を菜っ葉で挟んだ麦パンである
双方で、少し食べ物を交換しあってお腹を満たす。
彼らの食事は大変美味であり、作り方を書き取って後でミーアに渡しておこうと考えていて
それを申し出ると、快く承諾してくれた。
そして、夜も更けてそれぞれの簡易天幕に篭りヤンスは
指輪の”隠者の懐”に戻る。
そして、彼らの簡易天幕からこんな会話が聞こえてきてしまった。
{なぁ ニラウスよ 先触れ潰したら後は本星だろ}
「あぁ、そうだな」
{奴さん、 本星よぉ 強さ的に斃せると思うか? }
「あぁ 彼なら殺ってくれるさ 魔族位階三位だぞ
万が一ということもあるまいよ」
{なぁ 分かっているだろ その万が一があったら
オレは ”禁術:聖銀の嵐” を使うぜ
これを使えば、調査団と奴さん以外は 俺とアンタと本星含めて一瞬で霧散するぜ
痛みも苦痛も感じねぇ、それこそ一瞬でな}
「あぁ、分かっている その時は我輩と一緒に逝ってくれるだろ」
{だから言ったろ 勿論付き合ってやるさ 俺達 ”三人共” 一瞬に霧散して
影も形も骨の一片すら残らねぇよ
そうなったらオレだけ転生の環は別かな 相棒のテメェがいねぇと
ちくと寂しいぜ でもよオメェはアイツと一緒に、転生の環に乗れるかもよ}
「出来ればお前、 契約解いてもいいんだよ
我輩に、義理立てる必要はない」
{また、莫迦なこと言ってら オレが居ないと息吹ぶっ放なせねぇじゃねぇかよぉぅ}
「そうだったな 彼女に直接、介錯出来ずにお前任せの我輩は、とんだ間抜けだな」
{いまに始まったことかよ まぁでもこれは仮定の話さ
絶対皆がいい方向に向かうって オレ様な あのシーアってムスメみてそう思ったのさ
俺様の勘を信じろ}
「お前の勘は悪い勘ばかり当たって、我輩は散々な目に有って来たんだがな」
{ふっ ほざけ ところで跡目には話したか? }
「勿論、 この件に限らず我輩の命運が尽きた時に封が解ける書簡を持たせてある
何時でも ヤツに跡目を継げるようにな」
{用意のいいことだな ”巨大な組織” の長ともなれば
テメェの死まで組織に組み込まれるのかよ}
「まぁ、ヒトの世の中ってのはそんなもんだ」
{死んだら骨残して はいお終いって訳いかねぇんだよな
お前らヒトってのは}
「まぁ、そういうことだ 明日は早い 彼女らに迷惑はかけたくない
このことは 分かっているな? 」
{ふん なんでドラコ族の一翼がお前さんの ”相棒” やっていると思うんだ
分かりきった事 聞くんじゃねぇよ
さぁ 寝ようぜ 女ってのは耳聡いからな 聞かれでもしたら厄介だ}
「あぁその通りだな 我輩も寝るとするか」
と長い会話をつい聞きいいってしまう。
『お主、分かっておるな この件とあ奴らの件は別だ
あ奴らが手を貸せ、と言ってくるまでは手出しはならんぞ』
「えぇ、分かってる」
これは、クローティアの言う通りであった。
彼らの ”覚悟” に口出しする余地は今の会話からも全く無いことは
分かっていた。
元・男性だからこそ解る、覚悟を決意した男性的な発言 これは、他人が口をおいそれと
挟むべき事ではない
そんな強い言葉にわたしは、不覚にも ”女性” として惹かれていた。
『それならええ 儂は後は言わん お主の判断に任せる 良いな』
とそれきりであった。
横ではミーアの定期的な調子の呼吸音が聞こえ、
生命には大事ないことを改めて、知るとわたしもミーアの寝息につられて意識が沈んだ。
翌、陽が指し始めわたしも彼らも覚醒の準備に入った
だた一点ミーアがまだ目を覚まさない事を除いては、いつもの朝である。
昨日よりは、回復傾向にあるのか少しは、身じろぎが多くなった
昨夜は彼らから 目を覚まさないヒト用の食事の与え方を
教わる。
玉蜀黍の粉にラッテルを混ぜ込んでトロトロにする迄は同じだが
滋養の効果が高い山蜜蜂の蜜を加えて
具は一切入れない 玉蜀黍の粉にラッテルを混ぜ込んで暖かくしてから
それから蜜を加え、後は熱を一切加えないそうすると、滋養の効果がより高まるそうだ。
こうして、ミーアの口元に匙を運ぶとケット族特有の耳がピクリピクリと反応し
彼女の尻尾の先が同じような反応を示す。
少女になる前も、なってからも幾度となく接吻をしてきている
口移しでも良かったが幸い彼女の口は半開きであった
二人の前では、気恥ずかしさもあり匙で与える事にする
そしてスルリと唇の隙間から口腔内に入り コクリ と喉が動いたのが
確認出来た。
これを大きめの匙五杯分平らげていて
四杯目の時、
「シーちゃん もっとお口に頂戴♡ 」
とおねだりされたように聞こえたのは気のせいかもしれない
「シーア ミーアの下の世話はあたくしにまかせないな
ビヨン貴女はこれを良く見て、覚えておくのよ いい? 」
[ はい、シセラ おおせのままに ]
とビヨンも目が怖いくらい真剣だった。
こうして見ると ビヨンがオートマトだと言われても、わたしですら最近は
曖昧になって来ていた。
簡易天幕の外に追い出され暫し事が済むのを待つ。
元・男であるわたしの世話になったとあっては
ミーアも羞恥で戦闘や旅に身が入らなくなると困る事情もあったし、
シセラもわたしが男の魂であることは言わなくとも、なんとはなしに感じて居るようだった
それで、気を遣っての行動だろう。
やはり、旅慣れた二人は頼もしい存在である
だが、彼らは自由気儘を体現したかのような吟遊詩人である
わたしの旅に縛るわけはいかない
そこで、出来るだけ、旅の指南を教えてもらうべく ニラウスを質問攻めにしたが
何一つ嫌な顔をせず丁寧に教えてくれた。
双方、準備整い彼は佩いている細剣を検めている
「さて、我輩はいつでもいいですぞ
手筈通りにいきますかどうかは、セイレンの気分次第でありましょう
銀のお嬢様に嫉妬の刃を向けて、事が大きくならねば良いのですが」
昨夜の、真剣な声は何処にもなく出合ったときのように
少し、おどけた風な口調で特徴ある髭を触る。
セイレンとは、民間信仰の土着神で、美しい乙女の姿の
海の魔物である。
船乗りの嫌われ者だが、美しい歌声で多くの男性を魅了する
歌声を発し、詩も情緒あふれる表現を巧みに操り虜にすることから
吟遊詩人達の間では逆に信仰の対象にもなっている
このように、この世界では女神:リーンを中心に
多数の土着の神々や果ては魔物であえ信仰対象になっている
善し悪しはあれど、土着の神々や果ては魔物にまで人々は
日々の安寧を願っている そんな世界が此処オルティアであった。
結晶体は、相変わらず沈黙を保ったまま其処に佇む
「うむ、あれがそうか 先触れの魔物としては些か、物足りないので有りますが
何せ、相手は未知 心して行きますぞ シーア殿」
「えぇ じゃ行くわ」
と気勢の句としては頼りないがわたしのこの一言で
事態は動いた。
ヤツが男女で形態を変化させるなら、男女同時ならどうか
ヤツは判断に迷うはず、果たして男女同時のときの
形態はあるかどうかは不明では有るが その迷いが隙を生み
不定形の霧状に戻る筈、 その時に本来男女の性のない
ドランが魔法の盾の息吹で霧を吹き飛ばし結晶体に私の
血の茨の鞭で、従僕の契りを交わす
そんな算段であった
本来、攻撃を避ける目的の盾を逆に攻撃手段に用いるのである。
男女両方同時に対応する形態を、習得してないことに賭けるしか無い
昨日の感触でわたしは広く落ち窪んだ地面の範囲が
気取られる範囲と見切っていた
これもたった一回ではあるが戦技訓練で得た教訓であった。
敗退のときも戦況を見極めろとの教えである
そして、二人同時に範囲に踏み入れた
{オロカ モノ マタモ ギン ノ ムスメ キシ ノ スガタ デ
テイチョウ ニ ワレノ イシズエトナレ }
とさっそく黒紫の霧が騎士の取り始めるも
{ナント オトコ ノ ケハイ シカラバ オオカミ デ チヌク(ちにく)
ヲ ホフルカ(屠るか) イヤ オンナ ヲ ユウセン カ? }
と激しく騎士とオオカミの形態を入れ替える
結晶体は覆われまだ露になっていない。
ドランの息吹は有丈の能力を込めて貰うよう手筈してある
失策ると、男女両方に対応する形態を学習されるうえ
2昼夜は同じ息吹を出せないらしい
だから機は一度切りなのである
{イヤ アレガ アルゾ ワレ ノ トッテオキガナ}
とゲルギルも第三の形態をとる算段らしい
またもや、思惑どおり不定形な形状に戻る
これが機!!
「ドラン、今です 貴男の息吹をぶち掛ましてやりなさい」
{応!! ニラウスよ 言わずもがな
俺様にも取って置きがあるんでな
悪しき邪法を退ける オレの息吹
とドランの躰を覆わんばかりのまばゆくも心地よい光が包み
それが口へと集束していく
行くぜ!! (( ”聖術:聖風の守り手” 悪しき邪法を退けよ!! ))
と気勢の篭った烈帛の声とともに
細い無数の光の針となり
霧めがけて一斉に放たれる
{ウォォオオーー ウヌラ マダ ソンナ カクシダマ ガガッガ アッタッタトハーー}
と霧が吹き飛び 結晶体が範囲無内で 初めて
露になった
「シーア殿!! 」
{シーア 今だぜ 俺様のこれが終わらぬ内に!! }
わたしは、手首を噛み切りわたしの血である茨の鞭を出す
そして息吹の真っ只中に飛び込んだ
細かい針状の光がわたしの露出した肌を刺す
痛痒い感覚が襲う
あと数歩で間合いである 徐々に彼の息吹が弱まる
しかし足は思うように間合いに入らない
そこで、戦技訓練で培った”受身”で前に転がった
二三回転後、鞭の間合いに入って
わたしは、ドランの息吹が収束にむかう瞬間
露になった結晶体に血を付ける事に成功する
一瞬、赤黒く光りおさまり範囲内にも関わらず、
結晶体のままであるわたしは駆け寄る二人を制し
成行きを見守った
するとまたもや霧があらわれて 騎士の姿を取る
あわてて退くも
{我、古の守護魔獣”ゲルギル”なり 血の盟約により
血の持ち主”シーア(クレア)・オブライエン”に
我、持てる能力の全てを捧げん
不要であれば 御言葉 ((ア・カ・ドアの名の下 自壊せよ))にて
我 ”ゲルギル” は消滅するものなり}
と恭しく傅いた。 ......と意識が私の中の”獣”に塗り変わり
意識が遠くから眺めている感覚が襲う
『ふん、妾を起こしおって まずはニラウス・ドラン大儀である
しかし妾の存在はまだ秘匿中でな 暫し夢を見よ』
と冥闇の獣 クレアーティアに変化したわたしは
意識とは関係なく呆けている二人に歩み額に人差し指を当てた
途端に身が崩れる。
『何をしたんじゃ』
と及び腰なクローティア
『なに 気を失っておるだけじゃついでに
妾の姿も綺麗さっぱり忘れておるよ
彼らには シーアが飛び込んで血の盟約まで済ました所まで
しか覚えておらんし他は記憶は弄ってもおらぬよ』
『何で急にシーアから出てきたんじゃ』
クレアーティアは、何かしたわけでなく突然、シーアがクレアに変化したのである。
『此奴:ゲルギルが 自壊の文言を持っておる
妾はこれは非常に気に入らぬし 遺産の娘共が悲しむからな
妾の吸血樹の根にて 自壊の文言を潰そうというのじゃ
喜べよ 古の守護魔獣”ゲルギル”よ この 冥闇の獣 クレア(シーア)”に
気に入れられる栄誉を授かったのだからな
お主は永遠に 自らの滅びの御言葉に怯えなくて済むからのぅ』
と彼の胸に吸血樹の根を差し入れて淡い赤黒い光が伝わり
バチリ
と爆ぜる音と共に結晶体に浮かんでいた古代文字のような文字が
弾け飛んだ
{我、ゲルギル 冥闇の獣 ”クレア(シーア)” の守り手として愛玩物として
幾千の形態にて御側においていただきたく所存}
『よしよし、確と皆の為に尽くせよ 妾はまた沈む
妾の言葉はシーアの言葉、シーアの言葉は妾の言葉
ゆめゆめ忘れるでないぞ』
{御意 仰せのままに!! }
とわたしはゲルギルの頭を幼子にするように撫でさする
『さて、クローティアよ 歓談といきたいとこだが
妾は沈む いずれいろいろと語ろうではないか
それともう一つ 神界:ユクラシアで動きがあるようじゃ』
『なんと!! あやつめもまたお主に感化されよったか
今まで、これといった動きがなかったが? 』
『まぁ 妾とシーアの存在は、色々と世界に刺激を与えておるし丁度よかろ
退屈を持て余している 円環の蛇 や 女神リーン にとってはな
お主も多少の刺激は有ってもよかろ 正直に申せ』
『儂は、無為な生き様がいやになっただけじゃ
此奴と居るとそれだけで ”楽しい” とう感情が湧くのじゃよ
これでは答えにならんか』
『うぬぬ、はぐらかしおって まぁいいだろう このお主との会話はシーアには分からぬ安心せい
ではな 刻を誤るなよ』
と最後のクローティアとの会話はわたしにはどういう会話がなされたのかは
分からなかった。
次第に意識が入れ替わり躰も元に戻る、ちょっとふらつくが躰は軽かった。
同時に彼らも目覚めやはりクレアーティアが言っていたとおり
血の盟約をしたところまでの記憶しか無かった
「いやはや、子々孫々までの良い土産話が出来ましたな
このドラン共々、決して恩は忘れませぬ
吟遊詩人は、多くの恩のもとで、こうして漫遊出来のですからな」
{応、 助かったぜ これで俺達は俺達の事にようやくケリ付ける事が出来るってんだ
なぁ ニラウスよ }
「そうだな、 我輩達は、我輩達の事をこれから成し遂げねば成りませぬ
もし、我輩達が命運尽きても定命の理から完全に外れていらっしゃる
冥魔の貴女様なら、どうかそのお美しい御髪の片隅に
かような、吟遊詩人がいた事を覚えておいてくだされば幸いでしょう
我輩達は、ギルドに戻って
調査団との打ち合わせが有ります故これにて」
と立ち去る時何か言いかけたわたしに、
「シーア様が冥魔でいらっしゃることは、出会った瞬間に分かりました
それと、これから我輩達がやろうとしてるのは
冥魔である貴女様のお手をわざわざ煩わせる、瑣末な事で御座います。
そのお手はどうか他の事に向けてやってくださいますよう
それでは 運命の女神にそっぽを向かれましたらまた何処かで
出会うことも叶いましょう
貴女様に、女神:リーンの微笑み在れ 」
と二人はその場を辞した
{あれで良かったのか 彼女らの能力借りなくてよぉ}
「そうだな、少し未練はあるさ でもね これは我輩達の戦いでもあるのだよ
私情に巻き込むわけにはいかないな
お前も気付いたろ 彼女らは我輩達とはまた違う運命を背負っていたのを」
{ふん お前らしくない頭の冴えだな このオレにもビリビリ伝わって来たぜ
なぁ、絶対生き残って、生きてまたあのムスメ達に会おうぜ}
「そうだな それじゃ調査団と合流しますかな」
とシーアと吟遊詩人”ニラウス”はそれぞれの戦いの場へ。
わたしは、
「ギルちゃん、戻っていいわこのままだと結晶体を運べないし
皆、大騒ぎよ」
{うむ、相わかった然らば我は根源に戻るとしよう}
と古代使役魔獣”ゲルギル”は結晶体に戻り地面から引き抜いた
高さはレヴィアよりちょっと低く重さも余り重くはなく、一人でどうにかなった
綺麗に土くれを払いギルドに見せるため小鞄に収める。
辺りを再確認したがあとはこれといった遺物等はなく
遺跡:メギストの入り口が其処に有るだけである。
ミーアはようやく起き上がって来ていたが、しっかり歩くことが出来無なさそうでであった
だた一言
「シーちゃんのアレ、また食べさせてね」
と疲れ切った面持ちである。
レヴィアがミーアを屋敷まで運んで予後の調子を整えると言う。
こうして、レメテュアの一言に端を発した出来事はひとまず幕を下ろす
古代使役魔獣”ゲルギル”は微かに今代でも漏れ出る混沌の一部だとは
まだ、わたしは知らない。
この古代使役魔獣”ゲルギル”を巡っても思惑が動きだす
なぜなら、この世界でだれも思い通りに使役すら出来ない ”混沌” の一部を
”完全” に下僕にしたのだから。
「ふふ、やはり ”ゲルギル” は彼女の手に墜ちましたか
さしもの ”ゲルギル” も彼女の手に掛れば愛玩動物と同義ですな」
二つの異なる場所から同時に同じ台詞が飛び出していた。
一つは、シーアがこれからまさに往かんとする彼の地:ギアトレス
もう一つは魔霧帯を超えた宇宙にまで届かんとする高見から。
そして同じ台詞も同時に紡がれた
「さてさて、ますますおもしろく成ってきましたね
早速、上にご報告申し上げねばなりますまい」
とも。
更にギアトレスからはこんな台詞まで飛び交っている
「今まで誰も手懐けることのできなかった
獣の少女
古の魔獣の少女
そして、神族すらその存在を頑に認めようともしない旧き魔樹の少女達
一体、誰に従くんでしょうかねぇ」
「ふふ 答えは既に出ているじゃないですか」
「そうでしたね 敢えて答えは言いますまい」
と複数の人物が声を顰めて囁き合っている
そして、皆一様に躰の一部を布で隠していた
ある者は右手、またある者は左目等でありその布は
時折、不自然にグニグニと蠢いていた。
ここは、神界:ユクラシア
魔界・冥界・現界と違い双方が簡単には行き来出来ない隔れた世界。
宇宙にも届こうとする高見の世界。
遥か眼下に魔霧帯に覆われた蒼碧の丸い球体を、足元に垣間見ることの出来る世界。
嘗て、三神協定により定めされたこの世界の理の一部
聖雷が迸る空、緑豊かな大地、其処かしこに白銀の羽毛や体毛をなびかせた獣達
澄んだ大気、清浄な存在以外、一切を受け付けない世界。
其処では端正な顔立ちで背には、白く輝く両翼を備えている
人物達が皆一様に白い薄布を纏っている。
そして何より大きな特徴は、大きな双丘と男性の徴と女性の徴
双方備えて居る点である 顔立ちも中性的で男性とも女性とも取れた。
彼らは、男女まぜこぜの魂から再構成され、神界:ユクラシアに棲まうことを
赦された者達。
その中で、完全な女性体の人物が大きな長椅子でだらしなく寝そべり
淡い金の髪をだらしなく広げ、
世界では誰もが憧れ、追い求める不老不死の実 再誕の果実 をまるで
葡萄を摘むが如く可愛い口に次々に運んでいる。
「リーン様、だらしのう御座いますよ、いくら監視者としてのお役目で
そのままでも世界の隅々まで見通せるとはいえ、
少しは自らの御御足で御自分の世界を
散策をなされてみては如何でしょう? 」
と恐る恐る進言した者がいた。
「別に良いじゃない ここ神界:ユクラシアはわたしの世界なの 好きにさせて頂戴
それより世界魔樹 (ユグドラシル)の状態はどう?
最近、規格外の娘が誕生しているし
マギの循環が気になるの 滞りなく機能してるかしら? 」
「はッ 現時点では機能は正常で御座います
彼の娘を繞って、下界では色々騒がしいようですが」
「ふ〜ん、そぅ それならいいわ ところでアナタ 世界魔樹 (ユグドラシル)について
おさらいしてみてよ」
とたおやかな手付きで従者を指し示す。
このリーンは時折こうして部下達にちゃんと世界の理を把握しているかどうか
突然尋ねて問答をするのが神界で唯一の愉しみでもあり、
部下の怠慢さを計る指標にもしていた。
当然回答に窮したり勘違いも含め、うろ覚えで答えようものなら、
幼子姿の下級天使に格下げされ、死神から魂を回収する損な役回りをさせられ
大人姿の従者に戻るには、ここ神界で凄まじい功績を積み直さなければならない
そんな一度従者の味を占めた者にとっては耐え難い処罰が待っていた。
この世界での死神は死たる者から完全に魂を切り離し神界と魔界に
魂を供給する重要な役割が有ったのである。
下級天使達は死神と交渉をして如何に出来るだけ多くの魂を神界に
持ち帰るのかが功績に繋がるのだ。
おめおめ、魔界に魂を渡して魔族共の傀儡にするくらいなら
神界に引き込み リーンの眷属たる神獣のエサにしたほうがまだましであり
神の代理人たる聖職者や神父に祝福された魂なら、転生の環にも乗せなければならない
それが女神:リーンに課せられている重要な役回りでもある。
この眷属たる神獣は女神:リーンの特別な”慈悲と慈愛”により
嘗て、魔物だった者が変化した者達で絶滅古代魔物種から今代の魔物種に至るまで
実に、多種多様である。
恐ろしい外観はそのままであるが皆、一様に
白銀の体毛や鱗を備えている点であり彼らの抜け落ちた体毛や鱗・牙は神器の素材にもなる
時折、 ”落として” しまって 下界ではそれらは神代級遺物などと称されることになる。
いつぞやの虹のような転生の環の手前にあるという
妄執を和らげる場所に、死神の正規の刈り取りを待たずに
妄執に囚れすぎて魔物にまで落ちぶれた
多くの魂までをも引き込んだのは他でもないリーン自身がした事ではあったが、
あの時は久方振りの賭けで大負けして大泣きをしてしまい
その負けの対価でしたことであり、誰もその実情を知る者は居なかった。
さて、下級天使に落ちぶれても功績を上げることが出来ないとなると
いよいよ神獣のエサになってしまう。
実際こうして、幾数多の下級天使達がエサに成り果ていて
神界:ユクラシアの円形祭祀場でおぞましい惨状が繰り広げられることになる
こうした処断に関しては女神:リーンは容赦がなかった。
幼子姿の下級天使でも頭に魔方陣の様な環が二つ有る者はこのユクラシアの
下働きに選別された魂であり神界での生活を約束された者でもあり。
環が無い者、又は欠けている者は
リーンによって罰を与えられて下級天使に落ちぶれた従者であった。
無くなったり欠けている環は下働きからまたやり直して、実績を積み直すと徐々に元に戻り
この時点で下級天使の立ち位置にもどる。
死神に狩られた”下界”の神の代理人たる聖職者やその神父よって”祝福”を受けた
魂はめでたく下級天使見習いとされ幼子姿の下級天使で、先ずは下働きに精をだすのである
下級天使見習い達は下働きの経験を積むと、ただの単純な二つの環っかだった物の
文様が徐々に複雑になり魔方陣の様な複雑な文様に変化して完成する
そうして、下働きの天使とは呼べなくなると
死神との熾烈な魂の交渉戦をリーンによって課せられるのである
こうして更に功績を積み初めて大人の両性具有の姿でユクラシア内の散策の自由と
リーンのお世話をする従者に成り上がれるのだ。
一方、望まれぬ愛で産まれてきて祝福されずに打ち棄てられた
嬰児達の魂等は魔界の入り口や
悪しき者の封印場所等に集合体を形成し、此処を通る能力ある者に取り縋がり
取り憑こうと依ってくる者 取り縋るモノ や 取り縋る嬰児達 に成り果てて
こうして、得られぬ愛情を取り戻そうと皆必死で能力ある者に寄り縋るのである、
果てに使い魔にされ、邪法の傀儡として使役させられる運命を辿るのである
死して尚、現世に執着が有る者もまた同様であり
祝福程度では癒やされない事もある ......が人々はそれでも死した者の魂の苦痛を
聖職者や神父にカネと言う対価を払い少しでも和らげようと必死だった。
当の死神達曰く、
女神:リーン程おっかねぇ女はいねぇ と言わしめ
刈り取った魂を好条件で取引出来れば神界・魔界何方でも構わねぇと
豪語していた。
そのことを知っている神界・魔界とも死神達にたいしては双方で高待遇であった。
冥界は特殊な素養の持ち主の集まりであり、この魂の争奪戦には参戦していない。
当の死神達も受肉しており肉体の枷からは逃れることが出来ない。
よって肉体維持のためや、個々の資質の違いで嗜好も多種多様でそれを満足させるための
カネはやはり必要であった。
魂狩りは死神として生を受けた以上、永遠にこの魂狩りに縛られ、尚受肉故の苦しみもまあった。
黒い覆いのローブ、手には大鎌もう一方の手には死神の証明とも言える
角灯を携え、中には女の髪付きの頭蓋が角灯代わりのモノ ......が定番である
火は一様に青白く、魂の取引の際対価に貰った瑠璃玻璃の大樹:ウローペ から
採取される樹液を燃料にしていて、
また、この世界の共通通貨のリーン硬貨も同時に支払われる。
リッチ等との違いは灯の色であり、同じ様相をしていても区別は容易である
このウローペの樹液は死神しか扱えないので、
この世界には贋死神は存在しないし出来ないのである
この灯が尽きると死神としても世界に存在を赦されなくなり
そのまま霧散してしまうか ”非常に” 運が良ければリッチに転生する可能性もあるが
稀有な事である。
彼らが必死に魂狩りを行うのは、こうした切っても切り離すことが出来ない止む得ない事情があった。
「畏れながら申し上げます
世界魔樹 (ユグドラシル)とは
((( この世界のマギの循環の源であり
この世界に住むありとあらゆる生物(魔物を含む)が生まれながらに
持っている マギ (術行使のための力や素養)の循環の流れを司る
巨大な魔樹で御座います。
全ての生物は定命の理を迎え肉体が無くなると所持している
全マギが一旦 世界魔樹 (ユグドラシル) に還されて新たな命と共に
その素養や資質に応じ再分配される)))
と私めは認識しておりますが? 」
と従者は躊躇うことなく流暢な口調で答えた。
「まずは、及第点ね でも肝心な事一つ忘れているわね
レーリア・リーメアは原初の感情から発生し、冥魔に分類される彼の娘のような
稀有な人造種族、それとこの世界に存在している
遺産の少女達や獣の少女達も同様でね異質なマギな上
マギの循環の理から外れている異質な存在よ。
まぁ私もどのような経緯で異質な存在が発生したのかは不確定では有るけどね
実に興味深いわぁ
それに我々神族が秘匿封印してある ”獣の少女・古の魔獣の少女” を目覚めさせるのが
誰か? またその娘達を手懐けるのは誰か ......興味が尽きないわね
それに今、魔霧帯を彷徨っている主無き空中庭園:レーヴェンティールが
誰の手に渡るかもね」
とリーンと呼ばれた人物は目を細める。
「ご聡明なリーン様の事 誰に渡るのかなんてもうお見通しでしょうに」
と従者が言うと
「おだまりッ!! もう誰とも賭け事はしないわよ
この私でさえ予想がつかなくなっているの
今代は彼の娘が来誕してからというもの 賭けの予想は大外れ
私の息子アグストやハグスール、娘のクロノーラにさえも負けっぱなしなのよ
だから負ける賭けはもうやめやめ
勝ちが確定していない賭けなんてもういやよ
...... 。
あ、ごめんね つい昂っちゃたわ
...... 。
別にアナタを咎めた訳ではないのよ
今はこうして見守っているだけの存在だけど魔界の神・ウロボロスことウロちゃんや
冥界の神・クロウ・クルことクロちゃんは既に動いているわね
思い思いの姿で世界に干渉してるし いいなぁ
私も下界に ”チョッカイ” 出したく成っちゃったわ
ねぇどう思う? 」
「どう? と言われましてもリーン様は世界の理ゆえ
他者に干渉してはならぬことは重々ご承知の筈。
とはいえ、昨今のリーン様の御怠惰な生活もよろしくありませぬ
彼の娘好みの可愛い少女に姿を変えられ
今一度、彼の宗教国家 タフタル大陸をご散策なされてみては? 何れ彼の娘も
タフタル大陸を訪れる機が有りましょう
その時に ”チョッカイ” をだされてみては? 」
と従者に言われ女神:リーンは目を輝かせる
「それっ!! いいわね 思い立ったらうずうずしてきたわ
早速私の代理の者を立てて頂戴!! 」
「直ちに」
と神界:ユクラシアは幾星霜振りの慌ただしさを迎える
それは、彼の三神協定以前の世界を覇権を巡る戦い以来であった。
リーンには伴侶たる相手はいない 彼女自身が人々の信仰の対象に応じて
自身の負担を軽くするため創造した
この騒ぎを気づかないわけはない三人のリーンの子供達がいた。
「おや、母上は下界に”散策”に降りる御様子 兄上も下界に降りられてはどうですか? 」
とリーンによって完全な ”男性” としての姿を与えられた 次兄:ハグスールがこれも
同様に完全な ”男性” としての姿を与えられた 長兄:アグスト に声を掛けた
声を掛けられた アグストは浅黒い肌、真っ赤なざんばら髪、金の瞳大きな口、
大雑把に顎鬚を蓄えた
ウル族より一回りも大きい体躯の大男の偉丈夫である。
胡座座りでどっかり腰を据えて、
「そうはいうがな ハグスールよ オレは、過去に悪戯をしてだな
母上に、聖牢送りを食らった身だぞ お赦しになんかなるもんかよ」
と丁寧に撫で付けた銀髪、やや冷淡な細面の面立ち、怜悧な印象の細い目の
ハグスールと呼ばれた男性を鋭い眼で睨み返した。
「ふふ それもそうですね」
「ふん 学者はわざと当て付けにものを言いやがる
戦神・武芸の神のオレとしてはだな、是非今代のなまっちょろい冒険者稼業の
”子僧”共とな 戯びたいところだがな また調子こいて下界に 戦の種を
蒔こうものなら今度こそ単なる聖牢送りとはいくまいよ テメェこそ
下界に降りてぇのが透けて見えるぜ なぁ? 」
彼にかかれば、どんな英雄譚にも名が上がる豪傑でも子僧か小童扱いである。
「流石は、兄上ですね 心を読むのはお見事と言わざるを得ませんね
私も是非にと言いたい所ではありますが兄上よりは
”前代” ならいざ知らず今代は ”学芸・技能・職能神” として人々の信仰も母上程とはいかないまでも
ありますから今更、漫遊なぞ必要ありませんよ
こうして、ユクラシアから下界の生活の向上や技能・職能の発展を見守るだけでいいのです」
「へいへい そうかよ つまるところ今のままがいいと? 」
「まぁ、有り体に言えばそうなりますかね」
「まぁオレの弟分だからな、分かっちゃいるがな
テメェの言うことはいちいち回りくどいんだよな 」
とお互い軽口の応酬を愉しむ。
其処へリーンの御命で従者がやってきて、先の件のいきさつを詳しく説明する。
すると間髪入れずに
「オレは、母上の代理なんざ御免だね」
「私も、母上の代理はお役目として、この身の丈を超えますので」
と即座に否定の返事である。
「困りました 死神から買い取った魂の選別や転生の環の調整
多くの下級天使達の世話など重要なお役目はどうしたら ......。 」
と窮した様子。
「そんなん 知るかよテメェがなんとかしな」
とアグストが体躯にふさわしい野太く低い声を出す。
ハグスールは、肩を窄めて
「兄上は、相変わらずですね」
と辺りを見回しもう一人の小柄な人物を指し示した。
「もう一人、適任がいるじゃないですか クロノーラなんかどうです?
彼女が普及させるのを怠惰したお陰でまだ下界は刻の概念は有るものの
まだ完全には定義付けも時間を計る魔器すら普及出来てもいないのですよ
尤も、魔器の発展はわたくし:ハグスールも絡んではいるのですが
”刻”の概念はクロノーラの支配領分でありますから先ずはその概念を完全に
下界に浸透させないといけませんからね。
つまり申し上げたいのは、クロノーラを母上の代理に立てて、その立場を利用してですね
ついでに刻の概念を下界に浸透させれば良いのではないですか と思いますがね
どうでしょう? いい機だと思いますが? 」
とやんわり従者に指摘すると
「だってだって 普及かちどう(活動)なんてめんどうくちゃいからいやよ
黙ってたって刻は一方的にしか進まないもの それでいいじゃん」
と二人の会話を割って何やら、一人遊びをしていたクロノーラがむうと頬を膨らませ憤る。
「貴女は、未来へ一方的に刻を動かせばそれだけで良いのですから、
母上のお役目との兼任でも負担が少なく問題ないでしょうに
まぁ問題が有るとすれば外観がこのように ”少女” そのものですから ”威厳” がないので
皆が素直に言うことをきくかどうかでしょう ねぇ クロノーラ? 」
とハグスールはくいっと、片隅でお人形遊びをしている少女に目を向けその頭をくりくり撫でた。
「ふん 莫迦にちないで これでもクロノーラは りーっぱなめがみだもん
みため で決めちゃだめよ お兄様方」
と背は低く見た目も喋り方も童女なクロノーラは懸命に言うもやはり
どこか頼りがない。
「あぁ 分かってるって オメェはそんなんでも立派な女神だよ
季節をきちんと巡らせているし、春秋分点もきちんと管理してる
日蝕儀礼・月蝕祭儀まで怠らねぇし ちゃんと尊敬してやるさ
なぁ ハグスールよ」
「ええ 兄上の言う通りです クロノーラ
そこは自慢して良いトコですよ 貴女は ”女性” としての姿を与えられた
”女神” の一人なのですか、外観なんて人々の信仰度合いでいくらでも
”大人の女” になることが出来ますから容姿を莫迦にされて嫌なら、
刻の概念を下界に徹底的に、浸透させればいいだけの事です」
「ちゃすが(さすが)、 ハグ兄様 ちゃんとしてるトコはしてるもん
でもいまはこの従者に
リーンお母様のちゅうよう(じゅうよう)なおやくめを このくろのーらにいわれたから
がんばて みるわ」
と語彙も足らぬ上、舌足らずな口調ながらもしっかりと引き受けると言う。
「では クロノーラ様、当初は私めが貴女様のお力添えをいたしますから
よろしくお願いできますかな それと後の御二方も ......ですよ」
と仔細有り気な視線を残り二人に向ける。
「うへっ 結局こうなるわけだ 仕方あるめぇ オレは下級天使共をみてやっから
ハグスール オメェは得意な事務方をたのまぁ それでいいか? 」
驚いたことに、真っ先に口を動かしたのはアグストであった。
「仕方有りません、母上の御怠惰な生活も下界に降りられて治ればそれで
いいですから」
と肩を窄め首を大袈裟に横に振りながらも
ハグスールも、アグストに続く。
従者の思惑通り結局三人共、ユクラシアの運営に引きずり出すことに成功したのであり
リーンも思惑通りに事が運び、結果を受けて内心大笑いが止まらなかった。
身支度を整え、背がスラリと高く大きな双丘、豊かな臀部
腰回りは綺麗に窄まり出る処は出て、引っ込んでる処はきちんと引っ込んでいる
そんな、普段の体型とは全く違うクロノーラにも似た、お子様な体躯に姿を変え
幾星霜振りに長椅子からユクラシアの地面に足をつける。
これには、流石の三人の子供達も目を大きく見開いて驚いた様子だった。
「それじゃ、後お願いね」
と三人の子供達を前に可愛い少女姿に変じたリーンは下界への転移陣の上に立ち挨拶をする
「兄上は私ハグスールめが確と見ておりますので
母上、下界のご漫遊を満喫なすって来てください」
と開口一番、ハグスールが先鞭をつけた。
「うるせぇ、相変わらず一言多いヤツだ
母上の下級天使共はこの長兄たるアグストめが確と ”調教” しますんで
お任せあれ」
続けてアグストも何時になく生真面目な口調で言葉を続けた
「ふふ 心強いこと あとね、クロノーラの力添えをちゃんとするのよ」
とリーンまで念押しである。
「おかーちゃま、またそんなこと いう〜 くろのーらはちゃんとおやくめ、やれるんだもんっ! 」
と憤る。
「はいはい分かっていますよ いい子にしてたら下界の土産いっぱい持ってくるからね」
「わぁー たのしみぃ」
と憤った顔もコロリとすぐさま笑顔に変わる。
「まったく、そんなんだからオメェは下級天使共にも莫迦にされるんだよ」
とアグストは大きな手でクロノーラの頭をぐりぐり乱暴に撫でた。
「いたい、いたい かみのけ みだれちゃう 髪って、ひじょーにせんさいなの
アグスト兄様って おとめごころわかってないな〜」
「ふん、そうかよオメェはオメェでめんどくせぇな これからは優しく撫でてやるさ」
とまたワザと乱暴に撫でる。
「ぶーっ もぅいや!! 」
とクロノーラはハグスールの後ろに隠れてしまった。
「ふふ、仲良くするのよ 我々、神族が率先して争っちゃ只人に示しが付かないわ
さぁ、暫しのお別れの接吻を此処に頂戴な」
と自分の額をアグストに向けて指し示す。
「母上、大の男が接吻などと、軟弱な所作は御遠慮申しあげたいのですがね」
とアグストが難色を示すも
「だ〜めっ 可愛い子供が母親に接吻するのは恥ずべきことではないし
まして軟弱な所作などと決めつけるのは良くないわ。
さぁ 長兄のアナタがまずお手本を示しなさいな」
と無理矢理アグストの大きな躰を引き寄せ接吻を迫った。
「母上、これ一度きりですぞ あとは勘弁してくれませんか」
とやおらリーンの額に接吻をし
「どうか、ご息災でお過ごし下さい このアグスト、長兄としての責務を
果たしてご覧にいれます」
と態度とは裏腹な表情で優しく接吻をする。
「ふふ、上出来ね 次はハグスール貴男よ」
とアグスト同様接吻を迫る。
「母上、皆の事はこのハグスールが確と承りました
兄上が”また”狼藉を働かぬ様、監視するお役目と事務方の殆どは
どの道わたくし:ハグスールに巡ってくるでしょう それもありますので」
相変わらず実兄に対して皮肉の篭った、紳士然とした優雅な所作と挨拶で
額に接吻をする。
「ふふ、皆の事は任せたわね」
と満足気な表情である。
「るせぇ また一言多いぜ」
と次兄の皮肉のこもった一言にアグストも渋面をこさえた。
「さぁ、クロノーラ貴女はオンナノコなのですから特別に此処に頂戴」
と頬を指し示す。
「おかーちゃま、お土産いーっぱい持ってきてね くろの いいこにしてるから」
と優雅とは程遠い所作でリーンの頬に接吻をする。
「えぇ、お兄様達の言うこともちゃんと聞くのですよ でないと ”お土産” はありませんよ」
「うん がんばって いいこにしてる」
と相変わらず舌足らずな言い方ではあるが、クロノーラの意はリーンには伝わったようだ。
そして優しく抱きしめ、クロノーラの頬に接吻を返した。
「わーぃ おかーちゃまのせっぷん もらっちゃった へへっ、兄様達いいでしょ? 」
と自慢気に頬を見せた。
「あぁ、よかったな」
「良かったですね クロノーラ さぁこちらへ来なさい 母上のご出立ですよ」
「うん ハグ兄様」
とクロノーラは眼尻に光るモノを見せながらもハグスールの長衣をしかと掴む。
幾星霜も、四人の神達は一緒だったのだ。
今生の別れではない事は、誰もが承知していた
......が、 まだ童女の様なクロノーラには少し堪えた様だった
声なき涙で、ハグスールの長衣は瞬く間に濡れそぼる。
「我々、神族に ”死” というモノは有りませんよ クロノーラ なぁに、母上だって何時迄も
下界で漫遊するつもりは無いでしょう 安心なさい」
「ほんと? ハグ兄ぃ? 」
「ウソなもんですか 我々、神族は只人の様に瑣末な誘惑で口は曲げません
それは貴女も知っているでしょう? 」
と長衣に顔を埋めたままクロノーラ はコクリと、はっきりと分かる様に首肯する。
リーンはその様子を慈愛を込めて見つめていたが
コホンと軽く咳払いをして従者に
「あとアナタ 子供達とユクラシアの状況報告は定期にしなさいよ
そのために特別に下界に降りる特権を与えたのだからね」
と跪いた従者の頭頂部に燦然と輝く複雑な文様の環に、リーンは両の手を置いた。
この両の手を置く所作は女神:リーンが目下の者に最大の敬意を贈る
そんな、神界:ユクラシアでも滅多に見ることの出来ない光景であった。
「はい、女神:リーンの御意のままに」
と従者達の中でも特に功績が認められ従者長にまで上り詰めた
男性名:アドラー/女性名:アドレア の両の名を持つ両性具有の従者は
転移陣を励起させて、女神リーンは少女の姿と新たな少女時の 名:$&!%# を携え
掻き消えた。
こうして
世界からは御伽噺の人物として語られ、通貨単位にまで成っている
女神:リーンは彼の娘好みの少女に姿を変じて忽然とタフタル大陸に
現れその足を幾星霜振りに地に付けて歩きだす。
シーア達が歓談していると、流麗な甲冑の騎士達が
酒場にドヤドヤと雪崩れ込んで、
「御前達 席を空けな 今、俺等蒼翼騎士団様がテーブルを使わせて貰う」
と蒼い翼の意匠を彫り込んだ10名の騎士団が
シーア達の背の後ろから高慢な口調が覆いかぶさる。
幸いシーアはこうした酒場では、テーブルではなく主人との対面席が
定番であり、こちらには因縁は及ばなかった
「うへっ、 すんません蒼翼騎士団様 殿方六名様、御婦人が四名様ですね
今、空けさせますんでちょっとお待ちを」
「そうだ、 我等は、タフタルからここベルゼに慰安の最中でな ......が、
ある噂を耳に挟んでな その噂の娘とやらと接触を試みるつもりだったが
一向に接触出来ん ルルス御聖女様付きの近衛の情報網を持ってしても
皆目掴めて居ないとはどういうことか それで作戦会議とするッ!!
だから、御前達が 我等の作戦会議の為に直ちに ”作戦会議” のテーブルを空けよ」
と騎士頭らしき男性が、ワザと大声で怒鳴るよな口調で気勢を吐いた。
「そうよ、私達はね 相席なんてごめんよ 他人とは顔を合せたくないの」
これも高慢な口調の女性の声で尻馬に乗る
と主人はあわてテーブルに陣取っていた冒険者達に素早く目配せをする
これも、騎士団の矜持を守るため自ら”進んで”席を空けさせたようにするためであり
このことを知っている冒険者は
「うへっ すんません俺等の尻の温もりがあるんで気持ちは悪いでしょうが
どうぞ、お座りになってくだせぇまし」
と手を揉んで席をそこにいた皆、素直に席を譲りテーブルを空けわたした。
「うむ、 良かろうお前らの汚い尻の温もりなぞ 気にならん
このように甲冑を着込んでいるからな」
と頭以外、甲冑を着込んでいる騎士団は、男女皆同じように”満足気”な顔で
ドカリ、ドカリと男女問わず勢いを付けて座り込む
と密談室を使えば良い物を
敢えて衆目に晒される環境でこのように言うのは、
おそらく自分達の容姿や立ち位置を誇示したいのと
聞き取りに窮しているの悟されぬよう、そしてあわよくば情報の名乗りを待っているに違いない。
此れ見よがしのカネの革袋を、テーブルにワザと置いたことからもそれは見て取れた。
天と地、それぞれの思惑がシーアに交錯する。
シーアを巡る思惑はこうして更にまた大きく動き出したのである。
お待たせしました
次回 67話 愚者の紛糾と狂宴の贄
お楽しみに
誤字・脱字は気付き次第修正します
ニュアンスや文言は、変えるかも知れません
2018/04/27
本日クレアーティア(シーア)の第二形態をみてみんに投稿しました
活動報告のリンクからみてみんに飛びます。




