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オルティア・レコード  作者: 南 泉
二章 〜 魔女と小さな銀の鍵 〜 ベルゼ浮遊大陸編 第一部
64/75

64話 冥骸都市 ”ユクントス”


 シシリーは少年に戻ったその躰を簡易宿で休めていた。

衣服は気に入っているし着替えも面倒なので

そのままである


「なんだってこんな顔つきなんだよ」

と明らかに少年体ではあるが

少女にしてはオトコっぽい、また少年にしてはオンナノコっぽい

どちら付かずの顔付きであった


「ラーゼスちゃんはオンナノコみたいね

可愛いわ ほら、ワンピースよ、ドレスよ、リボンよ」

と母親は嬉しそう

「そうだぞ、ラーゼス オレは”娘”が欲しかったんだ”息子”ではなくてな

よく似合うぞ」

と母親や、はては父親までもがオレ・ラーゼスをオンナノコ扱いしやがった

最初から息子なんていなかったのように。


 小さい頃はそれでも良かった、ちやほやされて気分も良かったが

やがて年頃になり生きていく術を身に付けなければならない時期がやって来る。

試しに 当時憧れであった鍛冶職人の門を叩いた

ドワ族の男性に

「何だ? 女には用はねぇよ 家で裁縫でもしてろ!! 」

と門前払いをくって、今度は、裁縫師の門を叩くと


 エル族の女性に

「あんた、男性よね生憎とウチは要らないね

ウチは女世帯だし問題が起きると信用問題でね、商工ギルドに出入り出来なくなるんだよ

他のトコ当たってよ」

とこんな扱いで何処もかしこもこんな調子であった。


 背に腹は変えられず多少の危険が有るものの”冒険者ギルド”の門を当った

しかし、マギの素養も少なくエル族が得意とされる弓職も得意ではなく

他の一行パーティーの荷物持ちを好きな異性装をしながらようやく日銭を稼ぐ有様

しかも少しずつでは有るがオトコらしくなるに従って

「何であんたはオトコなのよ 私は”娘”が欲しかったのに」

と激しく母親に折檻を受ける日々

そんな母を嫌い、女衒ぜげん街通いする父

それでも一夫多妻が普通のこの世界

危うい関係ながらも三人で暮らしていた。


 ある時、珍しく父と母が冒険者ギルドで”美味しい話”をある組織から持ちかけられて

そして、二人仲良くそのまま還らぬヒトとなった

オレは此処で天涯孤独の身となってしまった。


 ただの荷物持ちでは実入りは少ないのは自明である

少しばかりの財を売って暮らしていたが貸家である家を出ることを余儀なくされ

大切にしまってあったワンピースを着て何時もの様に少女の振りをして荷物持ちをこなしていた

少女として見られていれば、同じ代金で多少は荷物が少なくて済むのである。

こうしてオレ・ラーゼスは”生きて行くために”少女の振りを続けていた。


 しかし、依頼相手も同じ代金なら荷物を多く持たせた方が得策というもの

ワンピースで荷物により掛かり休んで居るとき

股間を掴まれ”オトコ”と看破されてしまった

この事は直ちにギルドに知れ渡り

稼いだカネは全財産の五分しか手元に残らなかった 何でも九割り五分は”違約金”だそうである

異性装そのものでの告発ではなく、

少女として同じ料金で少なく荷物を持って活動していた事が詐称に当たるらしい

チクショウ あのときは油断していたぜ

学があまりないオレは口頭説明でしか規範を聞いていなかったし

高度な文体なぞ解釈も出来無かったからな

カードの没収は免れたものの、しばらくは冒険者業として荷物持ちすら

出来なくなった。


 仕方なく、女の格好なりで物乞いをして生命を繋いでいた。


 そして彼に幸運が舞い込む、暫くして教会の施しの場に出くわしたのである

教会の施しの場はこうしてたまに孤児院で人材が不足すると行う一種の人材募集の

意味もあった


 これにオレはいち早く飛びついた。

何故なら、此処で拾われなかったら ”奴隷” にまで落ちぶれるところだった


 この世界オルティアの”奴隷”は買った主人が何をしてもいいことになっている

錬金術の素材、魔導・魔術実験の素体等を筆頭に

大凡おおよそそのイノチなんてものは考慮されない

運がよければ下男・下女としての使いみちもあるがそれも買った主人次第である


 中には主人の加虐嗜好の嗜みに使われたり

悲鳴が好きで魔物に喰わせる為だけに購入する輩もいると聞く。


 何時までも路頭でうろうろしていて教会の施しに出くわさないと

奴隷狩りの商人に依頼された小遣い稼ぎの無頼漢共に、掻っ攫われるのが定番であり

地下遺構に逃げ込んでも今度は残飯の取り合いで

激しい生存競争にさらされる 地面には地下遺構に通ずる裂け目や崩れた孔等があるが

偶に、凄まじいヒトとも魔物とも思えぬ悲鳴が聞こえて来たりしていた。

 

オレは除外者アウターサイド連中とはどうあっても

一緒には居たくなかった、唯一エル族としての矜持だった。

そして、一度奴隷商で隷属の腕輪の魔器を嵌められると

主人にしか解除出来ず

逃げ出すなんてことは不可能であった。


 偶に間違えて親有りの子供を攫っても三昼夜の猶予はあるし

街の掲示板にも入荷の知らせと人相が張り出される。


 間違えて親有りの子供を攫ってきた無頼漢は奴隷商人に莫大な違約金を支払わないと

二度と依頼が舞い込まなくなるし

そのまま有耶無耶にした奴隷商人本人も、官吏に捕まり封印刑か公開刑である

親なしだと奴隷商会に迎えに来ても貰えず、奴隷の命運は運まかせだった

掻っ攫っていく当人らも、そんな”間違い”を犯さないように目は肥えている

だから、いかにもなオレは教会の施しの場に出くわなさかったら

イノチは無いのも当然であった。


 オレは、体よく孤児院に転がり込んで、必死で自分の素養を探っていた

孤児院では独り立ち出来るように技能を教えたりもしていたし

裕福な金持ちや聖職者が、孤児たちを引き取り下男・下女として登用して

上手く相手に気に入れられれば、メイドや執事にまで成り上がる事も可能である

そこで、オレは同じ孤児の”シシリー”と出会った


 彼女もエル族で両親が魔物に喰われたそうだ、

この世界では”よく”有ることである。


 街道にいる魔物連中は俺達が喧嘩をふっかけなきゃ向こうからは

”積極的”には襲ってこない


 大抵は人外の魔族連中が傀儡かいらいとして使役しているか

農作物が被害に有ったとかでギルドから依頼がありこちらから

喧嘩をふっかける場合が殆どだ。


 杜や遺構に居る”大物”が偶々、腹の虫の居所が悪くて街に来たとしても

見えない ”魔抗結界” を張り巡らせてあってそうそう街には入っては来れない

尤も魔道士が時々その結界の綻びを繕うそうだが、コレは官吏扱いで給金がいいらしい

その魔道士連中と高見櫓たかみやぐらの衛兵を食わせるカネが人頭税の

大半である


 だが街道の魔物ときたら俺達が弱いと見定めるや、敵意をむき出しにしやがるんだ

只の豚犬がそんな舐めきった冒険者連中を噛み殺しているのを何度見たことか

そうして、少々の食い扶持の為にわざわざ魔物連中に喧嘩をふっかけて

弱いと見定められるやいなや即奴らのハラの中って訳さ


 準官吏職である高見櫓たかみやぐらの衛兵に登用されるには

たんまり”袖の下”がいるし、体躯が良くないと務まらない

見た目でも威圧しないと駄目らしいし、オンナみたいなオレには向かないし

登用されるハズが無いしな


 まぁ、そんなこんなで片親が見捨てたり、両親が早くに居なくなると

俺達のような”孤児”が腐れ鼠の様に湧く訳だ。


 だが世の中は上手く出来たもんで、大人達がこんな”若い働き手”を見逃すハズがねぇ

ここで”孤児院”が出張ってくる訳だ

そんな孤児院ではあるが品位は当たりハズレがある

オレは偶々(たまたま)”ハズレ”を引いっちまったらしい。


 院長に

「てめぇ オトコだろ? オトコが女の服着るんじゃねぇよ てめぇはコレ着てな

長い髪は赦してやらぁ 髪は”オンナ”のイノチなんだろ? あぁ? ...ガハハハ」

と唯一の両親の形見であった服や櫛等を取り上げられ誰とも知らない

行き倒れた少年の小汚く血が付いたボロを着せられ


「コレは ”シシリー” に着せるからな 何処かのお優しいお方が

いずれ引き取ってくれるだろうからよぉ

女はオトコのテメェより価値があるからな 文句は言わせねぇぞ クソガキ」

と腹を蹴飛ばされて、嘔吐して派手に床を転がされ

オレはソイツを睨め付けるしか出来なかった。


 シシリーは慌てて庇ってくれた

「まってそれ以上乱暴はしないで ラーゼスちゃん可哀想よ」

健気に抗議する

「けっ 一丁前にオトコを庇うのかよ テメェはテメェで立場分かって居るのかぁ?

小奇麗にして置かねぇと”カネ”にならんからよ

せいぜいそのオスガキの着ていた服でオンナ磨いとけ!! 」

とその若いオトコの院長はオレに更に唾を吐きかけた。


「ラーゼスちゃん、ごめんねわたし今一緒に居なかったらこの服着ていられたでしょ? 」

「いいんだ、 えーっとシシリーだっけ オレはラーゼスってんだ 

シシリーみたいな可愛いならオレの服くれてやってもいいさ

可愛い子娘にはやはり可愛い服だらな オレは男だしそれでいいさ 

改めて、よろしくな」

とオレはシシリーと孤児院で暮らすこととなりそして

淡い懸想を抱き始めた時だ、アイツが来たのは。


 神官職位一位 白髪混じりの金髪を丁寧に後ろに撫で付け淡い

アリスブルーの瞳のラクティカス大神官そのヒトであった。


「ラクティカス殿、こんな小汚い場所にまでお足をお運びになさらなくとも...... 」

「ハハハ このラクティカスは女神・リーンにお仕えする下僕ですぞ

女神のお慈悲を代行する立場でも有りますから

進んでこのような場所にも足を運ばねばなりません 

今回はさる御方のご指名で若い生娘をとの御所望でしてな

近日”入荷”したと聞きましてな こうしていても立っても居られなくなり

参った所存ですぞ


...... 。


おっと失敬”入荷”したのではく”女神のまよいい子が舞い降りた”でしたな

言葉が過ぎましたかな。 」

「いえいえお気になさらず、孤児院では世の需要にお応えするため

様々な”女神のまよいい子”達を取り揃えております

ホレそこの少女のような少年とかね 彼は何をやらせても素養が見つかりませぬ

ですからおおかた行きつく先は男娼でしょうな それならいい働きをするでしょう」

院長のオトコは口調を下衆な語調に変化させる。


「いいか小僧、シシリーには手を出すなよ このメスガキ、たっての希望だ

一緒の部屋にいられるだけでも幸せに思え」

「乱暴な言い方はおよしなさい シシリーは、改めて引き取りに伺います故

わたくしも ...ッッ...っ これにて」

と詰まりながらアイツが喋ったときハッキリと見たんだ

アイツが首元から急にやつれていくのを

襟で隠れてはいたがオレの目はごまかせねぇ

アイツは闇の手勢に染まっているか、あるいは混沌の手勢にまで染まっているかもな

 ...とな。


 しかしそれを言った所で誰も信じねぇしシシリーがアイツに引き取られることは

確定事項である どうにもならかったんだ。


 最後に彼女が引き取られるとき

「ラーゼスちゃん貴男が好きだったわ」

と一言だけ目に大粒の涙を浮かべて ”さよなら” をした。

それが彼女を見た最後だったのさ。


 後はオレも院長の言葉通りに、男娼館で”少女”として

沢山の顧客とお相手をすることとなり、たまたまオレを買いにきた”フレジア”の部下に

”ニール”を紹介され”千変の御使い”(この頃はロージィとしては名乗っていない)

に引き合わされての御方の  聖痕の儀 を受けて、

ささやかな変身の能力ちからを身に付け今に至る


「なんだってこんな顔つきなんだよ」 

と愚痴たものの ホントは親に感謝もしていた

こうして幼い頃から着慣れた女の服も着られてもいるし

こうして生命を繋げていけるのだから


 今の稼業で財もそこそこ蓄えることが出来た。 オンナノコらしさも一層磨かれ

今や組織”フレジア”の中でも上位の位階を手に入れることが出来た

くだんのシシリーの行方だがこの特技を活かし、一人で任務を任されてから

教会に取り入って調査したが ”同僚”の神官の少女は

彼女シシリーが地下で働いて居るとき、腐れ鼠共に襲われて死亡したと言っていた

腐れアイツラは何処にでもいて、獲物にいつも飢えている

オレは少女の格好なりでガラにもなく祈ったさ。


 それからだ オレが特に他人に成り代わる必要が無いときは

”シシリー”を名乗るようになったのは。


 このシシリーあの時王都ギルトス王都大聖堂内で、ネリスティーナとヴェネイーラの手にかかり

懸想していたラーゼスの名を叫ぶ事も出来なく皮を剥かれ蹂躙され

食べカスはあのラクティカスに喰われていたなどとは、

さしもの彼も到達出来ない真実であった。


 オレは指輪の色がふただび鮮紅色に戻り変身が出来るまでとんがり帽子を顔に被せて

深い睡魔に身を任せようとしていた


 この能力ちからを得たとき代償として男性としての劣情を完全に喪ってショーツの中で

困りはしなかったが哀れにちっちゃくなっているしるしを感じていた

オレは ”シシリー” になりたいのかもしれない ...そう感じていた。


 シシリーことラーゼスが簡易宿に入って休む数刻前

フラウはシシリーが日が変わる頃慌てて

「ゴメンね もう門限なの 父様とうさま母様かあさま

叱られちゃうわ」

と何故か”簡易宿”に向かって慌てて走って行く様をを見て

「何か変なの」

 と感じていたが、彼女にとってはそれは些細な事である

明日もシシリーと修練をして、昼の陽が傾くまでお買い物が出来ればそれでいいと感じていた


 明日は、莫迦な子鬼ゴブリンを謀っての

悲鳴草マンドラゴラと年月を経て株が充実した雄叫びマンドレイク採取である

引き抜く時、叫び声をあげる植物系魔物を莫迦な子鬼ゴブリン共を謀って

引き抜かせるのである。


 豚犬の肉で騙したり、オンナの武器を利用するのである

尤もオンナの武器の方は実際の行為に及ぶ様な所までは行かない様に

上手く誑かすのである。


 オンナ好きの彼らは行為が出来ると思って意気揚々と引き抜きに行くのである

謀ったオンナの方の引き際も肝心でうまく言いくるめて放ったらかすのである

彼らも引き抜き時の叫び声で三十昼夜は耳鳴りと頭痛に悩まされるので

直後はこれにさいなまされているはずである。

彼らから取り上げたらササッと引き上げてしまえば

彼らの莫迦な頭では謀ったヒトの顔は三昼夜と覚えていまい。


 中には悲鳴草マンドラゴラと雄叫びマンドレイクを彼らから取り上げ忘れて

蹂躙された魔女見習いもいるという。

男性では、色仕掛はできないのでたいていは豚犬の肉で謀るらしい

下手だと肉だけ取り上げられ棍棒で昏倒させられた挙句

”巣”に連れて行かれメスの子種として使われると言う


 子鬼ゴブリンからは子鬼ゴブリンしか産まれずメスは全て巣にこもっていて

街道にいるのは全てがオスである

同族同士の交配だと強い変種が産まれにくいらしいので

異種族の”オス”が必要らしい。

そんな彼らであるので片言の共通人語を喋るし理解も出来るらしい

そんな事をオレが幾星霜も前、初めてこの稼業に入った時

高い本を買って頑張ってこの莫迦なオツムに詰め込んだっけな。


 フラウはどことなくシシリーに雰囲気が似ているので

”何か”問題が起きたら助けてはやるつもりだ

こういった仲間の助け合いも修練の一つだった。


今回の課題は、悲鳴草マンドラゴラが五本、雄叫びマンドレイクが三本である

これを今回の修練生全員で達成するのだ。

講師曰く修練生が多いのでこれくらいなら容易いだろうとのことである

ちょっとした杜に入れば大抵は見つかるし刻限は十昼夜もある

オレは、フラウを見てやりつつ任務を行えばいいし彼女には魔器をもたせるつもりだしな

そんな事を算段しているうちに楽しくもない夢魔の虜になった。

 


 わたしは、買い物の疲れも有り寝台に座って濃い玉蜀黍とうもろこしのスープを啜る

時は夕刻、冒険者・修練帰りの魔道士・魔女の見習いがドヤドヤなだれ込んできていた


「ねぇ、 聞いた? 」

「なになに? 」

「何でも、南の”ルベリト大岩礁帯”でね 海嘯が起きたんだって」

「えっ ”また” 変ねぇこの頃ちょっと頻繁過ぎない? 」

「そうだね オレも噂を聞いたよ 何でも”ディーボ”の仕業じゃないかってね」

「嘘だろ オレ今度彼処で何時も何処かで開催されている

”武闘会”に出る予定があるのにな」


 ”ルベリト大岩礁帯”では何時も何処かで”武闘会”が開かれコレが観光資源にも

なっている

これに多くの観客が来訪し、 ルベリト大岩礁帯の首長”ケモール”公認の”賭け試合”が

盛んである


 全身が筋肉のような大男や野良にはびこっている野盗等の無頼漢等も

一攫千金を目指し来訪するのである


 当然”いいオトコ”集まる所にはには”いいオンナ”も集まるのも必定。

潮乙女レビスと只人のオトコとの悲恋の伝説も相まって

若い少女達にも人気の岩礁帯であった。


「いやだなぁそれ でもさ、ディーボってさ以前”トリンデ”で討滅されったって聞いたぜ

どういうことよ それ? 」

「いやぁ ディーボってアレだけじゃねえって えらい学者センセが言うには

”時代”とやらの端境期や 大きな変化の先触れに覚醒めるって話しさ。 

オレ、難しいコト分かんねぇけどさ」

「ふーん そうなの? わたしも分かんないや」


「それよりさ、今日の修練のシシリーっていたろ

オレ好みだぜ お前はどうよ? 」

「オレもあのいいと思うぜ 身なりも小奇麗だしさもう一人の

フラウっていったっけ アイツよりは好みだな オレは」

「オンナノコっていいよな、ああやって直ぐ可愛い子とつるめてさ

俺らは野郎共でこうしてメシだぜ

今日は、偶々こうして相席になっているけどサ ねぇ君たち? 」

と男子修練生と偶々、相席になった少女達は

きゃいきゃいとはしゃぎながら、


 「そうよわたし達だってこうしてオトコノコと一緒にゴハン食べたい時ってあるのよ

あ〜ぁ、”ルベリト大岩礁帯”に早くおカネ貯めて、”いい男漁り”に行きたいわぁ」

「ちぇっ 俺らは間に合わせかよ」

「そんなことは無いわ だた上を見るとキリが無いってだけ」

「あんた贅沢よ 彼処のいい男は皆先約済みだって

せいぜい、豚犬のお相手がいいトコよ」

「アハハハ ...って莫迦にしないで!! 言うに事欠いてソレは酷いわね」

とそんな喧騒がわたしの部屋まで聞こえて来ていた


『聞いたか? 』

「えぇ、此処での件が全て片付いたら次の渡航先は決まりね」

『そうじゃな』


 やはり安宿である

夜も深くなるにつれ男女の睦言が聞こえだしてきた

冒険で生命いのちやり取りの緊張から解放された男女である

安宿は直ちに男女のねやと化した


[ シーア、ヒトの”繁殖行動”の時の声が聞こえてきますよ 

鼓動や脈・呼吸が早くなっていますね ”興奮” している状態でしょうか? ]

とビヨンがなにやら興味深そうに報告してきた

「いい ビヨンこの”繁殖行動”は無視しなさい 分かった? 」

わたしもわたしになる前は、普通の男性だったのだ

この声が何を意味するかは当然知っている。

 

[ もう少し経過分析したかったのですが ヒトの”繁殖行動” の時の声 

......は無視します 宜しいですか? ]

「えぇ、そうして頂戴」

幸いにミーアはこの場にはいなかった まぁ聴覚が優れている彼女のこと

気を紛らわすため表に出て修練でもしているのだろう。

そうこうしているうちにわたしは自然と睡魔に呼ばれて意識を沈ませた。



 ここは、ある大陸の一角”仕事”を終えたフォルネウスは闇王ハデスになにやら報告していた

「我が闇王・ハデス 彼の冥眼:イルゼリアを奪われた者の処遇は

仰せのままに、 今クィエル教司祭・カリエル殿と銀の三日月のあの御方と金額の交渉中にて

御座います。

あまりの仕打ちにわたくし・フォルネウスめが独断にてシュリエルに闇王のご意向なく

断を下してしまいましたことをお赦し下さいませ」

と頭を深々と下げたフォルネウスの眼の前には

巨大な玉座に覆いかぶさるように黒い闇が広がり

目、口が浮かんでいた


『善い、お主の判断は間違ってはおらぬ その者に対する処断は今までの仕打ちが

対価だと思えば妥当であろう 位階が下の者に全てを背負わせるには

対価が過ぎるというもの 制裁を加えた者にも今回のお主の話しを聞いて

敢えて余からは処断は下さぬ こと、この件に関してはお主・フォルネウスに一任する

お主の行動が余の意思そのものである

事を滞り無く進めよ メイドとやらが欲しいという余の娘達の希望は是が非でも

叶えてやらねばならぬからな ハハハ』

「は、御意のままに」

と再びフォルネウスは玉座に傅く。

『所でセレーシア・トレーシアは息災か? 』

とニヤリと目を眇めて口角も上がる


「はい、セレーシア・トレーシア御皇女様方は此処タフタル大陸の聖都・リームレスと

対なす冥都めいとカスパレッサ内 骸都がいとキールスーンにてご息災でいらっしゃいます

相変わらず只人共の魔導考古学とやらにご執心なようで

早く此処・王宮”ギルメトランテ”にお戻りにとご進言申し上げておりますが一向に

このフォルネウスの言うことを聞き入れませぬ」

とフォルネウスは仕えている主人の近況を報告した。


『あのお転婆娘共め、一番上の ”イクセリア” が此処にいる事を良い事に

甘えて好き放題しおって しょうがないのぅ』

と娘を語るハデス王はただの娘を心配する父親のような語り口であった。


『 ...で冥眼”イルゼリア”を持ち去った輩は誰か判明しておるか? 』

とまた”闇王”の顔に戻る。


「これはシュリエルが彼の者から聞き出した情報に依ると”あの銀の風”が

持ち去ったとの事です サラが隠し持っているとはあの仕打ちのされ方から

鑑みましてもありえませぬから本当の事で有りましょう」

『なんとッ! ”あの銀の風”がか? 』

「左様にて御座います」

『ガハハハァ これは愉快、愉快 その奪ったのがその辺のの凡百なら取り返す算段でもしようが

巷で話題になりつつある”あの銀の風”とあらば ソヤツにくれてやろうではないか

忽然と世界オルティアにあわられ出自も種族も不明、またたく間に財を築き上げ

ヒュージワーム・キマーラ・贋ディーボの討滅と快挙にいとまがなく

世界オルティアも動かさんとする勢いではないか

余も銀の風の吹く先には興味があるわい

 

 冥眼”イルゼリア”の諸元を辿れるかどうかも、その銀の風の器をはかる

指標ともなろう

凡百の魔導考古学者には手が出せぬ代物というのが分かれば

いずれ 銀の風も只人共の魔導考古学の会合 ”旧き王骨と冥骸めいがいの竜”

に顔を出さざるを得なくなるであろう


 この時がチャンスよ 余の娘に辿り着くよう仕向けて”繋ぎ”を作らせよ

故に、お主も只人共の魔導考古学者の会合にはまめに顔を出しとけよ

よもや、こんな局面で余の娘の只人の戯れの真似事が役に立つとはな

戯れ(魔導考古学)事も捨てたものではないな

どうじゃ余の娘の為に一肌脱いでくれぬか? 』


「仰せのままに、お嬢様方もせっかく学位をお持ちなのですから

会合にお出になられればよろしいのに困った御方達です」

『あぁ、アレの母親はサキュバスだ淫靡・怠惰の権化のようなものだ

期待しても無駄だぞ

此処にいる ”シトラとミューリ” のようにな 』

と闇に抱かれているのは二人のサキュバスであった。


 甘い葡萄の果実を摘み淫靡な仕草で口に運ぶ

「あらぁ、私のセレスちゃんとトレスちゃんがどうかした? 」

『フォルネウスのヤツがな

セレスとトレスがお主達の性格たちを引き継いで難儀しておるそうだ』

とハデスは

と口から甘い果汁を垂らしているミューリと呼ばれたサキュバスに言う


「ミューリ様からも何か言ってやって下さいませ」

と恐る恐るフォルネウスが進言しても手をヒラヒラ振って

「わたひは、いやよ教育係はフォルネウス貴男よ 貴男がなんとかしなさいな

あの達はあの達で上手くやっているんだからいいわ

でも偶には私にも顔を見せてくれるといいんだけどね

私達が動く時はあの達に何か有った時よ

ねぇシトラ姉様」

「そうよミューリの言う通りよ 貴男がなんとかしなさい」

とシトラと呼ばれたサキュバスも同意する。


......。


んんん はぁぁぁん ハデスぅ〜そこ触っちゃダメよ 淑女レディにはビ・ン・カ・ンな場所が多いの

まだ良く分からないの? 困ったちゃんね♡ 」

鋭い嬌声にニヤリと笑ったハデスの様子を見て取ってミューリは

「ふふ、覚えが悪い子には徹底的に教えなきゃね

...... 。


 何見てるの? フォルネウス

貴男は下がっていいわ いずれ”銀の風”もあの達が

連れて来てくれる事を期待しているわ ねっハデス♡ 」

『そういうことだ お主には足労であるが余の娘と”銀の風”の動向は

任せる 下がって善いぞ』


「はっ、闇の王:ハデスのお言葉のままに」


とフォルネウスは王の間から最礼で辞し

『相変わらず堅苦しいヤツだ』

とハデスは半ばあきれ顔であった。


 このハデス、闇や魔族を統べる統治者にて魔族の位階一位。 

神・旧き円環の蛇を崇め奉る中心人物で 

只人からは魔煌・ハデス等共呼ばれヒト社会で魔王といえば彼の事を指していたが

この世界の王ではない


 魔族の同胞からは、

盟主めいしゅ魔皇帝まこうていハデス等と呼ばれ恐れ畏れられる存在でも

あくまで世界オルティアの一構成要素にしか過ぎず当代の闇・魔界を統べる現王であっても

 玉座に取り憑き縛られていて玉座から離れる事は出来なかった。


 しかしながら、彼はあのルナティアやマリアージュ等ヴァン族より位階が遥か上で

ヒト社会に上手く取り入り闇の手勢として根を張り魔・闇の王としてその役割を

存分に奮っていたのである。


 そんな彼がシーアに興味を示すのもまた必然であった

「ねぇ、早く銀の連れて来てよ ハデスぅ 私達もそのみてみたいわぁ」

とシトラとミューリの二人のサキュバスはハデスの扱い慣れた弄りに

うっとりとしながらおねだりをしていた。


『慌てるな、余達には定命の刻限など無いではないかときを急がずとも

チャンスは必ずや訪れる そういうものだろう? 我ら魔族にとってはな』

「ふふっ、そうだったわねあのヴァン族の厄災トラブルを招く”オンナノコ”も目覚めた

ようだし これから面白くなりそうね ねッハデスぅ♡ 」

『そうだな ヤツがどんな厄災トラブルを招くか楽しみだな 

仄暗き霧内でも政治変クーデターが起きたようだし

面白くなるぞ クソ忌々しい玉座より動けぬこの身をもっと愉しませてくれれば

余はそれで善いからなハハハハ

それよりもっと余に弄らせろ 女体はこの柔らかさが堪らぬよ

幾星霜経ってももこの感触だけはくことが無いものだからな 良きかな良きかな』

やがて、


くちゅり、くちゅくちゅ


と湿っぽい音が聞こえてきて

微かな嬌声が漏れ彼女達の羽と尻尾がユラユラと艶めかしく動く。

「もう、何時までも子供なんだから ねっシトラ」

「全く二人も弄っておいてその言い草は贅沢よね」

と二人のサキュバスはハデスの”弄り”に満足気であった。


 フォルネウスは辞したあと廊下で

「やれやれ全く、セレーシア・トレーシア様にも困ったものだ 皇女としての帝王学やらお作法を

放り出して

何時までも、魔導考古学等と只人の戯れの真似事なんて

なにが面白いのやら、オレには分からぬな」

と幾千、幾万も繰り返してきた愚痴を又、こぼしていた。


 夜が明け一番鶏の声がネグリールに響き渡る。

朝帰りの冒険者・夜通しの魔道・魔術実験に明け暮れた魔道士・魔女が

若い修練生とは違った話題で盛り上がる


「何でも、ギルトス北西で動きが有ったらしいな」

「それ、私も聞いたわ」

「気候が急に緩やかになって近くにあった棄てられた村に今、注目が集まっているらしいぜ」

「へぇ、彼処って流れ者やセネストリから追い出された者やその末裔達の

集落でしょ? 」


「あぁ、今まではそういう認識だったがな」 

「今までは? 」

「 ...そう、今まではな、 誰かがあの大氷狼フェンリルを”討滅”したらしいぜ」

「げ ホントかよあんな自然災害の権化のようなヤツをか? 」

「でよ、その討滅した若い”オトコ”が持ち帰った”大火蜥蜴サラマンドラの涎”がな

魔導実験やら錬金実験やらに革命を起こしそうなんだと」

「へぇ でもオレが聞いた話しだと ”銀髪の娘” と聞いたがな ホレ彼処に

座っている娘のような」

とわたしは何やら視線を感じていた


「まさかぁ、あんな”小娘”に何が出来るってんだよぉ お前莫迦か? 」

「まぁ、オレは莫迦だげどさぁ... 」

「まぁまぁいいじゃねぇか オレは 今の魔道実験が終わったら兎にも角にも現地まで

確認に行くつもりだぜ」

「へぇ、いいわぁ わたしはこれから、若い子達の修練の引率よ男性六人女性二人の」

「ほぅ、今回は其処から何人俺達の様な魔道士やアンタみたいな魔女になれるのやら

ナァ  ”ラトア” よぉ」

「へへ 私の指導なら全部魔道士や魔女にしてみせるわ

特にオトコノコ達は可愛い子が六人もいて私は眼福よ」

「けっ 相変わらず若いオトコノコ好きだな だから何時まで経っても

一人もんなんだよ そんなんじゃき遅れるぞ 

オレのようなイカした野郎が目の前にいるってのによぉ」


「ふふ 残念でした アンタがもう少し若ければ考えても良かったわ」

「ちっ 言ってくれるぜ 所でガキ共の課題は何だい? 魔樹の実の採取か

それとも 腐れ鼠狩り? 」

「そのどれでもないわ 悲鳴草マンドラゴラと雄叫びマンドレイクの採取を

やらせるつもり、ちょうど私の手持ちが少なくなってきていてね

面倒だから、彼らに採って来て貰うわ」

「うへっ 自分の手持ちの補充を修練生にやらせるのかよ

オンナって怖えな」


「いいじゃない 私は手持ちの補充、彼らは修練とお互い利があるじゃない」

「そりゃそうだがよ だが採らせるならメギスト遺跡方面には行かせるなよ」

「なんで? 彼処、第四層島群で渡り橋ですぐじゃない」

「いや、何か不穏な噂が ......ってやべぇ済まねぇがこれ以上は言えねぇ 

だけど修練生程度じゃ古代魔物の腹の足しになるだけだ

可愛いオトコノコを喰わせたくなかったらそっちへの採取に行かせるのは よすんだな」

「へぇ ”古代魔物”ねぇ 気になるわぁ」

「いくら誘導しようって無駄だぜ これ以上、しゃべる事は出来ん」

「分かったわ、あの子達には行かせないわ このラトアが引率する修練生には

絶対”もう”犠牲者なんか出ささせやしないわ」

「オメェ、あれは事故だったろ オメェの責任じゃねぇだろ」

 ラトアが講師になりたての頃、修練生を一人引率中に”事故”で喪っていたのである。

偶々、今回と修練生の構成は同じであった。


「そりゃそうだけど 私のキモチがまだ整理が付かなくてね」

「そりゃ済まないな、 ちと言い過ぎたか? 」

「ほんと、もうちょっと若ければアンタをを夫に迎えても良かったのにな」

「そうかよ でも忠告はしたぜ 後は、オメェ次第だぜ」

「ありがと ...ね」

ラトアは遠い目をして弱めの酒精のエールの杯を傾けた。


「さぁさせっかくの気持ちのいい朝だ オレからメシ奢ってやるぜ

たんまり食いな」

「待ってました!!、 さすが盾役タンクは度量が違わあ」

と七人の男女がワイワイやり始めた



『シーアよ、いまは”古代魔物”は捨て置くのじゃぞ

儂らには儂らの目的があるからの

ほいほい何でも首を突っ込むほど子供でもなかろ』

「えぇ、気にはなるけど今はクロの言うとおりね ランドルフ様との邂逅は午後の予定だし

フェーリアちゃんのお部屋の家具でも見繕わないとね

ミーアお姉様はどうするの? 」

「そうね昨夜ずっと修練しっぱなしで眠いの だから今日はランドルフ様に遭うまで

お部屋で仮眠を取るわ ビヨンちゃん借りていい? 」

「えぇいいわビヨン、 ミーアお姉様をお願いね」

[ はい、お任せを ]

と本日はわたしはネグリールにチフェーリアの為の買い物とラヴィアにご褒美の”生骨”

の調達の為に救護院の来訪その後でランドルフとの邂逅の予定だった。


 早速、ラヴィアはわたしのスカートを摘んで

「ねぇ、早くぅ きゅーご院行こうよぉ ねぇねぇ」

と気もそぞろにせがまれた。

「えぇ、今回は活躍だったもんね 所でフィーリアちゃんは? 」

チフェーリアの姿は此処には無かった。

「あのねぇ、お外は”蒸し暑くて”嫌なんですって

買い物するときだけ呼んでって」

いまは十二の月の始めである ケープコートでも肌寒い時期に差し掛かっていた

尤も、あの氷結遺跡 ザキル の寒さが常態の環境では此処は ”蒸し暑くて” 嫌なのかも

知れなかった。


 二人で救護院の場所を聞き、見取りを貰って歩いていた時である

何かが トン と軽く当たりちょっとよろけてしまった

よく見るとケープコートに小さな泥の塊が付いていた。


「このバカ野郎、奴隷の分際でよそ見しやがって!! 大荷物持ったら

脇見なぞするんじゃねえよ」

と野太く怒気のこもった声


「ごめんない えーっと...... 」

「あぁ、銀のお嬢様 何もお嬢様が謝る必要は無いんで コイツがよそ見した挙句

お召し物に泥、跳ね飛ばしたのが悪いんで こんのクソガキ この場で斬り捨てたろか」

と奴隷の少女が持っている大荷物三つは余裕で持てそうな大男のウル族が

怒鳴り散らした。


「ご主人様、 お赦しを 殺さないで」

と途端に激しく怯えだした。


「るせぇ 分かっているだろこの世界オルティアじゃ 一度てめぇを買ったら

オレ様は好きに扱っていいんだぜ ソレを分かっているんだろうな」


 この世界オルティアでは、一度奴隷市場から競り落としたら

後の処遇は買った主人次第である

 

 錬金術の素材、魔導・魔術実験の素体等を筆頭に

大凡おおよそそのイノチなんてものは考慮されない

そのことは、わたしもこの世界オルティアの住人として当然知っている

「あの、これくらいは 平気ですよだからそのの処遇は穏便に......」

というと

奴隷の少女は、顔を微笑ませた。


ところが、これがこのオトコの気に障ったらしい

「なに、ニヤついてやがる お嬢様が赦してもおれが赦さねぇ

今日は荷受が少なくて身入りが少くねぇし 苛々する

こんのぅ オレに引っ叩かれろや」

と大きな腕が奴隷の少女に振り下ろされる瞬間

緑色の茨がシュルリと眼の前を走った

途端男の腕がだらりと下がり、

ラヴィアの茨には振り上げようとした彼の肩から腕全部のまだ関節が、繋がったままの

”生骨”が抜かれ素早く彼女の小鞄ポシェットに収まった

「うひゃ〜ぁ オレ、オレの腕がどうなっちまったんだ 骨抜きになってらぁ」

と呆けてだらりとブラブラ下がった”腕”をみていた

やがて痛みが遅れて戻って来たらしい

「イテェーー 痛ぇよぉ チクショー」

と悶絶していた


「ふん これで、あの”小僧”はあの奴隷に定命のことわりが来るまで

ずっと頼らざるを得なくなったな シーアおねーさまが赦すつってんのに

嫌なもん見せやがって おねーさまを悲しませるんじゃねぇよ

クソガキが...... テメェの骨はこのラヴィア様がありがたく貰っとくぜ」

とラヴィアはニヤニヤ下衆な笑みをこぼしていた

「ラヴィアちゃん? 」

というと

何時もの可愛い少女声で

「だってだって、どうしても”生骨”欲しかったんだもーん

シーおねーさまの悲しそうなお顔見たく無かったし

どうせラヴィアの仕業なんて思いもしないでしょうよ ほら」

と先程の大男は現状を把握できず奴隷の少女に慰められていた

ちょっとは騒ぎになったものの魔物が出没したわけでもなく

自分達には被害が及ばないと分かるや

通りの皆は肩をすぼめて

「人騒がせな野郎だぜ、てっきり魔抗結界の綻びから

魔物でも潜り込んで来やがったのかと思ったぜ 行こうぜ」

とまた何時もの喧騒に戻る


しかし、これを只の騒ぎとしてしてか見ていない連中とは違った見方をしていた者がいた。


「へぇアイツがシーアか? このマリアージュ様を謀ったっていう あぁヴェネイーラ? 」

「えぇ、そうよ マリアおねー様 あのよ」

と物陰からヒソヒソ話しをしていたのは

デメテルのお披露目も無事終わりトノベルの離れの浮遊島に、ここベルゼでの仮住まいを

定めたマリアージュとヴェネイーラの二人であった。


「今回は、作法はまぁまぁいい方だった ドレスもちゃんと誂えられたしな

オレの接吻であの縛りを解いてやったからあとは自分自身でオンナ磨いとけよ

ガキの様にしょっちゅう目を配る訳にも行かねし

目が届いている間は厳しくするのは当然だがな。

それにあのメスガキ見ても、落ち着いていられたじゃねえかよ

どうしたよ、急にお嬢様になってよぉ 何か有ったか? 」

「いぇ、マリアおねー様ヴェネは早く立派な淑女レディになりたいの

そして、マリアおねー様の許で働きたいの あれヴェネにしてちょーだ いいでしょ?」

とスカートに違和感を浮き上がらせ

マリアージュに何やらおねだりをする。


「ち、テメェには被虐嗜好も有ったんだったな しょうがねぇな

虐めてやるよ」

と首の可愛い首輪チョーカーがやんわりと締付け始めた

彼の全身にはマリアージュ謹製の縛りの茨が張り巡らされていたのである


 まっすぐだった髪の毛もより少女らしくお嬢様らしくウェーブロングの巻き髪にメイドに仕上げて

貰った


彼・ヴェネイーラはもう、自分ではどうあがいてもマリアージュの様に

上手く立ち回れない事が分かっていて

次第にマリアージュに依存していく自分を感じていた。


いっそのこと彼の傀儡かいらいとしてなら少なくとも

今までとは変わらないしマリアージュにもこの気持ちを打ち明けた。

縛りの茨は偶々マリアージュがこれでエサの少女を縛っているのをみて

自分にもそうして欲しいと

自身の被虐嗜好を満たすのにもちょうどおあつらえ向きだったので

マリアージュが強制したわけでも無くヴェネイーラ自身がおねだりしたのである。


「テメェがそうしたいって言うんならいいぜ

オレも、従者が欲しかったし 甥っ子としての待遇も担保するぜ

自由意思も当然認めてやる。


 それにその縛りの茨が嫌になったら直ぐ解いてやる

これは本来は傀儡かいらい用でな同族に使うモンじゃねぇしよ


オレが((( これでヴェネを縛ってイジメテ ))) 

と言われた時は流石に耳をうたぐったぜ

兄貴にもテメェが説得したらしいしそれは構わんけどよ


......。


ヘンなヤツだぜ


 その代わり”従者”としての”役割”は果たして貰うぞ なぁに悪いようにはしない

なんて言ったって兄貴の息子だからな

もっとオンナノコ然とした格好なりをする・

シーアを見ても前後不覚にならねぇとか

後はテメェの持ち物である”遺産の少年”共をオレも使えるようにすることが条件だったからな」

「おっ、おねーさま 早く早くッ」

とヴェネイーラは物欲しそうな目でマリアージュに訴える


「ん どうしたの? もっと虐めてほしいの? 」 

と可愛い少女の声で囁く

「うんっ!  ヴェネをもっとイジメテッ!!」

とヴェネイーラは被虐要求が疼いてもうどうしようも無かった。

 

「いいだろうとも もっと虐めてやるよ」

首輪チョーカーと一体になっている縛りの茨が彼の白い肌に

ゆっくり食い込み虐めていた。


「あぁぁん いやぁ〜ん でもでも いい気持ち

ねぇ〜 ねぇ〜 もっともっと♡ 」

「いいわ、ヴェネちゃん もっとイ・ジ・メ・テあげる♡ 」

とマリアージュもニヤニヤ嗤いながらヴェネイーラに巻き付いている茨に

力を込めその茨に締め付けられる度に可愛い嬌声を上げる

その嬌声は仮住まいの中に何時までも響いていた。


 そんな事を経てトノベルから此処ネグリールにシーアの噂を聞きつけ偶々、街角で見かけたのである

「でよ、あれ”遺産の少女”じゃねぇか ロージィとテメェの報告と違うな

新しい”遺産の少女”を手に入れたか? まぁ今は様子見だな いいか」

「えぇ、おねー様あれはやっぱり遺産の少女よ、 でも何処で手に入れたのかしら

あッ 見た見た? あの骨を抜いたわ 怖いわぁ マリアおねー様悔しいけど

ヴェネじゃどうにもならないわ おねー様なんとかしてよ」

と半ば泣きべそをかいてマリアージュのスカートを掴んでいた。


マリアージュは優しく頭を撫でて囁く

「あぁ、 ヴェネ分かっているさ 分かっているとも でもな、今は我慢しな

オレの淑女レディもあの女喰いたくてたくてウズウズしてるさ 

でもよ此処での騒ぎは具合が悪い 分かるだろ? 

居場所が分かっただけでも僥倖だな。

今は先ず食事が先よ」

と んんッ とマリアはヴェネに接吻をする。


 「ほら、泣かないの ヴェネは淑女レディでしょ 毅然としてなさい」

と姉ように接する自分を感じて

(オレもヤキが回ったかな いのまにやらコイツが”妹”の様に思えてきたぜ)

マリアージュはヴェネイーラの着乱れたワンピースを整えてやる

彼もまた荒んでささくれだった心が手のかかるヴェネイーラの存在に

次第に癒やされつつあるのが分かっていた。


「おい、今はあの娘は様子見だ 馬車の中のエサはどうした? 」

と待機していたメイド達に声をかける。


「はい準備は整っていますマリアージュ様・ヴェネイーラ様のお気の召すままに」

「それでいい一匹はくれてやる好きにしな」

「きゃん ヴェネ嬉しいわ早く早く 中に入りましょ」

「分かった分かった ではお愉しみといきましょ」

とマリアージュとヴェネイーラは可愛いパンプスで馬車の踏み台を上り

また馬車の中で何時もの様に狂宴が例の如く繰り広がれるのだった。

すでにマリアージュとヴェネイーラの間には姉妹のような空気が漂い

剣呑な雰囲気はもう無かったのである。



 シーアが救護院に向かう一方で、ミーアは仮眠をとろうとしていた

何しろ、昨夜は男女の睦言があちらこちらから聞こえてきて

落ち着かなかったのである。


 本当は、途中までシーアと一緒に歩きつつ百貨店を見てみたかったのだ

そんな彼女の想いとは別にロムルスは、机の上で日向ぼっこを愉しんでいた。

『ミーア様、安心してお休みになって下さいまし

あっしとビヨン様とでミーア様をお守り致しやす』

と蔓を緩めて窓外を指していた

そう、ミーア・ビヨン・ロムルスは気付いていた

ミーアが沐浴を終えたあたりからなにやら視線を感じるのを。


 直接、仕掛けてこようとはしてこない。

ねっとりと伺うような、こちらの気配を動きをまさぐるような

そんな視線であった。


 そんな視線を感じたのはちょうど表の広場に若い魔道士・魔女の見習い達が集まって

若い女性講師が何やら準備を始めた頃合いであった。


 ミーア達はこれはかなり手慣れた者が伺っているに違いないと判断して

向こうから仕掛けて来るまではお互い動かないようにと視線で会話する。


しかし躰の疲れには流石に抗えず”二人”に

「ゴメン、もう眠いの 後、お願いね」

と小声で囁き視線を交わし静かに入眠体勢に入った。


[ ロムルス、”気配”が 移動してますね やはりあの修練生の中からですね、あるいは

あの講師かも? ]

『違えねぇな ...でどうするよ? 動くか? 』

[ 待って、今こちらから仕掛けるのは相手の算段に踊らされる危険性が 

九割の確率で有ります 今は動くべきではないと判断します ]

『うへぇ、優秀だな アンタ、オートマトだろ 製作者は誰だい? さぞかし名のある

魔導技師だろ? 』


 と

無遠慮に訊いていたが ビヨンは表情を逆に和らげ

[ いえ私の”お父様”は世間には名は知れていません しかし、私と私の妹レヴィアを心底愛して

製作してくださいました 私・ビヨンとレヴィアに取っては

最も名のある”存在”です あと私のことはこれからも”ビヨン”でいいです

お互い家族なのですから ]

『”家族” ......ね あっしにはその概念すら無いな ソレは大切なモノなのか』

[ ”モノ” と定義するには曖昧ですが確かに此処に存在する ”モノ” です

我が主人シーアが教えてくれました ] 

と胸に手を添える。


やがて、ミーアの呼吸が深くゆっくりに変化していく

『おっ、ミーア様の眠りが深くなった 動きがあるやもしれねぇ

あっしらはあっしらで ”家族” をしっかり守らなきゃな』

[ そうですね 私も睡眠をとるふりをしましょう

私・ビヨンはこの身を賭してミーア様をただお守りするのみ ]

『違えねぇ』


 とビヨンは目を閉じ、ロムルスは解いた蔓を籠の持ち手に変化させ

静かに待機していた。

続いていた気配はがやがて遠くなって、気が付けば

やや張り詰めた空気も緩み何時もの安宿の喧騒が戻ってきていた


(うへぇ、あぶねぇあぶねぇうっかり、気配を辿られるトコだったぜ

このラーゼス、ヘマしたと有っちゃ 異性姿の達人の名折れだからな

 でもあの”お人形”が只の”お人形”ではない事も

わかったし、あのあの妙ちくりんな遠足籠バスケットも気になるな

あの色合いからしてトリニートレント製かもな。


 チクショーオレもあんな、すげートリニートレント製の遠足籠バスケット欲しかったなぁ

一回可愛いワンピースドレスを着てして”お茶会”ってのをやってみたかったなぁ

半分汚れ仕事のオレにはもう無理かもな)

とラーゼスはワンピースから可愛く覗いている黒のペチコートを摘んだ


(しかもあれも只のトリニートレント製の遠足籠バスケットじゃなかった

いってぇあの銀の小娘って何者なんだ? 

後で上の連中に、オレは何を探らされているか、問いたださねばな

とんでもねぇバケモノ相手に大立ち回りはゴメンだからな 

特殊な能力ちからもねぇしよ


 早く、カネ貯めてこんな稼業から足洗ってよ

そして可愛い格好なりして”シシリー”としてまったりと暮らしてぇなぁ

ソレ前におっ死んじまったら意味ネェしな。


 さてと部屋のお人形と籠野郎がが動く前にこっちもトンズラしねえぇとな

こんどは銀の娘の番だが”救護院”に何の用だろ

怪我しているとは思えなかったしな、まぁ探ればどうせ分かることか ...って やべぇ

フラウがこっち来やがった)


「あっ シシリー いたいた 急に居なくなるんだもん どうしたの? 

捜したよ? 」 

 とシシリーことラーゼスは駆け寄ってきたフラウに何気ない風を装い

「ゴメンね、フラウ ちょっと書付けを忘れたの 一言ってからこの安宿に取りに来たかったんだけど

どうしても急ぎで欲しくて」

「いいの、シシリーったらコソコソとあの窓の傍で何やっているかと思ったのよ」

先程の”お人形”と”遠足籠バスケット”と”ケット族の女”がいる部屋の窓を指差していた。


「えっと、あの窓の中からいい匂いがしてお腹が鳴って恥ずかしくなっちゃって

中にいたヒトに聞かれたかと思って慌ててしゃがんじゃったのよ」

「ふふ、シシリーったら 食いしん坊さんね、お昼はまだだというのに

早くセンセのトコ行こ? まだ準備中だけど今日の課題について色々聞いておきたいの」

「ふん、熱心だこと 同じ事を聞いたりやったりはオレはもう飽きたぜ」

とつい口から出てしまった

「シシリー 何か言った? 」

と幸い全て、聞かれた訳ではないようだ


「いえ何でも無いわ、わたしもセンセに聞きたいことがあったの 待ってよ

相変わらずお足が早いわフラウって 私って、すぐ息切れちゃうの♡ 」

「シシリーこそ、体力付けなきゃだめよ魔女は体力仕事だって、お祖母様やお母様が言っていたわ」

「そうだったわね、でもゆっくり歩きましょ」

(ホントは、おめぇより早いんだがな まぁ ここはおしとやかで

か弱いシシリーを演出するかね)

とラーゼスはワンピースと可愛いペチコートを揺らしてワザと息を切らしてラトアの許へと、

駆け寄った。




「ラヴィア? 」

わたし何が彼に起きたかを理解するまでには数瞬、をおいてからだった。

そして、ラヴィアはそっと人差し指をわたしの唇に押し当てる。


 彼女ラヴィアは奴隷を哀れと思って助けたのではなく、わたしが不快な表情を浮かべて

これから”ご褒美”を貰おうとするのにわたしの機嫌を損ねないように忖度したからに

過ぎない


 奴隷の扱いにはわたしも思うところはあったが、これがこの世界オルティアでの

奴隷の立場であった。


「シーおねーさま、言いたいことは分かっているわ、でもねこれが私達・ライブ・アーティファクトと

盟約したってこと

常に盟約者の感情を忖度し、行動を起こし立ちふさがる悪意を滅する

これこそ ”神代級遺物” を依代としヒトの姿を成した者の行き着いた果てよ

でも、生命まではあるじの命あるまでは奪う事は出来ない

これは、唯一の私達にとっての ”枷” かな

大人しいもいるけどそれはただ、蹂躙する事に飽いただけ 覚えておいてね」

わたしは、改めてライブ・アーティファクト達と盟約を交わす事の意味と

責任の重さを知り、彼女らを庇護するということはこうした事実も、また

容赦無く知らせれる事を示していた。


「ラヴィアちゃんは 蹂躙することには飽いたのでは無いのかな? 」

と優しく問うと

「そうね、 ごめんねソレは秘密♡ 」

とそれきりであった。

「そう、でもねこれからは一言 言ってくれると嬉しんだけどな」

と言うと

「おねーさまがそうおっしゃるのなら そうしてもいいわ」

とラヴィアは腕を回し 優しくわたしの唇を奪った


 すると耳元で

「ねぇ、感じてる? さっきから変な視線が三つ 一つは探るような視線

もう二つは、監視するような ...いえ、違うわね いきなり私達と邂逅して驚いたような視線」

やはり、彼女も感じていたらしい 

宿を発って暫くしてから一つ

先程、彼女が”生骨”を抜き取ってから同時に二つ

鋭くも、けっして柔肌にはきずつかないような視線。


「えぇ、何か感じるわ 其処までは分からなかったけど」

濃い接吻を交わしながら小声で交わした


「んーっんゅんゅ ......もっと...頂戴? ...おねーさま んんっ」


とラヴィアはわたししか眼中に無いかのような抱擁を要求してくる

「今は、ガマンして これから”ご褒美”あげるから」

と慌てて制するもラヴィアは

「ふふ、屋敷の達には悪いけどこうして”独占”するのもいいわ

あれが”きゅーご院”? 美味しそうな濃い血の匂いがするわ」

とニヤニヤと口角を上げぺちゃぺちゃ下品に舌なめずりし始めた

「お行儀が悪いわね」

とあまり強くは窘めずにさとす。


 盟約時に、ライブ・アーティファクトはこういうものであることが分かっていたからである

わたしだってお腹が空いた時に美味しい好物を眼の前にすればどうせ同じなのだから。


「てへっ ついやっちゃった」

とラヴィアは素直に居住まいを正した。


 遠くでは、

おそらく定命のことわり来るその時まで、

好き放題にしてきたであろう奴隷達に、今後、生活を頼らざるを得ないであろう

 彼はその少女の奴隷に優しく庇われてゆっくりと歩いていった

その彼を遠目に見ながら救護院の検死官

のいる場所に向かう。 



 わたしでさえ辛気臭くなる濃い血の匂いがする一室へ案内されて行く途中

ふと、厨房が目に入った。 まだ昼には早く皆素材の仕込み中であった。

其処には調理前のサキュホーンの”生肉”が置いてあり

思わず、ゴクリと唾が口に広がった

(あれ、この濃い匂い美味しそう アレあのまま食べたい)

と奇妙な食欲衝動が湧いた。


 この世界オルティアでは、生食の習慣がない この間、王都ギルトスでアカネの

宿で初めて”生食”を経験したくらいである 渡り人は生食の習慣が有るところも有るらしく

サオリの”イザカヤ”でも海の魚は生食で出す時があるそうだ。

 しかしわたしは魚ではなく ”獣”の肉に反応していた 

以前は到底沸き起こらなかった衝動である

「どうしたの? おねーさまぁ? あのお肉食べたいの? 」

とラヴィアも不思議そうに顔を覗き込んでくる。

「いッ いえ何でも無いわ まずは検死官のセンセにお話しなくちゃね

いい? 貴女は、妹で死霊術の見習いよ」

「はぁ〜ぃ」

と軽快な返事が返って来た。

そうして、彼女からの問いかけをはぐらかした。


「やぁ、いらっしゃい アンタかい? 死体がご入用の娘って? 」

「えぇ、正確にはこのだけど、わたしは付き添い人よ」

「そうかい、 今日は、死体が五体だ古代魔物に殺られたとかで

激しい損傷が有るやつが二体、全く損傷が無いやつが三体だ

欲しい部位はどこかね? 

 

 あぁ ...遺族のことは心配しなくていい

葬儀するカネも無いし遺品さえ受け取れれば満足だし

遺体は救護院で引き取ってくれていいとよ まぁオレはどうでもいいがね」

とエル族と魔族の半人半魔らしい男性は言う。


「そうね、このが言うには”生の骨”全てだそうよ

小さな骨片一つに至るまで死霊術に使うらしいわ

「えぇ、そうよお兄さん早く頂戴! 」

両手を差し出し両足で ぎゅむぎゅむ と地団駄を踏む。


「まぁ、待ちなよお嬢ちゃん どうやって取るかは知らねぇげど

包み隠さずこの樽に詰めな

死体の目方は予め計っているから取った樽の骨に死体の残骸を足して

同じくらいにならんと不正に隠し取ったと看做みなすがいいか? 

この天秤は正確だぜ」

とそこには、錬金術でおなじみの大きな天秤があった

「これ地面が傾いていないでしょうね 水溢してみていいかしら? 」

「うへぇ、お前さん この天秤には詳しそうだな」

と片目を見開く。


「そうね、わたしが錬金術師といったら? 」

「ハハハ なるほどな アンタ、いいセンセに教わったようだな」

(わたしがお兄様だった頃は、よく分量間違えて腕に手を生やしたり顔を生やして

散々な目に遭ったっけ)

「 ...でいいのかしら? 」

「いいよ、 なら正確に出来る水銀で試してみるかい? 」

水よりは水銀の方が正確ではあるがこれも高級な触媒の一つある。

「いえ 水でいいわ やって頂戴」

というと男性は、

やおら、ゴブレットの水を溢し一箇所に留まることを簡易的に確認した

すぐに広がりはしたが水溜りは留まったままで何処にも流れだそうとは

しなかった。

「いいわ、 案内して貰えませんか っとわたしはシーアでこちらが妹の

ラヴィアよ」

と軽くスカートをつまむ。

「あぁおれは ”名無し” で通ってる よろしくな」

と 名無しの彼に案内された小部屋は以前コトンが目玉を抜き取った

部屋よりは大きい


 其処に女性三体男性二体の死体があった

五体とも局部にしか布が掛かって居なく

忠告通りの状態であった。


 男性二体は損傷が激しく、正中でザックリ割れていて内臓もぐちゃぐちゃで

はらわたから内容物が溢れていて酷い悪臭を放っていた手足も

骨が折れ飛び出して もう、四肢の役割を成していなかった

片や女性は表向きは綺麗である 死斑が浮き出ている普通の死体である

私は、このような死体はよく魔物に襲われたのが街道に転がったりして見慣れてはいたが

これはその中でも酷い方だった。


「シーアさんとやら、このお嬢ちゃん気もそぞろなようだぜ オレはあの部屋で控えているから

心ゆくまで取っていいぜ どうせ取るトコって 他人には見せないんだろ

こう、なんというか ”秘儀” ってやつでさ? 」

「そうよ、 早く出ていって! 」

と強めな口調でラヴィアが言うも相手は慣れているらしく

「へぃへぃ」

と言いながら姿を消した

「きゃはぁ〜ん 嬉しい♡ ではいただきまぁ〜す」

とシュルシュルと髪に紛れている茨を伸ばすや

目に辛うじて捉えられるくらいの速さで骨を抜き取り

用意した樽に入れ始めた


ごちゃり、ぐちゃり

 

と関節が繋がったままの脚・手

そして最後のお愉しみと言わんばかりに首の後ろから茨を突っ込んだと思いきや


ズロリ

 

と背骨が繋がったまま頭蓋を綺麗に引き抜いた

「このおめめ コトンねーさまにもあげるの そしてマトモな心の臓は

んとね フェーリアちゃんに あげるの♡ 」

とと茨に絡めた肋骨に付いたままの心の臓を指差した。

「分けないの」

と訊くと

「いやっ ソレはコトンねーさまとフェーリアちゃんにやってもらうわ

キモチ悪いから ラヴィアは絶対にいやっ! 」

と彼女の”気持ち悪い” の判断の境目はよく分からなかったが

取り合えす、処理は終わったらしい用意した大樽でニ樽分の”ご褒美”が

収まって

「フハハ 久しぶりだぜこんなによぉ 今夜はこれを肴に

レメの哀れな犠牲者共の醜態を見ながら 宴会だぜ」

と余程、嬉しかったのだろう

男の声で叫んでいた。

「う...  ごめんなさいつい」

と慌てて素の声に戻す

幸い”名無し”の彼は駆けつけて来なかった。


 レメテュアはは、嘗て自身の迷宮に取り込んだ”犠牲者”をあの立方体が変形した武器に

閉じ込めていて 空間に永劫囚われ続けるらしい

ソレを眺めることで

今の所は満足していたのである。

彼女の”ご褒美”はヒト丸ごとな為、”偶然”が重ならないかぎり”手に入れる”ことは困難であった。


「先程、男の声が聞こえたようだが 

まさか幽体系の魔物のヤツに死体を乗っ取られたんじゃ無いだろうな だとしたら厄介だな」

と独りごちていたが

「名無し様、このが腹話術もやっていてつい出ちゃったの」

と咄嗟の方便を言い放った。

ラヴィアは感情が昂ぶると下衆な男性の声を出したりする

契約した時に、彼女は素の声の他あらゆる年代の男性の声を出せる事がすでに

分かっていたのでこの特殊な能力ちからをごまかすには大道芸人の

”腹話術”とういうことにしておいたほうが都合も良かった。


「なら、好かったぜ死体には色んなヤツが取り憑きたくてうずうずしているからな

こうして素材にするのも遺族が死んだ肉親や親友を”魔物”として討伐したくないからな

因果なことだぜ」

と嘆いていた。


 行き倒れた死体は、幽体系の魔物の恰好の”容れもの”になりやすく

放置すると以前トリンデのトリシ大地下墳墓の様な事になり

今度は、肉親や親友・同僚を”魔物”として討伐しなければならなくなるのである。


「すげぇ、こりゃ”綺麗”に採れたもんだな

目玉や心の臓が付いているがこのままでいいかい? 」

と綺麗に”抜かれている”骨をみてラヴィアに訊いていた

「いいわ、ラヴィアのおねーちゃん達もね この”おめめ”と”心の臓”もほしいって」

「そうかい、では計量すっから待ってな」

と名無しの彼は再びあの部屋に行き暫くして大きな革袋に詰めた残骸を

天秤にかけそして

「こいつぁたまげた 最小単位の分銅一個分しか違わねぇ

こんなの初めてだぜ」


「ギルドカード出しな 精算するからよ はい毎度あんがとよ」

とこの前の目玉よりは流石にちょっとお高めでは有ったが

私にとっては微々たる金額であった


「この樽毎持って行っていいぜ 樽の代金も含まれているからよ」

「うふふ、ありがとお兄ちゃん♡ 」

と見た目は可愛いラヴィアに言われ 顔を赤らめながらも

全ての取引を終え小鞄ポシェットに樽ごと仕舞う様子を見て

名無しの彼はまた驚いていた。


「またな、オレも今夜はあんたらのお陰でいい酒が飲めそうだ

可愛いお嬢ちゃん 死霊術しっかり頑張んな」

とニヤケ顔で戸口まで出迎えてくれた。


 ここネグリールは魔道や魔女の見習いの集積地を言うことも有って

ラヴィアもまたその見習いの有象無象と見られていて怪しまれること無く

用事を済ます事が出来たのである。


(やべぇ、アイツ一体何なんだ? あの死霊術の見習いとかほざいていた

背の低い方の娘! 只の”人外”じゃねぇぞ

クソっ もう少し中の様子見れたら良かったのによ 

彼処は死体も扱うってんで魔抗結界を張ってやがるし

気配を辿れなかったがよ

オレ、扉の隙間から見ちまったぜ 死霊術師があんなに大量の”生骨”

使うわけねぇ

とんでもない”バケモノ”相手にしようとしているんじゃ...... 。)

「おい、ラーゼス 守備はどうだ? 」

「 って、うわぁ ......レアーネ様? 」

「他に誰が居るってんだよ くそオトコオンナ野郎」

と可愛い声で下衆な言葉を発したのは

ルナティア付きメイド位階二位で常に、外を飛び回っていて

数々の間者スパイを監視・統率しているエル族の少女レアーネである

くるくると腰下まである可愛い巻き髪をゆらし

豪奢なワンピースとこれも豪奢なペチコートを身につけた

一見お嬢様風の少女が後ろに気配も無く立っていた。


 このレアーネ可愛い外観とは裏腹に、普段は下衆なオトコ口調で喋っていた

「この件は直々に 我が君主ルナティア様の命により動いている事を

忘れんなよ あぁ? その莫迦なオツムでもまさか忘れたとは言わせねぇからよ」

とぐいっとシシリーことラーゼスの胸ぐらを掴み乱暴に壁に頭をこじった。


「すんません、 ある程度掴めたらと思っておりまして ......ぐぐっ」

とレアーネはラーゼスの股間付近を可愛い自分のスカート越しに蹴り上げた

「だからぁ 言ってるだろぉ テメェの莫迦なオツムじゃこまめに連絡しねぇと

呆けている間事態がどんどん動いちまうってよぉ」

と今度は可愛い手で首に爪を食い込ませた。 赤い物が糸を引いた

「やへて 下さいまし」

と半ば難癖に近い言いがかりだが組織内では彼女よりは位階は低く

逆らえなかった。


「いいんだぜ 異性装の達人は他にもいる ソイツらに任せてもよぉ? 」

「それだけはお赦しを 此度の任務は、このラーゼス自ら志願しております

何卒、任務を完遂させて下さいますよう 」

「け 訊いた風な口利きやがって かわいいお顔に消えない疵負わせられたくなかったら

今直ぐこのオレに話せ 小僧、盟主様から”寵愛”を受けているからって

このオレ・レアーネ様を出し抜くなんざ 赦さねぇからな」


と彼女は、ラーゼスがルナティアから 特別な寵愛を受けていると勝手に思っていて

彼に激しく嫉妬して難癖を付けていたのであり、ラーゼスには致命的な落ち度は

一片もなく、


 彼自身の努力も有って知能も組織内ではかなり優秀な部類だった。

彼女は、自身も可愛い顔つきにも関わらず

顔の美醜も彼に劣っていると思い込み激しい情念を滾らせていて

その上、シシリーに変身した彼の可愛い異性装に激しい嫉妬も燃やしていたのである。


 彼女も、孤児から成り上がり、幾多の同僚を奸計に嵌め蹴落としようやく今の位階に到達した

このような乱暴なオトコ言葉もそうせざるを得なかったことを鑑みれば

詮無き事だったのかもしれなかった。

尤もこれが”素”であり表向きは 優秀な妖術使いとして単独ソロで活動して行きずり的に

他の一行パーティーに加わり、彼が”シシリー”を演じている時のように

言葉も普通の少女らしい口調である。


 片や、ラーゼス自身は組織内の位階はどうでもよかった彼はおカネを貯めて

”シシリーになりたい” だたそれだけである

それがレアーネに気取られて彼女の癪に障ったのであろう

いまは、何がなんでもカネを貯めねばならない

ソレまでは、どんな屈辱に耐えようと思っていたし

彼の過酷な来歴が図らずもそれを可能にしていたのである。


「今迄、掴んだ情報は ......です。 あの銀の娘は”バケモノ”かも

俺達はとんでもないモノを相手にしようとしているんじゃ ......」

「るせぇ それを決めるのは俺らじゃねぇだろ まだ分からねぇのかよ!! このオスガキ!! 」

と激しく頬を往復二回張られる。


 激しい痛みが走るがラーゼスにも矜持があり、自身の見解を述べる それが

情報を探り脅威となる可能を報告する者としての責務と感じていたのである。

彼は過去の来歴から身に掛かる脅威は”本能”として感じる類まれな能力ちから

持ち主でもあった。


言ってしまった言葉はもう引っ込める事は出来ず、黙って彼女の怒りが冷めるまで耐えていた

「くそうっ ムカつく この件はオレの手柄な 

あとその生意気な目ぇ向けたら 今度こそ潰すぞ!! こんガキャァ!! 」

と口汚く罵り、持って居た黒いフリルの日傘の先を

ラーゼスのまなこの前で寸止めし

ふいっと掻き消えた。



 ... シーア達が去った検死室 ...

 

「 ...で、彼女達のご感想は、どうだったかな? 」

の長身細身で鋭い目つき 全てを後ろに流した腰まである長髪の淡い蒼色の壮年風の

エル族男性 レジアスが ”名無し” の彼の後ろに立っていた


「うわわッ これはレジアス様、オレはあんな瘴気は感じたことがねぇし 綺麗に骨だけ抜ける

死霊術の”見習い”は訊いたことも遭ったこともねぇ

あの、銀の娘の横にいた嬢ちゃんは何者で? 

オレは何かお咎めを受けるんで? 」

ときつい”お咎め”を受けると思い渋面をこさえると

「ははは そんなに及び腰にならずともいいぞ お前を咎めに来たのではない

我が総長:ドリエルからの命での様子見だよ」

「ならばこんな辛気臭ぇところでねぇで 貴賓室をご案内致しまさぁ」

「なぁに、気を使わずとも善いぞ 用事はすぐに済む」

と彼は何やら床・机・死体を安置していた部屋と

手にした魔器をかざして何やら熱心に探っていたが


 程なく

名無しのところへ戻ったかと思ったら

「君あの達に失礼な口は利いておらぬよな

もし利いていて今、無事に此処に立っていたのなら 

極めて”幸運”だったとしか言えないな 我がギルド総長の弁に拠れば

”あの死霊術の見習いと称したが”ライブ・アーティファクト”もしくは旧い刻を知っている者なら

”遺産の少女”と呼んでいる者たちだ」

と真摯な眼差しで名無しに告げた

それを聞いた”名無し”は今更ながらに激しく動揺した。


 彼も半人半魔である ”ライブ・アーティファクト” の噂は半人半魔仲間でも時折

話題に登っていて中には”盟約”を結ぼうとして半死半生の体でようやく

生き延びた同胞もいると聞く。


 世間では半人半魔は、被差別対象で軽く見られがちではあるが

実のところ、只人よりは頑丈な肉体や長い定命を持っているにも関わらず ...だ。

その半人半魔が半死半生になって敗走するくらいである。


「まぁ、君は幸運としか言えない 間近で彼女らを見ることが出来たのだからね

今回だけ、給金に色を付けようじゃないか これも 総長ドリエルたっての希望でね

彼は、あの銀の娘を特に ”気に入って” おられていてね 動向を注視しておられるのだよ

まぁ、これからもよろしく頼むよ」

とニコニコ顔で一通り言うと彼にちょっと大きめのカネの革袋を渡した

個々人の冒険者なんか有象無象の存在であろうと思っていそうな

ギルド総長がこれだけ入れ込むとはあの少女達は本当は何者だろうと

柄にもなく、黙考していた。


 この突然現れたエル族男性は

浮遊大陸のギルド長 レジアス ドリエルの部下であり

魔器で貴賓室には目もくれずウロウロ ”辛気臭い” 場所を探っていたのは、

ドリエルの厳命によりシーア達の痕跡を必死になって探していたのである。


「ふむ、収穫は無しか 普通は髪の毛や皮膚片などが少なからず見つかるモノなのだが

こうも、痕跡が無いとねぇ どうしたものかね」

と名無しが聞いていても何のことやら分かるわけもなく

レジアスもまるで名無しの彼が元から居ないかの様に独りごちた。


「あぁ済まない 今のは”他言無用”だからね 分かってはいるだろうが」

と一瞬、射抜くような視線を名無しに差し向け、

睨まれた彼はだた頷くので精一杯だった。



 一方わたしは此処ネグリールの百貨店に足を向けていた

ラヴィアは

あの後すぐレフィキア内に戻って暫く”愉しむ”という

それに、以前植えた植物系の魔物の”種”がようやく幼芽を出したと言っていた

わたしも見てみたかったが

「おねーさまには 歩きだして今の世界の事 あのトラファイドのに伝えてから

”お披露目”するわ ソレまで待ってて」

と念を押されまたもや唇を奪われた


彼女の黒い唇と私の淡いピンクの唇が重なり、お互いを貪りあう


んゅんゅ ......んぁ... んんーっ くち、くち


と湿った音が聞こえ始めて来た時は

わたしは路地裏でラヴィアと、立ったまま濃厚な抱擁を交わしていた 

「ふふ あまり独占すると お屋敷の皆に悪いわね」

とラヴィアは言うと クロの本の中に掻き消えていった

「そういえば彼女現れる時ビヨンの近くでは無かったわ」

とクロに言うと

『ライブ・アーティファクトらはお主の傍に現れるように

マギの流れを改変したのじゃ お主が成長しとるから

少しは以前構築した体系も改変出来るように成ったのじゃよ

少しは、喜べ』

と相変わらず髪に引っ付いていた。

「はいはい」

と返事をすると

『気合が入っとらんな これから買い物か? 』

「そう、フェーリアちゃん用のお買い物かな? 」

『そうか 儂はこのままでいいか 久方振りで今度は儂がお主の髪を独占したいのじゃ』

「いいわ、あまり”吸血樹の根”には触らないでくすぐったいの」

”吸血樹の根”はわたしが意識してないと勝手に触れるものに絡みつき

吸血しようと試みるのだ


 この人外要素は翅や猫の形態と違いあまりにも感覚が生来と異なるので

自身も完全には支配下にはおけなかったのである

『儂には”血”がないからの 別に絡みつくのは構わんがお主が

くすぐったいと言うならそうしよう』

わたしは、ここネグリールの目抜き通りの百貨店を目指す

ネグリール一帯は大規模な遺構群から成り立っているらしく

百貨店もまたそうした遺構の一部利用していて

大きな建物はかなり目立っていてすぐに見当が付いた


 シーアはこの時知らなかったが彼女の財は例の弾性樹脂ゴムの利益配分と

大火蜥蜴サラマンドラの涎”がシーア達がベルゼに戻った頃には王都ギルトスに知れて

有用性が認められこれの利益配分ですでに

最高額リーン硬貨、大樽換算で八百樽分に迄なっていた

これでもこの世界でようやく十指に入ったに過ぎなかったが

 しかし彼女シーアには定期利益配分をという強みがあった

ソレだけ、世界にもたらした影響は大きかったのである。


ちなみにミーアの財はシアズ時代からの貯蓄・運用分があり

シーアよりは多くすでに九百樽分である。

それでもミーアの生活は以前と変わりない普段は質素なメイド服に身を包み

前掛け(エプロン)も過度な装飾は無かったし

食事もこの世界に住む者で有ればごく普通な食事ではある

その中で、ただ紅茶の葉はちょっと高額なバルケモス大陸のリース産を好んで使っていた

空路で各大陸で運ばれる為高価でバルケモス大陸でなければ同じ味が出ないという

大変繊細な茶葉であった。


そんなことは露知らず、シーアはネグリールでも大型の百貨店に入っていく

こういった百貨店は、”渡り人”達の世界では其処かしこに存在するらしい

共同でカネを出し合って色んな店を一つにまとめる

以前は、誰の目にも留まらなかったような零細の店舗までが注目されていた。

この仕組みを考案した渡り人とこの世界の住人との間に設けた子孫は

今や、世界で一番個人資産を持っているという


わたしは、王都ギルトス百貨店外商担当でエリス専属の”ヘイウッド”氏が言っていた事を

思い出していた。


百貨店は、流石に隠秘学オカルトの中心地であり

更に魔道士や魔女達の御用達であった

其処かしこに私にも意味不明な魔具・魔器・魔符の類

常備品の呪物や聖遺物等もある。


 何時の間にやら回復したのかシセラは

「へぇ、さすがネグリールねぇ品揃えが豊富だわぁ」

とふわふわ 漂っていた

彼女は硝子竜の一件で策士としていかんなくその辣腕を奮い

今はまた何時もの彼女の顔に戻っていた。

「ねぇ シセラ 貴女何かほしいものはないの」

と尋ねると

「ふふ、ありがと でもね私にとっては貴女のような存在の傍に寄り添う事が

出来ればソレだけでいいの この感覚はシーアには分からないでしょうけどね」

と何時もの殿方弄りにふらふらしていた


「いらっしゃまいませ、今日はどのような物がご所望ですかな

服・小物・食べ物・調度品に至るまで何でも取り揃えて御座います

此処にない物は彼の大商業地:バルケモス大陸から何でもお取り寄せ致しましょう」

と大商人らしく、控えめなエル族の紳士がわたしに声を掛けた。


「えっ わたし? 」

「そうですとも、銀の髪のお嬢様 わたくし、リュシアスめが 

麗しい銀のお嬢様のお望みを叶えましょう」


 と胸に手を添え執事の様に挨拶をする

「それでは、家具 寝台・棚・椅子・机壁模様の情報がほしいの

どうかしら? 」

「ほほう やはりこのリュシアスの目に誤りは無かったですな

でお使いになるのは 貴女様で? 」

「いえ このよ <<フェーリア出てきて>> 」

とフェーリアを呼ぶ

「はぁ〜ぃ って暑いわおねーさま フェーリアは暑いのはイヤなんだけどぉ」

「少しガマンして 貴女のお部屋の家具買ってあげるから ...ネ」

「えーっ いいの? あのお部屋だけでも破格の待遇ってのに ホントに? 」

「ウソは無し、 寝台・棚・椅子・机壁模様を買ってあげる」

「あ、それなら寝台はレオちゃんの素材でフェーリアが作るからソレ以外が欲しいな

硝子竜レオちゃんの素材はあるでしょ? 」

「えぇ有るわよ 勿論貴女に優先で使わせてあげる」

「じゃあ、他の棚・椅子・机壁模様を買って頂戴♡ 」

「いいわ」

とわたしも首肯。


「お決まりですかな? 」

とフェーリアに彼は手を伸ばそうとして

「私に、触らないで! 」

とわたしの後ろに隠れてスカートをぎっちり掴む

「フェーリア? 」

「こ これは失礼」

と慌てるリュシアス


 わたしは吃驚した 彼の態度に落ち度が有ったとは思えなかったし

人見知り気味の性格とは言え

いきなりの拒否ははどうかとも思っていた。


「ご ごんなさいリュシアス様、不用意にわたしに近づくと凍てついて

氷結してしまいますの 他意はないわ 赦して頂戴」

と彼女は改めてリュシアスに近づく

するとリュシアスの手先に霜が降り慌てて リュシアスは慌てて手を引っ込めた

「そうでしたか それにしても銀のお嬢様はフェーリア様にお近づきになられても

平気なようですね」

リュシアスですら近づいただけで分厚い霜が降りたというのに

わたしは、ほんの少しひんやり冷たく感じるだけだった 


「おねーさまは 特別なの 特別なんだから」

「そうですか このリュシアスに目に狂いがなければ貴女様方は

”人外”の御方とお見受けいたしますが? 」

「そーよ ソレがどうかして? 」

とフェーリアは目を細めた。


「いえ私共の所には色んなお客様がいらっしゃいます

ですが、このように普通に百貨店に訪れる”人外”のお客様は少のう御座います

フェーリア様が氷のたちをお持ちであられることは予想は付きましたが

これほど強いたちの”人外”のお客様は初めてで御座いました。

わたくしめの不用意な振る舞いをどうか今一度お赦し下さますよう」

と頭を下げた


「いいわ フェーリアも言っておかなかったもん いきなり見知らぬヒトに

触られるって嫌だったの ソレよりはやく見せてよ 」

「はいかしこまりまして御座います」

と 外商用だろうか 王都ギルトスの時のように別室に案内される


「そうですね、氷のたちをお持ちな貴女様でしたらこれは

如何いかがでしょう? 」

と示されたのは

雪の結晶が意匠デザインにふんだんに織り込まれた棚・椅子・机を数点、

そして壁模様の型録かたろぐを見せた

「うわぁ ステキね ”昔”は型録こんなのって無かったのに今代は

面白いものが有るのね この家具も可愛いいわぁ

おねーさまこれ買ってよ」

と数点の品を指差した。


「勿論、いいわ貴女の為のお買い物よ ...リュシアス様それじゃこれとこれあとこれも」

とフェーリアが指し示した品を選び購入する。

「お屋敷へはどう致しましょうか? 」

これだけの数と高額な調度品である

大抵の貴族は、自分のお屋敷の自慢と周囲へ財力を見せつけるために

外商担当に荷馬車でこれみよがしに運ばせるのが定石であった。


しかしわたしは、目立つのも嫌だったし何より、屋敷は魔導書の空間内である。

「そうね、わたしにはこれが有りますからお気遣いなく」

とクロの魔法陣を開く 硝子越しの空間に球形のサボン玉の中にお屋敷が視えて

徐々にそれが近づくそしてサボン玉が接触した刹那に開口してレヴィアが下で待ち受ける

「おねーちゃま いつでもいいわ」

「レヴィアお願いね フェーリアちゃんも一緒に行くからね」

「はぁ〜ぃ」

「ここは暑いから早く”レフィキア”へ戻りたい」

と早くも凍てついた”汗”を流す 床に落ちたソレは水溜りの様な霜を作った。

「これは驚きましたな この御本は ”至宝級遺物” といったところですかな? 」


この世界の遺物は

 

神代級遺物(呪物・聖遺物)


 この世界オルティアで最高位の希少性と価値を持つ物(呪物・聖遺物)で

自我が有ったりヒトの姿を取る場合がある

広義ではライブ・アーティファクト/ライブ・オートマト達も含まれる


神代級呪物/ 聖遺物等の呼び方もある


  

至宝級遺物(呪物・聖遺物)


 もう少しで人化出来るほどの能力ちからを秘めている物(呪物・聖遺物)で

大抵は秘匿されていたり古代遺構の最奥部の隠し部屋や討滅が不可能な魔物等が所持している


至宝級呪物/ 聖遺物等の呼び方もある


 

特級遺物


 手付かずの遺構の最奥にあることが多い希に闇競りで出回ることもある

使い方を知らないと侵食されたり魔物に成り果てる場合が殆どで

その成り果てを討滅するとその遺物が手に入る事もある


特級級呪物/ 聖遺物等の呼び方もある



一級遺物


 一般の競りや闇競りで売買される遺物ではあるがこれに擬態した

至宝級/や特級遺物もある



遺物級

 

 普通に、遺構で手に入る武具や防具・オーパーツ・魔器などの遺物

ギルドでも買い取り可能で流通量が最も多い


と大雑把な分類法があり錬金術師でもあるわたしは師であるレフィキアから

その知識を一通り、手ほどきを受けていた


「そうお祖父様が嘗てある遺構で発見されわたしに継がれた御本です」

実際、クローティア(ネクロン)が何者かはシーアは完全に理解していない

そこで何時もの方便を使う


 まさか、連れ回しているこの本が、前史代この世界の神界・現界と魔界と冥界のそれぞれの

覇権を巡り 女神:リーン 旧き円環のウロボロス そして

今は魔導書と小さき少女に変じた 旧き贄のクロウ・クルとは

この時のシーアは夢にも思っていなかった


わたしは、何時もの方便でやり過ごす

「そうでしたか それでは お買上げ有りとう御座いました

人外のお客様の中でも ”至宝級遺物” をお持ちな方はほんの少ししかございませぬ

眼福でございました」

としきりに恐縮していた


 そして買い物を済ませ帰路につく

安宿までは 例の視線の気配も完全に失せて屋台で軽食を頬張りつつ宿に向かう

『まったく儂は 只人の分類から言えば ”神代級遺物” というにのぅ』

と何やら先程 ”至宝級遺物” と言われた事が気に障ったらしい

宿につくまでクローティアは愚痴ていた。


 頃合いは昼を過ぎ夕刻に差し掛かろうとしていて

「あっれー わたしこんなにまで眠っちゃった」

と寝惚けまなこをこすりミーアが起きていた

それと同時にビヨンとロムルスも活動状態に戻る


『おっ シーア様お帰りですか 実は ......とい事がありまして

あっしとビヨンとでミーア様のお目覚めまで此処にいたんで シーア様の方も

大事無いでやしたか? 』

と例の視線の事であろう 早速訪ねてくる。

 

「こっちも、大事無いわ それよりお姉様は? 」

[ ミーアも気付いていましたが睡眠を優先されて、私達が守り手をしておりましたが

向こうからは結局仕掛けては来ませんでした ご安心を ]

「そう、 良かった 後は? 」

『あとですね 其処に書き置きがありやすよ』

ろ伏せてあった書き置きを見ると

ノアから


貴女様のご連絡を受け

今夜準備が整います ネグリール尖塔群螺旋通路先の儀式場にて

闢の時は音連鐘カリヨンと共に


ノア 

自身のマギで著名するものなり


とありこの書状を螺旋通路の守り人に見せろと

追記があった。


螺旋通路がある尖塔は一棟しか無く迷うことは無いだろう


 夕食時も

この話題で辺りはもちきりである

「今夜、いよいよ大賢者ランドルフ自ら陣頭指揮をする ”かいびゃくの儀”か」

「今代で、初めての儀らしいぜ」

「何時もは一つだけの連音鐘カリヨンもこの時ばかりは一斉に鳴らすそうだ」

「わぁ すてき 私楽しみよ」

「けっ また女はそれかよ 何でもステキだのカワイイだの あの鐘はただ煩いだけだろ」

「オトコって繊細デリカシーさってないの? 」

「うるせぇよ オレはオトコだ そんなの関係ねぇ」

「あらら そーですか 私達も呼ばれるから 行こ」

「そうそう オトコってガサツで嫌い」

と二人の若い魔女達。


 やれやれと男達は肩を竦め

「オレは儀に招待されているがな テメェはどうよ」

「ちっ おれは呼ばれなかったぜ 何でもリブス王がお忍びで来るらしいと噂が

あるぜ」

「すげぇ リーテ王妃様やエリス姫殿下はどうすんだ 賊対策はあるのか? 」

「あぁ ソレは心配ないぜ 聞いた話だとな 何度か賊の侵入はあった ...が」

「...... 」

「............。 」

「勿体ぶっていないで早く言えよ」

「それがよ 悉く ”蛇”に喰われたらしい」

「おいおい 冗談はよせ 彼処に蛇いるわけ無いだろ」

「いや それはどうかな 古代蛇エンシェント・サーペントらしきモノを

見たヤツがいる」 

「うへぇ 強力な召喚師か、はたまた魔物使いか、相当な対価で魔物と契約したかな」

「それは、わからん あの城内で不埒な事をすれば何処からとも無く現れてよ

 バクリッ と丸呑みよ 

運良く生き延びられたとしても 手足を喰われて

あとは奴隷共の世話無しじゃ生活もままならねぇらしい」

「五体満足なヤツいるのか? そんな状況で? 」

「聞いた話だと ソイツは五体満足では有ったがな 心の迷い仔 になって

言葉も記憶もすっからかん綺麗サッパリ忘れて ”赤子戻り” しちまって

今は救護院暮らしだとさ」


 ”赤子戻り” とは恐怖のあまり言葉や記憶を忘れ生まれたての

赤子を呈する状態を指すと先程の救護院では言っていた

これでも心の迷い仔の症状としては軽い方という


 ある時、ふとした切っ掛けで正常に戻る場合もあるが狂毒や狂呪術等に依るものは

完治が困難でもある。


 それにそんな状態になって仲間から一緒に連れられて逃げて来ることが出来ただけでもその賊は

運が良かった 大抵は足手まといになる上、戦況に依っては魔物の囮に使われることが

多いので”赤子戻り”の心の迷い仔は滅多に居なかった。   


「うわ おっかね」

「お陰で リブス王は安心して城を空けられるって訳さ

まぁ ...なんだ 嘗ての冒険者の血が疼くんだろうさ」

「あ〜ぁ オレも強え魔物と盟約かそれが無理ならせめて契約してえな」

「お前さんじゃ 目玉の一つはもとより手足でも足らんぜ

まして相手が一方的に気に入って主従を結べる ”盟約” なんざ夢見ちゃいかんぜ

身の丈考えな」

「それもそっか ハハハ」


 と会話が聞こえる

わたしがエリスに与えた”邪眼の守り手の指輪”はいかんなくその能力ちからを奮っているらしい

エリスの”血”の匂いを思い出し吸血樹の根が ザワリ と蠢いた。


「それはそうとエリス姫殿下な タフタル大陸に季節の巡りが一巡するいちの月に渡るそうだ」

「いま ベゼリン学術院だろ」

「だーかーらーさぁ そのベゼリン学術院の修学が終了だとよ あとは 神官の見習いとして

タフタルのルルス聖女様の所に厄介になるとよ」

「ああそういえば リブス王とルルス聖女様って嘗て冒険者仲間か」

「そうそう、持つべきは”縁故”だな おれにもすごい縁故できねぇかな」

「だーかーらーさぁ テメェの身の丈考えなって」

「それもそっか ハハハ」


と似たようなやり取りをしていた

流石は、魔道士は暦の概念があった 錬金術同様、魔道のみち

暦を意識しなければならない

これから行われる ”闢の儀” の日取りや刻もわたしの報告を受けて

妖婆バーバ・ヤガの見立てに拠るモノに違いない


 この世界には、  ”バーバ・ヤガ” と称される職能がある

儀式の執り行いや出立の日取り・暦に覚えがあるものはそれで

事を起こすのに月や季節単位で事を決めていた。

彼女ら独自の占いで最良の日取りを決めるのであり

この世界オルティアでは単なる験担げんかつぎや迷信などではなく

マギの流れを的確に読み術や儀式が最良の状態で行う為の術であり

生活の智慧でもあったのだ。


 大抵は魔女がその経験を活かしこの職能に乗り換える者が多かったが

”男性”もいて彼らはただ単に”老翁ヤグ”と呼ばれてはいたが

非常に数は少なかった。


「うふふ、 今夜は儀にはもってこいね 大賢者ランドルフには

優秀な妖婆バーバ・ヤガがいるのね あの日和見のランドルフがねぇ」

と殿方弄りに飽きたのかシセラが近くに来ていた。


そうこうしているうちにノアの使いが迎えに来ていた

「あーっ いたいた シーア様 わたくしめは ”リスロ” ノア様の使いの者です

貴女様には闢の儀に先立って来ていただきます

ノア様の書状はお持ちで? 」

と少年のエル族が息を切らしやって来た。

「えぇ、あるわ わたしとミーアお姉様・ビヨンでいいよね」

「勿論ですとも この書状は御三方宛ですよ」

とニコニコ顔。


 わたしとミーア・ビヨンの三人は黒のワンピースドレスに黒のフリルソックス

と黒ずくめで既に待機していたのでそのまま彼の後に従う。


「何も、”黒ずくめ”である必要は無いですよ客人は皆彩り豊かな衣服ですよ

ボクは儀式の一員ですのでこんな恰好ですが」

と彼は裾が足元迄ある長いローブを着込んでいて時折

裾を踏み蹴躓けつまずきそうになっていた。

「裾の長い衣服って窮屈で慣れないなぁ」

等とぼやいている。


ともあれ、例の螺旋通路で件の書状を見せ結界が一時的に解かれ先へ進む

ノアに案内された時は陽の光がまだ高かったので景色を一望出来たが

今は陽も落ち 漆黒であり空には丸い大きな星 ”月” が浮かんでいる。


方向感覚を失いそうになりながらも天辺に到着

ノアとランドルフとアレ以来の邂逅を果たす。

「あら、お帰り シーア 首尾は上々のようね」

「えぇ、お陰様で滞り無く完遂しております」

と軽く報告をする。

 

「今、儀式の手隙にランドルフが来るわ」

とノアが言うが早いか

見知った半人半魔のローブ姿の男性がやってきた。

「これはこれは シーア様 前置きはなしですぞ

此度の成果は今代の歴史に刻まれ子々孫々まで、語り継がれるでしょう 

 尤も貴女様は その子々孫々の代まで御健在であられましょうが ハハハ

闢の儀も大詰め 早速では有りますが ”蒼の宝珠” をこれに」

と 差し出された 有翼馬ペガサスの翼膜で製作された紙 ”聖皮紙せいひし” に

二つの ”蒼の宝珠” を載せる

「おぉぉぉーっ 素晴らしい 皆もよく見ておくんじゃ

間近で見られるのは今の内じゃぞ語り継ぎの肴にしっかり見ておけ」

と周りには既に多くの人だかり

その中に濃い臙脂のローブに金の紐飾りフードで覆っては居たが

ただならぬ威圧感を放つ人物がいる

お忍びの”リブス王”その人であった。


 彼は、片目を瞑り人差し指を口に当てる身振り(ジェスチャー)をする

わたしとミーア・ビヨンも ”軽く” 会釈をして彼の望む通りに

無視を決め込んだ 尤も彼を知っている者であるなら

存在自体が気にはなるのだが

わたしは、大氷狼フェンリルとの邂逅、そして硝子竜レオフィールとの今生の惜別

を報告した。

「すまんな、其方には辛い役割を背負わせたな じゃが、闢の儀で封印地域”ギアトレス”の

解放もまた 我らの悲願 

彼の竜の意思を乗せ悲願が今成就する 其方は大いに誇って善い事なのだぞ

一つは彼処の櫃にそうしてもう一つは 彼の地 ”ギアトレス” にお主が運び

”悪鬼の尻”にもうひとつを設置するのじゃよ

さすれば往路と復路が完成の運びとなる

今は、ここからの往路のみじゃがのぅ」

「往路? 」

わたしは気になっていたのだ 何故 蒼の宝珠が対になっているかを。

「そうじゃ そこで次の専属依頼じゃ あぁ一旦先の専属依頼は完遂ということで

ギルドには滞り無く報告しておこう 

専属受付のもたんまり報酬が入るだろうてな

次の依頼は 

””彼の地で悪鬼の尻に宝珠をはめ込み 其処の為政者と繋ぎを作って欲しい”” のじゃよ

幸い旧い文献によると共通人語で会話が成立するようじゃ

”翻訳の魔器” は必要ないとおもうが ほれこの耳飾りを餞別代わりにやろう

ミーア様は既に耳飾りがあるようなのでな 貴女には腕輪じゃな ビヨン様はどうかの? 」

[ ランドルフ様 私・ビヨンには必要ありませぬ アルカーナより

世界オルティアに存在する共通人語はもとより及び希少言語に至るまで 

翻訳可能で御座いますので、お気遣いは不要で御座います ]

「優秀な 魔導のお嬢さんだ これらの魔器はお主達のマギで動作するでな

身に付けておるだけで善いよ」

「ありがとうございます ランドルフ様の命必ずや」

「そう言うと思っておった ...で復路何だがの宝珠の設置前は 多分ではあるが

かの地の転送陣を使うことになろう

”悪鬼の尻”も文献に名があるのみでな流石に場所までは分からなんだ

復路は永久とこしえの懐のように数昼夜は転送陣が使えないと儂は見ておる

良いな? 」

わたしは安心した何かの用向きで此処に来られないとなればどうしようかと

不安だったのだ。

「はい、 先の繋ぎとはわたしが五大陸の特使としての役割も担えと? 」

「察しがいいな もとよりそのつもりじゃよ ホレ書状もある

”竜の瞳”の面子総ての著名済みじゃ」

とそれぞれの王印で封蝋した紅の書簡を受け取った。


 竜の血で染めた赤い書簡は大陸間外交の公式書簡でありそれぞれの

統治者の言葉でもある。


わたしは彼の地の為政者と外交交渉をして

各大陸の代表としての役割も背負う事になった。

今まででの討伐とは違いわたしの言動でいくさも起きかねない

そんな重圧が、ちょっとショーツを濡らしてしまい

さり気なくお手洗いに向かいショーツを替えて何喰わぬ風を装う。


 人だかりは止むこと無く二つの宝珠を囲んでいて

お忍びの彼の王もそれを触ろうとしてランドルフになにやら小言を言われていた。

よく見ると 傍に六角柱の緑柱石製の櫃がありその中央にちょうど宝珠が収まる

空間が見て取れた。

 それに嵌め更に祭壇中央の記念柱オベリスクに収めるようになっているらしい

灯台の火の如く、碑文に有ったようにそれは二つの地を結ぶしるべとなるのである。


「ババ様、頃合いはいががですかな? 」

「ヒヒヒッ このババが善いと言うまで 闢の儀 は初めてはならんぞ

儂にも見せておくれよ 輪廻の向こうで皆に自慢するでのぅ」

「はいはい ババ様はとうに定命のことわりなぞ無いでしょうに

このランドルフを茶化さないでくれませんかね」

「フン 鼻タレ”小僧”めがいっぱしの口を聞きおおってからに

とてもあの日和見のランドルフとは思えないねぇ」

「いやぁ、まいったなぁ」

とランドルフと腰が曲がり杖には魔物や人の頭蓋が多数ぶら下がり

腰からも長い髪の毛が付いたままの頭蓋を結わえたボロのローブを纏った

バーバ・ヤガがいた

何時の間にやらバーバ・ヤガがそのしゃがれた声で


「ヒヒッヒ 珍しい者見つけたぞい 

お前さん 造られしヒトの似姿たる ”ホムンクルス” だね

ババのまなこは誤魔化せないよ」

と難なく看破した者がいてわたしは、しゃがれ声の主に向かって思わず構えてしまった。

ミーア・ビヨンもピクリと反応する。


「おっと、このババを虐めないでおくれよ 儂はなんもお前さんにはしとらんじゃろが」

「ごめんなさい ババ様 わたくし・シーアがまだ未熟故のご無礼で御座いました

お赦しを」

「フッフフ よかろ 気にはしとらんよ オナゴの躰に魂が二つ一つは ...おやおやオトコの魂

もう一つは ヒッーッヒ 獣が一つ これ又稀有な人外さね

こんなの見たことないさ しかも上手く調和しとるではないか


 このババがそんなお前さんに餞別をくれてやろうかねぇ

珍しいモノを拝ませて貰ったお礼だよ

彼の地に入ったら ”世迷いのリベランナ” を訪ねな 儂と同じバーバ・ヤガだよ

それともう一つ 彼の地の名は ”冥骸都市:ユクントス” 魔神:”ァタウェー”の

邪法実験の影響の、成れの果ての末裔が暮らす都市!! 」

「”冥骸都市:ユクントス” !! 魔神:”ァタウェー”!! 」

ちょっと大きめの声を思わずあげ、ニ・三人が注目してしまう。


「シーッ 声が大きいよ まぁ お前さん達でも十分渡り合える連中さ 

”観光” 気分で愉しんできな」

わたしはバーバ・ヤガの顔が気になり無作法を承知で覗き込もうとした ......が

「人の顔を覗こうとするんじゃないよ ......容姿はそうさね 

儂も姉もそうだが、こっちの言葉で表現するなら ”異形者” ってとこだね。

その時のお愉しみにとっときな

”ァタウェー”の手がかりもヤツが掴んでおるでなぁ ソイツは儂の姉でね 

”ケレス” は息災であると伝えな それで万事、ことは上手く運ぶ」

この時の彼女のしゃがれた声には濃い哀愁の空気が纏った。


 普段の人々があまり関心を持たない 満天の星々を見る仕草をする

ほんのすこしわたしと同じくらいのかわいい唇がチラリと見える

口角が上がっていた ちょうど頃合いらしい。


「うむ そろそろ儀を始めるよ もうあっち行きな シッシッシッ」

悪意は篭っていない声で追い払う

その時、手がチラリと見えたが彼女の手はわたしと同じくらいに若く

想像していたしわくちゃな手ではなくみずみずしい肌であった

 顔全体は終始フードに隠れていてとうとう確認する事は叶わなかった。


「さぁさ これで ”蒼の宝珠”も 見納めだぞ描き起こし損した者は居ないかな

子々孫々にも残る絵だ オレの名入だぜ 安く売るぞ」

「オレにもくれ いや儂にも 私にも頂戴!! 」

と絵描きが描き起こした宝珠の図版は飛ぶように売れていた。

こうした大規模な儀式や珍しい物品が有る場所には 後の世に伝えるため

主催者が呼んだ絵描きが一人や二人は必ずいて 図版を販売していた

彼らも自分の名を売ろうと必死なのである


 わたしが対の片方を特別な清めの術をかけて保護した物を

例の聖皮紙せいひしにくるんで

小鞄ポシェットに持っていた事は内緒である。


 バーバ・ヤガが特別な術を施した後、設置するまでは包を解いて置いてはまかり成らぬと

念押しされていたのである。


 誤って包を解いて地面に置こうものなら、たちどころに”定着”してしまい二度と外す事も

破壊する事も叶わない そんな一度きりの術だからである。


”悪鬼の尻” についてはビヨンも調べたがランドルフ以上の情報は得られなかった

おそらく彼の情報元も同じなのだろう

あとは”彼の地”でないとわからないとの事。

そんな話が先程バーバ・ヤガと話す前にわたしとランドルフとで交わされていた


 もう一方は、特別な清めの術をかけた物が既に緑柱石の六角柱の櫃に収められ

その櫃を記念柱オベリスクに設置するところである

緑柱石の六角柱の櫃を介したのマギの制御をたやすくするためと言う

以前、魔女メトリエーテでみた魔道転換炉のコアの様に使うのだろう


 連音鐘カリヨンが別の尖塔群から幾星霜振りに一斉に鳴り響く


〽 リンゴォーーン・リンゴォーーン


とまるで詩を詠むが如く美し音律を奏でる。

この時、

「煩せぇ」

と安宿で文句を言っていた男性も口をあんぐり開けて呆けていた。

記念柱オベリスクを取り囲み魔道士・魔女達が

円陣を組み 呪文スペルを唱え始めた

その中に、ノアやラトアも居たのは言うまでもない。

この音律は儀の調子を取り昂ぶるマギを彼の地へ届け

途を切り開く楔となりつちとなる。


第一の儀 発儀


((星魂よ 春秋分点の天幕を汝の其方の闢を開墾せり

ヘズーの袂・ヘッグの子宮みなもと満ちて

巡り巡る季節の巡り、蒼き竜の御霊のしるべあれ

王衣を纏い古代蛇の鎌首を差し向けん))


 これで、多数の魔法陣が記念柱を取り囲む

ハーバ・ヤガは 乳香・沈香を焚く 煙はマギの流れに沿ってうねり絡みつき

古代蛇の如きを呈する。


第ニの儀 しるべの儀

 記念柱を中心に魔道士・魔女達は足元に陣を浮かべ

左廻りに三、右廻りに九ゆっくり廻る。

尚も文言は続く


((黒きパン、白きパン赤き葡萄の実

悪鬼を鞭打つ黒き荊棘いばら、白き黒き荊棘いばら 

十重とえ二重ふたえの天の蓋

叩くは五十頭百手魔人ヘカトンケイルの猛き拳なり))


 香の煙は記念柱に徐々に収束されマギが集束していく

このお香の煙は場を清めるとともにこうして普段見る事が出来ないマギの流れを

視覚化する目的も兼ねている。

集束したマギはネグリールより北西遥か上空を指し示していた


第三の儀 みちの儀


((叩音ノック鐘音ネル届くは天の蓋・地の鍋

獅子の咆哮・駿馬の嘶き礼賛せり

魔界の悪鬼か神か・猛る喇叭らっぱを鳴らし

毒蛇アスプを導かん))


 極相クライマックスである 今だみちは安定せず猛り狂う

しかしいよいよ儀は最終局面へ 魔道士・魔女達の躰から

汗がきらめく光点となり、淡く彩り鮮やかな陣に舞い散る

人々は、この汗をとっておきの羊皮紙に受け止めようと

結界間際まで手を伸ばしていた

こうした特殊な儀式中の、特別な能力ちから有る魔道士・魔女の汗は

羊皮紙に染み込み能力ちからある魔紙ましと変わるのである



第四の儀 闢の儀 定着の儀


((祈願・誓い・請願・祈祷・対話・嘆願・恋歌

我らの闢を今此処に請い願う

春秋分点の天幕の綻びは扉となり途と成す

銀の風・銀の瞳 か弱き処女おとめの足先は

汝の袂に向かわん

我らの言霊ことだまを以って、

永劫のみち永遠とわみち

えにしを繋ぎ あたわん

そうあれかし

...... ... そうあれかし ......そうあれかし)) 


最後にランドルフ自ら大杖を掲げ


((今、此処に闢は開かれ我らの

祈願・誓い・請願・祈祷・対話・嘆願・恋歌 成就せりーっ!!! ))


と大声で叫ぶやあれだけ荒ぶっていたうねりがピタリと止みレオフィーと同様な

透明な蒼い光がピタリと安定しそれと同時に

ランドルフ以下数十名の魔道士・魔女が地面に崩れる


 この瞬間、幾星霜も閉ざされた未知の地 ギアトレスとベルゼに初めて

小さな綻びが出来、みちが開通したのである


 補助や見習い達が慌てて駆け寄り介助するが生命いのちには支障が無いようである。

対してバーバ・ヤガは

「ふん、ヒヨッコの癖によう成し遂げたわ 少しはヤツも成長したということかの」

とあれだけ儀式の中心的な立ち位置にいたにも関わらず 足取りは変わらず

相変わらず腰を曲げランドルフに付き添っていた。


わたしも、このような儀式は当たり前だが産まれて初めてである

顔が火照っていてパタパタと手で仰いでいると


安宿に迎えに来た少年が書状を渡し

「これはランドルフ様より 闢の儀が終了したら シーア様にお渡しするように

仰せつかっておりまして どうぞ」

と言ってわたしのマギに反応して二つ折りが開く


 これは特定のマギに反応して自動で開き文言が浮かび上がる

私信の術の一つである


これには


(((この書状が貴女の手に渡ったということは、私:ランドルフが無事 闢の儀を終え

たことの証である)))

とこのような書き出しから始まって


(((闢の儀は 儂も初めてて暫しいとまを貰うことになるだろうノアも同様じゃ

儂よりは早く現場に復帰出来るがな

あちらへの出立はいずれの日取りでも問題は無いはずじゃ

貴女の大きな目的 魔神:”ァタウェー”の討滅には

大規模討伐隊レイド依頼もせねばならぬだろうしな

ギルドへの報告もあろうし準備もあろう

例の硝子竜の素材は儂も是非みてみたいのでな ソレは後ほどでお願いしたい

いとまのあとは リブスとルベリト大岩礁帯に向かわねばならん 例の”大海嘯”が

ここのところ頻発しておる ヤツ(ケモール)にとっても死活問題であるし

訳あってヤツも簡単には動けぬ身でな儂達から出向くのじゃよ

挨拶もなしなのは貴女には失礼なのは重々承知しておる

赦してくれ給え

後のことは早々と現場復帰出来るノアに尋ねるが善い

彼女は優秀だからな よろしく、頼む)))


と記してあり予めこの書状をしたためていたらしい 彼らしい用意周到さである 

ミーアもビヨンも同じく目を通す クローティアは

『儂はお主についていくだけじゃ』

と書状には目もくれなかった。


「ありがとうね ”リスロ”君? かな これお礼ね」

と子供の小遣いにしてはちょっと色が付いたおカネを握らせた

「ありがとう シーア様 ノア様はおそらく二昼夜後くらいには現場復帰出来ると思います

シーア様は例のお宿ですか? 」

「えぇそうよ 出立までには彼処ね それと トノベルの 蒼の金魚亭 の精算はできるかしら? 」

 サオリさんには悪いが 今度は此処を一時的な拠点にセねばならなかった。

「えぇ出来ますとも 宿の組合ギルドがありますからね お代は遠隔地払いだと

少々お高くなりますが ついでに伝聞も出来ますよこれもお代が必要ですが? 」

とリスロはこういうことが慣れていいるのであろう てきぱきと答える。


「それは、助かるわ ”サオリ”さんにお礼言っておかなきゃね」

「あっ シーちゃんそれ私がやっておくわ シーちゃんはギルドの準備があるでしょ

私にも何かやらせてよ

”昔”から何でも一人でやろうとするんだから」

「あ ごめんね じゃお願い」

「何言ってるの いいに決まっているじゃない 謝らないでよ」

と大きな双丘に顔を埋められる。

”同姓”のサボンの甘い香りがほのかに鼻をくすぐった


 黒のワンピースは豪奢なレース・フリルで彩られ薔薇の刺繍が施してある

相当、衆目の目を引いていたのかねっとりと舐めまわすオトコの下衆な視線が絡みついて

少し嫌な気分になった。

(以前は、あまりかんじなかった”オトコ”からの視線が儀を見学してから

感じられるようになっているわ)

 纏う空気はすでに完全にオンナノコの物に成っておりそれを改めて

わたしは男性からの視線という感覚で実感した。

一連の光景を見たリスロは顔を真っ赤にして尖塔群へ駆けていってしまった。

(あぁわたしも以前、あんな反応したっけな)

わたしは、懐かしいような感覚を他人事の様に感じていた。


開いたみちは、小さな綻びであるがシーア達に大きな変化をもたらす


ルナティアの居城で... マリアージュの仮宿で... ハデス王の居城で…

そして 冥骸都市:ユクントスでも... 。




「えっ 此処暫くパスが通っていなかったのに何が起きた? 

ふるもの女が報復に来るわっ!! 」

... 


「ふふふ とうとう開いたわね ねぇヴェネ? 」

「あのかしら ねぇマリア姉様ぁ? 」

「んんっ あぁぁん そうかもね オレ達がこの状況に遭遇したってことは

何かの縁かも知れんぜ なぁヴェネ? 

この世界オルティアを引っ掻きまわして

遊ぼうぜ なぁ」 

... 


「ハハハ 今一度あの我が宿敵を...」

... 

「ほう、誰かは知らぬがとうとう彼処の封印を破りおったか 

一度邂逅の機会を持ちたいものよ なぁシトラ・ミューリ

フォルネウスを至急呼べ」

... 


「おねー様の言うこと ホントだったわ」

「だから言ったじゃない ほーらまた”下のおくち”がだらしない事になってるわ」

「だってだって」

「フフ カワイイ

「きゃん おねー様ったら」


「だれか 早く......を開放して もうこんな玉座はいやぁ」


「この魔神:”ァタウェー”の袂まで辿りつけるか 未知なる者よ我はまっておるぞ

待つのは慣れているからな フハハハァ」


其処かしこで仄暗い嗤い声がくすぶる。


 そして、ベルゼに生臭い魚の干物に紛れ込んだ 綺麗に沐浴の後サラは 双丘から

闇蚯蚓を放つ 今や彼女は王や女王を手懐けベルゼ全土の闇蚯蚓を掌握しつつあった

シュリエルはこのことは知らない あれだけの仕打ちを受けた後である

また難癖を付けられるのが怖くて言い出せなかったのだ

「さぁ サラの蚯蚓ちゃん達 裏切り者の”ヤンス”を見つけて頂戴」

とあれほど嫌悪していたのに 胸に一匹残った独特の土臭い群青色の生き物を

愛おしそうに頬ずりをして接吻をするのだった。


 酒場で、シーアからの命令もなく此処暫く安穏としていたヤンスに群青色の悪意が

迫りつつあった。




次回 65話 忍びよる悪意

お楽しみに

ハデスとゼルス セレーシアとトレーシアを活動報告に

掲載しました

みてみんへ飛びます

細かい語句の修正は有るかも知れません


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