61話 ギアトレスの万魔殿
お待たせしました。
祭壇に置かれた大型の牛型魔物サキュホーンの肉の塊を前に
一段と濃い吹雪の塊が次第に狼の姿を形造っていく
わたしは、身構えるも剣呑は空気は感じれられない
やがて大きな一頭の狼の姿となり
伏せてシーアの眼前に大きな鼻面を突き付けて
リブス王と邂逅したときより重い声音が降り注ぐ
{一つ、問答をくれてやる 冥闇の獣ノ娘
我は、氷雪を産み、氷雪を育み 氷雪を支配し大地に傷痕を残し
数多の生けとし生ける者の苗床を拵えて来た
かの大氷狼 と知っての来訪か?
我に仇なすか、対話かどちらを望む? }
今、わたしの眼の前に対峙しているのは古来より氷雪の支配者としての
地位を、揺るぎなき物にしている かの大氷狼である。
氷爪は身の丈半分程、巨大な口腔は凍てついた氷穴の如くさらにズラリと並んだ
牙は氷穴の巨大な氷柱を思わせる。
ブワー
と吐く凍てつく吐息は、ネグリールで簡素なコートともう一着こだわり抜いて選んだ
豪奢なケープコートを通しても肌に突き刺さった。
「 冥闇の獣ノ娘? 」
先程からわたしに向けられていた 聞き慣れない単語に わたしの ”吸血樹の根”
ふにりふにり と反応する 後ろに控えていたライブ・アーティファクト達も ”吸血樹の根”
をみてとって少し怯えている。
{そうとも、お前の内なる心に棲まう げに恐ろしき魔物よ なぁそうだろ
そこに侍ている 遺産の少女共。 }
ブフリ
と一段と強い冷気が一同を撫で付けた。
「ふん、わっ私達はねぇ 冥闇の獣も 凄く怖いけどそれだけでシーお姉様に付き従っている訳じゃ
無いわ 先ずこれを訂正して! 」
と三人の少女達は口を揃えていう
{ほう、シーアとやら随分とまた懐かれておるのぅ
それに遺産の少女よ訂正するのは時期尚早というもの
我が見極めた上で謝罪しようではないか}
それには、わたしは答えず言の葉を紡ぐ。
「... 先の質問に応えて! 冥闇の獣ノ娘って何の事? 」
{これについては我も畏れおおくこの口からは詳細は言えぬ ...が、心配は無用
お主に悪意を向けるモノ、仇なすモノを悉く喰らう魔物よ いまは静かにお主の魂に寄り添って
おるし それが、至福とみえる。 いま我の口から語れるのはここまでだ 赦せ}
と先ほどまでピンと張り詰めていた巨大な箒のような尾を怯えた子犬がそうする様に
股に挟み込んでいた。
冥闇の獣とは何者なのか、私は気になっていた。
『 なぁ 大氷狼とやら 冥闇の獣についての問答はこれくらいにせんか 互いに
”利” があるとは 思えんが? どうじゃの 』
とクローティアまで明らかに話題を逸らそうとする。
「ねぇ、貴女達もなんか知ってるでしょう? 」
とライブ・アーティファクト達を見れば
「しっ、知らないもん 知らないったら知らないんだから
此処は ”寒い”しイヤよ! お屋敷へ還る」
と明らかに狼狽の色を見せ
本に変じたクローティアに飛び込み掻き消える。
ミーアとビヨンは事情を知らないのかきょとんとしていた。
{そのようだな、シーアとやらいきなり、お主に立ち入る不躾な真似をして済まなかった
...で改めて問おう
此処へは 何の用件か? 我に対する狼藉? それとも対話? ...か }
「そうね、その二択しかないとすれば 後者よ アナタには ある”お願い”をしに来ただけよ
領域を侵すつもりも無いしまして狼藉などとは考えていないわ」
わたしは、対峙するつもりは毛頭なく、
「蒼の宝珠 を貴男より授かれと 大賢者ランドルフ の伝手で此処に来ただけ
アナタの安寧の邪魔はしないわ」
{ほう 蒼の宝珠 とな ランドルフの奴めいつの間にやら”大賢者”などと名乗るようになりおったか
あの 日和見のランドルフがのぅ フハッハハハ これは愉快}
どうやら、大賢者 ランドルフとは既知の間柄らしい。
{ふふ、ソレを求めて何とする とういうのは野暮な問答か
アヤツのこと、 大方、封印地域 ”ギアトレス”への導の算段でもついたのだろうて
よかろう くれてやろうではないか}
と大氷狼は、大口を開けて長い舌をクルリと巻き込みふただび伸ばした先には
シーアの頭より一回り小さい透き通った爬虫類の目のような物を差し出した。
{これが 蒼の宝珠 よ 但し授けるには条件がある これが叶うなら ”もう一つ”の
宝珠と共にお主にくれてやる好きに使うがいい お主が何の為にこれを欲しているかは
大賢者ランドルフの事よ 先の”ギアトレス”への導にでもつかうのだろうよ
彼奴のこと、これ(蒼の宝珠)を使うとは考えたものよのぅ 我は考えも及ばなんだ}
と目を細め長い鼻面に皺を寄せ どんなに凍てついていても決して凍る事のない
”涎”を垂らす。 垂れた涎がそのあまりの冷気故に
触れた雪をさらに凍てつかせ パリリパリリ と細かい氷の粒と成り舞い散らせた。
「いいわ、このシーア 貴男の試練を受けましよう このわたし自身に賭けて! 」
{ほう 言いきりおったな 自身を担保にするとは 良かろうて
では、教えよう 此処より少し山頂に向かえば入り口は小さいが中は広い氷穴に着く
其処に囚われの身をとなっている 我が主 遺産の少女 ”チフェーリア” を
救い出してみせよ そうしたらお主に侍ている 遺産の少女に先の発言の詫びを
いれるとしよう。
そして同じくそこに居座り巣食う硝子竜 ”隻眼のレオフィール” を見事討ち果たして
見せよ ヤツとは長年に渡り領土の覇権を争ってきた因縁の相手よ
片目を奪いヤツを氷穴に追い込み、入り口を決して解けぬ氷で塞ぐことは叶ったが
わが主もまた同時に囚われの身になっておる。
今代、我とヤツとで再び此処でぶつかり合えば ...後は説明は要らぬだろう
全盛期のヤツなら例え今のお主と三人の遺産の娘では叶わぬが
片目を喪って能力が疲弊しておる 今が好機よ ヤツの能力は
その眼にこそ宿るのでな ふふっふ
積年の因縁が終われば我は氷穴の中での
安穏とした隠居生活が待っておる こうして衆目に晒されなくても済むしのぅ
くれぐれも頼み置くぞ 冥闇の......いや......シーアよ...銀の娘。}
...... ......
凍てついた空気をも忘れさせるような沈黙が辺り支配する。
「はい、 承知いたしました 大氷狼様 」
わたしは、真摯な語気を以って答える。
名無しの村はもとより セネストリ の人々を彼らの戦いの余波に巻き込み
多くの 心の迷い仔 を産むことはわたしとしても善しとしてない。
{良かろう、これはまだ空の容れものにすぎぬ ヤツの討滅が叶えば
碑文から 四行詩が両の眼に収まり 転送の導となろう
そして 我は氷穴に住まいを移す事も叶う、さすれば冷たい風も幾分和らぎ
名無しの村にも春節の妖精の恩恵に、少しは預かれるじゃろうて ハハハ}
(名無しの村が、極端に寒く砂漠帯に接していながら
温かい風の恩恵をうけなかったのはこのせいだったのね。 )
と得心が行く。
差し出された 蒼の宝珠を受け取り小鞄にしまい
立ち去ろうとした時
大氷狼が突然問答を放った。
{時に、シーアよお主の依るべは何か? }
ただそれ一言であった。
それにはわたしは背を向けたまま偽ざる気持ちをぶつけるお互い人外の身
敢えて、偽りを言うことに意味は無かった。
「内なる獣を宿そうとも わたしはわたしを信じるのみ わたしの依るべはシーア自身よ」
とわたしははっきり淀みなく答える
例え皆が恐れる冥闇の獣を心の中に飼っていようともわたしはわたしなのだから。
{自身の内なるモノを信ずる......か 依るべを神共に求めぬか ふははは
愉快なヤツ...愉快なヤツ 内なる獣でさえも信じる......か 後は、何も問うまい
さぁ、己の信じるモノにしたがい己で証明して見せよ! }
と後ろから声をかけられ激しい冷気が背中を押す まるで、大勢の大衆に鼓舞される
英雄の面持ちで彼 大氷狼が大きな前足で指す方に歩いて行く
刻は、今より少し遡る。
朝、目を覚ますと何故かミーアやビヨンはポカンを口を開けて呆けていた。
「んんっ、 アレ皆どうしたの? 」
『 お主よ姿見で見てみ? 』
クローティアに言われ姿見を見るとわたしの髪は一変していた
コトンの様に毛先がクルリとカールして、デカラヴィアの様に淡い水色のメッシュが入っていた
そしてところどころに左のひと房とは違う髪がウネウネ動いていた
しかも、前髪まで最初とは変わっていてゆるくウェーブがかっていたのである
「きゃは〜ん おねーさまステキィ それ”吸血樹の根”よ」
と突然、声を掛けたのはラヴィアであった。
「”吸血樹の根”? 」
とわたしの左のひと房とは違う髪を指していう
「そそ それすごい能力があるんだからラヴィアのなんかよりずっとよ
すごいわぁ いいなぁそれぇ と彼女の髪に紛れている茨を”吸血樹の根”に絡めて来た
「あぁぁん いやぁ くすぐったいわそれぇ」
と思わず声を上げてしまう。
「流石、おねーさま ラヴィアはねぇ 今すごい能力を込めて絡めたのよ
普通のヒトならねぇ 骨のニ・三本は無くなっててもおかしくないの
それをくすぐったいなんて」
とさらりと怖いことを言う
「ねぇ所でおねーさま ”吸血樹の根” ミーアおねーさまに興味があるみたいよ ほら」
とラヴィアが指し示すと 髪がふにりふにり とミーア目指して動いていた
そういえばやたらと吸血衝動がこみ上げてきてどうにもならなくなっていた
新しい変化が吸血衝動を刺激したらしい
「えぇ、わかっているわ シーちゃん優しくしてね」
と”いつも”の様に髪をかき上げてお食事の用意が整うとわたしが口を付ける前に
”吸血樹の根”がするすると ミーアの服の襟元から中へ入っていく
そして
「あぁん シーちゃんこれ何? 」
と言うがはやいか 髪が赤く染まっていく そして”吸血樹の根”の名にふさわしく
血を吸い取りはじめ甘い香りがわたしの鼻をくすぐる
そして わたしも小さな口で負けじとミーアの首元から血を飲んだ
この頃やたらと”血”が美味しく感じられてならない。
三房の吸血樹の根は相変わらすウネウネ動いてミーアの血を堪能していた
んっっん と
つーーっと赤い筋が私の口からも垂れてそれを指で掬い淫靡な仕草で舐めとる
「うわぁ おねーさまって 何てステキなのかしら」
とラヴィアといつの間にやら傍に侍っていたコトン・レメテュアはうっとりとわたしの
食事を眺めていた。
『おいおいシーアよミーアが倒れるぞい そろそろやめんか』
と珍しくクローティアがたしなめたその時わたしの意識が遠くなった。
『『ふふっ クローティアよ 心配するでない 妾もな小奴の血が
美味しゅうて堪能しておるところじゃ死にはせぬよ 安心せい』』
と急にシーアが口調を変えてしゃべりだした
『おっ お主は!? 何者じゃ この儂が及び腰じゃと』
とクローティアをみればガタガタ震えていて
気配をいち早く察したコトンやレメテュアもさーっと
ラヴィアと一緒に部屋の隅に下がりがたがた激しく震え狼狽の色を見せた。
『『 妾はなこの娘と同化しており魂に寄り添うモノ ”冥闇の獣” よ
小奴が誕生した時また妾も同時にこの世界に誕生せしモノ、ヒトの手に造られし”魔物”よ
小奴が男の時にな 揺り篭の中で
この少女のホムンクルスと同時に生まれ、そしてこのホムンクルスに吸収され
”能力” の始原に成ることを選んだのじゃ 』』
と重苦しい口調で語る その目はシーアが激しい怒りを見せた時と同様
細い爬虫類の様な虹彩に変じていた
「おっ おねーさまは? 」
と三人のライブ・アーティファクトの少女はおそる恐る血を吸われ気を失っているミーアの
近くに寄よるも その恐ろしい気配に 素早く頭を床に付け
スカートを床に丸く円を描かせ額をつけたまま
「畏れながら ”冥闇の獣” 様 今、 シーアおねーさまは何処にいらっしゃいますか
お答え願いますよう」
と声が震えつつもハッキリと問うた。
『『 心配は、無用じゃ遺産の娘よ シーアの意識はちょっと眠っておるだけじゃ
急な変化についてこ来れぬのだろうて
この妾もこのシーアの器がようよう整ってようやく、表に出てこれたのでな 』』
と ”冥闇の獣” は目を細め穏やかな顔と声で自分の髪を満足気に触りながら語った。
『『 妾は、もうすぐシーアの意識下に沈む
真なる旧き贄の蛇 いや、今代はクローティアと名乗っておったかの
そして遺産の娘達よ 妾の存在は他言無用だぞ
何とはなしは分かってしまうだろうがな
そして、魔導の娘もお主もな シーアは心根の優しいやつだからな
決して ”本気” で怒らせる様な真似だけは赦さぬぞ
その時は妾も”表”に出てくるやも知れぬて ふふふ 暴虐の限りをつくしあらゆるモノを
貪り喰らうてやるわ 』』
と艶然と ニィーーッ とクローティアでさえ心底恐れる笑みをこぼしこんな事をのたまった。
所で ”旧き円環の蛇” のヤツはどうした? とんと気配を感じぬが 以前トリンデで
似た気配を感じたがの 妾の思い過ごかの
この器も今の様に整っておらなかった故かも知れぬが 』』
と南のトリンデの方に鋭い視線を向ける。
クローティアは、覚悟を決めて言の葉を出した。
『 そうかお主は儂の真の呼び名を看破しておったか? 』
『『 ふふ、旧き贄の蛇たるクローティアよ ソナタを看破することなど児戯に等しいわ 』』
んんーーっ
と片足をフリルのショーツを見せつけるように抱えもう一方の脚をだらりと下げる
ここで、クローティアは、この世界に存在してから初めて床に足を着き 冥闇の獣
に跪いて、だらりと下げた方の足の可愛いパンプスに無言で接吻をした。
『『 お主がそのような態度を見せてくれるとは思ってもいなかったぞ 』』
とクローティアを起こし抱きよせ 頭を母親が幼子にそうするように撫でた
クローティアは看破された事は否定せず、そのまま言葉を継ぐ
『 うむ、アヤツ (旧き円環の蛇)の行方は今だ知れず この儂がシーアに、
明確にそれ(目的)を教えていないのは
せっかく可愛い少女の身になったのだ この世界を愉しませてやろうと思うてな
小奴はシアズの頃は研究漬けだったらしいからの ソレばかりではつまらなかろうて
また、私事であるこの儂の目的でシーアを縛りたくないのでな 』
『『 全く、お主にしては殊勝な心がけではないか 僥倖である この話は此処だけだぞ
この魂に、変な目標を与えてつまらなくしてはもったいないしの
目標とは己自身が定め、掲げて突き進むものよ
妾もまたシーアの意識の下で、今を愉しんでおるのでな ふふふ
いずれ刻がかなえばシーアの意識と統合して冥闇の獣としての
美しい少女の姿も取れるようになるだろうて
獣ではあっても妾の姿はそこらの獣とは同じではないからの
楽しみにしておれ ふふふ 今度の ”覚醒” の刻が楽しみじゃて
ソレまではシーアの意識下に沈んでおるからな』』
と胸に手を添える。
『『 遺産の娘よ、シーアを支えてやってくれ 頼みおくぞ 』』
と三人のライブ・アーティファクト達を睥睨する。
「はい、もとより我が身は全て我が姉たるシーア様のモノでございます
シーアお姉様の勅命あらば、この身を賭してでもお守りいたします
これから訪れるであろう”姉妹”達にも徹底させます故」
と三人口を揃えて最礼をする。
『『 頼もしい”妹”達よ 自分の身を守る事も忘れてはならぬぞ
滅したらこやつ(シーア)が悲しむでな 』』
「はい、冥闇の獣様のお言葉のままに」
と真摯な顔で頭を下げる
ソレを見て取って にっこりほほえむと
『『 最後にクローティアよお主のみに妾から特別なパスを繋ごうではないか
早う、妾に唇を寄越せ 』』
と冥闇の獣は、クローティアの唇を突然奪い
ぐちゅり ...んんっ んんぁ... ぐちゅり と
まだ少女然としたシーアには真似出来ない
濃厚でどろりとした接吻を交わす。
『『 あとは、この吸血樹の根に
〽 旧き冥闇の・深き深淵でクレアーティアの獣の御前に冥府の魂を捧げん
とな
妾を称える祝詞を捧げよ
さすれば、顕在意識まで妾が来よう ただし大量にマギを使うのでな
そのことはゆめゆめ忘れるではないぞ
ではな そろそろ、シーアの顕在意識が覚醒する
妾はまたしばし、意識下に沈み魂に寄り添うとしよう 此度の邂逅は愉快であった
久方振りで言の葉を継ぎ、疲れたわ 』』
と半ば一方的に語り、一方的にシーアの意識下に沈んでいった。
「はぁぁぁん 怖かったぁぁ アレよアレ 私達が本気でシーおねーさまがこわいのはアレの
ことよ シーおねーさまは気付いていないけど
ミーアの”宿り木”なんてアレにくらべたらまだまだマシよぉ
クローティア様、でもでも私達って幸運よね ”表”のおねーさまがお優しい方で良かったわぁ
普通なら”道具”扱いされていてもおかしくないのにね
本気で敵対していたら今頃どうなっていたことか、想像したくないわ
「ねー」
「ねー」
「ねー」
と三人の人外の少女は、頷き合っていた。
『ふぅ〜 アヤツめようよう引っ込みおったか
儂もアヤツだけは、本気で怖いわ この真なる旧き贄の蛇が本気で畏れを感じるはとはな
まさかこんなヤツが
シーアの根源とはな 心底シアズには恐れ入るわい いい置土産であって欲しいものだが
あとはシーア(シアズ)次第じゃのう。
これからどうなるか 儂ですら見通せなんだ。
良いなビヨンこの事は言わずとも分かっておるな。 遺産の少女よお主達もだぞい』
「「「はぁ〜い」」」
[ このビヨン、決して他言はシーアにですら致しませぬ ]
『うむ よかろう』
とクローティアが返事をしたとほぼ同時 ”シーア” が目を覚ました
目も普通の虹彩に戻っていて
大あくびを一つ
「あれ、わたしどうしたのかなぁ なんか急に目の前が暗くなって ってミーアお姉様? わわ
気ぃ失っちゃってるわ 血吸いすぎちゃったわ」
とあわてて首の頸動脈手をそえて以上が無いことを確認した。
錬金術師時代はレフィキアからヒトの躰の構造も詳しく教えられていて
構造については医術師に迫る博学があったのである。
わたしは、大好物のお肉を食べたときより遥かな満足感で満たされていて
何より、変なのはライブ・アーティファクトの娘達がやけに甘えてきていた事であった。
「ねぇ おねーさま抱っこして抱っこ」
と次から次へと彼女らを抱っこをする羽目になり
以後彼女達はなにかと、わたしの髪の吸血樹の根を触りたがるようになった
ラヴィアに至っては
「ねぇ、ヒト共をぜぇ〜んぶおねーさまの支配下に置いちゃお ねっねっ
惰弱なヒトなんて、あっというまに篭絡出来るわよ ねぇねぇ〜 」
と囁きともおねだりとも取れる台詞をいってくる。
わたしが戸惑いを隠せないでいると
『こっこれ ラヴィアよそんな事を言うでないぞ どうなっても知らんぞ』
と窘める。
「ごめんなさい、クローティア様、 さあ、皆でお屋敷で今度はお芋のお菓子食べない?
レヴィアがねぇ
”サオリ”のところからミーアおねーさまがたんまり貰ってきたお芋で拵えてくれたのよ
甘くてねっとりとした蜜がかかってるのよ 黒い粒は嫌だから無しにしてもらったわ」
とデカラヴィアが言うと
「行く行く じゃあね おねーさま シーおねーさまの分も有るっていってたから
あの黒い籠のヤツ(ロムルス)に預かってもらお またレメテュアがシーおねーさまの分まで
食べちゃいそうだもの そうしたらおねーさまが ”本気” で怒るかもよ? レメ」
とコトンがいうと
「わっ分かってるわよ 黒い籠のヤツ(ロムルス)にきちんと預けるわよコトンねーさま」
「分かっていればよろしい」
とまるで母娘のような会話をする
ロムルスはというといまは屋敷内でレヴィアに色々なことを
教わっていて此処にはいなかった。
一方
黒く大きな馬車の中、マリアージュはご機嫌だった
三人目の娘が思いのほか可愛い婚姻用ドレスを身に着けていたからである。
幾重にも重ねられた妖精の翅の如くフリルやレースは、最高級のアラクネの糸をふんだんに
使用していた
この婚姻用ドレスはあの貴族の娘の母親のお下がりを娘用に
特別に仕立て直したもので母親が嫁ぐ娘の為に専属の裁縫師に大金をかけて
誂い当日まで、娘を驚かせるためにわざわざ別邸で製作したものであった
そんな想いはマリアージュは知る善しもない
ただただ可愛いドレスが好きなだけである
「なぁ、どうよオレ様のドレス中々可愛いだろ」
と娼婦が体型を維持する為の
矯正下着風のブラを見せつけた、下半身にも少女から奪ってパウダーピンクに染めた
ショーツを履いている
違和感等はお構いなしに皆に見せつけていた
メイド達は視線を上手く逸らしつつマリアージュの身支度を整える
一人は髪を梳き一人は彼好みのフリルやレースたっぷりのソックスをとそれに似合う
大きな白薔薇のストラップパンプスを選定していた
娘のパンプスは婚姻用でマリアージュ好みのフリルやレースが少なく
「これはイヤよ オレ好みのフリルやレースが少ねえ マリアの自前に変えてよ」
とややきつい男口調が飛び出し難色を示しメイドが慌ててマリアージュが持参した
靴を選定する運びとなった。
そしてもう一人は彼の後ろにまわり矯正下着風のブラの後ろ紐を締め上げる
「あぁぁん もっときつくしてよ マリアは人外だからどんなにキツくしてもへ・い・きよ」
とメイドにおねだりしていた。
「お嬢様これ以上は出来ませんわ」
「うふふ ならいいわ なら今度は前よ 薔薇の香油でマリアのレディをやさしくしてやって」
「はい、恐れながら失礼します」
とこんどは全面”くまなく”香油をすりこむ
「きゃ〜ん マリア恥ずかしいわぁ あぁぁんでもこれサイコーよね メイドにやって貰うなんて
久方ぶりだわぁ 」
とうっとりとベリアを抱いたまま彼が上機嫌の時の少女口調で言い放った。
彼もネリスティーナ同様幾星霜にも渡る”美肌”維持のため少女の生皮を着てきたせいか
双丘はきちんと外観年齢よりは、少し大きめに育っていて
「どうよ、オレの双丘いいだろ テメェもアニキもまだ”お子様”だよなぁ
テメェのようにオス臭さが残るガキには矯正下着風のブラはまだ早ぇよな ガハハハッ
オメェなんか詰物してるもんな におい袋なんざ詰めちゃってよぉ滑稽だぜ」
と相変わらず下品な男言葉でじっとマリアージュの双丘を恨めしそうに見ていた
ヴェネイーラを詰った。
「おねぇさま素敵でも、っこれはにおい袋ヴェネの趣味なんだから
ほっといてっ」
とさすがに叔父に言い返した。
「おっ ちっとは言うようになったのかこのガキィ! 」
「マリアお嬢様、手を上げるのは今はおやめくださいませ デメテル様とのご邂逅前ですよ」
とメイドが進言すると
「そんなことは分かってらぁ いいかヴェネ絶対にデメテルの前で”粗相”は赦さねえからな
オレに恥かかせるなよ ちょっとこっちこいや」
とヴェネイーラを呼び寄せ
「いいかコレな ”縛めの接吻” といってな オレの能力の一つでよ
オメェみてぇな莫迦を躾ける為のモンだ 頬を寄越せ」
と やおらマリアージュはヴェネイーラの頬に接吻をした。
すると髪色と同様のパウダーピンクの接吻痕が残り淡く輝き消える
「おっおねーさまこれは? 」
とヴェネは及び腰に聞くと
「これはな、傀儡を縛る時につかうモンでよ
禁を破ればオレの可愛い接吻痕がテメェの心の臓に喰らいつくって代物よ
テメェがオレがデメテルんとこで話し込んでいる時に無作法な真似や
少女らしくない振る舞いちょっとでもしてみろ
心の臓を食い破るぜ まぁ尤もテメエはこれくらいでは死にゃせんがな
でも相当”痛い”ぜ」
「おっおねーさま ヴェネはずっとおねーさまに縛られるの? 」
「この莫迦野郎! だれがずっとって言ったよ デメテルとの邂逅が終われば
解いてやる
何回か、オレはテメェに言いたはずだぜ アニキを怒らせたくないってな
ついでだ もう一つ良い事教えてやる
兄貴がオレのような小汚いオトコ口調で物言いしたらすぐに逃げろ いいな
テメェの存在すら無くなるぜ」
「どうして、あのお父様が......なんで? 」
「いいかよくその莫迦なノーミソによく刻んでおけよ
アイツの使い魔いや眷属か......”名無し混沌” の一部だぜありゃあ黒い大きな霧の塊でな口だけが
あるバケモンだ なんでも過去に遺産の娘と張り合った時ソイツをみて
どうしても使い魔にしたくて ”ハデス王” に頼み込んで頼み込んでようやくモノした代物よ
オレはそのバケモンが心底こえぇよ
絶対兄貴にはオレは逆らえないと思ったぜ
その他に、骸骨王が一匹いる リッチよりかは階位が下だがな
物理戦闘特化の戦闘狂だぜ
アイツが兄貴の横に侍っただけでこのマリアちゃんのレディが萎縮するってくらいには
おっかねぇバケモンだ だから言ってんだよ。
それとな兄貴に蚯蚓連中見せんなよ
それだけでも骸骨王のお出ましだからな
息子のオメェだって容赦はないと思っとけ いいな」
とマリアージュは何時になく真剣な顔でヴェネイーラに語る。
「オレは、兄貴の様に強力な使い魔はいえねがテレシィお母様から引き継いだ
多彩な能力があるからな
このオレにマリアージュの名を与えマリアージュをマリアージュにしてくれたの
礼儀作法も厳しかったけどおかげで素敵なレディになれたわ
ほら ここご覧なさいな」
と髪を寄せ白い肌の首元を見せる。
すると非常に分かりにくいが二つの傷痕が見えた。
「これは? 」
「そう、コレはテレシィお母様から頂いた 聖痕の儀 の痕よ
これで成長が止まり 永遠にこの若さでこの躰なの
嬉しかったわ、ネリスを見ていて早く可愛い”オンナノコ”になりたくて聖痕の儀
おねだりもしたけど
小さすぎるとレディとして舐められると言われてようやく今の背格好に成長してから
聖痕の儀 を受けたの 貴女にもあるでしょ オレの姪っ子の ”シェーラ” から
受けたのが? 」
聖痕の儀 とはヴァン族がある一定の体躯で成長を止めて
永遠にその体躯と姿を保つことであり
ネリスティーナはランドスから、マリアージュはランドスの妻・テレシィからそれぞれ
聖痕の儀 を受けている
親子でも特に仲がいい間柄で交わされ、血を吸うと同時に自分の血を特別な想いを
込めて送り込むのだ。
マリアージュは、母親からオンナノコのとしての礼儀作法や服の着方など全てを
余すこと無く受け継いでいて
今でも、母親テレシィは自分が目指す最高のレディでもあった。
先の魔女との遥か以前の古代の戦いで、十字聖剣の露と消え
その後は、父・ランドスが男手一つで育ててきたが今度はその父が前代の
魔女との戦いの際に、同じく十字聖剣の露と消えていた。
それからは、兄のネリスティーナが親代わりで氏族を盛り立てて来たのである。
体躯を保てるかわりの代償として疵痕が証として永遠に残るのだ
「えぇ シェーラってばヴェネが寝ている時に 聖痕の儀 を勝手にしちゃったの」
「ひゃひゃひゃ、傑作だなこりゃいくら自分よりオメェがオンナノコらしいからって
ソレはないだろ。
オメェの莫迦さ加減もここまでとはなぁ 大切な儀なのに寝ていたなんてよ呆れたぜ
ソレより、シェーラは何処だ? オレのオンナにしようと兄貴にも聞いたが
ある組織に出向いていて、同じ加虐嗜好の同類とつるんでいるという話だったが?
場所までは教えてくれなかったぜ」
「しっ知らないヴェネも暫く逢っていないの
”教育”を受けたくてどうしようもなくてウズウズするけど今は我慢してるわ」
「なんだぁ? てめぇもしかして自分の妹に被虐されるのが好きなのかぁ? 」
とヴェネイーラは無言で首肯する。
「うはぁ、とんだタマだな 分かった、分かったまぁアレコレは言わんさ クソっ
オレのレディの嗜みを味わせてやろうと思ったのによ
あんな上玉放っとくなんざ持ったいねぇ
アイツ、そこらのメスガキの様には簡単にはくたばらねぇからな
チクショウ、絶対見つけ出してやるからな
姪っ子もオレに、まだ顔合せしてないなんてこのマリアージュも舐められたもんね」
と舌を下品にぐちゅりと伸ばし口角を舐め上げ
スカートを艶めかしい仕草でたくし上げ靴下留め(ガーターバンド)から短剣を抜き
刃に舌をねっとりと這わせて
「あぁぁん んんっ ...あのきれーなお肌にこれで赤いお花咲かせたいわぁぁん♡
どんなかわいい声で啼くのかしら いまからぞくぞくしちゃうわぁ♡ 」
と言い放ち、彼はシェーラを身内としてではなく死なないエサととしてかみていなかった。
ヴェネは父・ネリスティーナからきつく言われていたのである
シェーラの居所は絶対に”叔父のマリアージュ”に教えるなと
流石に、父の言いつけは先程のマリアージュの話を聞いた後だと
おいそれとは言うわけにいかない。
「そうか、 ”知らない”ねぇ? まぁ今はいいわ
まずはシーアってクソ娘の件が優先だからよ
チクショウめ、オレを ”謀り” やがって、痛ぇ目に合わせるだけじゃ済まさねぇぞ」
と男口調と少女口調が入り乱れる
相当感情が昂ぶっているようだった。
「はい、おねーさまのお言葉のままに」
とヴェネイーラはしおらしく返事をする
今、彼・マリアージュをこれ以上刺激するのは非常に危険だった。
「それでいい、だから ”縛めの接吻” はデメテルの邂逅が済むまでだ
コレだって兄貴に許可無くやってんだ
あ〜ぁ、ネリス”お姉様”に目玉喰らちゃうわぁ マリア憂鬱だわぁん」
と最後は淑やかな少女口調で締めくくった。
「お父様って怖いヒトなのね」
「そうさ、オレよりもオンナノコらしくてオレよりも怖えやつ
それがネリスティーナってヤツよ」
と遠い目で視線を所在無く彷徨わせた。
デメテルのベルゼでの拠点はトノベルの西の離れの浮遊島で名すらついていない
表向きは、ある貴族の個人所有の浮島ということになっていた。
すっかり身支度を整えた二人はさながら婚姻に向かう仲のよい姉妹のようでも
あった。
ヴェネイーラも今日ばかりは荷物の殆どを占めるワンピース・ドレスから一張羅をえらび
先般、マリアージュが娘から奪った白バラの髪飾りを頭に誂えた。
この髪飾りもまた婚約者の男が彫金師に、ギルドの依頼を死にそうになりながらも
必死で生き延びて蓄えたカネと花嫁に似合うであろう白薔薇を必死で彼なりに
考え抜いて意匠を考案したものである。
勿論、マリアージュ同様、そんな想いは知る善しもない。
「見て見て、あの婚姻ドレスいいわぁ あれ妹さんかしら? それともお姉様かしら?
「素敵ね」
「私もあんなドレス着たいわぁ」
「もう一人も可愛い娘 きれーな金の髪に
紅玉のような目素敵だわ あぁんオネーサマ達こっち見たわ」
「でもあの個人所有の”浮島”へ行くわね」
「残念、婚姻式見てみたかったなぁ」
「そうね私達も負けていられないわ ”オンナ” 磨こ? 」
「そうね」
「それがいいわ ちょっとそこのオニーサン美顔用の蜂蜜液頂戴」
「私も」
「私も」
と物売りの青年に少女達が群がる
先の姉妹が男であるなどとは誰も考えも及びもしなかった。
「なぁヴェネよぉ あの小娘共俺達を見てるぜ 美味そうだな
ック... あぁぁん いやぁ〜ん
マリアのレレィがおっきしちゃったわ んん...ダメよいまおっきしちゃぁ お転婆な娘よね
場所選ばないのよ マリアのレレィったら あぁん♡ 」
とマリアージュはわざと舌っ足らずな物言いでいい長手袋で
少女が風で浮き上がったスカートを押さえるように押さえていた
ヴェネが彼の手元を見ると衆目では目立たないよう豪奢なペチコートを重ねているにも関わらず
それと分かるくらいには彼のスカートの股間に違和感があった。
「あの娘共、喰いてぇな ヴェネもそう思うだろ同じレディを股間に持つ者としてよぉ」
とマリアージュはヴェネに同意を求めてきた
珍しいことである。
「えぇヴェネのオンナノコもおねーさまとおんなじよ まだベルゼに来てから
一度も食べさせてやれないの つらいの 早くどうにかしたいの」
「うふふ ヴェネぇ〜 今は我慢よ 分かっているわね? 」
と何時になく少女言葉にも熱がこもる
「はぁ〜ぃ 今はヴェネもガマンするぅ」
「ふふ そう来なくっちゃオレの甥っ子じゃないぜ
オレも我慢するからよ」
「そうですよ、お二人ともこれからデメテル様のところに行けば
あのような下賤な娘共より遥かに上品なお嬢様をたんまり喰うことも叶いましょう
それまでこらえて下さいませ」
会話を聞いていたメイドも進言する。
「そうねソレは尤もなハ・ナ・シよねぇ 貴女、このマリアが直々に
後でたんまり血を吸ってあげるわ また貴女の美しさがうんと保ててよ」
「有り難きお言葉 ささデメテル様がお待ちかねですよ、転送陣に乗りましょう」
「はぁ〜ぃ♡ 」
「はぁ〜ぃ♡ 」
と、まるで母親に促される娘の様に返事をして
自分より背が高い三人のメイドに付き添われ五人の人外はデメテル個人所有の
名も無き浮島へ転送された。
「ぐふふ 久方ぶりですかな異装の淑女マリアージュ様
新しいお顔もありますな お美しい”お嬢さん? いやお坊ちゃんかな ”」
と邂逅一番早速言の葉の刃が飛ぶ
マリアージュは片眉をピクリと動かしたがそれ以上の反応は示さない
普段のマリアージュを文字通り痛い程知っているヴェネイーラとしては
信じられなかった
更に会話の応酬は続く
ニタリ、豚犬より醜い顔を震わせたのは闇の社会 ”仄暗き霧” の一翼又は、
闇競り(ブラック・オークション)の総元締め(フィクサー)とも言われる
太い葉煙草をくゆらせ嫌な脂の匂いを撒き散らしているデメテル本人である。
「ふふ、こちらこそ ...久方振りでお逢いしましたら随分とお顔が良くなりましてよ
何代目かのデメテル様。
...世襲制だとお顔を簡単に比較できて
定命の理から外れている者としては大変楽しゅうございましてよ
もっと醜いお顔に成るのかと思いきや、段々豚犬の血が薄くなっておりませんこと?
ウフフ 」
としなを作り長手袋の指を可愛い仕草で咥え上目でデメテルを見上げた。
「相変わらず手厳しいお言葉で、しかし儂にとっては恐悦至極な事でございますな
この顔あって、儂の存在も皆の心に深く根を下ろせるというものですぞ」
と持論を述べ
「改めて、久方ぶりのお目覚めはいかがなお気分ですかな
刻も移り定命の者は代替わりをして、この醜い顔の初代ももう何代前かも
当の本人ですら、分からぬ有様でしてな」
「ふふ 覚醒めたのはついこの間 わたくしマリアージュを謀り封櫃の棺に封印した
者がおりましてその者への報復も兼ねましてこの
”姪っ子”とベルゼくんだりまで足を運んでおりますの
さぁさ ヴェネイーラぁ ちゃんとご挨拶しなさいこれからも色々お世話になる方よ
失礼のないようにね」
とマリアージュに促され
優雅にスカートをつまんだつもりが何故か片方だけつまみ損ねた
< こぉんのぅ クソオスガキぃー あれ程オレに恥ぃかかせるなと言ったろうがよ
接吻の制裁を受けな >
と特殊な音域で会話すると
ヴェネイーラは激しい胸の痛みを感じた
「おやおや どうなされたのかな? 」
デメテルは急に顔を顰めたヴェネイーラに視線を移す。
「 ごめんあそばせ 挨拶もろくに出来ない身内で
このマリアに恥をかかせたの ヴァン族流のお仕置きですわ お気になさず
この娘はヴェネイーラ ネリスティーナの”息子”でマリアの
甥っ子ですわ今後共、この娘の指導もしてやって下さいませ。 」
と完璧にドレスをつまみ長手袋をしたままデメテルの大きな節くれだった手に
目は苦々しさ一杯だったが背も低いうえ顔を下に向けていて
デメテルにはまったく気付かれず軽く接吻をする。
「ぐふふふ 良いですとも良いですとも 所で最近 ”仄暗き霧” 内で事変が起き大変な事になって
おるのですが ネリスティーナ様からは何も? 」
「いえ マリアは会員ですらありませんわ こういうことは全て”兄”が取り仕切っておりまして
存じ上げませんわ」
(ほぅ、何か動いたようだな 後で”おねだり”して聞いてみるか 面白くなって来やがったぜ)
とマリアージュは素早く何事か算段を付けた
”噂”ぐらいならネリスティーナでも聞き出せるだろうがこれ以上は
”仄暗き霧” は上下関係が煩い組織なので幹部階位でもないと聞き出すのは不可能であろう。
「所で兄から転送陣を預かって居る筈と思いますけど、どうなっているのかしら? 」
とワザと話題を逸らした。
「あぁ受け取っておりますよ ちなみにここベルゼでの拠点はどうなされますかな? 」
トノベル本島じゃ些か具合が悪くないですかな? 」
此処は、離れ浮島、かつデメテルの私有地という官吏が下手に手出し出来ない立地と
マリアージュにとって条件が完璧に整っていた。
拒否する理由は無かった。
「そうね ソレじゃこの浮遊島にベルゼでの拠点をおいていいかしら
早く落ち着きたいのよ もう馬車はイヤなのよ わたくし」
と甘えた声でいうとデメテルは
「それは、いいお考えで早速儂の敷地内の空き屋敷を手配させましょう」
とチリリと鈴を鳴らす
すると端正な顔の青年がすいっとマリアージュにさえ気配を感じさせずにデメテルの横に
現れて何事かつぶやいた。
「うむ、早く支度を整えろ お嬢様方がお待ちかねだ」
「ですがあと2昼夜程時間を頂きたく存じます デメテル様」
と青年はハッキリと聞こえる声でささやいた。
「うぬ、仕方あるまい お嬢様方に内装の好みを聞いておけよ
我々 ”仄暗き霧” にとっても大切な人外のお客様で謀略を得意とする
ヴェンベルジュ氏族だからな、粗相があってはならんぞ」
「はっ直ちに」
と言って気配なく掻き消えた。
(このオレに気配すら感じさないとはな デメテルの野郎いつの間にこんな
優秀な部下手玉に取ったんだぁ、こんな豚犬の様ななツラぁしてよ
こいつは舐めちゃまずい野郎だな)
< おぃ ヴェネイーラよく聞けよ今代のデメテルはかなりのやり手だぜ
前代の大間抜けの ただの ”仄暗き霧” の傀儡とは違うぜ
腹に真っ黒いモノたんまりと持ってやがる ぜってぇにヤツに舐めた口聞くなよ
オレがこの場をとりなして好かったぜ オメェはとんだ轍踏みそうだからな
でよ遊びたい盛りには悪いが今後共、こういう場には付き合って貰うぞ
オメェを早く”お嬢様”として社交界の初舞台を踏ませろと
ネリスのヤツが煩いからな。
オレとしては、オメェが無作法して相手の怒りを買って封滅されようが
傀儡として永遠にこき使われようがどうでも良いがな
ここでオレは教育係を降りても良いんだぜ 一々作法を教えるなんて面倒だしよ
今一度この場で聞くぜ 無作法し放題で相手の怒りを買いまくるか、立派な”お嬢様”としての
生き方を選ぶか さぁすぐに選んで答えろ
ちなみにオレは今もこれからも”オンナノコ”に徹底してこだわって生きるつもりさ>
とマリアージュはヴェネイーラに生き方を問う。
< ヴェネは傀儡になりたくない 自由にお洒落したり、匂い袋作っていたりしたいの
だからおねーさまの傍において ヴェネ頑張るから >
と語彙のまだ少ないヴェネイーラは必死で応える。
< 今の言葉はオレは”是”と受け取るぜ いいぜ、これからも”お作法”に関しては
厳しくしていくつもりだ
まぁデメテルの程の大物なんかはオメェには任せたりはしねぇ そこは安心しな >
< はい、マリアおねーさまのお言葉のままに >
< いいだろう >
とマリアージュは超音域言語を閉じた。
マリアージュは、デメテルの気配すら感じさせぬ部下一人見ただけで
彼を舐めて相手してはいけないことをヴァン族のヴェンベルジュ氏族
次兄として看破したのである。
「おや、どうされましたかな 儂は葉煙草を嗜みますから空気が匂いますかな? 」
と腹を探る目付きはそのままに優しく問う
「えぇ、マリアも此処のヴェネちゃんも葉煙草は好みませんわ 髪が脂臭くて嫌なの
気を使わせたようですね デメテル様 」
「ぐふふ まぁ儂もお嬢様方がいるというのに、この葉煙草だけはやめられんのでな
バルケモス大陸産の高級品でこの葉を噛むだけでも至高の極みですからな」
ともみ消して火が点いていないにも関わらず
くちゃりくちゃりと葉煙草の根元を噛んで愉しんでいた。
「ところで お嬢様方 ”シーア”という名の娘に心当たりはありますかな? 」
「さぁ、このマリアを謀った娘としか知りませんの
このヴェネなら何か知っているんでしょうかね ...ってどうしたの? 涎たらして」
ヴェネはシーアの名を聞いた途端理性が飛びうわ言の様に
「壊しタイの ...壊しタイの」
とつぶやくいていた。
「あらあら この娘シーアによぼどご執心のようね 涎まで垂らして まぁ
後で叱っておきますから今はマリアに免じてお赦しを」
「ぐふふ ソレくらい瑣末な事 この儂も追っておるのですよ
儂の妻としても良い慰み者になってくれるでしょう 今はある荒事専門の組織に依頼を
出しておる最中でしてな ふふ果実は熟した頃をいだたくのは自明でしょうからな
......
まぁこのハナシは 其処のお若いお嬢様が”マトモ”な理性で話せる様になるまで
何時までもお待ちますよ 儂は気が長い方でしてな気にせんで下さい」
と思い切り嫌味を言われマリアージュはさりげなく長手袋の上から爪を齧った。
「そのお若いお嬢様には後で酒精の弱いぶどう酒でもお持ちしますよ
まぁ、転送陣の件もまだですし儂の屋敷の離れに2昼夜滞在なさってそれに
馬の世話も此処の下男に任せますゆえ
メイドの皆様方もどうぞごゆるりとなさって結構ですぞ」
とマリアージュはヴェネイーラの脇腹に一発くらわせ気絶させてメイドに運ばせ
「では、デメテル様 ニ昼夜後までご機嫌遊ばせ」
「ぐふふ、ではごゆるりと」
と言ってマリアージュ達は部屋を辞し 言われた離れに向かう
「ふん、またオレに恥かかせてよぉ どうすんだよこの落とし前はよぅ」
と可愛い少女の声で口汚く文句をいっていた
「あのぅ、マリアージュ様この件に関しては叱らないでやってくださいまし
ヴェネ様は、オンナノコらしく嫉妬しているのですよ
自分よりかわいい娘を見たり聞いたりなさるだけで
ああいうふうに自分を見失しなわれるのです
少しでもオンナノコになろうとしているのですけどまだまだオトコノコな部分もたんまり
あるのでしょうかねぇ? それがぶつかるんでしょうね」
「そういうことか、クソ仕方のないヤツだぜオレみたいにすんなりとオンナノコに
なればいいものを
まぁコレに関しては怒らないでおいてやる、気付け呑ませて寝かせとけ」
と何時になくねっとりとした目で見つめていた。
「それより 貴族の娘はどうした? まさかデメテルの野郎約束を反故にしたんじゃ無いだろうな
兄貴からの話だと3・4匹見繕ってくれるはなしだがな コイツの変な挙動のせいで
気分が萎えたぜ 着替えてオレはもう寝る 脂臭ぇドレスは丁寧に洗濯して魔界の仕立て屋に
依頼して不変の結界処理を施しておけ
代金は兄貴にツけとけよ必要経費だ
このドレスは今後、オレの一張羅にするからな 脂臭さは綺麗に取っておけよ少しでも
残っていたらテメェらの尻尾と耳切り取って好事家共に売りさばいてやる」
と有尾種族が一番恐れる言葉を言い放つ
「それは、どうかお赦しを丁寧に洗濯いたしますので」
と言うと
「今は何もしねぇよ 要は結果だぜ オレが洗濯とやらの後で判断すべきことだ
いま謝られてもオレにはそんな言葉の小細工は効かねえぜ よく覚えておきな」
と一言
とドレスをメイドに脱がせてもらい沐浴に向かう
マリアージュは沐浴をすませて
「可愛い意匠のネグリジェは持ってきてるだろ? 早く寄越せ 」
と豪奢なネグリジェを手慣れた様子で着替え
髪はメイドが丁寧に掬い上げる
「これマリアすきなのついでにぃ 髪を梳いて梳いて♡ ねぇ♡ オ・ネ・ガ・イィ♡ 」
と急におねだりされたメイドが
「さぁさ、御髪をお梳きいたしますので寝台に掛けてくださいませ」
と二人がかりでしゅるりしゅるりとマリアの髪を梳きはじめる
単調な音がマリアージュをうっとりとさせ先の男口調もどこへやら
「 これが無いとマリア眠れないのよふふ やっぱりマリアのしぼんじゃった
いやぁねぇ、貴女達ぃ早く豚犬面のオジサマにエサを催促しておいてよぉ ねぇねぇ」
とこれまたねっとりと目を細め艶美な微笑みでメイド達におねだりをする
メイド達はマリアージュが男性と分かっていてもこのおねだりを聞くと
ついつい我儘で小悪魔的な魅力を備えた”妹”のようにに感じてきて
逆らえないのである。
しかも声は男口調であっても少女の声そのものなので、小さい娘が
啖呵をきっているようにしか聞こえないのも彼の恐ろしい一面であった
これはヴェンベルジュ一族の男性全般に言えることでもあるが
男臭い仕草も一切しない あぐら等男性が無意識にするであろう仕草や座り方は
幾星霜も仕えているメイド達ですらただの一度も見たことがなかった
こうして少女姿の狡猾な一族はヒト社会・闇社会・
自分達の世界である魔界とその可愛い容姿を巧みに活かし取り入って来たのである。
その中でも流石に、マリアージュは自らオンナノコを徹底してると豪語するだけの事はあった。
「おねだり上手なマリアお嬢様、早くお休みになって下さいまし
明日一番には此処に娘5人はご用意しておきますので
これでお赦しを」
とメイドはようやく彼の扱いにも慣れてきてこう進言する
「うん、マリアそうするわ 今は、お休みするわ」
と寝台に横になり突然ばっと上半身を起こし
「それとヴェネイーラも着替えさせてやれ
だらしねぇのはオンナノコとして失格だぜ」
と一言後は髪をふわりと敷いて、見た目は絵物語の小さな姫のように
天使の寝顔で目を閉じ寝台ですやすや可愛い寝息を立てた
それにメイド達は
「はい只今」
と応え
ヴェネイーラをネグリジェに着替えさせ寝かしつけて
皆一同無事一人も欠けなかったことを喜んでいた。
このごろのマリアージュは機嫌が凄くいいときは
舌足らずな少女口調になることも分かってきていて
それが頻繁に出てくるのはメイド達にとっても彼がわかり易い感情表現をするからであり
兄のネリスティーナは感情表現が非常に分かりにくいため却って扱いづらい主人であった
マリアージュ達が居なくなった居室で
「ふう、やっと居なくなったか やれやれ厄介なヤツが目覚めたもんだ
前にも厄介な魔物の封印を私利私欲のためだけに解いたっけか
マリアージュのヤツめ あのヴェネイーラとかいう異性装の小娘一人くらいなら
こっちの手のひらだというに まぁこれも一興かね ぐふふ状況は困難であれば
あるほど動かしがいがあるというもの
おぃ 客人に明日朝一番にとっ捕まえてきた上質な貴族の娘5人程くれてやれや
お嬢様方ときたら股間をあれだけ目立たせてさぞかし貴族の娘喰らいたいだろうよ
朝食にもなるだろうしな、儂の女に手ぇ付けられられちゃかなわんしな
ちゃんと綺麗なドレスも着せてやれそれも含めて ”全て” ご所望だからな」
とデメテルはまた葉煙草に火を点けてブツブツ言っていた。
「はっ実はマリアージュ様のメイドから”催促”がありまして
いまは、お休みになられておられるようですが」
「そうか、もう催促があったか ”取って置き” を5匹離れに連れてけ
儂の妻達に手ぇ付けさえしなけば 買った娘だ好きにしていいぞ」
「御意に! 」
と 気配無き影人 は掻き消えた
そしてデメテルの口からマリアージュが目覚めたとの報せがまたたく間に
”仄暗き霧” 内に広がった。
「さてさて、どう事態はうごくのやら果実は何処の川を彷徨っているかも
分からぬとはな」
と鼻から二本の煙を吐き出した。
一番鶏が鳴いたその直後、デメテルの離れでは
「おねーさま、ごめんなさい ヴェネねあの娘の名を聞くと
いても立っても居られなくて つい」
「うふふ いいのよヴェネちゃん それぐらいの気概がなくちゃいけないわ」
とマリアージュは今日も可愛いワンピースドレス・可愛い大きな薔薇をあしらった赤の
パンプスに可愛いパウダーピンクの大きなフリルソックスに白の
バラ柄のタイツと少女っぽさを全面に出していた
尤もこれが彼の普段の装いでもあるのだが。
そんなマリアージュは今朝になって目覚めたヴェネイーラにねっとりとした口調で囁いていた
「ね〜〜ぇ ヴぇ〜ネっ あんまりガッつくなんてレディらしくないわ
ヴェンベルジュ氏族としてはしたないわネェ 果実は熟した頃に美味しく頂くものなのよ
いい よく聞いてねぇ マリアもそのシーアってクソ娘 きっちりと見定めて
じっくりと虐めたいの 流石に、ソレは理解出来るわよねぇ? 」
と姫袖から小さい手を覗かせヴェネイーラの頬を
彼の長いパウダーピンクの爪化粧した爪を時折食い込ませながらねっとりと撫で付ける。
その度に赤いものが大粒の珠となりソレをマリアージュは舌で舐め上げた
「はっはぃ、おねーさま でっでも怒らないっていったのにこれはどういうこと? 」
と時折頬に爪を食い込まされて血が大きな珠を作っていることを知らない訳がない
「んーん? マリアは怒ってなんかいないわ
これ貴女の粗相に対する対価をマリアに支払って貰っているダ・ケよぉ
そんなにコレが嫌ぁ? 」
とこれまたまなめかしい口調で囁く。
「ソレ、疵の治り遅くてヴェネのお肌に痕でも残ったらと考えると怖くて」
とヴェネイーラも必死で抗弁する。
「ほぅいうじゃねぇか ガキのくせに 粗相しておいて はいお終いだなんて事あるかよ
オレは怒っちゃいないが粗相の対価までは支払わなくていいなんて一言も
言っちゃいねぇ そこんとこ勘違いするなよ
いいかよく聞けよ オレはデメテルの野郎はでぇっ嫌ぇだからヤツに”借り”を作りてくねぇんだよ
分かるだろ オレの言わんとしてる事が?
交渉事には言質を取られないよう一挙一投足に細心の注意を払って
上手く立ち回るもんだ
兄貴を怒らせたくないから傷痕は残さえねえようにするが対価はオレに払って貰うぞ」
と確かに強い語調でない 彼は”怒って”はいなかった。
暫くマリアージュの対価は続く
ヴェネイーラは頬に時折走る強い痛みに耐えるしかなかった。
ヴェネイーラ自身も理解はしていていたのだ、名を聞く度に舞い上がっていては
どうにもならない上メイド達に怒りをぶつけたところで
コワシタイ欲求は満たされず蹂躙しパンプスの足底に傅かせたいどす黒い想いも叶わない事に。
マリアージュはこんどは可愛い唇でヴェネイーラの耳を甘噛みする
「あぁぁぁん おねーさまぁ やめて」
ヴェネはかわいい嬌声を漏らす
んんんっ
「まだネンネよね♡ この反応 マリアねぇ〜このお食事のあと”千変の御使い”と”お話してくるわ
うふ ヴェネったらまぁ、オンナノコを大きくしちゃって 余程、ガッついていたのね」
とヴェネの髪を梳いてやっているマリアージュは
するりとヴェネイーラのスカートの違和感のある部分に手を伸ばす
「いやぁ さわらないで いくらおねーさまでもここはダメぇぇーッ」
「ふふ ごめんなさいねヴェネちゃん ちゃんとダメって言えるじゃない
いい娘ね」
とマリアージュは今度はヴェネイーラの手をつかみ
自分のスカートの股間をヴェネイーラの手で指し示し
「なぁあん? 此処にもうすぐやってくるメスガキ共五匹の乳臭ぇ匂いすんだろ
オレのもテメェ同様お待ちかねだぜ もうこんなになってらぁ
クソっ! 早く喰いたいぜ おいっ手筈はいいな
ゼッテェ、メスガキ共が身につけている物を汚すなよ
ソレも含めてオレが頂くんだからよ キシリス香の準備はどうだぁ、柔らかくしてあるんだろうな? 」
「はいマリアージュお嬢様 デメテル様よりお預かりしておりますソレを
轡に仕込んであります
後はごゆるりと朝食をお楽しみになられるだけですよ」
「ふふ それでいいわ」
とマリアージュは目を細めて下品に
ぴちゃりぴちゃり
と舌なめずりをする。
キシリス香とは
この世界で闇社会が取引している強力な催婬薬で
禁制品で強い依存性があり
色は品質で異なり赤黒〜淡いピンクまでで硝子の様に透き通っていて
最初は硬いが唾液を含むとブニブニしてくる
人外である彼らはもとよりその従僕たるメイドにも効き目は無くあるのは
ヒトにしか効力が無い 先程から口に含んで柔らかく噛んでいたメイドは
ソレを轡に仕込み手に持っていた
五人の買われてきた娘は可愛い二人の”少女の姿をした外道な男”の
餌食になり久方ぶりでヴェネイーラも一人お食事を充てがわれて
「おねーさまぁ ヴェネのお肌ツヤツヤよ ふふふこれすごいの
”シーア”のことはヴェネなりに考えてみるわ」
と終始にこにこ顔であった。
「あぁぁん、オレも今回は満足だったぜ 四匹も上玉を喰らってオレのお肌がすごい事になってらぁ
常にこうでなくちゃいけないわね んんーんっ 素敵ぃ」
と自身の頬をぷにぷにつまんで姿見でうっとりとしていた。
「兄貴だったらきれーに、皮ひん剥けるだろうがな
オレは可愛い服が手に入ったしオレのレディが満足させられれば後はどうでもいいがな
この食いカス デメテルに持って行け これも魔道実験に使うんだと」
と後にはたっぷりと時間をかけていたぶられた嘗ての上品で気立ての良さそうな
”娘”五人の引き裂かれた肉の塊があった。
これだけ凄惨さを極めても彼らのワンピースドレスには
やはり一滴の血、一片の肉片もついていなかった
「んんんっ 美味しかったわぁ♡ 久方ぶりだったわねぇ こんな上等なお肉」
とマリアージュは口の端に着いた小さな肉片を可愛い舌で艶めかしい仕草でねちょりと
舐め上げねっとりと目を細めた。
その様子はもう異性装の男などではなく、一人の艶めかしい少女そのものであった。
彼らヴェンベルジュ一族はヴァン族の中でも獰猛な一族で生肉をも好む食肉鬼でもあった
食肉鬼は菓子などはホンの嗜み程度で主たる食事は此度や先の王都ギルトスの惨状と
同様若い生娘を喰らうのが当たり前であり、新鮮な”肉”は常に調達出来ないので
普段は”血”で我慢しているのである
”血”だけを好むヴァン族からは食肉鬼とヴァン族の特質を併せ持つ彼らは
変わり者として通っていて異性装などぐらいでは変わり者の内にも入らない。
ヴァン族の価値観では如何に食肉癖が無いのかだけが問われる社会でもあった。
ハデス王と何らかの取引をしたら食肉鬼になるとも、まことしやかにヴァン族社会では
囁かれてもいて、いろいろ話題に事欠かないヴェンベルジュ氏族であった。
ちゅぱり、ちゅぱり
と指も下品に舐め取って
「どお ヴェネ 美味しかった? テメェも早くあれくらいのメス誑かせるようになりな
このマリアージュ様ならそんな事児戯だけどよ
今は客人の身だ大人しくしてるけどよ ッフフっ オレが本気出したら
あんな娘なぞ選り取りし放題だぜ ガハハハァア」
と下品に嗤いメイドに
「マリアージュお嬢様、レディが、はしたのうございますよ
ヴェネイーラ様のご教育にも悪うございますよお気を付けてくださいませ」
窘められ途端にマリアージュは
「あららッ、わたしマリアージュとしたことが ごめんあそばせ
つい 地がでてしまいましたわネリスティーナお姉様の様に言葉つかいも
完璧になりたいのですけれど
ヴェネはマリアのような言葉使いにはならないでね♡ 」
とヴェネの口の端の小さな肉片をつまみとりまた艶めかしい仕草で自分の口に
ちゅぽん と音を立てて舐めとった。
メイドが持っている転がった肉の塊が身につけていた衣服類には血一滴すらついていなかった。
「デメテルには礼をいっとけよヴェンベルジュ氏族をあげて、謀略と魔界のとりなし役を
勤めるってな」
とメイドに指示だす。
流石はヴェンベルジュ氏族の次兄である。 狡猾さにかけては兄のネリスティーナ以上
を噂されているだけの事はある
対外的な政をあえて避けている彼ですらきちんと押さえるところは抑えていた
ヴェネイーラはだた鮮やかな彼の外交手腕に呆然とするしかなかった
ふただび、”永久の懐”内
「あれ、シーちゃんは? 」
呆けた眼をこすりミーアは不思議そうに辺りを見回す
『あやつなら沐浴に行ったぞい なんでもそういう気分なんじゃと お主こそ具合はどうじゃ
かなりシーアに血を吸われておったようじゃが? 』
とクローティアが問いただすと
「いえ、クローティア様少し目眩がするだけで他は何ともありませんわ
それより私、シーちゃんに血を吸われて居る時
大きな獣のような美しい少女のような不思議なモノの気配を
感じたんだけど 何かシーちゃんにあったの? 」
と聞かれクローティアは
『いや、儂は知らんぞ シーアのヤツめ 吸血樹の根で思い切り食事しおって
加減を考えてほしいものじゃ』
とやけに誤魔化しとも弁解と取れる調子でいう
「わたしも沐浴行ってきていいかしら汗かいちゃった」
『そうするがええ シーアもお主には申し訳ないと言っておったでな
問い詰めてはいかんぞ』
「えぇ、シーちゃんたら、今回も大きな変化があったものね
そういう時って吸血衝動も大きいのかしらね」
『そうかもしれん あ奴の事はあ奴にしか分からんて
まぁ吸血の加減には注意しとるようじゃしな』
とクローティアは”ミーア”に”冥闇の獣”の存在を
気取られることには細心の注意を払っていた
何しろ人外の仲間入りしたことで種族特性の気配察知や敏捷が跳ねあがっているはずである
ミーアにはシーアの中の”獣”の存在は刻が来るまで知られたくなかった。
沐浴場でシーアは髪を洗っていた相変わらず色白で華奢な体付きも変わらない
しかしながら髪と前髪が変わっただけで以前より艶美で小悪魔的な雰囲気を漂わせ
ミーアは少し女の嫌な部分が心を染めた。
(綺麗な娘ね アレが在る度益々美しくなっていくなんて ズルイわ)
最近、男らしい仕草も言動も見ることもない
それどころか少女っぽさが益々強くなっているようにも見えた
ミーアが同じ女として、彼女に対抗意識も当然あり
その上、懸想してやまないシアズでもあったのである。
揺れる複雑な気持ちはつい隙を生み カタリ と音を立ててしまう。
さっき気を失っている時、わたしの髪と同じ虹色の輝きを持ち
ねっとりとした目つきの美しいミーアくらいの少女が
今のわたしよりずっと大人っぽくて艶然とた雰囲気で
((( ふふこの姿は いずれ、お主のモノになろう
じゃが 今はまだ”器”としてまだじゃ 刻を待つのじゃ
妾もお主の精神に統合されるその日まで )))
と優しく頭を撫でられた様子を思い返していた
意味深な事を言ってそのまま少女は消えてしまい
そこで意識が戻ったのである。
後ろで カタリ と音がして
「誰っ? 」
とふりむいたわたしは、ミーアが一糸纏わぬ姿で立っていた
女同士でもあり、わたしは恥ずかしさもなく
思わず、声をあげた。
「ごっごめんね シーちゃん びっくりさせちゃった? 」
とミーアはおどおどしながら言う
「いえ、ミーアおねーさまわたしちょっと敏感になっていただけ
ねっそれより 抱っこして なんか怖いの 今はお食事しないからねっね」
とおねだりすると
「誰もいないわよね」
「えぇこんな朝早くからくるもんですか ねぇ早く抱っこしておねーさま」
といつもライブ・アーティファクトの少女がやるように
わたしは甘えたかった。
「ふふ、甘えん坊さんね シーちゃんは んんんっ 」
と唇を重ねる
サボンに包まれてわたしの吸血樹の根はミーアの躰をまさぐる
「ふふ あぁぁん シーちゃんたらくすぐったいわ」
「だって 吸血樹の根 が勝手に...」
「それ......う・そね 自分で思い通りに動かせるくせに」
「バレちゃった♡ 」
とわたしは悪戯顔を作った。
「ますます、あの娘達みたい」
「でも、ミーアお姉様の血以外も欲しいなぁ?
エリスティーナや、あの娘やあの娘なんて凄く美味しそうなのよ」
この頃、わたしは以前にも増して可愛い娘の血の匂いに敏感になっていた
服飾店やオンナノコ御用達の雑貨店などに行く度
甘い香り、甘酸っぱい匂い、アカネやサオリが朝食に出すウメズケのプラムの様な匂い
と度々誘惑してくるのだった。
「でもでも、我慢してるのよ おねーさまぁ シーアって悪い娘かな? 」
「それはどうかしら シーちゃんがお店いく度に視線を彼女らの首元に向けているの
知ってるんだからね」
「えへへっ、バレちゃっていたか たまにはいいでしょ?
同じ味だと飽きるも〜ん」
とサボンにつつまれお互いの躰と躰が接触しあいながらわたしは
おねだり(?) をする。
「こればっかりは私は言えないわ ただ大事にはならないようにして
私も冒険者の知り合いが沢山いるのよ
睨まれたら困るもの ...ね おねがい」
「うん そうするわ そこはおねーさまには迷惑掛けないわ
ふふ ......これで言質は取ったわ
でも今は、おねーさまの 欲しいな もうちょっとだけ」
と軽く ミーアの血を含んだ。
吸血樹の根はミーアの躰をまさぐっていて血は吸い上げていない
どうも、これはわたしが本気の吸血衝動が起きないと
吸い上げる気もないらしくただわたしの意のままにミーアをまさぐっていた
髪からも当然感触が伝わって来ていて
これ以後、わたしのオンナノコ好きも相まって、まず相手を吸血樹の根で
”接触” を愉しんでから口と吸血樹の根で”お食事”する
様式となった
勿論、容姿も重要ででライブ・アーティファクトの少女ように可愛くなければ
歯牙にすらかけなかったし
異性装の男性は何人か遭遇したが彼らは、そもそも美味しい血の匂いはしないし
遠くからシセラが忠告してくれて、変な轍を踏まずに助かっていた
ミーアの血は数ある香りの中でも特に
上品な甘い苺と牛の乳のような味と香りを併せ持っていた。
とミーアは優しく背中から抱きしめてくれ柔らかい感触二つを背中に感じた
以前ならそれだけでもドキドキしたのに今はまるで姉に抱きしめられて
いるかのようでもうドキドキは感じなくなってしまっていた。
そして、新たに双丘の大きさの違いが段々羨ましく感じていた
(いいなぁ大きなお胸 わたしってこれ以上は大きくならないもんね)
とまるでオンナノコのような思考が当たり前のように心を支配していた。
わたしの双丘は外観年齢よりかは幾分慎ましかったのである。
時折訪れる焼け付くような男性特有の劣情も
今の躰になってからは嘘のように消え失せて
その分、食べ物やお洒落・ミーアの双丘に対する淡い嫉妬に
感情が振り向けられる事となった。
ブラを買いに行った時も店員には
「もう少し、大きくなりますよ ”恋”してみたらどうでしょうか? お嬢様」
と言われた事があった。
最初は違和感を覚えていた ”お嬢様” と言う呼ばれ方も今ではすっかり慣れ
心地よかった。
「だってわたしミーアおねーさまが大好きなの 誰にも渡さないんだから
あの娘達もよ」
「後でその大好きの意味どっちの意味かおしえて? 」
とミーアもまた目を細め優しくわたしの頭を撫でてくれる
「ふふ、だーめっ 誰にもおしえないも〜ん」
とミーアをからかうように答える。
この頃、わたしはライブ・アーティファクトの”少女”達が堂々と暮らせる
土地? 空間?が有ればいいと漠然と考えていた
今のレフィキア空間でもいいが外界からは隔離された世界でもあり
ちょっと罪の意識もあった。
わたしの我儘ではあったが
誰にも道具扱いされず、ただお菓子を食べたり一緒に寝台に潜り込んだり
髪を梳きあったりそんな普通の暮らしをさせてやりたかった。
「残念ね、でもいつかきっと聞かせて? 」
「いいわ いつか......きっと...教えてあげる」
と想いを心に押し込めて
「今日は、お休みしたいな疲れたの」
「そうね、そうしましょうか うふふ」
と沐浴場ではふたりの少女のじゃれ合いの音が暫く続いていた。
「シーア様、沐浴場はいかがでしたか? 」
と 賢者の懐の屋敷長トリスティがシーアを呼び止めた
「えぇとっても気持ち良かったわ ごめんない朝からこんな贅沢な事をして」
沐浴といっても大量の井戸水や薪や火晶石を使う
とても贅沢な事の一つである。
「いえ、お気になさらず所で髪変えられましたね素敵ですよ
しかしお気を付けて、髪動いていますわ
シーア様が人外であることは私共は百も承知ですが
人外の中でも”特別”ですのよそんな事できるのは
ですから ”偽りの髪飾り” をお勧めしたいのですけど
素敵なリボンもありますからね どうしましょうかね? 」
「そうね、衆目じゃ目立つもんねシーちゃんのソレ」
「ちょっと知り合いに相談してみますわトリスティさん」
「ちょっとお節介だったかしらね」
「いえ、気遣いありがとう御座います。 」
と礼を述べ
部屋に戻るなり
「クローティアちょっといい? 」
『なっ何じゃ 沐浴からもどるなりいきなり』
やけに挙動が怪しかったが
「さっきねトリスティさんに ......こう言われたの」
今も吸血樹の根は ふにふにふらふらと意識を向けていないと
所在なく”獲物”を求める様に動くのである。
流石に衆目の中ではこれは具合が悪かった。
『”偽りの髪飾り”なぞ無くとも”ユラ”に任せとけばよかろ 小奴はこれくらい児戯に等しいぞ
リボンはいつも身に付けておることだし なぁユラや ”偽りの髪飾り” もお主に頼んでよいかの? 』
{きゅいきゅい〜ん}
とどうやら快諾したらしい。
久方振りのユラは元気そうだった
『たったいまから儂らとパスがないものには普通の色違いの髪にしか見えんお主の自由意思で
それを一時的に解く事も出来るわ 安心して衆目に飛び込むがよかろ』
「えっもう終わり」
わたしには相変わらず動いているが施術(?) は終わったらしい
『 儂はお主の相棒ではないかソレくらいちょいちょいじゃよ 』
と簡単に言っていたが
”偽りの髪飾り”は未開封の遺跡や遺構からしか見つけ出すことが出来ない
至宝級の宝物あったことはシーアは知らなかった。
「ランドルフ様から、大氷狼様の贄はお預かりしております
この”サキュホーン”の肉で御座います。 」
と屋敷から戻って来たロムルスを前に大きな
床が揺れるくらいの肉の塊を ドスリ とウル族男性三人がかりで
運んできて置いた。
『 ふぃー やっとレヴィアという魔導の嬢ちゃんから開放されやしたぜ
しかし良うござんすか あっしはこれでも”殿方”ですせ
女世帯の所にオトコ一人ってのも落ち着かねぇモンで』
相変わらず目をギョロギョロさせて、屋敷の所感を述べていた
「いいわ、貴男人型ではないし あの娘達も貴男を気に入っているようだから
屋敷に入るのはこのシーアが許可するわ 堂々としてなさいな」
わたしは、ロムルスに屋敷内に立ち入りる事を許可した
ライブ・アーティファクト達も気に入っているようであり拒否する理由はなかった。
『それにしても 吸血樹の根 でやんすか シーアお嬢様
おっかねぇ 能力を手に入れられましたね
あっしもこうしてお嬢様のお膝の上で篭冥利につきまさまぁ』
と満足気であり
わたしはロムルスを広げたスカートの上において抱きかかえるようにしていた。
わたしの好奇心が 吸血樹の根 をわさわさとロムルスに這わせていた。
『それ ほんとに おっかねぇでやすよ あっしがいつ単なる木屑になるかも知れねえで
今も、すごい及び腰でさぁ』
「ふふ、大丈夫よロムちゃんそんなに怖がらなくていいわ
だって貴男”も”大事な家族じゃない」
と黒光りする蔓を優しく撫でる。
『”も”ってことはあっしの他にも殿方がいらっしゃるので? 』
「えぇ ”ヤンス” と言って半人半魔の殿方よ、今はベルゼで情報収集をやって貰っていて
近々、逢わせてあげる
彼にも”黒い金糸雀”がいるけどお母様に頼んで目玉の使い魔を与えるつもりよ
まだ候補はないけど、金糸雀は空専門で大局的な情報しかつかめないの
今度は”地”専門の局所的な観点の使い魔が必要よね
それはさておき、顔合せは後でさせてあげるわ」
という
『 へへっどうもでやすよ それはそうとあのデカイ肉あっしにですかい? 』
と二本の蔓を自分の一部を解して伸ばそうとする
「あれは ダメ あれは大氷狼用の贄なの格納してもいいけど食べちゃ絶対ダメ」
『 うはっ こりゃおいそれとは手ぇだせねぇな いいでやしょしっかりお預かりしやしょ 』
「これからはミーアお姉様がずっと
持ち歩くから勝手に魔物を獲って食べていいって言ったじゃない あんなお肉も食べたいのかしら
『 へぇ出来れば時折喰わせてもらえると嬉しんですがね 肉食樹の一翼としては
”本能” が疼くもんで捌いた肉塊も好物でしてね ッヘヘ 』
「もう、ちゃんとした肉塊も上げるわ心配しないで」
『 すまねぇ 』
「食べる本能に謝罪は要らないわ」
と彼にも肉が必要な要素ではあるらしい
「さて、行こっか? 」
と皆に声を掛け、大氷狼の礼儀に沿うようにおしゃれ着のケープコート
を着込み ブーツを履き祭壇の見取りをもらい
アガテ連峰に向かう。
シリーはそんな一行を遠目で見ていた
「やはり、彼の大氷狼に用向きがあったんだねぇ
あんたががいたらあの娘達に従いて行くって言ってたろうね
女のアタシが代わりに行っても、足手まといだろうしね
女ってヤツは因果な生き物さね」
と行方不明の夫の今では形見の大盾と大剣をしみじみと
光る物を眼に浮かべ シーアの小さな人影を追っていた。
祭壇の前で先の邂逅・問答の後、
少し山頂付近まで足を進める。
やがて、大きな洞窟の入り口を蒼い氷で大半を塞がれかろうじて人一人が通れる
穴が空いていて凄まじい冷気がわたしを襲う
「うッ寒っ 彼処ね」
と皆一同頷き洞窟内に入る
岩の部分はやはり相当広くあの大氷狼でさえ小さく感じられるほどだった。
時々、氷の魔物が姿を表すも本能で感じるのだろう
カサカサと気配が遠のいていく。
「うふふ ねぇ、シーアこういう時実体が無いといいわぁ 寒くないもの」と
シセラはまたふわりふわりと漂いながら言う
「あの娘はどうしてる まだネてるの? ほら リズベートって言ったっけ? 」
とシセラはわたしにまとわりついてきて指輪を幻体のまま突きニヤニヤしていた
彼女が触れた途端
左手左手中指には銀の蔦と紫水晶の蔦が絡み合った指輪は存在を示すかのように
ゆっくり淡く瞬いた。
「この娘寝るのがホントに好きねぇ あたくしだったら退屈で霧散してしまいそう」
<< そ・れ・と 貴女、すっごいモノ、中に飼っているのね ハ・ヤ・クわたくしにも
ミ・セ・テ >>
と皆には分からいように念話にわざわざ切り替えてきた
<< なんか、そうらしいわ わたしも良く分からないの 大氷狼は
冥闇の獣と言っていたけどわたしの意識に語りかけてきたのは
ライブ・アーティファクトのような少女だったわ >>
<< ウフフフ あたくしその娘が貴女になったらますます惚れちゃいそう
でも今はここまでよ お楽しみはとっておきなさいな >>
とソレっきりこの話題には彼女・シセラは触れることは無く
「もうすぐ ここの最大の難所よ ミーアの宿り木が役に立つわね」
とシセラは先の方に目を向けた。
『何? 難所って目当ての ”隻眼竜 レオフィール” かそれともまだ大物が? 』
「またぁ、力まかせの魔導書様が考えそうな事だこと」
『違うのか? 』
と流石に、初邂逅のような応酬はなく二人(?)共大人の対応であった。
「そうよ、 わたくし ”難所” とは言ったけど ”難物” とは言っていないわ
幾多の冒険者を呑み込んだ ”音無しの谷” よ
いいミーア、宿り木の修練の成果見せなさいな
あなた、あの娘達が居ない間を縫って修練したんでしょ」
「シセラ様、知っていたの? 」
とミーア
「当たり前よ貴女の努力の成果は”隻眼竜 レオフィール”の攻略の鍵よ
それとラヴィアちゃんあの娘ね
ねぇ今回はわたしが陣頭指揮執っていいかしら
「えぇわたしはいいわ貴女の知略なら歓迎よ」
「ありがと」
わたしは水晶の都とベルゼの空中遺跡ギメルでの活躍と知略ぶりを目の当たりにして
今回は彼女に執らせてみようと思ったのである
軍師は多いほうがいいがお互いの意見を通そうと却って決断が遅れる場合がある
少人数一行では軍師役は一人でよく
例え、策が失敗したとしても
あとはその状況に応じて動けばなんとかなると言うのがわたしの持論であった。
皆、頷いた
”隻眼竜 レオフィール”とは先の大氷狼との邂逅で
{ヤツの名は ”隻眼竜 レオフィール”またの名を”硝子竜 レオフィール ” という
文字通り透明で疵が分かりにくい 我も、疵がどれほど
入ったか分からず 頃合いに大技を放ってしまってな
されどヤツはまだピンピンしとったわ。
あの硝子細工もどきの竜め!!
次の大技をヤツにくれてやるには、ちくと間が空いてしまってな
危うく、こちらが殺られるところじゃった。
なんとか我が主・遺産の少女 チフェーリア様が動きを止められてな
そこを我の氷爪で くいっと眼を抉ってやったのよ
そうしたら、奴め透明化が中途半端に成りおってからに
後は一気呵成の攻撃よ ふふふ お主らはその透明化が中途半端なヤツとやる上
位階が下でも竜は竜、その眼にこそ能力が宿る
我が片方抉ったお陰で半減どころじゃ無いくらいに能力が損耗している筈。
あとはお主らでも大丈夫であろう}
とも言っていたのである。
しかし、相手は手負いの魔物贋ディーボと件といいキマーラの件といい
最初はわたし自身、二度目はミーアを喪いそうになった
あんな目は二度とゴメンである。
シセラと目線で会話する
「ねぇ、ビヨン? 貴女の火の能力見せてもらうわよシーアもあたくしに任せた以上
従いなさいよ? 」
とビヨンにいう
[ はい、シセラ シーアからシセラへ一時的に命令優先を変更 ......完了
敵対相手の生命活動の ”完全沈黙” まで維持 ]
「それでいいわ それと寒くて水銀の嵩減っていない」
[ そうですね、この寒さだと五分程、嵩減っていますね
一応”飴”を貰っていいですかシーア? ]
今の会話でやはりシセラは知能の高さと博識さをみせた
錬金術師時代はよく温度で水銀の嵩が増えたり減ったりして
配合が変わりレフィキアのお叱りを
受けたっけ と、もう顔も姿も思い出せない御兄様の時の出来事が
ふっとよぎった。
「そうね、これまたブレイルさんの所で貰ってきたわ、口に含んでていいわ」
[ おしゃべりはできまないのが残念ですが シーアのお言葉のままに ]
と飴を口に含む。
くちゅりくちゅりと可愛い口と頬が動き思わず頭を撫でてやる。
彼女も満面の笑みの表情で返事を返した。
暫く、またくねった洞窟を進む
小型の魔物の声が時折断末魔を上げる
何事かとよく観察するとロムルスが二本の蔓で捉え食べていたのだ
『ちょっと、冷たいですがこれはこれでウメェや どです皆様もおひとつ』
と捉えられた小型魔物は青白い蚯蚓の頭(?)と尻(?)に目玉がついている
名も無き魔物である。
天井にも、氷柱のような先端から細い触手を生やして大氷狼のような冷気の涎
をタラタラ垂らしているものもいる、それらをロムルスは上手に捉えて食べている
姿の嫌悪感が完全に食欲をなくすそんな輩である。
「いっいいわ 遠慮するわ ねミーアおねーさま」
「そうよ、こんなモノ要らないわ ロムちゃんあまり食べるトコ見せないでね」
『やれやれ おじょーさま方は好みのご注文が多いですね 分かりやしたでもおじょーさま方が
あっしの食事を見なければいいのでは?
あっしには皆様方の様なお足がござんせんしこうしてミーア様のお手に
委ねられて居るわけですから 』
「言うわね、”こっそり”食べてね」
とミーア
『へぃ では”こっそり”食べやしょ 』
と言うがやはり普通にロムルスは魔物を食べていた
そんな会話が続き尚も一行は奥へ奥へ
いつぞやのヒュージ・ワームの体内を想起させシーアはあの蠢く肉壁がよぎる
すると、なにやら鼻をつく今まで嗅いだことない刺激臭が漂って来た
「魔物!? 」
とビヨンを見ても首を横に振る
「ねぇシーア大樽ある後空小瓶少々」
と「有るわ 空の大樽なら飴の容れものが20程、空の小瓶なら
わたしの香水の空き瓶がいくつか
可愛いから持っていたし空になったこれにまた入れてくれるのよ」
「ねぇ、それ使い捨てていいかしら ちょっとそれに用があるのよ」
「えぇ、いいわ香水買う時瓶の代金も上乗せだけど瑣末なことだし
形はお店に行けばいくらでも有るから」
「いいわね、それに今から匂いの元を詰めるからね 丁度お誂え向きだこと
何かは、ブツ見せて説明するわ 錬金じゃ使わない素材だからね」
ライブ・アーティファクト達は、寒いのは嫌と言ってお屋敷に隠っていて
今はいない。
やがて少し広けた場所に出ると先程の刺激臭が一層濃くなる
少々目に染みるがソレをわたし達は目の当たりした
濃い茶色でドロリとしいて”泉”の様に溜まっていた
ごぼりごぼり と泡と共に時折湧いている粘性の有る物体が其処にあった
触ろうとしてシセラが
「それ 触らないほうがいいわ服や手に着くと匂いも色も落ちないわ
手はサボンで洗う必要があるし、服は捨てることになるわよ」
と言われ手をひっこめた
匂いに敏感なミーアは遠巻きでみていてビヨンが付き添っていた
「まさか、これがあるんなんて シーア貴女、女神から寵愛を受けているとしか思えないくらい」
「これは? 何? 」
「ふふ これ ”大火蜥蜴の涎” とい言われているモノよ
これね、”油”よ ビヨンここでは貴女の火の術 厳禁よ これ全部火が点くとこの洞窟もろとも
アガテ連峰がただの岩くれになりはてるわ
フレイルも絶対使っちゃだめ この油はね瓦斯も危険なの 良くって? 」
[ 命名:”大火蜥蜴の涎”と定義 形態:液体に分類
この物質を、火気厳禁物質に分類
漂う気体も同様に分類 匂いとの関連付けを設定 ]
「ふふ、そでいいわ、ほんとに魔導工学の落とし子とは思えないほど お利口さん
シーア其処にある 哀れな冒険者の頭骨で大樽に汲んでもらえる
あぁビヨン 貴女がやってシーアって服汚しそうだものね 」
[ えぇ、シセラ このビヨンにおまかせを
液体操作...開始... 対象:”大火蜥蜴の涎” ]
とビヨンは右手を淡いピンクに輝かせた
すると”大火蜥蜴の涎” がするすると意思を持っているがごとく
動きだし 予め用意した空の大樽10樽分に蛇の様にうねりながら
入っていく同様にわたしの香水の空き瓶にも細い糸となりうねって入っていった
[ 操作...終了...]
と汲み取る作業は頭骨を使うまでもなく滞り無くおわった
「ビヨン、いつの間に? 」
[ えっへん シーアの4度目のアレで機能が目覚めた様です
生物の血を含む液体が操作出来るようになりました
ただし生物の血は”体外”に出ていないと操作は出来ないようですが ]
「うふふ、流石はブレイルさんね ビヨンあとで”ご褒美”あげるわ」
[ 嬉しい感情が沸き起こりました”ご褒美”忘れないで下さいね ]
とビヨン大タルに密封してビヨンがミーアの小鞄に、
涎が詰まった小瓶多数はわたしが小鞄に収めた
後にわたしが香水の瓶に入れた”大火蜥蜴の涎”が賢者の懐経由でシリーに渡り
あの名無しの村が
油の街 ジル・サラマンドラ となりやがて ジル・サンドラ と呼ばれ
香水の瓶が象徴の看板が立ち並ぶ、
セネストリ に次ぐ商業人や行商人の商業拠点に発展するのは
また別のお話である。
ちなみに、ジルというのはこの世界で ”銀” を表す言葉である。
尚も一行は奥へ進む 嫌な匂いも完全になくなり
大きな裂け谷が見えてきてその対岸の崖の途中に先への穴が続いていて
いるようであった。
上にも下に迂回路はなく、跳躍して遥か上のその穴に飛び込む必要に迫られた。
「あれが 難所 ”音無しの谷” 石を投げても音がしない奈落の谷よ
この場所が幾多の冒険者を呑み込んだ難所ってわけ
そこでミーアの宿り木よ アレなら、ここの攻略は児戯よ
ミーア、此処で宿り木は使える?」
と改めてミーアに聞いていた。
「はい、シセラ様此処には、植物も幾分ありますし
足場を造るには問題ないかと だた造れる足場はここの植物の量だと一回につき
一つ分ですので
足場を作りそれに乗ったら直ぐ、次の足場移ることを繰り返せば
なんとか行けそうだわ
皆が跳躍中に次の足場を造ります ...それを目指してね ビヨン」
とミーアは言う。
わたしの蝶の翅は下から上からと風が吹いていて
使えなかった。
「いいビヨン シーアを頼むわよ 一度足場造って乗ったら、
躊躇わずにすぐ次の足場を目指して飛ぶのよ
足場の維持にもマギを使うわ いいミーア、出来るだけ貴女はマギを温存しておくの
人外を癒せる唯一の手段を持っているし、宿り木を宿している貴女は一行では
絶対死んじゃだめ 分かった? あの奈落は人外の貴女いえど存在の担保は出来ないわ」
「はい、シセラ様 」
ミーアは数少ない植物を宿り木で取り込んでいた。
それが足場の素体と材料になるらしい 普段の遺跡や遺構ではふんだんにある植物を
取り込み足場を造れるのだろうが 此処は凍てつく洞窟内で陽も差さない
火気厳禁なため今まで輝晶石を使っていたくらいである
ここの洞窟内での植物は限られていたのある。
「足場も出来るだけ小さくなさい ...では、いくわよ」
とシセラが鼓舞する。
ミーアはわたし達の崖のほんの数歩先のやや高い空中に小さな足場を拵えた。
まずはミーアが軽々と跳躍
次にわたしを抱えたビヨンが跳躍して着地したと同時に
更に数歩先のやや高い空中に次の足がかりとなる足場を造る
ミーアが飛びわたしとビヨンが飛び足が離れると同時に
直ぐ足場は消えて、常に前方に一つだけの足場を目指す
この跳躍を小気味よく繰り返す。
幾度と無く風が乱れ、跳躍の軌道が乱され足を踏み外しそうになることも何回かあった
それを高度を上げながら繰り返すのである。
最後の足場はやや崖穴からやや遠かった
「ゴメン、これで植物切れよ遠いけど頑張って! 」
とミーアは無事対岸の穴へ飛び込む
わたしを抱えたビヨンが最後の跳躍をするが着地の寸前
風がまた乱れ横薙ぎに一際強く吹いたのである。
戻る足場は消えていて躰を風に持っていかれてしまう
「ビヨンーっシーちゃんーっ! これに捕まって!!
最後の取って置きよっ「
と彼女は温存しておいたらしい最後の素材で蔓を作りビヨンにめがけて放つ
ミーアの強い意思が風に打ち勝ちソレはまっすぐビヨンに放たれた。
[ ミーアッ! ]
と声と共に パシリと確実に蔓を掴み わたしとビヨンは
生命を繋ぎ、この世界での存在をまた確定させたのである。
ドサリと二人共転がるように穴の奥へミーアと転がり込んだ。
「ふぅ、やはり切り札って重要よね ミーア?
わたしは シーアの存在が消えない限りこの谷なんて水溜りを跨ぐのもにも等しいわ
幻体のままで良かったわ」
とやはり幻体である彼女もうっすらと汗をかいていた。
やはり浮いているとはいえ シセラの存在が全てわたしに掛かっていた
クローティアも、レフィキア内の全ての存在がわたしが存在することで存在している
わたしはわたし自身を喪う訳にはいかなかった。
「今日はここまでにしましょう、 絶え間ない緊張は戦闘には向かないもの
休める時にしっかりや休むこれがいいのよ
ビヨン 敵対反応はどうかしら? 」
[ 敵対反応... ...極微...数一...現在不活性... ]
「いいわ 此処で天幕で休むかお屋敷で休むかにして
此処で暖を取るなら 油は煤が酷くて臭うから 火晶石で取るわ
どうする?
『儂はどちらでも構わんぞ お主らの様な肉体ではないしな
シセラは幻体・ビヨンは魔導構成体であるしのぅ』
「それじゃ お屋敷で休んでいいかしら? シセラ、二人をオネガイ」
「ふふ、勿論いいわ お屋敷でゆっくり休みなさいな二万八千、数を数えたら呼んであげる
足りなければ言って頂戴な」
「ソレじゃお休み」
とわたしとミーアはレフィキア世界に飛び込んた。
お屋敷は相変わらずライブ・アーティファクト達はお気に入りの木陰で
お菓子を食べていた
レフィキア世界内は外界がとても凍てつく洞窟内とは思えないほど快適であった。
一方外界の洞窟内では シーアの冥闇の獣(?)少女(?)についての
考察が議論されていた
彼らは暖を取る必要などはもとより無く風が吹き込んで来ない場所で
簡易的に毛布を敷いただけであった。
シーアは躰を温めるために沐浴場へ、
ミーアは食事の用意をするため厨房へ、
ライブ・アーティファクトの少女達はそれぞれの部屋でそれぞれの刻を楽しむ。
意識を手放していた時の、あの 冥闇の獣の少女はシーアよりは高くミーアより低い
目はねっとりと絡みつくような小悪魔的でおねだり上手な雰囲気をたたえ
シーアである証も喉元に移動してた
そして、何より特徴的だったのは胸に縦に開いた裂け口である
(((( これが妾を妾たらしめるモノ ”冥闇の淵” ぞ能力はいまは言えぬがな )))
と
まさに、人外の象徴たるライブ・アーティファクトのいい所を寄せあつめたような
容姿であった。
それに今よりは豊かな双丘
わたしは、自分の躰を丁寧に洗いながらまた思い返していた
そこで、初めて”同性”としてあの少女に憧れを抱いた事に気付いた
もう既に女性に対しては異性のしての感覚はなく
ライブ・アーティファクトの少女達も可愛い妹感覚であった
でもあの少女はこうも言っていた
(((( いずれこの姿を取れるようにになる )))
とも
「うふふ」
と思わず笑みが漏れ慌てて口を塞いだ。
可愛いショーツを穿きわたし好みの豪奢なネグリジェで食堂に向かう
嘗てのように大股では無くいまはすっかり外観年齢相応の少女の歩き方で
時折ワサつく吸血樹の根を指に絡めて歩く。
ミーアが用意してくれた大好物の厚切りベーコンととうもろこしのスープ
大麦パン 季節の野菜 それと 食後はプディングと
ミーア手料理はやはり美味しかった。
それぞれの時間は思い思いに過ぎていく
{ほぅ、冒険者か? あの” ”音無しの谷” を突破するとはな
オレのエサににでもなりに来たか
それとも 大氷狼の傀儡か
クソッ 無い目玉がうずきやがるぜ 此処で待つとしようか
のぅ 遺産の少女よ 哀れなエサが来るのをのぅ}
と大氷狼よりは体躯が小さい”竜”は 寝ている
真上にぶら下がった大きな氷柱に閉じ込めれている
一人の美しい少女を見上げ呟いた。
かくてシーア達は一体の ”竜” と対峙しようとしていた。
次回 62話 万魔殿に棲まうモノ
お楽しみに
ニュアンスの変更はるかも知れませんが、ストーリーラインは変わりません
冥闇の獣(シーア第二形態)の設定画は後ほどみてみんに投稿いたします
このあとがきで後ほどお知らせします。




