58話 浮遊大陸からの吉報
ここは、タフタル大陸統制庁の最重要貴賓室
女神リーンの神託によって、統治されている宗教国家・タフタル大陸の統制庁の現最高統括責任者
ルルスを筆頭に、
王政国家 オルティア大陸の現王 リブス
魔道士・魔女・魔術師が仕切る統治者を持たない自由大陸 ベルゼの大賢者 ランドルフ
岩礁帯の土地柄故、小国の連合国家体 ルベリト大岩礁帯の首長 ケモール
商人が仕切る商業国家で魔導工学の発祥の地 総ての商業ギルドのギルド長(実質的な統治者)
なレルリア
五大陸の現王・大賢者・首長・ギルド長・統制庁の現最高統括責任者とそれぞれ
言い方こそ異なるが実質的な統治者が一同に会していた。
特にケモールは、嘗ての大怪我で躰の自由もままならず、特別に介添え役も同席であった。
「ふぅ、こうして嘗ての冒険者一行”竜の瞳”一同が顔を合わせると壮観ね
特にケモール貴男には無理を言ってごめんなさいね 盾役の貴男には
随分と助けられたわね。
お陰で後の四人は五体満足でなんとか、今まで生き残れたもの。 」
と開口一番ルルスは、しなやかな手付きでケモールの荒々しい髪や頬を撫で擦る
「よせよせ、礼なんざよぉ これは名誉の負傷さ、だが忌々しいのはテメェ自身の躰
を護りきれなかったことが今でも悔しいのさ これ以上は詮無き事よ。
所でよぉ わざわざタフタル大陸まで、
公文書の書簡まで寄越して、俺らを呼んだのはどういう訳だい?
ところで、よくレルリアのヤツを捕まえたなぁ 自国じゃ、商人共の野心家が群雄割拠していて
とても、一箇所に留まっていられない状況と聞くが? どうよ、その辺は? 」
「ふふ、相変わらず質問が多いこと、 レルリアには我らエル族に伝わる秘伝で
連絡を付けたのよ」
とルルスは当たり前のように言う。
「けっ、相変わらずしれっと”秘伝”とやらを息をするが如く使いやがる」
とケモールが毒づくと
「あなたこそ、少数種族を多数抱えてよく寝首をかかれないこと」
と意趣返しをしたのは嘗ての斥候役、レルリアそのヒトであった。
「そこは、俺の実績がモノをいうのさ 忌々しい躰に成ったとはいえ
まだまだだね おれの後継者も片足が義足だが頼もしいやつだからな
今は、俺は半隠居の身ってヤツさ」
「ふ〜ん、まぁ実力は、アタシも認めてあげるわ
所で、ルルスぅ コイツの言ってた 一同をわざわざ集めた理由ってなに?
ディーボ絡み? 」
「いぇ、 ディーボは先のオルティア大陸の一件以来音沙汰ないわね
あれ人造ってきいたしそういう意味では、ディーボはなりを潜めているわ
尤も次回の日蝕儀礼の日は危険だけどね。 」
「これも女神リーンのご信託ですかな ふぉっふぉっ」
と長い髭を指で扱き形を整えるのは、ベルゼの大賢者 ランドルフである
「そうよ、ランちゃん 流石は、賢者様ね半人半魔の貴男がよく”魔物”なんて
蔑まれて、今の地位にまで上りつめただけのことはあるわ。 」
「ふぉふぉ それをいうならお前さんだってまだ、種族間対立が盛んな頃で女性の身で
大官僚組織に自らの理想の実現のため
最初は統制庁の掃除人として潜り込み今は、おしも押されぬ現最高統括責任者じゃからのぅ
女というのは凄まじい執念が具現化したようなモノじゃわい」
とお互い軽口が飛び交い第三者が聞いていれば、一触即発になる言葉も飛び出すが
彼らにはそんな剣呑な空気は微塵も無かった。
「さて、お互いの現状の立場や国情が見えた所で、本題に入るとしましょうか」
さすがは嘗ての治癒師、人心の掌握はお手のものといった所である。
「一同、わざわざこの地に脚を運んでもらったのはリブス 貴男にも深く関わっている
”銀の風” についてよ」
と ”銀の風” の言葉がルルスの口から出た途端、今までの皆の破顔が引き締まる。
「新人冒険者ながら
いきなり人造ディーボの ”少人数” での討伐、変種のキマーラの討伐も
少人数での討伐とかなり出来すぎな成果が
この地 にも耳に入ってきてるわ あの貴男の親友であり”竜の瞳”専属のギルド受付
”ドリエル”からも報告がきてるわ ”銀の風” がわれわれに敵対していないことは
明白だけど私達が関心があるのは ”銀の風” の行動原理よ なにが彼女達を
突き動かすのか、後ろに誰が従いているのかだたそれだけよ。
その者の意思で動いている傀儡に過ぎぬか はたまた彼女独自の理想か
野望かそれを知りたいの」
「ふぉふぉ、理想を掲げて掃除人から統制庁入りしたお主らしいの」
「茶化さないで!! 」
「おっと、口がすべったわい 赦せ」
それには応えず
「ともかく、皆の同意を待たずに五大陸全部の渡航許可を発行した貴男の真意を聞かせて頂戴。 」
とやや強い口調で ルルスは問いただす。
そして、さっきから親に内緒で悪戯をして視線を所在無く彷徨わせている子供の
ようなリブスに、皆の視線が集中し言葉を待つ。
「おれは、許可を出した事に対しては詫びるつもりはない」
と詫びれもせず堂々とした声音で第一声を放つ
そんな、リブスの言葉を受けてケモールは
「何だと、テメェ!! 」
と一同が底冷えするような声音で言葉を挟んだ。
「ふぉふぉ まぁ、彼も考えなしに許可したのではないでしょう?
昨日、今日結成した新人一行でもあるまいに ケモールは
相変わらずですねぇ」
とランドルフは、ケモールがワザと剣呑な言葉を発し他自分も含めて4人の気持ちを
先に代弁したのを、察していた。
「まぁ、皆の前で儂というもの変だな ボクのとこにはリブスやドリエルがきちんと
魔女・メトリエーテ女史から許可貰っての事だから何も言わなかったがね。
許可なしに入ろうとしたら、さすがにちょっと口を挟ませて貰うつもりだったよ
なぁ、リブス改めて聞くけど五大陸総ての許可を事後承諾という荒業をしてまで
なぜ許可したんだい?
気の早いお前さんらしいといっちゃ らしいがね」
と父親が息子を庇い立てするような口ぶりで問うた。
リブスは堂々と、言葉を紡ぐ
「先ずは、あの人造ディーボの件だそれと、それにつられてあぶり出された
邪教集団”クィエル教団”、それの首謀者名や活動内容が朧気ながらにでも
判明したこと、それに関係して秘密結社”銀の三日月”との関わり等だ
これだけでも、十分な成果な上に我が娘の病まで完全に取り払ってくれた
五大陸総ての渡航許可は相当と考えるが?。
皆の国も、ディーボや邪教集団や秘密結社 ”銀の三日月” には頭を悩ませておろう」
と堂々と言い放ち弁明をした。
「たしかに、ディーボや邪教集団の件は頭が痛いわね。 ここタフタルでも
邪教集団 ”ユグドラシル援助会” なる集団が怪しげな儀式をして
孤児院の若い娘が ”いなくなる” ことが多発して慈善を旨とする孤児院が
逆にそのような集団の人員や贄の提供に一役買っているともなれば
内外に示しがつかないから。 あっ これ特秘事項ね。
獣や魔物の贄を必要とする土着信仰までは縛るつもりはないけど
流石に、孤児院の子供達がその対象となっていちゃねぇ 看過出来なくてねぇ」
とルルスは困り顔でリブスの質問に答えた。
「それを言われると此方も、同じような状況だぜ、今でも少数種族のいざこざもあるし
でかい海の魔物の脅威もある 何しろ、奴らが海の底で身動ぎ一つしただけで
地揺れや海嘯が発生して、
いつなんどき奴らのご機嫌を損ねて、大地揺れや大海嘯になるかわかんねぇ
そんな危機に日々怯えなくちゃなんねぇからな
それに加えてお前が言っていた集団共だろ 全く現役時代の俺が何人いても足りゃしねぇ」
と先の発言の語気はどこへやら、さしものケモールも言い訳する悪ガキのようにしおらしくなった。
「アタシのトコは、ヒトよ ヒ・ト 困っているのはディーボや魔物は当たり前だからあえて言わないけど
ヒトがアタシの今の座を狙っていて、武闘集団フレジアが暗躍してるわ
川に、死体の無い日なんて三昼夜が最高記録なくらい物騒な感じよ
犠牲者は商人がほとんどだけどね。 困ったモノだわ」
とレルリアが口と尖らせて拗ねるようにいう。
「ほれ、皆の国も厄介なネタがあろう 俺のトコはその ”銀の風” のおかげで
すこしは、見通しが効くようになったぜ ほんの少しだがな
たから、あの娘の訪れが何等かの変化に繋がると考えてな
それに歴代の王としたのも おれが個人名を記さなかったのはな 定命の理に倣い、
転生の環に入っても次代に受け継がれるようにワザとだ
俺が健在な内にと思ってのことよ。
なにしろ、あの娘は俺の国の住人で既に定命の理から”完全”に外れている
”冥界の住人” からな」
一同、口を結び じっと耳を傾ける。 その表情は真摯で荘厳な雰囲気を醸していた。
「定命の理のある貴男が少しうらやましいわ」
とルルス
「何だと? 」
とこんどはリブスが語調を強める番だった。
「何も、嫌味ではなくてよ ヒム族は、そうやって新しい考えや思想をどんどん
積極的に取り入れられるものねぇ
世代が ”短い” 故にね 例外はあるだろうけども
新しい事や思想に躊躇いというか忌避が少なく見えるもの
エル族は、一度これでいいと安定したら新しい考えを取り入れることに
すごく躊躇いを感じるのよ これじゃ長い定命の理も意味ないわ
私個人の意見としては ”停滞” は敵よ」
と理想に向かって、のし上がった彼女らしい言葉ではあった。
突然、ケモールが大きな手の平ををテーブルに置き
「なぁ、お前ら今回のリブスの件は不問にしねえか?_
一旦冥界の住人と契約した以上、取り消すには相応な対価を
支払わねばならんしそれがカネとも限らん
オレとしちゃ、国内は自由に行き来させるつもりだが
更に美味しい ”条件” をエサに実力を計るつもりだがね
丁度、いい案件があるんでな なぁに、またこのごろ海の魔物が
”身動ぎ”を始めやがっててな あれを討伐とは言わねぇ鎮めてみせなってな具合よ
ドウよ」 としたり顔
「「それ、いいわね」」
と後の二人も、同じくしたり顔で顔を見合わせる。
「リブス、今の聞いてまた冒険に行きたくなったでしょ
早く、貴男もその娘に頼んで定命の理から外して貰えばいいのに
ナニ、それともリーテが愛しいから共に最期まで歩むつもり? 」
「うむ、”アレ(リーテ)”を先に逝かせるつはない逝くなら俺が先さ
それにエリスもいる。出来れば彼女が婚姻するまではとも思っているんだがな」
「なんだかんだで立派な父親じゃない」
とルルス。
それからは何気ない歓談に華が咲く
「あとね、皆は”ライブ・アーテファクト”って知ってる? 」
「何? ”ライブ・アーテファクト”だと」
とリブスは聞き覚えのある単語に身を乗り出した
「知ってるの? ライブ・アーテファクトってどんなのか? 」
とルルスが目を細めてじっと見つめた。
「いや、ドリエルの奴に同じことをきかれたが新型の魔道装置の名ではないのか? 」
「全く、市井に疎いんだから いい? ”ライブ・アーテファクト”てのはね
............というモノよ分かった」
「うーむ、それ程のモノとはな でそれがどうした」 とリブス 残る三人は
既にその存在を知っているらしく無言であった。
「うん、それが先の邪教集団 ”ユグドラシル援助会” に少し関係があるのよ
それで気になって 魔道考古学のセンセの小難しい講義を受けたってわけ
そこで初めて詳細を知ったって訳ね。
驚いたわ、そんな存在がこの世界に有ったなんて
彼の ”銀の風” がそのライブ・アーテファクトを所有してたらどうする? 」
「「「「興味深いね、一度逢ってみたいものだ 御機嫌な時に会えればいいがな」」」」
「ふぉふぉ、それについてはボクが一番近いかも、何しろ ”銀の風” がボクを探して
いるらしいじゃないか」
「なぜそれが分かる? 」
と他の四人が問いただした。
「最近、ボクの大陸中を飛び回っている ”黒い金糸雀” がいてね
あれは、そこらの魔女や魔道士が使役出来る代物じゃないね。
ボクでさえもね ああいう喉から手が出くるらい欲しい代物がねいるんだよ
そんなのが当たり前のように飛び回っているんだよ。
きっと ”銀の風” の後ろ盾が何等かの目的で飛ばしているんだろうけどね
それに、儂の存在をワザと引っ掛けさせようかとも思っていてね。
上手く食いついてくれるといいがね どうなることやら」
と思案顔で長い髭を撫でる。
「ランちゃん、その情報いくら? 」
とレルリア
「さすがは商人だ そうだねこれくらいかな」
「足元みちゃダ〜メ 昔のよしみでおまけしてよ」
「ふふ、しょうがないね 後で使い魔を貴女に寄越すからそれに代金渡してやってよ
今回は現金取引といこうじゃないか ボクら魔道士はどうも触媒のような
現実的なブツを重要視する故かね 呪文はマギの流れの切っ掛けを励起するにしかすぎんから
どうもギルドカードの数字のみというのは心許無くてね」
「分かったわ」
とあとの三人もこれに倣いランドルフは、ホクホク顔であった。
「この件はこれでいいわ、最期に私が追い求めている事って知ってる? 」
「あぁ、この世界がでっかいまん丸い土塊で出来ていて
中は空洞で異元の空間に何者かがいるってヤツだろ」
とケモールはニヤケ顔で言う
「それよそれ私のもう一つの関心事よ」
「まだ、そんな御伽噺信じてるのかい? 」
「それを追い求めてもいいじゃない、 私が”小さい”頃おばあちゃんが聞かせてくれたもの」
「それがどうした? 」
「いや、なんとなくだけど ”銀の風” が其処に吹くとは思わない? 」
「はっはっは、冗談も段々キツくなって来たぜ なぁルルスよ せいぜい頑張って御伽噺を
実話にしてみせな でもよよく考えたらこれは浪漫があるな
浪漫を聞かされて黙っていちゃ”漢”が泣くからな
なぁ皆 何か面白そうだな 何か賭けないか?
「「「「賛成ッ!!! 」」」」 と四人がそれに乗る。
「ふんっ、見ててなさいよ」
とルルス自身もこの時これが実話になるとは、考えもしなかった。
「ではでは、今回のリブスの件はいつもの先走りる悪い癖が出たということで不問にします
”銀の風” については 大陸内の制限無しの自由行動は認め秘匿区域については各自の
判断で、また彼女には美味しい情報と与えそれぞれの判断で ”実力” を計ること
ライブ・アーテファクト達には絶対手を出さないこと
交渉する時は必ず ”銀の風” の承諾を得てからね
なにせ ”銀の風” は”冥界の住人”であるからそこを踏まえた上で
有利な ”交渉” をするように」
と今回の会議の主催者が簡単にまとめる。
「あっと、忘れてたわ ライブ・アーテファクトってね特殊な嗜好品が好きらしいわ
特に、ヒトの人体関連のね 魔女が使う触媒の様な ”素材” を買いに来たら順次このルルスに
必ず ”報告” するように医術院の検視官のセンセにも伝えて置いてね
ゴメンまだ有ったわ 今まで”銀の風”が”積極的”にヒトを殺めたとう話は聞こえてこないから
不可解な死体があったら ”慎重” な判断と検分をするように
今でも一部のヴァン族やドラコ族など野蛮な連中も暗躍してるし
所業はライブ・アーテファクトの所業と、紛らわしいから良く見て各々の
判断で処断してちょうだい」
「「「「...応...! 」」」」
と右手をテーブルにつきだし拳を突き合わせ賛同示す。
これも”竜の瞳”時代からの慣習だった。
「最期に、此処での会話とライブ・アーテファクトの存在は口外無用よ
禁をやぶればタフタル大陸統制庁に多額の ”寄進” をしてもらうわよ 覚悟なさい
これにて秘匿会議 ”赤の翼と金の嘴” は散開です
皆様遠路はるばるご足労様でした。
特にケモール貴男には、不自由な躰に鞭打つような事をしてごめんね
帰りは、統制庁特製の転送陣を使っていいわ」
「おぉ、有りがてぇ往路はきつかったが内外に、重要な何かがあると皆に知らしめる為にワザと
早馬車や早馬を使うからなしょうがねぇな
まして俺のトコは、岩礁帯だ 飛行艇まで引っ張り出してここまで来たからな
海の漢には空はきつかったぜ でも帰路は関係ないし悪いな」
といつもの無頼漢っぷりもこの時はなりを潜めていた。
「あとこれあげる 後で、使いの者に送らせるわ」
と大樽10樽分の特級治癒薬を見せる
「おほっう、これだけでタフタルくんだりまで出向いた甲斐が有ったぜ」
とニヤリとウル族特有の白い牙を見せつけ
「ではな、達者でな」
と介添え人と共に陣に吸い込まれた。
「「「では、俺達も行くとするか」」」
と残る三人が部屋を辞しようとしたとき
「えっと、リブスはちょっと残ってちょうだい」
「まだ説教か? 」
「それも有るけどね ...さぁさ後は先の通りよ観光するなり自由よ
たんまりおカネ落としていってね」
と仔細有りげにニンマリする
ランドルフとレルリアは肩を竦め ルルスの意図に気を利かし
「「こういうことは、流石官僚だ鮮やかなお手並みだね」」
とランドルフとレルリアは街に繰り出した。
あとは、ルルスとリブスのみ
「貴男、 ”銀の風” について何か隠し事してない? そういえばさ まだ ”銀の風” の種族に
ついて聞いてなかったわ そこら辺のアタリも付けているんでしょう?
優秀な王宮魔導研究施設もあるし、其処の施設長も兼務しているドリエルもいるとなれば
すごい ”憶測” が話されたんじゃないの 貴男が公文書をインク塗れにするくらいにはね」
と会議の招待の書簡も兼ねていたインク塗れの羊皮紙をチラつかせた。
「うむ、お前にはウソは通らんか」
「そうよ、私は治癒師よ 盾役と同じように面子の仕草や体調の
微妙な変化には敏いのよ さぁ覚悟して」
「しょうがない あくまで ”憶測” だということを忘れるなよ」
とリブスはドリエルと話した憶測と導き出された結果を話す
「うわうわ、それッ...」 と大抵の事に慣れているルルスもこれには目を見開く。
「これは貴男が隠すのも無理ないわね でも機会をみて他の面子にも話すわよこれ
私一人が抱えるには、あまりに大きすぎるわ」
「いいだろう、だが ”憶測” たと言うことを忘れるなよ 憶測で行動して
地に伏した仲間を大勢みてきたからな」
「ふふ、駆け出しのころ初めて貴男と二人で一行組んだ時と言っている事とおんなじね」
「ヒム族だって変われん事もあるさ」
「ふふ、かわいい ...ん...んんっ」
と突然ルルスはリブスの唇を奪う
ちょっと濃密な接吻の湿った音が静寂に響き
リブスは、自分に若い頃の姿を重ねた。
くちゅり、くちゅり
お互い成熟した大人である 言葉は要らなかった
暫し湿った音の共演が続く
ルルスの細い腕が、リブスの首から外れ、下へ伸びようとしたとき、
リブスは、昔の若い頃の幻影から現実へ戻る。
「んむ、よさぬか俺には妻も娘もいるんだぞ」
「だって、いまこの時は二人きりじゃない ホントは私ね......」
「それ以上は、言わないでくれ......頼む」
「ゴメン、ちょっとからかってみただけ」
とルルスはあっさりと腕を退いた。
「とっ、ともかくだこれは ”竜の瞳” の特秘事項だぞ
冥界の銀の娘の機嫌を損なって、
美しくも可愛い至宝を我が国から失いたくないからな」
「やっと、本音が出たわね」
とニヤリといささか下品な笑みを浮かべる。
「相変わらずだな、人心掌握の悪魔め」
「もぅ リーちゃんたら♡ 女神リーンの袂で、無礼な言葉吐いたわね」
と カリッ と接吻の余韻を破るように、ルルスはリブスの唇を噛んだ。
「可愛い子猫がいつの間にやら、とんだ悪戯猫になったもんだ」
とニヤリとルルスに意趣返しをし ルルスは、
「貴男こそ、立派なお髭をたくわえて... ...もう青い剃り残しの顎は見ることが出来ないのね...」
とシーアやニース達には決してマネ出来ない言葉が交差する。
二人は淡い恋心を体現したような、檸檬水を軽く含み余韻を楽しむように乾いた喉を湿らす。
「そろそろ、俺も観光したいんでな解放してくれないか? 」
リブスはじゃれて纏わりつく子猫を引き剥がすようにルルスの腕を解く。
「そうだったわ、何なら可愛い雑貨屋に一緒に行く? 」
「よしてくれ、土産はメイド任せだ」
「ちぇ、つまんないの〜ん」
「おまえこそ公務があるだろ」
「そうねリーちゃん♡、 もう昔ごっこは終りね」
「ではな、ルゥー 見送りはいらんぞ」
と二人だけの愛称で言葉を交わす。
「はいはい、 〜 貴男の行く末に、女神リーンの灯火が照らされますように 〜 っと」
とルルスが聖句を捧げ、リブスは部屋を出る。
後に一人残され、ルルスは名残惜しそうに何時までも唇に指先を当てて余韻を味わっていた。
居城に帰って唇に小さな怪我をしたリブスにリーテは何も問い詰めることはなく
ただ
「まぁまぁ、随分といたずらな猫ちゃんもいたものねぇ アナタのような傑物に噛みつくなんて」
と自分の唇に塗り薬を塗り、彼の先の余韻を塗り重ねる様に接吻をする。
一夫多妻を容認している十字聖教では、夫の甲斐性があれば妻を複数娶ることも可能だったが
変な所で堅物な気質のリブスはリーテが何より大事で
リーテ一筋の、今時の王族にしては珍しい恋愛観を貫いていた。
それぞれの統治者がそれぞれの大陸に戻る頃
ニース一行は、シーアから貰った武器の調整のため
武器屋”大熊の手”に来ていた。
「おぅ、ニースか どうよベルゼ入りは果たせたか? 」
「こんちは、ギタリさん お陰で一昨日許可出たぜ
まぁ、あとはコイツの実績だけだったがな。 なぁ、ソーヤ」
「オッス、こんちはです ギタリさん あん時はお世話になりました」
「その オッス ってのは異世界語だっけ なんでも挨拶がわりに親しい野郎同士で
やるとか? 」
「まぁ、そんなところです 最初はニースのアニキやギタリさんにまで大迷惑を掛けて
すいませんでした。 」
「なぁに、気にするこたぁねぇ 尤も店の中や表の通りで武器を構えた時は、
肝冷やしたがな ははは」
ソーヤは、この世界に降り立って、間もない頃ニースに連れられ最初の剣を手にして
嬉しくて元の世界の様に軽い気持ちで素振りをして自慢して
佩いている武器を不用意に衆目の中で構えて、戦意があるとみなされることも知らず
ニースが必死で相手の無頼漢を説得して事なきを得たが、
あわやニースの片耳が詫びとして無くなる所だったのである。
今でもソーヤはこの世界には”単位”等が存在せず総て
自分の歩幅基準で10歩圏内等と距離を測ったり
(これに関しては各種族毎で体格が近いのでウル族が10歩と言えば
他の種族が聞いてもウル族での10歩と考えるらしい上 同じ種族でも
相手の体格をみて瞬時に自分での距離感に置き換えるらしかった)
とか、日の傾きで大体の時刻を測ったり、家々の大きさがそれぞれの種族基準で
建てられていて、決まった規格など全く存在にないことに最初戸惑って
いらぬ誤解を招くことがしばしばあった。
それも慣れ、ようやくこの世界の規則やしきたり(ルール)に沿う
行動が出来るようになってきていた。
「まぁ、最初はコイツは、初対面のくせに意味不明の言葉をまくしたて
無遠慮なヤツだなと思った時もあるさ」
「それを、アンタが言うのかい」
と脇腹をナリアにどつかれるニース
「いてぇな ナリアよ」
と太い指でナリアの額をぐいと押す。
「アンタこそよ ニース 額に大穴が開いちまうよ」
と相変わらずの惚気っぷりである。
「まぁ、惚気はその辺にしときな みちゃいられねぇや」
「すんませんギタリさん ギタリさんのトコに来たのはこれらの武具の調整や鍛え直しの
依頼でさぁ どうか見てやってくれねぇかな」
「何をいまさら、改まってるんだい 遠慮は無しだ ニースよ お代は武具を新調するぐらいは
ふんだくってやらぁ さては安く上がると思っていやがったな」
「さすがは、ギタリさんだぜ まぁ俺らの命と躰を預ける武具だ
この際仕方あるメェ 今回の投資はベルゼでたんまり取り返すぞ なぁ」
と一行に同意を求める。
「...応!...」
とみな今回の武具の調整に、大事なカネを払うことには同意したようだ
一人でも、武具の調整代を惜しみ一行全体を危機に陥れるのは
もってのほかで、調整の上で招いてしまった悲劇なら武具のせいには出来ず
己の未熟な結果ゆえと納得するだろう。
冒険者の間では、これも気持ちを割り切る方法の一つだった。
あまり気落ちを切り替えられないでいて戦闘中に呆けていると
更に悲劇を招くのは自分だけではないのである。
「先ずは、ブツ見せな っと此処では駄目だ奥の工房でだ」
「どうしてなんすか ギタリさん? 」
とソーヤ
「まだ、ひよっこのオメェさんの為に言うとだな 此処で至宝級のブツ出してみろ
大騒ぎになる上、至宝級のブツがあると成ると ならず者・闇商会の連中に目ぇ付けられて
せっかくいい雰囲気のこの通りが、台無しに成ってしまうからよ
まだ他にも理由があるんだかな 肝に命じておけ
お前さんの不注意が災いを招くってな」
「すんません」
「おいおい、まだオメェさん 何も非があることしちゃいねえだろ謝るこたぁねえよ
全く、オメェさんのような黒髪で茶色の瞳の渡り人(異世界人)は変わってるぜ なぁニースよ」
「来た時も謝っていてばかりでこちらの居心地悪かったぜ 聞いたらたらあちらでは
挨拶がわりとか、相手に波風立たせぬように謝っておくんだと
まったく繊細な野郎だぜ 粗相したらその場で怒るしそれにたいして非を認めるってんなら
”すんません” でもいいがね」
「まぁ、いいさ それについてとやかく言うつもりはないということだ
ただ言葉や言動には慎重になれってことよ
冥界の住人に不用意な物言いして契約しちまって、魂まで隷属したヤツもわさんさかいるぜ
気ぃつけな 渡り人さんよ」
ギタリはニコニコしながらいう。
この時、ギタリの脳裏にはチラリとシーアの姿が脳裏をかすめた
(まさか、あの娘? 冥界の住人? いや考えすぎか 後でミーアのヤツを問いただしてみるか)
「すんません」
ちょっと、現実から離れていたがソーヤの声で戻される。
「ふん、まぁいい おい店番頼むぞ」
「へーぃ、 分かりやした」
と丁稚奉公の少年を呼ぶ
「どれ、この袋は持ってやらぁ うおスゲぇ軽ぇ 大きさからいってスゲぇ重てぇと思ったんだかな
こいつぁ冗談だと思っていた ”至宝級” の代物じゃねぇのか
それも工房で分かることだがな ついて来な」
とギタリは地下深く降りて行く
すると、鍛冶道具や冶金道具等が所狭しと並べられてその上裁縫・錬金設備まで揃っている
広い空間に一行が案内される。
他人を推し量るコトに長けている盾役のニースでさえ
このギタリという人物の来歴は掴めなかった
「ここが俺様専用の工房さ 術師のセンセに頼んで構築した人払いの結界も抜かりはねぇ
さぁ、ブツ拝ませて貰っていいか ワクワクするぜ」
とギタリは大きな体躯に似合わずはしゃいでいた。
ガシャリと乱暴に作業台の上に袋の中身を取り出す。
「うぉぅ、何だこりゃ これは”至宝級”のブツじゃねいか まさかてめぇら
王宮の宝物庫でも攻略したのか!? 」
「ちっ、ちげぇよギタリさん これは貰い物だぜ」
「莫迦も休み休み言えよ このブツ一つにしたって何十とある”手付かず”の遺跡攻略して
一本手に入れば御の字ってな感じだぞ それをこんなに面子の分、一気に都合よく
揃うわけねぇ えぇ、どうしたよ? これ! ...いや待てよ最近ベルゼで手付かずの遺跡が
たった一昼夜で攻略されたって話聞いたがな まさかなオメェらじゃないよな
これからベルゼ入りするっ言っているのに辻褄が合わねぇし
ケインズの一行でも無いって言っていたしな。 」
「ギタリさん ケインズの旦那知っているんで? 」
「あたぼうよ 俺とアイツはある組織の同期さ
この前、連れの商人野郎とアイツが此処に立ち寄った際、
今の攻略話を聞いたのさ アイツめ悔しがっていたぜ ははっは」
と、豪快に笑う。
「開封後は、適度な罠が仕掛けられているってんで、ベルゼ生まれの若い連中が
罠の解除の経験を積む格好の場になっているらしいぜ 尤も死人も多数出てるがな
そいつを観光気分で攻略されたらケインズも悔しがるだろうよ」
「ケインズの旦那でも難しかったんですかね? 」
とニースは、身を乗り出して聞き入る。
「さてな、後で冷やかし半分でいったら普通の魔物より”罠”や巡回型の魔物が非常に
厄介で、危うく面子が ムグル のエサになる寸前だったと言ってたぜ
まぁ ムグル については説明はなしだ 分かってるだろ ニース」
「そうだな でもよソーヤのヤツ分かってないみたいだぜ ギタリさん」
「渡り人さんよ 俺の特別講義といこうか
知りたかったら自分の”目”耳”鼻”触覚”で体験してきな
伝聞はあくまで概略だけで、攻略とは言えねえし、相手の言っていることの真偽もはかれる上
その人物の誠実さも同時に分かるって訳さ これは渡り人であるアンタへの俺からの
この世界で上手く渡って行く方法の一つさ
商人から情報買うって手もあるが、よほどカネ持ちか交渉事に
慣れていねぇと与太話に大枚はたいたうえ、出向いた先は
邪悪な連中の巣窟で運が良ければ傀儡にされこき使われ
運がなければ贄の材料よ。
娼館に売り飛ばされて終わりなんて”幸運”はめったにねぇ
渡り人さんには無理ってことよ
地味にニースに従いて実績を積んだほうが却って安全よ
まぁ、戯れ言と流すも好し、忠告と捉えるも好し後はおめぇさん次第だ」
「オッス、有難うございます ギタリさん」
「ほう、 (すんません) は言わなっな がはっはっは」
とおしゃべりをしながらも手は休まず彼の視線は絶えず武具に集中していた。
「ほとんど、調整は必要ないと思うがどうだ? 出処については
後は、聞かねぇ やましい方法で簡単に手に入るんっだったら
そこらのならず者皆もってらぁ」
「ギタリさん、有りがてぇ 調整についてはどうもこの握りに付いている革がしっくり来ねぇ
ちょっと ふるもの っぽくてよぉ なぁ皆? 」
「そうだね ちょっと窮屈かな」
「お前らの見立てではこの革は ふるもの に見えるか? 」
「えどういうことです? 」
と妖術師のオルト
「これは ふるもの に見えるが 古代竜の革よ
これだけでもかなりの財産と言いたいトコだが やはりかなり古いな
それでも ただで 銀翼竜の翼膜に張り替えるぐらいは出来るぜ
どうするよ? 」
「うひゃ、こんな革が古代竜の革だってよ
じゃあ彼処で見せてもらった革の鎧や魔導書の装丁やら全部がそうっだったてのかい」
とニースは呆けていた
「ちょちょと待てよお前ら、まだ他にこんなのが有ったってのかい? 」
「そうさ、まだこれくらいの武具や雑品がたんまりあって好きな得物持ってけと
言われて俺らはこれだけしか貰ってこなかったもんな」
とあの時シーアが見せた山を手で大きさを描いてみせた
こんどはギタリが、呆ける番であった。
「だれからだい、ってのは野暮だな
この銀翼竜の翼膜ってのは、そこらの雑魚竜共の革と違って
”生きて”やがってな使い手のマギを読み取り武器や防具にうめぇ具合に
本来のテメェ自身の能力
以上の莫迦力やマギの励起をもたらしてくれるんだぜ
あぁ、渡り人さんよ あんたはマギないんだったな」
「どうすればいいんですか ギタリさん」
「これはベルゼに渡ったとき”魔女”に細工施して貰うしかあんめぇ」
「魔女? 」
とソーヤは不思議そうな顔をする。
「おっと、分かっていると思うが......」
と此処でソーヤは言葉を取り
「後は、自分でだろ ギタリさん」
「そういうこった、あとはオメェらもあんまり得物見せびらかすなよ
一行全員至宝級もってたらどのような目で見られるかは
子供でも分からぁ」
「後、オルトさんよ」
「何でしょう? 」
と急に話を振られビクつく
「はっは 何もしやしねぇよ ベルゼってのは魔道や魔術・隠秘学の中心地だ
全身が筋肉で出来ているようなニースや、ナリア、あとソーヤだっけか にあまり
莫迦なイノ公みてぇに突っ走らないように指導してやってくんねぇか
下界とは魔物やヒト相手でも勝手がちげぇからよ
よく見てやってくんな」
「はい、分かりました 後、手入れはどうするんでしよう 流石にオーパーツ製となると
皆目、不明でして」
「よくぞ、聞いてくれました」
と多少ギタリは子供っぽくおどけて見せた
「これには ”白金の星砂” の粉末を少々布にまぶして刷り込む様に磨いてやるだけさ」
「えー、 ”白金の星砂” なんてどうやって手に入れるのさ? 」
とナリアが愕然とする。
「へへっこれ見てみな」
と大きめの革袋一杯の ”白金の星砂” のまだ砕いてもいない大ぶりの粒を見せる
「うひゃぁ、すげぇこれどこで? 」
「出処は、言えねぇ勘弁してくんな 俺もその人物に出処聞いたら”たんまり”あるそうだ
でよちゃんと代金は貰うが、粉末に加工してあるヤツを売ってやるから
上に戻ったら小僧に言いつけな」
一同は顔を見合わせ
「ギタリさん銀翼竜の翼膜で張替え頼んます 皆もそれでいいな? 」
とニース
「...「「 応 」」...」
と返事が一致する。
「では、作業はじめるか」
とばさりと取り出したるは、ギタリの秘術で鞣した銀翼竜の翼膜である
全体が鈍い銀に輝き細かいウロコが部屋の輝晶石で七色にさらに独特の彩りを添え
皆が恐る恐る触ると”生きている”せいかほんのり温かい
しかも見た目の質感とは裏腹にしっとりとしていた。
これを器用に切り分け持ち手に軽く巻き、何やら薄赤の液体に漬けるとぼうっと淡い燐光を革が放ち
キュルリ と締まる。
「後は、この部分の手入れは竜血油”竜の血とリーヴ油の混合油”で同じように
磨き込んでやればごきげんだぜ
ケチって安物使うと革の機嫌損ねて力発揮出来なくて大怪我の元だからな
気ぃつけなよ、とさり気なく自分の商品の売り込みも忘れない。
「後、錫杖と杖は更に竜血樹の樹液を固めた物を炙ってな これの煙を潜らせてやりな
マギが停滞しねぇで上手く励起するぜ
あと、サリさんだっけか? 」
「はっはい」
「お前さんだけは乳香で仕上げしなよ 錫杖は特に他人のマギを弄るからな
穢れを防ぐ為にも煙潜らせてやりなよ 聖句の効果が違うぜ」
「最期にリーリャさんか
お前さんの得物は弓か、これはあれだ 竜血樹の煙のあとは没薬で仕上げな
コマけぇ弱点に矢がよく通る様にならぁ」
とそれぞれの得物について細かい手入れを指導する。
「ホントは、これの指導もカネ取るんだがなついしゃべっちまった」
「何から何までワリィなギタリさん」
「おぅ、オメェ達から大金ふんだくるんだ これくらいはしねぇとな 割にあわねぇしよ」
とそれぞれ仕上がった得物を渡す。
「後のこれ、俺に買い取らせてくんねぇかな 偉い学者センセに更に高いカネで売りつけてやるからよ」
とニヤニヤ笑う
「いいぜ、 どうせ俺達にはしっくりこねぇし 対価なしでいいよな」
とニース
「また、アンタはすぐ情に流されるからね でもアタシもいいよ他の皆はどう? 」
とナリアがいうと皆に異存はなく
ふるもの のエンシェントドラゴンの革はギタリの元へ渡り
更に、これの一部がドリエル率いる王宮魔導研究施設に渡ったのもニース達には
知る好しもなかった。
ニース一行はそれそれの得物を布で厳重に包み 一昼夜後のベルゼ行きの
飛行艇に乗るため、王都へ足を向けた。
一方、それぞれの思惑がそれぞれの場所で動いたその日の朝
わたしは、睡魔から開放され意識が現実へ戻る
すると、宿屋のドアをノックする者がいる
「シーアおねーさま、起きてらして? 」
と何とデカラヴィアの声がする
一気に意識を覚醒まで引き上げられる。
「ラヴィアちゃん 早く中へ入って! 」
と入室の許可を出す。
「だめじゃない お屋敷にいなきゃ ミーア姉様とビヨンはどうしたの? 一緒の部屋じゃなかったの?」
とぱたぱさと駆け寄って来るデカラヴィアの頭を撫で擦り問い正した
「うんとねうんとね ミーアおねーさまとビヨンおねーさまはまだおやすみよ
わたしね、 シーアおねーさまに逢いたくてお屋敷から出てきちゃった
話には聞いていたけど ちょっと吃驚しちゃった ビヨンねーさまのお隣に出るんだもん
でもでも、ガマンしきれなくてシーアおねーさまのお部屋に着ちゃったの」
「誰かに見られなかった? 」
わたしは、彼女が誰かに見られていないかそれが心配だった。
「ふふ、心配症ね おねーさまったら ん...んんっ そんな轍踏むもんですか」
といきなり唇を奪われる
わたしもそれに応え彼女の唇を奪い返す
クチュクチュと可愛い湿った音に変わるまで長くはかからなった
「んむぅ〜...んんっ おねさまってお上手ね あぁぁん ステキぃ
コトンねーさまが独占したがる訳だわ でねでね あの子お庭に植えたわ
流石にまだ芽は出ないどね 」
彼女が言う”あの子”というのは 一昨日植物系魔物”トラファイド”の親樹から
引き継いだ”種の事である。
「もう、気持ちは落ち着いた? 」
とやさしく声をかける
「うん、まだ悲しいけど種があるもの ふふ、うんと可愛がってアゲル」
とニコニコ微笑むも彼女の淡いイエローグリーンの瞳はまだ
少しつややかに濡れていた。
「ねぇ〜わたしって言うのもぅいやぁ 自分のことはせっかく愛称があるからぁ〜
”ラヴィア”って言っていい? 」
と甘えてくる。
「ふふ 勿論よ、せっかく可愛い呼び名があるんだもの」
「きゃん、 うれし〜 ふふ」 と抱きついてくる
すると喉にチクリと障る感触があった
途端にラヴィアは、狼狽の表情を見せて
「おっおねーさま、ごっ、ゴメンナサイ どうか、お赦しをラヴィアめに寛大な処断を」
と飛び退き頭を床につけようとする
「待ってまって、やめて気にしないから ねっね」
「有り難きお言葉...」
といいかけて
「その堅苦しい言い方もやめて、もうラヴィアちゃんは私の妹なんだから
今後、一切そういうのは無しよ」
と慌てて彼女を諭す。
わたし自身もあまり堅苦しいのが苦手でせっかくパスに繋がれた者同士
私事まで他人行儀なのは嫌だった。
「では、これは外しますから」
と彼女がしていた茨の首飾り(?) はひとりでに しゅるしゅる と外れ
備え付けの鏡台に乗りまた輪を作った
「ふふあれね、私の使い魔的な役割もあるのよ ふふ あれ怖いんだから ふふふふ」
とニヤリと嗤い涎が垂れる
「もぅ、お行儀悪いんだから お行儀が悪いお口はこうよ」
とわわたしは涎が垂れているのにも構わず 彼女の口を抱き寄せると同時に
塞ぐように接吻をする。 驚いたように目を見開くも
くぐもった声で
「驚いたぁ、でもでもこんなところがますます好きぃ」
とうっとりとしてしばらく ラヴィアは呆けていた。
「おねーさま これからどうするの? あとは”ベルゼ”とやらに行くんでしょ? 」
「そうね、あとラヴィアちゃんのお部屋の調度品買わなくちゃいけないわ
あんな殺風景なトコ いくら落ち着く ”寝台” あってもいやでしょ」
「えっでもライブ・アーテファクトなんかがこんなに良くしてもらって? ...いいの...? 」
と語尾はたっぷり間が空いた。
「また、悪いお口になったわね んんっ もぅそんな事、言わないの 分かった? 」
とわたしはやたらラヴィアが、 否自分達ライブ・アーテファクトを卑下する理由が分からなかった
「うん、おねーさま あのお部屋ラヴィアの好きにしていい? 」
「そのための”お買い物”じゃない 釘だけは駄目だけどね」
と念を押すように言うと
「こわいレフィキアねーさまに注意されたの あれはとても怖かったわぁ〜」
とわたしと同じように彼女には ”恐怖” を感じたらしい
「ささ、皆に見つかって大騒ぎに成る前にお屋敷へ行きましょ ねっね」
と子供をあやすように言うと
「はぁ〜ぃ」 とクロに飛び込み掻き消える。
階下に行くと件の新人のケット族の少女が
「あっシーアさん おはようさんですぅ
ゆっくりおやすみでしたか? これからのご予定はどおなされますかぁ」
とハキハキ と元気のいい声が聞こえて来た
名を見ると ”チーニャ” とある。
「今日は、キリンズの百貨店でお買い物かなぁ〜 後、特別な事がなければこのまま
この宿を出るつもり」 とベルゼ行きのことはあえてぼかして答える
「シーアさん 貴女にその ”特別な事が” あるんですよぅ ちょっと此方へ」
と耳打ちを促す身振り(ジェスチャー)をする
そして、
「あのですねぇ ウチのギルド長がお呼びなんですぅ 宿が定まらい冒険者様なので
至急 お目通し願いたいと申しておりましてぇ お時間都合付けてもらえますぅ? 」
と何やら火急の用向きのようだ。
(あのこと? それともアレに関してかしら)
とわたしは、”思い当たる”事が多く あれこれ気になる上何より相手はギルド長である
心象をわざわざ悪くする必要はなかった。
「えぇ、これから”ゆっくり”朝食をとも思っていたトコよ
でも すぐお逢いします と事伝手お願いできますか? 」
と取次を頼む。
程なくギルド長執務室兼密談室のドアをノックすると
「あぁ、シーア様ですか 入り給え なにこの執務室は人払いの結界もあるし密談室も兼ねているから
ボクが許可した者しか入れないようになっている」
と錠が外れる音と共に扉が室内側に押し開いた
其処は、普通の執務室ではあったがいささか貴賓室のように広めの間取りで天井が高い
これでわしはギルド長がウル族ではなくエル族であることを察した 尤も先のベゼリン学術院の
様にエル族の建築様式に他の種族が引き継いでも不思議ではなかったが。
案の定、執務机の机に両手を組みそれに顎を乗せてニコニコしていたのは
やや小太りで頭の頭頂部を高位の男性聖職者がよく好んでするように
剃り上げた人物がいて特徴のある長く尖った耳が揺れていた。
わたしが、軽く目礼をして相手が首肯するのを確認して毛足の長い絨毯にパンプスを埋めた。
すると、誰もいないのにひとりでに扉が締り カチリ と錠が掛かる
すると彼は
「ふふ、驚いたかね、その扉にはバルケモス大陸からわざわざ取り寄せた
魔導装置が組み込んであってねぇ 驚いたかい ふふ バルケモス大陸ってのは... って今は
大陸の観光説明をする場ではなかったね」
と慌てて話をの軌道を修正したようだ
「改めて、私はここキリンズのギルド長 ”バウィウス”
という者だ 銀のお嬢さん いやシーア君っだったか? 」
「はい、”バウィウス”様 わたしはシーア シーア・オブライエン
こちらは、ミーアそして最後にこちらが、ビヨンですわ」
と三人揃ってスカートを摘み挨拶をする
「ほぅ、そちらは”オートマト”ですかな」
「ですがそれが、何か? 」
私は、彼が ”オートマト” と言う時、
やや蔑みのような調子が含まれていた事を聞き逃さなった。
「いっいやただ ”オートマト” を連れ歩いている冒険者は珍しいものでね
気にしないでくれ給え」
と此処で彼は よいっせ と声をかけ
椅子から立ち上がる。
彼は術師が着る臙脂色のローブに身を包んでいて
ピクリ と眉が動くのを感じた
エモニィの事が頭をよぎったのである。
「おやこのローブがどうかしたのかい? 」
「いぇ、ただ見知った色だったので...... 」
「ふふ、私をあんな邪教集団と一緒にしないでくれ給え ただこの色が
好みだけだよ 私、 ”バウィウス” はギルド総長 ドリエル様から
ここキリンズにギルド長として拝命されて、着任しておるのだよ
なんならここで証を立てようかね 尤も貴女が無粋な私の一糸纏わぬ姿を見たいと
言うのであれば吝かではないがね」
流石、重ねた経験や実績が違いすぎたあっさり考えを看破される
いくらライブ・アーテファクトが従いていようと、宿り木の武器や人外の能力を
持っていたとしても重ねた経験や実績の差は簡単には埋まらないのである
そういう意味で、わたしはだたの”未熟な”一人の召喚士という冒険者に過ぎなかった
「いぇ、結構ですわ ギルド総長からのご拝命となれば御ん身のまわりも証を立てられた
上での拝命でしょうから ”バウィウス” 様の言の葉も信用に足るでしょう」
とわたしも、考えを述べる。
「はは、一本取られました。 さて前戯もここまでとしましょう なに身構えることは
有りませぬ
ここにお呼びした理由とある提案を申し上げます
いささか説明下手で助長な所はご勘弁を
まずはごゆるりと長椅子にもお座りになってくつろぎながらで
結構
途中で”ご朝食”代わりのお菓子を運ばせますので
取り合えず紅茶でも」
と勧めれたこうちゃは一口で最高級品と分かる 紅茶の淹れ方もすばらしく
彼の体躯からは似わなぬ繊細さがあった。
そこで、
キリンズのギルド長の密談室で バウィウス と先のトルティアの武具の売価について
説明を受ける
「今回の、トルティアで貴女様が売却なされた武具ですが」
わたしは、わざわざギルド長の執務室まで呼ばれたかまだ分からないでいると
「実績があまりない貴女様が”至宝級”の武具を大量に持ち込まれて
買い取る当方としましても些か戸惑っておりましてな......」
と語尾が掻き消えたのは あとは察してくれとの事だろう
無言を貫くと彼の方から
「何も、貴女様を疑ってのことではありませぬ。 」
と先に折れた
「どこぞの宝物庫が荒らされたという伝聞もアリませんしね」
と少し暗に嫌味を含む言葉で言われるも聞き流す。
「あの武具は、魔女メトリエーテ氏から正当な依頼をうけ、遺跡ギメルを攻略しその対価として
受け取った報酬ですわ 迷宮の主からも承諾は得ており、わたしはわたしの考えで
トルティアのギルドに正当な手続きで売却したものですよ」
とやましいことはもとよりしておらず、堂々と答える。
「その 迷宮の主 とやらが気にはなりますが 冒険者の暗黙の決まりがありますからな
そこは、いいでしょう
私共が、お呼びしたのは売却の額についてです」
「売却の額? 」
「そうです あまりに額が高額な為、一息にお支払いが出来ないのです つきましては
貴女様のご承諾得て分割でお支払したいのです。
そのご承諾をと思いまして......」
と先の嫌味もどこへやら語尾が尻すぼむ。
「そういうことでしたら、分割でも問題ありませんよ わたしはただ地元のギルドの階位が上がれば
良質な案件が回って来ると聞き及んでおりますし、少しでもそれに貢献したかっただけですよ」
「いやぁ、参りました、お若いのにご自身のお考えを淀み無く述べられるとは、
見た目からでは想像つきませんな。 ハハハ」
「ふふふ、 バウィウス様 の眼の前の銀の娘は 冥界の住人 かもしれませんよ」
とニヤリとライブ・アーテファクト達がそうするように、笑って見せた。
「はは、ご冗談を それでは、お支払いは分割でミーア様にでよろしいでしょうか? 」
とバウィウスから提示され
「えぇ、それでいいですわ」
ミーアは目を見開くのも首肯する。
話がまとまりその場を辞そうとすると
「少々、お待ちを 」と言って呼び止めれる
「まだ、何か? 」
「あ、いえ貴女様は専属の受付はお持ちで? 」
「それってなんでしょう? 」
「ご存知なければご説明いたします お暇であればお耳をお貸し願いますかな? 」
「えぇ、いいですわ ぜひお聞かせくださいな」
専属受付という響きには興味があった。
ミーアに視線を送るが首を横にふる
流石の彼女もその存在を知らないようだ。
話が進みお腹が きゅるり と可愛い音を立てた頃合い、見計らった様に菓子が供される。
「まぁ、お菓子でもどうぞ 若い娘さんなら嫌いではありますまい」
「いただきます。 」
と菓子を含む
堅焼き菓子を甘い苺味の蜜でしっとり湿らせてあり中にはほんのり苦味のある
茶色のねっとりとしているが、やや歯ごたえのある物がサンドイッチの具のように挟まっていて
一緒に食べると大変な美味で思わず頬が緩む。
「あの娘達も喜ぶわ これ」
と小声で呟く。
「お気に召しましたようで 中の物は南方のトリンデでしか採れない木の実から出来ておりましてな
貴族のお嬢様方には好評頂いておりますよ なんでしたら少々お持ちになられますか? 」
と バウィウス がにこやかに勧めてくる。
コクコク と嬉しさのあまり、激しく頷くと
「では、お帰りまでにいくらか用意させませましょう」
と何やら菓子を運んだ職員に耳打ちをする。
「さて、先程の専属受付の件ですが 先ず一番有利な点は
公に出来ない特別な依頼を受けられることでしょうな
あまりに案件が特殊過ぎるとか、高貴な人物からの依頼とかね 」
「例えばどんな案件が? 」
「そうですね具体的には申せませんが、特殊な呪物、聖遺物の捜索や
難物の魔物とかですかな
王族の方々からご指名で来る事も有りますよ こんなところでしょうか」
「では、各地のギルドで専用の受付というのも可笑しな話だと思いますけど?
その受付人がいらっしゃらないのですから そこら辺はどのように解決しているのでしょう? 」
と感じていた疑問をぶつけた。
「ふふ、そう疑問も持たれるのもご尤もでしょうな」
彼はしたり顔で説明する。
「他のギルドの受付で”符丁”をつかうのですよ うんそうですね 此処の符丁は ”赤い実” ですが
貴女様の地元のトルティアで ”赤い実” の案件があるかと聞くと ここキリンズの
専属受付の案件が回されるしくみです 不正をすると必ず死罪になる重罪なうえ
特殊な依頼人からの厳罰が必ず有ります
依頼人には、人外はもとより闇の住人や、先ほど貴女様がご否定なされた冥界の住人なども
ありますからね ただでは済みません。
此処ギルド内では ならず者やそういった勢力も依頼人に成るわけでしてね
お互いが、依頼の討伐の対象同士だったなんてことも ”たまに” ある事ですがね
でもご安心を そういったかち合せは依頼件数からいうとすごくまれですから
そういった事も含めて、依頼そのものに価値があるわけです」
ふぅと一泊間があった。
「あぁ、そうそう こういった案件には、刻限が無いことも多いですよ
なにせ特殊な案件ですから準備やら何時見つかるともしれない呪物、聖遺物の捜索等もあるわけでね」
と説明が続く、なかなか魅力的な仕組みである
わたしが今まで受けてきたのはまさにそういった案件だった。
「あとそれって複数同時は駄目でしょうか? 」
「それは、駄目ですね」
即答たっだ。
「依頼人からついでにという事でも無い限りは
例外は無しです 先の刻限がない代わりの縛りですかね
特殊な案件ってのは、だいたいが完遂が前提の依頼ですから安請け合いして命を落とせば
他の依頼は何も結果を出さないまま反故にされた様なものですから下手すると
ギルド閉鎖の処罰さえ覚悟せねばなりません したがってこのような縛りがあります」
彼の説明は尤もである、説明は続く。
「特殊案件は、請け負った冒険者の”死”でさえ一つの依頼の結果ですからね
”結果”が出るまでは完遂とはみなされません 此処は案件を受けるに当たって留意する点ですな
それと刻限が無いとはいえ早ければ早いほど実績に繋がるのは、
今の説明でご納得いただけたかと思いますよ。
それと専属受付は、地元か地元無い場合は最寄りですかね
特定の人物に偏るのを防ぐ意味も有ります。
貴女様は、必然的にトルティアの誰かということになりましょうかな」
と長い説明ではあったが
<<お主よ、当然専属受付とやらを持つのであろう ヤンスだけでは
儂らの目的に必要な情報を集めるのも無理があるぞい
利用出来るものは利用するんじゃろ? >>
とクロが念話で割り込んできた。
<<勿論よ、これはいい話ね 長い説明を聞いた甲斐も有るってものよ
わたし ちょっと眠くなっちゃたもん それにもう専属受付の候補はあのヒトよ>>
<<ほう、アヤツか? それに最近お主もライブ・アーテファクト共に言動が似てきておるの>>
<<そうかしら? >>
<<儂はあ奴らを悪しざまにいっておるのではないぞ
この世界は様々な思惑が群雄割拠しておる
良い娘ちゃんだと世界に とって喰われるぞ
お主もまた、変わらねばならん部分もあると言うことよ
なぁに、お主のお人好しな部分は儂も好みじゃ 邪念に囚われ、堕ちそうになったら
儂が引き上げてやるのでな。 安心してまずは己の好きな生き様を進んでみせよ>>
とクロは何時になく真面目な声音で語りかける。
<<ありがと、わたしミーアお姉様がいいと言えばあのヒトを推挙するつもりよ>>
<<あ奴なら、人格も申し分ないようだしの>>
とクロもどうやらあのヒトに決めているようである。
「話は決まりましたかな? 」
とまるで念話を見透かすような言葉にドキリとする。
わたしは、ミーアに耳打ちをする
彼女のもふもふした毛足が鼻をくすぐるりくしゃみがでそうになり堪える。
ミーアは破顔しコクリと首肯する、あと余計な言葉はいらなかった
同様にビヨンにも同意を求めおなじく首肯
三人の意見が一致した所で、それを待ち構えていたかのようにバウィウスは
羊皮紙を差し出す。
「もしおきまりでしたら此処に推挙人様の名を、更に推薦人様の名を此処に
向こうには推薦人様の名は最初
伏せて知らされますので申し合せもできませぬようになっております 後は審査をお待ち下さい
各ギルドにて、符丁○○が決まりましたと言伝てが有れば審査が通ったことになりますので
宜しく、お願いしますよ」 と
商人の様ににこやかにわたしの次の行動を待っていた。
わたしは、専属受付の利用の同意と
推挙人・リアの名と、推薦人・シーア・オブライエンの名で羊皮紙に自らの血で著名した。
最期にバウィウス自らも血で著名し
二者の生命の貨幣にて締結するものなり
の魔術語が羊皮紙全体に透かし模様の如く浮かぶ
「各ギルドも、冒険者様方がもたらす情報や物資は大変貴重な財産でございます故
貴女様のような 実績が少なくとも ”優秀” な冒険者様には特に専属受付制度
のご利用をお願いしていただいている次第ですよ。
個人間の依頼もでもいいですが 裏切り・謀略・の危険を避けるためにもできるだけ我々冒険者ギルド
を通していただけると双方、利があろうかと思いますがね 」
と商人の様な、公益の役人とは思えない口調で、締めくくる
「これで、専属受付つきは ”竜の瞳” 以来5例目ですかな、まったく長生き冥利につきますなぁ」
とひとりごちていた
シーア達が立ち去ったあとにふいっと詰め襟の長衣を纏った線の細い男性が
バウィウスの後ろに立った。
「ふふ バウィウス君、先の応対は及第点だよ」
「これは、ドリエル総長有り難きお言葉。 しかし何だってあの娘は魔導人形なんか連れ歩いて
いるんで? 」
その途端、鋭い短剣の切っ先がバウィウスの首元で寸止めされる。
「 バウィウス君 今の言葉は感心しないなぁ さっきの会話では ”オートマト”
と一般の通称つかってたじゃないか?
なんでわざわざ ”魔導人形” なんて言葉が飛び出してくるんだい?
もし ”魔導人形” などとシーア君の前で言おうものなら
君ぃ〜、頭無くなってたよ あの娘を ”魔導人形” などと呼んでいいのは
”シーア君と製作者” だけだよ シーア君ですらそんな蔑称じみた名でなんか呼んでいないのにさぁ〜
言葉は君の心をも現すともとれるよ 今後気をつけたまえよ まぁ、ボクと君の二人ってことで
君の処断は不問とするがね。 二度は、無いと思ってくれていいよ」
短剣の切っ先が退く。
「でっ、ではあの随伴者は何とお呼びすればいいので? 」
「ふふ、 ギルドカード見なかったのかい? ちゃんと名で呼べばいいじゃないか
それくらいは、分かるよね ここキリンズのギルド長の君ならさぁ〜」
と酷薄な笑みを浮かべる。
「すいません ドリエル総長、肝に命じておき二度と失言はいたしませぬ」
「詫びの言葉が出たならその言葉を裏切らないでくれ給えよ」
と締めくくる。
「シーア君が呟いていた ”あの娘達” ってのはちょっと気になりますが
まぁ、いいでしょう
先の契約書は、ボクが直に ”統制庁” に持って行くから貸し給え」
と契約書をバウィウスから受取り、更に総長の封蝋を施し懐に収める。
「まぁ、彼に ”あの娘達” ついてシーア君から聞き出すのまで
求めるのも酷な事ですしね
ふふ、ボクもビヨン君の”制作者”に逢ってみたいものだがどうしたものか」
と階下に降りていく途中でぶつぶつごちながら思案していた
階下で受付にドリエルは
「これ、リブスに渡しておいてよ ”赤い実” からの言伝でわかるからね
久方振りの”簡単”な依頼で彼も拍子抜けだろうけど」
と何やら赤い書簡を手渡す
「貴男様はッ!! 」 と受付がビクリとすると
「おっと、ここではボクも一介のエル族だよ職長(ギルド長の下位の職位)は呼ばなくて結構。 」
と柔らかな声音でいい
受付は目を見開くもコクリと頷き奥へ下がった。
「ふふ、シーア君また”随伴者”も増えたようだね ”レヴィア” 君かあの場にはいなかったようだか
あの行方知れずの”錬金術師シアズ”とあの屋敷の後の大穴それと同時期に突如
現れた謎の美少女シーア君、何がどう結びつくのかな?
流石のボクにも見通せない事もあるとはね 楽しいよ全く エル族冥利につきるよね
......なぁ、リブス 君も早く定命の理から外れて此方側に来ればいいのに
全くリーテさんと最期まで添い遂げるなんて堅物だよ
変化を好しとするヒム族のくせにさぁ 堅物すぎるよ」
と独りごちる、その表情は穏やかだった。
わたしが、彼の長い説明から開放されたときはもう昼近くになっていた
「あっシーアさん お話おわりましたぁ ウチのギルド長ったら
説明好きで チーニャ達も職員の定期会合の時は大変なんですよぅ
眼の前の美味しいお菓子も、お話が終わるまで見ているだけですからぁ
どんな神罰よりもつらいですぅ」
と愚痴をこぼす。
「えぇ、チーニャさん だっけそれ分かるわ お菓子が出てくるまで
お腹が空いて大変だったもの ふふっ」
「シーアさん チーニャのことは チーニャでいいですよぅ さん付けはナシです」
「そう、それじゃチーニャお世話になったわ これからお店でお買い物をしてそのまま次の地へ
出立の予定よ だから此処でお別れね」
「ふふ、そーですか気を付けてねぇ 旅立ちの聖句って えっと何だっけ
女神リーンの ”息吹” だっけ ”灯火” だっけいつも忘れるわ
ええい 面倒だぁ
〜 銀の風の行く末に女神リーンの絶えない息吹と
常闇でも失わぬ灯火が瞬きますよう 〜
と彼女なりの聖句を貰う
「ありがとう ”吉報” が届くが気がするわ」
「 ”吉報”? 」
「冒険者の ヒ・ミ・ツ」
「わわっ」 と彼女は慌てて手で口を塞ぐ
「お仕事がんばってね」
とギルドを出立する。
彼女の聖句か、はたまた女神リーンがあまりのチーニャの大判振る舞いに
気を良くしたのか ヤンスから念話が飛び込んでくる
<<シーア様、とうとう大賢者 ランドルフ の居所が掴めやしたぜ>>
<<えっホント? >>
<<間違いありやせんぜ、あっしの ”黒い金糸雀” が激しく啼き立ててまさぁ
どんな輩が念話を乗っ取るか分かりゃしません ベルゼで待ち人ともにお逢いしやしょう
あっしはもう少し ”黒い金糸雀” を泳がせておりやす>>
<<気を付けて>>
<<いつもお言葉ありがとでやんす>>
<<気にしないで>>
と此処で念話えを切る
街では 雨の騒動は既に無く
吟遊詩人達は
〽 神の集いか英雄の集いか
〽 女神リーンの御神楽のその聖地に集まりたもう
〽 早馬・早馬車 雲霞の如くその勢いは
〽 聖都リームレスを覆いつくさん
〽 吉報、凶報いずれも有りいずれも無し
〽 聖主・ルルスの御ん顔は微笑みか悲しみか
〽 賽の目は、集いし者の手に委ねられ給うた
〽 さぁさ此処に、皆の懐の浮世のお足を委ねられよ
と逆さにした帽子を差し出す
広場の掲示版にも
各大陸の統治者が朝早くにタフタル大陸に集結しつい先程、戻って来て
何やら重大な事が話し合われた。
と伝えていた
吟遊詩人の詩は、これを元にしたものらしくなにやら空気までざわめく
ざわめきをよそにわたしは、
ラヴィアの買い物を済ませ、肌寒い月に入り厚めの生地と袖が長いワンピースと
足元も黒のショートブーツに身を包んだ。
そして、ネリスティーナ・ヴェネイーラともうひとり ネリスティーナの”弟”
見目麗しく艶美な雰囲気をたたえたヴァン族最凶最悪の
見た目は少女の ”マリアージュ” が
ヴェネイーラの過ちで封印から解かれようとしていた。
かくてシーアの舞台は再び浮遊大陸 ”ベルゼ” で開幕となる
次回 59話 霊峰の詩
お楽しみに
”マリアージュと各大陸の特徴と統治者”
を活動報告にて追加致しました
2017 09 15 特別設定資料を活動報告にて追加致しました
時代背景・三神・ロージィの正体等です ネタバレと感じる方は購読をお控え下さい
2017 9 21 冥界の住人について
2017 9 23 作中世界の 普通のヒトに身近な魔物やアイテムの諸設定です
2017 9 25 各大陸の特徴と統治者 と ”マリアージュ” の項目でプロフィールを追加
世界観の設定ですがネタバレと感じる方は購をお控え下さい




