49話 ガイガ大森林帯の獣王
俺達は、朝食の席で昨夜の夢の事を”かいつまんで”ミーアに
話していた
「へぇ、シーちゃんのお母様ってすごいんだぁ〜」
と感想を漏らす
そこでさり気なく今代では彼女達はどう伝わっているか聞いてみたが
あまり歴史には詳しく無いという
「こういう事はね、シーちゃんギルドに聞いてみたら? 」
「えぇ、そうねお姉様」
と早速”ステラ”に聞くと なんでもエル族編纂の書物の大集積地がガイガ大森林近く
に在るらしい。
「此処に、行けば魔獣情報や歴史に至るまであらゆる知識の集積地よ貴女達なら
”無料”で利用出来るしその上軽食も出来きるわ だたし本を汚すと弁償だからそれだけは
気を付けてね」
”本”と聞いて俺は、久方振りに”本の虫”が疼いてきた
何しろシアズ時代はレフィキアに朗読をねだったり彼女の書斎に潜り込んで膨大な書架の本
を読み漁ったりしたものだった。
それは、”少女”になってからも変わっていない。 尤も嗜好の順番が可愛い洋服や小物に
一番の座を奪われただけだが
「お姉様はどうされますか? 」と ミーアに聞くと
「そうねぇ私は、身体動かす方が性に合っているからギルド併設の訓練所にビヨンちゃんと
篭もるわ
シーちゃんは御本が好きだものねぇ...ヤンスから情報が来るまで自由行動で構わない? 」
「ええ、いいわお姉様ビヨンもいいよね? 」
[ 肯定...戦技訓練は戦技蓄積に有効 ]
そこで、ミーアにビヨンの”飴”を渡し俺とクロは一路知識の集積地”アルカーナ”にに向かう
場所はリトマンス北西衆目を避けユラに座り大森林の中で特徴物を目指し
飛行する
上空は風が思ったよりありかなり煽られ、ショールで押さえていてもスカートがはためき
風が入り込んで
「やぁん、もぅやだぁ〜♡ 」
と以前なら絶対に自然とは出てこない台詞まで出てしまう
(これも、レーリアかあさまの”血”の影響かしら? 夢のはずなのに)
そして の大樹を利用した”図書館 アルカーナ”へ向かうと
「其処の小娘ちょっと待て」
と門番らしき人物に呼び止められ
「お前みたいな若い小娘が来る場所では無いぞ 子供はヘルデかリトマンスの書籍店にでも行ってな」
と明らかに人を食った様な言いがかりを付ける。
キッ と睨むも
「そんな顔したってお前の小娘なんか怖くはないぞ 早く立ち去れ」
と悪態を重ねて 手で小さな子供を追い払うような身振り(ジェスチャー)までする
業を煮やした俺は、
「あの、コレではダメですか? 」
と恐る恐る身分証代わりのギルドカードを提示する。
「ふん、どうせ実績も金も無い形だけだろ まぁいいおにーさんに貸してみな
照会するだけはしてやるよ」
とそっけない
「はいどうぞ」
と間髪入れずに彼は
「ふんッ」 と引ったくるように奥へ引っ込む
ややあって 先程とは違う初老のヒム族の男性が
門番を引き連れて何も言わずにいきなり平謝りに謝る。
「シーア様、ウチのが大変失礼しました 私は、アルカーナ 館長兼総合司書官 ”へーリオ” と
申すもの先程のギルドカードを拝見しましたが まさか、あのような実績と功績・全大陸渡航の
許可まで発行されているは知らずに無礼をしました。
私に免じてこの場は、収めて頂けませんか? 」
と深々をと頭を下げる。
「ほれ、お前も頭を下げんか! 」
「わ、悪かったよ赦してくれ今後は気を付けるからさ」
と彼は、彼なりに謝意を見せている
俺はこれ以上此処で問答も避けたい事も有り彼も謝意は見せていたので、
「えぇ、今回は へーリオ様に免じ赦して差し上げますわ 頭をお上げになってくださいな」
と出来るだけ優しい物言いで謝意を受け入れる。
彼は、
「すまねぇ」 と再度言いそしてへーリオの後ろに控えた。
「貴女程の実績と全大陸の渡航許可が下りていれば 身元も問題有りません
我々は、いつでも歓待致しますぞ 今後は、貴女様のお姿が此処の使用許可代わりとなりましょう
勿論、お代等は一切必要有りませんし中の軽食屋は格安でご利用になれますよ
今後共、此処アルカーナをご贔屓に」
と更に一礼。
「有難う御座います へーリオ様、わたし御本が大好きなので今後も此処を利用させて頂きますね」
と言って館内へ踏み入れる
空洞の大樹の内部はまさに本好きには堪えられない様相になっていて
屋敷世界の書架なんぞは此処の規模とは比べ物にならないくらいだった
以後、此処は俺の最もお気に入りの一つとなった
まずは、かあさま達が今代でどれほどでどのような形で伝承されているか調べようと思い
古文書と思わしき大判の本に目を通した。
※※
一方、ミーアはギルド併設の戦技訓練室で
「もぅ、シーちゃんたら、いつの間にあんな艶っぽい雰囲気を纏う様になったのかしら? 」
姿は、少女そのものなのに纏う雰囲気が時折、ミーアより妖艶な仕草をしたり
甘い吐息を出してみたり同性のミーアですらドキリとさせられのだ
先般も肉が食べたいとねだられた時は、思わず彼女の蕩けそうな目に
危うく籠絡されるところだった。
それが昨夜から朝にかけて更に劇的に変化したのだ。
強い少女性はそのままに、ミーアでも太刀打ちできない妖艶さが同居するようになって
仕草や言葉使いも完全に自然な”少女”そのものになっていて
以前に少し有った”シアズ”らしさが完全に消え失せていていた。
ミーアの心の中に微かな嫉妬の燻りを感じたのはもうシーアを
完全に同じ女性として見ている事を証明しているようなものだった
それと同時に可愛く愛おしい”妹”を誰にも渡したくないという独占欲も芽生えていて
ミーアは戸惑う。
聞けば彼女は昨夜、夢の中で彼女の素体の素材の持ち主である
二人のかあさま達に邂逅したと言う
いずれ私にも逢わせたいと言っていたがミーアの心の中では
人外の彼女達に邂逅するのを本能的に恐れていた。
それにシーアから告発されたあの件もある
シーアが最近こっそり”イケナイひとり吸血”遊びで気を紛らわしていることも
勿論知っていてシーアという人外に対する恐れもあった
(でも私の”血”ってどんな味や匂いがするんだろう? )
とも考えてしまい
「もぅ、どうしたらいいの? 」
と頭を振る
また、シーアの吸血で理から外れて自分だけが天命の理から
外れてしまうことにも抵抗もありミーアも彼女にどう接していいか分からなくなる時があった。
あれこれ悩むのは性分では無いと自分の頬を叩き
「あーもうやめやめ、なるようになるしか無いか」
とワザと大声で
あまり喋らないビヨンを横目に独りごちる
そして、一人納得させるように一心不乱に戦技訓練に励む。
※※
俺は、特別閲覧指定の古文書を借り読み進める
幸いにも難読文字や余計な修辞技法も使われて居らず、すんなり理解できた
これに依ると
今代では、かあさま達の姿と名も伝わっておらずただ ”仄暗き二人の闇の少女” が今代の
何処かに ”土地” ごと封印されているらしい
あるいは、たまたま封印の巻き添えを食ったのかも知れない
と吟遊詩人の語りの一節として紹介されていた
〽いと麗しき 仄暗き闇の少女達
〽空浮かぶ大地に抱かれて
〽邪法の果ての者と共に
〽永遠を微睡い、永遠の刻と戯れる
〽あぁ、美しきかな仄暗き闇の少女達
〽まだ見ぬ永遠の乙女
〽一弦の調べにのせて我は謡い、語り継ぐ
名も無き ”吟遊詩人” の伝承の一節より ここに記す
更に、興味深い記述もみられ”十字聖剣”はヴァン族の始祖が女王に
”十字聖槍”はドラコ族の始祖が女王に有効であり違えると効果が無いばかりか
却って怒りを買いディーボどころの騒ぎでは済まされなくなるであろう
これは、後世への警告である
”十字聖剣”と”十字聖槍”についてではあるが後世の我ら十字聖教の血脈に継ぎ告げる
必ずや
この武器を見つけ出し、幾星霜にも渡り仇をなした怨敵を再び冥界へ送り還し我らの
悲願の成就を願う
そして比較的新しい記述が書き足されていて
我らは今代も探索中ではあるが今だ所在は掴めず十字聖教も秘密裏に探索中で
あるとの事
俺は心の中で
(かあさま達って一体どれほどの恨みを買っているんでしょう
その娘と知れればこんどはわたしにもあらぬ恨みが降りかかりそうで怖いわ)
と思いもしたが今の少女の俺にとってはまさに母親であるどんな母親であろうとも
代わりは居ないこれも”宿命”と思って受け入れるしか無かった。
目をずらすと始祖とは何者ぞという研究課題の論評が飛び込んできた。
それに依れば
非常に濃い魔性の瘴気が澱もののようにこり固まり、ある時”少女”の姿を呈して受肉して
その姿にふさわしい自我が宿った者であろう。
というのが近代の統一した見解である
とも記されていた
この一文で、俺はとんでもない”俺自身”を生み出したものだなと
改めて自身の身体を触る。
そしてあれほどまで彼女達が自分達をかあさま達と呼ばせたいのかその思いの深さを
感じていた。
「「ふふふふ、我らが娘シーアよ妾達の成り立ちを知っても尚、かあさま達と呼んでくれるかのぅ」」
と幻聴が聞こえたような気がして
「はい、わたしにとってかあさま達はかあさま達よ♡ だってこの身体は
かあさま達から生まれたのよ」
と小声で答えていた。
俺は、特別閲覧室を出て
”キマーラ”についての文献を探す。
程なくギルド編纂の魔物百録の”キマーラ”について
の項目を見る
キマーラ 合成獣種の一種
獅子の体躯に山羊の頭・蛇の尾を有す
棲息地は森林の天然の岩倉に棲息
有用素材は血・肉・皮・骨・獅子頭・山羊頭・蛇の尾・そして”肝”は余す所無し、
牛の3倍くらいの体躯で動き素早し、特に前足の爪と山羊の術攻撃には注意されたし
山羊の術攻撃の効果は個体により異なるので避けるが無難。
※ 肝の保存には保存液を満たした小樽に保存の事
保存液は”錬金の術”で作製可能尚、液の品質には注意を要す
推奨討伐人数4〜 以上
と有り俺は、シーアになって初めて”本来の”錬金を実践出来る機会に恵まれた
貸し工房は”アルカーナ”の用事が済んでからギルドに聞いて見るしかあるまい。
屋敷世界の錬金道具はアレの一件以来ほとんど失ってしまったので貸し工房があれば
何とか出来るだろうと考えていた。
俺は、早速念話でビヨンに先ほどのキマーラの特徴と解体後の
運搬の手配を話す
<<ビヨンお願い出来る? >>
<<[ 肯定...ミーアにも情報を共有 ]>>
<<えぇ、お願い...後、もう少し喋ってもいいのよ>>
<<[ 肯定...会話発生の類型処理の頻度を上昇 ]>>
<<ミーお姉様に”変わった”ことは無い? >>
<<[ 先程まで、心拍数・血圧・体温・呼吸数上昇傾向にあり...がいずれも
正常範囲内 ]>>
<<そぅ、よかった 引き続きミーお姉様を宜しくね...後夜にはギルドに戻るからね>>
<<[ 肯定 ] >>
とここで念話を切る。
俺は、まだ本と見足りず此処に夜まで居ることにする
<<ねぇ、ヤンス今いい? >>
<<へぇ、シーア様なんでやんしょう>>
<<キマーラの居場所は掴めた? >>
<<あっしの”金糸雀”でもあまりに広大でまだ把握しきれて居りやせん
すまねぇ事で...>>
<<いいのよ...それは、それより天然の岩倉を重点的に探して見てくれる
魔物百録に依ればこういう所を塒にしているらしいわ>>
<<さすがシーア様、お顔が広いようで...分かりやした...天然の岩倉を
重点的に探してみやしょう>>
といって念話が終了する。
クゥゥー と お腹が可愛い声を立てて鳴き
頃合いを感じた俺は軽食室へ向かう、此処はミーアも居ないそこで
「塩ゆでベーコン多めに 入れて♡ 」 と敢えて男性店員の所へ行き
甘えた声音という少女の武器を使う
「へぃ毎度、きれーなじょーちゃんとあっちゃあ、おにーさん頑張っちゃうぞ。
ちょっと待ってな」
と”普通”より厚めの塩ゆでベーコンを麦パンに挟んで貰う
「ふふ、ありがとおにーさん♡ 」
と返すと
「これ、おまけね。 持ってきなオレの奢りだよ」
とコーンスープまで付けてくれる。
後は、サラダを追加で購入して もくもく 食べ始める。
程なく食事も終り紅茶で喉を潤していると
また”あの匂い”が漂ってくる
今度は、甘い蜂蜜の様な甘ったるいのが鼻腔をくすぐると同時に
吸血衝動が湧いてくる。
「あッあぁん またぁ〜♡ 」
と吐息が漏れ”イケナイひとり吸血”をしに お手洗いへ立とうとした時
ふいに黒い霧が集まり初め
{にゃ〜お}
と一匹の黒猫が姿を現し俺の座って居るテーブルと身体との隙間にするりと
滑り込み顔を覗く
両の目は淡いアメジスト体躯は霧の固まりでのどこか覚えのある
雰囲気を纏って人語で
「シーよ妾じゃ妾、レーリアじゃ」 と言う
「えッ、レーリアかあさまッ!? 」
最初俺は、この黒猫とレーリアかあさま本人であるとは思ってもいなかった
せいぜい眷属かなにかだろうと思っていたのだ
「そうじゃ他に誰が居ると言うのじゃ
封印されているとはいえ妾ならこれくらい造作もないことよ
妾の極々”一部”だがな...っとこれは、”我が君主”もお側に居りましたか
いつ”封印”からお目覚めで? 」
と俺が召喚士としての武器として腰に結わえているクロに視線を飛ばす。
『シーアが儂の封印を解いてくれたのじゃ』
「何と! 妾達の”娘”がじゃと それは真か? 」
『本当じゃとも、その色の濃いひと房の髪があるじゃろ それで儂が封印されて居た”櫃”の
封をいとも簡単に解きおってな それで幾星霜振りかに外に出られたという訳じゃよ...
おっと、その髪にはやたら”触らぬ”ほうが良いぞ ビ・ン・カ・ンらしいからのう』
「もぅ〜クロったら余計な事言わないで! 」
と頬を可愛く膨らませて抗議する。
『怒った顔も可愛いのぅ』
とクロまで煽リ立て
レーリアも尻馬に乗り
「良いことを聞いたわ これは邂逅の際には其処をうんと可愛がってやるからのぅ」
「また〜 かあさまったら 何でそんな事言うの〜」 とごちる
「して、”我が君主” こうような獣の姿で参上するのは妾が、不肖の娘に
”手ほどき”をせねばならぬ故参った次第、お赦しを」 とレーリアは強引に話題を逸らす
『これこれ今は衆目の中ぞ、あまり儂に話し掛けるでない 小奴が気にするでのぅ
で、何の用じゃ』
「此処らには軽く人払いの結界を張っておるから大丈夫なはずだがのぅ」
と黒猫は辺りを見渡し
そして、
「”我が君主、”この娘ときたら”吸血衝動”を我慢している様子
しまいには”イケナイひとり吸血”で気を紛らわそうとする始末
妾に取っては嗜好品を我慢しろというもの、それほど衆目が気になるというので有れば
吸血を”嗜む”程度であれば良い方法があるというのにこの体たらく
妾達の娘ときたら初心なこと ふふっ 妾の”若い”頃にそっくり」
と黒猫の姿で人語をしゃべる。
『何でも 小奴には懸想している”娘”がおってな”初めて”はその娘に捧げるそうじゃ』
「ちょっ、ちょっと...クロぉ〜なんて事言うの♡ ...黙ってて」
とかなり小声で言ったつもりが僅かに周囲に聞こえてしまい
視線が集まってしまう
それでも人払いのお陰か人々の視線はまたそれぞれの関心事に戻る。
「ほぅ懸想してる”娘”がおるじゃと! 」
黒猫はニヤリと口を広げる。
「妾も殿方の血は好かぬな。 どうせ吸うなら若い娘の方が良いというものよ」
と当たり前の様に言う
俺は”娘”らしく少し拗ねたように
「もぅかあさまと血の契約をしてから頻度が多くなったような気がするんですよ♡
どうしてくれるんですかぁ♡ かあさまったらぁ♡ 」
と子供の様に頬を膨らませた
「まぁまぁ、良いではないかそれより他人の血を嗜む時の呪文を教えてやるわい
......というわけじゃ 覚えたか...くれぐれも吸い過ぎぬようにな」
「はい、かあさま それとわたしもかあさまの様に猫ちゃんになりたいの 出来るようになる? 」
と小首を可愛く傾げて尋ねる。
「もう少し経てば猫の姿になることなぞ造作もない楽しみにしておれ」
「きゃ、うれしっ♡ 」
猫になるとどんな感じなんだろうと一度も味わったことのない感覚がちょっと楽しみになってきた。
「そういえばリーメアかあさまはどうしたの? 」
「あ奴は妾の様な小細工は出来ぬ 専ら肉弾戦専門じゃ...あの童顔からは想像出来んがの
今頃呑気に甘味や菓子等を食って居るだろうよ
早く、お主と逢いたいとダダこねて居るぞ」
そして黒猫が耳元でささやき呪文を教わる
呪文も覚えたしこれで最初を捧げてから心置きなく嗜めそうである。
それまでは”イケナイひとり吸血”で気を紛らわすしか無いようだった
「それでは”我が君主”不肖の娘を何卒よろしくお願い致します」
と霧の体躯がばらけて すぅ と掻き消える
それでも、俺は吸血衝動が抑えられなくなりお手洗いでまた”イケナイひとり吸血”遊びをする
後ろでガタリ と物音がして初めて遊びを見られたことに気がつく
「ひッ! あんた 何やってるのッ」
と冒険者らしき若い娘が声を上げる
(しまった)
気を紛らわすことに夢中で気が付けなかった
俺は早速かあさまから教わった呪文を試すべく
出来るだけ蠱惑的な雰囲気を意識しつつ、
相手の目をじっと見つめて甘言を囁く
「あ〜ぁ見られちゃた、どうしよっかな〜 シーアはねぇお腹減っているんだけどぉ
今回は、貴女の血を頂くのは我慢するわぁ〜♡
でもでもッ、わたしのことはワ・ス・レ・テね♡ オ・ネ・ガ・イ」 と
ニヤリと蠱惑的な笑みを浮かべ口角を
ゆっくり上げ牙をちらつかせて更にゆっくり相手の首元に近づき
ふうぅ〜 と息を優しくかける
「ひッ! 赦して、誰にも言わないからお願いッ 」
「うふッ 可愛い娘、可愛いお顔に免じて今日はユ・ル・シ・テ・ア・ゲ・ル♡
あぁんこれ、わたしのとっておきのオ・マ・ジ・ナ・イ♡ 」
更に、
「あぁん...んッんッ...柔らかくて綺麗な...おみみ♡ 」
と彼女の耳たぶを軽く甘噛みして囁く
柔らかい感触に思わず牙を立てたくなりそれでもじっと堪える
((汝、我の眼に魅られし者、暫しの廃忘と戯れよ))
と呟く 途端にその娘は床に崩れ落ちる
しかし床だと騒ぎになると困るので壁を背にして座らせる。
この娘の血は香ばしいパンの様な匂いが漂って”嗜好欲”をそそったが
「今は、ガマン・ガマンっと じゃね〜♡ でも ”初めて”
の次逢うことがあったらその血、頂戴ね♡ 」
と言い放ち
姿見で口元に付いた自分の血を指で拭い、
「んッ」 と自分の口に含み
ちゅぽん と糸を引きつつ指に付いた血を舐め取る
同じ仕草をした姿見の中の”少女”は外観とは裏腹に自分自身でも ドキリ とするくらい
蠱惑的な表情を浮かべていた。
姿見の中の淡いアメジストの瞳の燐光が治まるの待ち
居住まいを正して早々と何喰わぬ顔でお手洗いを出る
一方、目撃者の娘は
「あ...れ、私どうしたんだっけ...誰かいたような...気がしたけど...あれ私こんな恰好で何で? 」
と暫く呆けていがシーアの事も行っていた”行為”の事も忘れていた。
<<お主、なかなか蠱惑的だったぞいあれなら男共はそのまま
天界にでも逝きそうだったぞ>>
といきなりクロが話しかけてきた。
<<でもわたし”男性”は懸想の対象じゃありませんからッ! >>
<<そうか、そうか、でも最近お主を見る”男共”の視線がやたらとねっとりしておるぞ>>
<<えッ、...それホントっ! いやぁ〜♡ >>
<<そうじゃとも、気づいて居らんかったか、”女”としてはまだまだじゃのぅ
ふふッ 単純な腕力だけならお主は弱い”襲われ”ないように気を付けるんじゃな>>
<<気をつけます、クロ>>
<<よきかな良きかな殊勝なことじゃ>>
お作法として今度からは”異性”の視線をも気にしなければならなくなり
(人目を引く少女というのは余計な気苦労が多いね ふふッわたしったら♡ )
大錬金術師”シアズ”としての最高傑作で或るホムンクルスとしての自慢と
類まれな容姿である少女としての自分への、ちょっとしたオンナノコらしい自惚れも含まれた
複雑な心境でごちる
<<わたしはまだ御本読み足りてないの♡ ね此処にいていいでしょ>>
<<前から、何度も言っておるじゃろ、 儂はお主のままに...じゃよ>>
<<そぅ、ありがと♡ >>
俺はもう少し此処”アルカーナ”に居たかったし幸いまだ日は高い
連絡が入ったとしても”行動”を起こすのは明日からで良いだろうと判断した
それに後、一度屋敷世界に篭もり自室の整理や小鞄の中の洋服類を
屋敷世界に移す必要もある
いろいろやることはあった。
今度は、俺は ”呪物と聖遺物の考察” の本を借り受け
読み解く
俺は、とことん神智学と神秘学に関しては疎かったし
学者気質も手伝って好奇心も後押しする
ある程度は蔵書も揃えないといけないしそのための目録を列挙する意味もあったので
今回は、絶好の機だった。
まずは手始めに、先のエモニィやクィエル教祭主が口にしていた ”賢者の右手” なる
呪物から調査を始める
幸い項目にも載って居るほどにはある程度”認知”はされている代物だった
経験を積んだ賢者が居れば作製は出来るらしいが作製そのものも邪法な上、
その用途も又、邪法であった
”賢者の右手”は異界への扉を開き混沌を喚ぶ一種の鍵になると言う
つまりはあの教団はディーボ等の異界の混沌を喚ぼうというのか
混沌の火種でしか無いものを何故敢えて自ら招くその心情は俺でも読み解く事は
出来なかった。
「あの集団は破滅願望でもあるのかしら クロ」
『人共の考えていることはさすがに儂でも読みきれん お主も含めてな
まぁお人好しなお主は邪法には堕ちないと思っておるがな』
「クロったら 少女になってから新しくお友達も出来ていますから
心配いりませんよーだ」 とクロに向かって小さく舌を出す。
『そう言うと思ったわ』
ここで、一息つこうと軽食室で果汁飲もうとした時
<<シーア様、たった今ヤツの所在が掴めやした>>
とヤンスから一報が入る
<<えッ何処? >>
<<やはりシーア様のお見立て通りで岩倉に居やした>>
<<そぅ、ありがと今夜郊外の宿”杜の妖精亭”で落ち合いましょう 身なりはちゃんとして来てね>>屠
<<へぃ分かりやした>>
<<追っ手はどう>>
<<今の所、あっしには仕掛けては来ては居りやせんぜ>>
<<良かった、で気を付けてね 引き続き監視をお願いするわ>>
<<へぃ>>
と念話を終了する
ビヨンに念話でこの事を伝えて
そして、出立は明日朝一番に”目的地”に向かう事をミーアにも伝えて貰う
日も傾き初めて来ていて頃合いを感じた俺はアルカーナを後にして、ユラに座り一路ギルドへの帰路につく
奴との戦いが迫っていた
しかしその前に俺は、ギルドの貸し工房に足を向けた。
次回 50話 切なる願い
お楽しみに




