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ロキ 2 ―魔法使いに大切なこと―



 姉ちゃんからなんとか魔法の授業を受けられるようになって数ヶ月。

 俺は姉ちゃんから言われた魔導書の暗唱をすることになった。


 なんでそんなことしなきゃなんねぇんだってゴネたら、『じゃあ魔法の勉強は諦めるんだね』とか言いやがった。


 ちきしょう、きたねぇ……。


「この世界は魔素から生まれ、魔素に帰る。魔素とは魔法を形作るだけのものに非ず。魔素は万物を形作るもの。万物に繋がり、干渉し、影響し合うものなり。魔法は万物に干渉した際の現象なり。魔の四大元素たる火・水・土・空とは、つまりはその現象の上澄みを汲み取ったものである。」


 俺が暗唱してるのは世界最古の魔導書『ソロモン』の序文の一節だ。

 といっても現存するうちで最古ってだけだって姉ちゃんは言ってるけど、俺にとっちゃどうでもいい。


 魔導書ってのは大昔の偉い魔法使いが、魔法や魔素をあるべき形に留めるために後世の人間を導くための書物ってのも言ってた。

 魔法の存在がこの世界に認識されて何千年って経ってるから、本当の意味での世界最古は特定できないんだそうだ。


『できれば、死ぬまでに本当の世界最古の魔導書ってのを拝みたいもんだねぇ……』


 なんて姉ちゃんは言ってた。

 それも俺はどうでもいいや。

 俺はとにかく魔法を学べればいいんだから。


「おお〜、ちゃんと覚えたようだね〜。えらいえらい」


 俺が姉ちゃんから宿題に出されてた、『ソロモン』の序文の暗唱を終えたら、頭を撫でながら褒めてきた。


「つーかよー! こんなつまんねーことじゃなくって、もっとこう、派手な魔法教えてくれよ! いい加減飽きたよ!」

「バカモン!先人のありがたーい教えをつまんねーとは何事かっ!魔法には正しく使うための知識と心構えが重要なんだ。言っとくけど毎回やるよ、これ」


 俺は、うへぇと思いながら机に突っ伏す。

 別に覚えてるからいいけど、こんな面倒なこと毎回は流石に萎える……。


「あと、こうゆうのを怠るとどっかの誰かがホイホイ魔法を使うからなー。ホント困るよなー」

「いやー! 昔の偉い人の言うことは違うなー!何か、こう心にくるものがあるよな、姉ちゃん!」


 やっぱ基本ができてないとダメだよな!

 もっともっと意味を考えて読まないといけないんだな!

 さすが姉ちゃんだ、よくわかってるぜ!


「……単純でいいことだ、ホント」


 姉ちゃんが呆れ顔で何か言ってる。

 おかしいな、俺は正直に言ってるだけなんだけどな!


「でも、姉ちゃん。この『ソロモン』やっぱ何が言いてぇのかよくわかんねぇよ。」


 これはホント!

 小難しい言い回しとか、単語ばっかで全然理解できねぇ。


「うーん、まあ原典が古いものだから、翻訳とか写本の段階で意味合いが変わってきちゃうものも多いからねぇ。でもおおよその意味は変わらないと思うけど」

「そうは言っても、俺はこの序文だけで何を学べばいいんですか、先生?」

「はぁ……、優秀な生徒だよ、全く。つまり魔法は、魔素が及ぼす自然現象のほんの一部ってことで、魔法が一つの概念じゃないってこと。火の魔法は火事の延長にあって、水の魔法が大雨とか洪水の延長にあるっていうふうにね」


 そういえば序文にも、魔素は万物を形作るって書いてあったな。

 万物ってことはこの世の全てってことだもんな。


「魔法は自然現象をそっくりそのまま小さくしたものってかんじなのか?」

「あーそうだね、そんな感じそんな感じ。もちろんそれだけじゃないんだけど、とりあえずはそんな考え方でいいよ」

「じゃあ、その気になれば魔法を使って、無理矢理災害を起こしたりするこのもできるってことか!」

「お前は物分りはいいけど、発想が危険だな……」


 いや、別にやんないんだけど……。

 いくらなんでも、さっきとは違うんだからやって良いことと悪いこと位は解るって。


「まぁでもそうだよ。特に全時代なんかは城や街を攻めるために火攻めや水攻めなんてしょっちゅうあったからね。ただ、そうゆう魔法ってのは使う魔素も膨大だからね。一回使うだけで一日分の魔素使い切っちゃう程なんだよ」

「はぁ? なんだよそれ、使えねー!」


 なんだよ、魔法ってスゲー魔法をバンバン使っていくもんだよ思ってたのに。

 やっぱ物語で書かれてる魔法使いって作り話の中だけなのか……。


「そう、使えないんだよ。だから、それを補うための呪文スペル魔法陣サークルなんだよなー、コレが」


 スペル? サークル? 何か聞いたことない言葉が出たぞ?


「人が作り出せる魔素は個人差があるけど、そんなに大きな差は出ない。そもそも人が作り出す魔素だけで大規模魔法を使うってのが無理があるんだよ。そのために空気中や地面といった体外の魔素を有効利用しようってのが呪文魔法スペルマジック魔法陣魔法サークルマジックというわけだ。」


 ……?

 話を聞いてもよくわからない。

 それを使ったからといってどうなるんだ?


 俺が理解していないのが嬉しいのか、姉ちゃんはふふんと鼻で笑っている。

 

 くそぅ……。その顔腹立つな。


「呪文とは、詠唱によって自分以外の、ただ無作為に漂ってる魔素に意味を持たせること。そこら中にある魔素をこちらの意思で誘導させて、魔法として作るってこと。

 魔素そのものに対する号令ってかんじかな。魔法陣はそっくりそのまま、言葉を記号に置き換えたものさ。今は魔法言語学とか、魔法印章術とか言うんだけど」


 ええっ……と? むさくい? に漂ってる魔素に、意味?

 結局話が壮大すぎて全くわからねぇ。


 やっぱ姉ちゃんと話してると俺がバカだって言われてるみたいで、スゲェモヤモヤする。


「要は、これを使えば自分が魔素を全く使わずに大規模魔法が使えるってこと」

「おお! そうゆうことなら早く言えって!じゃあさ、早くその呪文とか魔法陣ってやつ教えてくれよ!」


 俺が姉ちゃんにそう言いながら詰め寄ったら、そうすることを予知してたみたいに姉ちゃんが手のひらで俺の顔を受け止める。

 姉ちゃんの柔らかい手で押さえつけられて息ができない。


「そう急くな。若いってのは嫌だねぇ、がっついちゃって」


 オバサン呼ばわりしたらブチギレるくせに、こうゆう時は年上ぶるんだよな姉ちゃん……。


 ってか、いい加減手ぇどけろよ!


「窒息するわ!」


 そう叫んでようやく俺の顔から姉ちゃんの手が離れる。

 離れたら離れたで、あの柔らかい手がちょっと惜しい。


 くそぉ、これがジレンマってやつか……。


「別に教えないわけじゃないけど、ロキ坊に早いっての。まだまだ基礎理論も全然じゃん!」

「でもよー、このきそりろんっての小難しいことばっかて飽きんだよ。先生なら生徒の興味をそそる授業してくださーい」

「ホントクソ生意気なガキだな……。いいかい、物事には順序ってものがあんの!火の魔法が使えても、どうして火が燃えるのかってことを理解してないと意味無いんだよ。ロキ坊、理解できる頭は持ってるのに、ほんっと物臭なんだから」


 あーもー結局こうだ。


 なんだかんだ言って姉ちゃんは頭がかてぇーんだよなー。

 もっと魔法使いなら自由に常識にとらわれない考え方じゃないとな。


 って言ってもこのまんまじゃその自由を得る手段も無くなっちまいそうだな。

 もう諦めて真面目になるか。


「わかったって、先生。ちゃんと授業受けっから。教えてよーせんせー」

「気持ち悪い声を出すな! もう……最初っからそうしてればいいんだよ」


 そうしてしばらくは、姉ちゃんから魔法の基礎理論の勉強だった。


 派手な魔法はもうしばらくの辛抱だな。


       *


 久しぶりに昔の夢を見た。

 そうは言っても俺もまだ十歳だから、昔って言っても大昔ってわけじゃないんだけどな。


 雪が降ってる日で、俺は空を見上げてるんだ。

 そんでもって俺は誰かに抱かれてる。

 多分この夢は俺が赤ん坊の頃の記憶なんだろうな。

 俺が覚えてる一番古い夢ってやつだ。


 俺を抱えてるのは誰かわからない。

 神父様なのか修道女様なのか、もしくは俺の本当の母ちゃんなのかもしれない。

 俺は夢で見ているような、雪がパラパラと降ってる日に捨てられた。

 よりによって雪の日に捨てやがって、凍え死んだらどうすんだ。


 そもそも捨てんじゃねぇよ! せっかく生んだ子供だろ!


 ……まぁ怒っては見たけど、顔も知らねー両親に、別に怒りとか憎しみとかねーし。

 神父様と修道女様も、神の教えだとか人としてどうとかっていうことを無しにしても俺のことを愛情を持って育ててくれたと思う。

 そう考えてたら、子供を捨てるような親より、親切な神父様たちに育ててもらえてラッキーだったな。


 でも、なんでかわからないけど、俺が捨てられた日のことをたまにこうやって夢に見るんだ。

 この夢を見てうなされるとか、飛び起きるとかないけど、とにかく気分がわりぃ。

 その日一日気分が乗らないんだよなぁ……。


「ロキ。いい加減起きなさい。朝の祈りに遅れてはいけないと言っているだろう」


 別に朝ベッドから起き上がるのが嫌だから言ってるわけじゃねえんだぞ。


 ……いやマジでマジで。


 いやーやな夢見たなー。調子出ないわー。

 そう言い訳してみたけど、神父様に迷惑かけるのは違うよな。


 ダルイ身体を起こして礼拝堂に向かう。

 神父様には感謝してるけどこれだけは面倒なんだよなー。


 朝の祈りと朝食を終えて、神父様が村の子供に向けて行ってる青空教室の準備を手伝う。

 神父様は若い頃は都会で教師をしてたみたいで、今は田舎でまともに教育を受けられない子のために学校の真似ことをしている。

 おかげで読み書きに不自由することはないからホント神父様には頭が上がらない。


 口には出さないけどな、恥ずかしいし。


 だんだんと教会の青空教室に村の子供が集まって来る。

 もちろんエリクとペーターもだ。


 俺はいちいち突っかかってくるエリクを華麗に無視して、今日も今日とて真面目に授業を受ける。


 ふっ、出来る男はいちいち昔のことは引きずらないのだよ……。


 昼前に授業は終わって、また余計な茶々を入れられたくないからエリクに見つかる前にとっとと教会から脱出した。


 逃げたんじゃないぜ? 戦略的撤退ってやつだぜ?


 教会から脱出した後、ちょっと腹が減ったから近くの川で魚釣りをした。

 近くの木に巻き付いてる蔦を釣り糸にして、そこら辺の虫を餌にしてちょちょいと魚釣りをする。


 自分の器用さが恐ろしくなるぜ……。


 まぁろくに魚を釣るやつなんていないだろうからこんなポイポイ釣れるんだろうけど。

 そこはまぁいいや。


 何匹か釣れた後に火の魔法で焚き火を起こして魚をこんがり焼いてく。

 こうなったら塩か何かが欲しくなるけど、無いもんはしょうがない。


 にしても魔法ってほんと便利だよな。

 今すぐサバイバルしろって言われても余裕だなこりゃ。


 そうだ、せっかくだから姉ちゃんにも焼き魚を持ってってやろう。

 姉ちゃん魔法の研究とやらでたまに飯食わない時あるからなぁ……。

 世話の焼ける女だぜ、全く。


 そうと決まれば急がないとな。

 せっかく焼いた魚が冷めたらアレだし、それに姉ちゃんの家に行けば塩くらいあるだろ。


 ……あるよな?

 さすがに無いとダメだろ。

 なんていうか、大人として。


 なんとなく嫌な予感が拭えないけど、姉ちゃんの家に急ぐ。

 それで姉ちゃんの家が見えたくらいで、姉ちゃんと誰かが話してるのが見えた。


 いや、話してるっていうか、あの人は郵便配達の人だ。

 こんな田舎に手紙を送る人なんて滅多にいないから、ここら辺の郵便はいつもあの人が受け持ってるんだ。

 俺も何回か見たことがある。


「おーす、姉ちゃん」


 郵便の人が離れていったのを見計らって姉ちゃんに声を掛ける。


「やあ、ロキ坊。……何だいその両手の魚は?」


 そうだこんなもの持ってたんだった。


「あの、姉ちゃんさ……塩、って持ってる?」

「バカにするな」


 なんだ、持ってのか。良かった。


 こうして俺は、見習うべき大人が大人としての面目を保たれたことに安心することができた。


 あれ? 大人って塩持ってればなれるもんだったっけ?


       *


「帝国からの手紙?」


 姉ちゃんの家に入って、無事塩を掛けて魚の香ばしさと塩っぱさのハーモニーを味わいながらさっき姉ちゃんが貰っていた手紙について聞いてみた。

 姉ちゃんは短く「そ」と言いながら俺が持ってきた魚を頭からボリボリ食ってる。

 そんでその後内蔵の部分を食ってる。

 姉ちゃんってホント偏食だよなー。


「なんでわざわざ帝国からそんなのが届くんだよ? 姉ちゃん何モン?」


 帝国ってのはまぁ間違いなく、スカーディア帝国だろうな。

 そもそもこの田舎も一応スカーディア帝国の属領だし?


 スカーディア帝国は全時代、つまり第三次大陸戦争の時代に世界の覇権の一部を取った巨大国家だ。

 この大戦で西のブリティア、南のエトルリア、東のリェンファ、そして北のスカーディアに別れた。

 特にスカーディアは大陸の北側八割を属領にしてるような大国だ。


 手紙を見てみると、ちゃんと帝国の消印が使われてるから、本物だ。

 てか、本物の印璽が押された封蝋って初めて見た。


「べっつにー。昔、帝国の魔法大学にいたってだけー」


 当の本人は何故か、手紙を手で弄びながらどうでもよさそうにしてる。

 そしてそのまま手紙を放り投げ、ゴミ箱へ放物線を描いてナイッシュー。


「って、うえええええ!」

「な、なんだよロキ坊。大声出して」

「いやいやいや! なに帝国からの手紙捨ててんだよ! しかも封も開けねーでよ!」


 バカじゃねぇの! いや、バッカじゃねぇの!?

 やっぱ姉ちゃん大人としてどうかしてるぜ!


 そもそも手紙の差出人が誰だろうと、とりあえずは中身を確認するだろ!

 常識知らずも程があるっつーの!


「いや、大体予想つくよ。てゆうかこれが初めてじゃないんだよ、こうゆう手紙が来るの」


 は? そうなんだ、じゃあしょうがない。


 って騙されるか! だからってそのまま捨てていいわけあるか!


 なんか俺ばっか怒って話が堂々巡りになってる気がする。

 一旦落ち着こう、話はそれからだ。


「じゃあ何なんだよ、中身を確認するほどでもない内容って……」

「話は変わるんだけど。ロキ坊さ、『血の宣戦』って知ってる?」


『血の宣戦』。

 知らない方がおかしい。


 確か『黒い逆十字』って奴らが世界中の町やら村の人間を皆殺しにして壊滅させたっていう、集団なんたら事件ってやつ。

 こんな田舎でも世界的大ニュースは伝わってくる。

 神父様がかなり心を痛めてたし、よく覚えてる。


「当たり前だろ。それが何?」


 そう、なんで今その話が出てくるんだ?


「その『血の宣戦』、このスカーディアのいくつかの町や村でも被害にあったみたいでさ。それで皇帝様がたいそうお怒りなんだよ。我が領地を脅かしおってーってね。だから国中の腕の立つ剣士や戦士、さらには有能な魔法使い何かを呼び寄せて『黒い逆十字』を殲滅するって言うんだ」

「その言い方だと、姉ちゃんもそれに呼ばれたってこと?」


 俺の答えに姉ちゃんがやる気なさそうな声で「せーかーい」っていう。


 つーかそれだと、今姉ちゃん自分で自分を有能って言ったって事だよな?


「でもスゲーじゃん! 皇帝が姉ちゃんの力を認めたって事なんだろ! なんで行かないんだよ!」


 まさか、姉ちゃん帝国の魔法大学にいたって言ってたし、

 そこで帝国の嫌なこととか、見ちゃいけないものを見たとか。

 それで力を貸す気がないみたいな!


「めんどい」


 ズッコケた。


 そりゃもう盛大にズッコケた。

 勢いに任せて後ろに回転するように椅子から転げ落ちた。

 しかもそれを見て姉ちゃんがケラケラ笑ってる。


 くそぅ、誰のせいだと思ってるんだ。


「姉ちゃん! いい加減真面目に生きろよ! なんでガキ扱いする俺に言わせるんだよ!」

「何言うんだい! あたしゃ自分がこうって決めた生き方を貫いてるだけさ。そんなの覚悟のある大人じゃなきゃできんよ?」


 ああ言えばこう言う……。


「そもそも、あたしは魔法大学時代その堅っ苦しいやり方が嫌で嫌でしようがなかったんだ。だから今こうして自然豊かなこの地でのびのび魔法の研究に勤しんでるってわけサ!」


 もうダメだ。この人には何を言っても通じない。

 これ以上俺があーだこーだ言っても疲れるだけだ。


「てゆーかさ、スカーディアは大国の癖に天下七皇(てんかななおう)を一人も抱えていないっていう引け目があるから、それを数でなんとかしようってだけなんだよ」

「おお! 天下七皇!」


 そうだよな、北の大国って言う割に天下七皇がいないって結構悔しいもんな。


 天下七皇。

 この世界で最強って言われる七人の剣士や魔法使いの通称だ。


 五十年前の第三次大陸戦争の時に、その戦争を終わらせた三人の偉人と四人の英雄を讃えてつけたものだ。


 三人の偉人は、たった一人で千人の兵士を薙ぎ倒した槍の使い手、槍皇(そうおう)

 世界中ありとあらゆる刀剣を使いこなし、そのひと振りは地形すら変えたと言われた、剣皇(けんおう)

 そして、この世に存在する魔法を統べ、万物を理解する程の叡智を持つと言われ、大戦を終わらせた張本人、魔皇(まおう)


 そして、四人の英雄は、魔の四大元素を取って、炎皇(えんおう)氷皇(ひょうおう)鋼皇(こうおう)天皇(てんおう)って名前が付いた。

 世界を救った三人の偉人の『皇』の名は永久欠番として扱われて、この三人は『救世の三皇』って呼ばれてる。


 あとの四人は、時代ごとに『皇』の名を持つ人は代わっていく。

 人並み外れた能力とそれを象徴とするエピソードがあって、その逸話が広まっていつしかその存在と共に『皇』の名が付く。


 今は、識皇(しきおう)樹皇(じゅおう)竜皇(りゅうおう)聖皇(せいおう)の四人が残りの四皇の座を担っている。


「いやー、やっぱ天下七皇がいるかいないかじゃ大きな違いだもんな! なんせ七皇の内の一人で軍隊と匹敵する力を持つって言うからなー!」

「はぁ……ロキ坊はほんっと、天下七皇が好きだねー」


 俺が天下七皇について熱弁してると姉ちゃんは随分と冷めた眼で俺を見てくる。


 なんか呆れ感を感じる……。失礼な。


「あったりまえだろ! やっぱさ、男たるもの生まれたからには最強の名前は憧れるもんだぜ! 俺ももっと魔法の勉強してさ! ゆくゆくは天下七皇の名に俺の名前を刻むんだ!」


 そう! 俺がここまで熱心に魔法の勉強をするのは天下七皇に俺の名を刻むことが野望なんだ!


「っぷ! ひゃーーーひゃひゃひゃ! ロキ坊が天下七皇ぉ? あっひゃっひゃっひゃ、あんま笑かすんじゃないよ!」


 俺がちょっと恥ずかしさを我慢して語った野望を、姉ちゃんは大笑いしてる。

 ってかバカにしてやがる!


「んだよっ! 俺が何を目指そうと勝手だろ!」


 ここまで盛大に笑われると腹が立つし、何より恥ずかしい。

 もう顔から火が出そうなほど熱い。


 ちっくしょう! 姉ちゃんと俺の仲だから言ったのに!


「ひっひっひ……、だってロキ坊さ、そんなお粗末な魔素量でどうにかなると思ってんの?」

「ぐっ……!」


 そう俺には弱点がある。

 人間誰もが持ってる魔素。

 その容量が、俺は人より少ない。


 それも絶望的にだ。


 人は一人一人持ってる魔素の量がバラバラで、それこそ天下七皇みたいに化け物みたいな量の魔素をその身に宿してる人もいれば、俺みたいに基本魔法を一、二発使ったら魔素切れを起こしてバテる人もいる。


 でも、普通の人でももう少し魔素の量はあるって姉ちゃんは言ってた。

 俺は姉ちゃんが見てきた中でもトップレベルで魔素が無いらしい。


 ホントなんだよそれ……。なんで俺がそんな目に。


「……わかってるよ。ああ、わかってますよ! 確かに俺は魔素量が少ねーけど、それをなんとか努力と才能でカバーしようとしてんだろうがっ!」

「ははは、努力は認めるけど才能はどーかなぁ? 実際魔素がほとんど無いようなもんだし」


 無いんじゃねぇ! 少ないんだ! そこ大事なとこだから!


「世の中には、持ってる魔素の量と質で魔法の才能を左右するっていう人もいるくらいだからねぇ……」

「だったら、俺の質の部分を見出してくれよ! あんた俺の先生だろ!」

「そうは言っても、見いだせるだけの実績を見てないし。そのためにはいっぱい魔法使えるようになって、色んな魔法を検証してみなきゃ……。あ、その魔素量じゃキツいか」

「俺をバカにして楽しんでんじゃないよな?」


 姉ちゃんは俺をチラチラ見ながら含み笑いをしてくる。

 俺は魔素少ないからどっちにしても才能がないって言いたいのかコラ……。


 なんだか怒りを通り越して悲しくなってきた。

 これまで意地でも目を背けてきたのに、暗に俺には魔法使いにはなれないって言われてるみたいだ……。


「案ずるな少年よ! 迷えるお前のために魔法使いとして生きていける道を私が示してしんぜよう!」


 そんな俺を元気づけるためにか、ただ単に俺に知識をひけらかしたいだけなのかわかんないけど、姉ちゃんが立ち上がってそう言ってきた。

 なんだよそのテンション……。


「今まで基礎理論の勉強よく頑張ったね。いよいよ呪文と魔法陣についての勉強だ」



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