希望の黎明 5 ー諦める覚悟―
管理主任がとある人物に電話をした数時間後。陽は完全に沈み、街灯も月明かりも無い一帯にポツンと光が浮かんでいる。
本来なら電灯を消し、明日の激務に備え僅かな休息を取るシナロアの倉庫が今日に限って仄暗い光を灯していた。
「ど、どういうことだ! 今日、本社からの使いと名乗る人間が来た!」
そんな灯りの下、この場の責任者である管理主任は顔を真っ青にしながら唾を飛ばしていた。
「それがどうしたんだ? そんなのいつも月一くらいできてたんじゃなかったのか?」
癇癪を起こす管理主任とは違い、落ち着いた様子で喋るのは肩幅の広い総髪の男だった。管理主任の方には見向きもせず、多くの商品が積まれた倉庫の中の一点を見ていた。
「それが違うから問題なんだ! 今日来た人間は何故か知らないが、私があんたらに商品を横流ししていることを知っていたんだ!」
「知っている? 証拠でもあるのかい?」
「し、知るか! どうせあんたらがヘマをしたんだろ! こっちは完璧に対応したんだ! 怪しまれないように流通ルートを毎回変えたり、大きな被害を出して首を着られないよう積荷の数を調整したり!」
管理主任がそう言い訳を喋っていると、突然管理主任の首を硬質なものが掴んだ。それは黒い甲冑に包まれた総髪の男の手だった。しかしその甲冑は明らかに人の手の大きさをはるかに上回るサイズだった。
そんな甲冑にぎりぎり息ができる程度に絞められ、悲鳴もあげられずかひゅっという音だけが喉から漏れた。
「その程度で完璧とはよく言ったもんだ。今まであえて口には出さなかったが、あんたのやり方は杜撰すぎる。ルートは毎回一度も通ったことのない道。盗まれた積荷は高価な武器や魔道具ばかり。もっとルートはいくつかローテーションを組ませたり、盗ませる積荷に安価な食糧品でも混ぜとけば“運が悪かった”で済ませられたんだ」
それだけ言うと男は管理主任の首から手を離した。管理主任はその拍子に尻餅をついて苦しそうに咳を吐き出した。
「でもまあ、こっちだって感謝はしているんだ。おかげで資金にも武器にも困らない。たった三ヶ月だけだがいい関係だった。だからこうしてあんたの泣き言にも付き合ってるんだ」
総髪の男は温情をかけるようにそう言うが、管理主任にとってはもはや恐怖で何を喋っているかもわからなかった。
「なにより、今回の商品は別格だ。こんな上等な代物をここで見れるとは思えなかった」
そう言って視線を戻した先には、電灯に照らされ琥珀色に輝く一つの短剣があった。
「魔素の消費量が激しくて誰にも扱えなくも、その美しさから大戦時代から重宝されてきた魔剣『アンバー』。これを闇ルートに売りゃあ、しばらく遊んで暮らせるくらいの金が手に入る。これだけでもあんたの尻拭いをする価値があるってもんだ」
そう言い終わると総髪の男は失意で視線を落としていた管理主任の肩に甲冑で覆われていない手を置いた。
「安心しろ。あんたと俺たちは一蓮托生だ。どこまで行っても離れなれないさ。それこそ、世界が終わるまでな」
そう言って総髪の男が怪しく笑う。それに相反するように『アンバー』は鮮やかに輝き続けた。
*
ロキと出会った翌日、リカルドはいつものように朝早くから山林を一人で走っていた。
今日の仕事は休みのため早起きをする必要もないのだが、昨日の一件のせいかどうも寝つきが悪かった。
ロキに言われた一言がずっとリカルドのなかでぐるぐると巡り、胸にしこりができたようだった。
それを払拭するためにもリカルドはオーバーペース気味に走り続けた。一心不乱に走り続ければ不安も置いてきぼりにできそうで。
もちろんそんなことはできないし、いつしか限界も来る。立ち止まり、両膝に手を置いて荒い呼吸を整えた。
ふと空を見上げる。予想通り空は分厚い雲に覆われている。もしかしたら雨も降るかもしれない。
雲を見ているとまるで押しつぶされそうな気分になって、リカルドは家に戻ることにした。
家に戻り母が用意した朝食を取ってからリカルドはすぐに家を出た。
特に用事があるわけでもないが、じっとしていると悪い方向に考えてしまいそうでとにかく体を動かしていたかった。人とも話したい気分でもなくすぐに村から出た。
――どうしてこんなにモヤモヤするんだろう?
リカルドは歩きながらずっとそんな風に考えていた。
答えは出ている。リカルドはこの村から出ることはできない。闘気も纏えない自分が何かできるとは到底思えない。そして体の弱い母を置いて行くこともできない。
何より、万が一、自分が闘気を使えたとして、自分が戦う立場になって命を落としてしまったら。そうしたらまた母を悲しませてしまう。それどころか自分がいなくなれば母は一人ぼっちになってしまう。
そう考えただけでリカルドは戦慄した。母の涙を想像しただけで、吐き気すらおぼえた。
やはり、母を置いていくことはできない。
だが確信したところで、リカルドの心は晴れることはなかった。むしろあの言葉が浮かび上がる
「なんでも人のせい、か……」
呟いてリカルドは足を止めた。そして視線の先に何かを感じ取り、思考は閉ざされた。
無意識に歩いているうちに、リカルドはシナロアの倉庫の近くまで来ていた。その倉庫に向けて何人かが向かっているようだった。
そこでリカルドは不自然に思った。今日は倉庫自体が休みの日で従業員が向かうことはない。たまに休日勤務はあるが、その場合は前日にちゃんと知らせがあるはずだからそれはない。何より気になったのは倉庫に向かう人々はずいぶん忙しなく周りを気にしているようだった。まるで誰かに見つからないようにしているみたいに。
リカルドに、今までとは全く別の不安が押し寄せた。ほとんど無意識でリカルドはその人間たちを追っていった。
*
追っている人物に気づかれないように遠巻きにつけていくと、予想通り倉庫に行き着いた。
相手はこれまで以上に周囲を警戒しながら倉庫の中へ入っていった。
中に入っていった人間たちを観察したが、リカルドは見たことも無い顔だった。少なくとも倉庫の従業員ではないだろう。胸の中に渦巻いていた不安がどんどん大きくなるが、リカルドは意を決して倉庫の中に向かった。
倉庫の裏手の従業員用の出入り口にたどり着きそっとドアに耳を寄せて見たが不気味なほど静かだった。
心臓がどんどん早くなるのがわかった。手にべっとりと汗をかきズボンでぬぐってドアノブに手をかけた。
扉を上げた先は真っ暗だった。普段は安全のため照明で眩しいくらい照らされているはずだ。やはり休日勤務なんかではない。
無意識のうちに足音を立てずに奥へと進む。息を殺し、高鳴る心臓を必死に誤魔化した。
「おい、早くしろ。あまり長居もできないんだ」
倉庫の奥から声が聞こえる。しかし聞いたこともない声だった。
「とっとと運び出せ。最後は根こそぎ持ってくぞ」
「ったく。いいカモだったんだかな」
「まあ大分稼がせてもらったんだ。文句言いっこなしだ」
先に進むほど様々な声が聞こえる。しかしその一つとして聞き覚えのある声は無い。
不安は限界まで達し、吐き気すらこみ上げてきた。
リカルドは壁に隠れながら荷物が置いてある空間を覗き込む。そこには十人に満たない男たちが忙しなく動き回っていた。男たちはやはりここの従業員ではなかった。
しかしそんな人間たちより、リカルドは倉庫のさらに奥、ちょうど倉庫の真ん中あたりに陣取り木箱に堂々と座る男に目が行った。
歩き回る男たちとは違い、黒く上質そうなコートを羽織り、同じく黒い髪をべったりと後ろになでつけた姿は上品さすらあった。しかし男の険しく高圧的な表情は遠目から覗くリカルドすら萎縮してしまうほどの覇気があった。
その黒い男から目を離せなかったリカルドは小走りで走ってくる人物を見て思わず声を上げそうになった。
「こ、これでウチが保管している輸送ルートの情報は全部だ」
「そりゃどうも。せっかくだ、貰えるもんはなんでも貰わんとな」
黒い男に近づいた人物はここに来てやっと見覚えのある人物。この倉庫の管理主任だった。
「これで、私のことは助けてくれるんだな!?」
「ああ。あんたには大分稼がせてもらったからな。約束は守る」
管理主任と総髪の男の会話で流石にリカルドは全てを理解した。
今までも盗賊の襲撃事件。その黒幕は管理主任だったのだ。管理主任は配送ルートを熟知している。何時如何なるルートでどのような荷物が運ばれるかの全てを管理している。考えてみたらすとんと腑に落ちる。今までの十件もの強盗被害も管理主任の手引きなら難しくない。
リカルドはそう思いながらも、管理主任に対して底知れない怒りの感情が湧いた。
管理主任は、気は弱いが、仕事は真面目で、歳が離れたリカルドにも優しく誠実に交流してくれていた。それなのに裏では盗賊相手に仕事をしていた。
信頼を裏切られた気分になりリカルドは立ち上がった。そして一歩足を踏み出そうとした――。
――向う見ずなのは確かだけどな。
瞬間、ロキの言葉が脳裏をよぎり、リカルドは足を止めた。
そうだ。ここで出て行ってどうする。やめろと叫ぶ? 盗賊たちを追い払う?
できるわけがない。鍛えているとは言ってもただ走り回っているだけなのだ。それにおそらく相手は闘気を使うだろう。自分には使えない闘気で襲いかかられたらひとたまりもない。
そこまで考えたら、急に足が震えだした。顔にべっとりと汗をかいているのがわかる。
――怖い……。
その一言が頭に浮かぶと、もうリカルドは何も考えられなくなった。次の瞬間には後ずさりをしていた。
ゆっくりと来た道を戻り出口を目指す。本来なら十数歩程度の距離が果てしなく遠く感じた。
やっとの思いで出口にたどり着くと、音を立てないように細心の注意を払って扉をしめる。そしてリカルドは走り出した。
いつもの体力作りのランニングではない。一刻も早くその場から逃げ出そうと全力で駆け出した。
――怖い! 怖い! 怖い!
走り方は不細工で、息継ぎすらまともにできていない。
それでも走った。全力で、命懸けで。
怖かった。しかしそれは自分が死ぬことではなく、たった一人残った母親を残すこと、たった一人の母親に何も言えず死ぬことが、怖くて仕方がなかった。
そんな風に走っていると道のくぼみに足を取られた。受身を取ることもできず、リカルドは派手に転倒した。
転んだ拍子にあちこちを擦り切り、荒れた息を整えながらリカルドは絶望した。
何が怖いだ。英雄に憧れておきながら、何もできない。いざとなったら逃げ出す愚かな自分が醜くて醜くて仕方がなかった。
「ああ……。うあああああ!」
膝をついてリカルドは泣き出した。そんあリカルドに追い討ちをかけるように弱い雨が降りだした。世界の全てが自分を嘲笑っているかのように思えた。
「なに泣いてんだ、お前」
唯一、その声の主を除いては。
「……ロキ、さん?」
そう言って見上げると、昨日出会った青年はリカルドを見下ろしていた。
昨日と全く同じ、なんの関心もない表情で。
「こんな雨ん中、泣き喚いて悲劇の主人公気取りか?」
「なんでロキさんがここに……?」
思わず口をついてそう言ったが、それよりもとリカルドは体を起こしてロキに縋るように訴えかけた。
「そ、そうだ! 今、倉庫に見たこともない奴らがいるんです! そいつら倉庫の中漁ってて、管理主任もグルで……! き、きっとあいつら例の盗賊です!」
混乱しながらも勢いでしゃべっているため要領を得ない説明だったが、ロキには全て理解できた。
「あぁ、だろうな。昨日あんだけ煽ってやったんだ。今頃、躍起になって後始末してんだろ」
「え……?」
自分の説明の下手さは抜きにしても、なぜそこまで事情を察しているのかリカルドにはわからなかった。
「もともと、ブロンズの爺さんから管理主任が怪しいって話は聞いてたんだ。だから昨日までその裏付けになる情報を集めてた。その管理主任、女房に逃げられたせいであちこちに借金作ってたんだ。主に酒代のな。その返済で首側回らなくなって盗賊の襲撃の片棒担いでたってところだろ」
自分の理解が及ばないうちにどんどんとロキは語っていく。その自信に溢れた佇まいは自分とは対照的で頼もしさがあった。
「管理主任の人となりを考えると、ちょっと脅せばすぐに盗賊共に頼って後始末することが簡単に予想できた。ちょうど今日は倉庫の営業自体は休みなんだろ? 後始末日和ってとこだな」
リカルドはロキのその言葉に衝撃を受けた。自分は怖くて仕方がなかったあの出来事がロキの筋書き通りだというのだ。全てこうなることを見越して、ロキは動いていたのだ。
――すごい……。
ただ逃げ惑うだけしかできなかったリカルドは、目の前のロキに対してそんな風に思っていた。
ただ力がないだけでもうダメだと思い込んでいた自分と違い、策謀を巡らし相手を追い詰めているロキに対して羨望を向けていた。
「今、近くの町にリンゴーンから引っ張ってきた騎士連中を配備させてある。頃合を見て突入させる手筈だ。お前はもう……」
「あの! 俺に、俺になにかできることはありませんか!?」
ロキの忠告を途中で止めてリカルドはそう叫んだ。
ロキの姿勢に憧れ、自分も何かをしたいと思ったからだ。きっとロキの言う事を聞いていれば何とかなると。今までの弱虫の自分から抜け出せると信じて。
「俺も、何か手伝いたいんです。俺もロキさんみたいに強くなりたい。教えてください! 俺はどうすればいいですか? 俺にできることがあったらなんでも……!」
そんな風に決意を込めた言葉を、ロキはリカルドの胸ぐらをつかみ遮った。
「お前、いい加減にしろよ。この期に及んでまだそんなこと言ってんのか」
リカルドの胸ぐらを掴んだロキはこれまでとは違い、リカルドに対して怒りと、侮蔑の思いを込めて睨みつけた。
リカルドは理解ができなかった。ただ自分は力になりたかっただけだ。それなのにロキはそれさえも許さない。
「昨日あれだけ好き勝手言われといて、まだの他人の言葉頼らねぇと動けねぇのか? 俺が死ねっつたらお前、死ぬのか? なあ!?」
そう言われて大きく揺さぶられたが、リカルドは何も言えなかった。
「どうすればいいだぁ? 知らねえよ、テメェで考えろ。こちとらお前みたいな腰抜けの責任なんか負いたくねぇんだよ」
そういってロキはリカルドに詰め寄った。
「お前はテメェの生き死にも、人生も、『人の所為』で済ますのかよ!」
人の所為。また言われた。
リカルドはそれだけ考えて脱力した。それと同時にロキは突き飛ばすようにリカルドの胸ぐらを離した。
尻餅をついて微動だにしないリカルドに、追い討ちをかけるようにロキ言う。
「それでもまだどうすればいいかわからねぇなんて言うなら教えてやる。お前もう何もするな」
最大限の侮辱を込めて、見下すように吐き捨てるように――。
「死ぬまでそこで這いつくばってろ」
それだけ言って、ロキは踵を返した。容赦のない速度でリカルドから遠ざかる。
雨が強くなった気がした。失意のリカルドの体の芯まで冷やそうと雨が熱を奪う。
――生き死にも、人生も……。
リカルドはロキの言葉の一つ一つを反芻した。
確かに言われたい放題言われた。どうして昨日今日あったばかりの人にあそこまで言われなければならないのだろう。そして、なぜ何も言い返さなかったのだろう。
「ははは……」
なんだか馬鹿らしくなって、リカルドは笑った。今度はさっきと違い失意ではなく、吹っ切れたような笑い方だった。
自分の人生も人のせいにする? 死ぬまで這いつくばってろ?
そんなの――。
「嫌に決まってるだろっ!」
もはや姿も見えないロキに対してか、それとも自分に対してか。リカルドは大声でそう叫んだ。
自分の顔に流れる雨を拭いながら、リカルドは立ち上がった。
濡れた髪から覗く瞳は、もう臆病者ではなかった。
*
ロキに罵倒されたリカルドは、さっきは怖くて逃げ出したシナロアの倉庫に戻ってきていた。辺りを見回したが、ロキやロキが言っていた騎士の姿はなかった。まだその時間ではないのだろうか。
結局ここまで戻ってきたが、だからといって出来ることは限られる。少なくとも真正面から立ち向かうことはできない。しかし、倉庫の中は熟知している。障害物を利用して相手をかく乱し、ロキや騎士たちが来るまで時間稼ぎができるかもしれない。
そう思って、リカルドは倉庫の裏口に向かう。なぜか毎日来ている倉庫が、凶悪な魔獣が住む洞窟のような気がしてきた。
――けど……!
リカルドは決めたのだ。もう逃げ出さないと。
覚悟を決めたリカルドは倉庫の中へと足を踏み入れ――。
「待って、りっくん!」
損なった。
「ぅえええ!?」
決意を新たにしたリカルドの一歩は、シャツの裾を思い切り引っ張られ盛大に空を切った。
「よかった……!間に合った!はー、はー。あー、疲れたー」
後ろを振り返ってみると、息を切らして肩を上下させるヒカリがリカルドのシャツを引っ張ってい
た。
「ヒ、ヒカリ!? なんでこんなとこに?」
「あのねー、ロキ坊にねー、宿で大人しくしてろって言われたんだけどねー、じっとしててもつまんなくてねー」
かなり体力を使ったのか、息を整えながらでなかなかはっきりとしなかった。
「ふう……。あのね、ロキ坊とりっくんの喧嘩、遠くから見てたんだ。ロキ坊に突き飛ばされてからりっくん、しょんぼりしてたから励まそうと思ったんだけど、りっくん急に走り出すからつい追いかけちゃったよー」
まさかあの場面を見られていたとは思いもせず、リカルドは複雑な気持ちになった。しかし場所が場所だけにのんびりとしていられない。
「ヒカリ、とにかくここは危ないんだ! ヒカリは町に……」
「ね、りっくん。りっくんはどうしたい?」
ヒカリはリカルドの言葉を遮り突然そう言った。シャツを掴んでいた手を離し、今度はリカルドの手を掴んでいた。小さくて温かい手だった。
「え? どうって……」
「この中に悪い人たちがいるのは知ってるよ。あたしは何もできないからじっとしてるけど、りっくんはどうしたいの?」
こんな小さな子に言ったところでどうしようもない。そんなことより、一刻も早くヒカリを遠ざけるべきだ。
しかし――。
「俺は、戦いたいんだ」
「それはこの中の悪い人たち?」
「うん、それもある。でも、一番戦うべき相手は、ロキさんのおかげでわかった」
自分の手を掴むヒカリの手を、リカルドは握り返した。覚悟を確かなものにするために。
「俺が立ち向かわなきゃいけないのは、俺自身だったんだ。臆病で、人任せで、楽な道ばっかり選んでる、俺だ」
リカルドはロキの言葉でようやく気がついた。
自分は、ただの怠け者なのだと。
理想ばかり立派で、そのくせそれにむかって努力をするわけでもない。
悪しき現実に目を背ける、怠惰。それこそがリカルドが打ち倒すべき魔王だったのだ。
「もう、俺。諦めたんだ」
「諦めるって、騎士になること?」
「そうじゃない……。俺が諦めるのは、自分に嘘をついて夢を諦めることだ!」
身の丈に合わない夢を諦めない。そう誓った。そんな思いで手に力を込めると、ヒカリは目を伏せ
「わかった……」と小さく呟いた。
その瞬間、リカルドの体が熱くなった。
「……え?」
「本当は、これはやりたくなかったんだ。りっくんの負担になっちゃうと思って」
リカルドの体の中の熱はどんどん上がり、体中を巡った。
「ね、りっくん。りっくんはほんとはね、すごい力を持ってるんだよ。でもそれは、りっくん自身を傷つけちゃうくらい、とっても強い力。けどそれ以上に、すごい力をりっくんは持ってた」
そう言ってヒカリは顔を上げリカルドの顔を見た。優しく慈愛に満ちたその眼差しは、なぜか母親を思い出させた。
「りっくんは、とっても綺麗な心を持ってた。その心はね、世界を照らす“光”になるんだよ」
ヒカリのその言葉と共に、体の内からとてつもない力が湧いてきた。
本当に、世界を救える気さえしてきた。




