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薔薇の心臓 2 ―因縁の再会―



「それでね! 私、王立大学で印章学の教授にいっぱい褒められたんだよ! みんなからすごいって言われたんだ!」


「そうか、すごいな。流石シャルだ。お前は昔から本を読むのが好きだったからな。きっと将来は頭が良くなると思っていたんだ」


「えへへ~。すごいでしょ~。褒めて褒めて~」


 街の散策が人取り済み、シルヴィアと待ち合わせていた建物にやってきたロキたちが目の当たりにしたのは、ギルバートが見知らぬ美少女を膝に乗せ仲睦まじく談笑しているさまだった。

 その様子は付き合いたてのカップルも裸足で逃げ出すような甘ったるさを放っていた。


 ロキは空いた口が塞がらないとはこのことだと思った。

 ほんの数刻、目を離した隙に、親友が普段は女性との距離の取り方がわからないとほざいていながらこれまででトップクラスに可憐と言える顔立ちの少女と談笑をしている。膝に少女を乗せて。


 ――どういうことだ。顔なのか。結局顔なのか。朴念仁つったところで顔さえよければいいのか。それにしても解せねぇ。ありゃどう見ても子供だ。見たところやっと成人になったばかり位の歳だ。幼い顔立ちのせいでもう少し若く見える。そんな子供が好みだったのか。なるほどどうりでお嬢の弾けんばかりの爆乳にも目もくれなかったはずだ。このロリータコンプレックスめ!!!


 ロキは口をあんぐりと口を開けながらも、親友を心の中で罵倒していると横からシルヴィアがロキたちに声をかける。


「おかえり。街はゆっくり見れた?」


「あ、はい。ところでシルヴィアさん。あれは一体……」


 目の前の光景に流石のエルナも困惑し、事情の説明を求めた。


「ああ、あの子はね。ギルの妹のシャーロットよ。十年前の『宣戦』で私と一緒に何とか生き残ってて、今日やっとギルと再会できたのよ」


「そうなんですかっ!? そっか……ギルバートさん妹いらっしゃったんですね……」


「そうか。話にゃ聞いてたが、あの子がそうなのか……」


「へぇ~。やっぱギル君の妹だけあってちょー美少女だね!」


 シルヴィアの説明に納得した面々は感慨のこもった声を漏らした。


「ギルバートさん嬉しそう……。十年ぶりだもん。嬉しいに決まってるよね……」


 改めてシャーロットと仲睦まじく話すギルバートを見てエルナはそう言いながら感極まり目の端に涙を溜めていた――が。


「んなこたぁあどうでもいいだろ!!!」


 周りの雰囲気を盛大にぶち壊しロキはエルナに詰め寄りそう叫んだ。


「い、いきなり大声出さないでよ! ビックリしたじゃない、バカ!」


「いやいやいやいやいや! あれ見ろよ! あれ! ギルの奴膝に女乗せてんだぞ? おかしくねぇか? わざわざ膝に乗せて話す必要あるか? いや無い! 重いだけだろ!?」


 エルナの非難の言葉無視しロキはギルバートの状態を激しく非難した。


「ええ……。別にいいじゃないの……。久しぶりの兄妹の会話に口出しすんじゃないわよ……」


「テメッ……! この……! お嬢! お嬢はいいのか、アレ!」


「はぇえ!? い、いいんじゃないの? 変なことないでしょ……?」


「……ッ! ……ッ! オッサン! オッサンは俺の見方だよな!? ギルのアレおかしいよな!?」


「いやおかしいのはお前だろ。何そんなに必死になってんだよ……」


「ロキ坊なに必死になってんの? キモイよ?」


 最期の砦とばかりに期待したギムレットの突き放す一言とヒカリの呆れた言葉にとうとうロキはキレた。

 両膝を地面につき、両の拳が砕けんばかりに全力で床に叩きつけた。


「~~~~ッッッ! どういうことだ! やっぱあれか! ギルがイケメンだからかっ! イケメンならなんでも罷り通るってのかコンチキショウがあ!!! イケメンならバカだろうがスケベだろうが天然だろうが言ったそばからモノ無くすすっとこどっこいだろうがガキ膝に乗せてようが全部いいのか! 全部許されるのか!!!」 


 ロキは叫んだ。この世の不条理を。

 ロキは嘆いた。この世の不平等さを。

 ロキは憎んだ。この世のイケメンを。


 あまりの熱意と見苦しさにシルヴィアもエルナもギムレットも何も言えなかった。


「ロキ坊、頭いいのになんでそんなバカなの?」


 そんな中ヒカリは哀れみを込めてロキにそんな言葉を送った。


「シャル。お前は俺の自慢の妹だ」


「もう……。兄様のバカっ!」


 事の発端となったギルバートはシャーロットととの会話に夢中でロキの存在など目にも入っていなかった。



       *



「は、初めまして。ギルバート・デイウォーカーの妹。シャーロット・デイウォーカーと申します。先程はお見苦しい所をお見せしました!」


 ロキの癇癪とギルバートの兄妹の会話が落ち着き、シャーロットは改めて自らの口で自己紹介をした。


「もう~! お姉ちゃん人が来てたなら言ってよ~!」


「ゴメンゴメン、二人共楽しそうに話してたから邪魔するのも悪いかなって……」


 挨拶を程々にシャーロットそうシルヴィアに文句を言った。その様子はギルバートと話していた時よりも気安く、まさに仲の良い姉妹の様な関係に見えた。


 未だシルヴィアと話しているシャーロットに会話の切り込み隊長ことヒカリが元気よく話しかけた。


「はいはいはーい! あたしヒカリ! よろしくね、しゃるるん!」

「ひゃっ! う、うん……。あれ、なんでこんなちっちゃい子が……?」


 シャーロットはヒカリと両手を繋ぎながらも頭を傾げた。

 シャーロットはシルヴィアが集めていたのは『黒い逆十字』に対抗するための人間だということを聞いていたためヒカリの存在に対する疑問は当然だった。


 そしていざヒカリの存在に疑問を持たれたところで、どう説明したものかとその場の全員が苦々しく言い淀んだ。


「あー……、ヒカリはなあ……。まあそのガキンチョは気にすんな。ああ、俺はギムレットだ。会うのは初めてだったよな?」


「あ、はい。お姉ちゃんから聞いてました。今までお姉ちゃんをお世話してくださってありがとうございました」


「ちょっと! お世話って何よ! 私はお世話してもらうような子供じゃありません」


「えー……。でもお姉ちゃん、放っておくとすぐお腹出して寝ちゃうし、忘れ物とかもしょっちゅうするし……」

「あ゛ー!!! 余計なこと言うな゛ー!」


 シャーロットの小言にシルヴィアは顔を真っ赤にしながら誤魔化すように大声を上げたが、他の面々はすでに承知の上だと言わんばかりに苦笑いを浮かべていた。

 とは言ってもシルヴィアのだらしなさよりも、ギルバートの失態の方が数も質も上回っているのだが。


 そんなシャーロットを中心とした和気あいあいとした語らいの輪から一歩離れた場所からロキとギルバートは並んで眺めていた。


「にしてもギルに妹がいたとはな……。確かに顔立ちはそっくりだな」


「何を言っている。シャルは俺とは比べようもないほど可愛らしいだろう」


「おまっ……! ナチュラルにシスコンかましてんじゃねぇよ」


「そんなことよりもロキ。お前は間違ってもシャルに手を出そうとするんじゃないぞ」


「言うに事欠いてこの野郎……。余計な心配しなくてもあんなガキに手ェ出しゃあしねぇよ」


「なんだと!? それはシャルに魅力がないという意味か!? 取り消せ! シャルは誰よりも美少女だろう!」


「面っ倒クセッ! お前過去最高にメンドクセェな、このシスコン野郎!」


 妹を侮辱されたと思い込んだギルバートはロキに掴みかかり恫喝したが、ロキも売り言葉に買い言葉で食ってかかった。

 お互い掴み合い、醜くじたばたと喚いている様を見たシャーロットは驚きの視線を送る。もはや十年も前のことだが、兄であるギルバートのことはよく覚えている。誰に対しても優しく礼儀正しい兄がああも言葉を荒げ、手を出す様子を見て唖然とした。

 そうやってギルバートたちを眺めているとシルヴィアがシャーロットの肩に手を置いて話しかけてきた。


「ああ、シャル。あの男はロキって言うんだけど、あまり近寄っちゃダメよ。教育に悪いから」


「どいつもこいつも、人を禁書扱いしてんじゃねぇよ!」


「禁書ってゆーか有害コンテンツって感じだね、ロキ坊は」


 ロキのツッコミにヒカリはケラケラと笑いながらそう言った。

 そんな風に笑い合っていると今まで席を外していたロナウドが戻ってきた。


「なんだい? 随分と賑やかだね」


「あ、兄さん。ごめんなさい、うるさくして」


 シルヴィアは戻ってきたロナウドにすぐに謝ったがロナウドはにこやかにそれを許した。

 そしてロナウドの存在に気がついたギムレットは慌ててロナウドに向かって姿勢を正した。


「っと! これはロナウド議員! 面目ない、挨拶もなく」


「構わないよ。ギムレットさんこそシルヴィアのお守り感謝するよ」


 ロナウドがそう言い終わる前にシルヴィアはまたしてもロナウドの背中に平手打ちをお見舞いする。

 痛みに耐えながらもロナウドは全員に向いて話しだした。


「ははは……。見苦しいところをお見せして申し訳ない……。改めて、僕はシルヴィアの兄でこの国ブリティア王国の中央議会の下院議員をしているロナウド・ヴァレンタインだ。肩書きは仰々しいけど、しがない下っ端政治家だ。どうか堅くならないで欲しい」


 そう言ってロナウドは初対面の全員に握手をして回った。


「まあ、僕からの挨拶はこれくらいで……。君たちにすごいお客様が来ているよ」


 言葉通り挨拶をあっさりと済ましロナウドはそう言った。


「お客様? どういうこと、兄さん。私何も聞いていないけど?」


 そのことはシルヴィアも聞いていなかったのか不思議そうな顔をしてロナウドに聞いた。


「うん。先方も今日シルヴィたちが戻ってくると聞いて急遽こっちに来たいと仰ってね。とにかくお連れするよ」


 忙しなくそう言ってロナウドは部屋を出て、外で誰かを呼んだ。


「お待たせいたしました。どうぞ、議長」


 そう言って促され部屋に入ってきたのは、ロナウドよりもかなり歳が離れた壮年の男性だった。

 混じりけのない長い白髪を揺らし、その髪から覗かせる表情は年を経て刻まれた皺すら貫禄を感じさせた。


「突然申し訳ない。君たちが帰ってきたと聞いてどうしても一度会っておきたくてね」


 鋭い眼と口からは打って変わって物腰柔らかい声色が発せられた。

 しかしその声を聞いて、シルヴィア、ギムレット、そしてシャーロットすらも姿勢を正し緊張した表情を浮かべた。


「ご紹介します。この方は……」


「いやいいよ、ロナウドくん。自己紹介くらい私からしよう」


 ロナウドの言葉を遮り、白髪の男性はにこやかに話し始めた。


「初めまして。私は中央議会で議長をやらせてもらっている、バイス・ミューゼル・グローリアスというものだ。急な訪問、改めて謝罪しよう」


 そう言って白髪の男、バイスは礼儀正しく頭を下げた。

 この国出身ではないロキやエルナたちもブリティアの政治について道すがらある程度の説明は受けていた。


 ブリティアはあくまで女王が頂点に君臨してはいても、実際政治については中央議会がその全てを取り仕切っていると。

 そしてロナウド、さらに本人が口にした『議長』という言葉を聞けばそれが何を意味するかは世情に疎いエルナですら理解出来る。


 ある意味では、この国で一番権力を持つ人間だと言えるかもしれない。


 ギルバートもバイスを見て身体に衝撃が走った。

 しかし、それは中央議会の議長という肩書きにではない。ギルバートはバイスの名、そしてバイスの顔をみて己の身体に刻まれた過去の傷が跳ねるように脈打った。


 その傷は十年前、『血の宣戦』により刻まれたギルバートの絶望と己の無力さの象徴だった。その傷がバイスを見た途端激しい痛みを伴い脈動する。


 しかしわからない。

 ギルバートは、バイスの顔も名前も、全く覚えがないのだ。


 流石にロキほど記憶力がいいとは言えないが。これだけ特徴的な外見ならばいくらなんでもギルバートでも忘れるはずがない。しかしそれでもギルバートの傷は何かを訴えるかのように疼く。まるで自分の手に負えない驚異に警鐘を鳴らすように。


 バイスは何かをギルバートたちに語っているようだが、正直何も耳に入らなかった。己の傷の痛みに戸惑うばかりだった。

 そうしているうちにバイスはギルバートの目の前に立っていた。


「君がギルバート君だね?」


 バイスはそう言って手をギルバートに差し出した。それが握手だと理解するのにも時間がかかった。


「は、はい……。初めまして。ギルバート・デイウォーカーと申します」


 たどたどしく挨拶をして握手に応じるギルバートを見てバイスは柔らかく笑った。


「初めまして、か……。実はね、私たちは依然に一度だけ出会っているのだよ」


 バイスのその言葉にまたしてもギルバートの傷が大きく脈打った。

 何故かわからないが、ギルバートは背中に冷や汗を感じていた。

 不穏な想いを抱いているギルバートにバイスは変わらない笑顔で話を続ける。


「と言っても、君がまだ赤ん坊の時だから覚えていなくても仕方がないね」


 想像もしていない言葉にギルバートは完全に思考が止まり、自然と口が開いた。


「それは……、どういうことですか……?」


「君の父。ライザック・デイウォーカーは、三十年ほど前に『赤竜戦役』で共に戦った戦友なのだよ」


「父を、知っているのですか……?」


「ああ、もちろん」


 そういって笑うバイスを見て、ギルバートの不安は嘘の様に消え去った。


「二十年前、ライザックに嫡子が生まれたと聞いて祝儀の為に伺ったのだ。顔立ちは母親似だね……。しかし、そのつり上がった眼と赤い瞳。なにより鋭く研ぎ澄まされた雰囲気はライザックそのものだ」


 バイスの言葉を境にギルバートの雰囲気は一転した。まさか父を知っている人間に出会えるとは思いもしなかった。


「ライザックのことは……、残念だった。だが、彼の息子である君がこの国の危機に立ち向かってくれること。この国の代表として、そしてライザックの友人として嬉しく思うよ」


バイスの柔らかい笑顔と共に投げかけられた言葉にギルバートはこれまでの緊張した面持ちを崩しいつもの笑顔でバイスに向き合った。


「ありがとうございます。父の活躍に負けぬよう精進いたします」


 二人が力強く握手を交わす場面を、離れたところでエルナがロキの袖を引っ張り小さく耳打ちした。


「ねぇ。『赤竜戦役』って何……?」


「……公式上、ブリティアで起こった最期の戦争だ」


 『赤竜戦役』。それはブリティア王国北東部、ファイヤーランドと呼ばれる地域を中心に行われた戦争で、ロキの言う通り、これが現状ブリティア最後の戦争となっている。

 ファイヤーランドは別名『火竜の(ねぐら)』と呼ばれる場所で、過去には竜種が数多く生息していたと言われている。しかしそんなことはどうでもよい。ファイヤーランドの本当の価値は、国内有数の『魔鋼石の産出地』であるということだ。


 魔鋼石は、魔素が豊富に含まれる土壌で、数百、数千年という長い年月をかけ地層内の鉱物に魔素が染み込んだものがそうだ。

 気が遠くなる歳月を経て出来上がった魔鋼石は純度が高ければ、使用者の魔法を何倍にも引き上げる増幅装置にも、広域殲滅魔法を何のリスクもなく連発できるものもざらに有る。さらに見た目の美しさも魔鋼石の価値を引き上げた。


 そんな代物を、特に魔法が主戦力になる大陸戦争の時代に重宝しないわけがない。

 どの国も魔鋼石、そして魔鋼石が掘り出される地域を死に物狂いで独占しようとした。

 ファイヤーランドもその一つということだ。


 長らくこの地域は隣国と所有権争いが絶えなかったが、三十年前に隣国がブリティアの鉱夫を殺害した事件を契機に戦争へと発展した。

 この戦争にてブリティアは北部領地と東部地域、そして王宮騎士団から選りすぐりの騎士を戦争に投入した。その時東部地域より、ギルバートの父ライザック、王宮騎士団より当時騎士であったバイスが出征した。


 ロキはエルナにそんなふうに赤竜戦役のあらましをかいつまんで説明した。


「そんでもって赤竜戦役で隣国に勝ったブリティアは魔鋼石を豊富に蓄える土地を獲得したってわけだ」


「ほう……、詳しいものだ。確か君はこの国の者ではないのだろう?」


 ロキの説明を聞いていたバイスは感心したようにロキに語りかけた。

 それを見たシルヴィアはロキが不躾な態度をしないか内心穏やかではなかったが、それを今更本人に言える訳もなく戸惑った様な視線をロキに送る。


「君も私設兵団に選ばれたということは余程の才能の持ち主なのだろう。他所の国であるブリティアに助力してくれること感謝する。今後の活躍に期待するよ」


「……どうも」


 ギルバートの時のように握手を求められたロキは控えめに呟き、頭を下げて握手に応じた。

 あまり礼儀正しいとは言えないが、普段が普段なだけにシルヴィアは心の中で胸を撫で下ろした。


「議長そろそろ……」


 ロキと握手をするバイスにいつの間にか後ろに控えていた秘書と思われる女性がそう囁く。


「ああ、そうだね。皆さん重ね重ね申し訳ない。本来なら食事の席でも設けるべきなのだが、あいにく多忙な身でね。私はこれで失礼させてもらう」


 バイスはそう言って足早に部屋を後にしようとした。中央議会の議長の突然の来訪に、正直生きた心地がしなかったシルヴィアはバイスの退室に安堵すら覚えていた。


 しかしバイスは扉の前で立ち止まり、改めてシルヴィアたちに向き直った。


「実を言うと、中央議会の中では君たちの存在はあまり歓迎されていない。女王陛下の気まぐれだなんだと言われてね。しかし、そんなことは関係ない。全ては結果が全てだ。君たちの価値は君たちで示して欲しい。私は君たちがこの国に栄光と安寧を(もたら)してくれると信じている」


 ありきたりな言葉だったが、議長の期待を込めた言葉はシルヴィアには奮起させるに十分な力を持っていた。ここで再度、決意を新たにできた。


 今度こそ部屋を去ろうとしたバイスがまたしても立ち止まり、今度は振り返らずに話しだした。


「そうだった、最後に一つ。君たちは直ぐにフランクチェスター寺院に向かってくれ。君たちを待っている御方が居る」


 フランクチェスター寺院は中央議会の議事堂である宮殿に隣接する十字教の正教会だ。

 その寺院は本来戴冠式といった王室行事が執り行われる場所でもある。


「待っている……?」


 シルヴィアの漏らした疑問の声に応えるように、バイスは首だけ振り返り微笑んだ。


「決まっているだろう。君たちを私以上に期待している人物。この国の象徴である、女王陛下その人だ」




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