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どんづまりの街 31 ―幸せを貪る―



 突然二回扉がノックされ間もなく扉が開き、エルナの寝室にロキが入ってきた。


 エルナは今の今までヒカリと和やかに話をしていた。

 散々寝こけていて眠る気にもなれなかったエルナはヒカリから今までの旅の話を聞いていた。


 それはロキとの出会いだったり、ギルバートやシルヴィアの人となりを聞いていた。

 ロキはともかく、ギルバートやシルヴィアのことはほとんど知らないエルナはヒカリの話を食い入るように聞いた。

 ギルバートは意外と人の話を聞いていないことだったり、シルヴィアは想定外の事が起こるとすぐに慌てふためくことだったり。


 そんな話を聞いていると、何だかギルバートとシルヴィアのことを昔から知っているような気分になってきた。

 そんな話をしていた時だった。いつの間にか日が傾き部屋に入る光が赤みを増していた。


「よう。どうだ、調子は?」

「うん、ありがと。もう平気よ」


 神妙な面持ちのロキにエルナは自然とそう返した。

 その言葉と笑顔から本当に大丈夫だと判断したロキは「そうか」短く答えて自分も笑顔を浮かべた。


「ちょっとロキ坊ー! 乙女の部屋に不躾に入ってくるんじゃありませんー!」

「っせえな……。ノックしただろうがよ」

「あんなのノックって言いませんー! ちゃんと返事しなきゃ入っちゃダメなんですー! 返事が帰ってきて初めてノックは完成するんですー!」

「あー、わかったわかった。俺が悪かったって。だから騒ぐなよヒカリちゃん」


 心底鬱陶しそうな表情でロキは部屋に入ってくる。そしてベッドの横にある机から椅子を引っ張り出し、エルナに向かい合うように座った。


「ごめんよえるえる。ロキ坊ったらデリカシーをお母さんのお腹の中に置き忘れちゃったんの」

「いいのよ。ロキが無神経なのは今に始まった事じゃないんだから。もう慣れてまーす」

「マジで味方がいねぇな……」


 ロキがそうぼやくとエルナとヒカリは示し合わせたように笑いあった。

 その様子についていけないロキは怪訝そうな顔を作るしかなかった。


「その分なら大丈夫そうだな。昨日襲われたって聞いたからどうかと思ったが」

「あー! そうだ! ロキ坊大変だったんだよ、昨日!でっかい悪い奴がえるえる襲って血がいっぱい出て!」

「もう……。いいの、ヒカリちゃん。あれは私が勝手に出歩いたせいなんだから。それにヒカリちゃんとギムレットさんが来てくれたから大したことなかったし」

「どうだった、あいつら目の前にしてよ?」


 ロキはわざと遠まわしにそう言った。つまりそれはシナロアの人間を前にして過去のフラッシュバックは起こらなかったかという意味だ。


「……うん。やっぱり、まだ怖い。でもね、ちょっとだけ兆しみたいなのは見えたかな? とっさだけど私の記憶を幻惑魔法に乗せてぶつけてみたりして……」

「へぇ……。そいつぁ上等だ。テメェのトラウマ利用するなんざやろうと思ってできることじゃねぇぜ?」


 ロキは素直に賞賛した。事実、言葉でいうよりトラウマと向き合うのは大変なのだ。


「だったら俺も安心だ」


 ロキは声の調子を上げてそう言った。雰囲気が明るくなったにも関わらず、エルナには何か不穏な気持ちが湧き上がった。その先の言葉を察したのか耳を塞ぎたくなった。


「ホーキンスの野郎がこの街から消えた。奴は『黒い逆十字』と繋がってやがった。だが、それは俺にとっちゃ好都合だ。俺の目的は『逆十字』をぶっ潰すことだからな。奴を追えば『逆十字』の根幹に迫れる。俺は街が落ち着いたらお嬢についていくことに決めた。お嬢とギルに手ェ貸して『逆十字』を追う。ようやく俺のやりてぇことに戻れる」


 そう。ロキは今まで寄り道をしていた。してくれていた。

 何よりもエルナの為に。


 それはエルナにもわかっていた。わかった上で甘えていた。もう一人になることは嫌だったから。

しかし自分のせいでロキが割を食うことも耐えられなかった。


「だから俺は、もうお前の面倒見るのはやめる」


 望んでいた言葉だった。そして絶対に聞きたくない言葉。

 ずっと言って欲しかった。しかしそれ以上に言って欲しくなかった。

 言って、行って欲しくなかった。


「お前も、自分の身の振り方は考えておけよ?」


 その言葉を最後にロキは椅子から腰を上げ、振り返ることもせず部屋を後にした。


 突き放すような言葉にエルナは言葉も出なかった。

 様々な感情が行き来したが唇を噛みしめて耐えた。


「ごめんね、えるえる。今回あたしはロキ坊の味方するね?」


 顔を伏せるエルナを気遣うことも慰めることもせずヒカリはそう言った。


「あたしもあたしでやりたいことがある。それにはギル君とロキ坊が絶対一緒にいないといけないの。えるえるのことは大好きだけど。大好きだからこそ譲れないものもあるの。……ワガママでごめんね」

「ううん……。いいの、これで良かったんだよ……」


 言葉ではそう言うが、その声色はとてもそうは聞こえなかった。

 いたたまれなくなったのかヒカリはもぞもぞとベッドから飛び降りた。


「あのね? 大好きなえるえるに一個だけ言っておきたいことがあるの」


 扉の前で舞台役者のように振り返り、悲しそうで優しい笑顔をエルナに向けた。


「えるえるはね、もっともっと自分を甘やかしていいんだよ?」


 それだけ言ってヒカリは部屋を出ていった。


 自分を甘やかすことになるのかどうか解らなかった。だが、ロキに言われた身の振り方はというものもエルナの中で浮かんできていた。


 それは身の丈に会わないワガママなのだろう。だがそれがヒカリの言うように自分を甘やかすことなら、少しだけ踏み出す勇気が出た。



       *



「あ、シルヴィアさん。丁度良かった」

「エルナさん? もう起き上がって大丈夫なんですか?」


 シルヴィアがホァンのアパートに住民に与える医療品の追加を補充していたところに突然エルナに話しかけられた。


「はい、おかげさまで。いろいろとご迷惑をおかけしました」


 そう言ってエルナは丁寧に頭を下げた。

 言葉は相変わらずだがエルナの雰囲気にはもう暗さは無く、喫茶店で語り合った時のような朗らかで明るいエルナに戻っていた。


「いいえ。私は何もしてません。元気になったのはエルナさんが立ち上がろうと努力したからです」


 シルヴィアもエルナの決意に応え笑顔でそう言った。


「街の復興はどうですか? 本当なら私もお手伝いしたかったんですが……」

「ええ、それは滞りなく。シナロアの物資もあって住民の皆さんは不自由していません」


 その後シルヴィアたちはいくつか世間話のように街の様子を聞いた。

 シルヴィアの口からスモッドの住民が力を合わせて復興作業を進めていることを聞きエルナは終始驚いていた。


 この街の住民がお互い力を合わせるなど天地がひっくり返るほどありえないことだと思っていたからだ。

 それも昨夜の事件がある意味いい薬になったのだろう。

 人一人ができることなどたかが知れている。自分一人ではできないことは誰かに頼るべきだと理解したから。


「ところで、シルヴィアさんたちはこれからどうなさるんですか?」


 突然話が変わり面食らったシルヴィアだったが、あえてそれについては聞かず質問に答えた。


「とりあえずこの街の復興作業をある程度お手伝いしますが、ブロ……ドンさんにお願いして評議会から監査官の方を派遣してもらうことになりました。そうしたらこの街を発とうと思います。私たちの目的は飽くまで『黒い逆十字』の殲滅なので」


 そもそも監査官の派遣はブロンズの発案だった。

 ホーキンス個人の企みとは言え、シナロアと『黒い逆十字』に癒着があったことは逃れようのない事実のため。ブロンズは責任者としてと街の後始末を含めて監査官を呼ぶことをシルヴィアに勧めた。


 そして何よりもブロンズの「あんたらは他所の国の小さな街のゴタゴタに構ってる場合じゃあないだろう」という言葉でシルヴィアは決意した。


 確かにこれ以上時間をかけるわけにもいかない。シルヴィアが女王の命を受け、首都を発ってからひと月近くが経とうとしているのだから。


 そのためシルヴィアはブロンズの言葉に甘え、監査官が来たら直様スモッドを発つことにした。


「少し早いですけど。エルナさんにはお世話になりました。本当に短い間でしたがエルナさんと親しくなれて嬉しかったです」


 シルヴィアは改まりエルナに謝辞を送った。表情は優しく微笑んでいたが、名残惜しさも同時ににじみ出ていた。


「なかなか難しいとは思いますが、できればまた……」

「あの! その事なんですが……!」


 シルヴィアの言葉を慌てて遮りエルナは搾り出すような声を出した。

 突然の声に驚き言葉を止めてエルナの次の台詞を待ったが、当のエルナは居心地の悪そうな表情をして視線を泳がせていた。

 そして一瞬目を伏せた後、決意のこもった表情でシルヴィアを見据えた。


「あの……。勝手な申し出とは思いますが。私にも、シルヴィアさんたちのお手伝いをさせていただけないでしょうか?」


 エルナから出た言葉にシルヴィアは驚いうたように目を見開いた。


「その……。私には『黒い逆十字』をどうしても倒したい理由はありません。でも、今回の事件みたいに何の罪もない人が理不尽に殺されるのは見たくありません。それに! 私には治癒魔法が使えます。シルヴィアさん仰ってましたよね? 治癒魔法を使える人はとても少ないからどこも重宝するって……。だから私も力になりたいんです!」

「……私たちのこれからやることはどうしても危険が付き纏います。命の危機に晒されることも当然多くなってきます。それは私にもギルバートにも当然ロキにもそうです。それは全員が理解しています。貴女にはその覚悟はありますか?」


 シルヴィアは受け入れることも拒絶することもせず、そうエルナに投げかけた。

 その表情はエルナが見たこともない厳しい表情だった。


 エルナはそこで初めてシルヴィアの顔を見た。

 巨悪に立ち向かう、正義を振るう騎士としての顔を。


「私は……」


 エルナはもちろんと、そう答えるつもりだった。ただその言葉はどうじても出なかった。


 昨夜強くなりたいと決意したところで、あっさりと過去に打ちのめされた。

 しかし、それがどうした。もうエルナは決めたのだ。踏み出すと、強くなると。


「私は、戦う力なんてありません。もしそんな場面にであったら何もできないかもしれません。でも。その代わりに私は、命を賭けて皆さんの傷を癒します。シルヴィアさんを命の危機に何て晒させません。もう、誰も死なせたくない。何もできないままは嫌なんです」


 言葉を紡ぎながら、何て苦しい言い訳なのだろうとエルナは自己嫌悪した。

 こんなものは唯の欺瞞でしかない。しかしそれでもエルナには譲れなかった。

 

もう待つだけ、与えられるだけはやめると決めた。

 離れていくなら追いかければいい。


 たとえそれが、幸福を貪る暴食だとしても。


「私もっともっと勉強します。魔法も医学も皆さんのお役に立てるように努力します。だから……」


 苦し紛れに言葉を引き出していくがエルナの顔はだんだん下を向いていく。

 こんなことしか言えない自分が恥ずかしくてシルヴィアの方を見れなかった。


 胸の前で祈るように両手を握り眼を閉じた。

 シルヴィアの決断を死刑宣告を待つ囚人のような思いで待った。


 そうしていると握り締めた手を細い指で優しく包まれた。


「もう……。そんなビクビクしないで。私たちの仲間になるならもっと胸をはりなさい、エルナ」


 その声に弾かれたようにエルナは顔を上げた。すぐそこには触れた手のように優しく聖母のように微笑むシルヴィアがいた。


「イジワル言ってごめんね。本当はこっちから誘いたいくらいだったの。治癒魔法使える人って本当に少ないんだから」


 エルナが驚いたのは優しく語りかけてくれたこともそうだが、今までと打って変わって敬語ではなく、まるで同年代の友人と話すような口調だったからだ。


 そのことを察したのかシルヴィアはバツが悪そうに頬を掻いた。


「やっぱり急過ぎたかな? あのね、ロキがボスが部下に敬語使うのは示しがつかないって言うの。なんでそんな上から言われなきゃいけないのよ、ね?」

「え……? 部下? あれ?」


 話の展開と状況についていけないのか、エルナはしどろもどろになっていた。


「エルナの決意、ちゃんと受け取ったわ。大丈夫。エルナに危険な目に何てあわせないんだから! その代わり、これからいっぱい働いてもらうからね」


 そう言ってシルヴィアは可愛らしくウインクをした。

 そんな様子が可愛くて、けどそれ以上に嬉しくてエルナは笑った。


「あ、あはは。びっくりしたー。もう、脅かさないでくださいよー」


 無理矢理強がって出した言葉だったが、そのせいで胸につかえていた緊張が一気に押し寄せ、エルナはいつの間にか涙を流した。


「よかった……。断られたらどうしようかって……。怖くて……」

「もう……。そんなんじゃこれから先思いやられるわよ」

「ごめんなさい~……。でも、シルヴィアさんがいじめるから~……」

「ああ、はいはいごめんごめん。ほら、私の胸で泣きなさい」


 シルヴィアはそう言いながら無理矢理エルナを自分の胸に埋めた。


「うう~、大きい~。なにこれ~……」

「ええ~、そこで泣く?」


 シルヴィアの豊満な胸に戸惑いの涙を流すエルナに戸惑い、頭を撫でながら苦笑いを浮かべた。


 そんな風にエルナを宥めながらシルヴィアはつい数時間前のことを思い出していた。


 それはロキが正式に仲間になった報告の後、街の復興作業を再開しようとした時ロキに頼みがあると言われた時のことだ。

 ロキは少し言いづらそうに、そして少し恥ずかしそうに話しだした。


「あの、よ……。もし。もしもの話だがよ。エルナがお嬢の力になりたいって言ったら、受け入れてやってくんねぇか?」

「え……? それはもちろん。エルナさん治癒魔法使えるから願ってもないけど……。それならわざわざ向こうの言葉を待たずにこっちから誘うけど?」

「いや、ダメだ。あいつには自分で道を決めさせてぇんだ。今までのあいつは俺やホァン先生の言いなりに生きてたみてぇなもんだ。だから一回俺はあいつを突き放す。その上で付いて来たいってんなら受け入れてやって欲しいんだ。あいつが決めた道を出鼻から挫かせたかねぇしな……」


 そんな話をしてすぐの出来事だった。

 シルヴィアは未だ泣きじゃくるエルナを慰め、無愛想でぶっきらぼうで口が悪くて態度が悪い男の顔を浮かべた。


――ねぇ、ロキ。貴方、やっぱり甘ちゃんよ。


――甘ったれのお人好しだわ。



       *



「というわけで、ロキに続きエルナも私たちの仲間になりました!」


 スモッドの街は完全に陽が落ち、復興作業は今日のところは打ち止めということとなりシルヴィアたちはホァンのアパートに集まっていた。

 そこでシルヴィアが話があるとギルバートらを集めそう言い放った。


「うわーい! えるえるといっしょに旅できるー!」


 シルヴィアが事情を話し終えるとヒカリがそう言ってエルナに飛びついた。

 エルナは驚きながらもヒカリを受け止めそのまま抱き抱えた。


「ごめん、ヒカリちゃん。あんな話ししたあとだけど、これからもよろしくね」

「ううん! むしろあたし、えるえるが仲間になってくれないかなーって思いながらあんなこと言ったんだからむしろ好都合! 計画通りっ!」


 エルナに抱えながらヒカリは鼻高々といった感じだった。


「まあな、嬢ちゃんは治癒魔法使えるし放っておくほうが勿体無かったしな。英断英断」


 和やかな雰囲気を眺めながらギムレットはそう言ってエルナに近づいた。


「実はな、俺もお嬢の下につくことになったんだ。つまりこれからは同僚ってことだな。よろしく頼むぜ、エルナ」

「はい! 足でまといにならないように頑張ります」


 そんな風に挨拶を交わす面々から少し離れてギルバートとロキは並んで見ていた。


「これで良かったのか?」

「ああ。あいつが決めたことだ。俺がとやかく言う筋合いはねぇよ」

「そうか……」


 会話はそれきりでギルバートはロキから離れた。


「改めてギルバート・デイウォーカーです。今後ともよろしくお願いします、エルナさん」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします、ギルバートさん!」


 ギルバートに突然話しかけられ慌ててエルナは頭を下げた。そして相変わらずエルナのギルバートを見るときは上目遣いで照れくさそうだった。


 その様子をシルヴィアが厳しい目で見ていたのでギムレットは必死で宥めていた。


「かてぇかてぇ。お前仲間にそんな態度でずっといるつもりかよ」

「お前みたいに軟派すぎるのもどうかと思うんだが」


 後ろから話しかけたロキにギルバートは侮蔑の視線を送ってそう言い返した。

 そしてエルナはロキの顔を見ると、今までと打って変わって申し訳なさそうな顔をした。


「ロキ……、ゴメン。でも私……」

「言ったろ? 自分の身の振り方考えろって。その上で決めたんだろ? だったらそれでいいんだよ」


 ロキはぶっきらぼうにそう言うとエルナの頭を雑に撫でた。


「ま。俺はこれからもあのコーヒー淹れてくれんならそれでかまわねぇ」

「ロキ坊えらそー。そういうのウザーイ」

「こぉんのクソガキ……」


 エルナを撫でた手を今度はヒカリに伸ばし頭を大きく揺さぶった。


「はあぁあ~……。にしたって、まーたギルと旅することになるとは思わなかったぜ。これから先憂鬱で仕方ねぇよ」


 ロキが心底嫌そうに言うと、シルヴィアはそこでやっと思い出した。


 そもそも最初にロキを勧誘したときにギルバートとロキの間には何かしらの確執があったのだ。それはロキがもう二度と一緒に旅をしたくはないというほどの。


「そのことだけど、ロキ。ギルとの間に何があったの? 今後の為に聞いておきたいんだけど……」

「えー、いいよしーちゃん聞かなくて。てゆーか聞かないほうがいいよ」


 シルヴィアは組織維持の為にできることならこの場で禍根は払拭したかったのだが、事情を知っているであろうヒカリはそう言って来た。


 何故だか眉間にしわを寄せ非常に苦々しい表情をしていた。


「いや、この際だ。ハッキリ言わせてもらうぜ」


 ロキはいい機会だと言わんばかりにヒカリの言葉を手のひらで制しそう言った。

そしてギルバートに向かって指をさす。ギルバートはそれがとても不快そうで嫌そうな顔をしてロキの手を払った。


「いいか、ギル。俺はなぁ……。テメェと行く先々でテメェが街中の女の視線集めんのが最ッ高に気に食わねぇんだよ!!!」


「「………………………………は?」」


 ロキの放った言葉に一瞬理解できず、たっぷり時間を費やしてシルヴィアとエルナが揃って

低い声を絞り出した。


「お前、何を言っている?」

「ほぉおれ見ろ!!! やっぱテメェは覚えて。いや! 気にもしてぇんじゃねぇか!!! いいか? 街でテメェと並んで歩いていて街の女の視線が全っ部テメェにしかいってねぇんだよ! 隣にいる俺は見向きもされねぇ! いないもんとされてんだぞ!」

「何を言い出すかと思えば、それがなんなんだ。確かに俺は女性に忌諱な視線を送られるがいいものではとても無いぞ?」

「オオオオオオオオオオ(憤怒)!!!!! でたでたでた! そ、の、セ、リ、フ!!! なんなんだ! なんでこんな素っ頓狂ばっかモテんだ!!!」

「お、おい……。少し落ち着け、ロキ……」

「これが落ち着いてられっかってんだ、バッキャロウ!!! わかるか? お前にお前のとなりで無視されまくる俺の気持ちがわかるか? わかるわけねぇだろ!!!」


 怒涛の勢いで言葉を吐き出すロキに流石に気圧されながらもなだめようとするギルバートだったが、ロキの怒りのボルテージはますます加熱し地団駄を踏み始めた。


「……ったく。何を言い出すかと思えば……」


 その様子に呆れたのか、頭を掻きながらギムレットがロキに近づいた。

 そして腕を振り上げたと思ったらそれをロキの肩に回した。


「めっっっっっちゃ解るぞ、その気持ち!!!!!」

「だよなぁあ!!! やっぱおっさんもそうだろ!?」


 顔面を沈痛な面持ちでくっしゃくしゃにしながらギムレットが同意の叫びを放ち、ロキも味方を得て相乗効果で勢いを増した。


「わっかってんだ。ギルバートが悪くないってこたぁ。でもなぁ……。それでもやるせねぇんだよ! モテたいとは言わねぇ。でもまるで俺が存在してないように視線をずらされるのは耐えらんねぇんだよ……」

「いい、いい、いい! おっさん無理すんな! 辛かったよな! 俺たちは被害者なんだ! その思い今ここでぶちまけとけ!」


 大の大人。いい男二人がむせび泣きながらモテるだのモテないだの語る様を遠目から見て、シルヴィアとエルナは極寒よりも冷ややかな表情を男達に向けていた。


 ここに男性陣、そして女性陣それぞれが固い結束を結んだと同時に、お互いに埋まりようのない大きな溝が出来上がった。


「ほらね……。男の子ってバカばっかでしょ……」


 ヒカリの心の底からの軽蔑の言葉に女性陣は無言で頷かざるを得なかった。



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